自動列車停止装置

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。210.79.44.209 (会話) による 2012年6月2日 (土) 09:51個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (→‎車両別の対応状況)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

自動列車停止装置(じどうれっしゃていしそうち、ATS: Automatic Train Stop)は、鉄道での衝突防止や過速度防止の安全装置(=自動列車保安装置と呼ぶ)の日本での分類の1つ。列車や軌道車両が停止信号を越えて進行しようとした場合に警報を与えたり、列車のブレーキを自動的に動作させて停止させ、衝突脱線などの事故を防ぐ装置である。

定義

日本工業規格のJIS E 3013(鉄道信号保安用語)では、以下のように定義されている。

自動列車停止装置
列車が停止信号に接近すると、列車を自動的に停止させる装置。ATSともいう。
自動列車制御装置
列車の速度を自動的に制限速度以下に制御する装置。ATCともいう。

ATSには停止信号による自動停止機能のほかに、停止信号また信号現示に関わりなく制限速度設定を超えた場合に警報・減速または停止させる機能がついたものもある。

日本の鉄道軌道法において一般的な自動列車保安装置であるが、鉄道事業者や軌道経営者によってその内容は大きく異なり、機能自体はATCと遜色のないものを使っている事業者もある。しかしながら、ATSにおいて安全走行を確保する主体は運転士であり、ATS装置は運転士のヒューマンエラーに対するバックアップが目的であるのに対し、ATCにおいてはATC装置が安全走行を確保する主体となっている点が異なる。

日本以外の国においては、安全装置の考え方が違い区分法が違うので、ATCを含め直接の対応語はない。そのため同様の機能の装置に様々な命名があり、AWSと称しているところもある。

歴史

ATSの歴史は過去に発生した鉄道事故と、その教訓による改良の繰り返しの歴史とも言える[1]

ATS動作・構造概要と分類

ATSの機能としては大別して信号現示に対して働く衝突防止のATSと、信号現示とは独立に進行信号で働く過速度に対するATSがある。また、運転上の取扱い方法は大きく2タイプに分けることができる。

  • 停止信号に近づいたときに警報を発し、乗務員が警報に応じた所定の確認の取扱をしない場合に列車のブレーキを動作させる装置。(国鉄B型・S型)[2]
  • 乗務員が信号に従った運転取扱いを行っている場合はその運転に介入せず、乗務員の(体調不良、錯誤、故意など理由を問わず)異常な取扱いが行われた場合にだけ介入して列車のブレーキを動作させる安全装置。(上以外のタイプ)

ATS装置には、様々な構造があり、メーカーから各事業者に納入されていて、同一路線で併用・機能分担されているものもあるので事業者毎の説明にはなじまない部分があり、構造・分類を概説する。

制御方式

ATSの制御情報を地上から車上に伝える方式とその装置にはいくつかの種類がある。

連続制御・点制御

ATSの制御情報を連続的に車上に伝えるものを「連続制御」、地上子など1点で情報を伝えるものを「点制御」としている。なお、この区別は、情報の伝達に関するものであり、受けた情報に基づく速度照査の方法とは異なる。「点制御」の場合にも、速度照査に関して、地上子から受けた情報を即時に照査する「点照査」の方式と、地上子からの情報を記憶して連続して照査する「連続照査」の方式がある。

地上装置・車上装置

車上子(写真中央○部)

ATSは、基本的には以下の装置によって構成される(詳細は後述「ATS動作・構造」参照)。

地上装置
地上に設置されている、信号機の現示や速度制限などの情報を列車に送る装置。
車上装置
車両に搭載されている、地上装置が送った情報を受け取り、条件によって自動的にブレーキを動作させる装置。特に、列車の速度がある値を超えた時に自動的にブレーキを動作させる機能を速度照査機能(速照)という。

地上装置と車上装置で情報を送受信する方式には、大まかに分けると以下の方式がある。

打子(うちこ)式
信号に連動する線路上のトリップアーム(可動打子)で、機械的に列車のブレーキコックを操作する方式。(点制御)
地上子式
線路上に置かれた「地上子」を用いて、電気的に点で列車へ情報を送る方式。(点制御)
軌道回路式
レールに流した信号電流を用いて、電気的に列車へ情報を送る方式。(連続制御)

実際には、送受信の方式が同じ場合でも地上子やレールに流す信号の周波数や電文(コード)地上子の設置場所などが事業者によって異なるため、さらに細かく分けられている。地上、車上ともに信号の周波数などを含めた方式が一致して初めてATSがシステムとして有効になる。ATSの持つ「地上から列車にブレーキを動作させる」仕組みを利用したものとして、踏切防護装置、曲線速度制限装置、分岐器速度制限装置が存在する。

軌道回路

軌道回路とは左右の線路を電送線とし閉塞区間先端から入り口に向け信号電流を送り車軸が左右を短絡することで、閉塞入り口には信号電流が届かなくなって在線を検知して停止信号となり、一方車軸での短絡で1巻きのコイルを構成してこれを車上コイルで拾って地上から車上に情報を流す方式をいう。連続制御可能であり、信号現示の変化に対しての追従性が良い。ATS-B、1号型ATSC-ATS、阪急ATS、ATCなどで使われている。

軌道回路に流す信号電流の種類により商用周波数軌道回路、分倍周軌道回路、AF軌道回路[3]、と分けられる。列車在線検出のための信号電流と、信号現示を列車に伝えるための信号電流があり、ATS-Bや新幹線ATCでは両者が兼用されているが、後日ATSを拡張設置した場合などは別の信号電流として重畳するものもある。

地上子

情報を受け渡すための地上装置一般。動作原理により変周式、トランスポンダ式などがあり、これを基準に制御する場合が「点制御」となる。ただし、「点制御」で受信した速度制限値などのデータを記憶して参照する場合には点制御でも「連続照査」「連続参照」となり、単純な「点照査」に比べ保安度は高まる。

変周式(単変周・多変周)地上子

変周式とは、受信コイルと結合帰還型発振回路の送信コイルで構成される車上子が、特定の共振周波数を持つLC回路で構成される地上子の上を通過すると、電磁結合により車上子の発振周波数が地上子の共振周波数に引き上げられるので(これを変周作用という)、この周波数をフィルタ回路で検出して地上情報を得る方式を指す[4]

国鉄のATS-Sでは、車上の発振周波数を105kHz、停止信号時のロング地上子共振周波数を130kHzとして、不動作時は地上子コイルをリレー接点で短絡して共振点をなくして停止信号を伝えた。これは1情報1共振周波数方式だったから、これを特に「単変周」と呼んだが、現在では車上からの地上子良否検査を可能にするためコンデンサを介して短絡して不動作時の共振周波数を103kHzとして、さらにこれを強制振り子制御の位置マーカにしたから電気的に見れば純粋な単変周地上子はなくなった。ATS-Sx、ATS-Ps地上子はそうした有効 - 無効(取消 : 103kHz)2値型の単変周地上子である。多変周は地上子に複数の共振周波数を割り当てるもので、これに信号現示とその制限速度を割り当てたり、設置位置と併せ限界速度パターン発生に使用する。

京王、小田急、東武などの信号ATSがこの多変周方式で、東武ATS (TSP) は周波数の一部をパターン発生地上子に割り当てている(信号ATSとは別に過速度・過走防止ATSがある)。

最近の分類では意味の薄れた「多変周 - 単変周」を避け「多情報 - (単情報)」と整理されている。またATSシステムとしては多数の変周周波数を使用しても、単機能地上子として1周波数ということもある。

トランスポンダ式地上子

トランスポンダ(地上子)とは、鉄道ではデジタル情報送受地上子のことで、送信機能のみのものも含めて呼んでいる。

ATS-Pで知られる様になったが、それ以前にも新幹線には多数使われている。

元々は送受機能を備える「応答装置」で、問い合わせに対して応答するもの、もしくは中継器を指している。

速度照査

列車の速度を計測し、その速度が許容された速度の範囲内であるか否かを照合する。これを速度照査(そくどしょうさ)という。速度照査の方法やその制御もいくつかに分類できる。

点照査・連続照査・パターン照査

速度照査には、ある地点でだけ照査する「点照査」と、連続して照査し続ける「連続照査」があり、さらに従前一定値だった照査速度を基準位置に対する列車の位置毎にリアルタイムで算出・照合する「パターン照査」がある。連続制御ではない点制御方式であっても速度制限コマンドを記憶して照査を続けることも「連続照査」方式という。

地上時素式過速度・過走防止装置

京王線高尾山口駅構内に設置されている過走防止用の地上子
車止めに向かって複数設置されている。線路横の数字は非常ブレーキが作動する速度上限である。

列車検出コイルで地上タイマーを起動して一定時間停止地上子を有効にし、この間に列車が停止地上子に到達すると非常停止 (ATS-SN) や警報(ATS-S警報)する(点照査型)方式。

