ギアオイル

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ギアオイル(: Gear Oil)はオートバイなども含む自動車用の潤滑油のうち、トランスミッショントランスファーデファレンシャルの潤滑を目的としたものの総称である。潤滑する装置の種類によって異なる性質のものが用いられ、主にマニュアルトランスミッションに用いられるものはミッションオイルマニュアルトランスミッションフルード(MTF)、デファレンシャルに用いられるものはデフオイルと分けて呼ばれる場合もある。

概要[編集]

ギアオイルは主原料の基油(: base oil)に、駆動伝達装置の潤滑に適した特性の添加剤を加えた製品である。基油には鉱物油が古くから用いられてきたが、近年では化学合成油(en:Synthetic oil)を用いる製品もある。添加剤は酸化防止剤や流動点降下剤、極圧剤、さび止め剤、あわ消し剤といったものが加えられるほか、粘度指数向上剤が加えられる場合もある[1]

プロペラシャフトから車軸へ動力伝達する際に用いられるハイポイドギアは、歯車の表面に高い接触面圧がかかりながら滑り接触することから、普通のギヤオイルでは油膜切れを起こして焼き付く場合がある[2]。ハイポイドギアに対応したオイルはハイポイドギアオイルとも呼ばれ、極圧添加剤(en:Extreme pressure additive)と呼ばれる添加剤が加えられている[2]。極圧添加剤は硫黄や塩素、リンなどを含む化合物で、高温高圧の条件下で歯車表面の金属と化学反応を起こして被膜を形成し、摩耗や焼き付き、融着といった現象を防止する[3]

オートバイの場合[編集]

今日のオートバイの多くはエンジンと同時にギアボックスを潤滑する方法をとっている車種が一般的で、これらはエンジンオイルで潤滑されている。ただし、湿式クラッチを採用した車種の場合はクラッチ機能を阻害しない機能を有したオートバイ用エンジンオイルが利用される。ギアボックスの潤滑系統が独立している2ストロークエンジンを搭載した車種でも、オートバイ用エンジンオイルをギアボックスに使うことをユーザーズマニュアルで指定している車種は多い。

一方、エンジンとギアボックスの潤滑系統が分離している車種ではオートバイ専用のギアオイルを用いることが指定されている場合がある。多くの場合、メーカー純正ギアオイルは粘度指数やGL区分が公開されていない。シャフトドライブを採用した車種や側車に駆動輪を持つサイドカー、あるいはトライクのように独立したギアケースにハイポイドギアを用いる車種の場合には、自動車で用いられるハイポイドギアオイルに準じたギアオイルが用いられる。

SAE規格[編集]

ギアオイルの粘度の表記はエンジンオイルに用いられるものと類似しているが、その数値が示す実際の粘度領域は異なる。工学的な区分であるISO粘度で比較すると、例えばギアオイルで粘度表記が75W-90のものはエンジンオイルでは10W-40とほぼ同じである。マルチグレードのギアオイルほどこの傾向が顕著となる。これは両者の粘度表記を所管するSAE規格においてエンジンオイルの粘度はSAE J300、ギアオイルの粘度はSAE J306という異なる規定が用いられているためである。

GL規格[編集]

ギアオイルは米国石油協会(en:American Petroleum Institute)によって、GL規格が定められている。GL規格は6等級に区分され、数字が増えるほど添加剤の割合が多く、極圧性が増す。

