イグニッションコイル

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ボッシュ製の普通型(丸型)イグニッションコイル
サーブ・92のデュアルイグニッションコイル。上記写真と同じボッシュ製コイルが2個配置されている(画像上部)。

イグニッションコイル(: Ignition coil)は火花点火内燃機関点火プラグ放電するための高電圧を作り出す変圧器である。日本語では点火コイルと呼ばれるほか、英語ではスパークコイル(: spark coil)と呼ばれることもある。

なお、ディーゼルエンジン燃料の自然着火で運転が継続できるため、冷間始動時の予熱に用いるグロープラグ(またはインテークヒーター)以外、点火に関する電装品は不要である。

概要[編集]

イグニッションコイルの概念図。内側の黒いコイル(一次コイル)の供給電圧が高速で断続される事で、外側の白いコイル(二次コイル)に高電圧が励起される。この概念図の場合、二次コイルの片側の端子にプラグコードが接続され、もう片側の端子は一次コイルに接続される回路となっている。

イグニッションコイルは点火プラグ放電に必要な15,000 - 35,000Vの電圧を、12Vもしくは6Vのバッテリー電圧やマグネトーで発生させた電圧から得る、一種の変圧器ないし誘導コイルである。

イグニッションコイルの内部には、一つの鉄芯(コア)に巻数の異なる二つのコイルが巻かれており、巻数の少ないコイルが一次コイルソレノイド)と呼ばれ、巻数の多いコイルが二次コイル高電圧コイル)と呼ばれる。一次コイルにはバッテリーなどから電力が供給される+極と、ボディなどにアースされる−極が存在し、このいずれかの端子にコンタクトブレーカーなどのスイッチ機構が接続される。このスイッチが高速で断続する事で一次コイル上の磁束の方向が変化し、一次コイル上に起電力が発生(電磁誘導の自己誘導作用)する。この際、一次コイルとコアを共有する二次コイルにも相互誘導作用により起電力が発生し、この高電圧を点火プラグで放電させるのである[1]

二次コイルの片側の配線には、点火プラグやディストリビューターへ高電圧を供給するプラグコードを接続する為のターミナルが設けられるが、もう片側の配線はイグニッションコイルの構造により、イグニッションコイル内部で一次コイルへ接続される場合や、イグニッションコイル外殻やアース端子を通じてアースされて一次コイルとは絶縁される場合などがある。並列4気筒オートバイなどで、排気・圧縮上死点の別なく2つの気筒に同時点火を行うような構成では、二次コイルの両端に点火プラグが接続される場合もあり[2]、この場合二次コイル自体にアースの概念が存在しなくなる。

イグニッションコイルはトランスインダクタと同様に、コイルから発生する磁力線が機器の内部に閉じこめられる構造である閉磁路タイプと、磁力線を閉鎖する対策が特に行われていない開磁路タイプが存在する。

磁力線を閉鎖するにはコイルの周囲にエポキシ樹脂や絶縁油などを満たし、ケースも金属製として磁力線を封じ込める材質とする必要などがあり、比較的旧式の自動車などで用いられた、俗に「普通型」や「丸型」と呼ばれる直線形状のコアを持つ円筒形のイグニッションコイル[3]では、強力な起電性能と閉磁性を両立させる為にはイグニッションコイルそのものが大きく重い構造になりがちであった。しかし、後に登場した円形や四角形などのループ形状のコアを持つイグニッションコイルでは、磁力線がコア内部をループする為に、特別な遮蔽対策を行わなくても閉磁路タイプの特性を得る事が出来るようになった[4]

イグニッションコイルの放電圧は電磁誘導の法則によって導き出す事が出来る[5]。閉磁路と開磁路にはそれぞれのコイルとしての特性にも違いがあるが[6]、イグニッションコイルに限定した話では同一性能でもより小型軽量化が行いやすい為に、閉磁路タイプが主流である。今日のループコアを持つ閉磁路タイプのイグニッションコイルは以前の直線コアを持つ普通型イグニッションコイルに比較して、コイル中心だけでなくコイル周囲にも鉄芯があるためコイルを貫く磁束密度が向上し、同一性能でもよりコイルの巻き数を減らせる為に、小型軽量化が図られている。

かつては、1個のイグニッションコイルから得られた電気を、ディストリビューターによって各気筒に分配する方法がとられていたが、最近の乗用車は各点火プラグに1個ずつイグニッションコイルが与えられたダイレクトイグニッションが主流である。

自動車でのイグニッションコイル[編集]

古い自動車では、1個のイグニッションコイルがディストリビューターを通じて全ての点火プラグに点火電圧を供給している。ただしサーブ・92のように1気筒に1個ずつのイグニッションコイルを持つものもある。

また、オートバイでは原則的にディストリビューターを持たないため、1気筒に1個のイグニッションコイルを持つものが多い。日本車に多い並列4気筒エンジンの場合、2気筒ずつ同時点火を行う形式が多いため、2気筒につき1個のイグニッションコイルを持っている。

