オートマチックトランスミッション

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オートマチックトランスミッション (Automatic Transmission:自動変速機)は、自動車オートバイの変速方式の一つで、速度やエンジン回転数に応じ、変速比を自動的に切り替える機能を備えた変速機(トランスミッション)の総称である。

目次

[編集] 概要

オートマチックトランスミッションには幾つかの方式が存在するが、このうち乗用車で最も普及しているのは動力の断続にトルクコンバータを用いたものに多段変速機と組み合わせたもので、狭義の「オートマチックトランスミッション」はもっぱらこの方式を指し、多くの場合は遊星歯車変速機を用いる。クラッチの操作のみを自動化し手動選択の多段変速機と組み合わせた形式については、完全自動でないという意味でセミオートマチックトランスミッションと呼ばれる。

完全な手動変速機と足踏みクラッチを備えたマニュアルトランスミッション車と異なり、オートマチックトランスミッション搭載車両にはクラッチペダルが存在しない。[1]

日本では「オートマチックトランスミッション」という呼び方が長く煩雑であることから、文章表記ではA/TATと略記される事が多い。

口語では、オートマチック、ないしはオートマが普通に通用している。古くはノークラ(ノークラッチペダル=クラッチペダルがないの略)・ノンクラトルコンなどと呼ばれた。

[編集] トルクコンバータ式オートマチックトランスミッション

トルクコンバータのカットモデル

[編集] 遊星歯車式

現在の自動車のオートマチック方式として最も多く使用されているトルクコンバータ式オートマチックトランスミッションは、遊星歯車(プラネタリ・ギア)とトルクコンバータを組み合わせ、これを油圧等で制御し自動的に変速段の切り替えを行う仕組みである。

油圧制御のためトランスミッションの内部には多数の圧力調整バルブがあるが、1980年代まではガバナ機構を利用し機械的にバルブ切り替え、変速制御を行っていた。しかし1980年代後半ソレノイドにより電気的にバルブを駆動するものが登場し、高効率で多彩な機能をもつATが世に出まわるようになった。コンピュータ制御によりアクセルの踏み加減や車両速度など様々な要素を勘案して、変速のタイミングがきめ細やかに設定されている。

過去に販売されていたアメリカ車日本車では前進の変速段数は3段を経て4段が主流だったが、2007年時点で安価な大衆車でも5段や6段が普及しはじめている。比較的高級な車種(特に日本車やドイツ車)では5段、6段、さらには7段(メルセデス・ベンツの7G-TRONICなど)、8段(レクサスLS)などがある。反対に軽自動車など小型・安価な車種では3段というのもある。変速段数が多いほど変速ショックが少なく、また変速比の細かな制御が出来るため燃費の向上が期待できる反面、部品点数増加による重量及び製造コストが増えるというデメリットがある。一般に4ATや5ATなどと表記された場合の数字部分はこの前進変速段数を表す。また後進について大部分の車種では一段であるが、一部高級車種(上記の7G-TRONIC搭載車など)では2段などの場合も存在する。

かつては普通車でMTが5段に対しATは4段程度が主流だった理由は、段数が多くなるとそれだけコストや重量がかさむためと、低速時や発進時などトルクコンバータがロックアップしていない状態ではトルク増幅作用が出るため、段数が少ないのをトルクコンバータでカバーできたためである。

運転者がギアを選択できるマニュアルモードを備えたものも増えている。操作方法はシフトレバーによるものやステアリング上のスイッチ(ステアリングシフト)によるもの、パドル式(パドルシフト)などがある。

[編集] 平行軸歯車式

ホンダが長年使用している方式。遊星歯車を持たずマニュアルトランスミッションのような常時噛合式ギアに油圧式湿式クラッチを組み込んでいる。現在は4軸のものもあり、リニアソレノイドを用いてダイレクトに油圧制御を行う。近年ではメルセデス・ベンツ Aクラス(初代)の5段式ATでも採用されていた。

