情報収集衛星

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情報収集衛星(じょうほうしゅうしゅうえいせい、英称:Information Gathering Satellite、IGS)は、日本内閣官房が、安全保障や大規模災害への対応、その他の内閣の重要政策に関する画像情報収集を行うために運用している人工衛星である。事実上の偵察衛星を指す。

H-IIA 12号機によるIGSレーダ2号機の打ち上げ

導入の経緯[編集]

テポドンの発射[編集]

1998年(平成10年)8月31日朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が咸鏡北道舞水端里発射場から、何らかの“飛翔体”をほぼの方向(発射場から見て東は北アメリカではなく南アメリカの方向)に向けて発射した。飛翔体の一部(ロケットの1段目と推定される)は日本海に、他(2段目以降と推定)は、日本の東北地方上空を通過して、三陸沖太平洋に落下した。北朝鮮は、これを人工衛星光明星1号」の打上げであり、打上げは成功したと報道した。しかし、日本国政府はこれを弾道ミサイルテポドン1号の発射実験と判断し、北朝鮮に対する非難声明を採択した。それとともに、日本国政府はKEDOへの資金拠出を凍結した。

この事件をきっかけに、与党(当時)の自民党内において、日本が独自に偵察能力を獲得することを希求する声が高まり、他国のシャッター・コントロールに左右されない国産偵察衛星の保有が検討され[1]、これに野党(当時)の民主党も概ね同調した。同年11月には、早くも情報収集衛星の製作が決定され、同年12月22日に情報収集衛星の導入が閣議決定された。2011年(平成23年)までに、8,181億4166万4729円が投じられている(決算額及び予算額の総額)[2]

情報収集衛星と偵察衛星[編集]

法令上の情報収集衛星の定義は、「我が国の安全の確保、大規模災害への対応その他の内閣の重要政策に関する画像情報の収集を目的とする人工衛星」である(内閣官房組織令第四条の二第2項第1号)。

日本の衆議院1969年(昭和44年)に全会一致で可決した「わが国における宇宙の開発及び利用の基本に関する決議」では「宇宙に打ち上げられる物体及びその打上げ用ロケットの開発及び利用は、平和の目的に限り」と言明[3]しており、日本政府も宇宙の軍事利用を平和構築の手段として認識していなかったことから、日本の衛星開発と利用は専ら非軍事目的に限られ、軍事用の偵察衛星の保有を忌避してきた。しかし、北朝鮮のテポドン発射事件後、偵察衛星の保有が日本の国土安全保障上の喫緊の課題となった。このため、1985年(昭和60年)に出された「一般的に利用されている機能と同等の衛星であれば(軍事的に)利用することは可能」とする「一般化原則」の政府統一見解に則って、1998年(平成10年)に大規模災害等への対応もできる多目的な「情報収集衛星」を事実上の偵察衛星として保有することが決定された。

その後、2008年(平成20年)5月21日に成立した宇宙基本法で「国は、国際社会の平和及び安全の確保並びに我が国の安全保障に資する宇宙開発利用を推進するため、必要な施策を講ずるものとする。」(第14条)と明定されたことから、非軍事という制約を脱し国際標準である非侵略目的の衛星保有が法的にも正式に認められることになった。この流れを受けて、日本政府は一般化原則の枠を超えて、開発開始時点において商用衛星の分解能を超える情報収集衛星光学5号機の研究開発に2009年度(平成21年度)から着手した[4]

宇宙基本計画の策定作業では早期警戒衛星の導入も検討され、2009年(平成21年)4月5日に再度発生した北朝鮮のミサイル発射実験もあって一時これに関する議論が日本政府において活発になったが、2013年(平成25年)4月時点で「我が国独自の早期警戒衛星を持つとすると莫大な予算が必要であり、費用対効果の観点も含め、政府全体として考えていきたい」[5]と導入に対する進展は見られていない。

衛星[編集]

