セミオートマチックトランスミッション
セミオートマチックトランスミッション(Semi-automatic transmission 以下、セミAT)とは、自動車の変速機(トランスミッション)における変速方式の分類の一つ。クラッチおよび変速機自体はマニュアルトランスミッション(以下、MT)に近い構造を持つが、クラッチ操作を自動化したもの。2ペダルMTとも呼ばれる。
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概要[編集]
クラッチ操作のみを自動化したうえで、アクセル操作やギア選択はMTそのままの操作を運転者が行う形式のセミATは古くから存在し、長い歴史がある。現在ではそれに加え、電子制御によりスロットル[1]やクラッチ、変速機をアクチュエーターによって制御し、ギヤ選択も含めて完全に自動化されたAMT(オートメーテッドMT)が普及している。この場合、分類はオートマチックトランスミッション(以下、AT)となるが、元来ATは構造がMTと大きく異なるトルクコンバータ(トルコン)式ATが主流となって発展してきた経緯があるため、セミATはそれと区別する目的で用いられる用語でもある。
乗用車でこの形式が選ばれる理由は、市場の嗜好(通常のトルコン式ATのニーズが低い=燃費、操縦性、価格などへの不満)、スポーツ性の演出、生産台数、小型車やスポーツカーへの搭載性、ATの開発費不足など多岐に渡るが、いずれもMTベースに分があると判断したメーカーの方針による。また、スロットル操作も含めて電子制御式のため、MTでは難しい横滑り防止機構との協調などでも分がある。
近年のトルコン式ATにもギア選択を手動で行えるものがあり、それらもセミATと称する。一般的に「MTモード付きAT」や「スポーツAT」とも呼ばれ、英語圏では「Manumatic」という混成語が与えられている。
「マニュアルトランスミッション#「マニュアルモード」という表記が与える誤解」も参照
クラッチペダルがないことから、日本の道路交通法上はAT車として扱われ、オートマチック限定免許での運転も可能である。
歴史[編集]
フォード・モデルTの2段変速機[編集]
1908年から製造されたフォードの大衆車「モデルT」(いわゆる「T型フォード」)は、ペダル操作による2段の遊星歯車式変速機を搭載していた。
アクセルペダルの代わりに、ステアリングホイールを握ったまま操作できる手動式スロットルレバーが付いていた。またクラッチは半自動式で、変速用のシフトレバーは無かった。パーキングブレーキを掛けている間は、クラッチが切断される。チェンジペダルを踏みながらパーキングブレーキを緩めることで発進できる。チェンジペダルを踏んでいる間はローギアであり、足を離すとハイギアとなる。また、後進の際には停止中に別のバックギア用ペダルを踏む。最高速度は60km/hそこそこなので、2段変速でも不都合はなかった。急勾配では超低速のバックギアを用いて、後進してクリアせよという合理的(?)な仕様であった。
当時としては極めて運転の容易な変速システムであり、日本では大正時代の一時期、モデルT専用の運転免許が存在したほどである。この容易な変速システムはモデルTが世界的に普及した一因であると共に、後にアメリカにおいてATが普及する素地を作ったとも言われている。
プリセレクタ・ギアボックス[編集]
モデルTの変速システムは3段以上の多段化に適さないため、高速化・高出力化を進める競合他社の追随するところとはならなかった(モデルTの後継として1927年に登場したモデルAも、通常の3速MTとなっている)。しかし、変速を容易化する見地から、モデルTからさらに発展させた手法が1920年代に登場したプリセレクタ・ギアボックス(Preselector gearbox)である。これは、半自動式クラッチと遊星歯車変速機を組み合わせた半自動変速システムの一般名称であり、クラッチペダルの代わりにチェンジペダルを備え、ステアリングコラムまたはダッシュボードに小型のシフトレバーが付いていた。半自動クラッチには遠心式、電磁式、流体継手など各種の方式が用いられたが、特に流体継手はほかの方式よりも滑り現象によって半クラッチを行いやすいため、この方式の主流となった。変速段数は4段程度であった。発進時には、まずシフトレバーを1速に入れ、さらにチェンジペダルを一踏みして足を離すと1速につながり、発進できる。半クラッチの必要はないが、アクセルの適度な調節は必要である。2速以上での変速も同様の操作で行われる。停止時にはブレーキを踏めば自動的にクラッチが切れる。慣れれば相当迅速な変速が可能であった。変速に先立って変速段を選択しておくことから「プリセレクタ」の名称が生まれた。実際の製品にはフランスのコタル(Cotal)式やイギリスのウィルソン(Wilson)式があり、概して信頼性の高いシステムであったと言われる。