ホンダマチック」も参照

[編集] ATF・ATフルード

一般のトルクコンバータ式オートマチックトランスミッションには、ATフルードという液体が動作流体に使われている。ATオイルと称される場合もあるが、エンジンオイルとは使用箇所も機能も別であり、トルクコンバーター内で駆動力の伝達を担う液体である。ATFとはオートマチックトランスミッションフルード (Automatic Transmission Fluid) の略であり、出光興産の登録商標である。また、国内自動車メーカーの約6割が同社の製品を使用している。

長年の使用によりフルードの劣化が進んだ場合には、パワーロスによる燃費悪化や変速ショックが大きくなるという現象が起きる。しかし、ATフルードの交換は、新しいフルードが古いスラッジを溶解させ詰まらせるリスクがあり、最悪の場合、トランスミッションを損傷し走行不能に陥る。自動車用品店で多走行距離の車両に交換を勧めない理由は、こうしたリスクを回避するためである。仮に長期間交換しなかった車両で交換する場合は、1回で全て入れ替えず、3回ほどに分けてフルードを交換することが多い。また、元々、車両の取扱説明書でフルードの交換を不要としている車種も多い。

一般の交換作業では、専用の機械でフルードを循環させながら交換を行うが、一部外国車にはATフルードのフィルターを装着しているため、オイルパンを外す分解整備並みの手順を要求される車両もあるので注意が必要である。

純正以外のATFを使用する場合、フルードの化学特性が異なるものがあるため、AT内部にある樹脂部品(バルブやワッシャ)に不具合を生じさせることがあるので注意が必要である。本来はATの試験評価に使用している純正のATFを使用することが望ましい(耐久性、変速ショック悪化につながる)

[編集] 湿式多板クラッチ遊星歯車式

トルクコンバーターの代わりに、湿式多板クラッチを使用する方式。メルセデス・ベンツ SLクラスの63 AMGにAMGスピードシフトMCTとして搭載される。ダブルクラッチ制御やレーススタートモードなどにより、ダイナミックな操作性が特徴。

[編集] 自動制御式マニュアルトランスミッション(AMT)

オートメーテッドマニュアルトランスミッション 、ロボットミッション、機械式ATとも呼ばれ、クラッチやギアボックス自体はマニュアルトランスミッション同様の構造を持つ。俗にツーペダルと一括りにされることも多いが、分類上はオートマチックである。

この形式ではクラッチ操作のみ自動で、スロットルやギアの選択はM/Tそのままの操作をドライバーが行うセミオートマチックタイプが昔からあり長い歴史がある。

セミオートマチック#自動クラッチ車」を参照

現在乗用車では電子制御(いわゆるバイ・ワイア)によりスロットル開度やクラッチとギアボックスのアクチュエーターを制御し、ギヤの選択も自動的に行なわれるオートマチックタイプが多く用いられている。 乗用車の場合、このタイプが選ばれる理由は、市場の嗜好(トルコンのニーズが低い=燃費、ドライバビリティー、価格などへの不満)、スポーツ性の演出、生産台数、小型車やスポーツカーへの搭載性、ATの開発費不足など理由は多種あるが、いずれもMTベースに分がある、と判断したメーカーの方針による。また、バイ・ワイア方式のため、ESPとの協調性が良い[要出典]点でも将来性がある。

この方式を採用したものとしては、

などがある。これらのネーミングに共通なのは、あえて自動を意味する「オート」の文字を使わず、高付加価値のMTであることを強調している点。

1984年にいすゞ・アスカに搭載されたNAVi5は、マニュアルトランスミッションと、乾式・単版クラッチをコンピューター制御による油圧アクチュエータで動作させる自動変速機。スロットルやブレーキ(ホールド機能)も統合制御される。マニュアルミッションの燃費のよさとイージードライブ、さらにはスポーツ性を狙ったものであったが、クリープ機能を省略したことで、従来車になれたユーザーからの不満もあり、マーケットの支持を得るまでには至らなかった。
NAVi6はその後も小型トラックから大型トラック・バスにいたるまで広く搭載された。
現在のいすゞ車では、スムーサー機構のバリエーションの中で、小型トラック用スムーサーEx、中型トラック用スムーサーF・オートシフト(一部エンジンのみ選択可)、大型トラック用スムーサーGが全自動変速である。

