デュアルクラッチトランスミッション

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6速DCTのカットモデル。(フォルクスワーゲンのDCT)

デュアルクラッチトランスミッションDual Clutch Transmission)とは、自動車オートバイ用のトランスミッションの一種で、奇数段と偶数段とで2系統のクラッチを持つことを特徴とする。2003年に市販車に初採用されて以降、加速性能の高さから欧州車に採用が拡大している。略してDCTと表記される。DCT搭載車両は法規上AT車に分類される。

概要[編集]

基本的な構造はマニュアルトランスミッション(MT)を内部に二つ持つ。すなわちエンジン動力をクラッチを介して歯車の組み合わせに伝え、歯車比を変えて車軸に伝達する構造を二組持つ。クラッチと歯車を同軸上に2系統持つことからこの名前がある。

DCTではクラッチとギアが奇数段・偶数段の2系統に分かれており、2系統を交互に繋ぎ変えながら変速する。変速時には次のギアが待機状態(例えば2速走行時に1速または3速のギアの噛み合いが完了し待機している)にあり、変速指令でクラッチだけを繋ぎ変えるので、変速が早い。

クラッチ操作および変速操作はコンピュータ制御により自動的に行われるため、免許上はオートマチックトランスミッション(AT)の一種として扱われる

トルクコンバータやCVTより伝達効率が良いと期待されたが、発進や変速時にクラッチの滑りが多く、燃費に明確な効果は見られない。

おおむね手動変速機の感覚を好む欧州で評価が高い反面、トルクコンバータ+ステップATのスムーズな発進と変速を好む米国と日本で評価が低い。

日本では「DCT」や「デュアルクラッチ」のほか「ツインクラッチ」と称される。また「ダブルクラッチ」と呼ばれることもあるが、運転技法の「ダブルクラッチ」(中吹かしの際のクラッチペダルの操作方法)とは異なるので注意が必要。

メカニズム[編集]

デュアルクラッチ機構の概念図。左側が入力(エンジン側)、右側が出力(ホイール側)。Kurbelwelleはクランク軸(エンジン)、DoppelKupplungと示しされている部位が2重になっているクラッチ、Hohlwelleは中空の軸、Getriebeが変速器部、Getriebe-ausgang が出力。数字は変速器の段数を、斜線はその段のギアが噛みあう部分を表している。

クラッチとギアのセットを2系統持ち片方のギアセットが奇数段を、もう片方のギアセットが偶数段を担当する。例えば6速の場合は「1-3-5-R」段と、「2-4-6」段の2つの系統に別れている。 二組の入力側ドライブギア(駆動側歯車)とクラッチは同軸上に配置され、片方のみが動力を伝える。停止状態から走り出す場合、あらかじめ1速がコンピュータによって選択され、シンクロ動作を終え、奇数段軸に嵌合して待機している。ドライバーが発進のためアクセルを開けると、奇数段軸側のクラッチを半クラッチ状態を経て締結し、車軸に動力を伝え前進する。その間、もう一方の偶数段の2速ギアセットはシンクロ動作を終え、軸に嵌め合わされる。偶数段軸はエンジンと接続されていないので出力軸側から駆動され、カウンターシャフトと入力軸までが空回りをしながら待機している。車が2速で走行する領域に入った時、奇数段軸のクラッチを開放し偶数段軸のクラッチを接合することで短い時間で変速する。また2速への変速が完了すると同時に、奇数段ギアセットは次の変速に備えて3速のシンクロナイザの嵌合を終えて待機状態に入る。以後の変速も同様に行われる。つまり、2つの変速系統を専用クラッチで交互に切り替えて変速する。

運転状況によりギアを飛ばしてシフトアップやシフトダウンする機種もあるが、奇数段と偶数段を交互に使う関係上、自由にはできない。ほとんどの機種では一段ずつ上下する。また急減速時や飛び越しシフトダウン時はクラッチの回転数とエンジンの回転数を合わせるスロットル動作(ブリッピング)が自動的に行われる。

