三元触媒

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
1996年式ダッジ・ラム バンの三元触媒コンバータ

三元触媒(さんげんしょくばい、Three-Way Catalyst)は、ガソリン車の排ガス中の有害成分を還元酸化によって浄化する装置。排気管の途中に設けられている。3種類の物質を同時に浄化することからこの名称が付けられた。自動車部品としては触媒コンバータ(Catalytic converter)の名称も用いられる。

概要[編集]

ガソリンを燃料とする自動車の排ガス中に含まれる有害物質は、主に炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)であるが、それをプラチナパラジウムロジウムを使用した触媒装置により同時に除去する。つまり、炭化水素は二酸化炭素に、一酸化炭素は二酸化炭素に、窒素酸化物は窒素に、それぞれ酸化もしくは還元される。効率よく酸化・還元をするためには、ガソリンと空気が完全燃焼し、かつ、酸素の余らない理論空燃比(ストイキオメトリ)であることが必要であり、このため排ガス中の酸素濃度を酸素センサー(O2センサー)等により絶えず測定して、この情報を元に燃料噴射量等をコントロールする必要がある。

三元触媒は通常、セラミックなどで生成された触媒担体英語版を、貴金属塩溶液に浸して貴金属粒子を触媒材料の表面に固定(担持)するウォッシュコート法[1]や、触媒基板英語版に貴金属粒子を塗布するコーティング法などにより製作される。形状としては初期は定期交換が容易な粒子状のペレットが用いられたが、近年は触媒コンバータ形状に合わせて成形され、ハニカム状構造で表面積を大きくしたモノリスが主流である。また、担体素材としては安価なセラミックが用いられる事が多いが、セラミックは触媒コンバータに内蔵するに当たり、特殊な繊維マットでモノリスを包んで保護する必要がある為、オートバイなどでは、排気管内に直接溶接可能なメタルハニカム素材も用いられている。また、小型汎用エンジンではワイヤー状の触媒担体をスチールウール様にしたニットワイヤ素材も用いられる[2]

長所[編集]

メタルコアを採用する三元触媒コンバータのカットモデル
セラミックコアを採用する三元触媒コンバータ。上記2腫はいずれも排気管形状に合わせて触媒が成形されたモノリスと呼ばれる形態である。
  • 後述の温度や空燃比といった条件を満たした場合には、上記3種類の物質に対してきわめて高い浄化能力を有する。
  • サーマルリアクター(エアインジェクション)や酸化触媒、希薄燃焼(リーンバーン)や燃焼室温度低下の為の点火時期調整(点火時期を遅らせる)などの三元触媒以前の排ガス対策技術と比較して、性能の低下が起きにくい[3]
    • 三元触媒登場以前はNOxの低減と、HC・COの低減の為の対策がそれぞれ分かれて研究されており、主に希薄燃焼や燃焼温度低下などのエンジン自体の改良でNOxを低下させる前処理方式と、サーマルリアクターや酸化触媒などの処理装置をエンジンの後に装着する事でHC・COの処理を行う後処理方式が存在した。CVCCなどを始めとする希薄燃焼は燃焼が不安定になりやすく、マツダ・AP等で採用されたサーマルリアクターは空燃比をオーバーリッチ気味とする必要があり、燃費が低下しやすく[3]サーマルリアクター本体が極めて高熱となる為、エンジン本体を含めた周囲への熱害が大きい。2ストローク機関水平対向エンジン等が元々持つ特性でもある燃焼温度の低下は、過度に行えば燃焼効率の低下による出力や燃費の悪化を招いた[4]
    • しかし、三元触媒が最大の処理効率を発揮する理論空燃比は、原則としてガソリンエンジンが最適な稼働効率で動作する為、性能の低下が起きず、結果として燃費の低下も起こらなくなる[3]。日本では1978年(昭和53年)マスキー法(1970年大気浄化法改正法)に準じた排ガス規制値が完全達成された昭和53年排出ガス規制までは、三元触媒以前の方式でも規制の適合は可能であったが、同年に北米で企業別平均燃費規制(CAFE)が開始されると、燃費の低下がネックとなり三元触媒以前の方式では排ガス規制と燃費規制への両立が次第に困難となっていった[4]
    • 三元触媒以前の主流であった酸化触媒は、希薄燃焼とするかエアポンプで排気管内に酸素を送り込む(エアインジェクション)を併用する必要があったが、日本では1979年(昭和54年)のエネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)成立までは触媒は経年劣化するものとして触媒の定期交換が義務付けられていた影響で、酸化触媒コンバータは粒子状の触媒をコンバータ内に詰め込むペレットの形態が採られる事が多かった。この方式は生産性が良く、交換作業が容易で交換費用も安価な利点があったが、排気効率が悪く振動によるペレットの摩滅などで浄化性能も悪くなりやすい欠点があり[5]、希薄燃焼やエアインジェクションの欠点も引き続き残される事となった。しかし、省エネ法の成立後は触媒の定期交換義務が廃止された事や、後述の触媒被毒の要因となる有鉛ガソリンの使用が段階的に禁止されていった事により、生産性が悪く高価で定期交換には適さないが、ハニカム等の表面積が大きな内部構造を採る事により、優れた排気効率と浄化性能を両立したモノリス式構造を採る三元触媒が普及し、それ以前の型式では相反する要素として達成困難であった排ガス浄化性能と高燃費の両立が可能となった[4]

