ブローオフバルブ

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ブローオフバルブ英語:Blowoff valve、BOVとも表記される)とは、過給器付き内燃機関における過給圧解放パーツの一種。ターボチャージャーで発生するサージング(バックタービンとも呼ばれる)を防ぎ、アクセルレスポンスの向上や、タービンブレードを保護する目的で装着される。

リサーキュレーションバルブ又は、コンプレッサーバイパスバルブや、ディバーターバルブと呼ばれることもある。また、日本国内では排出ガス規制の問題から大気解放ができないため、エアクリーナー~コンプレッサー間の吸気系に還流する構造となることから、ターボ用のブローオフバルブとスーパーチャージャー用のリリーフバルブ(後述)を纏めてサクションリターン(システム)という呼称も生まれ、増えてきている。

概要[編集]

ブローオフバルブは、ターボチャージャーを取り付けられたエンジンにおいて、スロットルバルブを開いた際や閉じられた際に、ターボチャージャーとスロットルバルブ間の余剰圧力を解放することを目的にしたパーツである。

自動車用エンジンのターボチャージャーにおけるサージングは、主にスロットルバルブを開いた状態から閉じた状態に移行する際に起こる現象である。ターボチャージャーを取り付けられたエンジンは多くの場合、ターボチャージャーのコンプレッサーの後ろにスロットルバルブが取り付けられているため、過給圧が掛かった状態で急にスロットルを閉じると、ターボチャージャーで圧縮された吸入空気はスロットルに遮られて行き場を失う。この際に圧縮された空気はターボチャージャーまで逆流し、回転しているコンプレッサーに逆回転方向の圧力を与える。これによりターボチャージャーの回転速度が急激に失われ(ヒュルルルルという独特の風切り音がターボから発生することで確認できる)過給圧も低下する。その結果、再加速時にスロットルレスポンスの悪化を招いたり、最悪の場合にはタービンブレードやタービンのメインシャフトの変形・破損といった事態を発生させる。

ブローオフバルブは、このバックタービンの圧力を逃がすことでサージングの発生を防止する装置であり、再加速時のアクセルレスポンスが向上する。また、副次的な効果としてサージングに起因するターボチャージャーの破損を防止できる。ウェイストゲートバルブの補助的な役割として、その車のターボシステムの想定を超えた過剰な高過給が掛かった際に、余剰圧力を逃がしてターボチャージャーを保護する効果もある。

メーカーにより純正装着されるリサーキュレーションバルブと呼ばれるタイプのブローオフバルブは、解放した吸入空気をエアフロメーターとターボチャージャーの間に再循環させるが、一般的に社外パーツとして販売されているブローオフバルブは、吸入空気を再循環させずに大気解放するものが多い。

前者の場合は、純粋にアクセルレスポンスの向上とタービン保護を目的に取り付けられるが、後者においては、ファンネルを排出口に装備し、圧力解放時の「シュパッ」「プシュッ」というサウンドを発生させることを主目的として取り付けられることが多い。

なお、車検上は吸入空気には排気再循環による排ガス成分が含まれているため、大気解放は認められておらず、インテークパイプへ再循環させることが義務付けられている。さらに、大気解放することによりエアフローメーターで計測した空気量とエンジンが吸入する空気量とにズレが発生してしまい、燃料供給制御に支障をきたす場合がある(詳細は後述する)。

動作原理[編集]

スロットルバルブが開いた状態。ブローオフバルブは閉じている。
スロットルバルブを閉じるとブローオフバルブが開き、余剰過給圧を解放する。

ブローオフバルブ内にはダイヤフラムとスプリングで加圧されたバルブが内蔵されており、バキュームホースによってインテークマニホールドに接続される。スロットルが閉じられると、ターボチャージャーで圧縮された吸入空気はインテークパイプ内で行き場を失い、ブローオフバルブを押し上げて大気中へ解放されるか、ターボチャージャー上流側のインテークパイプ内に再循環される。 スロットルを閉じた際にはインテークマニホールド内に強い負圧が発生するため、ブローオフバルブのダイヤフラムが作動し、より円滑に過給圧の解放を行うようになっている。

また、ブローオフバルブはそのエンジンで設定された最大過給圧より高い圧力が掛かった際に作動するように設定されている。予め設定された最大過給圧に達しても、ウェイストゲートバルブの故障などで過給圧を調整出来ない事態が発生した場合、ブローオフバルブから異常過給圧が逃げることで、それ以上過給圧が上がり続けないようにする役割も果たしている。この理論を応用したものが後述のポップオフバルブである。

ブローオフバルブ取付による弊害[編集]

エアフロメーターを装備している燃料噴射装置では、ブローオフバルブからの大気解放はエンジンコントロールユニット(ECU)の吸気量計算に悪影響を与える。ECUはエアフロメーターで計算された吸入空気量に従って燃料噴射量を決定するが、多くの場合ブローオフバルブによって余剰圧力が大気解放されることによる吸入空気量の減少は考慮されていない。(純正装着されているものは、通常は吸入空気を再循環させるように配管されているためである)

これによる吸入空気量と燃料噴射量のアンマッチは通常走行においては余り問題にはならないが、場合によっては多すぎる燃料噴射によってスパークプラグがカブり症状を起こし、エンジン回転の息継ぎやエンストなどの症状を招く場合がある。これはより高い過給圧で大気解放が行われた場合に顕著となる。最悪の場合には空燃比の異常悪化により触媒が破壊される恐れもある。