情報収集衛星は、光学センサ(いわゆる近赤外線観測機能付きの超望遠デジタルカメラ)を搭載して画像を撮影する光学衛星と、合成開口レーダーによって画像を取得するレーダー衛星との2機を一組として、二組(計4機)の体制により運用される。光学衛星は主に昼間の写真撮影を行う。一方のレーダー衛星は、光学衛星より分解能は落ちるものの、夜間および曇天でも画像取得が可能である。弾道ミサイルに対する偵察を目的に導入された情報収集衛星であるが、地球低軌道太陽同期軌道を周回しながら撮影するため、対象の上空を通過した時に弾道ミサイル発射の兆候を捉えることは出来ても、発射の瞬間を捉えて警報を出すことはまず不可能であり、これは静止軌道を周回する早期警戒衛星の役目である。

情報収集衛星の管制・運用は、内閣直属の情報機関内閣情報調査室の一組織である内閣衛星情報センターにより行われる。地球上の任意地点を毎日最低1回は観測可能となるよう、二組計4機の体制を構築することが目標とされているものの、2003年(平成15年)11月のH-IIAロケット6号機の打ち上げ失敗による衛星の喪失と、レーダ1号機と2号機の早期故障のために、二組計4機体制の構築は予定より遅れた。2013年(平成25年)4月26日にレーダ4号機の本格運用が始まり、約10年遅れで念願の二組計4機体制が完成した[6]

各衛星の設計寿命は5年で、実証衛星に限り2 - 3年になっているが、レーダー衛星の相次ぐ早期故障を受け、2014年度にレーダー衛星の予備機を投入する予定である。実現すればレーダー衛星は実質的に3機体制となる[7]

衛星の一覧[編集]

情報収集衛星の軌道データ・運用データは非公開とされているため、以下のデータは公開された資料に記載の範囲、もしくはマスコミ報道による断片的な情報である。打上げ予定のスケジュールは、内閣府宇宙政策委員会の資料を参照した[8]。なお、レーダー衛星は公式表記では「レーダ衛星」と語尾の長音符が省略されている。NORAD識別名・NSSDC IDカタログ番号は日本政府から公表されていないため、NSSDC(米国宇宙科学データセンター)及び検索サイト(SATCAT)を参照した。

