鉛蓄電池

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鉛蓄電池
Photo-CarBattery.jpg
自動車用鉛蓄電池
重量エネルギー密度 30-40 Wh/kg
体積エネルギー密度 60-75 Wh/l
出力荷重比 180 W/kg
充電/放電効率 50%-92% [1]
エネルギーコスト 7(sld)-18(fld) Wh/US$ [2]
自己放電率 3%-20%/ [3]
サイクル
耐久性
500-800 c
電圧 2.105 V
リサイクルマーク(リサイクル法による)

鉛蓄電池(なまりちくでんち)は、電極を用いた二次電池の一種である。

概要[編集]

鉛蓄電池は、正極(陽極板)に二酸化鉛、負極(陰極板)には海綿状の電解液として希硫酸を用いた二次電池である。他の蓄電池に比べて大型で重く、希硫酸を使うために漏洩や破損時に危険が伴う。

正極・負極の双方から電解液中に硫酸イオンが移動することで充電され、電解液中の硫酸イオンが正極・負極の双方に移動することで放電を行う(詳細は後述)。放電すると、硫酸イオンが正極・負極の双方に移動するために電解液の比重は低下し、逆に充電すると上昇する。なお、電解液の比重の変化は、放電時に正極で水が作られることも関係している。

公称電圧は単セルあたり2ボルトと、比較的高い電圧を取り出すことができ、電極材料の鉛も安価であることから、二次電池の中では世界でも最も生産量が多い。

短時間で大電流を放電させても、長時間で緩やかな放電を行っても比較的安定した性能を持ち、ほかの二次電池と異なり、放電しきらない状態で再充電を行ってもメモリー効果は表れない。一方、過放電によりサルフェーションと呼ばれる現象が生じて容量が低下する。また、充電量の低下に伴って電解液の濃度が低下し、凝固点が上がるため、極寒地では電解液が凍結しやすくなり、凍結時の膨張によりケースが破損する場合もある。このことから、こまめに充電して過放電を避けたほうがより長く機能を維持できる[1]。空になるまで放電させる用途のために電極を改良したディープサイクルバッテリーも存在する。

用途[編集]

自動車バッテリーとして広く利用されているのをはじめ、産業用として商用電源が途絶えた時のバックアップ電源の用途や、バッテリーで駆動するフォークリフト・ゴルフカートといった電動車用主電源などにも用いられている。また小型飛行機用としても広く使われている。自動車・小型飛行機いずれの場合も、オルタネーター交流発電機)で発生した交流ダイオードなどによって整流することによって直流にして充電される。小さなところでは、アイワヘッドホンステレオなどのガム型電池でも使われた。

原理・構造[編集]

鉛蓄電池の電極における化学反応は下記で示され、PbとPbO2におけるPbの酸化数の差を利用した電池である。

放電時 充電時
負極 \rm Pb+SO_4^{2-} \longrightarrow PbSO_4 + 2e^- \rm PbSO_4 + 2e^- \longrightarrow Pb+SO_4^{2-}
正極 \rm PbO_2+4H^++SO_4^{2-}+2e^- \longrightarrow PbSO_4+2H_2O \rm PbSO_4+2H_2O \longrightarrow PbO_2+4H^++SO_4^{2-}+2e^-

上の2本の式は1本にまとめることができる:

  • Pb+PbO2+2H2SO4 → 2PbSO4+2H2O

鉛蓄電池の構造は次の通りである。

  • 正極
    • 電極格子: 鉛、または鉛合金
    • 活物質: 二酸化鉛 PbO2
  • 負極
    • 電極格子: 鉛、または鉛合金
    • 活物質: Pb
  • 電解液: 希硫酸(H2SO4)濃度:30-35%程度を用途別にJISで規定
  • セパレーター: 合成樹脂製で多孔質の隔離板[1]
  • 電槽・ふた: 正極・負極板・セパレータを組み合わせた極群や電解液を収納する容器

他に電極端子や安全弁、それらのシール材や表示物がある。

従来の鉛だけで構成される電極格子に代わり、新たな材質として鉛とスズ、カルシウムの合金が使われている。材質の改良などにより自己放電が減少し、1年に20%程度しか消耗しないようになった[1]

分類[編集]

極板の種類による区分[編集]

クラッド式
ガラス繊維をチューブ状に編み上げて焼き固めたものの中に極板活物質を充填したもので構成される極板。正極板のみに採用されている。蓄電池の耐久性が向上し、主に産業用の長寿命タイプの蓄電池やフォークリフト用の蓄電池に使用されている。
ペースト式
格子体と呼ばれる極板の骨組みにペースト状にした活物質を塗り込んで極板にしたもの。正極板にも負極板にも採用されている。極板の反応面積を増やし、短時間で大電流放電させる用途の蓄電池を作ることが可能となる。
チュードル式
正極に使われる。厚さ10mmほどの鉛板に多数の縦溝を切ることで表面積を稼ぎ、表面を酸化させた極板。重量がかさむ。現在、日本では製造されていない。一部の海外製鉛蓄電池で現存。

