労働災害

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労働災害(ろうどうさいがい)、略して労災とは、労働者が業務中、負傷(怪我)、疾病(病気)、障害死亡する災害のことを言う。広義には、業務中のみならず、通勤中の災害も含む。狭義には、負傷(や負傷に起因する障害・死亡)のみを指す用語として使われ、疾病(や疾病に起因する障害・死亡)は指さないことも多い。

以下、特段指定しない限り、「労働災害」は広義の労働災害(労働者災害補償保険法(労災保険法)が対象とする業務災害と通勤災害)、「補償」は労災保険法上の補償について述べる。

労働災害の関係法[編集]

業務災害の防止責任[編集]

業務災害の防止措置は、労働安全衛生法じん肺法作業環境測定法などのほか、一部の危険有害業務の就業禁止や就業時間制限は労働基準法に基づく年少者労働基準規則女性労働基準規則に規定されている。なお、過労死に関連して、労働安全衛生法では直接的な労働時間規制はなく、労働基準法の一般的な労働時間規制が過労死防止の法制としての役割を果たしている。これら法令に違反がある場合、業務災害発生の有無にかかわらず、労働基準監督署等から指導を受けるのは勿論、時には送検され刑事責任を問われる。

業務災害の発生時の責任[編集]

業務災害が発生すると、当該事業主は労働者に対して、療養費用や休業中の賃金等に関する補償責任を負うことになる(労働基準法第75条~80条)。しかしながら、労働者災害補償保険(労災保険)の適用事業では、労災保険による給付が行われ、事業主は労働基準法上の補償責任を免れる(労働基準法第84条)。なお、労働基準法で義務づける補償のうち、休業1~3日目の休業補償は労災保険から給付されないため(労働者災害補償保険法第14条)、事業主は、労働基準法で定める休業補償(平均賃金の60%以上)の3日分を労働者に直接支払う必要がある。

また、労働基準法上の補償責任とは別に、業務災害について不法行為債務不履行(安全配慮義務違反)などを理由として被災労働者や遺族から事業主に対し民法上の損害賠償請求がなされることもある。事業主の安全配慮義務は、従前、民法の規定を根拠に判例として確立されていたところ、2008年施行の労働契約法で明文化された。さらに、事業主に限らず労働災害を発生させたとみなされる者は、警察による捜査を経て送検され、刑法上の業務上過失致死傷罪等に問われることがある。

労災保険制度[編集]

労災補償に関しては、労働者災害補償保険法に基づき、強制加入である労災保険制度を政府が管掌しており、労働者の資格如何に関わらず、全ての労働者(アルバイトパートを含む)に対して、労働基準法で事業主責任とする業務災害のみならず、通勤災害についても補償が給付される。ただし、上述の通り、業務災害による休業1~3日目の休業補償は対象外である。なお、保険給付に関する決定に不服のある者は、所定の手続きによる不服申立てが可能である。

また、例外として公務員の労働災害(公務災害)については、国家公務員は国家公務員災害補償法により、地方公務員は地方公務員災害補償法第3条の規定により設けられた各都道府県の地方公務員災害補償基金により各種給付が行われる。船員の労働災害については、かつては船員保険において処理していたが、2010年に船員保険から分離され、労災保険法の適用(「船舶所有者の事業」とされる)となった。

労災として認定されると、健康保険での給付はなされない。従来、請負業務インターンシップまたはシルバー人材センターの会員等で、健康保険と労災保険のどちらの給付も受けられないケースがあったことから、2013年に健康保険法が改正され、労災保険の給付が受けられない場合は原則として健康保険で給付を行うことが徹底されることとなった[1]

業務災害の定義[編集]

労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡を業務災害という。「業務災害」として認定されるためには、業務に内在する危険有害性が現実化したと認められること(業務起因性)が必要で、その前提として、労働者が使用者の支配下にある状態(業務遂行性)にあると認められなければならない。業務遂行性が認められる場合は、おもに以下のとおりである。