短所[編集]

  • 理論空燃比(ストイキオメトリ)でないと効果がなくなる
高負荷運転時に燃料を過剰噴射(ガソリンの気化熱による冷却効果)する際には、理論空燃比から外れるため触媒の浄化能力が極端に落ちる。また、排ガス中に酸素が多いディーゼルエンジンリーンバーンガソリンエンジンなどにはそのまま使う事はできず、ほかの触媒および尿素SCRシステム等、別の技術が必要である。
  • 三元触媒が適切に作動するためには温度管理が必要
常温では三元触媒の還元能力が低く、エンジン(および三元触媒も)が冷えた状態で始動した直後では還元能力はほとんどない。これを改善するため、アイドリング時に排気管内に二次空気を導入して排気温度を適度に上昇させる事で、三元触媒を作動温度に早期に上昇させるリードバルブ式二次空気導入装置の併設や、三元触媒をエンジンの排気部になるべく近づけて排気ガスの熱(および排気管からの伝導熱を含む)により温度を早期に上げて、還元能力が高まるのを促進している。

その一方で、過度の高温に晒され続けるとその熱により三元触媒が物理的に破損してしまうことがあるため、エンジンに近づけすぎた位置に設置することもできない。特に、点火装置の不具合によるスパークプラグの失火により、三元触媒に多量の未燃焼ガスが流入すると触媒反応が過剰に行われ触媒コンバータが過熱する危険性がある為、かつては触媒コンバータに温度センサーを設置して警告灯や警報ブザーなどで触媒コンバータの過熱を知らせる熱害警報装置の設置が日本国内で販売される車両には義務付けられていたが、平成3年在日米国商工会議所の申し立て[6]以降、市場開放問題苦情処理体制(OTO)を通じて熱害警報装置の設置義務の排除を求める動きが欧米より相次ぎ、結果として平成6年の欧州ビジネス協会(EBC)のOTO申し立てを受け入れる形で、失火を検知して燃料供給を停止する電子制御の導入などを条件に、平成7年に設置義務は廃止された[7]

  • 貴金属を必要とする
白金やロジウムなどの貴金属触媒が高い浄化活性を示すためには必要不可欠である。貴金属の使用量を低減するため、自己再生機能を持つインテリジェント触媒などが実用化され、高く評価されている。[8]

機構[編集]

触媒上では極めて複雑な反応過程を経て、NOx、CO、HCがN2、CO2、H2Oに分解される。[9] 具体的には以下のような反応が挙げられる。

  • 格子酸素種と吸着一酸化炭素の反応による二酸化炭素と酸素空孔の生成: [O] + COads → CO2 + [V] + ads-site
  • 吸着笑気と酸素空孔との反応による窒素と格子酸素種の生成: N2Oads + [V] → N2 + [O] + ads-site

研究[編集]

2008年7月24日、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)助成事業として熊本大学がこれまでのセリア(CeO2)系酸素吸蔵物質(CeO2-ZrO2)に替わる「希土類オキシ硫酸塩(Ln2O2SO4)」を開発した。[10]酸素吸蔵放出量が中高温域で既存物質を8倍近く上回る大容量酸素吸蔵(ストレージ)物質で吸蔵速度も約2倍を実現したとしている。排ガス浄化として使用されている貴金属の使用量を大幅に低減する技術として期待されると述べている。

三元触媒と排出ガス規制[編集]

実走行と空燃比[編集]