最初の採用例は1928年にイギリスのヴィッカース・アームストロング社が製造した大型バスであった。特にイギリスとフランスで多く用いられ、1930年代のイギリスでは高級車・中級車にも広く使われた。レーシングカーの分野でもイギリスのレイモンド・メイズがライレーを基に開発した小型レーサー「ERA」がプリセレクタを搭載し、1930年代後半の小型車レースで優れた成績を収めた。またプジョーも1937年にスポーツカー「402ダールマット・スポール」にコタル式プリセレクタを搭載し、ル・マン24時間レースで好成績を収めた。第二次世界大戦後に至ってもデイムラーやランチェスター、ドライエなどが採用していたが、1950年代末期には現代型ATの普及によって衰退している。
現在、プリセレクタは既に廃れているが、流体継手の優位性と、遠隔操作による多段式遊星歯車変速機の技術を確立した点では、後のATに連なる重要な存在であったと言える。
自動クラッチ車[編集]
1930 - 1960年代にはMTのクラッチのみを自動化したモデルがヨーロッパで製造された。一般的なごく廉価な大衆車ではアクセル操作に頼る遠心クラッチ、小型車 - 中級車ではアクセル開度に応じた電圧変化で断続する電磁クラッチや、「サキソマット」に代表される吸気管負圧を利用した真空式、さらに中級以上の車種の一部には流体継手が用いられた。システムとしてはシンプルなため低コストであり、シフトレバーと変速機が機械的につながっているため、トラブル時の冗長性が高い利点がある。
電磁クラッチ車の中には、シフトレバーに静電容量スイッチが内蔵され、シフトレバーに触れることでクラッチを切断するモデルも存在した[2]。しかし、意図せずシフトレバーに触れて不意にクラッチが切れることを防ぐため、レバーに触れ始めてからクラッチが切れるまでにタイムラグが設けられていたが、これが渋滞などで求められる頻繁な変速・クラッチ断続操作に適さないきらいもあった。この形式は日本では早くに廃れ、市場のニーズはトルコン式ATに移行した。ただ、欧州車の一部では21世紀初頭に至ってもこの種の方式を採用しているものがある。
2010年現在では欧州を中心として、クラッチのみ自動化されたものに加え、変速操作も自動化されたセミATが普及している。ただし欧州ではMTが未だ主流であり、それらを置き換えるほどのシェアには至っていない。日本国内においては、近年ではトヨタ・MR-Sやレクサス・LFAに採用されたが、他方で従来のトルコン式ATに加えて無段変速機(CVT)が主流になりつつあるため、採用例が拡大する気配はない。一方で、日産・GT-Rや三菱・ランサーエボリューション(CZ4A系)などのスポーツ性を謳ったモデルについてはデュアルクラッチトランスミッションが採用されている。商用車の分野では、クリープ専用の流体継手を追加したものが、2tクラスのトラックを中心に数を増やしつつある。また、日本の各メーカーは海外仕様車についてはセミATを用意しているものがある。
市販車での利用例[編集]
乗用車[編集]
乗用車に用いられるセミATのネーミングに共通なのは、敢えて自動を意味する「オート」の文字を使わず、高付加価値のMTであることを強調している点である。
パドル式のシフターを採用する市販車の場合、ステアリングのロック・トゥ・ロックの関係から、パドルの位置が逆転した際の操作ミスを防ぐためにパドルはステアリングコラムに固定されている場合が多い。
一覧中の「2ペダルMT」とは、クラッチの断続のみが自動で、変速操作は手動でしか行えない(自動車側が勝手にシフトアップ・ダウンを行わない)ものを指す。
- トヨタ自動車 - MMT(マルチモード・マニュアル・トランスミッションの略)
- 本田技研工業 - ホンダマチック (フルオート式とセミオート式とが存在した)
- 本田技研工業 - i-SHIFT
- 三菱自動車工業 - INVECS-III(同名でCVTもある)
- いすゞ自動車 - NAVi5、NAVi6
- BMW - SMG(シーケンシャル・マニュアル・ギアボックス)
- フェラーリ - F1システム(同名で手動変速式DCTもある)
- マセラティ - カンビオコルサ(「レース用装備」の意)、デュオセレクト
- ランチア - ドルチェ・ファール・ニエンテ(「何もしなくても良い甘美さ」の意)
- アルファ・ロメオ - セレスピード
- フィアット - デュアロジック
- ルノー - イージーシステム(2ペダルMT)、クイックシフト
- プジョー - 2トロニック(「マニュアルとオートの2モード」の意)
- シトロエン - センソドライブ
- スマート - ソフタッチ(2ペダルMT)、ソフタッチ・プラス
- オペル - イージートロニック
- ランボルギーニ - eギア
バス[編集]