背景色がは打上げ失敗を表す。

打上げ日時
日本標準時
日本政府発表の
衛星名
NORAD
識別名
NSSDC ID カタログ
番号
打上げロケット 世代 推測される性能、説明等
2003年3月28日
10時27分
光学1号機 IGS-1A 2003-009A 27698 H-IIAロケット5号機 第1世代 分解能1m。ただしこの半分の分解能しか有していないとの報道もあった[9]。既に設計寿命5年を超過して運用を終了している[10]
レーダ1号機 IGS-1B 2003-009B 27699 分解能1 - 3m。電源系のトラブルにより2007年3月25日に運用障害を起こし、2012年7月26日大気圏再突入して消滅した[11]。予算額は光学1号機及びレーダ1号機の合計で789億9500万円[2]
2003年11月29日
13時33分
光学2号機 IGS-2A H-IIAロケット6号機 両機とも1号機の同型機。打上げ失敗によりロケットが指令破壊され喪失。衛星2機の予算額は622億7200万円[2]。衛星2機に係る開発費用が316億円、ロケットの打上げ費用が108億円、打上げに関連した費用の総額は424億円[12]。これ以降、同時に衛星を2機失うことを避けるため、1機ずつ打ち上げることになった(実証衛星除く)。
レーダ2号機 IGS-2B
2006年9月11日
13時35分
光学2号機 IGS-3A 2006-037A 29393 H-IIAロケット10号機 第2世代 分解能は1号機と同じ。ただしポインティング性能の向上により短時間で複数の場所を撮影する能力が向上し、撮像時間も向上している[13]。衛星開発費は291億1200万円、ロケットの製造費は76億5300万円、打上げ費は19億1200万円[2]、総額約390億円。設計寿命5年を超過した2013年11月8日に電源系の不具合により通信を途絶した[14]。その後復旧を試みてきたが回復の見込みがないと判断し、同年12月24日に運用終了を発表[15]
2007年2月24日
13時41分
レーダ2号機 IGS-4A 2007-005A 30586 H-IIAロケット12号機 分解能は1号機と同じ。ただし撮像時間が向上している[13]。電源系のトラブルにより2010年8月23日に運用障害[16]10月7日に復旧を断念[17]。衛星開発費は299億7100万円、ロケットの製造費は91億5100万円、打上げ費は19億300万円[2]
光学3号機実証衛星 IGS-4B 2007-005B 30587 光学
第3世代
分解能60cm級の実証機。日本共産党吉井英勝衆議院議員が、分解能40cm台で設計したのではないかと政府に対して質問主意書を提出しているが[18]、今後の情報収集活動に支障を及ぼすとの理由で回答を得られなかった[19]。既に設計寿命3年[20]を超過して運用を終了。2013年11月12日に再突入した[21]
2009年11月28日
10時21分
光学3号機 IGS-5A 2009-066A 36104 H-IIAロケット16号機 分解能60cm級。衛星開発費は490億2600万円、ロケットの製造と打上げ費は94億9100万円[2]
2011年9月23日
13時36分
光学4号機 IGS-6A 2011-050A 37813 H-IIAロケット19号機 光学
第4世代
分解能は3号機と同じ。ただしポインティング性能が向上している[22]。衛星開発費は347億円[23]、ロケットの製造と打上げ費は103億7000万円[2]
2011年12月12日
10時21分[24]
レーダ3号機 IGS-7A 2011-075A 37954 H-IIAロケット20号機 レーダ
第3世代
分解能を約1mに向上。電源の不具合対策を実施した。衛星開発費は398億円、ロケットの製造と打上げ費は103億円[24]
2013年1月27日
13時40分
レーダ4号機 IGS-8A 2013-002A 39061 H-IIAロケット22号機 レーダ3号機の同型機。レーダ3号機に比べて開発コストを約154億円削減[25]。打上げ費は109億円[26]
光学5号機実証衛星 IGS-8B 2013-002B 39062 光学
第5世代
分解能が41cmより高性能の実証機[4]。設計寿命は2年程度を想定している[20]
2015年1月29日
打ち上げ予定
レーダ予備機 レーダ
第3世代
2010年度開発着手。レーダ3・4号機の予備機で同型機。レーダ4号機に比べて開発コストを約12億円削減[25]
2014年
打上げ予定
光学5号機 光学
第5世代
分解能は41cmより高性能。開発開始時点において民間商用衛星で最高性能を誇るGeoEye-1の分解能を上回り、アメリカ国家偵察局運用の偵察衛星に次ぐ性能を目指して開発される[4]
2016年度
打上げ予定
光学6号機 2010年度開発着手。光学4号機の後継機[27]
2016年度
打上げ予定
レーダ5号機 2010年度開発着手。レーダ3号機の後継機[27]
2017年度
打上げ予定
レーダ6号機 2011年度開発着手。レーダ4号機の後継機[27]
2019年度
打上げ予定
光学7号機 2013年度開発着手予定。光学5号機の後継機[28]
2021年度
打上げ予定
光学8号機 2015年度開発着手予定[29]。分解能は25cmより高性能[30]
2021年度
打上げ予定
レーダー7号機 2015年度開発着手予定[29]
2022年度
打上げ予定
レーダー8号機 2017年度開発着手予定[29]
2024年度
打上げ予定
光学9号機 2018年度開発着手予定[29]
2026年度
打上げ予定
光学10号機 2020年度開発着手予定[29]
2026年度
打上げ予定
レーダー9号機 2020年度開発着手予定[29]
2027年度
打上げ予定
レーダー10号機 2022年度開発着手予定[29]
2029年度
打上げ予定
光学11号機 2023年度開発着手予定[29]

衛星の諸元[編集]

