セミオートマチックトランスミッション

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

セミオートマチックトランスミッション: Semi-automatic transmission 以下、セミAT)とは、自動車変速機(トランスミッション)の1種で、変速操作は手動のまま、クラッチ操作を自動化したものである。運転席にクラッチペダルがなく、アクセルとブレーキの2つのペダルだけが備わるため2ペダルMTとも呼ばれる。

概要[編集]

発進時などにクラッチ操作が必要ないトランスミッションはオートマチックトランスミッション(以下、AT)に分類され、日本の道路交通法でもオートマチック限定免許で運転できることが規定されている。このなかで、ギヤ選択までも自動化したフルATと区別して、運転者がギヤ選択操作をするものはセミオートマチックと呼ばれる。このようなセミATは長い歴史がある[要出典]

乗用車でこの形式が選ばれる理由は、市場の嗜好(通常のトルコン式ATのニーズが低い=燃費、操縦性、価格などへの不満)、スポーツ性の演出、生産台数、小型車スポーツカーへの搭載性、ATの開発費不足など[要出典]多岐に渡るが、メーカーの方針・判断による。

これに対し、電子制御技術の発達に伴いスロットル[1]やクラッチ、ギヤ選択をアクチュエーターによって操作し、ギア選択をも自動化(フルAT化)したオートメーテッドマニュアルトランスミッション(: automated manual transmission 以下、AMT)も普及するようになった。一方で、フルATでありながら必要によりギア選択を運転者の任意で行えるものは「マニュアルモード付きAT」や「スポーツAT」とも呼ばれ、英語圏では「Manumatic」という混成語で呼ばれる。

歴史[編集]

フォード・モデルTの2段変速機[編集]

1908年から製造されたフォードの大衆車「モデルT」(いわゆる「T型フォード」)は、ペダル操作による2段の遊星歯車式変速機を搭載していた。クラッチは半自動式で、パーキングブレーキをかけている間はクラッチが切断され、パーキングブレーキを緩めることでクラッチが接続される。変速はペダルで行われ、ペダルを踏んでいる間はローギアであり、足を離すとハイギアとなる。また、後進の際には停止中に別のバックギア用ペダルを踏む。最高速度は60km/hそこそこなので、2段変速でも不都合はなかった[独自研究?]。当時主流だったギヤそのものを選択摺動する方式に対し、遊星歯車を用いて複雑な操作を不要にした変速システムであり[2]日本では大正時代の一時期、モデルT専用の運転免許が存在したほどである[要出典]。この容易な変速システムはモデルTが世界的に普及した一因であると共に、後にアメリカにおいてATが普及する素地を作ったとも言われている。

プリセレクタ・ギアボックス[編集]

モデルTの変速システムは3段以上の多段化に適さず、高速化・高出力化に伴って3段のMTを搭載するための新たな方式として1920年代プリセレクタ・ギアボックス (: Preselector gearbox) が登場した。これは、半自動式クラッチと遊星歯車変速機を組み合わせた半自動変速システムの一般名称であり、クラッチペダルの代わりにチェンジペダルを備え、ステアリングコラムまたはダッシュボードに小型のシフトレバーが付いていた。変速段数は4段程度であった。半自動クラッチには遠心式、電磁式、流体継手などの方式が用いられたが、特に流体継手は滑り現象によってほかの方式よりも半クラッチを行いやすいため、この方式の主流となった。発進時には、まずシフトレバーを1速に入れ、さらにチェンジペダルを一踏みして足を離すと1速につながり、発進できる。半クラッチの必要はないが、アクセルの適度な調節は必要である。2速以上での変速も同様の操作で行われる。停止時にはブレーキを踏めば自動的にクラッチが切れる。慣れれば相当迅速な変速が可能であった。[独自研究?]変速に先立って変速段を選択しておくことから「プリセレクタ」の名称が生まれた。フランスのコタル (: Cotal) 式やイギリスのウィルソン(: Wilson) 式が製品化され、概して信頼性の高いシステムであったと言われる。

最初の採用例は1928年にイギリスのヴィッカース・アームストロング社が製造した大型バスであった。特にイギリスとフランスで多く用いられ、1930年代のイギリスでは高級車・中級車にも広く使われた。レーシングカーの分野でもイギリスのレイモンド・メイズライレーを基に開発した小型レーサー「ERA」がプリセレクタを搭載し、1930年代後半の小型車レースで優れた成績を収めた。またプジョー1937年にスポーツカー「402ダールマット・スポール」にコタル式プリセレクタを搭載し、ル・マン24時間レースで好成績を収めた。第二次世界大戦後に至ってもデイムラーランチェスタードライエなどが採用していたが、1950年代末期には現代型ATの普及によって衰退している。