リアエンジンバスでは、運転席とトランスミッションが大きく離れており、その間をつなぐコントロールロッドも非常に長く、かつ、多くのリンク機構や支点を介すことから、シフトレバーの操作力が大きく、剛性感や節度感も低くなりやすい。また、トランスミッション内部のギアの回転慣性も大きいため、入出力軸の回転がうまく合わず、一度の操作で目的のギアに入らないことや、ギア鳴りが発生することも多い。
そのため、乗務員のシフトミスや疲労軽減を目的として1980年代からフィンガーシフトと呼ばれる、油圧または空圧アクチュエーターを用いたMTが普及し始めた。これを基に、変速とクラッチ操作を自動化したセミATが存在する。しかし、日本のバス業界においては、セミATは変速タイミングやメンテナンス面から運転手、整備士双方から敬遠され、近鉄バス、京王バスグループ、関東バス、横浜市交通局など、一部事業者が集中導入した以外はほとんど普及せず、現在では製造されていない。また操作性の難点などから中古車としての地方のバス会社への譲渡は皆無に等しく、ほとんどはミャンマーやフィリピンなどの発展途上国への海外譲渡かスクラップとなった。その後はノンステップバスの導入と共にトルコン式ATが一時普及したが、経済性と整備性の面から再びフィンガーシフトのMTが主流となっている[3]。
- いすゞ自動車 - NAVi5、NAVi6
- 日野自動車 - EEドライブ
- 三菱ふそうトラック・バス - MMAT
- 日産ディーゼル(現UDトラックス) - E-MATIC
トラック[編集]
日本国内外を問わず、現在は各メーカーよりクラッチ操作の一部、または全てを自動化したセミAT搭載のトラックが発売されている。特にエンジンの大トルクと車両側高負荷の板ばさみとなる大型車用のクラッチ機構では、滑りの少ない乾式クラッチはトルコン式ATに比べ燃費や騒音の面で非常に有利で、クラッチ操作からの開放はドライバーの疲労軽減にもつながる。発進時のクラッチ保護(破損の防止や交換周期の延長)や荷扱い時の停止位置合わせなど、微速時の扱いやすさを考慮して、自動変速ながらクラッチペダルを備えているものもある。従来は乾式クラッチとMTをそれぞれアクチュエーターによって自動化したものであったが、近年では乾式クラッチの代わりにフルードカップリングと湿式多板クラッチを用いたものや、制御についても油圧やモーター、ソレノイドを用いたものが存在する。
近年の採用増加については、ドライバーの疲労低減やシフトパターンの最適化による燃費の追求、さらに大型車については燃費と動力性能の両立を狙い、8段以上の多段変速機の搭載も増えており、変速操作の煩雑さの解消といった理由も挙げられる。積載量2トンクラスの小型トラック市場では、2011年現在における普通自動車のAT限定免許で運転が可能という、運転者側のメリットも挙げられる。
オートバイ[編集]
ホンダ・スーパーカブはシフトペダルの操作でクラッチが切れる機構を追加した自動遠心クラッチを採用し、従来は左ハンドルレバーで行っていたクラッチ操作を廃した。
モータースポーツでの利用[編集]
前述の戦前形競技車は別として、レーシングカーでの採用例ははるかに下ることになる。
F1[編集]
F1においては、1989年にレーシングカーデザイナーのジョン・バーナードが、スクーデリア・フェラーリの「フェラーリ・640(F189)」に初めて実戦投入した。これはステアリングホイールの裏側に変速指示用のパドルスイッチを設け、レーシングドライバーがステアリングから手を離すことなく操作ができるようにしたものである。
セミATは、多くの優位性をもたらした。
- 変速時のエンジンの回転数が電子制御されることにより、ドライバーが競技により集中できるようになり、またオーバーレブによる車の故障を未然に防ぐことが可能となった。
- コクピットにシフトレバーやクラッチペダルを設置するスペースが不要となり、モノコックをシンプルかつコンパクトに設計できるようになった。そのために車体デザインの自由度が増え、空力的に有利なデザインを取ることが可能となった(ただし導入当初はクラッチペダルがあった。また、ドライバーの希望で設置されていた例もある)。
- 変速の段数を増やすことが可能となった。従来型のMTでは、変速段を増やせばシフトの選択操作を誤る可能性が大きくなり、またシフトレバーのための空間が余計に必要となるためである。また、変速段を増やすことにより、エンジンをよりピークパワー重視の方向に設定することが可能となった。
- 従来型のMTに比べ、シフト操作に要する時間が短くなった。MTはシフト操作中は車は加速できないので、結果的に加速能力が向上した。
導入当初はそれらの効果を疑問視され、故障や車重バランスの変化を嫌い敬遠するチームもあった。しかし、フェラーリのナイジェル・マンセルが同年の開幕戦で優勝したことを皮切りに、1991年に導入したウィリアムズは同年のチャンピオン争いに肉薄することで、従来型MTに対する優位性を証明することとなり、以後は導入するチームが相次いだ。1994年のルール改正は俗に「ハイテク規制」とも呼ばれる、各種電子制御を規制する内容であったが、セミATは規制の対象とはならずに生き残り、1995年以降はF1に参加する全ての車両が何らかのセミATを搭載している。