時素式という照査の原理上絶対停止(0km/h(=時間差∞))を設定できないため、終点の駅などでは過走防止装置として狭い間隔で多数の地上子を配置することに加え、末尾に絶対停止地上子を置いて過走を抑えていることが多い。地上装置に電源が必要なため原則的に分岐器過速防止・警報装置として駅構内にのみ設置されていたが、2005年平成17年)の曲線速照義務化通達で曲線にも利用されるようになった。

他の方式と併用して、低速で使用する例に京王電鉄小田急電鉄がある。

京王電鉄の過走防止装置は時素0.5秒の速照地上子対を3 - 4対設置する方式の他に、1秒時素で15地上子を並べて地上タイマー起動コイルと停止コイルを兼用させて次々切り替える方式のものが行き止まり式の終端駅である、新宿駅・渋谷駅・高尾山口駅に設置されており、ほぼ同等のものが小田急線新宿駅にも設置されている。

車上時素式過速度・過走防止装置

単変周点制御式(点照査型)

2基一対の地上子を車上子が通過する時間を計って速度を照査する方式。変周式の場合、地上電源が要らないので地上子を置くだけで動作でき、任意の地点に設置できる。ATS-Sの改良に際しJR東海がATS-STとして独自に開発しJR東海以西のJR各社に採用された。

私鉄ATSでは速度照査が義務付けられているのでATS-Sxとは違いこの過走防止装置で高速突入事故は起こらないが、過走に対する絶対停止機能は義務づけがない。その結果、新岐阜駅事故などの低速突入事故が繰り返されている。そのため終端駅などへの進入の際には、車止めへの衝突防止などのために用心深さ(人的用件)が特に要求される。

黎明期のATS

ATSが導入される前は、「車内警報装置」(車警)という自動列車保安装置が使用されていた。この装置は文字通り「警報」を発生させるのみであり、自動的に列車を停止させる機能はなかった。

打子式ATS

打子式ATSのトリップアーム
(地下鉄博物館の展示物)

国鉄・JRでは実用として使用されたことはないが、打子式ATSが1927年東京地下鉄道(現在の東京地下鉄銀座線)の開業時に採用された。実用的なATSとしては日本で最初に採用されたATSである。帝都高速度交通営団(現在の東京地下鉄丸ノ内線大阪市交通局大阪市営地下鉄御堂筋線四ツ橋線中央線)・名古屋市交通局名古屋市営地下鉄東山線でも採用されていた。

線路上に設置されたトリップアーム(可動打子)を地上子、車両床下に設置されたエアコックを車上子として用いる。重複式が特徴で、2個の信号機が連続して停止現示を示し、その間のアームが立ち上がり、その状態で列車が通過するとアームがエアコックに当たる。エアコックはブレーキ管に接続されており、これが開かれるため非常ブレーキがかかり2個目の停止信号手前で停止する仕組みである。

なお、停止信号現示以外に警戒信号現示でもトリップアームが立ち上がる路線もあった。その場合、警戒現示が続いていても、列車が手前のある地点を通過してから一定時間後にトリップアームが下がるように設定されていた。つまり、列車が警戒信号に従って徐行していれば、トリップアームは既に下がっていて、そのまま通過できる。トリップアームが下がる前に進入すれば速度超過と判定されて非常ブレーキがかかる。簡潔な方法ながら確実な速度照査を行なっていた[5]

大阪市営地下鉄各線では1970年代ごろには早々と使われなくなったが、営団地下鉄(当時)銀座線・丸ノ内線では1990年代まで、名古屋市営地下鉄東山線では2000年に入ってからも使用が続けられていた。原始的な方式ゆえに列車密度の限界はあるが、単純な機構のため信頼性が高く、これら地下鉄での衝突事故は皆無である。しかし、物理的手法の限界から列車の増発による運行の複雑化に対応することができず、銀座線では1993年平成5年)、丸ノ内線では1998年(平成10年)に使用を終了している。なお、名古屋市営地下鉄東山線が2004年(平成16年)で使用を終了したことにより、日本の鉄道事業法や軌道法に基づく鉄道で、この方式を用いたATSは全てATCに置き換えられ消滅した[6]

国鉄・JRのATS

日本国有鉄道JRグループで採用されたATSには、下記のような種類がある。また、これらの路線を引き継いだ第三セクター鉄道についても、多くの場合は同様のATSを使用している。

下述の「私鉄のATS」に比べ膨大なローカル線を抱えた旧国鉄・JRに対する政策的配慮から安全面で劣る状況が認められていた。

なお、かつてはA形という形式があったが、これは(車警以来の設備の老朽化により)1970年ごろまでに廃止されてS形に置き換えられている(使用実績が乏しいため、ここでは説明を省略する)。

B形(軌道電流形)・S形(地上子形)

ATS車上表示機
ATS-S地上子

いずれの方式も、ATS設置以前に使われていた車内警報装置に、5秒以内に確認操作をしなければ非常ブレーキがかかる機能を追加したものが元となっている。

B形は主に国電区間で用いられた方式で、2本の線路の間に流された軌道電流を用いる。B形は、(通常は流れ続けている)軌道電流が一定時秒停電することにより、「停止信号接近」の情報が地上から車上へ伝達される。

S形は国電区間以外の線区で用いられた方式で、線路の線間に設置された「地上子」と、車両に設置された「車上子」の組み合わせによって構成されている。S形は「変周式」であり、車上の発振周波数が(車上子コイルを通じて)地上子の共振周波数に引き上げられることにより、「停止信号接近」の情報が地上から車上へ伝達される。国鉄が試験を行っていたC形の改良型だが機能の面での違いはなく、真空管を使った回路からトランジスタを使った回路に改良されている。

S形の場合、地上信号の停止現示に対応するロング地上子 (130kHz) を通過すると運転台において警告音(ベル)が鳴り、そこで運転士が5秒以内にブレーキをかけて(重なり位置にして)、確認ボタンを押すとチャイム(いわゆる「キンコン音」、一部の車両は電子音のタイプもある)に変わる(実際にはチャイム音はベル音とともに鳴り始める)。

B形の場合は、上記の「ロング地上子を通過」を「軌道電流停電を検知」と読み替えるのみで、あとはS形と同じである。

この確認作業をしない場合、列車は自動的に非常ブレーキがかかる。しかし、私鉄に出した運輸省通達では必須とされた速度照査機能がなく、いったん確認作業をしてしまうと、それ以降は停止信号を通過しても非常ブレーキがかからないという欠点がある。実際、ATS確認作業後の運転扱い誤りが原因の重大事故が幾度も発生し、国鉄は何度かの改良を加えたが、根本的な改良はATS-Pまで持ち越すこととなった。

2009年(平成21年)現在では、B形の区間は全てATCまたはP形に換装され、S形の区間はP形を追設、あるいは即時停止地上子 (123kHz) や時素式速度照査地上子対 (108.5kHz) による非常制動を付加したSx形などに改善された。(旧来のS形をそのまま含んでSx形を構成している)

ATS-S改良形(ATS-Sx形)

警報機能のみのS形に、全JRが即時停止機能を追加し、さらにJR東海以西の各社とJR貨物で時素式速度照査の機能を追加した方式。

即時停止機能は、確認ボタンを押して警報を解除しても、停止現示の絶対信号機直下の地上子を通過(信号冒進)すると即座に非常ブレーキをかける機能である。車上時素式速度照査機能は、二対の地上子対通過時間を車上タイマーと比較して速度照査し、速度超過時には非常ブレーキをかける機能である。即時停止地上子と列車検出地上子、地上タイマーを組み合わせた地上時素式速度照査装置もある。

ATS-S改良形はJR各社で呼び名が異なり受信機が異なるものもあるが、動作周波数は共通で互換性がある。東日本旅客鉄道(JR東日本)と北海道旅客鉄道(JR北海道)はSN東海旅客鉄道(JR東海)はST西日本旅客鉄道(JR西日本)はSW(SW2)(車体表記はS)、四国旅客鉄道(JR四国)はSS(一部車体表記はSS)、九州旅客鉄道(JR九州)はSK日本貨物鉄道(JR貨物)はSFと呼ばれている。

SN形・SN形には即時停止機能のみが追加されているが、ST形にはSNの即時停止機能に加え車上時素式速度照査機能(0.5秒以内で通過すると非常ブレーキが作動する)と列車番号送出機能が追加されている。また、SW形ではST形から列車番号送出機能を省略して車上装置を設計し直したもので、このSW形がほぼそのままSK形、SS形となった。SF形は当初はSN型機能だったが後日車上に時素速照ボードを追加してST形に対応した。