自動クラッチ車[編集]

1930 - 1960年代にはMTのクラッチのみを自動化したモデルがヨーロッパで製造された。一般的なごく廉価な大衆車ではアクセル操作に頼る遠心クラッチ、小型車 - 中級車ではアクセル開度に応じて制御されるソレノイドを利用した電磁クラッチや、「サキソマット」に代表される吸気管負圧を利用した真空式、さらに中級以上の車種の一部には流体継手が用いられた。

電磁クラッチ式の中にはシフトレバーに静電容量スイッチが内蔵され、シフトレバーに触れることでクラッチを切断するモデルも存在した[3]。しかし、意図せずシフトレバーに触れて不意にクラッチが切れることを防ぐため、レバーに触れ始めてからクラッチが切れるまでにタイムラグが設けられていたが、これが渋滞などで求められる頻繁な変速・クラッチ断続操作に適さないきらいもあった[独自研究?]。この形式は日本では早くに廃れ、市場のニーズはトルコン式ATに移行した。

2010年現在では欧州を中心として、クラッチのみ自動化されたセミATに加え、変速操作も自動化されたフルATであるAMTが普及している。ただし欧州ではMTが未だ主流であり、それらを置き換えるほどのシェアには至っていない。日本国内においては、近年ではトヨタ・MR-Sレクサス・LFAに搭載された以外にセミATの採用例がなく、他方で従来のトルコン式ATに加えて無段変速機(CVT)が主流になりつつあり、また一方で日産・GT-R三菱・ランサーエボリューション(CZ4A系)などのスポーツ性を謳ったモデルについては、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)が採用されている。商用車の分野では、クリープ専用の流体継手を追加したものが、2tクラスのトラックを中心に数を増やしつつある。また、日本の各メーカーは海外仕様車についてはセミATを用意しているものがある。

市販車での採用例[編集]

乗用車[編集]

BMW・7速SMGのセレクター

パドル式のシフターを採用する市販車の場合、ステアリングホイールが180度前後まで回転してパドルの位置が逆転した際の操作ミスを防ぐために[独自研究?]パドルはステアリングコラムに固定されている場合が多い。

バス[編集]

リアエンジンバスでは、運転席とトランスミッションが大きく離れており、その間をつなぐコントロールロッドも非常に長く、かつ、多くのリンク機構支点を介すことから、シフトレバーの操作力が大きく、剛性感や節度感も低くなりやすい。また、トランスミッション内部のギアの回転慣性も大きいため、入出力軸の回転がうまく合わず、一度の操作で目的のギアに入らないことや、ギア鳴りが発生することも多い。

そのため、乗務員のシフトミスや疲労軽減を目的として1980年代からフィンガーシフトと呼ばれる、油圧または空圧アクチュエーターを用いたMTが普及し始めた。これを基に、変速とクラッチ操作を自動化したセミATが存在する。しかし、日本のバス業界においては、セミATは変速タイミングやメンテナンス面から運転手整備士双方から敬遠され、近鉄バス京王バスグループ、関東バス横浜市交通局など、一部事業者が集中導入した以外はほとんど普及せず、現在では製造されていない。また操作性の難点などから中古車としての地方のバス会社への譲渡は皆無に等しく、ほとんどはミャンマーフィリピンなどの発展途上国への海外譲渡スクラップとなった。その後はノンステップバスの導入と共にトルコン式ATが一時普及したが、経済性と整備性の面から再びフィンガーシフトのMTが主流となっている[4]

トラック[編集]

日本国内外を問わず、現在は各メーカーよりクラッチ操作の一部、または全てを自動化したセミAT搭載のトラックが発売されている。特にエンジンの大トルクと車両側高負荷の板ばさみとなる大型車用のクラッチ機構では、滑りの少ない乾式クラッチはトルコン式ATに比べ燃費や騒音の面で非常に有利で、クラッチ操作からの開放はドライバーの疲労軽減にもつながる。発進時のクラッチ保護(破損の防止や交換周期の延長)や荷扱い時の停止位置合わせなど、微速時の扱いやすさを考慮して、自動変速ながらクラッチペダルを備えているものもある。従来は乾式クラッチとMTをそれぞれアクチュエーターによって自動化したものであったが、近年では乾式クラッチの代わりにフルードカップリングと湿式多板クラッチを用いたものや、制御についても油圧やモーター、ソレノイドを用いたものが存在する。

