パワーステアリング

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パワーステアリング: Power steering、略称パワステ)は、自動車において、運転者の操舵を補助する機構である。この機構により、運転者は軽い力で操舵することが出来る。現在販売されている自動車(社用車用の法人向けモデルや最廉価グレード以外)にはたいてい装備されている。装備されていない車を、対比的にノンパワまたは重ステ(おもステ)と呼ぶことがある。

方式[編集]

油圧式[編集]

エンジンの出力を利用してポンプを作動させることで油圧を取り出し、その力で操舵力を補助する方式。ラック&ピニオン式とボールネジ式に大別される。エンジン出力が小さい車では採用例が少なく、比較的大きな排気量を持つ車に搭載されるため、機構上、エンジン停止中は全く機能しない。また、車速を感知することによりアシスト力を制御するものもある。

ポンプはエンジンにより駆動されているため、走行中はエネルギーを無駄に使用することになる(エンジン出力の3%程度)。この問題点を解消するために近年では可変容量型ポンプの搭載が大型車をはじめ、ディーゼル車を中心に進んでいるがあまり普及していない。車庫入れや高速走行時の自動運転、反力制御による予防安全等の応用技術が困難なことからも、急速に電動式にとってかわられている。

油圧式を採用する利点に、自然な操舵フィーリングが挙げられ、高級車の中でもドライビングプレジャーを追求するものには油圧式を採用するものもある。

電動式[編集]

モーターなどを用いて電気由来の力で操舵を補助する方式。単に電動式といったときは、モーターの回転で直接に補助する方式を指すことが多いが、モーターの力で発生させた油圧で補助する電動油圧式と呼ばれる物もある。エンジン出力を直接に利用するわけではないので、燃費などの点で有利。当初はエンジン出力の小さい軽自動車や1500ccクラス以下の小型大衆車を中心に採用されてきたが、1997年京都議定書議定後省Co2の観点より注目されだし急拡大をしてきた。最近ではより大型の車種への採用も多い。

初期の電動式では、制御プログラムの不十分さなどから不自然な感触のものが多かったが、近年は燃費への影響を考慮して採用される例が増え研究が進んだこともあって、自然な操作感が得られるようになってきた。 油圧式に比べ制御が容易であるため、車庫入れをアシストする機能や自動カウンターステア、主に高速道路などでレーンを保持するための自動ステアリング操作を付加機能として付け加えることが可能になった。四輪操舵機構(4WS)と連動させる場合もある。

モーターによりアシストを行う場所の違いによってコラムアシスト型ピニオンアシスト型ラックアシスト型などの形式に大別される。コラムアシスト型では、大きな力は出すことができないが小型車に向いた構造である。ピニオンアシスト型はコラムアシスト型よりも比較的大きな力をアシストするのに向いている。ラックを直接アシストするラックアシスト型は大きな力をアシストすることができるため大型車に向いている。

従来は、トラックなどの超大型車ではモーターが大きくなりすぎて採用できないと考えられていたが、ブラシレスモーター、減速機の進歩や昇圧回路などの採用により適用車種を選ばないようになってきた。

1988年光洋精工(現ジェイテクト)にて軽自動車用として開発されスズキ三菱自動車の軽など日本のみ販売されたが、電磁クラッチにて操舵力が小さくなる高速走行時にマニュアルステアリングに戻すことと、低速走行で危険回避の急速操舵時のモーターの慣性感により違和感が目立ったが、その後改良され目立たなくなった。2年後の1990年には普通車にラックアシストのクラッチをもたない直接フル制御方式がホンダ車NSXにて実用化され全世界に販売された。以後普通車のラック式にはモータがブラシ付からブラシレスへの変遷があるもののこの方式が主流となり、コラム式の軽自動車からラック式の普通車まで、車格に応じて適した方式を採用し全世界に普及されている。

パワーステアリングフルード(PSF)[編集]

油圧式のパワーステアリングには、パワーステアリングフルードという液体が動作流体に使われている。PSオイルと称される場合もあるが、エンジンオイルとは使用箇所も機能も別であり、ステアリングギアボックス内での潤滑と、パワーステアリングポンプから発生する油圧の伝達を担う液体である。

