過労死

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過労死(かろうし)とは、周囲からの暗黙の強制のもとで長時間残業や休日なしの勤務を強いられる結果、精神的・肉体的負担で、働き盛りのビジネスマンが脳溢血、心臓麻痺などで突然死することである(最近は若者も多くなっている)。英語では元々work oneself to deathと普通に翻訳されていたが、日本の状況が諸外国でも報道されることが増えたためそのまま「KaroushiKaroshi」として翻訳されている。

また厚生労働省のマニュアルによれば、「過労死とは過度な労働負担が誘因となって、高血圧や動脈硬化などの基礎疾患が悪化し、脳血管疾患や虚血性心疾患、急性心不全などを発症し、永久的労働不能または死に至った状態をいう」と定義されている。[1]

日本語の過労死がそのまま使われるのはこれが日本特異の現象であるとの認識を示す。またカロウシは英語の辞書や他言語の辞書にも掲載されている。先進国であるはずの日本の封建的な労働状況を象徴する言葉として認知されるようになる。

日本と同じで労働基準法の甘い途上国を中心に多数の事例が報告されているがこの場合にこれらの過労死がカロウシと表現されることはない。

目次

[編集] 状況

心筋梗塞脳出血クモ膜下出血、急性心不全、虚血性心疾患などの心臓の疾患が原因で起こる。近年、過労死は40-50歳代から30歳代にまで広がっている。女性にも増えているとは言え、未だに過労死する者の圧倒的大多数は男性である。また長時間労働による鬱病燃え尽き症候群に陥り、自殺する者も多い。

[編集] 労災認定基準

厚生労働省の労災認定基準では、脳血管疾患及び虚血性心疾患等を取り扱っている。仕事との因果関係の立証が難しいため、脳・心臓疾患の労災認定申請のうち、過労死と認められるのは一割程度である。2001年12月の認定基準の改正で発症前6か月間の長期間にわたる疲労の蓄積も考慮されるようになった。うつ病による過労死も労災として認められるようになった。

[編集] 裁判

過労死を巡る裁判としては刑事、行政、民事の3種類がある。

[編集] 刑事裁判

労働基準法では、法定労働時間を1日につき8時間、1週につき40時間と定め、これを超える場合には労使協定を締結することを義務づけており、この上限時間も原則1年間につき360時間と定めているが(労働基準法第32条、平成10年労働省告示第154号)、過労死に至るケースの場合はこれらの時間を大幅に上回る時間外労働を行っており、労働基準法第32条違反、また、これらの時間外労働に対して正当な割増賃金(通常の賃金の25%以上の割り増し)が支払われていないケースがほとんどであり、同法第37条違反として労働基準監督署が事業主を送検するケースがみられる。ただし、労働基準法第32条違反は最高で罰金30万円、同法第37条違反は最高で懲役6か月又は罰金30万円と定められており、人を死に至らせる不法行為に見合った刑罰の重さとなっていないとの批判が、主に労働者団体等から唱えられている。

[編集] 行政裁判

過労死が起こった場合、遺族はこの死亡が業務に起因するものであるとして労働基準監督署に労災補償給付を求めて申請を行うが、上記のように申請すべてについて労災認定が行われるものではないことから、労働基準監督署長が不認定の処分を下した場合、遺族は都道府県労働局に置かれる労働者災害補償保険審査官(労災審査官)に対して審査請求を行う。労災審査官が労働基準監督署長の処分を妥当と認めた場合(不認定相当とした場合)は、遺族は厚生労働大臣所轄の労働保険審査会に対して再審査の請求を行うことができる。

なお、労災審査官に審査請求を行ってから3か月以内に審査請求に対する決定がなされない場合、遺族は労災審査官の決定を待たずして労働保険審査会に再審査請求を行うことができる(労働者災害補償保険法第38条第2項)。

再審査請求に対する決定でも労働基準監督署長の不認定相当とされた場合、遺族は労働基準監督署長を被告として、行政処分(=労災不認定処分)の取り消しを求めて行政訴訟を起こすこととなる。ただし、この場合も、労働保険審査会に再審査請求を行ってから3ヵ月以内に裁決がない場合などは、再審査を待たずに行政訴訟を起こすことができる(同法第40条)。

