ヒール・アンド・トウ

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ヒール・アンド・トウ(Heel-and-toe)とは、マニュアルトランスミッション車の運転技術の一つ。ブレーキングと同時に、ギアをシフトダウン(高速段から低速段に切り替えること)する際のペダル操作を指す。


変速機駆動軸側の歯車回転数と、クラッチ板側(すなわち、エンジン側)の歯車回転数を合わせるために、おもにレースやラリーなどの自動車競技で使われる手法である。右足のつま先(トウ)でブレーキペダルを踏み、同じ足の踵(ヒール)でアクセルペダルを踏むことから、この名称で呼ばれる。この間、左足はクラッチペダルを踏むために使われる。

目次

[編集] 概要

主にコーナーへの進入手前における減速中に、コーナーを脱出する際の加速に備えて、あらかじめシフトダウンを済ませておくという、モータースポーツにおいては基本的なテクニックの一つである。

習得にはある程度の慣れが必要である。スポーツタイプを謳っている車や乗用車の多くはブレーキペダルとアクセルペダルの位置が近いためヒール・アンド・トウはしやすいが、ペダル位置等の理由から軽トラックなどでは難しい。また、車種によっては自動車メーカーや設計者の方針(あるいは見識)で、アクセルペダルの位置をやや高くし、あえてヒール・アンド・トウを行いにくくしてあるものも見られる。

なおペダル間隔の関係上、またはドライバーの好みにより、足の親指側でブレーキを、小指側でアクセルを踏むスタイルも存在する。この場合はブレーキおよびアクセルのどちらの操作にもつま先を用いるため、"ローリング・トウ"(Rolling-toe)と呼ばれる。足元が極端に狭く、ペダルの動きが一般的な自動車とは異なるフォーミュラカーの操縦にはこちらが用いられている。

[編集] 効用

利点は、ブレーキ操作中にシフトダウンを完了しておくことで、ブレーキ終了→即加速開始が出来る事に尽きる。特に競技用車両などのトランスミッションに使われるドグミッションでは、回転数を合わせなければシフトチェンジする事ができないが、ヒール・アンド・トウによってブレーキング中であってもシフトダウンを行える。

変速機の各段の歯車は、常にそれぞれ異なる速度で回転しており、特別の仕組みが無い限り、変速機の歯車は回転が合わなければ噛み合わせを換える(すなわちギアチェンジする)ことは難しいため、この手法が活かされる。

シフトアップのときには、その時点での駆動軸歯車よりも低回転の歯車に切り替える。通常はギアを変える操作をしている間にエンジンの回転数が落ちるため[1]、歯車の回転は合いやすい。しかし、シフトダウンの時には、その時点の駆動軸歯車よりも高回転の歯車に切り替えるため、クラッチ側歯車の回転数を上げる必要が生じる。

回転を合わせるため、手動変速機の歯車にはシンクロメッシュという機構が装着されており[2]、ギアをつなげる際、シフトレバーを動かす力(すなわち、運転者の腕力)を使って回転速度の異なるギア同士のシンクロナイザーを押し当て、その摩擦で回転数を合わせる仕組みになっている。

シンクロメッシュ機構は通常運転でのの変速操作を容易にするものであるが、レースなどでは、シンクロナイザーによる回転合わせは時間が掛かるうえ、一種の摩擦クラッチでもあるので、発熱や摩耗も大きくなり、負担に耐えられない可能性もある。それを解決する手段の一つとして、この操作法が存在する。

かつてはブレーキを保護する、又はエンジンブレーキを併用して高速で走行するマシンを減速する事も目的であった。レーシングカーの進歩の過程では、スピードを上げる事は、大排気量のエンジンを積む、過給機を搭載するなどして比較的安易に達成はできたものの、そのスピードを抑えるという事については進歩が追いつかなかった、又は二の次にされていたという背景があり(ディスクブレーキF1登場は1955年)加えてシンクロメッシュ機構を持っていなかったレーシングカーのドグミッションでは、ブレーキングをしながらダブルクラッチを使い、且つアクセルを吹かしながら徐々に(エンジンブレーキをより有効に利用でき、且つ加速に有効な)低いギアへと変えざるを得なかったというのが実状である。 現代においても、LSDを使用した車両でエンジンブレーキを使用した場合、単にフットブレーキだけで減速するよりも直進性が高い(LSDによって左右の駆動輪の回転差が無くなり、直進しようとする効果がより高まる)事から、減速時にエンジンブレーキの使用が好まれる場面もある。