[編集] 商用車(バス)での利用

ロボットシフター

フィンガーシフトの電磁エア式トランスミッションをベースとして、変速とクラッチ操作を自動化した、機械式オートマチックトランスミッションが存在する。

  • いすゞ自動車 NAVi5、NAVi6(電磁油圧式)
  • 日野自動車 EEドライブ
  • 三菱ふそう MMAT
  • 日産ディーゼル E-MATIC

機械式ATは変速タイミングやメンテナンス面から運転手・整備士双方から敬遠され、近鉄バス京王バスグループ、関東バス横浜市交通局など、一部事業者が集中導入した以外はほとんど普及せず、現在では製造されていない。その後はノンステップバスなどを中心に、トルコン式ATが普及している。

[編集] 商用車(トラック)での利用

国内・海外を問わず現在は各メーカーよりクラッチ操作の一部、または全てを自動化した機械式オートマチックトランスミッション搭載のトラックが発売されている。特にエンジンの大トルクと車両側高負荷の板ばさみとなる大型車用のクラッチ機構では、滑りの少ない乾式クラッチはトルコン式ATに比べ、燃費や騒音の面で非常に有利で、クラッチ操作からの開放はドライバーの疲労軽減にもつながる。発進時のクラッチ保護(クラッチ破損の防止や交換周期の延長のため)や、荷扱い時の停止位置合わせなど、微速時の扱いやすさを考慮して、自動変速ながらクラッチペダルを装備しているものもある。 近年の採用増加についてはドライバーの疲労低減や、シフトマップの最適化による燃費の追求、さらに大型車については燃費と動力性能の両立を狙い8段以上の多段トランスミッションの搭載が増えており、変速操作の煩雑さの解消といった理由もあげられよう。積載量2トンクラスの小型トラック市場、積載量4トンクラスの中型トラック市場では、2007年1月現在に於ける普通自動車AT限定免許で運転が可能という運転者側のメリットも挙げられる。

  • 各メーカーでの呼称(2007年現在国内で販売されているもの)
    • いすゞ自動車:スムーサー(Smoother)
      • スムーサー機構を備えたいすゞ・エルフのうち、通常のMTと切り替えることでクラッチ操作が不要になる機構のものを「デュアルモードMT」、クラッチペダルがなく手動変速操作が必要なものを「スムーサーE」、クラッチペダルがなく運転者による変速操作も不要なものを「スムーサーE オートシフト」及び「スムーサーEx」と分類している。
        • なお、いすゞ・フォワードの場合は「スムーサーF」、「スムーサF オートシフト」及び「スムーサーFx」とし、いすゞ・ギガの場合には「スムーサーG」と名称が付けられている。
    • 日産自動車:AMT(オートマチックメカニカルトランスミッション)
    • 日野自動車:プロシフト
    • 三菱ふそう:イノマット
    • 日産ディーゼル:エスコット
    • ダイムラー・クライスラー:テリジェント・オートマティック・ギアシフト
    • ボルボ:I-シフト
    • スカニア:オプティクルーズ

システムは従来乾式クラッチとマニュアルトランスミッションを電動エア(エアシリンダー + 制御電磁弁)で制御するものであったが、最近では乾式クラッチの代わりにフルードカップリング+湿式多板クラッチを使ったものや、制御も油圧やモーター、ソレノイドを使ったものが存在する。

[編集] デュアルクラッチトランスミッション(DCT)

詳細は「デュアルクラッチトランスミッション」を参照

ツインクラッチギアボックスとも呼ばれる。マニュアルトランスミッションと似ているがクラッチとメインシャフトが奇数段と偶数段の2系統になっており、次のギアを予めセットしてクラッチを交互に繋ぐ事により素早い変速が可能。

この方式を採用したものとしては

などがある。この他にもフェラーリダッジが採用を発表するなど普及が進んでいる。

[編集] 無段変速機(CVT)

詳細は「無段変速機」を参照

無段変速機は、あらかじめ用意された数種類の変速比(ギアの組み合わせ)を切り替えて選択する多段変速機と異なり、連続的に無段階で変速比を変更できる構造をもつ変速機である。本来は、回転数と出力に一定関係があるエンジンから、エンジン回転数によらず効率よく希望の出力を取り出すための機構であるが、その効果から人間が意識的に変速操作に介入する意義が稀薄であるため、結果的に変速操作の自動化というメリットも付随する。

