クラッチ

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自動車用乾式単板クラッチの模式図 : クラッチプレート(中央)はプレッシャープレート(右)のプレートスプリング(ダイヤフラムスプリング)に押さえつけられ、摩擦力により動力を伝達している。クラッチペダルの操作によりレリーズフォーク(クラッチレバー)の端部に荷重がかかり(黒色矢印)、レリーズベアリング(スラストベアリング)がプレートスプリングの中心付近を押すことでプレートスプリングによる圧着荷重が解放され、回転を遮断する。この図のレリーズフォークはプレートスプリングを原動機の方向に押す「プッシュ式」であるが、原動機から離す方向へプレートスプリングを引く「プル式」もある。

クラッチ: Clutch)は、2つの動力伝達軸の間で回転を伝達したり遮断したりする機械要素である[1]。機械的に噛み合う構造や摩擦力を利用した構造のほか、粘性や電磁力を用いる方式がある。

概要[編集]

クラッチは伝達元となる軸の回転させたまま、伝達先となる軸の回転を停止させる必要がある場合に用いられる。たとえば、電動モーターにより動作のきっかけを作り、定常運転中はモーターを動力として利用しない機械では、モーターが回転抵抗とならないようにクラッチを利用して回転を遮断する場合がある。また自動車などで原動機内燃機関を用いる場合、内燃機関は停車中も原動機の運転状態を維持し、発進時などに滑らかにトルクを伝達するために走行用のクラッチが利用される。あるいは1つの動力源から複数の要素を選択的に駆動する際にもクラッチが用いられて動力の伝達先が切り替えられる。

動力がまったく伝わっていない状態を「クラッチが切れている」と表現し、この状態にすることを「クラッチを切る」という。反対に、動力を完全に伝えている状態を「クラッチがつながっている」と表現し、この状態にすることを「クラッチをつなぐ」という。

種類[編集]

代表的なクラッチ
1.角型つめ
2.台形つめ
3.三角つめ
4.スパイラルつめ
5.のこ歯つめ
6.摩擦クラッチ(円盤)
7.摩擦クラッチ(円錐)
8.トルクリミッタ
9.ワンウェイ・クラッチ

クラッチの種類はトルクを伝達する機構や、切断と接続を切り替える方式により分類される。トルクの伝達には機械的な噛み合いや摩擦のほか、流体による伝達や磁力による伝達が利用される。断接機構には人力を油圧やリンク機構、コントロールケーブルを介して操作する方式や、ソレノイドや負圧アクチュエータにより動作する方式、クラッチ自身の回転で生じる遠心力を利用した方式がある。

噛み合いクラッチ[編集]

ドグクラッチとも呼ばれ、入力軸、出力軸それぞれに取り付けた互いに噛み合う爪を利用し、動力を伝達する形式のもの。摩擦で伝達するのではなく、噛み合いで動力を伝達するため、動力のスリップロスが許されない箇所に使用される。そのため、トルク伝達を制御する目的では使用されない。噛み合う歯形としては三角、角、台形がある。歯形によっては逆転運転ができないものもある。

噛み合いクラッチは「確動クラッチ」とも呼ばれ、噛み合う場所が決まっているので互いに静止しているか回転状態でも歯の位置が合わないと、正しい噛み合わせが行えないばかりか歯先を損傷する事もある。摩擦クラッチはどの位置でも合い、許容範囲ならば滑り回転が許される。摩擦クラッチには湿式と乾式がある。円錐形の摩擦クラッチは12 - 15度程度の外傾を持った円錐部が摩擦を生む。トルクリミッタとワンウェイ・クラッチは幾分、特殊なクラッチであり、トルクリミッタは規定以上の回転トルクが軸に掛かると回転が滑るようになっており、ワンウェイ・クラッチは定められた一方向の回転しか出力側に伝達せず、逆回転では空回りになる。ワンウェイ・クラッチの中でも代表的なものに「スプラグ・クラッチ」があり、スプラグ (Sprag) と呼ばれるいびつな形状の小片が多数、内蔵されており、片方向に回転する場合にのみ突っ張り合って回転力を伝える構造になっている[2][3]

代表的な例としてはトランスミッションや自動式デフロックの内部の伝達機構として用いられている他、スターメーアーチャー社が開発した自転車用の内装変速機にて用いられている。