この問題を解決するには、最大過給圧を必要以上に高く設定しすぎないことや、エアフロメーターとターボチャージャー間のインテークパイプに吸入空気を再循環させる加工を施すこと、或いは社外パーツのサブコンピュータやECU書き換えなどでブローオフバルブによる圧力解放分を考慮した燃調マッピングを施すことなどが挙げられる。

また、ブローオフバルブの解放圧力を調整できる製品においては、そのエンジンで設定している最大過給圧を考慮しない調整を行うと、最大過給圧に達する前にブローオフバルブから過給圧が抜けてしまい、十分な過給圧が得られなくなることもある。

モータースポーツにおいては、市販車両程スロットルの急激な開閉を行わない競技(ドラッグレースなど)の場合、ブローオフバルブを取り去って圧抜けの要因を無くす改造なども行われる。

ポップオフバルブ[編集]

1980年代末のF11995年までのインディカー2008年までのチャンプカー(CART , CCWS)では、ブローオフバルブの過剰圧力解放機能に類似した機能のみを持つポップオフバルブ(PopOff-Valve/POV)と呼ばれる機構が採用されていた。

これは多い場合には4barを超える過給圧で1,500PS以上を発揮していた当時のターボエンジンの出力抑制及び、チーム(エンジン製造メーカー)間の技術・資金格差を是正するために導入されたもので、サージタンクに取り付けられたPOVは吸気管内に規定圧力以上の過給圧が掛かると、強制的に過給圧を大気放出してしまう。POVはバックタービンを抑える機能は無かったため、ブローオフバルブで例えるとダイヤフラムのバキュームホースを抜いた状態でブローオフバルブを付けていることに相当する。

F1の場合には1987年から導入され、同年の作動圧力は4.0bar、翌1988年には2.5barとされてターボエンジンの過給圧を規制していたが、それでも1988年のF1世界選手権においてはマクラーレンホンダの全16戦中15勝という圧倒的な勝利を食い止める力にはならず、更に当時のPOVは製造誤差が著しく、規定作動圧力に達しても作動しないものや逆に規定圧よりも大幅に低い過給圧でも作動してしまうものがあったため、予選予備予選の際には各チームは前者のような作動をする当たり個体のPOVを探し回るのに躍起となる羽目になり、チームの間では最後まで不評であった。

F1では1988年を最後にターボエンジンが全面禁止されPOVも姿を消したが、2008年にカテゴリーが消滅するまでターボエンジンを使用していたチャンプカーでは、POVが最後まで採用され続けていた。チャンプカーでのPOVは往時に比べて製造誤差はかなり解消されていたが、それでも2001年のCART時代には当時のエンジン製造メーカーであるトヨタ、ホンダ、フォードの間でPOVを巡る係争が発生したこともあった。

スーパーチャージャーのリリーフバルブ[編集]

エンジンの回転によりベルト駆動される(狭義の)スーパーチャージャーの場合は、ウェイストゲートバルブもブローオフバルブも存在しない代わりに、リリーフバルブと呼ばれる過給圧開放弁がインテークマニホールド付近に装着され、システムの想定を超える過給圧が掛かった場合にはこのバルブが開放されて最大過給圧を一定に保つ様になっている。ブローオフバルブは主にフルブーストからスロットルを戻した際に作動するが、リリーフバルブは過給圧が一定以上になり次第開く為、フルスロットル状態でも作動する。

純正でスーパーチャージャーが取り付けられているエンジンの場合、多くはスロットルバルブの後にスーパーチャージャーが置かれる。その為、スロットルの閉鎖に伴う過給器への吹き返し自体が起こらず、リリーフバルブはPOVと同様に過剰圧力解放の機能のみを受け持つ事になる。但し、開放された余剰過給圧力はPOVのように大気開放されるのではなく、スーパーチャージャーへ返送され、最終的にはインテークポートに戻ってくる。

なお、自動車エンジン用過給器≒ターボチャージャー、という図式が長年にわたって成立している日本においては、これを「リリーフバルブ」と呼ぶことはあまり根付いておらず、ターボ同様「ブローオフバルブ」の名称が使用されるのが一般的である(インタークーラー(スーパーチャージャーにおいては本来「アフタークーラー」)と同様である)。アフターマーケットパーツでも、ターボ用のブローオフバルブをベースに仕様変更したものが主流を占めている。また、HKSTRUSTBLITZなどの大手ズープアップパーツメーカーでは、ブローオフ機能を持つシステムをサクションリターンという名称で一本化している。

ラムエアインテークにおけるブローオフバルブ[編集]

スーパースポーツなどの高性能オートバイには、高速走行時に走行風を効率的に取り込むラムエアインテークと呼ばれるインテークが用いられている。 ラムエアインテークは高速走行時において外気充填効果(厳密な意味での過給効果ではない)を発揮し、この時のエアクリーナーボックス内の圧力も高い状態になる。

このような状況下ではスロットル操作の仕方によってはエアクリーナーボックス内に不規則な吸気脈動を発生する場合があり、これはエンジン出力の過渡特性において不安定性を招きやすくスムーズなドライバビリティを損なう要素となる。これを防ぐ目的で車種によってはエアクリーナーボックスに余剰圧力を放出するためのブローオフバルブが取り付けられることがある。

ラムエアシステム用のブローオフバルブは構造上はポップオフバルブに近いものであり、エアクリーナーボックス内に一定の圧力を保つためにボックス外に余剰圧力を排出する。

関連項目[編集]