かつては一次コイルの断続をコンタクトブレーカーで行うコンタクトポイント方式が主流であったが、接点が摩耗して性能低下をおこしやすく、定期的なメンテナンスも必要であった事から、オートバイではキャパシタの蓄電作用により断続を行うCDI方式、自動車ではトランジスタを主体とする電子回路が断続制御を行うイグナイター方式へと分化した。イグナイター方式はコンタクトブレーカーを模した形状の電気スイッチにより断続を行うセミ・トランジスタ式を経て、光センサーの信号により断続制御を行うフル・トランジスタ式(無接点式)へと移行していった。しかし、いずれの形式であってもディストリビューターキャップやプラグコードでの電力ロスの問題が依然として残されたままであった[7]

近代的なイグニッションシステム[編集]

現代の進化した点火システムでは、電力ロスの原因であるディストリビューターは省略され、点火時期はカム角センサーなどにより電子的に検出・制御されている。

始めに、オートバイの点火装置に似た小型のプラグコード付きイグニッションコイルが各気筒独立、または2気筒ずつ同時点火を行うディストリビューター・レス・イグニッション(DLI)が登場、後にプラグキャップの先端に直接イグニッションコイルを配置しプラグコードをも廃止したダイレクトイグニッションが登場した。こうした点火装置のイグニッションコイルはかつてのコイルよりも大幅に小型化されており、2気筒につき1個もしくは1気筒につき1個のコイルが直接点火プラグに接続されている。大きなエンジンのイグニッションコイルは約20kV、草刈機などの小型エンジンのコイルは約15kVの電圧を発生する。

旧車向けのアフターマーケットパーツでも、ディストリビューターを廃止して2気筒ずつ同時点火を行うイグニッションコイルと、専用のイグナイターやCDIが用意されている場合がある。なお、並列4気筒のオートバイなどに代表される、1個のコイルが2気筒を担当するDLIはen:wasted sparkシステムと呼ばれることもある。これは、4ストロークエンジンの場合圧縮上死点及び、排気上死点でも点火を行うためにこのような呼び名が付けられている。排気上死点での点火は、エンジンの回転にとっては完全に無駄な点火であり、点火プラグの寿命を縮める原因でもあるのだが、それでもディストリビューターを用いた点火システムよりも遙かにシンプルで信頼性が高いので、現在でも小排気量のオートバイエンジンではこのような点火サイクルの点火装置を用いることが多い。[注釈 1]

これらの複数のコイルが纏めて配置された部品を、「コイルパック」と呼ぶことがある。

良否点検[編集]

イグニッションコイルの良否点検は、主にサーキットテスタにて各コイルに繋がる端子間の導通やコイル抵抗値、絶縁箇所間の絶縁抵抗測定により行われる[8]。具体的な点検手順及びテスタプローブの測定位置はイグニッションコイルの内部構造、特に1次及び2次コイルの内部接続の有無と接続箇所[注釈 2]によって変化する。

また、イグニッションコイルは同じ様な形状であっても、一次コイルへ電力を供給する装置の違いにより、マグネトー点火用[注釈 3]、バッテリー点火用[注釈 4]、CDI点火用[注釈 5]等に区分され、それぞれ一次コイルの巻き数や抵抗値も異なっている。同車種で同じ様な形状のイグニッションコイルであっても、異なる点火方式の点火装置に不適切なイグニッションコイルを接続した場合、供給電圧不足による点火不良や供給電圧過多によるイグニッションコイルの焼損、或いはコイル抵抗過小に伴い大電流が流れる事による車体ハーネスや点火装置本体の破損を招く危険性がある[9]

脚注[編集]

出典

  1. ^ イグニッションコイルの原理
  2. ^ [1]
  3. ^ 丸型イグニッションコイルの構造を理解する
  4. ^ サガミエレク株式会社 - コイルを使う人の為の話(第7回)
  5. ^ 電磁誘導とはなにか
  6. ^ [2]
  7. ^ 農業機械の簡単メンテナンス - 点火装置
  8. ^ メンテ[イグニッションコイル]
  9. ^ 点火系のトラブルシューティング

脚注

  1. ^ オートバイの場合、クランクシャフトにコンタクトブレーカーが接続されることが多いので、必然的に排気上死点でも点火が行われる仕様となる。例外はホンダ・CT110ホンダ・XL125Sのように、カムシャフト側にコンタクトブレーカーを持つ車両で、この様なエンジンの場合は圧縮上死点でしか点火が行われない。1回転当たりの点火回数は特に社外品のタコメーターを設置する際に回転数が正確に表示されるか否かを左右する重要な項目となるため、注意が必要である。
  2. ^ 1次コイルの+端子側か−端子かに分かれる。
  3. ^ エンジン回転数により供給電圧・電流の強弱が変化しやすい。
  4. ^ エンジン回転数に関わらず常に定電圧が供給される。
  5. ^ キャパシタの放電により短時間・低電流ながらも高い電圧が一挙に供給される。

関連項目[編集]