インターネット・プロトコル・スイート

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TCP/IP群
アプリケーション層

BGP / DHCP / DNS / FTP / HTTP / IMAP / IRC / LDAP / MGCP / NNTP / NTP / POP / RIP / RPC / RTP / SIP / SMTP / SNMP / SSH / Telnet / TFTP / TLS/SSL / XMPP

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トランスポート層

TCP / UDP / DCCP / SCTP / RSVP

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ネットワーク層

IP (IPv4, IPv6) / ICMP / ICMPv6 / IGMP / IPsec

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リンク層

ARP/InARP / NDP / OSPF / SPB / トンネリング (L2TP) / PPP / MAC (イーサネット, IEEE 802.11, DSL, ISDN)

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インターネット・プロトコル・スイート: Internet protocol suite)とは、インターネットおよび大多数の商用ネットワークで稼動するプロトコルスタックを実装する通信プロトコルの一式である。 インターネット・プロトコル・スイートは、インターネットの黎明期に定義され、現在でも標準的に用いられている2つのプロトコル、Transmission Control Protocol (TCP) とInternet Protocol (IP) にちなんで、TCP/IPプロトコル・スイートとも呼ばれる。今日のIPネットワーキングは、1960年代1970年代に発展し始めたLAN (Local Area Network) とインターネットの開発が統合されたものである。それは1989年ティム・バーナーズ=リーによるWorld Wide Webの発明と共にコンピュータに革命をもたらした。

インターネット・プロトコル・スイート(類似した多くのプロトコル群)は、階層の一式として見ることができる。各層はデータ転送に伴い生じる一連の問題を解決し、下位層プロトコルのサービスを使用する上位層プロトコルに明確なサービスを提供する。上位層は利用者と論理的に近く、より理論的なデータを処理する。また最終的に物理的に転送できる形式へデータを変換するため、下位層プロトコルに依存する。 TCP/IP参照モデルは4つの階層で構成される[1]

概要[編集]

TCP/IPはあらゆるベンダーのコンピュータや、全く異なるOSで相互に通信することを可能にする。1990年代には一般的な通信として広く使われるようになり、プロトコルが無料で開放されていることからオープンシステムであると言える。

歴史[編集]

インターネット・プロトコル・スイートは、1970年代初期に米国国防高等研究計画局 (DARPA) による研究から登場した。1960年代後半に先駆的なARPANETの構築後、DARPAはその他様々なデータ転送技術における研究を開始した。1972年ロバート・カーン (Robert E. Kahn) はDARPA情報処理技術室 (IPTO: Information Processing Technology Office) に雇われた。そこで彼は衛星パケット網と地上の無線パケット網の研究に取り組み、それらを横断して通信ができる事の価値を認識した。1973年春、ヴィントン・サーフ(Vinton Cerf。その当時既に完成していたARPANET Network Control Program (NCP) プロトコルの開発者)は、ARPANETの次世代プロトコルを設計する事を目標に、オープン・アーキテクチャ相互接続モデルに取り組むためにカーンと合流した。

1973年の夏までに、カーンとサーフはすぐに基本的な改良を解決した。ネットワーク・プロトコル間の違いは、共通の相互接続ネットワーク・プロトコルを用いる事で隠蔽された。そしてARPANETにおいては、信頼性についてネットワークが責任を持つ代わりに、ホストが責任を持つようになった(サーフはHubert Zimmermanルイ・プザンCYCLADESネットワーク設計者)が、この設計に対して重要な役割を果たした功績を認めている)。

ネットワークの役割を最低限まで減らす事で、それらの特性が何であろうとも、殆どどのネットワークも統合できるようになった。それによりカーンの当初の問題も解決した。よく言われる事は、TCP/IP(サーフとカーンの取り組みの最終成果)は「two tin cans and a string」(2つの空き缶と1本の紐、すなわち糸電話)ででも機能するだろうという事である。伝書鳩を用いて稼動するための実装案「鳥類キャリアによるIP」さえ存在する。(RFC 1149[2][3])

その他の型のゲートウェイとの混同を避けるためにゲートウェイから改名された)ルータと呼ばれるコンピュータ はそれぞれのネットワークへインターフェースを提供し、ネットワーク間で行き来するパケットを転送する。 ルータに関する必要条件はRFC 1812 [4]で定義された。

その着想は1973~74年度にスタンフォード大学のサーフ ネットワーク研究グループによってより詳細な構造が作り上げられ、最初のTCP/IP仕様RFC 675 [5]を生み出した。 (PARC Universal Packet プロトコル群を生み出した、ゼロックス パロアルト研究所における初期のネットワーク研究も、大半が同時期に行われ技術的に重要な影響を与えた。人々はその2つに注目した。)

