最低賃金

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最低賃金(さいていちんぎん, Minimum wage)とは、最低限支払わなければならない賃金の下限額のこと。最賃(さいちん)と略される。

概要[編集]

労働基本権に基づくもの。多くの国では労働者の基本的な権利として広く適用されているが、必ずしも全ての労働者に適用されるものではなく、外国人労働者は対象外とするような特定の層に対して減額や、適用除外が行われることがある。シンガポールのように最低賃金制度は存在せず、賃金は労働力の需要と供給のバランスで決定される国家もある[1]

傾向としては、発展途上国フランス語圏の国では、広範に最低賃金が適用されている[2]


減額・適用除外について[編集]

以下の状況では、最低賃金の減額や、適用除外が行われることがある[2]

  1. 労働生産性が低く、適用範囲から外れても危険が生じない状況においては最低賃金を払うことが困難な層
    • 例:若年者、学生、障害者、見習生
  2. そもそも高い所得や手厚い加護を受けており、最低賃金の保護が必要のない層 (ホワイトカラーエグゼンプション)
  3. 雇用関係が特殊なため、最低賃金を適用しないことが正当化される層
    • 例:管理職、専門職、家事手伝、歩合給の者、チップをもらっている者
  4. 公的部門の被用者
    • 例:日本・フランスの政府一般職員

他には、事業所人数が10人未満のところは除外(バングラデシュスーダンなど)、農業は除外(カナダパキスタンなど)といった国もある。

減額と適用除外とでは、減額とする国が一般的である[2]

また、かつては女性に対する減額も一般的に行われていた[2]

若年者への適用について[編集]

若年者に対しては、大多数の国が減額を適用していない[2]が、一部の国では企業の負担が軽減されることにより労働需要が生まれるとして、減額制度を適用している。

適用に際して、どの程度減額するか、何歳までを最低賃金の適用除外とするかは、国によって異なる。一般的には「18歳または17歳以下の労働者に5%から15%の間の率を減じた率を適用している。」[2]より引用(以下本文において若年者に対する減額率は、成人の最低賃金に対するもの)。

  • オランダ
    最低賃金の適用年齢がもっとも高い。23歳以上は最低賃金を適用。23歳未満は最低賃金が減額される。減額率は、1歳につき7.5%。

雇用との関係[編集]

最低賃金法の雇用に対する影響の良し悪しにはかなりの議論があるものの、実証上は、影響が大きく出るような大幅な最低賃金の上昇をさせた例がないため、好影響も悪影響もあまり確認されていない[3][4]

理論的考察[編集]

元来、経済学者達は伝統的な完全競争モデルに基づき、最低賃金法を厳しく批判してきた。彼らによれば、最低賃金法は低賃金層の雇用を減らしてしまい、かえってそうした層の労働者の生活を悪化させてしまうという。なぜなら最低賃金法は、本来労働者が持つ価値以上の給料の支払いを経営者に強いるものだからである。こうした状況下では経営者はそうした労働者を雇えば雇うほど経営者が損してしまうので、損をさけるため、そうした労働者を雇うのを手控えてしまい、結果として失業数が増加する。一方最低賃金法がなければ、経営者達は労働者の価値に見合った給料で彼らを雇う事になるので、そうした労働者達は低賃金に甘んじねばならないものの、失業は避けられる。

しかし近年、労働市場を完全競争だとみなすことの不備が、経済学者自身によって指摘されている。まず賃金の上昇は労働者に一生懸命働くインセンティブを与えるので、生産性が向上し、転職が抑止される。従って雇用者はこうした効果を期待して、均衡水準より高い賃金を労働者に与える傾向がある[* 1]。最低賃金法による賃金上昇は、こうした効果による賃金上昇により相殺されるため、最低賃金法は予想していたほどの悪影響を与えないかも知れない[4]