二つのクラッチを切り替える時間は0.05秒以下と短いが、実際にはエンジン回転数を合わせるために最短でも0.2秒ほどクラッチを滑らせている。シフトアップ時はエンジンの惰性をパーシャルに駆動軸に伝えながら回転を落とし、完全に締結した後に燃料噴射を再開する。クラッチの負担は多いがエンジン惰性を有効利用して変速中の大部分も緩加速している。しかし急減速時のシフトダウンはギアの噛み合いは終わっているのにクラッチ部の回転合わせのためブリッピングが必要になり、時間短縮や燃費に効果はない。

ハイブリッドではないエンジンを回し続ける通常の車種において、変速時間が短いため、過給機を装着したエンジンでも変速時の過給圧低下が少なくターボラグを抑制できるメリットがある。

クラッチディスクは滑りを制御するために多板式となり、湿式多板と乾式多板がある。湿式多板クラッチは基本的に無交換で長寿命とされていたが、渋滞など走行条件によっては短時間で摩耗する場合がみられる。多くは摩耗によるストロークやクリアランスの増加は自動調整されるか、あるいは制御装置が再学習機能を持つ(日産・GT-Rは定期調整が指定されている)。湿式多板クラッチは大トルクに対応しながら滑りを制御しやすいため、大きな車種に用いられる。乾式多板クラッチは対応トルクと滑り時間が制限されるが、構造がシンプルで部品数や油量が湿式に比べ少ないためコストに優れる。また乾式の伝達効率は湿式に比べ高いため、省燃費性が求められる小型車種に向いている。 クラッチ操作は基本的に油圧を用い、油圧ポンプによって供給される。初期の油圧ポンプは機械式だったが、後に電動式油圧ポンプも使用されるようになった。その他クラッチ操作を電動機で行い油圧フリーとした(二輪車用)電動化DCTも開発されている。

2系統の独立したクラッチディスクの配置方法は大別すると以下の二種類となる。まず同心円状に内側と外側に配置する構造が特許になっている。特許を持つメーカーが組み立てメーカーにクラッチ機構を納入してDCTを生産する。外側のクラッチの回転モーメントだけが大きいので制御が難しい。 もうひとつは筒状の部品で一つ目のクラッチを外側から回避し、二つ目のクラッチ入力面を回転させ、同じ直径のクラッチを同軸線上に二組、並列に配置する方法(入力面だけなら直列に配置されるが、締結機能は並列)となる。同じ形状のクラッチを二組使えるので動作が安定する。ただし軸線方向の変速機外寸が長くなる。

例外的に入力直後に平行する2つのカウンターシャフトに振り分け、それぞれのカウンターシャフトの入力端にクラッチを設け、カウンターシャフトと出力軸の間で変速機を構成し、クラッチが同軸上に並ばない配置も考案されている。しかし外寸が大きくなるため自動車に使われない。

歯車は従来のMTと同じ構成のシンクロメッシュ機構を持つ常時噛合式で、シフトフォークを油圧アクチュエーターで作動させて変速する。またクラッチ操作と同様に電動機でシフトフォークを操作し油圧フリーとしたDCTも開発されている。DCTの変速機構は二倍に複雑なためシンクロメッシュ機構を入力軸とカウンターシャフトの双方に持つものが多い。

デュアルクラッチトランスミッションの利点と課題[編集]

DCTは構造的にも機能的にも完全に自動化されたAMTと言える。したがってMT的な有段変速機の感覚をダイレクトでリニアと言って好む人(多少の変速ショックと連続可変しない感覚を好む人)に評価が高い。加速時のシフトアップに利点があるが、減速時のシフトダウンに利点はない。 加速時のシフトアップの効率が良く、変速中も加速が完全には途切れない。従来のMTやAMTに比べれば変速ショックは少なく、それらの正常進化と考えられる。 加速性能が良く、自動変速でMTより燃費が良い。一例として、2012年9月に発表されたアウディ・S3(6速DCTと6速MTの2つがラインナップに用意されている)のデータでは、、停止から時速100kmまでの加速時間がMT車の5.4秒に対して、DCT車では5.1秒となっている。また、100km走行あたりの燃費は、MT車の7.0L(14.2km/L)に対して、DCT車では6.9L(14.4km/L)であり、さらに二酸化炭素排出量はMT車の162g/kmに対して、DCT車では159g/kmとなっており、運動性能、燃費性能、環境性能の全ての面でMTよりも優位となっている。