  • 角型つめ
  • 台形つめ
  • 三角つめ
  • スパイラルつめ
  • のこ歯つめ

摩擦クラッチ[編集]

自動車用乾式クラッチディスク(クラッチプレート)の一例
(三菱4G63エンジン用)
摩擦材はメタル系。円周方向に6本のダンパースプリングが設けられた強化型クラッチである。
自動車用乾式クラッチカバーの一例
(三菱4G63エンジン用)

両者とも、入力軸と出力軸のそれぞれに接続された円板同士を接触させることで生じる摩擦力により、動力の伝達を行うクラッチである。湿式クラッチは、潤滑油により円板を潤滑するもので、耐摩耗性や冷却性に優れる。これに対して乾式クラッチは潤滑を行わないもので、湿式クラッチに比べると構造が単純で保守性が高く、動力の遮断性に優れる。オイルの抵抗を受けない乾式の方がクラッチの切れは良いが、オイルがダンパーの役割をする湿式の方が繋がる際のタッチが穏やかである[4]

湿式クラッチはオートバイや一部の中 - 大型クラスの農耕用トラクターで広く用いられているほか、自動車オートマチックトランスミッションにおける遊星歯車機構の切替にも用いられている。これらの多くは、小型化のため多数の入力側の円板と出力側の円板(フリクションディスク)を交互に重ねることで、接触面積を増大させた多板クラッチである。

乾式クラッチはマニュアルトランスミッションの自動車の大半に、1枚の出力円板を持つ単板のものが用いられているほか、スポーツカーの一部やレーシングカー、オートバイに多板のものが用いられている。エンジンをチューンしてパワーアップした乗用車では摩擦材をブレーキパッドと同じメタル系の材質に替えたシングルプレートクラッチのほか、ツインプレートやトリプルプレートといった多板クラッチに換装することがある。こうしたクラッチ板は一般的に「強化クラッチ」と呼ばれている[5]

オートバイのエンジンは一般的に横置きで、レイアウト上大径のクラッチが使えない代わりに軸方向のスペースに余裕があるので、枚数を増やした(一般に5~8枚)多板クラッチであり、クラッチを切った状態でもプレートとフリクションディスクが密着しているので、オイルで潤滑される湿式となっている。またエンジンとクラッチ、ミッションが一体式なので合理的である。

ドゥカティや一時期のレーサーレプリカなどでは乾式多板クラッチを採用している車種もある。構造的には湿式と同じであるが、エンジンオイルに浸っておらず、クラッチが切れた状態ではカラカラと特徴的な音がする。エンジンオイルの攪拌抵抗を受けず交換が容易など、レースの世界ではメリットがあるが、耐久性に難がありジャダーが出易く、コストも手間もかかるので一般的ではない。またBMW、モト・グッツィなどの縦置きエンジン車は、四輪と同じ構造の乾式単板である。

円錐クラッチ[編集]

円錐クラッチの模式図:
1. 円錐(コーン): 雌円錐 (female cone)(緑), 雄円錐 (male cone)(青)
2. インプットシャフト: スプラインが刻まれており、雄円錐が前後移動する。
3. 摩擦材 : 雄円錐側に設けられ、摩擦で動力を伝達する
4. リターンスプリング : クラッチペダルを離すと、雄円錐を雌円錐側に押し戻す。
5. クラッチコントロール : クラッチペダルを踏む事で動力伝達が切られる。
6. アウトプットシャフト : エンジン側の動力を円錐クラッチに伝達する

コーンクラッチとも呼ばれるこのクラッチは乾式摩擦クラッチの一種であるが、2つの円板が動力を伝達する乾式円板クラッチと異なり動力伝達に2つの円錐状(テーパー)のコーンを用いる。円錐クラッチはと同じ原理で食い込む動作によって同じサイズの円板クラッチよりも高いトルク伝達性能を持つ。戦前以前の自動車(フォード・モデルTなど)や戦車などの軍用車両のマニュアルトランスミッションで一般的であったが、クラッチ機構その物がフライホイールの役割を兼ねる関係上、クラッチ自体の重さ及び操作力が非常に重いことと、円板クラッチの摩擦材が改良されてトルク伝達特性が良くなったことから、現在では円錐クラッチは比較的低速回転の機器を除いては余り使用されなくなった。比較的身近な例として、マニュアルトランスミッションのシンクロメッシュ機構に小型の円錐クラッチが用いられている。

