尾翼

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セスナ172の尾翼

尾翼(びよく)とは航空機モーメントの釣り合いと安定性を与えるために使用される翼。通常は主翼の後方(重心から離れた位置)に垂直尾翼水平尾翼が取付けられる。

水平尾翼[編集]

水平に設置された尾翼である。

水平尾翼の働きは、主翼との釣り合いによって機体の水平方向の安定性を与えること、および昇降舵によって機体の機首上げ・下げの運動を制御することである。通常の航空機の設計では、風圧中心が重心より若干後方に位置するように主翼を配置し、そのため水平尾翼にはマイナスの揚力を発生させて水平飛行のための釣り合いを取る。初期の航空機には、主翼の配置を風圧中心が重心より若干前方に位置するようにして、水平尾翼にプラスの揚力を発生させる揚力尾翼方式の機体も存在した。しかしこれでは急な外乱に対して安定性が乏しく、操縦性に問題を生じる。このため現在ではこの方式は通常は採用されない。ただし、風圧中心を重心に近付ければ機動性が高まるため、軍用機などではその安定性を犠牲にした配置のものもある。また、旅客機では、上述した主翼の揚力と尾翼のマイナスの揚力での相殺は抵抗(抗力)を増大させて燃費を悪化させるため、風圧中心を重心位置に通常よりも近付ける思想で設計された機体もある(MD-11)。これらはいずれにしてもコンピュータにより操縦が補助される。

尾翼とは言うが、水平尾翼の場合は必ずしも主翼後方に装備されるわけではなく、主翼の前方に水平尾翼が装備されるエンテ型飛行機も存在する。その場合の主翼の前方に存在する尾翼を先尾翼(カナード Canard)という。エンテ型飛行機の場合も主翼は重心より後方に位置するのは同じであり、そのため先尾翼はプラスの揚力を発生する(揚力カナード)。ただし主翼自体でバランスを取り、先尾翼では揚力を発生しないものもある(制御カナード)。

固定した尾翼に昇降舵を備えた水平尾翼のほか、水平尾翼全体が可動するオールフライング・テールがあり、戦闘機や前述の制御カナードでよく見られる。

垂直尾翼[編集]

垂直に設置された尾翼である。

垂直尾翼の働きは機体の直進時の安定性を与える事、および方向舵によって機体の左右方向の運動を制御する事である。

垂直尾翼の場合は主翼の後方に配置し、水平尾翼の場合と異なり主翼より前方に配置する例は少ない。またオールフライング方式を採用する例も少ない。CCV実験機において、主翼前方、かつオールフライング方式の垂直尾翼を採用した例があるが、通常の主翼後方の垂直尾翼との併用であり、また実用機としての例は皆無である。

エンテ型飛行機の場合を除いて、水平尾翼とほぼ同じ位置に取り付けられる場合が多い。ただしF/A-18 のように主翼と水平尾翼の間に垂直尾翼を配置する例もある。これはエリアルールを考慮したためである。

水平・垂直尾翼の構成[編集]

左上: ボーイング727。T字尾翼。
中上: F-117。V字尾翼。
右上: MiG-17。十字尾翼。
左下: B-25。双尾翼(H字尾翼)。
中下: F-15。双尾翼。
右下: P-38。双胴形式で、それぞれの胴体に尾翼がついたもの。

水平尾翼と垂直尾翼をほぼ同じ位置に配置する場合は、その基部が同一であるものが一般的であるが、他にも配置がある。

T字尾翼[編集]

垂直尾翼(垂直安定板)の先端付近に水平尾翼があるものは「T尾翼」や「T字尾翼」と呼ばれる。

水平尾翼による端板効果により、垂直尾翼の効果が強まるので、垂直尾翼面積を小さくできる。また、機体尾部の空間を確保できるため、リアエンジン配置や、機体尾部に大きな出入り口を供える大型輸送機で採用される。

欠点としては、迎え角を大きく取ると主翼の後流が水平尾翼の効果を無くし、急激な機体の頭上げ(ピッチアップ)を生じる。特に運動性を重視する戦闘機の場合は迎え角を大きく取れないのは致命的な欠陥となり、T字尾翼を含めて主翼より上方に水平尾翼を配置する設計はなされなくなった。

十字尾翼[編集]

十字尾翼と呼ばれる尾翼構成は2種類ある。

水平尾翼を垂直尾翼の半ばに取り付けた十字尾翼は、T字尾翼と特徴が共通する。

機体下方にも垂直尾翼を備えた十字尾翼は、飛行船で採用される。離着陸時に接地する危険があるため固定翼機での採用例は少ないが、Do335X-15の例がある。

双尾翼[編集]

2枚の垂直尾翼がある尾翼構成は、「双尾翼」と呼ばれる。目的としては以下の例がある。

  • 枚数を増やす分だけ低くする(艦載機など)。
  • 高さを増やさないで直進安定性を高める(超音速戦闘機)。
  • 片方を破損もしくは喪失しても最低限の制御を確保する。とくに最寄に代替の着陸先を確保できない艦載機で重視される。(軍用機艦載機
  • 垂直尾翼に角度を持たせるため。1枚の垂直尾翼では当然ながら左右非対称になるので、2枚構成にして対称にする(ステルス機)。

H字尾翼[編集]

前述の双尾翼のバリエーションでもある。水平尾翼の先端にそれぞれ垂直尾翼を配置したものである。プロペラ機でプロペラの後流を避けるために採用される。欠点としては、取り付け部の空気抵抗が増大する事が挙げられる。

V字尾翼[編集]

V字尾翼、V字翼、Vテールは、垂直尾翼と水平尾翼の動作を兼ねた斜めの尾翼である。同時に方向舵(ラダー)と昇降舵(エレベーター)を兼ねる事となり、この舵をラダーベーターと言う。

尾翼の枚数が減る分だけ空気抵抗が小さくなる事、ステルス機においては電波反射面積が小さくなるのが長所である。

機体上面後部に設けた場合は、旋回時に方向舵兼昇降舵が、旋回方向とは逆方向に機体をバンク(横転)させる働きをしてしまい、補助翼の働きを阻害してしまうため、運動性に劣る事が欠点となる。そのため、運動性はある程度目をつぶっても、揚抗比を高める事が最優先されるグライダーにおいて採用例が多い。

機体下面後部にへの字、ハの字に設けた場合は、旋回する方向にローリングさせる為、空力特性、ステルス性の両面で有利であるが、離着陸時に尾翼を損傷する恐れが高いため、多用されるのは無人機に限られる。

先尾翼形式[編集]

尾翼のない翼構成[編集]

空気抵抗やレーダー断面積を減らすために水平尾翼を廃したもの。さらに進めて垂直尾翼を廃した例もみられる。
機体そのものを主翼のみで構成したもの。胴体はもちろん、尾翼も存在しない。