各国のガソリン車排出ガス規制達成の立役者はこの三元触媒といっても過言ではないが、上述のようにこれが有効に作用する空燃比の範囲はストイキオメトリ(理論空燃比)近傍の極めて狭い部分であり、これを外れる条件ではたちまち有害成分が排出されるようになる。

燃料噴射装置およびその制御装置 (ECU) は各種の条件から最適なガソリンの噴射量を演算 / 決定して実行するとされるが、ここでいう「最適」とは「排出ガス中の有害成分が最少となる」状態のみを意味するものではなく、ドライバビリティーやエンジンの保護など他の要素が加味される。そしてこれらの要素が競合した場合の優先順位において、必ずしも「排出ガス」が上位にあるわけではない。排出ガスに優越してストイキオメトリから外れた(ほとんどの場合リッチ側)噴射が行われる条件として代表的なものは、

  1. 加速時
  2. 高速走行時

である。

  1. 加速時には燃料の増量を行わないと、上がっていくエンジン回転数に噴射量が追いつかず、いわゆる「息つき」の症状が発生しドライバビリティーが悪化する。ユーザーによっては故障と勘違いをするので自動車メーカーとしてはこれを生じさせてはならない。この「増量」は、排気量や車重にもよるが通常走行における加速(いわゆる「急加速」に限らない)ではほとんどの場合行われている。
  2. 高速走行時の燃料増量は主に排気バルブやピストンの溶損からの保護のために行われる。「高速」といっても時速100 kmを超えるような状態のみを指すものではなく、時速60 kmや70 kmといったある意味で日常的な速度においても、ストイキオメトリ状態で連続して走行を続ければ、この種の熱負荷過大による不具合は大いに発生し得る。エンジン故障による路上での立ち往生などメーカーとして絶対にこれを避けなくてはならない。しかし、空燃比をリッチ側になるよう噴射を増量すれば、余剰のガソリンの持つ気化潜熱により冷却効果が現れバルブ / ピストン溶損は容易に回避できる。

排出ガス試験[編集]

日本において市販される乗用車は、その型式認定に際して排出ガスに関する試験が行われこれをクリアする必要がある。測定は「10・15モード」(ホットスタート)、「11モード」(コールドスタート、いずれも2006年時点)といった定められたパターンにしたがい走行し(実際はシャシダイナモ上でのシミュレーション)、その際に発生する各種物質の濃度や総量を測定する。有害物質の規制値は世界水準から見ても相当厳しいもので、加速時や高速走行時に三元触媒が有効に作用する範囲を超える噴射増量を行っては合格することは難しい。

  • 加速に関しては測定試験モードに規定されるような加速(静止状態からおよそ20秒掛けて時速50 kmに達するといった極めて緩やかなもので、前後に他車の存在する市街地走行において日常的に実行できるものとは思われず非現実的)程度であれば増量なしでも差し支えない車種もあるが、小排気量車ではそれでも難しい。だが、試験ではドライバビリティーを問われることは無い。
  • 高速走行では、試験で規定される最高速度は時速70 kmであるが、その持続時間は10秒ほどであり、この程度の時間内であればストイキメトリで走行しても直ちに故障を起こすものではない。

試験に際して、加速時に少々「息つき」が発生しても構わないし、ストイキオメトリで高速走行しても長くて10秒である。試験直後に焼き付を起こしてもそれを問われることは無い。しかし試験に合格し、そのままで市販すれば多くの苦情や場合によってはリコール騒ぎになりかねない。かといって試験のためだけに燃料噴射制御装置を特製して、市販時には別物を取り付けることは許されない。

モード適合化制御技術[編集]

燃料噴射制御ECUは、その制御プログラムのコードが開示されることは無い。

触媒被毒とその対策[編集]

三元触媒はガソリンやオイルに含まれるリン硫黄などによって化学的被毒を受け浄化性能が低下し触媒としての寿命が短くなる。
鉛については無鉛ガソリンで対処されており、ガソリンに含まれる硫黄に関しては低硫黄化、国内においてはサルファーフリー化(10ppm以下)された事で軽減されている。