長年の使用によりフルードの劣化が進んだ場合には、パワーロスによる操作性悪化やポンプからの油漏れが大きくなるという現象が起きる。 しかし、近年では油圧式パワーステアリングシステムの信頼性向上により、元々車両の取扱説明書で継ぎ足し以外のフルードの交換を100000Kmでの交換あるいは不要としている車種も多い。

一般の交換作業では、何らかの方法でパワーステアリングから抜いたフルードと同量の新品フルードを継ぎ足す事になるが、完全に抜くためには分解整備が必要となる場合もあるので注意が必要である。

PSFにはATFの使用を指定している車種と、専用のPSFを指定している車種が存在するが、純正指定以外のフルードを使用する場合、フルードの化学特性が異なるものがあるため、パワーステアリング内部にある樹脂部品(バルブやワッシャ)に不具合を生じさせることがあるので注意が必要である。何らかの理由で非純正であるアフターマーケット向けのフルードを利用する場合最低限全量交換すべきである。本来はパワーステアリングの試験評価に使用している純正のフルードを使用することが望ましい。

さらにパアーステアリングフルードとは別にファン、クーラー、オルタネーター、ベルト同様パワーステアリングベルト(パワステベルト、P/Sベルト)と呼ばれるベルトも存在する。こちらはフルードとは異なりたわみが大きければテンショナー調整、ひび割れがあれば早めの交換が望ましい。

農業機械への採用[編集]

農業機械にもパワステの採用例は多い。もっとも代表的なものがトラクターである。かつてのトラクターは現代の物とは違って四輪駆動ではないものが多く、前軸重が軽いので腕への負担が少なかったこと、また技術的にも難しかったこともあり、あまり採用はされなかった。しかし現在では、ほぼ全ての機種で採用されている。農業用トラクターに装着されたパワステの操作力は、舗装路では人差指1本でハンドルを回せる程軽い。その理由としては、圃場へ入ることによる負荷の増大がある。特に湿田と呼ばれるような深い水田ではタイヤが土に埋もれてしまうため、より強いアシストが必要だからである。

農業用トラクター向けのパワーステアリングには、主に小型クラスを中心に採用され、シンプルな構造で整備コストが低い「インテグラル式」と、小型クラスのごく一部(最近では主にヤンマー製、三菱農機製の各農業用トラクターに多くみられる)を含む中型~大型クラスを中心に採用され、動作がより力強くアシスト性に優れる反面、複雑な構造で整備コストが高い「全油圧式」が存在する。インテグラル式はハンドルからタイヤまでをロッドやシャフト、ギヤボックスを介して機械的に接続した上で油圧で操作力をアシストする構造をしており、直進する際のハンドルのセンター位置が狂うことはないが、全油圧式はハンドル操作を一度油圧に変換し、油圧ホースを介して操作を伝達する構造のため、油圧のリークによりハンドルのセンター位置は一定しない。

走行部にクローラを装備したコンバインにおける旋回操作系において、昔は左右に旋回するためのトランスミッションのサイドクラッチ操作をワイヤーやロッドを介して手動で行っていたものを、電磁バルブと油圧装置に置換えて軽い操作力で旋回できるようにしたものをパワステと呼ぶことがある。

電動車椅子への採用[編集]

近年、ジョイスティック操作型電動車椅子の前輪操舵装置においてもパワステと呼ばれることがあるが、これは、搭乗者の操舵力を補助する機構ではなく、搭乗者のジョイスティックによる操舵行為を電気信号に変換し、操舵用電動モーターの駆動によって前輪キャスターを操舵する装置である。 従来、電動車椅子の操舵は手動式車椅子のそれと同じく左右駆動輪の回転数の差を利用していたが、悪路走行時、旋回動作中の駆動輪にスリップが生じた場合、搭乗者の望む方向への旋回が難しく、また斜面を横切る場合には麓側に進行してしまうのを修正しながら走行しなければならなかったが、パワーステアリング方式の電動車椅子では、操舵用電動モーターの保持力が前輪キャスターの受ける外力に打ち勝つため、搭乗者の意図する方向への進行が容易である。