通信衛星

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

通信衛星(つうしんえいせい、英語:communications satellite)とはマイクロ波帯の電波を用いた無線通信を目的として宇宙空間に打ち上げられた人工衛星である。CSやCOMSAT(コムサット)等と略される。その出力が大きく、使用目的が衛星からの直接放送であるものを特に放送衛星(BSまたはDBS)という。

(通信衛星を用いた放送サービスの詳細については衛星放送を参照)

概要[編集]

現在ではほとんどの通信衛星は静止軌道(正式には地球同期軌道)または準静止軌道を用いるが、最近は低軌道中軌道衛星コンステレーションを用いた通信システムの例もある。またロシアでは高緯度地域という地理的条件により、モルニヤ軌道の通信衛星を用いる例もある。軌道の特性についての説明は人工衛星の軌道を参照のこと。

通信衛星は光ケーブルを用いた海底ケーブルと相補的な技術を提供するものである。

歴史[編集]

アイデア[編集]

通信衛星という考え方はアーサー・C・クラークが初めて提唱したものとされるが、ポトチュニック1928年の先行作品に基づくものである。クラークは1945年、「ワイヤレス・ワールド」誌に「地球外の中継器」と題する記事を著した。この記事には、無線信号中継するために人工衛星を静止軌道に配備する方法の基本原理が説明されていた。このため、一般に通信衛星の発明者として紹介されるのはアーサー・C・クラークになった。

受動型通信衛星[編集]

クラーク達の発表当時は宇宙空間に人工衛星を運ぶ具体的な手段がなかったが1957年、当時のソビエト連邦が初の人工衛星スプートニクの打ち上げに成功しその実現性が検討されるようになってきた。当初は軌道上で安定に動作する中継機(トランスポンダ)の開発が困難であったため、受動型衛星エコー1号および2号の実験が行われた。この衛星はいわば金属皮膜をもつ風船であり、軌道上の衛星を電波信号の反射板として用いるものである。利用する電波の周波数を自由に選べ、また衛星の構造が単純なので故障もしにくいという長所があるが地上からの電波の送信(アップリンク)に大電力を要するという大きな欠点があった。

能動型通信衛星[編集]

このため地上からアップリンクされた電波信号を衛星で受信して電力増幅し、高利得のアンテナにより地上に向けて送信する(ダウンリンク能動型衛星の開発が行われた。

テルスター衛星は初めての能動型通信衛星である。ベル研究所で開発されたCバンドのトランスポンダを装備していた。この際のアップリンク6GHz帯、ダウンリンク4GHz帯という周波数の組み合わせはその後広く通信衛星で用いられるものとなった。この衛星は1962年7月10日NASAによりケープカナベラル宇宙基地から初の民間企業スポンサーとなって打ち上げられた。テルスター衛星は2時間37分で周回する、軌道傾斜角45度の楕円軌道遠地点 約5,600km、近地点 約950km)に投入された。テルスターはAT&Tに所属するがこれはAT&T、ベル研究所、アメリカ航空宇宙局イギリス郵政省、フランス郵政省間の衛星通信技術を開発するための多国間合意によるものである。

その後、トランスポンダの数や帯域を増やし送信電力も高めたリレー1号衛星も1962年12月13日に打ち上げられた。このリレー1号を用いて1963年11月23日に行われていた初の日米間テレビ伝送実験中にジョン・F・ケネディ米国大統領の暗殺事件が報道され、その映像は当時のテレビ視聴者に強い印象を与えた。

静止通信衛星[編集]

最初の地球同期軌道に投入された通信衛星は1963年7月26日ソーデルタで打ち上げられたシンコム2号である。シンコム2号の軌道は地球同期軌道だが傾いた(すなわち軌道傾斜角がゼロでない)軌道で、通信には追尾装置を必要とした。最初の静止通信衛星、すなわち固定した衛星通信アンテナで補足可能な通信衛星は1964年8月19日に打ち上げられたシンコム3号である。これは国際間通信用であったが、広大な国土を持つ国では国内通信用の通信衛星が用いられるようになった。ソビエト連邦モルニヤ衛星を使ったが、1973年に打ち上げられたカナダアニク1号は世界初の国内通信用の静止通信衛星であった。

1964年の東京オリンピックにおいて日米間のテレビ画像伝送がシンコム3号を用いて実施され、通信衛星の有用性を広く世界の放送・通信関係者に印象付けることとなった。

同年、静止通信衛星による国際通信網を運営するための国際協同の組織・インテルサットが日本や米国を含む18カ国で作られた。インテルサットは1965年にインテルサットI号シリーズの衛星を打ち上げて商用の国際衛星通信サービスと開始した。

低軌道衛星[編集]

低軌道衛星は軌道周期が1日よりかなり短い、低高度の衛星のことである。この種の衛星は地球上のどの地点からも上を通過する短時間だけしか可視とならず、常に通信可能範囲にしたければ多数の衛星が必要になる。こうした一群の衛星を合わせて稼動させる場合、これらを衛星コンステレーション(星座から)と呼ぶ。

衛星コンステレーションの例として、GPS衛星や携帯電話サービス用の衛星電話(イリジウム等)がある。

衛星の種類[編集]

日本国内の通信衛星の種類については、衛星放送を参照の事。

インターネット衛星[編集]

衛星内部にルーターを搭載することによって移動体間で通信したりインターネットに接続が可能。iPSTARなど。

中継衛星[編集]

主に静止軌道上から他の軌道を周回する衛星や宇宙船から通信を中継する。TDRSなど。

衛星放送(放送衛星と通信衛星の違い)[編集]

放送は技術的には通信の一形態であるがその目的は異なるもので特に日本では旧来一般大衆向けを放送、限定者(業者や企業などの認可団体)向けを通信として厳格に区別しそれに用いる人工衛星もそれぞれ専用に別のものが使用されてきた。

したがって直接放送衛星(DBS)による放送(衛星放送/BS放送)は特に放送用に設計された高出力な人工衛星を用いて行われ、家庭の小型DBS用アンテナに向けて直接送信するものである。放送衛星はKuバンド(K-under。Kバンドの下で12 - 18ギガヘルツ)の周波数が高い方を用いることになっている。

1989年10月1日には放送法が改正され、それまでは特定の目的(企業や業者向けの番組・プログラムを送信)以外には禁止されていた通信衛星を利用した直接放送(CS放送)が可能になった。1996年にはCSデジタルプラットフォーム事業者・日本デジタル放送サービス(現・スカパーJSAT)がCSデジタル放送事業「パーフェクTV!」(現・スカパー!プレミアムサービス)を開始している。

2009年2月、総務省はCS放送のうち放送衛星と同じ東経110度に打ち上げられた通信衛星(N-SAT-110)を利用する衛星放送(スカパー!など)を法制度上「特別衛星放送」としてBSデジタル放送と普及計画を一本化した。これに対して、スカパー!プレミアムサービスなどそれ以外の通信衛星を使用した衛星放送は「一般衛星放送」として扱われる。

CS衛星放送関係略年表[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

  • 衛星通信』 - NPO法人・科学映像館Webサイトより
1964年国際電信電話(現・KDDI)の企画の下で東京シネマが制作した短編映画《現在、上記サイト内に於いて無料公開中》。衛星通信の原理の紹介のほか、打ち上げられる通信衛星に関する紹介も為されている。