JR東日本車のうち、JR東海管内へ直通運転をする運用を持つ車両には、ST形と同等の車上時素式速度照査機能を持つATS(SNと表記)を搭載している。

JR東日本管内に直通運転をしている伊豆急行の車両にはSiの表記があるが、呼び名が異なるだけでSN形と同じものである。ただし、伊豆急線内では地上装置として速度照査機構を設置しており、信号の現示速度を守っていればロング地上子による警報ベルは鳴動しないようになっている。

それと同様に、かつてJR西日本管内からの直通運転があり、現在でもキヤ141系などJR西日本所属の検査車両などが入線する富山地方鉄道の鉄道線では、JR西日本と同じくSW形を採用している。JR東海との関係が深い愛知環状鉄道線伊勢鉄道伊勢線東海交通事業城北線名古屋臨海高速鉄道西名古屋港線(あおなみ線)では、JR東海と同じST形を採用している。また、JR貨物との関係が深い水島臨海鉄道では、ATS-SFとほぼ同形(確認扱い運転がないタイプ)のATS-SMを採用している。JR線からの直通運転を行わない第三セクター鉄道でもS形からSx形に更新する事業者が増えている。

なお現状では、改良機能に対応した地上子(即時停止地上子・時素式速度照査地上子)は原則として、絶対信号機(場内・出発信号機)・線路終端部・分岐部・急曲線部のみに設置する拠点設置であり、閉塞信号機には設置されていない。ただし、例外として、JR東海の一部駅・あおなみ線の全駅の場内相当閉塞信号機には、即時停止地上子が設置されている。愛知環状鉄道線ではすべての閉塞信号機にも時素式速度照査地上子が設置され、すべての信号でロング地上子をなくしている。

ATS-P形(デジタル伝送パターン形)

ATS-P地上子(有電源地上子)
ファイル:2007 03150006.JPG
蒸気機関車D51形のATS-P形・Ps形車上表示機(2007年3月15日)
ATS-P表示灯(JR西日本)

ATS-Pは、確認ボタンを押すと後は制御が働かなくなるATS-Sの欠点を改善するために開発されたATSである。

システム概要

停止信号・速度制限の位置、勾配、距離などの情報を地上装置・地上子から列車へ伝送し、列車ではその情報に基づき、自車の制動性能と走行距離から刻々の上限速度すなわちパターン(パターン : その列車が制動開始から停止・減速するまでの速度変化を表す曲線)を作成し、その上限速度値を用いて速度照査を行う。

停止信号を基準位置として車上で刻々算出した制限速度値(パターンと呼ぶ)と比較して、そこまでに徐々に減速できるため冒進は起こらず、安全のための余裕距離もほとんど不要な優れた方式である。停止信号に対する制限と、4種の速度制限を設定でき、それらのうちの最低値で速度照査を行う。ATS-S・ATS-Bと異なり、警報ベル音がなったあとに行なう確認扱い動作は必要としない。

速度照査はATS-S改良型のような点照査ではなく、安全のための無駄がほとんど要らず列車の制動性能が正常ならば停止信号冒進は発生しないため、車間を詰めながら非常に安全性の高い方式である。

ATS-Pが優れている理由は、上述の通り車上演算パターン型照査方式の採用により冒進がなく輸送容量が増えることで、これはトランスポンダ使用のデジタル方式採用によるものではない。変周型ATS-Sx上位互換でパターン照査を導入したATS-Ps型はデジタル方式ではないが、同じ点で優れている。

反面、降雪時など想定制動性能を保証できない環境下では、安全のための余裕距離がない分、適切な位置までに停止・減速できない恐れがある。現に特急「はるか」において琵琶湖線で降雪下に280mの冒進事故が発生しており、増圧改造や減速運転、早期制動など適切な対処が求められる。

地上子から情報を受信した列車は、停止現示の信号機やカーブなどの速度制限までの距離に応じて、パターンを作成・記憶する。実際の速度がパターン速度を超える恐れがある場合は、運転台のATS-P動作表示灯にて「パターン接近警告」を表示する。

パターン速度を超えると、直通ブレーキ系車両では常用最大制動にて信号機やカーブの手前で列車を減速または停止させる(常用制動は緩解時間が短いので、動作しても遅延が発生しにくい)。自動ブレーキ車では非常制動にて停止する。

信号関係の「保安コード(電文)」はJR各社共通で協議決定すると定められているため、JR各社間で互換性がある。

JR東日本とJR西日本で異なるコードとなっているのは「列番情報(JR東日本)」「列車選別情報(JR西日本)」「速度制限を許容不足カント量(110mm=振り子式、70mm=高速、60mm=普通、50mm=機関車列車)毎に加算するコード領域(JR西日本)」「架線電圧切替、交直切替(JR東日本)」などである。

「速度制限を許容不足カント量ごとに加算するコード領域」については一部の曲線に導入されていたが、1990年(平成2年)ごろの導入以来2005年(平成17年)まで、設定値の約2/3に誤設定があり、多くは間違って共通(=JR東日本)方式で設定していたことが尼崎事故調査委員会の指摘により判明した。共通方式設定なら制限速度がJR東日本同様に最低車種になるだけで危険はなかったが、設定作業部局がJR西日本方式として機能拡張されていたことを知らなかった。発表時には誤設定の多数が「共通方式設定」だったとは解明されず、適用ミスで35km/h超過といったミスもあって、全国の鉄道事業者に設定値の点検を求めるなど問題になった。

なお、このコード領域については、2005年(平成17年)のJR福知山線脱線事故を受けての曲線速度照査義務化に伴い、JR東日本にも採用されることとなった。

以上の位置基準型の車上演算型速度照査方式、いわゆるパターン型速度照査が(停止信号)冒進のない安全なATSとしてJR東日本を中心にATS-Pとして普及し、安全度を落とさずに列車間隔を詰め線路容量を増やすことに成功した。その照査方式が自動列車制御装置 (ATC) にも取り入れられDS-ATC/D-ATC/KS-ATC=ATC-NSなどで採用されて線路容量を増やした。総武快速線 - 横須賀線東京トンネルや埼京線池袋駅 - 新宿駅間など、在来線のATC区間をATS-Pに換装した例も現れている。

なお、JR東日本が保有する「C61 20」、及び「D51 498」には、ATS-P型が追設されている。また大手私鉄の相模鉄道でも採用が決定している(現在のATSを廃止して更新予定)。これは相鉄がJRと相互乗り入れを計画しているためである。

開発当初の経歴

1973年(昭和48年)12月26日に関西本線平野駅において、分岐器の通過制限速度を超えて進入した列車が脱線する事故が発生した。これを受けて速度照査機能付きのATSの開発が行われ、1980年(昭和55年)から多変周点制御式のATS-Pが関西本線で試用を開始された。この際に113系の一部編成に変周式ATS-Pを取り付けた。

その後、1984年(昭和59年)10月19日に山陽本線西明石駅において、寝台特急が制限速度を超過して分岐器に進入してホームに衝突して大破する西明石駅列車脱線事故が発生した。これを受けて位置基準車上演算方式(=いわゆる「パターン式」デジタル符号伝送のできるトランスポンダ式)で冒進・過速度の起こらないATSがH-ATSという名前で開発された。1986年(昭和61年)末に西明石駅・大阪駅京都駅草津駅の4駅に地上設備が設置され、寝台特急牽引用のEF66形電気機関車16両に車上設備が搭載されて、ATS-Sと併用する形で運用が始まった。このH-ATSはATS-P'とも呼ばれていた。

初めて全線総ての信号機に設置されたのは、1988年(昭和63年)末に新規開業した京葉線で、これ以降H-ATSを正式にATS-Pと定め、関西線の変周式ATS-P運用は打ち切った。地上装置は1型ATS-Pとされた。[7]

エンコーダ方式 ATS-P 地上装置

情報伝達は従来方式のように地上→車上の一方向ではなく、デジタル信号で地上←→車上の双方向に伝達・応答をするトランスポンダ式で開発された。2型 - 4N型と統合型地上装置ではそれを利用して現示アップ機能を設けたので減速性能の良い列車は、その情報を車上→地上へ伝達することにより信号現示を上げることができ、その結果運転間隔をさらに短縮することができた(H-ATS、1型、PN型地上装置では現示アップ機能は不使用)。

285系「サンライズエクスプレス」はJR東日本・JR東海・JR西日本・JR四国の区間にまたがって運転されているが、車上子の設置位置がJR東海車は運転室直下であるのに対して、JR西日本車は中央だったため、入線試験時に停止定位の出発信号でパターンに当たることがあった。営業運転に際しては車上子を運転室直下に移設して本州3社のATS-P区間でトラブルが起こらないように対策した。営業運転に伴い以下のように運転することとなった。

  • JR東日本・JR東海管内(東京駅 - 米原駅間) - ATS-Pを使用(手動の切替スイッチを「P」位置に設定=P/S自動切替)
  • JR西日本・JR四国管内(米原駅以西) - ATS-P/Sxを併用して運転(切替スイッチを「S」位置=P/S併用 : 拠点Pモード)