なお、一般的な内燃機関で敢えて円錐クラッチを用いる例としては、レースラリー或いはエンデューロ等の競技車両の中でも、乾式多板クラッチですらトルク伝達に不足が生じる程の極限の負荷が掛かると想定される車両で限定的に用いられる他、パワーボートでも円錐クラッチが用いられている。これらの乗り物のエンジンは極端に高出力な上に、クラッチ操作を伴わずに変速を行うことも多いため、円錐クラッチが用いられる。

流体クラッチ[編集]

70年代から80年代にかけての日本車において、3ペダルMTのクラッチ機構に流体クラッチを採用した車種が存在した。一つは1980年登場の4代目三菱・ギャランΣで、「フルードカップリング」としてガソリンターボ車とディーゼルターボ車に採用された。もう一つはマツダが2代目ルーチェ・ロータリーパークウェイ・ロータリー26等のロータリーエンジン車に「トルクグライド」として採用した。いずれも、通常の5速MTのパターンにATと同じく駐車用のPポジションが設けられている。三菱は主に大トルクを発生するエンジンにおいてクラッチの繋がりをスムーズにする目的で、マツダは低回転域のトルクが弱いロータリーエンジンのトルク増幅効果を狙い流体クラッチを採用したが、現在ではMTのクラッチ機構としてはほぼ廃れてしまった[6]

ワンウェイ・クラッチ[編集]

粉体クラッチ[編集]

わずかな隙間で対向させた1対の円板などの間に磁性体の粉を入れておき、磁力を作用させて回転を伝えるクラッチのことを電磁粉体クラッチと呼ぶ。このクラッチディスクは製造過程が特殊なため、使用される車は希少である。

遠心クラッチ[編集]

チェーンソーの遠心クラッチ。チェーンは遠心クラッチの外側に取り付けられたスプロケットにセットされる。

遠心クラッチとは、主として車や自動二輪において原動機の回転力を駆動力として伝達するために用いられており、原動機より伝達された回転力を摩擦抵抗の大きな物質(クラッチシュー)により、同軸上にある受け側の装置(クラッチアウター)に回転力を伝える装置である。

構造が簡単で、動力の伝達・遮断を原動機の回転数の増減という単純な操作で行うことができる。小型バイク(50cc程度)、エンジン式刈り払器、エンジン式ラジコンヘリ(ラジコンカー)等に採用されている。

行程としては、

  1. 原動機の回転数が上がる
  2. 原動機より伝達された回転力が遠心力となり、クラッチシューが原動機の回転数に応じて外周方向へ開き始める
  3. クラッチシューが開くにつれ、外周にある受け側の装置と徐々に接触してゆく(俗に半クラと呼ばれる状態にある)
  4. 完全に接触しきると、原動機側の動力が受け側の装置に最大限伝達される

また、原動機の回転数を下げて遠心力を弱くすることで内部に組み込まれているバネ(クラッチスプリング)によってクラッチシューが中心軸側に引き寄せられ、外周との接触部分がなくなると、動力の伝達は遮断される。

小型エンジンやスクーターなどの遠心クラッチは上記の制御のみで遠心クラッチの動作が行われているが、ホンダ・スーパーカブに代表されるマニュアルトランスミッションのオートバイの場合には、さらに下記のような制御が加わった自動遠心クラッチが用いられることが一般的である。

  1. 自動遠心クラッチの場合にはクラッチの構造自体は湿式多板クラッチと同様である。
  2. 原動機がアイドリング状態の時にはクラッチスプリングが湿式多板クラッチを押し広げ、伝達が遮断される。
  3. 湿式多板クラッチの外側には、クランクシャフトと共に回転するドライブプレートに取り付けられたクラッチウエイトが設けられている。
  4. 原動機の回転数が上がるとクラッチウエイトが遠心力で内側に倒れ込み、湿式多板クラッチを押し付けて動力が伝達する。
  5. 原動機の回転数が下がるとクラッチウエイトは垂直に起きあがり、伝達が遮断される。
  6. シフトチェンジの際には変速シャフトに連結されたクラッチカムがクラッチアウター全体を押し込み、強制的にクラッチを切る。
  7. シフトペダルを踏み続けると、いくら回転が上がっても倒れたクラッチウエイトが湿式多板クラッチに接触できなくなるため、伝達が遮断し続けられる。
  8. シフトペダルを少しずつ戻すことで徐々にクラッチカムが戻っていき、半クラッチ状態を起こす事が出来る。