衛星の正式な諸元は非公開のため、以下のデータは公開された資料に記載の範囲のものである。システム設計、製作等は三菱電機が担当したほか、以下の省庁が開発に参加した。

2002年(平成14年)度に打上げられた第1世代においては、データ送受信用アンテナには従来の陸域観測技術衛星で使用されていた全指向性低利得アンテナは採用せず、衛星の姿勢変更に柔軟に対応でき、指向特性にも優れたアクティブフェーズドアレイアンテナが採用されている[13]。重量は約2トンと報道されている。

なお、「情報収集衛星の観測性能のうち分解能の限界値を示すもの(実証衛星を除く)」は、内閣官房の特別管理秘密に指定されている。このほかに情報収集衛星等の運用のための暗号アルゴリズム暗号鍵又は暗号鍵の配送方式に関する事項について19件が特別管理秘密に指定されているが、これらの具体的な名称は、公開すると情報収集活動に支障を及ぼす(解析される)おそれがあるため公表されていない[31]

光学衛星[編集]

第2世代までの光学衛星には、陸域観測技術衛星だいち(ALOS, Advanced Land Observing Satellite、エイロス)に搭載されたPRISM(パンクロマチック立体視センサー)およびAVNIR-2(高性能可視近赤外放射計2型)を改良した機器が搭載されている[13]

第1世代
モノクロ画像用にパンクロマチックセンサー(最大分解能:約1m)、カラー画像用にマルチスペクトルセンサー(最大分解能:約5m)を搭載。
総合科学技術会議の資料によると、衛星の名称として「IGS-O1」および「IGS-O2」が使用されている[32]
第2世代(改良型)
第2世代は第1世代の改良型である。ポインティング性能および撮像時間が向上されているが、分解能は第1世代と同じとされている[13]
資料によると「次期情報収集衛星1」または「次期衛星1」と呼称されている。この「次期衛星1」は第1世代の予備機的な性格を持たせようとして開発が急がれた。
第3世代(大幅向上型)
第3世代は、諸外国の光学衛星の開発動向を考慮して更なる高分解能化を目指した衛星である。分解能は60cm級とされており、姿勢制御能力を大幅に向上させて様々な角度からの撮影を行うことができる。また、衛星からの画像を処理するための地上システムも同時に増強されている。
資料によると「次期情報収集衛星2」または「次期衛星2」と呼称されている。
第4世代
第4世代は第3世代と同等の光学センサを搭載しているが、ポインティング性能が向上している。開発開始時点の2005年(平成17年)に報道された内容によると、材質の軽量化や太陽電池パネルの効率向上により1.2トンまで小型・軽量化され、ポインティング性能が更に向上しているという[33][22]

レーダー衛星[編集]

第2世代までのレーダー衛星には、光学衛星と同様に、陸域観測技術衛星だいちに搭載されたPALSAR(フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダー)を改良した機器が搭載されている[13]

第1世代
第1世代は合成開口レーダー(最大分解能 約1〜3m)を備えている。
なお、総合科学技術会議の資料では、この衛星の名称として「IGS-R1」および「IGS-R2」が使用されている[32]
第2世代(改良型)
第2世代は、第1世代に比べて撮像時間が向上されているが、分解能は第1世代と同じとされている[13]
第1世代および第2世代のレーダー衛星の名称は、それぞれ、資料において「次期情報収集衛星1」または「次期衛星1」、および「次期情報収集衛星2」または「次期衛星2」と呼称されている。「次期衛星1」は第1世代の予備機的な性格を持たせようとして開発が急がれた。
第3世代
分解能を約1mに向上させ、電源の不具合対策を実施した。

衛星の高度と軌道[編集]