また最低賃金法が長期的には雇用によい影響を与えるという意見もある。最低賃金法は短期的には低賃金労働者によって成り立っていた産業を壊滅させるかもしれないが、結果としてそれは労働者への投資を増大させる事に繋がり、長期的には生産性を増大させる可能性があるからである。たとえばスタンフォード大学の有名な経済史家であるゲイビン・ライトによれば、最低賃金法は南北戦争から大恐慌の頃までのアメリカ南部での低賃金の解消に決定的役割を演じ、アメリカ南部の労働市場をより高賃金の産業へとシフトさせる上でダイナミックな役割を果たした[4]。 別の指摘としては、労働市場は完全競争ではなく需要独占である可能性がある、というものがある。このモデルによれば、企業はその独占的立場を利用し、雇用の不当な縮小と賃金の不当な値下げを行う事ができてしまう。最低賃金法はこうした状況を改善するのに役立つ[3]

さらに高い水準の最低賃金はワーキング・プアの問題をなくすという利点がある。高い最低賃金は、労働から得られる収入が失業時に生活保護から得られる額よりも高い事を保証し、結果的に失業者に職探しをさせるインセンティブをもたらす[4]

また、『法と立法と自由』を著したフリードリヒ・ハイエクのように労働市場への不介入の原則と法の支配による個人の生存権の保護を両立させるために『ベーシックインカム』を主唱する経済学者もいる。[5]

特定最低賃金(産業別最低賃金)については、理論的には労働集約型産業に適用した場合には、労働者の厚生が高まるという理論的な裏づけがあるが、現実の適用業種は、支払能力が高い業種、産業に適用されており、理論的裏づけとは関係していない。また、特定最低賃金には、その産業への新規参入への障壁となる効果もあるため、その産業側の利益という意味合いもある。

実証[編集]

実証的には、最低賃金の雇用の縮小の効果が出るような大幅な最低賃金の上昇をした例がないため、雇用の縮小効果は小さく、その影響を判断できるような研究ができていない。[4]

2000年代の日本においては、2000年の最低賃金は659円、2012年の最低賃金は749円と13%の上昇を示しているが、2000年の完全失業率は4.7%、2012年の完全失業率は4.3%とむしろ低下している。

クリントン政権であった1996年に最低賃金が引き上げられた際に、失業率の上昇はみられず、低所得者層の給料が増加した[6]。最近の調査では、米国の主要な経済学者の約半数が、最低賃金を物価上昇とリンクさせて引き上げることによる経済的ベネフィットは最低賃金引き上げによる経済的コストを上回ると考えている。最低賃金の上昇は労働者の離職・転職率を減少させ、会社の労働生産性を向上させる。この労働生産性の上昇は、最低賃金引き上げによるビジネスコストの上昇を埋め合わせる。

近年の米国における経済学者による最低賃金引き上げ論[編集]

例えば2006年の段階で、米国ではジョセフ・スティグリッツポール・クルーグマンローレンス・クラインクライブ・グレンジャーケネス・アローロバート・ソローなど幾多のノーベル経済学賞受賞者らによる最低賃金引き上げの重要性が論じられている[7]。最低賃金を緩やかに引き上げることで低所得労働者層の福利を増進させることができ、労働市場、さらには経済全体にも好影響を与えるとされる。2012年にはスティグリッツをはじめ、ローラ・タイソンロバート・ライシュさらにはジェフリー・サックスなども協同し、米国議会へ2014年度までに現行の時給7.25ドルから9.80ドルへの最低賃金引き上げを求める手紙を送っている[8]

2013年、米国大統領であるバラック・オバマが最低賃金を時給9ドルに引き上げる政策を提示しており、クルーグマンはこの政策が以下の理由により低所得者の給与水準を改善するとして、これを歓迎している[9]

  • ここ40年間のインフレの影響で、現在の実質的な最低賃金はいかなる合理的水準よりもはるかに低い。従ってオバマが提案している程度の最低賃金の引き上げであれば、伝統的な経済学が予想する最低賃金の悪影響は顕在化しない。
  • 同様に米国経済の過去の実証研究も、最低賃金の多少の上昇が悪影響を顕在化させない証拠を数多くあげる事ができる。
  • 労働者という財は通常の財と比べてはるかに複雑である事が原因で最低賃金の多少の上昇は労働需要を減らさない。
  • 最低賃金の上昇は低賃金労働者を対象とした他の制度、特に勤労所得税額控除に影響を与える。この控除の利益の一部は低賃金労働者ではなく経営者に還元されてしまうが、最低賃金の上昇はその利益を低賃金労働者にある程度戻す。