この行政訴訟は地方裁判所に提起するものであることから、労災の認定に関しては「六審制」が採られているといえる(労働基準監督署長→労災審査官→労働保険審査会→地方裁判所→高等裁判所最高裁判所)。

ちなみに、労働事件が先例として判決集に登載される場合は、被告の会社名が事件名となるが(例:「○○コーポレーション事件」)、労災不認定取消請求事件の場合は労働基準監督署長が被告となるため、過労死の起こった会社を併記するのが通例である(例:「○○労働基準監督署長(△△産業)事件」)。

[編集] 民事裁判

過労死が起こった場合、企業が管理責任を怠ったとして裁判が起こることはつきものであるが、過労死の多くは勤務中に死に至るのではなく、激務な仕事をやめ1か月から数か月後に死に至るケースが多く、また、脳・心臓疾患は日常生活の習慣(高血圧気味であった、肥満気味であった、等)が過労により増悪することにより引き起こされることも多く、企業側は因果関係がないと主張する為、長期化することが多い。

[編集] 過去の事例

  • 本田技研工業栃木研究所(栃木県芳賀町)の29歳研究員の両親が息子の死は長時間にわたる過密労働によるものであるとして、同社や上司、男性の妻らを 相手取り総額約3800万円の損害賠償を求める訴訟を宇都宮地裁に起こした。 訴えによると、死亡した男性は2000年の入社から法定労働時間を超える長時間労働を強いられた。 2004年6月にうつ状態となり同月23日、自殺目的で失踪したが、 思いとどまり6日後、東京都日野市内で警察に保護された。しかし、その翌日未明、埼玉県大宮市(現さいたま市)内のホテルで投身自殺した。[2]
  • トヨタ自動車の社員であった当時30歳の男性が2002年2月9日、死亡した。月144時間と言う過酷な残業と変則的な勤務時間のためである、などと主張して男性の妻が訴訟を起こした。名古屋地裁は遺族側の主張をほぼ認め(認定した残業時間は106時間)この判決[3]が確定した。
  • 2007年7月5日、日産自動車の直系子会社ジヤトコプラントテックの男性社員が、建屋内で首を吊っているのを同社社員が発見、通報した。男性は死亡した。この日、男性は工長(現場のリーダー職)昇進を控えた集合教育を受けていたが、途中で席を立っており、この直後に自殺した。この教育は対象社員を一ヶ所に集め、数日間から数週間にわたり集中的に行われることから、「『日勤教育』的色合いが濃かった」(同社社員)といい、精神的に追い込まれる社員が少なくなかったという。男性の自殺について両社は黙秘しており、社内外への公表を行っていない。現在、係争中。
  • 1999年東京都小児科医の男性が病院屋上から投身自殺した。同医師は、当直の日は時に30時間を超える長時間勤務に病院の経営方針が重なり、相当な激務と心労が重なっていたと思われる。遺族側はこの自殺(過労自殺)に対して労災認定を求めて裁判を起こしていたが、2007年3月28日に国が控訴を断念して労災認定が確定[4]
  • 読売新聞新聞奨学生として新聞販売店に勤務していた学生が過労により死亡した。1990年12月4日の午後3時20分頃、販売店の作業場内で嘔吐を伴う体調不良を訴え、そのまま昏倒。救急車で病院へ搬送されたが午後9時30分に死亡。遺族は裁判に踏み切り、最終的に1999年に読売新聞社と和解が成立した。この事件などを踏まえ各社新聞奨学生の過重勤務の実態、その制度の特徴から強制労働的性質がある事を日本共産党吉川春子などが国会質疑で指摘している。

