噴射ポンプ

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12気筒ディーゼルエンジンの列型噴射ポンプ

噴射ポンプ(ふんしゃポンプ、: Injection Pump)はディーゼルエンジンの燃焼室内に噴射する燃料を高圧で送り出す部品である。

歴史と概要[編集]

1938年のボッシュ製噴射ポンプ(ダイムラー・ベンツ 90馬力/1700rpm 6気筒エンジン)

圧縮点火内燃機関であるディーゼルエンジンには噴射ポンプは必要不可欠なものであり、その歴史はディーゼルエンジンの開発と共にあったといっても過言ではない。近年までは噴射ポンプはクランクシャフトカムシャフトOHCエンジンの場合にはタイミングチェーンタイミングベルトからエンジンの駆動力を受け取って機械的に動作するものが主流であった。4ストローク機関の場合には噴射ポンプはクランク回転数の半分の速度で駆動されることになる。噴射ポンプはピストンの圧縮上死点の手前でシリンダー内部に軽油を噴射させるため、その噴射圧力はガソリンエンジンの燃料ポンプと比較して非常に高く、200MPaを超える圧力が掛かることが一般的である。

しかし近年では各国で強化されつつある排ガス規制への対応のために、ディーゼルエンジンも高度な燃料制御が必要となり、電子制御式のコモンレールディーゼルエンジンが主流となってきている。コモンレール式も当初は機械式の噴射ポンプに電子制御式燃料噴射装置を組み合わせることが一般的であったが、最新式の噴射ポンプは電磁ポンプとなり、エンジンの駆動損失を起こさない形式のものに置き換わりつつある。

機械式噴射ポンプはその構造上内部部品の摩耗を防ぐために軽油にある程度以上硫黄分が含まれていることが必須であった。しかし、日本におけるディーゼル車規制条例平成17年排出ガス規制_(ディーゼル車)などをクリアするためには軽油の脱硫化を行うことが不可避な情勢となったため、こうした事情も噴射ポンプの電磁ポンプ化の流れに拍車を掛ける要因[1]となっている。

噴射ポンプは、ガソリンエンジンにおいても極めて初期の機械式燃料噴射装置にディーゼルエンジンと同じ動作原理のものが用いられた例がある。歴史上初のガソリンエンジン用噴射ポンプは1951年、ドイツのGoliath GP 700 Eで初めて用いられ、その3年後の1954年にはメルセデス・ベンツ 300SLにも搭載された。しかし、機械式燃料噴射装置は機構が複雑なことと、ガソリン自体に軽油程の潤滑能力が無いことなどから、製造コストと信頼性の面でキャブレターを完全に置き換えるには至らなかった。

噴射ポンプの圧力と安全性[編集]

噴射ポンプは圧縮行程にあるシリンダー内の高圧に打ち勝って燃料の噴射を行う必要があるため、ポンプや配管自体に極めて高い圧力が掛かることになる。通常のもので平均15,000Psi(100MPa)、圧縮比が高いエンジンの場合には200MPaを超える圧力が掛かる。この圧力は衣服皮膚を容易に切断出来る程のもののため、噴射ポンプや分配パイプには概ね非常に強固な構造を持つことが求められている。そのため、ディーゼルエンジンのシステム全体が大型化し、小型車やオートバイへの搭載が困難ともなる大きな要因となっている。[2]

電子制御噴射ポンプ[編集]

2011年現在においては、燃料の噴出量やタイミングなどが電子制御された噴射ポンプが普及しはじめている。ユニットインジェクター式ノズルなどは個別に特性が記録され、バーコードで表示されていて、部品を交換した場合は整備事業者のコンピュータで、個別に噴出量などのプログラム書き換えが必要になる[3]。噴射ポンプの電子制御では、エンジンの回転速度や温度、スロットル開度に応じて噴射量や噴射タイミングを正確に制御されている。

噴射ポンプの種類[編集]

列型噴射ポンプ[編集]

列型噴射ポンプの一例
ヂーゼル機器6気筒用

列型噴射ポンプ(Inline Injection Pump)は日本ではボッシュA型とも呼ばれ、エンジンの気筒数分のカムプランジャーが一列に並んだ、直列エンジンのような外観を特徴とする。構造上、部品点数が多く高価で大型化する傾向があるが、噴射量が多く気筒数の制約もないため、大型車両や船舶、産業用の定置型エンジンなどに使われている。

ガバナーからポンプ内に伸びるラックが、カムとプランジャーの間に置かれた、外周に斜めの溝を持つスリーブを回転(正転・逆転)させることで、溝に組み合わされたプランジャーの位置が変化(上下)し、その圧縮ストロークの変化で噴射量の制御(増減)を行う。