代替[編集]

いくらかの経済学者は最低賃金に代わる制度を提案している。

各国の法定最低賃金[編集]

以下は、各国の法定最低賃金及びその推移である。なお、デフレート等物価変動の調整は行われていない。

EUでも加盟国間における最低水準の格差が指摘されている。ドイツのように全産業をカバーする法定最低賃金制度が存在しない国もある。

各国の状況[編集]

以下では、個別の国の概要等について記載する。

日本[編集]

日本では、日本国憲法第25条の趣旨に基づき、最低賃金法(昭和34年4月15日法律137号)によって最低賃金が定められている。最低賃金制度の在り方について労働政策審議会の意見の提出があったときは、政府は速やかに必要な措置を講ずるものとされている(昭和43年法律第90号附則第8項)。

制度の目的は、全ての労働者を守るための安全網としての役割がもっとも重要であり、公正な賃金設定という役割は、あくまで補助的なものである[12]

使用者は最低額以上の金額を賃金として労働者に支払わなければならない。これは全ての賃金に対して適用されるため、正社員やパート・アルバイトといった勤務形態の違いにかかわらず、最低賃金以上の賃金を支払わなければならない。ここで言う最低賃金は、基本的な賃金の額であり、例えば時間外割増賃金(いわゆる残業代)や通勤手当(いわゆる交通費)、精皆勤手当、家族手当は含まれない(住宅手当は含まれる)。

また、最低賃金には地域別(都道府県単位で設定)と産業別とが設定されている。優先順位は産業別賃金が地域別賃金より優先されることとなっており、産業別で設定されている産業(業種)については産業別の最低賃金が適用され、産業別で設定されていないその他の産業については、地域別の最低賃金が適用される。 なお、厚生労働省ホームページにおいて全国の地域別最低賃金/産業別最低賃金が閲覧できるようになっている。 ちなみに地域別においての全国加重平均額は764円。最高額は東京の869円、最低額は鳥取県など9県の664円となっている(2013年11月6日現在)。 地域別の最低賃金は都市部と地方で年々差が大きくなっており問題視する意見も増えている。 また日本の最低賃金はOECD加盟国の中でも最低ランクである。

額の決定、変更については、中央最低賃金審議会(厚生労働省)が厚生労働大臣へ引き上げ(引き下げ)の答申を行い、その答申を元に、各都道府県の審議会がそれぞれの最低賃金を定める形式となっている(法第10条)。

2007年11月28日、最低賃金法の改正によりワーキングプア解消を目指し最低賃金を決める際、「生活保護に係る施策との整合性に配慮する」ことを明記し「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう」との文言も加えられた(法第9条)。最低賃金未満で働かせた企業への罰則も、労働者1人あたり「2万円以下」から「50万円以下」に引き上げられた。

減額・適用除外[編集]

上記の様に最低賃金は全ての賃金に対して適用されるが、以下の要件に該当する場合で、都道府県労働局長の許可を得た場合は適用除外となる(法第7条)。

  1. 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者[* 2]
  2. 試用期間中の者
  3. 職業能力開発促進法第24条第1項の認定を受けて行われる職業訓練のうち職業に必要な基礎的な技能及びこれに関する知識を習得させることを内容とするものを受ける者であつて厚生労働省令で定めるもの
  4. 軽易な業務に従事する者その他の厚生労働省令で定める者(断続的労働に従事する者。施行規則3条2項)

なお、2007年の改正により、適用除外について使用者が上記の通り都道府県労働局長の許可を得た場合に、厚生労働省令で定める率を減額した額を最低賃金額とすることができるように改正されるとともに、減額事由から「所定労働時間の特に短い者」が削除された。

諸議論[編集]