ちなみに、F1カーにもクラッチボタン(もしくはストロークがあるパドル)があり、これを押すことでクラッチを手動で操作できる。走り始めてからの変速には使わないが、ピットインする際やスタートの際のみ(すなわち、ニュートラルから1速に入れるとき)使用する。
世界ラリー選手権[編集]
世界ラリー選手権においても、グループB末期にアウディがクワトロS1で投入したセミATが挙げられる。これはクラッチペダルは残されているが、シフトレバー部分にクラッチスイッチを設け、スイッチを押しながらシフトチェンジをすることによってクラッチを操作するシステムで、ペダル自体が可倒するという仕組みであった。また、日本勢のグループA時代には、スバルがインプレッサ グループA仕様でセミATを実践投入した。これは、一般的なHパターンのMTを圧縮空気で作動するアクチュエーターで操作するシステムであった。そのため、トランクスペースに圧縮した空気をため込むタンクが装備されていた。しかし変速スピードが遅く、ドライバーはスペシャルステージでは自分の手で変速を行い(シフトレバーは残されていた)、変速スピードの必要ないリエゾン区間でこのシステムを使用するなど、実戦に耐えるシステムではなかった。後に三菱がランサーエボリューションIV グループA仕様でシーケンシャルシフトを採用したのを皮切りに、トヨタがカローラWRCに通称「ジョイスティック」と呼ばれるスイッチで操作するセミATを搭載した。また、ほぼ同時期にスバルが、従来の圧縮空気から油圧に変更されたシステムをインプレッサWRカーに搭載し、実戦で使用できる物となった。
2007年時点では、ワークス・チームはほぼ全てセミATを装備している。インプレッサ以外のマシンはドグミッションのシーケンシャルMTを基にしているが、インプレッサはHパターンのMT基にしている。これは、ラリーではサーキットレースと異なり、スピンをよく起こすため、リスタートの際に1速への変速を迅速に行わなければならないためである。
WRカーではクラッチペダルやシフトレバーは残されている。これはF1マシンと異なり、コクピットに余裕があり、システムに異常が起きても手動変速によってリタイアせずに済むためである。またラリーのステージでは多様な路面状況下で静止状態から発進するため、ドライバーの要求通りの発進加速を得るためにクラッチペダルは必要である。しかし近年ではローンチコントロールが搭載されるようになり、スタックの脱出などにしか使われなくなっている。
グループC[編集]
ポルシェは962CにPDKと呼ばれるDCTをターボラグ対策として搭載していた。後に、グループCの後継とも言えるル・マンのプロトタイプクラスのトヨタ・TS020なども、空圧を利用したセミATを採用している。
インディカー[編集]
インディカー・シリーズでは長らくセミATの使用が禁止されてきたが、2008年よりインディ500を除くすべてのレースで使用することを義務づけられ、現在インディ500を含む全てのレースでパドルシフト式セミATが使用される。
GP2[編集]
GP2では2005年のシリーズ開始当初より、ザイテック製のセミATを使用している。
A1グランプリ[編集]
A1グランプリでは、2005 - 2006年のシリーズ開始当初より、Xtrac製シーケンシャルMTに、ザイテック製セミAT(EGS:Electrically-assisted Gearshift System)が装着されている。
フォーミュラ・ニッポン[編集]
フォーミュラ・ニッポンも長らくセミATの使用が禁止されてきたが、2008年より前述のザイテック製EGSが装着された。
SUPER GT[編集]
SUPER GTでは2009年より、GT500クラスのエンジンがフォーミュラ・ニッポン用と基本設計が同じものに変更され、併せて前述のザイテック製EGSが装着された。2012年からはGT300クラスのFIA-GT3車両(FIA-GT3はレギュレーションにより、車両の標準装備であればパドルシフト式のセミATが使用できる)に限り使用が認められている。
脚注[編集]
- ^ 電子制御によるスロットル操作はドライブ・バイ・ワイヤの項を参照。
- ^ 日本では1960年代の日野・コンテッサやスバル・360、スバル・レックス(初代、550cc後期型)、日産・チェリー(F10系)、日産・パルサー(N10系)の例がある。
- ^ ただし、2010年にモデルチェンジした三菱ふそう・エアロスターでは全車トルコン式ATとなりMTは廃止されている。
関連項目[編集]
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