API GL-1
軽負荷条件向け。無添加の基油で構成されており、時には抗酸化剤、腐食防止剤、消泡剤などの若干の添加剤が含まれる。GL-1はトラックや農業機械のスパイラルベベルギアやウォームギアを用いたノンシンクロメッシュのトランスミッション向けに設計されている。BP社の資料[4] では、GL-1はレギュラータイプとして区分され、使用条件としては「低荷重、低速のスパーギヤー、ヘリカルギヤー、ウォームギヤー及びベベルギヤーに用いる」とされており、自動車向けの用途としては「自動車の潤滑条件を満足させないため全く用いられない」とされている。
API GL-2
中程度の負荷条件向け。耐摩耗性添加剤が含まれており、ウォームギアを用いたデファレンシャル向けに設計されている。トラクターなどをはじめとする農業機械のトランスミッション潤滑に推奨される。BP社の資料[4]では、GL-2はウォームタイプとして区分され、使用条件としては「速度、荷重のやや過酷な条件下のウォームギヤー及び、その他のギヤー(ハイポイドギヤーを除く)に用いる」とされており、自動車向けの用途としては「自動車の潤滑条件を満足させないため、特殊な場合を除いてほとんど用いられない」とされている。
API GL-3
中程度の負荷条件向け。耐摩耗性添加剤を2.7%含んでいる。ベベルギアやその他の種類のギアで構成されたトラックのトランスミッション向けに使用されるが、ハイポイドギアには使用しないことが推奨される。BP社の資料[4]では、GL-3はマイルドEPタイプとして区分され、使用条件としては「GL-1、GL—2レベルのギヤーオイルに不適当な条件下のギヤーに用いる(ハイポイドギヤーには不適当)」とされており、自動車向けの用途としては「トランスミッション、ステアリングギヤー及び条件の緩やかなディファレンシャルギヤー(ハイポイドを除く)に用いる」とされている。差動装置が存在しない二輪車のギアオイルとして広く用いられるほか、四輪車のトランスミッションオイルとして純正指定されることがある。
API GL-4
軽負荷から重負荷まで様々な条件に対応。耐摩耗性添加剤を4.0%含んでおり、ベベルギアやハイポイドギアで構成された軸変位の小さなギアボックスやアクスルユニット向けに設計されている。ノンシンクロメッシュのギアボックスを搭載した米国製トラック・トラクター・バスでの使用に推奨される。また、ヨーロッパではシンクロメッシュのギアボックスに使用する基本的なギアオイルとされている。BP社の資料[4]では、GL-4はマルチパーパスタイプとして区分され、使用条件としては「ハイポイドギヤー及びきわめて過酷な条件下のギヤーに用いる。高速低トルク、低速高トルクに耐える」とされており、自動車向けの用途としては「ディファレンシャルギヤー、トランスミッション及びステアリングギヤーに用いる」とされている。
API GL-5
過酷な負荷条件向け。耐摩耗性添加剤を6.5%含んでおり、ハイポイドギアのために設計されたギアオイルである。BP社の資料[4]では、GL-5はマルチパーパスタイプとして区分され、使用条件としては「GL-4よりも過酷な条件下のハイポイドギヤーに用いる。高速低トルク、低速高トルク、高速衝撃荷重に耐える」とされており、自動車向けの用途としては「特に過酷な条件のディファレンシャルギヤーに用いる」とされている。
API GL-6
極めて過酷な負荷条件向け(高速での摺動及び大きな衝撃荷重がかかる条件下)。耐摩耗性添加剤を10.0%以上含んでおり、ハイポイドギアのために設計されたギアオイルである。今日ではGL-5が十分に厳しい要件を満たしていると考えられているため、GL-6という区分はこれ以上は適用されない。BP社の資料[4]では、GL-6はマルチパーパスタイプとして区分され、使用条件としては「GL-5よりも過酷な条件のハイポイドギヤーに用いる。高速低トルク、低速高トルク、高速衝撃荷重に耐える。FORDの規格ESW-M2C105A(特にオフセットの大きいハイポイドギヤーに使用)を満足するもの」とされており、自動車向けの用途としては「非常に過酷な条件のディファレンシャルギヤーに用いる」とされている。
元々この規格は米国フォード社のESW-M2C105Aと呼ばれる「特にオフセットの大きいハイポイドギヤ」での使用に耐えることを目的とした特殊規格であり、分類試験に使用する機材の調達が困難となったことが理由[5]で新規の認証試験は行われなくなった。そのため、過去にこの試験をパスした記録を持つ歴史ある銘柄を除いては、現在市中に出回るハイポイドギアオイルにはこの規格が新規に記載されることは無くなっており、古くから存在する銘柄の廃盤や配合の変更[6]などによって、徐々に市場からは姿を消している[独自研究?]

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 添加剤の種類と使用目的”. 株式会社潤滑通信社. 2011年8月22日閲覧。
  2. ^ a b 『大車輪』 三栄書房、2003年ISBN 4879046787
  3. ^ 極圧添加剤とは”. 株式会社潤滑通信社. 2011年8月22日閲覧。
  4. ^ a b c d e f BP オイルQ&A
  5. ^ BP社の資料では「分類試験部品の入手不可能のため、この規格は現在廃止。ただし廃止以前にパスした製品は表示可。」としている。
  6. ^ BPのギアオイルではかつてX5116が#90シングルでGL-6を表記していたが、現在のX5116は85W-90のマルチグレードとなり、GL区分もGL-5に変更されている。

外部リンク[編集]