最低賃金を巡る議論をいくつか挙げる。

  • 産業別賃金のあり方
    産業別賃金を廃止も含めて検討すべきという意見が、「最低賃金制度のあり方に関する研究会」報告書で出されている。
賃金水準について[編集]
  • 生活保護との関係
    「最低賃金は生活保護基準以下に抑えられており、これは労働者の生活よりも、企業活動を優先しているからだ」という意見は国会をはじめ、各所で取り上げられている。例えば2004年(平成16年)の第159回国会では日本共産党参議院議員、畑野君枝が最低賃金と生活保護基準との関連について質問主意書を出したのに対し、小泉純一郎内閣総理大臣(当時)が答弁書で「両制度はその性格等を異にしており、また生活保護費は住宅費等勘案する要素が多く、最低賃金と生活保護の水準を単純に比較することは適切ではない。しかしながら、中央最低賃金審議会で生活保護も参考にしながら最低賃金の水準を検討している」と答えている[13]
  • 地域差
    しんぶん赤旗では、現行制度では格差が広がるとして、全国一律の最低賃金(1,000円以上[* 3])にすべきと主張している[* 4]
  • 水準に対する労使対立
    傾向として、労働者側は「できるだけ高くしてほしい」と願っているが、使用者(企業)側は「できるだけ低く抑えたい」というものがある。また、日本の最低賃金は必ずしも高くないとされるが、これは、最低賃金変更者の経営使用者側への過度の配慮、最低賃金の引上げは雇用削減になる、高賃金の労働組合員の関心が低い、低賃金者の多くは既婚女性のパートタイマーや若年層である、という事情があるという。
  • 2006年12月労働政策審議会答申
    2006年(平成18年)12月27日に、労働政策審議会は以下の内容で答申を行った[14]
    • 低賃金労働者が増加したため、安全網としての役割を十分果たすようにする必要がある
      • →この役割は、地域別最低賃金で行う
    • 社会保障との整合性を取る必要がある
    • 罰則の強化
    • 産業別最低賃金は、労使による届け出によって決めることができ、こちらについては罰則の適用はされない
    • 派遣労働者については、派遣先の最低賃金を適用する
  • 格差是正緊急措置法案
    民主党は2007年3月1日、最低賃金を時給1,000円程度[* 3]とするなどを骨子とした「格差是正のための緊急措置等に関する法律案」を衆議院に提出[15]。低賃金労働者からはほぼ無条件に歓迎されているが、経営者は難色を示している。
  • 規制改革会議による提言
    2007年(平成19年)5月21日に、規制改革会議は以下の内容で提言を行った[16]
    • 労働者保護を強くしすぎることによって、正規雇用を抑制する結果を招いている。労働者の権利を強めることが労働者を保護するという考え方は間違い。
    • →この観点から、考えなしに最低賃金を引き上げると、最低賃金に満たない生産性の業種の労働者の失業を招き、かえって失業者を増やす。
  • 国連社会権規約委員会勧告
    国際連合経済社会理事会経済的、社会的及び文化的権利委員会(社会権規約委員会、CESCR)は、第50回会期に行なわれた日本の第3回報告審査の総括所見を2013年5月17日に採択し[17]、この中で、日本の最低賃金が最低限の生活水準、生活保護および生活費の増加を下回っているおそれがあるとの懸念を示した。その上で、労働者およびその家族が人並みの生活を営むことを可能とすることを最低賃金の決定要素として加えるべくその見直しを勧告するとともに、次回定期報告書において最低賃金未満の賃金支払いを受けている労働者の比率を報告するよう求めた。
地方最低賃金審議会の公平性について[編集]

地方最低賃金審議会では、経営者側の委員は中小企業の経営者等が多いにもかかわらず、労働者側の委員は大企業労働組合の代表が多く、地域別最低賃金により影響を受ける中小零細企業の労組代表がほとんど選任されていない。そのため有効性に疑問がもたれている。このことは国会でも取り上げられた。これは主に中小零細企業の労組では、労働者側委員を出せるだけの組織率を有している労組がないことが大きく影響しているといわれている。

最低賃金引上げの動向[編集]

地方自治体の中には発注する公共工事などを請け負う会社に対して国の規定を上回る最低賃金を支払わせることを目的としている公契約条例が制定されている例もある。 小泉改革やリーマンショックでの派遣切りや世帯主が非正規である家庭が増加したことが問題となり、低所得者の問題がクローズアップされ始め、2005年以降最低賃金は大幅引き上げの傾向にある。 2013年の最低賃金引き上げによって北海道を除いてようやく生活保護との逆転現象は解消される見通しである。

最低賃金との比較について[編集]