乗用車に応用される場合は、動力の断続のために自動クラッチと組み合わせられる。近年は低速時にトルコン式同様の特性(クリープ現象)を実現するため、トルクコンバーターと組み合わせて搭載される例が多い。

また一部の自動二輪車や原動機付自転車のスクーターに応用されている自動変速機は、ほぼ例外なくCVTと自動遠心クラッチを組み合わせたものである。

オートマチックトランスミッションが故障した際、在来型であればメーカーや専門業者によって再生(古い物を分解、修理したもの)された「リビルト品」のトランスミッションに交換するのが一般的修理方法であったが、CVTの場合、そのリビルトシステムが確立されておらず、構造やノウハウの制約から専門業者でも十分に対処できないため、故障時には変速機ユニットごとメーカー製の新品に換装せざるを得ないことが多く、修理に多額の費用がかかりがちである。

[編集] オートマチックトランスミッションの歴史

自動クラッチと自動的に作動する変速機との組み合わせで自動車の変速操作を完全自動化しようとする発想でもっとも古い例は、1905年にアメリカのスタートバンド兄弟が考案した2段変速機にまで遡れる。これは遠心力利用の単板クラッチを用いていたが、量産化されるまでには至らなかった。

1920年代から1930年代にかけては、セミオートマチックトランスミッションの一種である「プリセレクタ」などへの応用で、自動クラッチの代用となる流体継手(フルードカップリング)や、遊星歯車式の多段変速機に関する技術開発が進んだ。

1930年代当時、マニュアルトランスミッションにはシンクロメッシュ機構が装備され始めていたが、後年ほど強力なシンクロナイズ機能を備えるまでには至っておらず、変速時には従前同様、ダブルクラッチ等の熟練を要する操作が必要であった。非力な女性や手足の不自由な身体障害者にとっては、当時の自動車の運転は難渋で、何らかの変速作業軽減策が求められていた。

[編集] 史上初の全自動変速機「ハイドラマチック」

1939年、ゼネラルモーターズがオールズモビル1940年型にオプション搭載して発売したハイドラマチックが、現代的なATの始まりと考えられている。これは4段式の遊星歯車変速機とトルク増倍作用のないフルードカップリングを用い、発進時や変速時のクラッチ断接、回転差の吸収をフルードカップリングが行なうものであった。

マニュアルミッションのクラッチがフルードカップリングに置き換わっただけ、ともいえるが、遊星ギアの切り替えに油圧が用いられ自動で切り替えができるようになっている点等、現在の多段ATの原型といえるものである。キックダウン機構等、後年まで自動変速機の必須機能となったシステムを完備していた点も優秀だった。当時のオールズモビルの新車広告には、クラッチペダルに×印を大書したイラストが掲載され、そのイージー・ドライブ性をアピールしていた。

以後、アメリカの主要な自動車メーカーは、戦時中から1950年代にかけてATの開発を促進し、この分野で世界をリードした。大排気量車が主流で経済性を度外視し得たアメリカにおいて、オートマチックトランスミッションはイージードライブ化の切り札となり、同時期に実用化されたパワーステアリングと並んで、アメリカ車の安楽さの象徴ともなった。

[編集] トルクコンバータ導入

トルク増幅作用を備えたトルクコンバータを自動変速機に用いた最初の例は、GMが1948年に発表し、ビュイックに搭載した「ダイナフロー」である。このATは2速ATであったが、2速ギアの切り替えは自動ではなく、通常はギアは2速に固定され、トルクコンバータのストール比に頼って走行、駆動力の必要な場合に手動で1速に切り替えて走行する、というものであった(後述のトヨグライドと同様)。その後他社からも同様のトルコンATが続々と発表された。

これら2速トルコンATは、定速走行時を除いては常時トルコンがスリップした状態で走行する事になる。変速機の構造がシンプルで走りが滑らかになるメリットがあった一方で、燃費や走行性能(アクセル踏み込み時のダイレクト感)の面でハンデがある。これに対し、フルードカップリング多段ATは変速時のスムーズさに欠ける等それぞれ一長一短があり、両者は並行し市場に流通していたが、お互いの弱点を補う形で1950年代後半には3段以上の多段ギア+トルクコンバータのATが登場、その後更なる多段化、ロックアップクラッチの装備等改良が加えられ現在に至っている。