取り扱いに関しては下り列車はJR東海の乗り継ぎ乗務員が、上り列車についてはJR東日本の乗り継ぎ乗務員がATS切替スイッチにて手動で切り替えていた。これは拠点P(=Sw扱い)の福知山線と全面Pの東西線直通列車が尼崎駅で行うP/S切替操作と同じである。後述しているが、JR東海が2010年度よりATS-PTを導入したため、熱海駅でのATS切り替えは行われなくなった。近年は団体輸送などでも同様の事象があるため米原駅以西を直通運転する列車についてはサンライズ同様の取り扱いをすることとなっている。

なおATS-PT導入以前、JR東日本と東海を跨ぐその他の定期列車については丹那トンネルの東京寄りにATSの切り替え地上子があり、そこで自動的に切り替わるようになっており、下り列車の場合はS型のチャイムが鳴動し、運転士が手動にてチャイムを止める(ATS-PT搭載車は電子チャイムのみ、S型チャイムは鳴動しない)。逆に上り列車の場合はP型のチン・ベル(ATS-PT搭載車は電子チャイム)が鳴動するが特段することはなくそのまま走行する(ATS-P/Sx自動切替は伊豆急行線伊東駅構内などで常時見られる。)JR東日本では「拠点P」方式を導入していないため、P/S手動切替は無用だが、切替を間違えてもそれぞれが動作し危険な状態にはならない。

地上装置設置区間(1型 - 4N型、統合型)

SN形などの変周式とは互換性がないため、P形が搭載されていない列車が入線する可能性がある線区では、ATS-S改良形 (=Sx) を併用している。関西空港線(りんくうタウン駅 - 関西空港駅間)は南海電気鉄道との共用区間であるため、南海ATSを併用している。また相模鉄道においてもJR乗り入れ工事によりJR首都圏地域と全く同じの ATS-P の設置が計画されており、一部の区間で地上機器の設置が始められている。

ATS-PN(無電源地上子方式ATS-P)地上装置

ATS-PN(無電源地上子方式のATS-P形)の地上子

比較的列車密度の低い線区に導入されているATS-P形の地上装置。地上設備費用を低減するためエンコーダを使わずに無電源地上子の現示によるリレー切替としたもので、それにより車上→地上への情報伝達機能を省略したものである。

当初無電源地上子は1コマンドだったが、これを最大5現示対応に拡張して「電文」=コードを複数持たせている。Sx地上子と同様に現示条件だけで制御できるので非常に安価に設置でき、2001年初頭から2010年にかけて、首都圏周辺部の現示アップ機能の必要ない線区約600kmに導入されている。

省略されて存在しない機能は、エンコーダ (EC) 間通信、車上列番受信、光電送、現示アップ、踏切定時間機能。車上装置はすべて共通である。

設置区間

川越線武蔵野線中央東線成田線外房線内房線東金線八高線五日市線相模線鶴見線上越線など。

ATS-PT形(JR東海ATS-P)

ATS-PT形の地上子

JR東海がATS-STの取り替えにより、2010年度から順次導入している方式。2012年2月に全ての在来線において更新が完了した[8]

基本的構造はJR他社で導入されているATS-Pと同様であるが、常用ブレーキは使用しない。すなわち、他社のATS-Pの車上装置(自動空気ブレーキ方式の車両を除く)では常用ブレーキと非常ブレーキに基づくパターンをそれぞれ生成し、前者を超過した場合には常用ブレーキが作動、減速後は緩解して運転を続行できるのに対し、ATS-PTの車上装置では非常ブレーキに基づくパターンのみを生成し、それを超過した場合には非常ブレーキが作動し停止する。これは自動空気ブレーキ方式である従前の機関車、ディーゼルカー用ATS-Pと同機能である。ATSの目的はあくまで安全確保と考え、運転支援のための機能を省略してコスト削減を実現したものと言える。

ATS-STは今後の処遇は未定である。なおJR西日本管内(新宮駅、米原駅(正確には醒ヶ井駅を出て下り第2閉塞を通過後ATS-Sxに切り替わりJR西日本エリアの入口の下り第1閉塞通過後再びATS-Pに切り替わる(地上子の形状も異なる))、猪谷駅構内を含む「ATS-SW」)と篠ノ井線のスイッチバック構造の姨捨駅・桑ノ原信号場(構内のみATS-SN)、中央本線辰野支線内・辰野駅構内・大糸線 (ATS-Ps)、伊勢鉄道・愛知環状鉄道(ATS-STのまま)、駅構内の一部の貨物発着線、貨物線内 (ATS-SF) などで車両側にATS-STが必要である。

運転席を立ち上げる時はATS-STで起動され、ATS-Pの地上子を通過してATS-PTに切り替わる点は、他社のATS-Pと同様である。

地上子は閉塞や単純の駅は最大5電文式の無電源地上子(東日本のATS-PNと同じ)、曲線等の速度制限は電文固定式の無電源地上子、駅構内などの複雑な箇所はエンコーダ式(フルP)地上子を設置する。

車両別の対応状況

()内は引退またはJR東海エリアからの定期運用撤退車両、 「」内は導入予定車両

JR東海が保有する車両
  • 117系、211系、213系、311系、313系、371系、383系、キハ11形、キハ25形、キハ40系、キハ75形、キハ85系、キヤ95系、キヤ97系、(119系)
ATS-PTの車上装置を新たに設置する。2008年以降に製造された車両には、製造時から設置されている(119系は3月改正で引退)。
  • 285系、373系
他社区間で使用するために設置されているATS-P車上装置をそのまま使用する。373系はPからPTに換装している車両もある。
  • (DE15形)
JR東日本が保有する車両
  • 115系、183系、185系、(211系)、E231系、E233系、485系
他社区間で使用するために設置されているATS-P車上装置をそのまま使用する(211系は2012年4月24日で東海道線東京-沼津間から定期運用撤退)。
JR西日本が保有する車両
  • 221系、223系、225系、285系、683系
他社区間で使用するために設置されているATS-P(P2,P3)車上装置をそのまま使用する。
JR貨物が保有する車両
  • EF64形、EF65形、EF66形、EF200形、EF210形、M250系、DD51形、DE10形
他社区間で使用するために設置されているATS-PF車上装置をそのまま使用する。未搭載車の扱いは不明。
名古屋鉄道が保有する車両
  • 小坂井駅 - 豊橋駅間に乗り入れる全ての形式
併設されているM式ATSを使用するため、ATS-PTには対応しない。
小田急電鉄が保有する車両
  • (20000形)
ATS-PTを設置をせずに2012年3月16日に引退した。
伊勢鉄道が保有する車両
  • イセIII形
ATS-PTの車上装置を新たに設置する。
衣浦臨海鉄道が保有する車両
  • KE65形
ATS-PFの車上装置を新たに設置する[10]
名古屋臨海高速鉄道が保有する車両
  • 1000形
ATS-PTの車上装置を新たに設置する[11]
愛知環状鉄道が保有する車両
  • 2000系
ATS-PTの車上装置を新たに設置する。
東海交通事業が保有する車両
  • キハ11形
ATS-PTの車上装置を新たに設置する。

このほか、JR西日本キハ120形、西濃鉄道DD40形およびDE10形、樽見鉄道ハイモ230形およびハイモ295形、名古屋臨海鉄道ND60形およびND552形が、駅構内においてJR東海の管理する線路に乗り入れているが、これらの扱いに関しては不明である。

設置区間
ATS方向設定

JR東海管内とあおなみ線のみ記載()内は他社の行先

路線名 A線 B線
東海道本線 熱海(東京)向き
(JR東日本管内はAB線どちらでも走行可能)
米原(大阪)・美濃赤坂向き
(JR西日本管内もAB線関係同様)
御殿場線 国府津(小田急新宿)向き 沼津向き
身延線 富士向き 甲府向き
飯田線 豊橋向き 辰野(岡谷・茅野)向き
(中央東線はAB線どちらでも走行可能)
武豊線 武豊向き 大府向き
中央本線 塩尻(松本・長野「塩尻駅のホーム経由」・愛環岡崎)向き
(篠ノ井線はAB線どちらでも走行可能)
名古屋向き
高山本線 猪谷(富山)向き 岐阜向き
太多線 多治見向き 美濃太田向き
関西本線 亀山(奈良)向き 名古屋向き
紀勢本線 新宮(紀伊勝浦)向き
(JR西日本管内もAB線関係同様)
亀山向き
名松線 松阪向き 伊勢奥津向き
参宮線 鳥羽向き 多気向き
あおなみ線 金城ふ頭向き 名古屋向き
  • デルタ線構造の四日市駅 - (A線→)- 亀山駅 - (A線→) - 津駅 - (伊勢鉄道PT整備外・←A線) - 四日市駅間の方向設定、また方向切り替え駅は亀山駅で、伊勢鉄道経由の列車は方向切り替えは不要。
  • 名古屋駅 - (A線→) - 塩尻駅(旅客用ホーム) - (辰野経由・みどり湖経由共←A線) - 岡谷駅 - (A線→) - 豊橋駅 - (←A線)- 名古屋駅はデルタ線構造ではないので方向切り替えは不要。
  • 2011年の身延線不通の時身延線-甲府駅-塩尻駅-名古屋駅-静岡車両区の回送では車両の向きとAB線関係で塩尻駅構内の貨物用東西連絡線を使用して回送された。
  • ターンテーブルがある名古屋車両区内も方向切替(キハ85形など)を行う、車両基地を出て名古屋駅に行く場合はB線で出る。
  • 例として311系の場合、クモハ311形はA線に、クハ310形はB線に方向設定スイッチがピンで固定されている(不正操作防止のため)。