[編集] 海外での過労死

過労死は先進諸国でなく、発展途上国の最貧民のあいだで深刻とされている。この場合は栄養失調などの要因も重なり、突然死だけでなくいろいろな病気から死に至る。特に、福祉に回すほど余裕のない国は、労働者の生活実態さえ把握できていない場合が多い。ただし、賃金が安く雇用が保証されていない途上国では首切りが簡単に行われるので、従業員の人員調整で生産調整ができる。国民の祝日以外は休日無しの毎日12時間労働は存在しても、日本で過労死に至るようなホワイトカラーの過酷な労働時間は途上国でも余り見られない。

「日本人は働き過ぎ」とよく言われたが、現在ではアメリカでも管理職は同等の労働時間と言われており、仕事中に脳溢血や心臓麻痺での死亡は存在する。ただし法治主義のアメリカでは契約および法律義務つまり金銭的報酬に見合わない労働を行うという滅私奉公は存在しない[要出典]。また首切りが簡単に行えるので従業員の数を調整することで余分な残業代を減らす経営が行われる。そこで長時間の残業が必要とされるのは大抵が最低でも数百万ドルの報酬をもらう重役である。アメリカの企業では、解雇が日常茶飯事であると同時に、職員募集も常時行われている場合が多く、転職は日常的に行われている。特に、高給取りは他社からのスカウトも多く、労働条件が気に入らなければ会社をやめるという選択肢が現実に存在する。また法律および契約の違反した企業に対する損害賠償は、世界に類を見ない厳しさである。このため過労死が会社による強制あるいは労災とは捕らえられておらず、社会現象と認識されていない。日本の過労死がカロウシとして特別視されて報道されるのもこのためである。ただし、カロウシは存在しないが、簡単に従業員の首を切れる制度のため、能力の低い(または技能が時代遅れとなった)人間はすぐさまワーキングプアとなり、一気に最下層へと転落することが多い(なお、年齢差別が禁止されているので、特別な技能のない中高年でも選ばなければそれなりの仕事は見つかる)。

おもに、ブルネイクウェートなどは、過労死の割合が少なく、逆に、バングラデシュネパールなどは過労死の割合が高い(過労自殺を含む)。

EU諸国では、労働時間は労働基準法によって制限されており、過酷な労働時間により脳溢血や心臓麻痺で死ぬということはほとんど考えられない。逆に考えられるのは不法移民を使った違法な労働環境での事故死などである。また無報酬で残業を行うという考え自体が一般的ではない。ただし管理職は業績報酬制であるため残業手当は存在しない。

日本においても労働基準法は整備されており、このような健康を損ねるような残業は禁止されているはずなのだが、現在のところ大企業においても法律が遵守されないことが珍しくなく、さらに企業を監督すべき労働基準局など行政機関の腰も重い。

ヨーロッパでは管理職も含め、私生活を尊重する気風が強く、会社での仕事による過労死はほとんど考えられない。ただし、職場での人間関係のこじれやいじめなどを理由に自殺するなどの事例はヨーロッパでも存在する。フランスでは、ルノーの心臓部とも言われるイヴリーヌ県のテクノセンターで、3ヶ月の間に従業員3人が自殺していたことが2007年2月に日本の報道機関でも報じられた[5]。うち、1人は遺書で「仕事上の困難」を記しており、当局が「精神的虐待」が無かったかどうか捜査に乗り出すほどの問題となっている。

[編集] 過労死の背景

過酷な労働条件が原因で死亡するという現象は産業革命以降や途上国でも存在している。世界のほとんどの国が国連の労働基準条約を調印した現在において過労死が存在する理由は、行政がこの条約を無視して労働基準法を遵守していないからである。とりわけ、先進国の日本で過労死が多発している事象については、世界的にも稀有な例として見られており、先進国の中でも労働基準法が遵守されていない例として認識されている。

[編集] 脚注

  1. ^ 厚生労働省「産業医のための過重労働による健康障害防止マニュアル」より。
  2. ^ http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20070607k0000m040154000c.html
  3. ^ 名古屋地判平成19年11月30日 判例タイムズ1275号 豊田労基署長事件。
  4. ^ 小児科医師中原利郎先生の過労死認定を支援する会
  5. ^ ルノーで従業員連続自殺 「ゴーン改革」引き金か 2007年2月23日 産経新聞

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク