こだま (人工衛星)

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こだま(DRTS)
所属 宇宙開発事業団(NASDA)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)
主製造業者 三菱電機
公式ページ データ中継技術衛星「こだま(DRTS)」
国際標識番号 2002-042B
カタログ番号 27516
状態 運用終了
目的 衛星間通信実験
設計寿命 7年
打上げ機 H-IIAロケット 3号機
打上げ日時 2002年9月10日
11時45分(JST)
運用終了日 2017年8月5日
停波日 2017年8月5日
14時45分(JST)
物理的特長
本体寸法 箱型 2.2 m x 2.4 m x 2.2 m
最大寸法 約17m(太陽電池パネル展開後)
質量 打ち上げ時 2.8t
静止化後初期 1.5t
発生電力 2,115W以上
(7年後夏至)
主な推進器 統合型調圧ブローダウン方式
500N 二液式アポジエンジン
1Nスラスタ x 16、20Nスラスタ x 8
DCアークジェット(南北制御) x4
姿勢制御方式 コントロールドバイアスモーメンタム方式三軸制御
軌道要素
軌道 静止軌道
静止経度 東経90.75度
高度 (h) 3万6,000km
軌道傾斜角 (i) 0度
軌道周期 (P) 24時間
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こだまDRTSData Relay Test Satellite)は、宇宙開発事業団(現:宇宙航空研究開発機構)が開発した、日本データ中継衛星である。

2002年9月10日H-IIAロケットで打ち上げられ、2017年8月5日に運用を終了した[1]

概要[編集]

静止衛星であり、東経90.75度のインド洋上空に占位している。低 - 中高度衛星と地上局の通信を中継することで、これら衛星の通信可能範囲を大幅に広げ、限られた地上局でも効率よくデータの送受信を行うのが目的。使用できる周波数として、従来の2-4GHz帯(Sバンド)に加え、大容量通信に向いている26-40GHz帯(Kaバンド)を持つ。これによる最大通信容量は240Mbps以上と高速で、大容量のデータを効率よく地上局に送信できる(2006年2月、世界最高速度278Mbpsの衛星間通信実験に成功)[2]

運用期間中に、みどりIIきらりだいち(ALOS)などと、さまざまなミッションにおいてデータ中継を行ったほか、欧州宇宙機関(ESA)の地球観測衛星Envisatと観測データの中継実験も行い相互運用・支援性の確認をした。このうち、だいちとの連携では特に成果を上げ、運用期間中に地上局(10ヶ所)が直接受信したデータの26倍を中継するなど、今後のだいちの運用にもこだまが不可欠であると報告されている[2]。また、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」の衛星間通信システム(ICS)とのデータ中継にも使われる。

なお、情報収集衛星(IGS)とのデータ中継には「こだま」は使われていない。IGSとのデータ中継には新たに、「光データ中継衛星」を2019年を目標として打ち上げることが2014年に報道された[3]

データ中継[編集]

低 - 中高度の衛星は、低い軌道高度(300-1000km)を周回するため、地上局の上空(直接通信可能な範囲)を短時間で通過してしまう。中高度で大量の情報を送信する必要がある地球観測衛星などでは、周回中にデータを圧縮しておき、地上局上空でまとめて送信するなどの手法がとられるが、本来の観測能力に対するボトルネックとなっていた。

地上局と低 - 中高度の衛星が互いの可視範囲にあるのは、軌道上の1割程度に限られている。しかし、そのはるか上空の静止軌道衛星からは、眼下の中高度衛星が飛行する軌道の6割を見渡すことが可能であり、足下の地上局に中継することによって、ほぼリアルタイムで通信可能範囲とすることができる。これは、観測衛星の実質能力を数倍に拡大できる可能性を示している。こだまは、ALOSミッション参加後、容量の嵩む画像データの99%を中継したことが報告されており、観測精度向上や期間短縮のほか、大規模災害の早期把握に大きく貢献した。

なお、空白域をなくすには最低2機による運用が必要で[4]、こだまの場合、南北アメリカ大陸をほぼすっぽりと含む円形の地域の上空が、通信が不可能な範囲となっている。

仕様[編集]

  • 打ち上げロケット:H-IIAロケット
  • 打ち上げ日:2002年9月10日(JST
  • 打ち上げ質量:約2800kg
  • 軌道:東経90.75度
  • 寸法:2.2m×2.4m×2.2m
  • 太陽電池パドル寸法:2.4m×7.3m(1枚あたり)
  • 発生電力:2100W以上
  • 衛星間通信アンテナ寸法:開口径約3.6m
  • フィーダリンク用アンテナ寸法:開口径約1.8m
  • 設計寿命:7年
  • ミッション機器:Sバンド衛星間通信機器、Kaバンド衛星間通信機器、Kaバンドフィーダリング機器