ATS-PF形(貨物用ATS-P車上装置)

JR貨物の機関車にはATS-PF形車上装置が搭載されているものがあり、PFと表記されている。ATS-Pコードが貨物の速度制限に対応しておらず、さらに貨物のブレーキは強める一方のブレーキ操作しかできないものも多くあり、減速特性が異なるため車上装置を旅客と共用できない。そのため貨物用のATS-P車上装置として開発されたものである。

貨物列車はけん引する貨物の種類によって最高速度が定められているため、車上装置側で最高速度を設定する。最高速度は45・55・65・75・85・95・100・110km/hのほか、入換時の最高速度である25km/hから選択する。ただし空転・滑走が頻発する関係上、実際には設定より10km/h高い速度で照査する。また、本州3社(JR東日本、JR東海、JR西日本)管内ではATS-Pの仕様に一部相違があることを考慮し、ATS電源投入時や運転台交換時にどちらの仕様でATS-Pを作用させるかを設定する「会社間切換スイッチ」も設けている[12]

拠点P

ATS-P地上装置を、絶対信号機付近や、一部の踏切、分岐器の箇所に拠点設置する方法。JR西日本で採用されている。

絶対信号機(場内・出発信号機)や、ホームに近い踏切(停車列車が行き過ぎる恐れがある時の踏切防護)、分岐器付近にATS-P地上子を設置し、基本的には閉塞信号機には設置しない。

この方式を採用した区間では、全ての信号に対してATS-SW地上子が設置してあるため、Sx形のみを搭載した列車も拠点P区間へ入線可能(ATS-SWが機能)である。また、ATS-P (PT・PF) を設置した列車も、ATS-SxとATS-Pを同時に作動させて運転する(扱いは「ATS-S」となるが、ATS-PのP電源を投入状態にすることで同時作動状態にさせている)。

この方式を採用した区間では、(ATS-P地上子の設置されていない)閉塞信号は最高速度のまま冒進可能という危険性は変わらないが、列車間隔の詰まる駅周辺では、ATS-P自体の位置基準速度照査方式(パターン方式)と現示アップ動作により列車間隔を詰められるので線区全体としての線路容量を増やすことができる。

閉塞信号機の区間内での曲線に対する速度照査はATS-SW車上時素速照で可能だが、閉塞区間が短い路線ではATS-P速度照査地上子も設置されている。

なお、ATS-P2、ATS-P3はJR西日本の設計した車上装置の形式であり、拠点Pを示すものではない。

設置区間
名古屋鉄道拠点P方式

名古屋鉄道常滑線空港線のATS-Pは ミュースカイ2000系専用で一部の曲線(制限速度が異なる「高くなっている」)と中部国際空港駅に拠点P方式で設置されている。(一般車と一般区間はM式ATSを使用)

ATS-Ps形(変周地上子組合せパターン型)

ATS-Ps表示機
上から順に、パターン未生成時(走行中)、パターン生成時(走行中)、パターン生成時(停車中)
ATS-Ps地上子 (第2パターン発生地上子)機能によっては複数個を1組として設置する。
ファイル:2007 04280014.JPG
蒸気機関車C57形のATS-Ps表示機 2007年4月28日

SN形・Sx形(ST・SW・SF形など)に新たな地上子の変周周波数を追加してその設置位置規則を車上に記憶させておくことで停止パターンを発生させる機能を追加し、P形に近い機能を持たせたものでSx型の上位互換であり相互乗り入れ可能である。構造・機能で分類すれば車上演算照査機能(パターン照査)が加わったSx型である。

従って、停止信号の他、カーブや分岐器や勾配などの速度制限やパターンによる速度照査を行うことが可能であるが、列車がパターン速度を超過(=ブレーキ動作)すると、非常制動をかけて列車を停止させる。停車後は手動でブレーキを開放させるようになっている。また、Sx形の速度照査機能もそのまま使用できる。地上子は2つあり信号機がR現示の場合、信号機から655m手前の第1パターン発生地上子で信号機までの停止パターンを発生させその後、次の390m手前の二対の地上子による第2パターン発生地上子で15km/hまでのパターンを発生させることが特徴で、Y現示速度以下しか対応しないATS-ST・Sx系過走防止装置とは際だった違いになっている。また閉塞区間が短い所ではどの信号機の地上子かを区別する為「マーカー」と呼ばれる地上子を設置して区別している。

Ps形はSN形・Sx形と同じく変周式のため、Ps形のパターン生成は、地上子の共振周波数・設置間隔の組み合わせにより行う。Ps形はSN形・Sx形と上位互換性が確保されているため、SN形・Sx形を搭載した車両はPs設置区間へ入線可能であり、Ps形を搭載した車両はSN・Sx設置区間に入線可能となっている。

運転席に設置の動作モニタはP形のものとは異なり、現在の速度とパターン速度が表示できるよう改良されている(これらの速度は、2色のカラーバーLEDにより表示。P型でもモニタが信号を得てATS-Pコマンドを表示するものがある)

地上子を規定通り設置すると、SN形・Sx形を搭載した車両は信号機の手前20mの即時停止地上子に反応し、停止信号時に通過すると非常制動がかかる。さらにSN・Sx形を搭載した車両は、信号機390m手前の第2パターン発生地上子(=時素式速度照査地上子)で50km/hの速度照査を車両にかけることができる、またY現示速度超過時には非常制動がかかる。

設置区間

仙台地区で設置が始まり、盛岡・秋田・新潟・長野地区においても導入が進んでいる。運用されている区間は以下の通り。

なお、仙台・新潟地区において、設置当初は絶対信号機(場内・出発信号機)に対してのみPs形地上子が設置されており、閉塞信号機に対しては設置されていない。曲線に対する速度照査は、仙山線において先行して速度照査が行われていたが、他の路線においても速度照査が行われている。

今後の予定として、東北・信越地区の主要駅(23駅)への導入が発表されているが、一定距離の区間へ連続的に設置するのではなく、中心駅の出入口へのピンポイント的な設置にとどまる。

当該地区における車両はもちろんのこと、この他にも関東の一部の車両(ジョイフルトレインなど)にもPs形が設置されている。また、2006年(平成18年)12月より、JR東日本高崎車両センターに在籍し、P形を装備している蒸気機関車D51 498にも追加装備がなされた。さらに2007年(平成19年)4月に大宮総合車両センターを全検出場した蒸気機関車C57 180も、新潟県内在籍のため追加装備がされた。同機は早速、「SLばんえつ物語」営業運転開始の同月28日から新潟駅 - 新津駅間でPs形の使用を開始している。2011年(平成23年)3月に復活した蒸気機関車C61 20もPs形を取り付けたが、復元工事段階より設置された蒸気機関車としては初めてである。JR西日本京都総合運転所所属の583系についても、夜行急行列車きたぐににて信越本線 宮内駅 - 新潟駅間に乗り入れるため、2010年にPs形が取り付けられた。

ATS-Dx (DN・DK) 形

ATS-Sxとの機能交換性を確保しつつ、車上にて速度照査パターンを発生させる新しい車上速度照査式ATS-Xを鉄道総研が開発を行ってきたが、このATS-Xを基本に線路条件に応じた速度制限機能に対応し、低コスト化と地上装置の省略を実現するため、車上データベース(車上DB)を導入したのがATS-Dxである。ATS-Sxと互換性があり車上速度照査機能を付加したものだが、速度照査パターンや線路条件に応じた速度制限機能を発生させるのに車上DBを使用している。