その後、異なったハードウェア上の実用プロトコルを開発するため、DARPAはBBNテクノロジーズ、スタンフォード大学およびユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンと契約した。 4バージョンが開発された。TCP v1、TCP v2、1978年春にはTCP v3とIP v3に分離、そして安定版のTCP/IP v4 - これは今日のインターネットでもまだ使われる標準プロトコルである。

1975年、スタンフォード大学とユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン間で、2拠点のTCP/IP通信試験が実施された。 1977年11月アメリカイギリスノルウェー間で、3拠点のTCP/IP試験が実施された。1978年から1983年にかけて、複数の研究施設でその他いくつかのTCP/IPの試作が開発された。1983年1月1日、ARPANETはTCP/IPへ完全に切り替えられた[6]

1982年3月、アメリカ国防総省は全ての軍用コンピュータ網のためにTCP/IP標準を作成した[7]1985年インターネットアーキテクチャ委員会は、コンピュータ産業のために3日間のTCP/IPワークショップを挙行した。250の業者代表が参加し、TCP/IPの普及を助け、商用利用の増加に繋がった。

2005年11月9日、アメリカ文化への貢献を称え、カーンとサーフに大統領自由勲章が授与された。

日本における普及[編集]

TCP/IPをサポートしたUNIX系オペレーティングシステム (OS) である4.2BSDは1983年9月に登場している。この時期のUNIX系OSは大学機関を中心に発展してきた経緯があるが、1980年代後半には日本の大学でもUNIX系OSが用いられているところでは大学内ネットワークにTCP/IPが用いられていた。1988年8月2日JUNETに大きく関わった村井純によって日本からのインターネットへのTCP/IP接続試験が行われ、その後、日本でもインターネットを取り巻く環境の整備が進むとともにTCP/IPが普及していくことになった。

1989年9月、最初の日本語による解説書である西田竹志著「TCP/IP」が発行された。

1997年3月全国銀行協会連合会が傘下銀行の企業・銀行相互間のオンラインデータ交換において使用できる新しい標準通信プロトコルとして、全銀TCP/IP手順を制定した。それまで利用されてきた全銀手順に代わり、電子データ交換でもTCP/IPが使われるようになった。

(日本におけるインターネットの歴史については日本のインターネットを参照)

インターネット・プロトコル・スイートの階層[編集]

2つのホストが2つのルータを経由してネットワーク接続する場合に、それぞれのホップで使用する階層毎に対応する階層同士で論理的に接続される概念図
任意のデータがUDPデータグラム中に、UDPデータグラムがIPパケット中にカプセル化される概念図

IP群はプロトコルとサービスをカプセル化する事によって抽象化する。 通常、より上位層のプロトコルはその目的の達成に役立てるために、より下位層のプロトコルを用いる。 これまでIETFはインターネット・プロトコル・スタックをRFC 1122で定義された4層から変更した事はない。 IETFは7層からなるOSI参照モデルに従うような試みはせず、また標準化過程 (Standards Track) にあるプロトコル仕様やその他の構造上の文書をOSI参照モデルに対して参照する事もしない。

4. アプリケーション DNS, TFTP, TLS/SSL, FTP, Gopher, HTTP, IMAP, IRC, NNTP, POP3, SIP, SMTP, SNMP, SSH, TELNET, ECHO, RTP, PNRP, rlogin, ENRP
さまざまな理由でTCP上で稼動する BGPなどのルーティング・プロトコルも、アプリケーションまたはネットワーク層の一部と考えられる場合も有る。
3. トランスポート TCP, UDP, DCCP, SCTP, IL, RUDP
2. インターネット IP上で稼動するOSPFなどのルーティング・プロトコルも、経路選択を提供するため、ネットワーク層の一部であると考えられる事も有る。 ICMPIGMPはIP上で稼動し、また制御情報を提供するため、ネットワーク層の一部であると考えられる。
IP (IPv4, IPv6)
ARPRARPはIPの下、リンク層の上で動作するため、それらはどこか中間に属する。
1. リンク イーサネット, Wi-Fi, トークンリング, PPP, SLIP, FDDI, ATM, フレームリレー, SMDS

いくつかの教科書ではインターネット・プロトコル・スイート・モデルを7層のOSI参照モデルへ対応付ける事を試みた事がある。 その対応付けは、インターネット・プロトコル・スイートのリンク層物理層の上のデータリンク層へ、またインターネット層はOSI参照モデルのネットワーク層へ割り当てられる事が多い。 それらの教科書はRFC 1122やその他IETFの一次情報の意図と矛盾する二次情報である。 IETFは再三にわたりインターネット・プロトコルと構造の開発はOSI参照モデルに準拠する事は意図しないという事を述べている