近年の採用増加については、ドライバーの疲労低減やシフトパターンの最適化による燃費の追求、さらに大型車については燃費と動力性能の両立を狙い、8段以上の多段変速機の搭載も増えており、変速操作の煩雑さの解消といった理由も挙げられる。積載量2トンクラスの小型トラック市場では、2011年現在における普通自動車のAT限定免許で運転が可能という、運転者側のメリットも挙げられる。

オートバイ[編集]

ホンダは1958年に従来型のカブF型からスーパーカブC100へモデルチェンジを行う際に、シフトペダルの操作でクラッチが切れる機構を追加した自動遠心クラッチを採用し、従来は左ハンドルレバーで行っていたクラッチ操作を廃した。 ヤマハヤマハ・メイトにおいて、スズキスーパーフリーバーディーにおいて自動遠心クラッチを採用しクラッチレバーを廃していた。このうちヤマハ・メイトは07年に国内向けの新車生産を終了し、バーディーも90cc仕様のバーディー90が08年に生産を終了している。

この他、ヤマハが06年より発売しているFJR1300ASは電子制御式クラッチYCC-Sの採用によってクラッチレバーを廃し、手元とチェンジペダルによる変速が可能な仕様となっているほか、ホンダも11年より発売しているNCシリーズのDCT仕様車において、DCTの採用によってクラッチレバーを廃し、手元およびチェンジペダルによる変速が可能な仕様となっている。

モータースポーツでの利用[編集]

戦前のレーシングカーに採用された時期があったのちは、モータースポーツ用の車両には1980年代後半まで採用例がなかった。

F1[編集]

F1においては、1989年にレーシングカーデザイナーのジョン・バーナードが、スクーデリア・フェラーリの「フェラーリ・640(F189)」に初めて実戦投入した。これはステアリングホイールの裏側に変速指示用のパドルスイッチを設け、レーシングドライバーがステアリングから手を離すことなく操作ができるようにしたものである。

セミATは、下記のような優位性をもたらした。

  • 変速時のエンジンの回転数が電子制御されることにより、ドライバーが競技により集中できるようになり、またオーバーレブによる車の故障を未然に防ぐことが可能となった。
  • シフトチェンジ中にステアリング・ホイールから手を離す必要がなくなったため、操舵の安全性が向上した。
  • コクピットにシフトレバーやクラッチペダルを設置するスペースが不要となり、モノコックをシンプルかつコンパクトに設計できるようになった。そのために車体デザインの自由度が増え、空力的に有利なデザインを取ることが可能となった(導入当初はスタート時のみクラッチはマニュアルで行う必要があったため、足元にクラッチペダルがあった。また、ドライバーの希望で設置されていた例もあった)。
  • 変速の段数を増やすことが可能となった。従来型のMTでは、変速段を増やせばシフトの選択操作を誤る可能性が大きくなり、またシフトレバーのための空間が余計に必要となるためである。また、変速段を増やすことにより、エンジンをよりピークパワー重視の方向に設定することが可能となった。
  • 従来型のMTに比べ、シフト操作に要する時間が短くなった。MTはシフト操作中は車は加速できないので、結果的に加速能力が向上した。

導入当初はそれらの効果を疑問視され、故障や車重バランスの変化を嫌い敬遠するチームもあった。しかし、フェラーリのナイジェル・マンセルが同年の開幕戦で優勝したことを皮切りに、1991年に導入したウィリアムズは同年のチャンピオン争いに肉薄(最初はフェラーリと同様にギアボックスのトラブルが多発した)することで、従来型MTに対する優位性を証明することとなり、以後は導入するチームが相次いだ(下位チームではオートバイなどに使われていた「シーケンシャル・シフト(押すと1段ずつシフトアップ、引くと1段ずつシフトダウンする)」を使用するチームもあった)。1994年のルール改正は俗に「ハイテク規制」とも呼ばれる、各種電子制御を規制する内容であったが、セミATは規制の対象とはならずに生き残り、1995年以降はF1に参加する全ての車両が何らかのセミATを搭載している。