一方で減速時のシフトダウンにデュアルクラッチの利点は見られない。ゆっくりの減速時に早く切り替えてもエンジンブレーキがギクシャクと利くだけでなので、滑りクラッチをシフトアップ時よりも長く使い、ゆっくりとシフトダウンしている[1]

さらに急減速時の早いシフトダウンでは回転合わせのため下段のシンクロが嵌合しているにもかかわらずクラッチを開放したままブリッピングするので、デュアルクラッチは無駄になる。またブリッピングが無駄な空ぶかしになる欠点も有段変速に共通である。無段変速機のように常時、車速とエンジン回転数を調整しておくことはできない。

減速時にも断続的にシフトダウンが必要なのでオルタネータで回生する第三のエコカーでは回生が中断してCVTより不利。

出力軸側にある電動機で駆動と回生を行うハイブリッドの場合、エンジンブレーキの引きずりがあるので不利、あるいはクラッチを離して回生を優先すると再加速時に大きな飛越しシフトダウンのためブリッピングが必要、またはエンジン再始動を含むタイムラグが大きい

MTと似た構造を持つため、伝達効率はMTに近いが、アクチュエーターの作動用油圧ポンプによる駆動ロスなどでMTより3%程劣る。 DCTがMTよりも燃費が良いのは自動変速の最適化の分である。一方でCVTの伝達効率はDCTより低いがエンジンを含めた連続可変制御の最適化で総合効率はDCTより高い。またステップATは中間的な伝達効率だが、二組の遊星歯車機構の組み合わせを変えるだけで多段化が容易で、かつロックアップ領域を増やす改良が進んでいる[2]。 このように他方式の改良も進んだ結果、急加速を多用するスポーツ走行にはDCTの特性が適し、効率も高いが、滑らかに走るときにはCVTやステップATの効率を上回ることはない。特にCVTの伝達効率は急速に改善され、2012年の伝達効率はステップATに追いつき、日本のカタログ燃費ではCVTが絶えず優位に立っている[3]

DCTは変速中だけ滑りを生じる摩擦伝達を用いる。CVTは常に滑りを生じない摩擦伝達で無段変速する。この特徴の違いから、DCTはCVTより大型化できる。DCTは大型トラック、バスに応用済みである。ただしトルクコンバータ+ステップATはより大型化に適している。

利点[編集]

  • 変速のタイムラグは滑り時間を除けば極めて小さい
  • シフトアップ時は滑りクラッチの働きを含めて効率的、変速中も緩加速は続き、シフトショックも少ない
  • 加速時のシフトアップが短時間でダイレクト感が強いため、スポーツ走行のタイムアップにつながる
  • クラッチが完全に締結されている状態での伝達効率は良い
  • ターボなどの過給機付きエンジンの場合、変速が短時間で終了するために過給圧の低下が少なくターボラグが減少する(「エンジンのダウンサイジング」の潮流にマッチしている)
  • 変速操作が自動化され、AT限定免許での運転が可能
  • 構成要素の多くがMTの既存部品と同じで、信頼性が期待でき、生産ラインを流用できる
  • 高出力の大型車にも使える
  • クラッチ操作が自動制御されるので、クラッチの長寿命が期待できる

欠点[編集]

  • 滑りクラッチとシフトフォークの操作に油圧ポンプのエネルギーロスを伴う
  • エンジン回転数と合わせるためクラッチを滑らせる時間が長く摩擦損失を生む
  • クラッチ、フライホイール、ねじりダンパ、変速機構が重複し、大きく重くなる
  • シフトダウンにデュアルクラッチは無意味、無駄になる
  • 基本的に自動変速するMTのため、ATを期待するユーザーによっては僅かな変速ショックが問題とされる(MT愛好者のようにダイレクトで良いと評価されない)
  • トルクコンバータ式ほど発進がスムーズではなく、クラッチフェース摩耗や発熱からストロークが変わりショックやジャダー、作動音が出る場合がある。
  • 所詮、有段変速機であり、連続可変の利点はない、CVTの総合効率に達していない
    • 急減速時のシフトダウンにブリッピングが必要となり無駄な空ぶかしとなる
    • 減速時にも断続的にシフトダウンが必要なためオルタネータで回生するエコカーではCVTより回生が中断して不利
    • 出力軸側のハイブリッド用電動機で回生を優先すると大きな飛越しシフトダウンのためブリッピングが必要、または再加速時にタイムラグが大きい
  • クラッチの構造が特許で押さえられているために基幹部品は一社独占であり、製造コストが割高になる
  • ステップATやCVTの効率改善も著しく、DCTの効率上の優位性は観測されない