  • 作業中(事業主の私用を手伝う場合を含む)
  • 生理的行為(用便、飲水等)による作業中断中
  • 作業に関連・附随する行為、作業の準備・後始末・待機中
  • 緊急事態・火災等に際しての緊急行為中
  • 事業施設内での休憩中
  • 出張中(住居と出張先の往復を含む)
    出張中は、その用務の成否や遂行方法などについて包括的に事業主が責任を負っている以上、特別な事情がない限り、出張過程の全般について業務行為とみるのが実際的である。したがって、直接出張地へ赴くために自宅から通常通勤の最寄り駅まで移動する行為であっても、通勤災害ではなく業務災害となる。
  • 通勤途上や競技会等への参加中であっても、業務の性質が認められるとき
    事業主が専用の交通機関を労働者の通勤の用に供している場合、その利用に起因する災害は通勤災害ではなく業務災害となる。

業務上の疾病については、厚生労働省令(労働基準法施行規則別表第1の2)に11項目列挙され、これに該当した場合のみ業務上の疾病として認定される。もっとも、その第11号で「その他業務に起因することの明らかな疾病」と規定され、業務との間に相当因果関係があると認められる疾病について、包括的に業務上の疾病として扱うこととされていて、これにより、業務災害による療養中の業務外傷病や、過労死・自殺もその要因が、使用者の支配下によるものと認められた場合、業務災害として認定されうる。

いっぽう、労働者の積極的な私的・恣意的行為によって発生した事故の場合や、業務による危険性と認められないほどの特殊的・例外的要因により発生した事故の場合は、業務起因性が認められず、業務災害として認定されない。例えば、業務として強制されない(使用者の支配下にない)社外での懇親会(忘年会、花見など)等は業務災害に含まれず、また懇親会場への行き帰りの際の事故等について、いかなる場合も通勤災害とはならない。また、一般には第三者の犯罪行為は除かれるが、第三者の犯罪行為であっても、業務または通勤に内在する危険が現実化したと評価される場合は対象となる。例えば、警備中の警備員が暴漢に殴られた場合などは対象となる。個人的私怨により、偶然職場や通勤途中で知人から殺されたような場合は業務に起因するものとはいえず対象外とされている。また戦争内乱なども同様である。

特別加入者(海外派遣者を除く)の場合は、業務等の範囲を確定させることが通常困難であることから、厚生労働省労働基準局長が定める基準によって認定を行う。具体的には、以下のような場合には業務遂行性は認められない。

  • 事業主本来の業務を行う場合(株主総会や役員会への出席、銀行等に融資を受けるために赴く場合等)
  • 建設業の一人親方が自宅の補修を行う場合
  • 個人タクシー営業者が家族を一定場所まで送る場合

通勤災害の定義[編集]

労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡を通勤災害という。通勤災害は、直接には使用者に補償責任はないが、勤務との関連が強いという判断の元、昭和48年の法改正により労災保険の適用が認められた。

「通勤」とは、労働者が就業に関し以下に掲げる移動を合理的な経路及び方法により、往復することをいい、業務の性質を有するものを除く。

  1. 住居と就業場所との往復
    「住居」として、労働者が居住して日常生活の用に供している場所と認められれば、単身赴任先の住居が認められ、さらに反復性や継続性(おおむね月1回以上の往復行為又は移動がある場合)が認められれば単身赴任先と帰省先の双方が住居として認められうる。また、やむをえない事情があればホテル病院、親族宅も住居として認められうる。
    「往復」とは、不特定多数の者の通行を予定している場所での往復をいう。したがって住居の敷地内又は専有部分内は対象とならない。例として、通勤時の玄関先での転倒による負傷が私有地内での事故を理由に不支給とされたものがある。
  2. 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
    「厚生労働省令で定める就業の場所」とは、適用事業・暫定適用事業に係る就業の場所、特別加入者(通勤災害が適用されない者を除く)に係る就業の場所、及びこれらに類する就業の場所をいう。
    「他の就業の場所」(移動の終点となる就業の場所)は、労災保険の通勤災害保護制度の対象となる事業場に限る。これは、通勤災害に関する保険関係の処理は、終点たる事業場の保険関係で行うこととされるためである。
    「他の就業の場所」から「厚生労働省令で定める就業の場所」への移動は、必ずしも「通勤」に該当するとは限らない。
  3. 1.の往復に先行し、又は後続する住居間の移動であって所定の要件に該当するもの
    転勤に伴い、やむをえない事情により配偶者、子、要介護状態にある父母・親族等と別居することとなった場合に、帰省先への移動に反復性や継続性が認められれば、単身赴任先と帰省先との間の移動が通勤と認められうる。