噴射時期の制御は、エンジンの回転を利用した遠心式のタイマーが、噴射ポンプ内のカムシャフト位相を変化させることで行う。

カム周りの潤滑にはエンジンオイルが使われており、燃料と潤滑油が分離されているため、重油や粗悪燃料にも対応できる。インジェクター(噴射ノズル)にはニードルバルブ(針弁)型が組み合わされ、副室式では単孔型、直接噴射式では多孔型が用いられる。

分配型噴射ポンプ[編集]

分配型噴射ポンプの一例
ボッシュ製6気筒用
電磁スピル弁が組み込まれた電子制御式分配型噴射ポンプ

分配型噴射ポンプ(Distributor Injection Pump)は日本ではボッシュVE型、海外ではロータリーポンプ(Rotary Pump)とも呼ばれ、1組の波型カム(フェイスカム)、プランジャー、スピル弁のみで構成され、各気筒に燃料を分配する。各気筒への高圧配管が同心円上に並び、ガソリンエンジンのディストリビューターに似た外観を持つ。

部品点数が圧倒的に少なく、全ての潤滑を燃料でまかなうなど、シンプルかつ合理的な基本構造を持ち、小型で安価である。乗用車からピックアップトラック、それらをベースとしたSUVのエンジンなどに使われている。構造上、噴射量や気筒数には限界があるが、中排気量の6気筒程度までなら十分対応できる。

噴射量の制御はスピル弁の開弁時期の変化で行い、噴射時期の制御はフェイスカムの軸を平行移動させて行い、インジェクターはニードルバルブ型が組み合わされる。VE型の改良版で、内接カムと2つのプランジャーを組み合わせたものもある。ただし燃料の性状に敏感で、特に水分や灯油(炭素)分の多い不正軽油を使用すると潤滑不良による噴射圧力燃料噴射装置などの故障を招きやすい。

より厳しい排出ガス規制に適合させるため、スピル弁に応答性に優れるソレノイドアクチュエーターを組み込み、電子制御に対応したものもある。

独立型噴射ポンプ[編集]

各シリンダー毎に個別の噴射ポンプが設けられているタイプで、列型とも分配型とも異なる形式である。

加圧や噴射量制御はカムとプランジャーによるもので、(単気筒用の)列型と同様であり、ポンプ自体の駆動力もカムシャフトによって行う。この形式の利点は列型と同等の特徴を持ちながらもシリンダー数の増大に合わせてポンプを追加することで、エンジンに合わせて容易に噴射ポンプを拡張できるという点にある。船舶産業用の大型ディーゼルエンジンは、単気筒エンジンを繋ぎあわせて多気筒化するモジュラー設計が多いことや、各気筒の噴射特性の均一化のため燃料配管を等長にする必要があるため、大型エンジンではポンプを集約しても燃料配管が不用に長くなることなどから、このような方式が定着している。

気筒数別に複数の噴射ポンプを作り分ける必要が無いことから、共通化によって部品の種類を削減でき、整備や交換も個別に行えるなど、メーカーとユーザーの双方にコスト低減のメリットがある。

小型のものではメルセデス・ベンツが製造して各社にOEM供給されているMercedes-Benz OM 900直6)やMercedes-Benz OM 500V6V8)シリーズエンジンで用いられており、噴射圧力は最大1850バールに達する。

ユニットインジェクター式[編集]

ユニットインジェクター式噴射ポンプは、シリンダー上部に注射器のように取り付け、パスカルの原理を応用し、カムによって噴射する。

電子制御は、噴射量を減らす操作を行う。カムによる圧縮で2000気圧の高圧噴射を可能にしている。

メインポンプからインジェクターまでは低圧のパイプでつながっている。インジェクターごとに加圧機構を持つため、従来型の噴射ポンプでは不可能な高圧が簡単に得られることから、燃料の微粒化による完全燃焼が行え、燃費の改善に効果がある。フォルクスワーゲンアウディグループが燃費最優先の考えでこの方式を選んだ。また、ランドローバーのTD5エンジンにも、このユニットインジェクター式が採用されている。なお、このTD5エンジンを搭載したディフェンダー110は、2002年から2005年の間、日本にも正規輸入されていた。

日本では、日産ディーゼル1社のみは開発を続け、尿素SCR還元システムとの組み合わせで、平成17年排出ガス規制(新長期規制)に、大幅な前倒しで適合を果たしている。燃焼後に、尿素水噴射装置を組み合わせ、アンモニアと水の冷却作用で、過酸素完全燃焼の結果発生する、NOxを水と窒素に還元する。三菱ふそうにもOEM供給を行っている。

コモンレール式[編集]

