トランスポンダ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

トランスポンダ (Transponder) はTRANSmitter(送信機)とresPONDER(応答機)からの合成語で、受信した電気信号を中継送信したり、受信信号に何らかの応答を返す機器の総称である。二次レーダーとも称する。

通信分野では中継器、電波応用分野では応答装置とも呼ばれる。略称トラポン

無線通信・衛星通信[編集]

通信衛星放送衛星などの人工衛星に搭載し、地上から送られた微弱な電波を受信し、地上に送り返すために電力増幅するための中継器である。使用する周波数帯は地上から衛星向け(アップリンク)と衛星から地上向け(ダウンリンク)の組み合わせが国際的な取り決めによって規定されている。送受の1系統で1チャンネルを構成する。通信衛星や放送衛星ではトランスポンダを数十台搭載して、割り当てられた帯域をカバーしている。通信・放送衛星の運用事業者はトランスポンダの帯域を通信事業者放送事業者などに販売することで事業を行う。

lyngsat.com等衛星関連サイトでは tp 20 等と表示されている。(tp20 = トランスポンダ番号20番)

また、日本のBSデジタル放送規格のようにスロット(トランスポンダ1本当たりの容量は48スロット)と呼ばれる単位に細分化される場合もある。

技術的には、アップリンク周波数の受信機能と、周波数変換機能、ダウンリンク周波数の送信機能、および、受信デマルチプレクサ、送信マルチプレクサからなり、そのほか各種制御機能、機器の監視機能を持つ。送信機用電力増幅器は静止衛星用の大電力のものはほとんど進行波管英語版 (TWT) を使用し、中小電力のものでは半導体素子を用いた固体増幅器 (SSPA) を用いるものもある。

主にマイクロ波帯の電波が使われる。通信衛星では、Cバンド (4/6GHz)、Kuバンド (12/14GHz)、Kaバンド (20/30GHz) が使われる。軍用衛星通信ではXバンドも使われる。放送衛星(通信衛星を用いた衛星放送も含む)では、Kuバンドが使われる。通常は同じバンド電波の組み合せでアップリンクとダウンリンクを構成するが、異なるバンドでも可能である。このようなトランスポンダーをクロスストラップ・トラポンと呼ぶ。

有線通信[編集]

光通信においては、光ファイバーと電気信号との双方向変換を行う機能部のことをトランスポンダと呼ぶ。

ATCトランスポンダ(民間航空用)[編集]

画面中央にある、ダイヤルの4つ並んだ白色パネルがトランスポンダ。VFR飛行時の1200表示。上部にあるデジタル表示付きの機器はVHF無線機
DC9に装備されたトランスポンダ。上部は自動方向探知機(ADF)

レーダーと連動して、0から7までの4桁の数字で当該航空機の位置特定を行い、航空交通管制に使用するアビオニクスである。アメリカ軍が開発したSIF(セレクティブ アイデンティフィケーション フィーチャー)識別システムのモード3を技術公開して、民間航空機にも装備が義務化されている。モード1、モード2およびIFFは純軍事用器材で、秘密保護のため機密扱いとなっている。

航空交通管制 (ATC: Air Traffic Control) においては、二次監視レーダ (SSR) システムを使用して飛行中の航空機を識別している。このために航空機側に搭載する応答装置(応答機)をATCトランスポンダ(ATC Transponder, ATC XPDR、航空交通管制用自動応答装置)という。

スクォーク (SQUAWK)[編集]

航空機を識別するためにトランスポンダに設定する8進数の数字4桁(12ビット、0000 - 7777の4096通り)を、ATCコードあるいはスクォーク(スコークと表記されることもある)という。ふつう管制官により指定され、パイロットが装置に入力する。また、特別な状況下でのみ使用するコードもある。いくつかのスクォークの例を挙げる。

1200
VFR(有視界飛行方式)により高度10,000 ft未満[1]を飛行するとき
1400
VFRにより高度10,000 ft以上を飛行するとき
2000
コードについての指示を受けていない航空機がIFR(計器飛行方式)でレーダー管制空域外からレーダー管制空域へ入る場合の二次レーダーへの返信用。
3333
整備用
4444
整備用
5555
整備用
7500
ハイジャック
7600
通信機故障(NORDO=NO RADIOとも呼ばれる)
7700
緊急事態
7777
(欧米)軍用機用コード。スクランブル発進した戦闘機が使用する。