自動遠心クラッチの伝達機構自体はクラッチスプリングの強さとクラッチウエイトの数のみで制御され、原則として部品組み替え以外に微調整は不可能[7]であるが、唯一クラッチカムの動作タイミングのみはアジャストスクリューで調整可能であることが一般的である。この調整が不十分の場合、シフトペダルを踏んでもクラッチが切れず、逆にペダルを戻しても半クラッチ状態のままになってしまったりするため、注意が必要である。

自動車においては、オートクラッチと呼ばれる形式の手動変速システムにおいて、サーブ・オートモービルen:Saxomatの商標でこの形式のクラッチを採用した事[8]が知られている。

電磁クラッチ[編集]

動力の断続を、電磁石への電力の断続をもって行う機構である。

機構そのものをプーリーに内蔵できるため、サイズを小型化できるメリットがあり、「常時動力伝達の必要のない製品」に多く用いられる。身近な例ではカーエアコンの動力伝達に採用されている(多くの採用例はコンプレッサなどの圧縮装置である)。また、スーパーチャージャーを装備するエンジンの多くで電磁クラッチが採用され、高回転域に置けるスーパーチャージャーの駆動ロスを低減してスムーズな回転フィールを生み出すことに貢献している。

電磁クラッチは動力の伝達率(自動車で云う半クラッチ領域)を、電流の強さでほぼ無段階に調整できる強みがあり、CVT(無段階変速機)との組み合わせでトルクコンバータの代わりとして用いられる例もある。高度電子化の著しい現代の自動車に於いて、電気で直接制御できる電磁クラッチの強みを生かした例といえた。

マニュアルトランスミッションではオートクラッチの名称で、昭和39年スバル・360に初めて採用された[9]オートマチックトランスミッションではスバルECVT (Electro Continuously Variable Transmission) に採用。

オートクラッチはシフトノブの操作とクラッチ断続の電子制御を連動させる事で、クラッチペダルを装備しない操作体系である2ペダル式MTを実現、まだオートマチックトランスミッションが普及の途上にあった昭和40年代初頭においては、女性や足に負傷や障害を持つ者であっても運転が容易な形式として、一定の需要を喚起する事となった。しかし、オートクラッチはオートマチックトランスミッションの技術の進歩、特にトルクコンバーターの効率向上と量産による製品価格の低廉化などが原因で、オートマチックトランスミッションに取って代わられる事となった。

後にスバルはこの技術を応用してECVTの動力伝達機構として再起を図ったが、ECVTが採用された当時の技術では、通常のMT車で使うテクニックである半クラッチの制御が不十分であり、低速走行においてはギクシャク感が目立ち、また上り道でブレーキを使わずにアクセルだけで停止したり、(特にスバル・サンバーにおいては)荷物の過積載で走行したりするなど、通常のAT車ではさほど問題とならないような運用であっても電磁クラッチにとっては大きな負担となり、電磁クラッチ部分の故障が頻発。通常の乾板クラッチと比較して部品代が高価であることもネックとなり、ECVTのイメージ悪化の一因となった。この点を反省点として、サンバー・ヴィヴィオのマイナーチェンジでは、一部グレードを除いて通常のATミッションに変更され、プレオ以降は、CVTミッションを全機種採用としながらもロックアップ付トルクコンバータを使用する方式に変更され (i-CVT)、電磁クラッチは今日では自動車のエンジン動力伝達機構としては用いられなくなっている。

自動車等の走行クラッチ[編集]

自動車運転席のペダル。左からクラッチペダルブレーキペダルアクセルペダル

自動車をはじめ、陸上を走行する乗り物や作業機械には原動機の動力を駆動輪に伝達する過程にクラッチを介している場合が多い。

マニュアルトランスミッションを搭載した自動車や農業機械では多くの場合、運転席に備えられた足踏み式のクラッチペダルで操作される。また、ほとんどの場合には運転者から見て左端に配置されており、左足で操作を行う。ペダルを完全に踏み込んだ状態でクラッチが切れ、放した状態でクラッチが繋がる。踏み加減を中間の状態にすると「半クラッチ」と呼ばれる、滑りながら動力を伝達する状態となる。発進するときやギアチェンジするときに、急にクラッチを繋ぐとエンストを起こたり車体挙動が不安定になったりするため、半クラッチを利用することで滑らかにトルクの伝達を行うことができる。

