職業病

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職業病(しょくぎょうびょう、Occupational disease)とは、特定の職業に従事することにより罹る、もしくは罹る確率の非常に高くなる病気の総称である。医学用語では「職業性疾病」、労働基準法では「業務上疾病」と表現される。また転じて、特定の役務を行なう人に降りかかる災難を指す場合もあるほか、特定の職業に就く人に顕著に見られる問題のある傾向も、この言葉で形容する場合がある。

歴史[編集]

昔は劣悪な労働環境や、不十分な健康被害への対策に起因する多数の職業病が存在した。

日本では古くは重金属によるものが多く、奈良鎌倉大仏建立時には大仏の装飾に動員された金箔職人に、当時の金箔技法に利用されていた水銀アマルガムによる水銀中毒が多発した事を疑わせる記録が残されている。また、精錬に従事する人には水銀やなどによる中毒にかかる者が少なからず存在した。江戸時代には歌舞伎役者が化粧に用いる顔料の鉛白によって鉛中毒となり、天覧歌舞伎の演技中に、足が震えて止まらなくなった事件が社会問題となった。

19世紀の後半に、重工業が盛んになり始めると金属精錬や金属溶融作業に従事する者の熱中症ヒューム等の吸い込みによる悪寒が見られるようになった。 また、20世紀の前半には、騒音などによる職業性難聴ダイナマイト製造従事者に見られる狭心症、化学関連製造従事者による有機化合物による皮膚などの溶解やがんが見られるようになり、20世紀の後半には、新しい重金属中毒、機械器具などによる振動障害、アスベスト作業に従事者に見られるじん肺(塵肺)など技術の進歩や新しい職種が増加するにしたがって新しい職業病が次々と発見されるようになった。

また職業病と呼ばれるものの中で、パソコン携帯電話の普及で簡単に文字変換が出来るようになったため、漢字を読めるが書けなくなるというものがある。 これは機械類に明るくない人からは単に学力不足と見られることが多く、近年では仕事や生活の違い等から生じる、誤解されやすい習性全般を職業病と呼称する傾向が強い。

労働災害と職業病[編集]

職業病を本人に明確な過失がない限り、雇用者に責任があるものとして、現在は労働基準法などでその予防と労働環境の維持が事業者に義務づけられている現代にも、トンネル鉱山で掘削を行なっていた者に塵肺が発生し補償を求め大規模な訴訟が起こったり、林業従事者のチェーンソーによる白蝋病などがあり、最近では手話通訳者に起こる頸肩腕症がある。労働上の疾病や障害は労働災害の一部であり、雇用者によって加入される労働者災害補償保険により補償の対象とされるが、例えばサラリーマンのうつ病による自殺が労働災害にあたるかどうかは、しばしば司法に判断を委ねられる複雑な問題である。

最近ではタクシー運転手が長時間タクシーの運転席に座り続けた後、事務所へ歩いていった際に心不全で死亡した事例で、エコノミークラス症候群と同様の症状で死亡したとして労災認定が成されたケースもあり、現在でも就労環境によって発病したとして係争中の裁判は多い。

なお、糖尿病力士の職業病と呼ばれているほか、編集者の過剰な喫煙や、キーパンチャープログラマ腱鞘炎近視なども職業病と表現されているものの、これらは職種に直接関係したものではなく、個々の作業環境の問題や、不摂生に因るものである(糖尿病にならない力士や腱鞘炎にならないプログラマが多数存在する)。これらは狭義の職業病には含まれないと思われる。

放射線と職業病[編集]

キュリー夫妻(ピエール・キュリーマリ・キュリー)はラジウムポロニウムといった危険な放射性物質の検出を行なう過程でかなりの長期に亘って放射線を浴び続け(恐らく体内に入り込んだ放射性物質による内部被曝などの影響もあっただろう)体を蝕まれた。娘のイレーヌ・ジョリオ=キュリーなどの原子物理学者の中にも放射性物質を取り扱ったために同様に命を落とした者が出ている。これも職業病のうちに入るだろう。

ウラン産出国の採掘現場では労働者の理解不足から、イエローケーキを何の放射線防護も施さずに取り扱い被曝するケースも見られ、国際的に問題視されていることなど、教育によって回避されるべき職業病も存在しうる。

派生的な意味における職業病[編集]

特定の業種・業界において常識とされているもので、世間一般から見れば非常識だったり、不可思議に映ることがらを、派生的な意味合いで「職業病」と表現する事がある。例えば釣り銭を両手に並べて渡すことを規則で決めているファストフード店に長く勤務すると、普段の生活においてもついつい両手でお金を渡してしまうことがあるが、これは「職業病」と言える。また、自衛隊の隊員同士で飲みに行った際、体に行進の仕方を叩きこまれているため酔っ払いながらも並んで歩くと綺麗に足が揃うことがある。これも普段体に教え込まれた習慣が出てしまう「職業病」と言える。一方、仕事に打ち込むあまり、その業界ではまかり通る非常識を業界外にも突き通す「職業病」は、しばしば社会問題として取り沙汰される事がある。例えば報道業界におけるプライバシーの概念は時として世間一般の常識よりも行き過ぎた行動を黙認しがちであるが、これを熱心に取材活動を繰り広げるがあまりの「職業病」と見る向きもある。

脚注[編集]

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関連項目[編集]