DOHC

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DOHC (ディーオーエィチシー) とは、Double OverHead Camshaft(ダブル・オーバーヘッド・カムシャフト)の略で、レシプロエンジンにおける吸排気弁機構の形式の一つ。

特徴[編集]

DOHCエンジンの一例
トヨタ製・4A-GE型(5バルブヘッド仕様)
ホンダ製・K20A型4気筒DOHC16バルブエンジンのシリンダーヘッド
DOHCエンジンのシリンダーヘッド(直押し式)の断面
DOHCエンジンのシリンダーヘッドの断面。
排気バルブと吸気バルブが別々のカムによって開閉される。

シリンダーヘッドにおけるバルブの駆動について、吸気側と排気側で別々のカムシャフトを備えるものを指す。SOHCに比べ、カムシャフト1本あたりの負荷が軽減される。さらにロッカーアームを廃してカムによるバルブの直押しが可能となるため、高回転化・高出力化が容易である。ただし、バルブを開く量(リフト量)を多くするためやカム軸の配置の自由度などの点からロッカーアームが使われているものも多い。ただし、この場合のロッカーアームはSOHCのようなシーソー式ではなく力点と作用点が近いスイング式で、追従性はSOHCほど劣っていない。直押し式とロッカーアーム式のどちらが優れているかは設計コンセプト次第で、時代によって流行もある。国内では近年までは直押し式が主流であったが、フリクション低減による省燃費性向上を狙って直押し式からローラーロッカーアームへの変更が増えている。いずれにせよ燃焼室やポートなど、シリンダーヘッドの設計の自由度がDOHC最大の利点であり、カム軸が増えたからといって、それだけで性能が向上するわけではない。しかしトヨタのように商品性、およびステータス性などのアピールのためにDOHCを積極的に採用するメーカーもある。ちなみに直押し式SOHCエンジン[1]も存在するがシリンダーヘッドの設計の自由度が低くなり、燃焼室の形状やバルブ数、バルブ挟み角など制限を受ける。

バルブレイアウトは、吸気バルブと排気弁バルブがシリンダーの半円を境に対向したクロスフロー形か、あるいは吸気弁と排気弁を対角に配置した形[2]などが選択可能である。また、燃焼室形状の設計自由度が高いことなど、利点が多数あることから高性能エンジンの多くに採用されている。プライベートチューンにおいては、バルブタイミングを吸気側・排気側で別々に調整できる自由度の高さも特徴であるが、欠点としては部品点数が増える、カムシャフトが2本になるためシリンダーヘッドが大型化するなどの問題がある。

その他には近年一般的となったカムの位相を変化させる可変バルブタイミング機構と相性が良いというメリットもある。SOHCでは吸排気バルブを一つのカムで駆動するためカムの位相を変化させると給排気両方の位相が同じだけ変化してしまうため効果が得られにくい。 このためカム位相を変化させるバルブタイミング機構を採用する場合、例外[3]を除き基本的にDOHCとなる。

歴史[編集]

1912年に、エルネスト・アンリがフランスプジョーレーシングカーのために開発したのが最初であるとされるが、スペインイスパノ・スイザ社の設計者マルク・ビルキヒトによる着想を剽窃したという説もある。

部品点数が多く機構が複雑であることから、1950年代以前はレーシングカーや高級スポーツカーに限定された技術であった。

第二次世界大戦後、戦前からDOHCエンジンを積極的に手掛けてきたアルファ・ロメオが量産に転じたほか、ヨーロッパ日本の大手自動車メーカーは、従来の量産エンジンを元にヘッド部分をDOHC形に改造した高性能エンジンを開発、スポーツモデルに搭載して市場に送り出した。

日本で初めてDOHCエンジンを搭載した市販4輪自動車は、1963年に発表された軽トラックホンダ・T360である。このDOHCエンジンは高速走行性能を確保する為に搭載されたものであり、T360より遅れて開発が始まったスポーツ360には同エンジンに更にチューンを加えたものが搭載されていた。[4]。その後、2ストローク機関のものが数多く存在するオートバイにおいてもDOHCは広く採用されるようになった。日本のオートバイでは1965年にホンダ・CB450KO、1972年にはカワサキの輸出専用車種Z1 900[5]などがDOHCエンジンを搭載した。

本来スポーツモデル向けの機構と見なされてきたDOHCであるが、トヨタ自動車は吸排気効率を高めつつ理想的な燃焼室形状を確保できる自由度の高さに着目し、省燃費化・低公害化の手段として実用車向けの普及型DOHCエンジン(ハイメカツインカム)を開発した。1986年8月以降、同社のガソリンエンジン乗用車のほとんどに採用された[6]。また、軽自動車の分野では2001年5月以降にはスズキの全ての軽自動車が、2009年9月以降にはダイハツの全ての軽自動車が、それぞれDOHCエンジンを搭載するようになった。