経過[編集]

技術試験衛星きく6号、通信放送技術衛星かけはしを継承する、衛星間通信、データ中継システムの実験・実証機として計画された。

  • 2002年9月10日 - 打ち上げ
  • 2003年1月10日 - 定常段階移行
  • 衛星間通信実験の実績[2]
    • 2003年2月17日 - 10月24日 環境観測技術衛星 みどりII
    • 2005年9月1日 - 2009年9月10日 光通信技術衛星 きらり
    • 2006年2月19日 - 2011年5月12日 陸域観測技術衛星 だいち
    • 2006年4月4日 - 9月26日 欧州宇宙機関 地球観測衛星 Envisat
    • 2009年3月3日 - 2009年6月16日 小型実証衛星1型(SDS-1
    • 2009年8月18日 - 継続中 国際宇宙ステーションきぼう(2011年8月1日 - 「きぼう」衛星間通信システム(ICS)の故障のため利用を中止[5]
  • 2009年9月28日 - 定常段階終了、後期利用段階へ
  • 2017年8月5日 - 静止軌道離脱、停波し運用終了[1]

当初計画[編集]

当初はDRTS-EDRTS-Wの2機で地球周辺軌道の全領域をカバーし、携帯電話の基地局のように2機の衛星が通信を引き継いで連続中継する計画だった。DRTS-Eは現在こだまが位置する東経90度、DRTS-Wは西経170度を予定していた。DRTS-Wの打ち上げは2002年に予定されていたが、1年前の2001年8月の宇宙開発委員会で、予算不足から1機のみの計画に変更することが了承された。DRTS-Wとして製作された衛星は予定通り2002年に打ち上げられたが、軌道上の位置はDRTS-Eが予定していた東経90度に変更され、単にDRTS(こだま)と呼称することになった。2機目の衛星は地上予備機として完成させることも検討されたが、結局製作中止になった。

後継衛星[編集]

こだまの設計寿命は2009年に尽きており、後継衛星は準備されていないため、以後当面は寿命を超えての運用となる。推進薬を節約するため、2009年11月以降は衛星の南北制御を中止し、東西制御のみにする。南北制御を中止したことにより次第に軌道傾斜角が増大するため、軌道傾斜角が南北1度に達する2012年1月以降の運用は、衛星の状態を判断しながら決定される予定である[2]。こだまの故障時に備えて、バックアップとしてNASAのデータ中継衛星TDRS2010年4月以降に使用できるよう、準備が進められている[6]

JAXAでは、こだまの当初計画と同様に、2機の後継衛星をもって低軌道全体をカバーする体制を構築したい意向である。通信方法はこだまと同じKa帯電波の他、きらりで技術実証されたレーザー通信も検討されているが、いずれを搭載するか、あるいは両方を搭載するかは決定されていない。なお、当面計画されている低軌道衛星にはレーザー通信装置を搭載する予定はなく、衛星間通信を行う衛星はこだまとの通信を前提としているため、少なくともKa帯通信装置は搭載する可能性が高い。

2012年7月31日に開催された宇宙政策委員会 第1回会合の情報によれば、こだまの後継機は2015年度に民間事業者から調達する衛星でサービスを引き継ぐ方針とされている[7]

光データ中継衛星[編集]

政府は情報収集衛星用に大量のデータを迅速に中継するデータ中継衛星1号機と、これとは別予算の光データ中継衛星を導入する予定である。平成31年度(2019年)の打ち上げを目指して、平成27年度予算案に関連予算の一部を盛り込んだ。光データ中継衛星はデータを電波でなく光形式で送るため、他国による妨害や傍受を防ぐことも可能になる[3]

関連項目[編集]

  • 通信衛星
  • 宇宙開発事業団
  • 宇宙航空研究開発機構
  • H-IIAロケット
  • 光データ中継衛星
  • NASAのデータ中継衛星TDRS
  • ESAのデータ中継衛星 実験用のARTEMIS、実用のEDRS(2015年に商業通信衛星EUTELSAT-9Bに光通信機器を搭載し、2016年にも2機目のHylas-3に搭載する予定)
  • 中国のデータ中継衛星天鏈1号
  • ロシアのデータ中継衛星ルーチ 2011年12月11日にLuch-5Aを、2012年11月3日にLuch-5Bを打上げた。2014年4月28日にLuch-5Vを打ち上げて3機体制にした[8]。ロシアは1980-90年代にもLuchを使ってミールなどを運用していたが、1990年代末に寿命が切れ、以後は財政難で保有していなかった。

注釈[編集]

外部リンク[編集]