ATS-Dxは車上装置にATS-Sxの車上子を使用し、地上装置は従来のATS-Sxと同様の共振周波数のほか、デジタル信号を同時送信できる有電源地上装置と固定デジタル信号を送信できる電源ケーブルレス地上装置の2種類がある。機能としては信号機の停止現示で有電源地上装置が地上子を使用して車上子に信号機までの距離情報を送信して速度照査パターンを発生させる信号機冒進防護機能のほか、これと同じ方式で駅手前での分岐器速度制限機能を有し(分岐器までの速度照査パターンを発生させる)、また駅での3つ以上の進路がある場合には駅場内にある分岐器や場内での速度照査を残すために駅手前の地上側に進入番線確定用地上子を設置して車両側に送信する。また線路速度制限箇所では電源ケーブルレス地上装置の地上子から速度制限情報を送信して速度制限箇所までの速度照査パターンと速度制限箇所での速度制限を行う線路速度制限機能を有する、どれも車上DBで記録された路線の地上子の位置と路線や分岐器の速度制限や位置などの路線データを元に速度照査パターンの発生と速度制限を行い速度発電機と通過する地上子で距離積算と自列車位置補正を行う[13]

これらの仕様に基づいたATSがJR北海道ではATS-DNとして、JR九州ではATS-DKとして開発されている。今後上記の機能のほか、ダイヤ情報に基づく駅誤通過防止機能、踏切無遮断時のパターン発生機能などを追加する構想がある[14][15]

私鉄のATS

大手私鉄各社で採用されているATSには、1967年昭和42年)1月運輸省(現在の国土交通省通達[16]により「速度照査機能」の付加と「常時自動投入」が義務づけられたが、詳細な仕様は各社の裁量に任されたため、多くの種類が存在する。機能が強化された背景には、日本の大手私鉄の実状として、都市部を除く平均的な国鉄線区と比べ、間距離が短い、分岐器を含め急曲線が多い、高頻度運転を行う、乗車率が高いことなどがある。

設置が義務付けられた速度照査機能は、最終的な冒進速度照査を20km/h以下としているため、確認扱いさえすれば最高速度(ATS-Sx区間の運転最高速度は130km/h)で冒進可能な国鉄・JRのATS-B、ATS-S、後の改良型ATS-Sxと比較して、衝突事故に対する安全性が高い。運輸省通達ATS設置後の区間においては、運転士の停止信号見落としを原因とする重大事故が発生していない。

地方私鉄においては、JRや大手私鉄と同一・類似方式のATSが採用されていることが多い。また、独自のパターン照査を導入した例もある。しかしながら、通達の基準に該当しない中小事業者ではATS整備が遅れた所も多く、ATS未整備の路線において停止信号冒進による衝突事故が発生し、事故後にATSを導入するという後手の対策となりがちであった。1987年(昭和62年)4月に運輸省省令で全国の鉄道会社にATSの原則設置義務付けを行ない、1990年(平成2年)には全国の地方運輸局を通じて早期設置の申し入れをおこなったが、2001年(平成13年)の京福電気鉄道(現在のえちぜん鉄道)の正面衝突事故を契機に、国土交通省から中小事業者に対し、ATS整備の指示と、補助金が支給されたことにより、未設置路線へのATS設置が促進された。

1967年(昭和42年)運輸省通達は当時の国鉄には適用されず、JR発足の前日である1987年(昭和62年)3月31日付けで廃止されたため、JR各社に適用されることはなかった。一方、鉄道に関する技術上の基準を定める省令[17]2002年(平成14年)3月31日から施行され、ATS設置の判断が従来の認可制から届出制に変わった。また、2006年(平成18年)3月の技術基準改定で、曲線、分岐器、線路終端などの線路の条件に応じた速度照査機能が必須となったため、安全性の向上と現行ダイヤの維持を目的としたATSの改良やATC化を発表した私鉄もある。

変周式(単変周・多変周)地上子

国鉄のATS-S型に近いが、地上子を2つ並べて、その2つの地上子を通過する時間によって速照する方式である。国鉄のATS-Sの改良型に似ている。地上子の間隔により照査速度を任意に設定可能で、地上との相対速度で計測するので速度計と関与がない。名古屋鉄道京阪電気鉄道南海電気鉄道で採用。

名古屋鉄道式自動列車停止装置

M式ATS地上子
終端部の例(佐屋駅

名古屋鉄道で使用されている変周式の車上タイマー方式の自動列車停止装置である。

2つの地上子の間を0.5秒以内で通過すると動作するようになっている。

名鉄式ATS・M式ATSと略す場合が多い。

1965年(昭和40年)に須ヶ口駅 - 鳴海駅間に設置されたのを皮切りに1968年(昭和43年)までに鉄道線全線(軌道法適用区間である豊川線を含む)で設置を完了した。

地上子は共振周波数130kHzでATS-Sロング地上子と同じだが、2基1対の速度照査を構成して冒進速度を20km/h以下 - 5km/hに押さえており、Sxなど他の多くの変周式地上子とは異なり進行方向に向かって右側に設置されているため豊橋駅 - 平井信号場間のJRと共用区間にもATS-Sx・ATS-Pとともに設置されている。

グループの豊橋鉄道渥美線も1500V昇圧後の1997年(平成9年)に同型のATSを採用した。

京阪型速度照査ATS

京阪電気鉄道で使用されている自動列車停止装置の一種である。前述の名古屋鉄道方式とは速度照査などの基本的な構造はほぼ同一であるものの、速度制限などの取り扱い方法は異なる。

京阪電車の信号による速度制限は、絶対停止0km/h・警戒25km/h・注意45km/h・減速65km/h、進行の5種類である。警戒・注意・減速の現示による速度制限を5km/h上回ると直ちにATSによる非常ブレーキがかかり、完全停止するまで復旧できない。同社は、JR福知山線事故後、枚方公園駅・淀駅 - 中書島駅・深草駅・鳥羽街道駅 - 東福寺駅間に存在する急カーブに速度照査ATSを直ちに設置した。これらの急カーブの曲線通過速度は直前の走行速度に比べ25 - 40km/hの差がある。カーブにおける速度照査の方法はパターン照査の原理に似ている。たとえば、制限速度60km/hカーブに対し、制限開始地点200m手前で100km/h以上であれば直ちに非常ブレーキ、150m手前で90km/h以上であれば非常ブレーキ、100mで…、50mで…というように順を追って速度照査と非常ブレーキ管理をしており、制限開始地点までに「絶対減速」を試みている。オレンジのカバーがかけられているATS地上子がこれに該当する。

なお、京阪は2008年(平成20年)11月に発表したプレスリリースで、2014年(平成26年)度より多情報連続制御式への切り替えを進め、2016年(平成28年)度に京阪線全線で新システムを稼働させるとしている[18]

多変周式信号ATS(多変周式(点制御、連続照査型))

地上子で車両側が信号を受信・記憶し、その信号に合わせた一定の速度で連続的に照査する。信号機の現示アップなどで照査速度が上がっても、次の地上子を通過して信号を受信するまでは照査を続けるか、確認ボタンを押して照査を解除する。確認ボタンが不可な会社・路線では、たとえば、警戒信号の速度制限を受けた場合、現示アップしているのにもかかわらず、長時間の低速を余儀なくされることから、タイミングによっては列車の遅延につながるという欠点がある。

近鉄には速度超過防止用(曲線区間、分岐器など)や終点用の他、転動防止用のATSもあり、これらも多変周式である。西鉄の地上子は永久磁石とコイルを設置したもので、コイルが無信号の状態でも照査が行われる。 点制御式の多くの場合では、地上子制御リレーに異常があり制御線が断線状態となれば、地上子のLC共振回路の作用だけで特定の一意の共振周波数(多くの場合最下位現示)に自然と固定され、故障状態でフェイルセーフになる長所がある[19]

東武鉄道TSP式(多変周式・パターン照査型)

多変周・点制御式ATSだが、速度照査を他の方式のように信号現示に応じて階段的に行うのではなく、車上装置で発生する2段階のパターンを用いて連続的に行う、東武鉄道独自のATS。JRのATS-Pと異なる点は、トランスポンダのように停止信号までの距離を伝送して1段階の減速パターンを発生するのではなく、信号機の現示に応じて2段階のパターン(電車の場合60km/hまで減速、15km/hまで減速の2パターン)を用いて速度照査を行う点。東武鉄道や後述の西武鉄道においてパターン式を必要としていたのは、導入当時電車列車に比べて制動性能の劣る貨物列車が多数設定されていたことに対応するため。

JR東日本のATS-Psは多変周ではなく、単機能変周式地上子を組み合わせたもの。

AF軌道回路方式(連続照査型)

後に国鉄ATCでも採用されたAF軌道回路を使ってレールに連続的にある信号の現示に対応した照査速度信号を流し、列車側はATCでも使用されている受電器でこの信号を受信して連続的にこの照査速度で照査される。信号の現示がアップした際はすぐにアップした照査速度の信号を受信することができる。ただし、地上子を併用している場合は多変周式と同様次の地上子まで照査を続ける。