構造上の区分[編集]

ベント形鉛蓄電池
電解液の入った電槽の中に極板群を挿入して構成される、鉛蓄電池発明当時から存在していた構造のもの。液式電池と呼ばれることもある。使用において、充電中に起こる電気分解反応や自然蒸発によって電解液中の水分が失われるため、適宜精製水を補給する必要がある。この補水作業を簡略化するため、触媒栓というものを蓄電池に取り付け、水の電気分解によって発生した酸素は逃がし、水素ガスのみを吸着させ、放電時に空気中の酸素を利用して水素を元の水に戻す機能を持たせることもある。電解液比重を測定することにより容量の状態などを把握することが出来るが、点検作業などにおいて保守が面倒であるという難点を持つ。自動車や小型飛行機に使用しているのはこのタイプである。
制御弁式鉛蓄電池
1980年代半ばより登場したもので、セパレータ(隔離板)には微細ガラスマットを用い、電解液をそのガラスマットに保持する方式をとった構造のもの。蓄電池内部では流動するフリーの電解液が存在せず、蓄電池を横置きしても電解液がこぼれることはないが、倒立状態での使用は不可。使用する鉛合金の関係で、ベント形より自己放電が少なく、その量はベント形の約5分の1程度である。陰極吸収式鉛蓄電池と称していたこともある。
ベント形とは異なり、充電中に水の電気分解反応が起こっても、水素ガスの発生を抑え、発生する酸素ガスも負極板表面での化学反応により元の水に還元して電解液中に戻す作用を起こしている。「陰極吸収式」と呼ばれたのはこのためで、水分が失われることがなく液量の点検や補水が不要である。
通常は蓄電池内部の気密を保つため、ふた部分に内蔵されたゴム弁(排気弁)は閉じた状態になっているが、充電器の故障などにより過大な充電電流が流れて蓄電池の内圧が上昇した時はゴム弁が開いて圧を逃がすようにしている。このほか、制御弁式鉛蓄電池は均等充電・電解液比重測定が不要であるなど、保守が極めて簡略化できるという特徴があるが、使用されている電解液の量が少なめであるため、周囲温度の影響を受けやすく、特に高い温度条件の下では極めて短寿命になることがある。用途としては無停電電源装置が主である。オートバイに使用される例も多く、液量の点検や補水が不要なためメンテナンスフリーバッテリーと呼ばれるが、近年ではドライバッテリーと呼ぶことも多い。

廃棄[編集]

鉛蓄電池は人体や環境に有害な鉛や硫酸を含んでおり、一般の廃棄物として捨てることができない。このため、電池工業会と各電池メーカーを中心に交換用のバッテリーを販売した店が廃棄する鉛蓄電池を下取りするリサイクル制度が整備されている。廃棄された鉛蓄電池は、大きく分けて鉛・プラスチック・硫酸に分けられるが、硫酸以外は資源として価値が高いために、業者間では有価物として取引されている。電解液の希硫酸は危険物で、廃棄する際などには炭酸水素ナトリウム(重曹)を始めとする中和剤を用いて適切な処理をしなければならない。

劣化現象[編集]

鉛蓄電池は放電し切ると、負極板表面に硫酸鉛の硬い結晶が生じるサルフェーション(白色硫酸鉛化)と呼ばれる現象が発生しやすくなる。サルフェーションによって負極で電極格子のすき間が埋まり、表面積が低下して起電力が低下する。硫酸鉛は電気を通さず抵抗となる上に、硬い結晶は溶解度が低く、一度析出すると充放電のサイクルに戻ることができない。サルフェーションが発生した鉛蓄電池は十分な充放電が行えなくなり、進行すると使用できなくなる。一方、正極板の二酸化鉛は使用していくにつれて徐々にはがれる脱落と呼ばれる現象が発生し、反応効率が低下する原因となる。鉛蓄電池の寿命は、こうした電極の劣化による容量低下によるものである。鉛蓄電池の機能回復をうたう添加剤や装置が市場に出回っているが科学的に検証されていない。充放電を繰り返す間に電極は脱落等の劣化は免れず、サルフェーションを除去しても単純に再生できるわけではない。

電解液の溶媒である水は、蒸発や充電時に水素と酸素に電気分解されることによって液量が減少する。液面が下がって電極と電解液の接触面積が減少すると起電力が低下するため、鉛蓄電池には液面高さを示す表示がされていて、下限に達した際には精製水を補充する必要がある。電解液が不足(液枯れ)状態では、充電中や衝撃等による火花(ショート)が発生し水素ガスに引火すると爆発事故となる。わずらわしい補水作業を簡単にするため、蓄電池メーカーはオプションで一括補水システムを用意しており、海外メーカーのなかには標準化しているメーカーもある。

鉛蓄電池メーカー[編集]

出典[編集]

  1. ^ a b c 梅尾良之著 ブルーバックス『新しい電池の科学』 講談社 2006年9月20日第1刷発行 ISBN 4062575302

関連項目[編集]