トルクコンバータを搭載したATではトルクコンバータ流体クラッチとしての機能を併せ持っているため、MTのようなクラッチ自体が存在しない。ほかのATでは自動的にクラッチの操作が行われている。

自動クラッチ[編集]

オートマチックトランスミッションが普及する1960年代より以前には、マニュアルトランスミッションのシフト操作と連動してクラッチを自動的に動作させ、クラッチペダルを廃して2ペダル式とした車種が存在し、日本ではオートクラッチと呼ばれた。オートマチックトランスミッションの普及と共に一時は廃れたが、デュアルクラッチトランスミッションの実用化などにより、再び自動クラッチを採用する車種が増えている。

オートバイ[編集]

一部の車両を除き、動力の接続は油圧またはワイヤーを介して左手レバーで操作する。ほとんどの車種はリターンスプリングが組み込まれた湿式もしくは乾式多板クラッチが用いられる。左手レバーを握るとクラッチが切れ、レバーの操作を途中で止めることで半クラッチ状態にできる。

創成期には四輪の自動車と同様に、手動レバーによる変速(ハンドシフト)と足踏み式クラッチの組み合わせが一般的だった。足踏み式クラッチの場合、操作方法の違いによりロッカークラッチ (: Rocker Clutch) とノンロッカークラッチ (: Non-Rocker Clutch) に区別される。いずれもレリーズシャフトを軸に揺動するペダル付きのレバーであるが、ロッカークラッチは軸の前後にペダルがありいずれか一方を踏んでクラッチを切り、もう一方を踏んでクラッチを繋ぐ。メーカーによって操作方法が異なり、たとえばハーレー・ダビッドソンの場合、後ろのペダルを踏むとクラッチが切れ、足を離してもクラッチはつながらず、前を踏むことでクラッチが繋がる[10]。ノンロッカークラッチは軸の前か後ろの一方にのみペダルがあり、踏み込むとクラッチが切れ、足を離すとリターンスプリングの作用によりクラッチが繋がる。ハンドシフトと足踏み式クラッチの組み合わせはスーサイド・クラッチ自殺クラッチ、en:Suicide_clutch)とも呼ばれる。

クラッチのメンテナンス[編集]

海外で販売される純正互換部品のクラッチキットに付属する事が多い樹脂製のパイロットシャフトガイドツール。クラッチカバーの装着の際に、クラッチプレートの芯出しのためにこのような特殊工具が必要となるが、丸棒に粘着テープを巻いただけの簡易工具でも代用が可能である。
フォードV6エンジンを後方から見たところ。クラッチカバーがフライホイールに取り付けられている様子が良く分かる。カバー内部にクラッチプレートを入れておき、上記のツールで芯出しを行ってからトランスミッションをクラッチプレートのスプラインに差し込むようにしてエンジンと結合する。

クラッチは経年使用により摩擦材が摩耗し、最終的には滑り症状が発生して動力の伝達が不可能となるために、定期的に交換するか、滑りの症状が見られ始めたら直ちに交換することが必要である。

一般的な乾式単板クラッチの場合、「加速の際にスピードが上がらず、エンジン回転数のみが上昇する現象が度々起こり始める」ことが滑りの初期症状である。オートマチックトランスミッションなどの湿式多板クラッチの場合はこの滑り症状がある日突然現れ、一気に症状が悪化する[11]ことが特徴的である。

仮にこの状態を放置した場合、摩擦板が完全に失われたクラッチプレートの金属部分がフライホイールやクラッチカバーのプレッシャープレートを切削してしまうため、最悪の場合フライホイールも使用不能となってしまう場合もある。

滑り症状の原因として、クラッチ板自体の極端な摩耗の他にクラッチ機構の調整不良も原因として挙げられる。現在の油圧式クラッチの多くはクラッチの遊びを自動調整するため、滑り症状の発生は摩擦材の寿命とほぼイコールであるが、比較的設計が古い車両に見られるワイヤー式クラッチの場合は、クラッチの遊びが手動で調整できるためにまずこの機構を用いて遊び調整を行ってみるのも良い方法である。