  • 高度約490kmの円軌道(太陽同期準回帰軌道)
  • 軌道傾斜角は約97.3°
  • 日本付近を通過する時刻は10:30〜11:00に設定

情報収集衛星の軌道要素は、日本国政府から情報公表されていないが、当初、アメリカ航空宇宙局ゴダード宇宙飛行センターにあるNSSDC(米国宇宙科学データセンター)から、NSSDC IDと共に2行軌道要素形式が公表されており、日本国政府から公開停止要請があるまで、2週間ほど公開されていた。NSSDCの情報は、NORAD(北米航空宇宙防衛司令部)が保有する軌道上を監視するレーダーから得られたものであり、NORADは打ち上げられた人工衛星に衛星カタログ番号を割り振り、アメリカ合衆国国益に反しない限り、人工衛星の軌道要素原則公開している。内閣府の担当者はそれを知らずに外部から指摘され公開停止要請をしたと見られている。また、2007年(平成19年)2月に打ち上げられたレーダー2号機と光学3号機実証衛星についても、NORADから情報が公開されており、高度約490kmを周回していると報道された[34]。軌道要素はNASAやNORADで公開された情報を転載している民間団体の検索サイト(SATCAT)からも得る事ができ、日本国内でも衛星の撮影に成功している者がいる。

しかし、そもそも人工衛星の軌道要素は、天体望遠鏡天体観測をしてそれに基づいて計算をすれば、アマチュア天文ファンや、アマチュア衛星を運用するアマチュア無線家でも知ることが出来るものであり、情報収集衛星の打ち上げ日時が公開されている以上、情報収集衛星が地球上の特定の地点を通過する日時は隠しておくことが出来ないものである。

光データ中継衛星[編集]

これまで情報収集衛星はデータ中継衛星を使わず、地上局へのデータの直接送信しか行っていなかったが、大量のデータを迅速に入手するにはデータ中継衛星が必要であることから、新たに光データ中継衛星を導入する方針を固めた。平成31年度(2019年)の打ち上げを目指して、平成27年度予算案に関連予算の一部を盛り込む予定。データを電波でなく光形式で送るため、他国による妨害や傍受を防ぐことも可能になる[35]

打ち上げ[編集]

衛星の打ち上げは、初回は宇宙開発事業団(NASDA)により行われた。2003年(平成15年)10月にNASDAが改組され、以降は後身の宇宙航空研究開発機構(JAXA)により行われている。また、2007年後半からロケット打ち上げ関連業務のほとんどが三菱重工に移管されたため、2009年以降は三菱重工が行っている。ただし、最終的な打ち上げ実行・中止の判断や安全管理業務はJAXAが行い、全責任を負うこととなっている。

運営と運用[編集]

組織[編集]

内閣官房長官が主宰する内閣情報会議に属する「情報収集衛星推進委員会」が情報収集衛星の開発に関する基本方針等を総合的に検討し、事務方の内閣官房副長官が主宰する「情報収集衛星運営委員会」が情報収集衛星の運用に関する基本方針の定義・監督を行っている。「情報収集衛星運営委員会」の委員は、内閣危機管理監内閣官房副長官補(安全保障危機管理担当)、内閣情報官、内閣衛星情報センター所長の他、警察庁公安調査庁外務省防衛省局長クラスで構成され、その下に設けられた幹事会が、利用省庁からの要請に基づき、撮像箇所や日時、競合した場合の調整を行っている。利用省庁としては、内閣官房のほか、警察庁、公安調査庁、外務省、防衛省、消防庁、経済産業省、海上保安庁国土地理院が挙げられている。

日常の運用は内閣官房直属の情報機関である内閣情報調査室に属する内閣衛星情報センターにより行われている。衛星から送信された情報は茨城県行方市の副センター、北海道苫小牧市の北受信管制局、鹿児島県阿久根市の南受信管制局で受信され、東京都新宿区市谷本村町の内閣衛星情報センター中央センターに伝送され、分析官によって情報分析される。内閣衛星情報センター所長には退官した将官級の元自衛官が、上部組織の内閣情報調査室の内閣情報官には警察庁から警視監級の出向者がポストに付くことが定例化している。

情報収集衛星を導入する前には、文部科学省審議会の宇宙開発委員会で情報収集衛星の開発についての審議と調査が行われていたが、運用が始まってからは、新型の情報収集衛星を開発する場合にも審議は行われなくなった。

実績[編集]