このうち西武と阪急(神戸本線京都本線全線)はパターン式ATSとなっている。西武と相鉄は磁石式の地上子と併用している。また、阪神は運行時に「危険域」・「有コード」でランプ表示している。なお相鉄は神奈川東部方面線開業およびJR東日本との直通運転に備えて、2010年代中頃を目途に磁石式地上子方式のATSからJR東日本と同一の機能のATS-P型に更新が決定しており、既に車両にはATS-P型設置準備工事が実施されている。

軌道電流式(半連続照査型・点照査型)

国鉄ATSのB型と同様にレールに常に電流を流し、電流を切ることによって信号を送っている。この電流を切る時間で照査速度を車両側に伝えている、また車上子はATCと同様の受電器を使用する。

東急型ATS

信号機直下(上の部分)と黄色四角の標識の近くに設置されている東急ATSのキャンセルループ(添線)

東京急行電鉄がS42通達にあわせて導入した、信号機直下に軌道に並行したキャンセルループ(添線)を備え、このキャンセルループに軌道回路による軌道電流の逆位相の電流を流すことで擬似的に軌道電流を停止した状態をつくる。そこに車上装置がそのキャンセルループを通過した際に、通過した際の時間を計測し、1秒以下であれば速度超過と判断して非常ブレーキを動作させる。速度照査は閉塞区間進入時毎に行われる点照査となる。ただし、次の信号機がR現示の場合には警報が鳴り始め信号機直下のキャンセルループでは速度照査ができないので(0km/h照査となるので)信号機から60 - 80m前方にキャンセルループが設置されていて(運転士に分かるように線路脇に黄色四角の標識が設置されている)そこで15km/h照査を行うようになっており信号機手前で安全に停止できるようになっている。

軌道線を除く東急のほぼ全線で使用されていたが、後に運転速度が95km/h以上になる路線(東横線田園都市線目黒線大井町線)はCS-ATCに変更され、現在は多摩川線池上線のみで使用されている。

1号型自動列車停止装置(1号型ATS)

京成電鉄北総鉄道芝山鉄道および新京成電鉄で使用されている。また、かつては京浜急行電鉄および東京都交通局都営地下鉄浅草線)でも使用されていた。

1960年(昭和35年)12月、都営地下鉄1号線(現在の浅草線)が京成電鉄押上線との相互乗り入れで開業するに際して採用され、1967年(昭和42年)1月の私鉄ATS通達(S42鉄運第11号)で速度照査段を増やす改良をされた方式。打子式ATS以外では日本で最初のATSでもある。ATSに関しては、上記のうち新京成以外の6者の中では、どの事業者の車両がどの事業者の線路を走っても問題なく作動する(新京成の車上装置は「絶対停止」機能があるため、京成線乗り入れ対応車には切替装置が付加されている)。古い規格ながら、保安度としてはATS-Pに準ずる優れたものである。無閉塞運転中も信号電流がなければ15km/hの速度照査が行われることが他ATSには見られない特徴。ただし、現行のC-ATS兼用の装置と新京成電鉄で採用された車上装置を除き「絶対停止」機能はない。

交流50Hzの軌道電流を常時流しておき、それを0.8秒間遮断することで45km/h速度照査を、3秒間遮断することで非常制動停止と15km/h速度照査を車上装置に伝達し、車上装置では、速度超過している場合に自動的にブレーキをかけ、0.8秒断では45km/h減速した時点で緩解し、3秒断では非常制動で停止し、以降15km/hで速度照査する。それ以外の速度で照査する場合には、レールに設置した2箇所1対の検知子(その間隔は照査する速度によって調整する)を列車が通過する時間差が基準以下の場合に速度超過と判定して、上記のように軌道電流を遮断する。検知子は任意の場所に設置できるので、点照査であっても連続照査と同等の機能を有する。しかし、車上装置側では、地上での照査速度が45km/h以上の場合には一律45km/h、45km/h未満の場合には一律非常制動と15km/hの速度照査がかかってしまうので、地上装置で照査した速度に比べて必要以上に減速させてしまうことになる。そのため、下記のC-ATSの導入が進められている。

デジタルATCの技術を応用したもの

C-ATS/i-ATS

新京成電鉄(予定)・京成電鉄(一部区間)・北総鉄道(一部区間)・芝山鉄道(予定)・東京都交通局都営地下鉄浅草線)・京浜急行電鉄および、静岡鉄道[20]で使用されるATSである。基本仕様が相互直通運転の各社局で共通 (Common) であること、1号型ATSと同じく連続 (Continuous) 制御式速度制御 (Control) であることから、頭文字をCとしている[21]。軌道回路からデジタル伝送(MSK変調を使用)を用いて1号型ATSより詳細な情報(無段階の速度照査、社局識別コード、上下線識別情報、勾配など)を伝達でき、パターン信号を軌道に設置した短小添線から送る機能も持つ。従来の1号型ATSと異なり、信号の遮断時間による情報伝送ではないため、無信号の場合は即座に非常ブレーキが動作することで、絶対停止機能を追加した。車上装置については、地上側からの信号で1号型ATSとC-ATSを自動的に切り替え可能なものに更新済みである(新京成車の一部を除く)。

注意・減速などの信号現示に対する制御は、信号機を通過した時点から現示に応じた速度照査を連続で行い(緑色の数字表示)超過時は常用ブレーキで照査速度まで減速させる(京急では、注意信号手前の車両検知子(YB点)の一部で、68km/hの速度照査を行う)。停止現示に対しては、信号機手前のパターン信号発生点(B点)に設置された車両検知子が車両を検知した時点から絶対停止パターンによる照査を行い(地上からパターン制御信号を送信、橙色の数字表示)、パターンを超過した場合は非常ブレーキで停車させる。閉塞信号の停止現示の場合は、停止してから1分経過すると車上で自動的に15km/h照査に切り替わり、無閉塞運転が可能になる[22]。なお、信号現示が変化すると地上から新しい情報が送信され、上位現示の場合は確認スイッチを操作する必要がない。また出発信号の停止現示では、絶対停止パターンの照査範囲内で停止すると自動的に7.5km照査(誤出発防護機能)に切り替わる。このほか、曲線における制御は、カーブ手前にパターン信号発生点(CB点)を新たに設け、パターン制御信号を送信する。発生点通過後は速度制限パターンによる照査が行われ、「都営 : 緑色 (L)、京急 : 橙色(L表示と照査速度の交互表示)」速度超過時は非常ブレーキもしくは常用最大ブレーキが作動し停止する。いずれのケースでも、非常ブレーキが動作した場合は新設した非常ブレーキリセットスイッチを操作してブレーキを解除する。また新たに、ノッチカット機能も搭載した。これは、最高速度制限以上の力行(加速)および、停止信号直下(絶対停止)では、ノッチ操作が自動的に切られる機能である。具体的には、最高速度制限以上に力行した場合、チン・ベル鳴動とともに緑色の「NC」表示点滅と同時に力行が強制的に遮断される。また停止信号直下(絶対停止)で停車した場合は、赤色の「NC」表示とともに常用最大制動(ブレーキ)がかかり、信号が上位に切り替わらない限り、ノッチ操作が不能となる。なお京成は、信号が上位・下位に切り替わった場合、パターン信号発生・解除した場合、それぞれチン・ベルが鳴動する。また、ホームドアが存在する羽田空港国際線ターミナル駅では、ホームドア開扉時に自動的にノッチカットとなる機能が付いている。

また、京急では2011年6月より踏切防護装置の使用を開始した。これは、停車駅のすぐ先に踏切がある箇所において、オーバーランや停車駅誤通過による交通未遮断の踏切へ列車が侵入する事を防ぐためのものである。この条件にあてはまる停車駅においては、停車駅に接近すると停車位置までの停車パターンが発生し、これを超えると非常ブレーキが作動し停止するようになっている。停車パターンが発生した際は、表示器に緑色で「停P」が表示され、パターンに接近した際はこの表示の点滅とチン・ベル3回の鳴動が発生する。さらにパターンに最接近した際はこの表示が橙色に変化し、表示の点滅とチン・ベル3回の鳴動が再度発生する。この停車パターンは5km/h以下になると解除される。この踏切防護装置の導入以降、C-ATS表示器には自列車の種別が表示されるようになった(エアポート急行エアポート快特については、それぞれ航空機のマークに「急」または「快」で表現)。この種別表示については、信号扱い所が設置されている主要駅を発車する際に、信号扱い所からの発車合図と共に列車選別装置から種別情報が送られることによって初めに種別表示の点滅が表示器に現れ、発車後5km/hを超えると表示の点滅が点灯に代わり、種別が確定する(種別情報と列車種別表示器の設定が異なる場合は、C-ATS表示器の下段に赤色で数字の「0」の点滅と同時に非常制動がかかる)。次の信号扱い所が設置されている主要駅までは、この種別情報を基に停車パターンが発生する。