「通勤による」とは、通勤と相当因果関係があること、すなわち、通勤に通常伴う危険が具体化したことをいう。「就業に関し」とは、移動行為が業務に就くため又は業務が終わったために行われるものであることをいう。したがって、早出、遅刻、早退、一時帰宅の場合でも対象となるが、私生活上の必要等で往復した場合は対象とならない。また労働組合活動等で、就業と通勤との関連性を失わせると認められるほど長時間(おおむね2時間超)の早出勤・遅退社も対象とならない。自殺や、怨恨をもって喧嘩を仕掛けるといった行為は通勤に通常伴う危険とは認められない。

「合理的な経路及び方法」とは、社会通念上一般に通行するであろう経路、是認されるであろう手段をいう。会社に申請している通勤方法と異なる通勤方法であっても、それが通常の労働者が用いる方法であれば問題はない。一方、無用な遠回り、交通禁止区域の通行、無免許運転酒気帯び運転等は合理的な経路及び方法とはいえない。なお、通勤経路の途中で合理的な経路を「逸脱」した場合や、通勤とは関係のない行為を行った(「中断」)場合は、ささいな行為を行うにすぎない場合(トイレ、休憩、ごく短時間の飲食等)を除き、その時点で通勤とは認められなくなる(「逸脱・中断」から合理的経路・手段に戻ったとしても認められない)。ただし、逸脱・中断が日常生活上必要な行為で厚生労働省令に定められているものである場合又はやむをえない事由により行うための最小限度のものである場合は、逸脱・中断の「後」について通勤災害として認められうる。なお、逸脱・中断の「間」における事故は、いかなる場合でも通勤災害にならない。「日常生活上必要な行為で厚生労働省令に定められているもの」とは、以下のとおりである。

  • 日用品の購入その他これに準ずる行為
  • 職業訓練学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
  • 選挙権の行使その他これに準ずる行為
  • 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
  • 要介護状態にある配偶者、子、父母、配偶者の父母並びに同居し、かつ、扶養している孫、祖父母及び兄弟姉妹の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る。)

通勤による疾病については、労働者災害補償保険法施行規則により、「通勤による負傷に起因する疾病その他通勤に起因することの明らかな疾病」と規定されている(業務災害とは異なり、具体的な項目の列挙はない)。

労災保険第2種特別加入者(いわゆる「一人親方」等)で以下のいずれかに該当する者は、通勤災害が適用されない。

  • 自動車を使用して行う旅客又は貨物の運送の事業に従事する者
  • 漁船による水産動植物の採捕の事業(船員法第1条に規定する船員が行う事業を除く)に従事する者
  • 特定農作業・指定農業機械作業従事者
  • 家内労働者及びその補助者

労災保険の任意適用事業所に使用される被保険者に係る通勤災害については、それが労災保険の保険関係成立の日前に発生したものであるときは、労災保険ではなく健康保険等で給付する。

労働災害の具体例と問題点[編集]