F1カーにもクラッチボタン(もしくはストロークがあるパドル)があり、これを押すことでクラッチを手動で操作できる。走り始めてからの変速には使わないが、ピットインする際やスタートの際のみ(すなわち、ニュートラルから1速に入れるとき)使用する。

世界ラリー選手権[編集]

世界ラリー選手権においても、グループB末期にアウディクワトロS1で投入したセミATが挙げられる。これはクラッチペダルは残されているが、シフトレバー部分にクラッチスイッチを設け、スイッチを押しながらシフトチェンジをすることによってクラッチを操作するシステムで、ペダル自体が可倒するという仕組みであった。また、日本勢のグループA時代には、スバルインプレッサ グループA仕様でセミATを実践投入した。これは、一般的なHパターンのMTを圧縮空気で作動するアクチュエーターで操作するシステムであった。そのため、トランクスペースに圧縮した空気をため込むタンクが装備されていた。しかし変速スピードが遅く、ドライバーはスペシャルステージでは自分の手で変速を行い(シフトレバーは残されていた)、変速スピードの必要ないリエゾン区間でこのシステムを使用するなど、実戦に耐えるシステムではなかった。後に三菱ランサーエボリューションIV グループA仕様でシーケンシャルシフトを採用したのを皮切りに、トヨタカローラWRCに通称「ジョイスティック」と呼ばれるスイッチで操作するセミATを搭載した。また、ほぼ同時期にスバルが、従来の圧縮空気から油圧に変更されたシステムをインプレッサWRカーに搭載し、実戦で使用できる物となった。

2007年時点では、ワークス・チームはほぼ全てセミATを装備している。インプレッサ以外のマシンはドグミッションのシーケンシャルMTを基にしているが、インプレッサはHパターンのMT基にしている。これは、ラリーではサーキットレースと異なり、スピンをよく起こすため、リスタートの際に1速への変速を迅速に行わなければならないためである。

WRカーではクラッチペダルやシフトレバーは残されている。これはF1マシンと異なり、コクピットに余裕があり、システムに異常が起きても手動変速によってリタイアせずに済むためである。またラリーのステージでは多様な路面状況下で静止状態から発進するため、ドライバーの要求通りの発進加速を得るためにクラッチペダルは必要である。しかし近年ではローンチコントロールが搭載されるようになり、スタックの脱出などにしか使われなくなっている。

グループC[編集]

ポルシェは962CにPDKと呼ばれるDCTをターボラグ対策として搭載していた。後に、グループCの後継とも言えるル・マンプロトタイプクラストヨタ・TS020なども、空圧を利用したセミATを採用している。

インディカー[編集]

インディカー・シリーズでは長らくセミATの使用が禁止されてきたが、2008年よりインディ500を除くすべてのレースで使用することを義務づけられ、現在インディ500を含む全てのレースでパドルシフト式セミATが使用される。

GP2[編集]

GP2では2005年のシリーズ開始当初より、ザイテック製のセミATを使用している。

A1グランプリ[編集]

A1グランプリでは、2005 - 2006年のシリーズ開始当初より、Xtrac製シーケンシャルMTに、ザイテック製セミAT(EGS:Electrically-assisted Gearshift System)が装着されている。

フォーミュラ・ニッポン[編集]

フォーミュラ・ニッポンも長らくセミATの使用が禁止されてきたが、2008年より前述のザイテック製EGSが装着された。

SUPER GT[編集]

SUPER GTでは2009年より、GT500クラスのエンジンがフォーミュラ・ニッポン用と基本設計が同じものに変更され、併せて前述のザイテック製EGSが装着された。2012年からはGT300クラスのFIA-GT3車両(FIA-GT3はレギュレーションにより、車両の標準装備であればパドルシフト式のセミATが使用できる)に限り使用が認められている。

脚注[編集]

  1. ^ 電子制御によるスロットル操作はドライブ・バイ・ワイヤの項を参照。
  2. ^ MotorFan illustrated Vol.8(三栄書房ISBN 978-4-7796-0235-1)P.044
  3. ^ 日本では1960年代の日野・コンテッサスバル・360スバル・レックス(初代、550cc後期型)日産・チェリー(F10系)日産・パルサー(N10系)の例がある。
  4. ^ ただし、2010年にモデルチェンジした三菱ふそう・エアロスターでは全車トルコン式ATとなりMTは廃止されている。

関連項目[編集]