[編集] ヨーロッパ・日本

アメリカ合衆国では上述のごとく1960年代までにはオートマチックトランスミッションが一般的になったが、ヨーロッパ車や日本車は小排気量エンジンによる余裕の無さから、マニュアルトランスミッションが主体であった。

ヨーロッパでは主として対米輸出用の中型車・大型車が1950年代中期からATの装備を始めた。古くはアメリカのいわゆる三大大手自動車メーカー(ビッグ3)、あるいはボルグワーナーなど変速機メーカーから製品を購入するケースが多かったが、ダイムラー・ベンツ(現ダイムラー)などのように自社開発に取り組んだケースも見られる。

自動変速機の量産化や小型化は1970年代から1980年代にかけて著しく進展、やがて安価な車種や横置きエンジン前輪駆動の小型車にも搭載されるようになった。その結果、現在では一部のスポーツ指向の車種を除き、高級車から軽自動車に至るまで、乗用車の変速機構の主流となっている。

[編集] 日本での展開

日本でのトルコン式AT車は、その初期には2速式か、変速ギア自体がないトルコン単独作動式のいずれかであった。

日本の市販車両で最初のトルクコンバータ付車となったのは、1957年に富士重工業が発売したスクーターの「ラビット・スーパーフロー」で、変速ギアを持たず、従来通りに手動クラッチ及び変速機を備えたスクーターと併売された。

四輪車での最初は、産業用トルクコンバータのメーカーであった岡村製作所が自社開発して1958年に発売した600ccの前輪駆動車「ミカサ」で、ライトバン「ミカサ・マークワン」やオープンカー「ミカサ・ツーリング」を少数製造したが、大量生産には至らなかった。同社のトルコンは東洋工業の軽乗用車マツダ・R360クーペ(1960年)にもオプション搭載された。愛知機械工業が1961年に開発した200ccのミニトラック「コニー・グッピー」は、変速を完全にトルコンに頼った構造を採っている。これらは小型軽量車において、その軽量性を活かし、イージードライブ化も兼ねた簡易変速機として利用した初期の事例と言える。しかしその後、軽自動車で完全な自動変速機を導入した事例は本田技研工業が1967年のN360以降採用した一時的なケースに留まり、ホンダの軽乗用車生産中止後は、1970年代末期までATの軽自動車は途絶えた。

大手メーカーの一般的四輪車では、1959年にトヨタ自動車が自社の商用車「マスターライン」が最初で、同系列の乗用車であるクラウンに先立つテストケースとなった。自動変速機採用の動機は、競合各社に先駆けたイージードライブ化と、北米輸出を意識したものである。搭載された2速半自動式ATは、当時実績のあった2速ATの一つであるGM「パワーグライド」(1953年発表)を細部にわたり模倣し、2000cc未満の自社エンジンに適合させる改良を施したもので、トヨグライドと称した[2]

競合各社もこれを追うように1960年代以降、上級モデルを中心として、海外メーカーとのライセンス契約での製造を図り、或いはボルグワーナー製3速AT「BW35」[3]を輸入搭載するなどの対抗策を採った。

トヨタは上級車に限らず早くからATの普及を真剣に考えており、クラウン系に続いて1962年には同社でもっとも小形(排気量700cc)の低価格大衆車パブリカ(P20系)にトヨグライドを搭載した。その後も1963年にコロナ(T20系)、1967年にはカローラ(E10系)と小型車、大衆車をはじめ、商用車にも積極的に搭載車種を拡大している。この動きには1000cc超のモデルを生産する他社も、対米輸出を睨んでの追随を余儀なくされた。

しかし、トルコン式遊星歯車ATの基礎技術の多くは、アメリカのメーカーに特許を押さえられている部分が多く、結果として多くの日本メーカーは、海外メーカーと提携したうえで、自動変速機メーカーの協同設立という形で特許を利用して変速機の量産に当たることになった。