  • 例えば、日本国外においてテロリストやその国の軍隊殺害された場合は、労働災害といえるか意見が分かれる。テロリストや軍隊の射殺行為自体は「第三者の犯罪行為」で労働災害の対象外だが、その国がテロが多発している国であれば、当然その危険は予見されるため「使用者が危険性を承知した上で行為を命令した」つまり、労働行為に伴う危険により被災した、と判断できる。また、テロリストや軍隊が特定の企業・個人を明確に標的としていた場合は業務起因性が考慮される。[要出典]
  • 平成5年8月豪雨の影響を受けていた日豊本線竜ヶ水駅では、列車の乗務員たちが迫り来る土石流から乗客約300人を避難させたが、事故から3週間後に乗務員のうちの1人が喘息発作を起こし死亡。この乗務員は、死後に労災認定を受けた。[要出典]
  • 地下鉄サリン事件では、その犯行が無差別殺人であったことから、地下鉄による通勤においても場所的に無差別犯罪に遭う危険性が内在するとして、通勤中の被害者については通勤災害が認定されている。
  • 2007年ミャンマー反政府デモを取材中の長井健司カメラマンがミャンマー軍に射殺された事件では、ミャンマー軍が直々に長井を射殺するよう指示を出していた[2]ため、業務起因性が考慮され労災となった。
  • 市役所の窓口で執拗に暴言を浴びせられPTSDに悩まされるようになったとして、市職員が労災と認定された例がある[3]
  • 通勤災害は、使用者の支配下にないので労災申請しても使用者に調査が入ることがなく、使用者からは比較的簡単に通勤災害申請を出して貰える傾向がある。しかしながら、通勤災害の被害者である労働者自身(もしくはその家族など)が通勤災害適用に当たっての労を要し、通勤災害の認定についても業務災害以上に難しいことが多い。

保険給付[編集]

  • 労災保険法の規定にある通り、業務上・通勤により負傷や疾病、または障害・死亡した場合に、保険給付がなされる、業務上と通勤とで一部名称は違うが保険給付の内容としてはほぼ同じである。
  • 通勤災害については、療養の給付を受ける労働者から一部負担金として200円(健康保険法に定める日雇特例被保険者は100円)を徴収する制度がある。

労災遺族年金における男性差別問題[編集]

現在の制度においては、労災遺族年金受給において妻には年齢制限が存在しない一方、60歳未満の夫(厚生労働省令で定める障害の状態にある者を除く)はたとえ無収入であっても労災遺族年金を受給出来ないという性差別が存在するとされる。この問題につき、大阪地方裁判所は2013年11月25日の判決で、地方公務員災害補償法による男性差別の規定は憲法違反であると判断した[4]

労災かくし[編集]

事業者は、労働災害が発生し労働者が死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、労働者死傷病報告を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない(労働安全衛生規則第97条)。これを怠ったり、事実と異なる報告をすると労働安全衛生法違反となり、事業主等が処罰されることがある。なお、休業がなかった場合、又は通勤災害の場合は報告の必要はない。

業務災害が起きた際、主に以下の事情により、業務災害が起きたこと自体を使用者(元請、場合によっては下請)が隠匿する、いわゆる「労災かくし」が行われる場合がある。

  • 所轄官庁への報告届出を面倒がる(社会保険労務士資格相当者がいないとスムーズな申請が難しい)
  • メリット制による将来の保険料負担が増加する
  • 元請へ迷惑をかける、逆に元請が押し付ける
  • 元請けほか営業上の得意先が第三者行為による加害者である(労働者が労災保険により、得意先を第三者行為の対象として申請すると、労災保険から得意先に求償請求が回る。)
  • 業務災害発生によるイメージ低下、入札の指名停止被処分などの実害を嫌悪

労働者災害補償保険法上、労働災害があった場合でも労災保険を使わずに、労働者が自費で支払ったり、事業者が補償したり、また代表者のポケットマネーで治療を行うことは違法ではない。労働災害の場合であっても労災の治療費、休業補償を請求しないことも違法ではない。つまり、労災かくしとは、労働災害等により休業があった場合に、労働安全衛生法上の届出義務を怠ったということである。労災かくしは、労働災害防止対策の確立や再発防止・予防を妨げるものであり、発覚時には事業者が厳しく罰されるのだが、なかなか絶えない。

命令により労働に従事したことにより発生した労災に関して、管理者に業務上過失致死傷罪など刑事罰を適用すべきか議論がある。この適用がこれまでほとんどなされていないことが、労災が一向に減少しない重要な根拠となっている。[要出典]

脚注[編集]

  1. ^ 健康保険の被保険者又は被扶養者の業務上の負傷等について(全国健康保険協会HPから)
  2. ^ 2008年9月29日 毎日新聞朝刊
  3. ^ 公務災害:「暴言でPTSD」 市職員の訴え認定…兵庫 毎日新聞 2011年5月7日
  4. ^ 遺族年金、受給資格の男女差「違憲」 大阪地裁が初判断日経新聞 2013年11月25日

関連機関・官公職[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]