実装[編集]

TCP/IP(正確には IP + (TCP or UDP))は今日、ほとんどの商用および非商用のOSに実装されている。ほとんどの利用者は利用するために探したり、自分で実装する必要は無い。

特に広く使われている実装はバークレーソケットである。全ての商用UNIXBSD系PC-UNIX、BSDベースのMac OS Xはもとより、LinuxなどのUnix系OSや、Unix系でないWindowsなどでも使用されている。

その他の実装には、組込みシステムのために設計されたオープンソースのプロトコル・スタックであるlwIP(en:lwIP)、アマチュア無線のパケット通信で使われているKA9Q(en:KA9Q、KA9Qは開発者Phil Karnのコールサインである)、TINET[8]などがある。

イントラネット[編集]

TCP/IPを使用して構築されたプライベートネットワークをイントラネットと呼び、これは今日のLANにおける事実上の標準と言える。イントラネットで用いられるプロトコルの代表例を下記に挙げる。

関連項目[編集]

脚注[編集]

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  1. ^ R. Braden (1989年10月). “RFC 1122: Requirements for Internet Hosts―Communication Layers”. 南カリフォルニア大学 Information Sciences Institute (ISI). 2007年9月15日閲覧。
  2. ^ D. Weitzmann (1990年4月1日). “A Standard for the Transmission of IP Datagrams on Avian Carriers”. Internet Engineering Task Force. 2007年11月20日閲覧。
  3. ^ Bergen Linux User Group (2001年4月). “The informal report from the RFC 1149 event”. 2008年1月18日閲覧。
  4. ^ F. Baker (1995年6月). “Requirements for IP Routers”. 2008年1月18日閲覧。
  5. ^ V.Cerf et al (1974年12月). “Specification of Internet Transmission Control Protocol”. 2008年1月18日閲覧。
  6. ^ Internet History
  7. ^ Ronda Hauben. “From the ARPANET to the Internet”. TCP Digest (UUCP). 2007年7月5日閲覧。
  8. ^ https://www.toppers.jp/tinet.html

参考文献[編集]

  • Internet History -- Pages on Robert Kahn, Vinton Cerf, and TCP/IP (reviewed by Cerf and Kahn).
  • Forouzan, Behrouz A. (2003). TCP/IP Protocol Suite (2nd ed.). McGraw-Hill. ISBN 0-07-246060-1. 

追加知識[編集]

  • アンドリュー・S・タネンバウム 『コンピュータネットワーク第4版』 日経BP社、2003年ISBN 978-4822221065
  • Douglas E. Comer, David L.Stevens 『TCP/IPによるネットワーク構築 Vol.I 原理・プロトコル・アーキテクチャ 第4版』 村井純, 榎本博之訳、共立出版、2002年ISBN 978-4320120549
  • Douglas E. Comer, David L.Stevens 『TCP/IPによるネットワーク構築 Vol.II 設計・実装・内部構造』 村井純, 榎本博之訳、共立出版、1995年ISBN 978-4320027343
  • Douglas E. Comer, David L.Stevens 『TCP/IPによるネットワーク構築 Vol.III Windowsソケットバージョン クライアントサーバプログラミングとアプリケーション』 村井純, 榎本博之訳、共立出版、2001年ISBN 978-4320029996
  • Douglas E. Comer, David L.Stevens 『/IPによるネットワーク構築 Vol.III Linux/POSIXソケットバージョン クライアントサーバプログラミングとアプリケーション』 村井純, 榎本博之訳、共立出版、2003年ISBN 978-4320120846
  • Joseph G. Davies, Thomas F. Lee (2003). Microsoft Windows Server 2003 TCP/IP Protocols and Services Technical Reference. ISBN 0-7356-1291-9. 
  • Craig Hunt (1998). TCP/IP Network Administration. O'Reilly. ISBN 1-56592-322-7. 
  • W・リチャード・スティーヴンス 『詳解TCP/IP Vol.1 プロトコル』、ピアソンエデュケーション』 橘康雄, 井上尚司訳、2000年ISBN 4894713208
  • W・リチャード・スティーヴンス, ゲーリー・R. ライト 『詳解TCP/IP Vol.2 実装』 徳田英幸, 戸辺義人訳、ピアソンエデュケーション、2002年ISBN 4894714957
  • W・リチャード・スティーヴンス 『詳解TCP/IP Vol.3 トランザクションTCP、HTTP、NNTP、UNIXドメインプロトコル』 中本幸一, 田中伸佳, 石川裕次訳、ピアソンエデュケーション、2002年ISBN 4894716674
  • Ian McLean (2000). Windows(R) 2000 TCP/IP Black Book. Coriolis Group. ISBN 1-57610-687-X. 

外部リンク[編集]