モード[編集]

ATCトランスポンダが扱う信号のモードにはA、C、Sの3つ(他に軍用3つ)がある。

通常トランスポンダはモードA + Cで作動させる。(ALT: Altitude)

モード3/A
スクォークを示す情報を返信する
モード3/C
飛行高度を示す情報を返信する高度はQNE(29.92inHgに気圧規正した高度)で100 ft単位。地上局のコンピュータによりQNHに変換される。レーダスコープ上の高度はQNH、つまり海抜0mでの気圧で補正、海抜0mからの高度となる。
  • ADC (Air Data Computer) を使っている機体:高度情報はADCからXPDRへ送られる
  • 旧式な高度計しか備えていない機体:高度情報は、エンコーディングアルティメータと呼ばれるタイプの高度計からXPDRへ送られる。エンコーディングアルティメータは、通常の高度計の後部にアルティテュードエンコーダが増設されたかたちとなっている。エンコーダは発光ダイオード + スリット + エンコーダディスク(高度計の指針と同期して回転) + フォトトランジスタからなり、ディスクを通過した光はトランジスタで電気信号に変換され、トランスポンダへと送られる。
モードS
旧来のATCトランスポンダ方式と互換性があり、ICAOの国際標準方式の新しいシステムである。
この方式は、目的とする航空機のみにアドレスを指定して質問ができるため、交通量の多い空域でも目標機を見つけやすく、管制側と航空機間とでメッセージやデータ情報交換ができ、音声の通信量が少なくてすむ等の特徴がある。
現在のSSR(二次監視レーダ)は、航空路および空港に設置され、航空交通管制業務の安全性、効率性に寄与してきたが、今後の航空交通量の増大に伴いレーダターゲットの欠落等が発生することが危惧される。このため、現行SSRが持つ欠点を克服した新型SSRであるSSRモードSを航空路および主要空港に順次導入することとした。SSRモードSレーダは、航空機の位置情報を正確に監視することが可能であることに加え、信頼性の高いデータ通信機能を有しているため、航空機に搭載されたTCAS(航空機衝突防止装置)がRA(回避指示)を出した場合には、その情報をデータ通信で管制側に送り、管制卓レーダー画面上にその航空機のRA情報を表示して航空管制官に知らせることができる。2003年(平成15年)11月20日から、山田航空路監視レーダで日本における最初のSSRモードSを運用開始し、更に、いわき洋上航空路監視レーダ、三国山航空路監視レーダをSSRモードS化する[2]
交通量の激しい主要空港においてはモードS装備機のトランスポンダ作動を義務付けており、地上走行の監視・管制に利用されている。

作動[編集]

地上のSSRから1,030 MHz帯の電波で送られた質問用信号を機上のATCトランスポンダが受信すると、1,090 MHz帯の応答信号を十数個のパルスで返信する。この信号と一次レーダー映像を組み合わせることにより、管制官はレーダースクリーン上のブリップ(輝点)がどの航空機を表すのか、その航空機が高度何ftを飛行しているか、という情報を得ることができる。機上設備では離陸前までSBY(スタンバイ)モードに設定し離陸開始直前にON(高度情報無し)またはALT(高度情報有り)モードに設定することが義務付けられている。二次監視レーダ波(質問波)を受け応答波(リプライ)を発信すると黄色のランプが点滅する。

上記のような、常時働いている機能の他に、特定の航空機を目立たせる機能がある。管制官の要請に応じてアイデントボタン(ふつう装置だけでなく操縦桿にもついている)を押すと、20秒間だけ応答パルスにIDパルスが追加され、地上のレーダースコープ上ではその航空機が明るく表示される。小型機の場合スイッチ右脇の黒色のボタンを押すことによりアイデント情報が送信される。

その他[編集]

航空機衝突防止装置(ACAS: Airborne Collision Avoidance System. しばしばTCASとも)にはモードSが利用されている。

軍用では敵味方識別装置 (IFF : Identification Friend or Foe) がATCトランスポンダと同様の機能を持っている。

  • 映画コン・エアーではトランスポンダーを別の航空機に取付て進路を偽装している。

船舶など[編集]