それらの例外は本田技研工業のホンダマチックで、同社は常道である遊星歯車変速機でなく、トルコンと組み合わせた通常の手動変速機(常時噛み合い式)に、各ギア間の変速用湿式多板クラッチ機構を追加した独自設計を用いた。

  • 1969年 アイシンワーナー(現アイシンAW)設立。
  • 1970年 日産自動車、東洋工業(現マツダ)、米国フォードの合弁により日本自動変速機株式会社(現ジヤトコ)設立。

[編集] オートマチックトランスミッションの基本操作

三菱ランサーのINVECS-IIIセレクトレバー。Dレンジから横にレバーを倒せば、手動でのギア選択も可能になる。

オートマチックトランスミッションの操作レバーは、セレクトレバー、またはセレクターと呼ばれる[4]

セレクトレバーには複数の操作位置(ポジション)が存在し、車両の走行状態(走行レンジ)に応じて切り替え操作する必要がある。その操作位置をレンジと呼ぶ。

大型車では、セレクトレバーに代わって押しボタンを採用するものもある。1950年代にはアメリカ製大型乗用車やそれをコピーしたソビエト連邦製大型乗用車で、プッシュボタン変速を採用した事例もあったが、操作の確実性ではレバー式に分があり、乗用車では一般化しなかった。

[編集] レンジの概要

「P」パーキングレンジ
  • 駐車中に使用。変速機内部で駆動系が固定され、動かせなくなる。エンジンやハイブリッドシステムの始動・停止が可能である。スタータースイッチからキーを抜くことができる。
  • 駆動系の固定は変速機内部のみで、車体に外部より過度な力がかかると変速機内のストッパーとなる部品が破損し、車両が動き出す事がある。このため安全策として、駐車時にはパーキングブレーキ輪止めの併用を要する。
    • ただし、厳冬期、特に積雪地帯の低温下の駐車の際には、凍結によってパーキングブレーキ解除が不可能になる恐れがある。このような場合、手動・足動の機械式パーキングブレーキを使わず、パーキングレンジのみで駐車し、必要に応じて安定した車止め等で補うことが推奨されている[1]
  • 大型トラック、バス用のATでは上記駆動系固定部の強度上の問題から「P」レンジを持たないものが多い。
「R」リバースレンジ
  • 後退時に使用する。Pレンジと前進用のポジションとの間に位置する事例が多い。
  • このポジションでは電子音でブザーやチャイムが鳴り、運転者に警告する車種が多い[5]
「N」ニュートラルレンジ
  • 変速機内部がフリー状態となり、エンジンからの動力が駆動系に全く伝わらないポジション。タイヤからの力(バックトルク)も変速機やエンジンに伝わらない。エンジンを始動できるが、安全のため、始動は「P」レンジで行なうことが推奨される。
「D」ドライブレンジ
  • 通常走行時に使用する。このポジションに切り替えておけば、自動変速機能が完全に作動し、発進時から高速巡航時、停止時に至るまで、基本的にアクセルペダルとブレーキペダルの操作だけで走行可能である。
  • バリエーション
    • 4速以上の変速段を持つモデルでの標記は、単純な「D」標記でない事例もある[6]。また、オートマチックトランスミッション搭載のバスなどでは、Dレンジが「3」となっているものがある。
    • CVT車では、「D」に次ぐ低速側のレンジ名がメーカー毎の考え方で様々に異なっている[7]
    • マニュアルモードが備わる場合は、「D」以外の1(L)、2、3レンジがないこともある。
「2」セカンドレンジ
  • 下り坂などエンジンブレーキを使用する際に使用する。シフトアップの上限が2速になる。
  • 一部車種では2速発進時に使用(その様な車種の中には2レンジに入れた上で特定のスイッチを操作して2速発進に切り替えるものがある)。
  • 基本的には2速以上へシフトアップしないが、アクセルを過剰に開けてエンジン回転が限界に達したときは、エンジンやトランスミッション保護のためにシフトアップする仕様になっているものが多い。
「L」ローレンジまたは「1」ファーストレンジ
  • 急な下り坂など強力なエンジンブレーキを使用する際に使用する。1速に固定されシフトアップしない。
  • 1速にロックする為か「L」をロックレンジと称する場合があるが誤用である。(メーカの取扱説明書でも「ロー」と表記されているものはあっても、「ロック」というものは無い。)[8][9][10]
  • ホンダの軽自動車など、Lまたは1レンジがない車種がある。また日産・ローレル(6代目、5速AT車)やホンダ・オデッセイ(2代目、V6)やホンダ・インスパイア(4代目)などでは2レンジに入れてから「1」ボタンを押して1レンジに入れるようになっていた。