2007年(平成19年)3月17日より都営浅草線で一部の機能が使用開始されており、全線で常時70km/h照査を行なっているが、車上装置に「C-ATS」と表示されるのは分岐器を備える駅(押上・浅草橋・新橋・泉岳寺・西馬込)の構内のみであり、他の区間では上段に「ATS」・下段に「70」と表示される。また、停止信号手前では車上装置に「パターン接近」(都営・京成 : P接近、京急 : P)表示が出てベルが2連打する他、停止した際も「NB」表示とともにマスコン・ブレーキハンドル位置に関わらずにブレーキがかかっている。また、2009年(平成21年)2月14日ダイヤ改正より、京浜急行電鉄全線で使用を開始した。これに伴い、曲線部や信号機(閉塞・場内・出発・入換)の一部に、C-ATSの速度制限標識(白地に赤抜きの数字)が線路脇や信号機およびまくら木に、一部の急曲線部には、パターン信号・列車位置補正を行うための地上子(白色の長方形)が設置されている[23]。2009年(平成21年)3月21日からは京成電鉄でも京成上野駅構内および京成高砂駅構内下り線において使用開始され、続いて2010年(平成22年)7月3日からは京成本線(京成上野駅 - 京成高砂駅間)および京成金町線同月17日からは同日開業の京成成田空港線(成田スカイアクセス)および一部区間で線路を共用する北総鉄道北総線でも使用開始された。2011年(平成23年)2月26日からは都営浅草線の全区間にて運用が開始される[24]

D-ATS-P(デジタルATS-P)形

小田急電鉄の各路線で導入が進められているATS。JRのATS-Pとは互換性がない。

これまでの地上子による情報伝送のほかにレール上に流した信号も制御に用いるもので、地上子とレール上の双方からの情報で制御する。これまで地上子で伝送していた信号現示についてはレールからの伝送とし、地上子からは2つ先の閉塞区間の距離を伝送する。信号現示による最高速度はこれまで通り(注意現示=45km/hなど)となるほか、信号機が下位現示である場合はその現示が示す最高速度まで減速する速度パターンが車両側で生成される。そのため速度パターンは多段制御の速度パターンとなる。また踏切支障・ホーム上の非常スイッチ操作が生じた場合も自動で非常ブレーキが作動できるようになるほか、現在よりも信号現示を増やすことも検討されている。

整備が完了したことから、第1期区間として2012年(平成24年)3月31日より多摩線において使用が開始されている[25] 。今後は第2期区間として江ノ島線を、第3 - 5期区間(3期に分割)として小田原線においての使用開始に向けて整備を進めている[25]。なお、2013年度までに全線で運用を開始する計画である[26][27]

軌道のATS

軌道法による軌道の場合には、新設軌道と併用軌道が混在している軌道と道路の路面以外の併用軌道については、続行運転道路上にある交通信号や、海上河川での運行上、閉塞方式自体が不要か簡略化されており、ATSなどの警報装置自体の設置が完全に義務化されていない。

台湾のATS

台湾の中長距離鉄道を運営する台湾鉄路管理局の一部路線に、1970年代後半に導入されたもので[28]スウェーデンエリクソン(当時)製であった。注意信号の現示箇所を90km/hを超えて進行した場合、または停止信号の600m外方で警報が鳴動し、5秒以内にブレーキ操作をしない場合には非常ブレーキが動作する方式であった。1990年代末に、ボンバルディア製のATPが導入され、発展的解消をとげた。

韓国のATS

韓国では1969年から鉄道庁の主要路線に、日本国有鉄道のATS-Sと同格の装置が順次導入された。さらに1974年の[29]首都圏電化に伴い運行されるようになった電車には、多変周点制御車上連続速度照査式ATSが搭載された。ブレーキ弁ハンドル挿入による電源自動投入、警報後5秒以内に常用全ブレーキにより確認扱いが可能、などの機能を有しているが[30]、減速信号現示に対する照査はない。ソウル首都圏電鉄1号線、2号線に地上設備が設けられているが、2号線ATO化される予定である。1980年代に、鉄道庁の幹線である京釜線に、5現示自動閉そく信号化に併せて、首都圏電鉄と同等の速度照査式ATSが設けられた。照査速度は高速寄りに読み替えて使用されていた。また、曲線の速度制限に対する速度照査機能も併設された。なお、京釜線、湖南線はユーロバリスを用いたATP化の途上にある。

脚注

  1. ^ 新井英樹「ATCとATSで列車を安全に走らせる」Railway Research Review 2008年7月号 p.22 - 23。
  2. ^ 場内信号機のない終端駅でもATS地上子があるため如何を問わず確認扱いは必ずある。
  3. ^ 鉄道の場合のAF (Audio frequency) とは慣行的に電話・通信と同様300Hz - 3000Hz余の周波数を指しているが、元々は可聴周波数 (16Hz - 20,000Hz) を指すもの。分倍周は交流電化区間などノイズの多い区間に採用されて当初は電動発電機などの機械装置で供給されていてAFとは区別された。
  4. ^ 最近JR西日本が開発したATS車上装置はATS-P3とATS-SW2を同一筐体に収納したが、このATS-SW2での共振周波数検出方式を「脱変周式」と呼んで、スペクトラム拡散方式(FFT方式 : 高速フーリエ変換方式)によるスペクトル解析で共振周波数を検出している。
  5. ^ これは、通常は停止信号を2つ重ねるべき箇所で、1つ目の信号機を警戒現示することで少しでも列車の間隔を詰められるようにするために行なわれた(クロージング・イン)。
  6. ^ 製鉄所の構内鉄道などでは現存する。
  7. ^ 『信号シリーズ7 ATS・ATC』p.5
  8. ^ 在来線に新型ATS完了読売新聞 2012年2月16日
  9. ^ 2012年3月17日(土) ダイヤ改正を実施します小田急電鉄、平成24年3月ダイヤ改正について (PDF) JR東海
  10. ^ 安全報告書(平成22年度) (PDF)
  11. ^ あおなみ線安全報告書より (PDF)
  12. ^ JR、民鉄のATS (5) JR貨物のATS - 『鉄道と電気技術』2011年3月号 p.62 - p.66
  13. ^ [1] (PDF) [リンク切れ] - 鉄道総研
  14. ^ JR、民鉄のATS (1) JR北海道のATS - 『鉄道と電気技術』 2010年11月号 p.69 - p.73
  15. ^ JR、民鉄のATS (4) JR九州のATS - 『鉄道と電気技術』2011年2月号 p.70 - p.75
  16. ^ 通達 : 「自動列車停止装置の設置について」 昭和42年鉄運第11号 (1967/01発)「自動列車停止装置の構造基準」
  17. ^ JR各社を含む全鉄道事業者を対象としている。また、この省令の施行により従来の普通鉄道構造規則、鉄道運転規則、新幹線鉄道構造規則、新幹線鉄道運転規則は廃止された。
  18. ^ ATS(自動列車停止装置)システムの全面更新計画について (PDF) 平成20年11月17日
  19. ^ 変周式の基本構造は、故障状態でも不動作が無い(車上側が反応する)ことを第一の設計要件とし、地上子の電子回路に故障しやすい電源および能動素子(トランジスタやリレーなど)を必要とせず、受動素子(RLC等)のみを使用しかつ無電源で動作する方式として、旧国鉄の技術陣が発明した
  20. ^ 静岡新聞の報道(Web魚拓)によると「都営地下鉄の一部でも導入されている」とあり、都営地下鉄でATSが使用されている路線は浅草線のみであるため、「i-ATS」はC-ATSと一部を除き同型と判断できる。
  21. ^ 「多情報パターン制御式ATS『C-ATS』装置 - 相互直通運転に対応した地上データベース方式 - 」『鉄道と電気技術』 2008/10 日本鉄道電気技術協会
  22. ^ 丸山晃司 「多情報パターン制御式ATS『C-ATS』の概要」『鉄道車両と技術』125号、レールアンドテック出版、2007年。
  23. ^ 標識の設置は変更前の数日に行われた。
  24. ^ 浅草線C-ATS全線運用開始について [リンク切れ] 東京都交通局 2011年2月23日
  25. ^ a b 日本鉄道運転協会「運転協会誌」2012年4月号30頁記事参照。
  26. ^ 私鉄 より安全で効率的な列車運行を追求(2009年10月16日付け 交通新聞)
  27. ^ 信号・通信設備の概要(鉄道ピクトリアル 2010年1月臨時増刊号 p.76 - 77。
  28. ^ アジアの鉄道18か国(吉井書店)
  29. ^ 鉄道ピクトリアル 282号
  30. ^ ATS装置(Yookyung Control Co.,Ltd) (カヌリ語)

参考文献

  • 『信号シリーズ7 ATS・ATC』日本鉄道電気技術協会。 

関連項目

ATS関連の鉄道事故

外部リンク