また、同様な応答装置は船舶に装備される国際船舶自動識別装置 (Universal Automatic Identification System) や捜索救助用レーダートランスポンダ (SART) などのシステムでも用いられる。

電気信号だけでなく、音響信号に対して応答するソーナー・トランスポンダーも捜索救助などのために用いられる。

鉄道[編集]

鉄道でも自動列車停止装置 (ATS) 関連などに使用されATS-Pなどの列車が車上で信号機までのブレーキパターンを発生する場合に使用される。

また、自動列車制御装置 (ATC) を使用した路線にも使用されている。

例えば東急東横線みなとみらい線では列車選別装置的な利用方法として、本装置を用いることで、踏切制御(列車種別による踏切遮断時間の短縮・踏切故障時や支障時にATCにより自動で踏切の手前で列車を減速させる)や駅停車制御機能(誤通過防止制御)・臨時速度制限(工事などで臨時に速度制限をする場合に使用)などのインタフェースに使用する。また、東急電鉄では本装置を情報伝送装置と称する。

自動列車運転装置 (ATO) や定位置停止装置 (TASC) を使用した路線では、車両の現在位置・速度などを地上子とインタフェースを行い、列車を定位置に停止させるために使用する。また、ホームドアを使用している路線では戸閉制御切換装置を介して車両ドアとホームドアを連動して制御することにも使用する(戸閉制御切換装置を使用しない路線もある)。この場合、ATO送受信器ATO送受信装置とも呼ぶ場合がある。

新幹線では列車番号送受信装置と呼ばれており、運転台の列車設定器で列車番号(列番とも言う)を設定し、その情報が列車設定器と繋がっている列車の車上子と地上側の地上子の間でインタフェースを行なった後、地上装置に送られて検出され、その後CTC・輸送管理システム・信号取扱所列番表示器[3]・ホーム列番表示器[4]・旅客案内情報システム (PIC) にその列車番号が送られ、列車の位置を把握すると共に、その情報と輸送管理システムの進路制御用データから地上側で列車の進路の自動制御を行い、駅では総合指令所から送られたダイヤ情報と共に旅客案内装置を制御するもので、初期のものはセラミック共振式が使用されていたが、後にトランスポンダ式に更新されている。また、山陽新幹線では300km/hでの高速列車が設定されたことにより伴う設備更新に併せて、列車情報処理装置 (TIPB) を導入している。これは、ATC装置から軌道回路情報を受信して列車の追跡を行うと共に、トランスポンダ地上子で列車の列車番号を受信して、その列車が高速列車かまたは低速列車かを種別判断して、それに応じた列車の速度制御をATCで行う機能を搭載した装置で、その後、北陸・東北新幹線と九州新幹線にも導入されたが、九州新幹線では高速列車の設定が無いため、高速列車の速度制御機能は必要なく使用されていない。また、列車番号を受信する地上子には、本線上での駅出発方向(列車の進行方向)の分岐器付近に設置して走行中に列車番号を受信する地上子(ループコイル形の地上子[5])と駅の列車停車位置に設置して停止中に列車番号を受信する地上子(ループコイル形の地上子)の2種類があり、受信後に中継器を経由して受信処理部または列番処理部に送られて解読された後、各機器室や各装置に送られる。

RFID[編集]

RFID(ICタグ)システムにおいて、RFIDを内蔵したICカードなどのタグもまたトランスポンダと呼ばれる。

脚注[編集]

  1. ^ 国により高度が異なったり、空域が指定されている場合もある。
  2. ^ "航空機監視用新型レーダーの運用開始および航空機に表示されるTCAS(航空機衝突防止装置)RA表示の管制卓レーダー画面の評価開始について 1. 航空機監視用新型レーダーの運用開始" 平成15年11月12日 国土交通省航空局管制保安部保安企画課 [1]
  3. ^ 連動制御盤の表示器に接近する列車の列車番号を表示する。
  4. ^ 始発駅において列車設定器で列車番号を設定後に、地上装置が受信したその列車番号を確認するための表示器であり、ホーム先端かホーム上に設置されている。
  5. ^ TIPBの場合はATSで使用されているロング地上子形。

関連項目[編集]