[編集] シフトショックの防止

ヒール・アンド・トウはブリッピングを含むので、シフトダウン時のシフトショック現象の防止にもなっている。モータースポーツにおいて、シフトダウンする機会のほとんどはブレーキにより減速している間と重なることとなり、無駄な挙動が出るきっかけを作らないためにも、シフトショックを避ける必要が出てくる。

この対処方法として、半クラッチを用いてシフトショックを軽減することも可能であるが、競技走行においてこの方法は好まれず(シフトチェンジに余計な時間がかかる、クラッチを傷めるなどの理由)、通常はヒール・アンド・トウを用い、ブレーキで減速しながら回転数合わせをしてクラッチをつなぐ事でシフトショックを防ぐ。

[編集] 手順

例として、3速から2速へシフトダウンする場合の手順を説明する。

  1. 右足のつま先でブレーキペダルを踏む。
  2. 左足でクラッチペダルを踏む。
  3. ブレーキペダルを踏んだまま、右足を少し捻って踵でアクセルペダルを蹴る。その際、ブレーキ踏力が抜けないようにする。
  4. シフトレバーを3速から2速に入れる。
  5. 左足でクラッチをつなげる。

(3)での回転数の目安は、(5)でクラッチを合わせる際の車速によって異なる。

スムーズなシフト操作を実現するためには、ドライブ側とドリブン側の回転を合わせるためのダブルクラッチを併用する必要がある。

[編集] 利点と欠点

[編集] 利点

  • 減速中に、次のコーナーからの立ち上がりに最適な回転数に合わせれば、素早い加速が可能となる。

[編集] 欠点

  • ヒール・アンド・トウを用いずに走行するよりは、燃料の消費が多い(耐久レースでは問題となり得る)。

[編集] 技術の進歩による最近の傾向

1990年代以降のトップカテゴリの自動車競技では、F1を筆頭にセミオートマチックトランスミッションを採用する傾向にある。多くのセミオートマチックトランスミッションは変速機に連動した電子制御によってエンジンが回転数を合わせるため、ヒール・アンド・トウを必要とする機会は減りつつある。またセミオートマチックトランスミッションではドライバーによる変速時のクラッチ操作が不要になるため、右足でアクセルを操作しつつ左足でブレーキを踏む左足ブレーキを使う方が「ペダルを踏み替える必要がないため変速時間を短縮できる」など利点が多い。

このような理由から、近年フォーミュラカーの世界ではヒール・アンド・トウは廃れつつあるが、ツーリングカーレースなど、プロダクションカーレースの世界では依然として有効なテクニックの一つとして使われている。

オートマチック車でもシフトダウン時の回転数合わせは可能である。オートマチック車は、エンジンブレーキの為にギア段を下げても回転数が低いまま(空走状態)という事があるが、ギア段が変わる際に意図的に回転数を高めてトルクコンバーターのロック比率を上げ、エンジンブレーキの効きを良くする事が可能である。ギア段を固定可能なオートマチック車(スポーツモードATなど)では有用なこともある。この回転数合わせを自動で行う機構がシンクロレブコントロールである。

[編集] 関連項目

[編集] 脚注

  1. ^ アクセルを踏み続けながら変速操作をしないと仮定する。レースなどでは行なうこともある。ユニフロー掃気ディーゼルエンジンのように、スロットルオフ時の回転落ちが速く、加速時でもブリッピング(中吹かし)が有効な例もある。
  2. ^ 黎明期の多段変速機は全てのギアセットがノンシンクロであり、後退を除く全段にシンクロメッシュ機構が備わった、いわゆる「フルシンクロ」変速機が一般的になったのは、乗用車でさえ1950年代のことである。それ以降も大型車建設機械などでは1速がノンシンクロのトランスミッションが多く使われていた。
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