逆に、クラッチの遊びの設定が極端に少ない場合、クラッチの切れ不良と呼ばれる現象が発生する。クラッチペダルを踏み込んでも完全に動力が断絶されないために、かつてのノンシンクロミッションでは走行中の変速が非常に難しくなるトラブルとなって判明する場合が多かった。現在のフルシンクロトランスミッションではある程度の切れ不良でもシンクロ機構が同調を行うために変速その物は可能な場合が多いのだが、放置すればシンクロ機構に余計なダメージを与えることになる。現在の車両においてこの症状を判別する最も簡単な方法は、1速で少しだけ前進した後にクラッチを踏み、後退ギヤに変速してみることである。極端なギヤ鳴りを起こして後退ギヤにシフトレバーが入らないような場合にはクラッチ切れ不良を疑うべきである。

なお、クラッチ切れ不良はワイヤー式クラッチの場合はワイヤーの遊び調整機構の微調整で解決出来るが、油圧式の場合はクラッチカバーその物の不良による自動調整機構の作動不良が原因のため、この症状が現れた場合には原則としてクラッチカバーの交換が必要になる。

クラッチの不具合の中ではやや特殊な事例ではあるが、クラッチプレートのダンパースプリングが破断することで半クラッチ操作での衝撃が極端に大きくなったり、破断したスプリングの一部がクラッチプレートとフライホイール、或いはクラッチカバーの間に挟まり、クラッチが切れなくなるトラブルが稀に発生する場合がある。これは半クラッチを余り行わずに一気にクラッチを繋ぐ操作を多用することで発生しやすい。この場合も、摩擦材の多寡にかかわらずクラッチプレートの交換が必要となる。

原則としてクラッチ交換の際にはクラッチプレート、クラッチカバー、レリーズベアリング、パイロットベアリング(装備されていない車両もある)の4点交換が推奨されるため、市販のクラッチ交換部品の中にはプレート、カバー、ベアリングの3点ないし4点セット(海外のキットの場合は更にパイロットシャフトガイドツールも付属することが多い)として一括販売される場合も多い。旧車などでクラッチキットが純正、社外互換共に手に入らない事例の場合はやむをえずクラッチカバーを再使用[12]し、クラッチプレートは摩擦材の張り替えで対処する場合もある。

なお、1990年代以前に製造されたクラッチプレートの摩擦材には石綿(アスベスト)を使用したものも多いため、製造時期が不明なクラッチプレートを使用している車体や、1990年代以前に製造された旧車でクラッチプレートの交換履歴が不明な場合には、クラッチの分解整備の際にクラッチの粉塵を絶対に飛散させないように注意する必要がある。

脚注[編集]

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  1. ^ 大西1997 pp9-19
  2. ^ Technology Introduction - EPILOGICS
  3. ^ 岡村大著、『機械設計』、日刊工業新聞社、2010年9月30日初版第1刷発行、ISBN 9784526065354
  4. ^ なお、乾式においてもクラッチを繋いだ際のタッチを穏やかにするために、クラッチ板円周方向に複数のダンパースプリングを設けることが多い。比較的低出力な車両の場合はスプリングではなく、ゴムダンパーが用いられる事もある。
  5. ^ なお、こうした強化クラッチではクラッチ接続時のロスを極限まで減らすことや、クラッチ板自体の重量を軽量化する目的で一般的な単板クラッチで設けられているダンパースプリングを省略する場合がある。
  6. ^ マツダの「トルクグライド」はロータリーエンジン特有のトルク変動で発生するクラッチディスクのヂャダーの回避と低速域での車体振動を防止するため、MT車のみにエンジンオイルを流体として13B型エンジンに一時期採用された。
  7. ^ アイドリング状態から回転を上げてもクラッチが滑り続ける場合には、原則としてクラッチプレートの交換が必要である。
  8. ^ Saab Gearbox: new & used Monster car gearboxes 99, 900 models.
  9. ^ オートクラッチ
  10. ^ ハーレーのクラッチ&シフト(ハンドシフトの仕組み)
  11. ^ ATの場合は前進も後退も全く不可能となる。
  12. ^ 場合によってはプレッシャープレートを修正研磨するか、新規にプレッシャープレートを製作して分解交換する

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]