スポイラー (航空機)

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近くで見たスポイラー(立ち上がっている主翼の一部)。

航空工学におけるスポイラー: spoiler)は、航空機揚力を減少させる装置である。リフト・ダンパー: lift dumper)とも。

原理[編集]

主翼の上面に取り付けられた動翼で、起立させることで主翼の流れを乱す(スポイルする)。 すると、スポイラーの背後(翼の一部)は綿密に制御された失速状態となり、揚力は激減する。 エアブレーキは揚力はあまり変えずに抗力を増加させるよう設計されているが、 スポイラーは抗力はあまり大きくせずに揚力を大幅に減少させる、という違いがある。

用途[編集]

上昇しながら左旋回中のボーイング737の左翼。スポイラーが少し上がっている。翼前縁に点状に並んでいるのはボルテックス・ジェネレーター

グライダーでは特に降下率を制御するためにスポイラーが使われ、その結果、狙った位置への着陸の制御が実現できる。 機首を下げて降下率を大きくすると、場合によっては安全率を超えるほど大幅に速度が増加することもあり、スポイラーが必要となる。 さらに、機首を下げるだけでは降下角度をあまり大きくできないこともある。

スポイラーとエアブレーキを展開(主翼の上面に突き出しているクリーム色のパネル)。イングランドのブリストル国際空港に着陸した KLM cityhopper フォッカー 70。

通常、旅客機にもスポイラーが装備されている。航空機が巡航高度から降下する時に、速度を上げずに高度を下げる目的で時々使われる。なお、機種によっては操縦系統上スピードブレーキと呼び、操作レバーもスピードブレーキレバーと名付けられている。
しかし、スポイラーの背後で生じる失速や乱流によって大きな騒音や振動が起き、それが乗客には不快に感じられるため、飛行中のスポイラーの使用は制限されていることが多い。もっとも、最近の空力性能のよい飛行機ではかなり緩和され、着陸フラップのときでさえ使用可能なものもある。

一方で、着陸時には、速度を落とすためにだいたいいつもスポイラーが使われている。 スポイラーで発生した形状抵抗の増加は、そのままブレーキとなるため、『エアブレーキ』と言う表現もなされることがあるが、これは厳密ではなく、真の利点は、スポイラーが揚力を劇的に減少させることで航空機の重量が翼から脚に伝えられ、地面との摩擦力に必要な垂直抗力を大きくして、スリップすることなく車輪のブレーキが効くことである。
また着陸時に速度を落とすために、逆噴射装置もよく使われる。

空冷式ピストンエンジンを積んだ航空機では、エンジンのショック・クーリングを避けるためにスポイラーが必要な場合がある。 スポイラーを使わずに降下すると、対気速度は増加し、エンジンは絞って発熱は小さくなる。 エンジンが急速に冷やされることで、バルブが詰ったり、シリンダが割れたり、その他の問題が起きたりすることがある。 スポイラーを使えば、急速に冷え過ぎないようなパワー設定でエンジンを回しながら、希望の降下率で降下することができる。 (自然吸気のエンジンよりも高出力であるターボチャージャーの空冷式ピストンエンジンでは、特に言えることである)

操縦翼面としてのスポイラー[編集]

いくつかの航空機では、機体をロールさせるのに、エルロンと組み合わせて、あるいはエルロンの代わりにスポイラーを使う。 この種のスポイラーは「spoileron」という造語で呼ばれている。そのほか飛行中に使用するものを『フライト・スポイラー』、着陸時に地上で使用されるものを『グランド・スポイラー』と呼ばれる。

垂直尾翼を廃した航空機では、機体のヨー制御にもスポイラーが用いられる。この目的のスポイラーは抗力増加効果も必要である。

事象・事故[編集]

1970年7月5日、カナダトロントでのエア・カナダ621便事故は、着陸前の高度40フィートでスポイラーを開いてしまったために起きた。(エア・カナダ621便墜落事故)

1972年、ソ連モスクワにあるシェレメーチエヴォ国際空港での日本航空446便事故も離陸時にスポイラーを開いたことが原因である可能性が指摘されている。(日本航空シェレメーチエヴォ墜落事故

1972年、アメリカ合衆国、イリノイ州シカゴにあるシカゴ・ミッドウェー国際空港でのユナイテッド航空533便事故は、スポイラーを戻し忘れたために起きた。(en)

1999年、アメリカ合衆国アーカンソー州の州都リトルロックにあるリトルロック・ナショナル空港でのアメリカン航空1420便事故は、スポイラーを展開し忘れたために起きた。(アメリカン航空1420便オーバーラン事故)

関連項目[編集]