以来、量産型DOHCエンジンは世界の多くのメーカーに普及している。さらに、ディーゼルエンジンにもDOHCを採用する例(トヨタ・ダイナトヨエース各1t積モデル=1KD-FTVトヨタ・ハイエース=2KD-FTV[7]三菱・パジェロ[8]=4M41、三菱ふそうキャンター日産・NT450アトラス=4P10三菱ふそう・ローザ三菱ふそう・エアロミディ日産・シビリアン=4M50(T5)、三菱ふそう・スーパーグレート三菱ふそう・エアロエース/エアロクイーン6R10[9]いすゞ・ビッグホーンいすゞ・ウィザード=4JX1[10]いすゞ・エルフ日産・アトラスマツダ・タイタン=4JJ1-TCS)も散見される。

他の名称について[編集]

一般ユーザー向けのキャッチフレーズ的なニュアンスで、「ツインカム(TWIN CAM)」と呼ばれることもある。四輪ではトヨタ[11]と日産[12]、スズキ、ダイハツが、二輪ではカワサキがこの呼称を採用している。

ただし厳密にはツインカム=DOHCではない。これはV型エンジン水平対向エンジンなど、シリンダーヘッドを2つ以上持つエンジンの場合、SOHCでカムシャフトが2本以上になるためである[13]。もっとも、これをツインカムと称する例はまずない。そうした誤解もあるためトヨタはシリンダーヘッドが2つになるV型のDOHCエンジンに関しては「FOUR CAM」と称していた。

例外的にハーレーダビッドソンは自社のカムシャフトが2本のV型2気筒OHVエンジンをTWINCAMと称している。これは自社の従来のエンジンのカムシャフトが1本だったことから、それらと区別するためである。

表記はトヨタが「TWINCAM24(4バルブ6気筒)」「TWINCAM16(4バルブ4気筒)」「TWINCAM20(5バルブ4気筒)」、日産は「TWINCAM 24VALVE(4バルブ6気筒)」「TWINCAM 16VALVE(4バルブ4気筒)」、ダイハツが「TWINCAM-16V(4バルブ4気筒)」「TWINCAM-12V(4バルブ3気筒)」となる。

また別名では、主に直列型エンジンがTWIN CAM、V型および水平対向型エンジンがそれぞれFOUR CAMなどと呼ばれる。

マルチバルブ[編集]

4ストロークエンジンにおいて、1つのシリンダーに3つ以上のバルブを持つことをいい、そのエンジンのことをマルチバルブエンジンという。一部にSOHCやOHV(OHVの場合は一部のオートバイあるいは産業用、農業機械用を含む一部のディーゼルエンジン)のマルチバルブエンジンが存在するものの、ほとんどはDOHCであり、前述のプジョーの最初のDOHCエンジンも同時に最初のマルチバルブエンジンでもあった。両者は密接な関係にある。

その他の動弁機構--歴史順[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 例・スズキ・G10型エンジン(2代目カルタス専用)、ダイハツ・EF-SE型エンジンスバル・EA82/82T型エンジンスバル・ER27型エンジンフォルクスワーゲンの非マルチバルブ(2バルブ)ヘッド仕様のSOHCエンジン全て、ホンダ・GL1800用エンジンなど
  2. ^ 一部のディーゼルエンジンのみこのレイアウトを採用する。
  3. ^ 三菱MIVECの一部の方式(例・4J10型エンジン)ではSOHCながらカムの位相変化を行なっている。
  4. ^ スポーツ360は諸般の事情により市販には至らなかったものの、後に排気量を531ccに拡大した同DOHCエンジンを搭載するS500が発売された。
  5. ^ 翌年には排気量を750ccに変更した日本向けモデル750RS(Z2)が登場している。
  6. ^ カムリビスタを皮切りに、カローラスプリンターコロナカリーナマークIIクラウンスターレットなど。1994年1月以降はカローラバンスプリンターバンなどの一部のガソリンエンジン商用車に搭載するようになった。
  7. ^ 前期型は1KD-FTVが搭載されていた。
  8. ^ 3代目モデルで初採用。モデル末期にはカタログ落ちしていたが、4代目モデルの2008年10月の一部改良に伴い復活した。
  9. ^ ちなみに大型トラック用としては日本初となる。
  10. ^ 2005年現在は生産終了。
  11. ^ 2T-G系などが主力の時代はDOHCと称している。
  12. ^ FJ20系しかDOHCエンジンがなかった時代にはDOHCと称している。
  13. ^ 逆に、各Vバンク上に1本ずつのカムシャフトを持つが、それぞれが吸気または排気専用のカム列を持ち、SOHCを名乗りながらもシリンダー側から見るとDOHCに類似したカムシャフト配置となる狭角V型エンジンのようなケースもある。

関連項目[編集]