歴史[編集]

元々はレーシングカーにおいて、変速時の駆動力断続ロスを極力なくしてラップタイムを向上させる手段として1980年代にポルシェがレーシングカーポルシェ・962)での採用(ポルシェ・ドッペルクップルンク:Porsche Doppelkupplung、通称:PDK)を試みたが当時の技術ではまだ電子制御スロットルなどが確立されておらず、変速時のショック過大などにより大きな成果を上げることなく実用化は断念された。

その後、ボルグワーナーが開発を続け2003年にフォルクスワーゲンによりDSG(Direct-Shift Gearbox)として市販車(4代目ゴルフR32)に搭載された。それ以降はほかのメーカーからもDCTが採用車が発売、DCT自体も他社によっても開発され採用する車種は増大傾向にある。

DCT搭載車種[編集]

鉄道車両[編集]

北海道旅客鉄道(JR北海道)キハ160形気動車直噴式ディーゼルエンジンとトルコン式ATの組み合わせで落成したが、その後モーターアシスト方式によるハイブリッドシステムの試験のためコモンレール式ディーゼルエンジンと日立ニコトランスミッション製のデュアルクラッチ式4速自動変速機に換装された。

発電機兼用のアシストモーターは変速機の外に架装されており、クラッチを介して2速ギアに繋がれ、運転条件によって断続される[8]。併せてエンジンと2本のギアシャフトの間にある2つのクラッチと変速機とプロペラシャフトの間にある逆転機のクラッチも制御され、間の基本的なパターンはモーターのみで起動してそのまま加速、45km/h以上でエンジンを始動してモーターとの併用で走行、逆転機を中立にして惰行中にエンジンで発電、エンジンを停止して回生ブレーキによるエネルギー回収となっている。

脚注[編集]

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  1. ^ ツインクラッチは走りを革新する - 三菱自動車「Twin Clutch SST」(前編) (2) サーキットでのスポーツ走行が可能な耐久性 マイナビニュース
  2. ^ ステップAT、CVT、MT、DCTの重量比較メモ - クルマのミライ~ 山本晋也のブログ~(2013年05月05日版)。一方、VWでは2010年Q3からティグアンに搭載された7速DSGで、許容トルク量を増加させながら、リバースギアシャフトの省略など全体の見直しで、従来の6速型に比べ大幅な軽量化を果たし、競争力を確保しているVWティグアンがマイナーチェンジ 7速DSGを搭載 - Auto Prove(2010年09月11日版)。
  3. ^ 自動車の省燃費化を実現する新型無段変速機を開発 ジヤトコ株式会社最終ページ
  4. ^ BMW M3コンバーチブル、欧州で発売開始(2008年4月25日 カービュー
  5. ^ プジョーのSUV、4007…新トランスミッション採用(2009年9月11日 Response.掲載記事)
  6. ^ 2010年7月20日 環境性能・経済性能・走行性能を高いレベルで実現する小型トラック用「新型パワートレーン」を開発 ~新型エンジン「4P10」とBlueTec®システムを採用、商用車世界初デュアルクラッチ式トランスミッション「DUONIC」を新開発~2010年7月20日 三菱ふそうトラック・バス社プレスリリース)
  7. ^ 2010年6月29日 大型二輪スポーツツアラー「VFR1200F Dual Clutch Transmission」を新発売(2010年6月29日 本田技研工業プレスリリース)
  8. ^ 株式会社 日立ニコトランスミッション > HASTドライブの構造と動作モード

関連項目[編集]