一般的なエンジンオイルには硫黄とリンが含まれているがエンジンの構造上オイルの一部は燃焼し排ガスに混じるため対策が必要となる。原油由来のベースオイルには硫黄が含まれているが精製技術の向上により極めて少なくなっている。オイルの添加剤には硫黄とリンを含んだ化合物が使用されておりどちらも潤滑において重要な機能を担っているため完全に除外するのは難しい。現状ではILSACなどのエンジンオイル規格で硫黄とリンの含有量規制が行われており含有量は低下している。しかし潤滑性能を維持するためにリンに関しては最低含有量が設定されているため一定量は含むことになる。また燃焼するオイル自体を低減する観点から蒸発量の規制も存在し、特に低粘度オイルでは蒸発量の少ない一定品質以上のベースオイルが要求される。

触媒寿命の延長に向けてエンジンオイルではさらなる低硫黄・低リン化さらには無硫黄・無リン化の研究が行われている。とりわけ、内蔵式ギアボックスにより、エンジンと同時にトランスミッション湿式多板クラッチの潤滑を同時に行う必要があったオートバイ用オイルにおいては、軽自動二輪車以上のオートバイも全て排ガス規制の対象に組み込まれた平成11年排出ガス規制以降、低硫黄・低リン化によってもギアやクラッチの潤滑性能を損なわないオイルの開発が進んでいる。
触媒本体では被毒耐性のあるものが研究されている。

その他の排ガス対策機器[編集]

  • 酸化触媒
ガソリンエンジンでは三元触媒以前に用いられた触媒で、酸化還元反応により一酸化炭素(CO)と未燃焼炭化水素(ハイドロカーボン、HC)の二つの有害物質を除去するもの。二元触媒と呼ばれる事もある。希薄燃焼やエアポンプ等により排気ガスを酸素過多とする事により、「2つのCOとO2を2つのCO2へ変化させる」反応と、「ハイドロカーボンをCO2H2Oへ変化させる(CxH2x+2 + [(3x+1)/2] O2 → xCO2 + (x+1) H2O)」反応を起こす。酸化触媒だけでは窒素酸化物(NOx)は除去できない為、主に燃焼温度を下げる事でエンジン側でNOxを抑制する必要(前処理方式、エンジンの改良)があるが、この方法ではNOxを抑制するほど燃費が悪くなる欠点が存在した為[4]、各国の燃費規制の強化と三元触媒の製造技術の進歩と共に通常のガソリンエンジンではその利用は廃れた。しかし、酸素リッチな排ガスに適しているため希薄燃焼を主体技術とするガソリン直噴エンジンやディーゼルエンジンではその後も利用されている。また浮遊性微粒状物質を取り除くDPFの前段に酸化触媒を配置しNOを酸化させNO2を利用する連続再生式DPF、フィルター自体に酸化触媒を担持させた連続再生式DPFなど近年新たな形で利用が進んでいる。
  • 二次空気導入装置
排気管若しくはエキゾーストマニホールド内に、エアフィルターボックスからエアポンプによる強制送気か、リードバルブを用いた自然吸気で空気(二次空気)を導入し、排気ガスのHC・COの完全燃焼を促す装置。アメリカで1966年に実用化され、日本でも昭和51年排出ガス規制適合車両あたりまでは単独ないし酸化触媒と併用される形で利用されていた。近年では自動車では余り用いられなくなった機器であるが、最近ではオートバイにおいて、三元触媒とともにこの機器が広く用いられている。
かつてロータリーエンジンの排ガス対策で名を馳せたサーマルリアクターも熱酸化反応を利用しているという点を除いては、基本原理はこの装置と同じものである。

関連項目[編集]

参考文献・脚注[編集]

  1. ^ 用語解説 : ウォッシュコートとは?(触媒用語)
  2. ^ 各種触媒担体 - 排ガス浄化用触媒 - 化学材料 - ヘレウス株式会社
  3. ^ a b c 排出ガス規制と低減技術の話(その5 ガソリンエンジンの場合:マスキー法以降)副館長 成田年秀 - 赤レンガ通信 Vol.79] - 産業技術記念館
  4. ^ a b c d e 排出ガス対策を中心にしたスバルエンジンの開発 山岸曦一 - 社団法人自動車技術会
  5. ^ ペレット触媒コンバーターとは - 大車林 Weblio辞書
  6. ^ OTO番号(457) - 自動車の熱害警告装置の要件の排除
  7. ^ 3-(1) 自動車及び自動車部品の規格基準の国際的整合化及び外国検査データの受入れ
  8. ^ Y. Nishihata et al., Nature, 2002, 418, 164.
  9. ^ P. Granger et al., J. Mol. Catal. A: Chem., 2005, 228, 241.
  10. ^ M. Machida et. al., Chem. Mater., 2007, 19, 954.