コモンレール用サプライポンプ

コモンレール式とは、最新の排出ガス規制に対応したディーゼルエンジンで主流となる噴射方式で、「蓄圧式」とも呼ばれる。燃料の加圧はサプライポンプが行い、噴射制御はECUによる電磁式インジェクターが行う分業となっている。

金属製の頑丈なパイプ(レール)に高圧燃料を蓄えてから、各インジェクターで噴射を行うため、ポンプ側は無理なカムリフトや噴射制御から解放された。このため、コモンレール式での燃料ポンプはサプライポンプと言い、噴射ポンプとは呼ばない。

ディーゼルエンジンの歴史にコモンレールの名前が現れたのは、1910年代終盤のボッシュによるものが最初であるが、当時の開弁圧は90 bar程度と低く、インジェクターの開弁も圧縮空気によるもので、そのためのエアーコンプレッサーを必要とした。1,800 barを超える開弁圧と電子制御によるソレノイドピエゾ素子を用いたインジェクターを備えた現在のコモンレールとは文字通り隔世の感があるが、基本原理は同じである。

近代的なコモンレールは、1960年代後半にスイスのロベルト・フーバー (Robert Huber) がその原型を開発、スイス工科大学が中心となり研究が進んだ[4][5]。環境対策としての現在のコモンレール方式を初めて実用化したのは日本のデンソーであり、伊藤昇平宮木正彦を中心として、ECD-U2という名称で開発され、1995年末に日野・ライジングレンジャーに搭載された。1997年末にはボッシュで乗用車用が実用化された。

現在の電磁式インジェクターは開弁行為のみを受け持つため、従来の噴射方式と比べ噴射時期の自由度が大幅に向上し、また1行程中にパイロット、プレ、メイン、アフター1、アフター2、ポストのような6分割噴射も可能となっており、燃料消費を抑えつつ、燃焼室内の急激な温度と圧力の上昇を防ぐことができるなど、NOxの発生を抑え、かつ、PMも少ない、完全燃焼のための理想的な噴射を実現する制御が可能となった。ただし、超高圧噴射のため分配式以上に内部潤滑にシビアな他、近年の車種は排出ガス浄化のための酸化触媒DPFを装備しているため、硫黄分の多い従来の軽油や、灯油炭素)分の多い不正軽油は使用できない。

応用[編集]

ディーゼルエンジンの燃料噴射には高圧が必要となり、噴射される液体はせん断にさらされる。これを利用し粘度指数向上剤のせん断安定性をディーゼルの燃料噴射装置を用いて計測する試験方法も存在する。この試験方法は世界的に使われておりASTMDIN、CEC、JPIなど多くの規格で採用されている。

この試験にはボッシュ製の燃料噴射装置を使用するためボッシュインジェクター試験などと呼ばれる事もある。また国内ではあまり使われないが海外ではKurt Orbahn試験などとも言う場合もある。 試験内容は測定する液体を30サイクル噴射させて計測するのが基本となるが過酷な条件を想定した場合は90サイクルなど回数を増やして行う事もある。

脚注[編集]

  1. ^ なお、旧来の機械式噴射ポンプの潤滑対策として、ガソリンスタンドでは専用の潤滑添加剤を用いることで対処を行っている。
  2. ^ High-pressure injection injuries to the hand
  3. ^ Land Rover Defeder Workshop Manual 1999-2002
  4. ^ ECD-U2 - 日本の自動車技術180選
  5. ^ デンソーテクニカルレビュー Vol.7 No.1 2002 (PDF)

ドイツ語版における参考文献[編集]

  • Richard van Basshuysen, Fred Schäfer: Handbuch Verbrennungsmotor Grundlagen, Komponenten, Systeme, Perspektiven. 3. Auflage, Friedrich Vieweg & Sohn Verlag/GWV Fachverlage GmbH, Wiesbaden, 2005, ISBN 3-528-23933-6
  • Hans Jörg Leyhausen: Die Meisterprüfung im Kfz-Handwerk Teil 1. 12 Auflage, Vogel Buchverlag, Würzburg, 1991, ISBN 3-8023-0857-3
  • Max Bohner, Richard Fischer, Rolf Gscheidle: Fachkunde Kraftfahrzeugtechnik. 27.Auflage, Verlag Europa-Lehrmittel, Haan-Gruiten, 2001, ISBN 3-8085-2067-1
  • Klaus D Linsmeier, Achim Greis: Elektromagnetische Aktoren. Physikalische Grundlagen, Bauarten, Anwendungen. In: Die Bibliothek der Technik, Band 197. Verlag Moderne Industrie, ISBN 3-478-93224-6
  • Erklärung und Quelle zur Common Rail Hochdruck-Pumpe

関連項目[編集]

外部リンク[編集]