情報収集衛星が撮像した画像は「情報収集衛星の性能及び運用状況が明らかになり、今後の安全保障上の情報収集活動に支障を及ぼすおそれがある」ため、一切公開されていない。運用についても同様である。

災害時情報収集では、2005年(平成17年)の福岡県西方沖地震において消防庁が画像提供を受けたことを、2006年(平成18年)4月24日の参議院行政監視委員会において当時の消防庁次長が答弁している[36]。しかし一方で、2011年(平成23年)の東日本大震災では、最も必要とされる福島第一原子力発電所の衛星画像は東京消防庁ハイパーレスキュー隊に提供されなかった[37]。また、東京電力に対しても「秘密保全措置が講じられていない」ため提供されず[38]日本スペースイメージング及び日立ソリューションズから購入した、QuickBirdWorldView-1、WorldView-2、IKONOSGeoEye-1が撮影した衛星画像が使用された[39][40]。なお、首相官邸には情報収集衛星による福島第一原発の撮影画像が提供され、各省庁や現地対策本部には画像を基に作成された津波の浸水域が示された「被災状況推定地図」が提供されたという。この際、菅直人内閣総理大臣(当時)は撮影画像について「分かりやすかった」と述べたという[22]

政府答弁によると、情報収集衛星を活用した大規模災害として、2004年(平成16年)の新潟県中越地震、2005年(平成17年)の福岡県西方沖地震2007年(平成19年)の能登半島地震及び新潟県中越沖地震、2008年(平成20年)の岩手・宮城内陸地震及び岩手県沿岸北部地震2011年(平成23年)の霧島山新燃岳)の火山活動及び東日本大震災を挙げており、内閣衛星情報センターにおいて撮像した画像の判読・分析を行い、必要に応じて関係省庁にその結果を配付・伝達したとされている[2]

2013年(平成25年)11月にフィリピンなどを襲い、甚大な被害を出した台風30号の被害状況について、内閣情報調査室は情報収集衛星の画像情報、公開情報等を基に作製した「被災状況推定地図」をフィリピン政府に提供し、内閣官房のウェブサイトにも掲載した[41][42]

2014年3月27日、日本政府は、マレーシア航空370便が消息を絶った事件で、3月26日に情報収集衛星によって撮影された写真を解析した結果、不明機の残骸とみられる漂流物約10個を発見したと発表した。日本政府は、東京マレーシア大使館を通じ、マレーシア政府にこの情報を提供した[43][44]

2014年11月18日には、小笠原諸島周辺で違法操業を続ける中国漁船とみられる外国漁船について、昼間と夜間の船舶の位置を赤丸で表示した状況図を公開した[45]。また、2014年12月5日には、火山の噴火で拡大を続ける西之島の変化を動画形式でまとめた資料を公開した[46]

問題点[編集]

防衛目的以外への情報提供[編集]

情報収集衛星が導入されてから暫くの間、情報収集衛星によって得られた画像情報の防衛目的以外への利用については、安全保障上の観点から収集能力を秘匿させておきたい内閣衛星情報センターが難色を示していたため、消防庁も国土交通省も大規模災害時の対応計画には利用出来ず、安全保障以外での国民生活への有効活用には疑問が投げかけられていた[47][48]。このような批判に対して内閣衛星情報センターは、2007年(平成19年)2月24日のレーダ2号機打ち上げ後の記者会見において、今後は災害時には画像の関係機関への提供を検討すると明らかにした。

なお、内閣衛星情報センターが作成したリモートセンシングに関する資料によると「大規模災害時等においては、内閣情報調査室において、現地の被災状況を推定した地図を作成しており、広く活用されるよう各省に配布している。」とされている[49]。ただし、同センターの上部機関たる内閣情報調査室は「安全保障上の制約から、使われたかどうかも含めて、情報収集衛星の運用実態は一切明らかにできない」と説明している[39]。しかし、近年では前述の台風30号の事例など、情報収集衛星を使用したと明言した上で、その分析結果を公表する事も行われている。

分析チームの要員数[編集]