[編集] 安全装置

AT車の多くの車種では急発進などの危険を防止するため、ブレーキペダルを踏んで停止させた状態からでなければ「P」レンジから他のレンジへの切り替え操作ができないようになっており、この機能をシフトロックと呼ぶ。

このシフトロックシステムは多くの場合電気的に制御されている[11]ため、回路異常やバッテリー上がりなどで、ブレーキを踏んでいても切り替わらなくなってしまうことがあるが、その時にはシフトロックを手動で解除してから切り替える[12]

AT車は通常「P」レンジか「N」レンジでのみエンジンを始動できる。他のレンジでは安全装置(インヒビター)の作用でスターターモーターが回らず、エンジンは始動しない。通常は安全のため「P」レンジでエンジンを始動する。「N」レンジでエンジン始動が可能なのは、走行中にエンジンが停止してしまった場合に備えての設定である[13]

[編集] セレクトレバーの操作方法

AT車のセレクトレバーは、ドライバーから見て、車体中央に配置する方式(センターフロアもしくはダッシュボード下部中央に配置される。マニュアル車におけるフロアシフト等にあたる)と、ステアリングポストの横に取り付けられたコラム式がある。

更に中央配置式には、操作方向が前後に一直線になっている単純な形式以外に、左右にジグザグの凹凸を持つゲートを配して故意にセレクトレバー移動を支障させ、横方向にも動きを持たせた「ゲート式」とがある。

不意のレンジ変更を防ぐ為に特定のレンジ間(PとRの間など)のレンジ変更を行う場合はそれぞれ、一直線になっているものはレバーに付いたボタンを押しながら、コラム式ではレバーを手前に引きながら、ゲート式ではゲートに沿うようにレバーを倒しながら、操作を行う構造となっている。特定のレンジ変更以外でもその操作をしながらレンジ変更を行う事は可能であるが、誤操作を防ぐために必要ないときは操作をせずにレバーを動かす事が望ましい。

  • セレクトレバーが一直線になっているものには、マニュアル車と同じくレバー根元にシフトブーツをかぶせたものもある。

[編集] セレクトレバー以外の操作

AT車の多くの車種には、オーバードライブスイッチ(O・Dスイッチ)が搭載されている。Dレンジでこのスイッチを入れておくと、加速に応じてギアが最上段まで切り替わる。

スイッチを切っておく(オフにする)と、一定のギアから上に切り替わらなくなる(正確には変速比が1.000未満のギア(=オーバードライブ)で、多くの車種では3速が上限となっている)。普段このスイッチはオンの状態にしておくと、高速域でのエンジンの回転数を押さえられ省燃費になる。

山道走行時のアップダウンなどでギアが頻繁に切り替わるような場合はオフにするとスムーズに走行できるようになる。また、渋滞や混雑などストップ・アンド・ゴーが多い場合もオフにすると無用なシフトアップを避け、適度なエンジンブレーキで惰性走行を押さえる効果がある。エンジンを切ってもオフの状態が維持されるものが多いが、ホンダ車等で、一旦エンジンを切ると、次の始動時に自動的にオンに復帰するものもある。[14][15]