情報収集衛星の運用で最終的に得られる情報の質と量を決定する要素には衛星の分解能もあるが、それに優るとも劣らず重要な要素なのが、情報収集衛星によって得られた画像の識別と解析を行なう地上の分析チームの要員数と解析能力である。このため、衛星の分解能の優劣のみによって、その国が持つ衛星による画像情報収集能力を測るのは誤りである[50]

分析チームの解析能力について解説すると、例えば、衛星の光学センサにしても解像度を優先してモノクロで撮影を行なうタイプと、解像度を犠牲にしていくつか異なった光の波長で撮影を行なうタイプがある。情報収集衛星に即していうと、パンクロマチックセンサーとマルチスペクトルセンサーがそれらに当たる。地上対象物は、さまざまな波長に対して異なった光学特性を示す。同じコンクリート構造物であっても、作られている途中で固まっている最中なのか、建築後長い年月が経ちボロボロなのか、それとも表面にコケが付いているのかによって光学特性が違ってくる。また、衛星に搭載されているセンサによっても特性が異なっており、それらの違いを理解した上で正しい解析情報を素早く導くには十分な経験とそれを蓄積するだけの時間が必要となる。

当然、これらの高度な作業と衛星から得られる膨大なデータ量に対しては十分な分析チームの要員数が必要であるが、数千人規模のアメリカ合衆国の分析チームに比べて、日本は内閣衛星情報センターの定員が219名(2011年(平成23年)7月現在[40])という少人数体制である。このため、現状ではあまり多くの分析はできないとの指摘があがっている[51]

JAXAとの関係[編集]

情報収集衛星の開発や運用に関する費用は、内閣官房の予算で賄われている。しかし、実際には宇宙開発予算を削減して流用しているという意見がある[52]

宇宙航空研究開発機構(JAXA)の2007年(平成19年)度予算は2276億円だが、このうち432億円は内閣官房から情報収集衛星の費用として支出された受託収入である。一方、JAXAの前身となった3機関の予算を合計すると2200億円程度であり、JAXAが情報収集衛星以外に使用できる予算は1800億円程度に減少していることになる。すなわち、年間400億円の情報収集衛星予算は、結局のところ宇宙開発予算の中から捻出されていると考えることもできる。

一方、常時4機の衛星を運用し、継続して年間1機程度打ち上げられる情報収集衛星シリーズは、日本のロケットにとって最大の「顧客」でもある。当初はH-IIAロケットにレーダー衛星と光学衛星を同時搭載していたが、H-IIAロケット6号機の失敗以後は1機ずつ打ち上げることになったため、使用するロケットも倍増しており、打ち上げ回数の増加に貢献している。

なお多くのロケット運用国において、軍事衛星はロケットの需要を支える「上客」であるばかりか、軍事衛星の自主的整備こそが宇宙開発の目的のひとつとなっている。これに対して日本は、宇宙基本法成立までは宇宙平和利用原則に縛られて軍事衛星を保有せず、純粋に非軍事目的だけで大型ロケットを実用化してきた点から、ロケット運用国としてはむしろ特殊であったとも言える。

その他[編集]

米衛星部品の欠陥と国産衛星[編集]

2004年(平成16年)秋にアメリカ合衆国が開発した偵察衛星用の中枢部品に欠陥が見つかり、他国の衛星もこの部品を利用している多数の偵察衛星に重大な問題が発生する恐れがあると判明した。このため世界中の諜報関係者は一時騒然となる事態があった。しかし日本の衛星は独自開発であったため、その時点で打ち上げていた2003年(平成15年)3月打ち上げの衛星に全く影響がなかった。

脚注[編集]

  1. ^ 春原剛 著 『誕生国産スパイ衛星』、日本経済新聞社ISBN 4532165148、pp.124–134
  2. ^ a b c d e f g h 衆議院議員吉井英勝君提出大規模災害時における情報収集衛星の活用に関する質問に対する答弁書 内閣衆質177第286号、2011年(平成23年)7月8日
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参考資料[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]