[編集] 脚注

[ヘルプ]
  1. ^ クラッチペダルが無い為、アイドリングストップ機構を採用しづらい面がある。
  2. ^ 2速半自動式とは、通常は発進から最高速まで2速のみで走行し、登坂や牽引などで力が必要な際に手動で1速を選択する方式で、トルコン依存の根本的思想は1948年のダイナフローと大差ない。
  3. ^ 変速機メーカーであるボルグワーナーが1960年代初頭に開発した小型・中型車向けのトルコン式3速ATで、基本機構の完成度が高く、30年近くに渡って生産された傑作製品である。世界各国のメーカーがこれを購入して自社のモデルに搭載したほか、各社でのAT自力開発の際にもしばしば手本となった。
  4. ^ 変速(チェンジまたはシフト)は変速機が自動で行なうため、マニュアルトランスミッションに倣って「チェンジレバー」「シフトレバー」と呼ぶことは本来誤用とされた。しかし近年ではセレクトレバーにシフト(手動のギア段選択)機能を持たせた車両も現れており、明確な区別は出来なくなりつつある。
  5. ^ メーカーの判断により、音の鳴らない車種もある。トヨタや日産・ホンダの一部の車種など多くの車種では「ピーピー」というブザーだが、ホンダの殆どの車種は「ピンポン、ピンポン」と鳴る。また、BMW、フォードやマツダの一部車種などに、「ポーン、ポーン」と鳴るのもある。
  6. ^ メーカーによって異なり、「3」(トヨタ・日産・三菱・スバル)、「D4」「D3」(ホンダ)、「S(スロープ = 坂)」(マツダ)、「L」(トヨタ・日産(CVT車)・三菱)、「1」(日産(CVTではない通常のAT)・ホンダなど)となっており、マニュアルモード付きについては「S」(トヨタ ギアが完全な固定ギアではならないタイプ)、「M」(トヨタ ギアが完全に固定ギアになるタイプ・日産・ホンダ)となっている。
  7. ^ 「Ds(スポーツドライブモード:ギア比が通常より大きくなり、山道や高速道路での追い越しが楽になり、エンジンブレーキもDより強くかかる)」(三菱ランサー)もしくは「S(スポーツ)」(ホンダ・フィット)になっていたり、「D」からいきなり「L」に飛んだりしている。また、特に強いエンジンブレーキ・回生ブレーキを手に入れる為の「B(ブレーキ)」(トヨタ・プリウスヴィッツ)というレンジ持つものもある。
  8. ^ Nunney, Malcolm James. Light and heavy vehicle technology. Butterworth-Heinemann, page=349. ISBN 0-7506-8037-7. 
  9. ^ Erjavec, Jack. TechOne automatic transmissions. THOMSON, page=162. ISBN 0-7668-1169-7. 
  10. ^ Munroe, Carl H.. Powerglide Transmission Handbook: How to Rebuild Or Modify Chevrolet's. Penguin Putnam, page=20. ISBN 1-55788-355-6. 
  11. ^ トヨタ自動車のコラムAT車(初代ノアや2代目イプサムなど)や、初代RVRブレーキペダルから伸びたワイヤーにて機械的に規制していた。バッテリー上がりに影響を受けず、手動の解除機構も備える必要が無いシンプルな構造であった。
  12. ^ シフトロック解除は専用のボタンを押したり、シフトレバー付近にキーを差し込んだりして行う。メーカーによっては、エンジンキーの位置がアクセサリー(ACC)の場合のみシフトロックが働かず、ブレーキペダルを踏まなくてもパーキングを解除できるものがある。
  13. ^ 「P」レンジでしかエンジン始動が出来なければ、停止したエンジンを再始動させるためには停止する必要がある。しかしエンジン停止状態ではパワーステアリングやブレーキブースターが機能せず、安全な停止自体が困難になる。
  14. ^ 最近のホンダ車ではD3スイッチという名称を用いている。O・Dスイッチと異なる点は、オンとオフの関係が逆になる。又、エンジンを切ると自動的にオフになる。
  15. ^ オーバードライブとなる変速段があり、かつオーバードライブスイッチのないAT車では、マニュアル変速が可能(マツダのアクティブマチックなど)か、もしくは「D3」(あるいは「3」)レンジが設定(スバル・ホンダ・三菱の7ポジションAT及び5速AT、日産・トヨタのゲート式セレクタATなど)され、セレクトレバーによってオーバードライブスイッチと同等の操作を可能にしている。一部の車種では、セレクトレバーとは別にスイッチがついており、それを選択する事で自動ギアチェンジのパターンを複数のものから切り替える事ができる。例えば日産車では「POWER」「AUTO」「SNOW」、ダイハツ車では「ECONO」「AUTO」「SNOW」といったスイッチがあり、状況に応じて切り替えられる。

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