最低賃金を満たしているかどうかの計算式は以下によって求めることが出来る。 なお、通勤手当・皆勤手当・家族手当・深夜割増手当・時間外労働または休日労働手当は算入しない。臨時に支払われる手当(結婚手当など)も算入しない。住宅手当は除外賃金に指定されていないので、参入して計算する。除外する賃金は最低賃金の種類ごとに指定できることになっているが、どの最低賃金も同じ手当が除外手当として指定されている。

  • 基本給が月5,000円、住宅手当が月120,000円、職務手当が月25,000円、通勤手当が月8,000円で、1ヶ月の合計が158,000円。年間所定労働日数が250日、1日の所定労働時間が7時間30分。勤務地の最低賃金額が800円とする。
  1. 158,000円(1ヶ月の合計) = 5,000円(基本給) + 120,000円(住宅手当) + 25,000円(職務手当) + 8,000円(通勤手当)
  2. 通勤手当を差し引く。158,000円(1ヶ月の合計) - 8,000円(通勤手当)=150,000円。
  3. 時間額に換算する。150,000円 ÷ 1ヶ月平均所定労働時間(250日 × 7.5時間 ÷ 12ヶ月) = 960円
  4. 最低賃金が800円なので、960円 > 800円 となり、正しい賃金体制となっていることが分かる。

以下に挙げるの計算式は簡略したもので、時間額に換算するものである。

  1. 時間給制・・・時間給 ≧ 最低賃金額(時間額)
  2. 日給制・・・日給 ÷ 1日の所定労働時間 ≧ 最低賃金額(日額)
  3. 月給制・・・((月給額 × 12ヶ月)÷(年間総所定労働日数 × 所定労働時間))≧ 最低賃金額(時間額)
    • また、月給 ÷ 1ヶ月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)という計算方法もある。

派遣者における最低賃金[編集]

  • 派遣者における最低賃金は、派遣ではなく、派遣の都道府県における最低賃金が適用される。

アメリカ[編集]

アメリカの最低賃金は、公正労働基準法en:Fair Labor Standards Act, 1938年)によって連邦最低賃金が定められている。この他に、各州が定めている最低賃金もある。州の最低賃金が連邦最低賃金よりも高い場合には、州の最低賃金が適用される。

減額・適用除外[編集]

アメリカでは、以下の場合において最低賃金が適用されない[2]

  • 管理職、専門職など
    責任が重く、元々の給与が高いため
  • 小規模の新聞社や農業従事者など
    コストの問題で、最低賃金を導入するのが厳しいため
  • 新聞配達員
    主に子供が従事する仕事であり、最低賃金を適用してしまうと費用が高くなり子供が雇われなくなるため
  • 20歳未満の者
    雇用促進の観点から、就業後90日間は最低賃金が減額される

なお、最低賃金以下の賃金を支給されている労働者は、全労働者の約3%(2003年時点)[18]となっている。

履行保証[編集]

最低賃金が履行されているかの調査、勧告は、労働省賃金時間部の調査官が行う。権限の法令根拠は、公正労働基準法11(a)条による[19]

調査官は

  • まず公正労働基準法の対象となるかを調査する。
  • 対象となる場合には、給料支払い状況、労働時間の調査や、労働者との面談を行う。面談の際に話したことなどを理由とした差別解雇は禁止されている。
  • 調査によって違反が認められる場合には、是正措置(未払い賃金の支払いなど)を取る。

なお、未払いに対しては、上記の是正措置の他にも労働者による訴訟が公正労働基準法によって認められている[19]

イギリス[編集]

イギリスの最低賃金は、全国最低賃金法 (National Minimum Wage Act)(1998年)によって定められている。なお、イギリスは判例法(コモン・ロー)が重要な役割を担っており、制定法は補助・追認的な位置づけとなっている。

歴史的には、1909年に賃金委員会法を制定し、特に低賃金労働者が多い一部の産業について、最低賃金を定めた(1945年に賃金審議会法に改正)[20]。その後、労働市場の硬直化、生産性低下の回避等を理由として、1993年に「労働組合改革及び雇用権に関する法律」によっていったん廃止されている(当時政権は保守党)。その後、1998年にブレア首相時代に全国最低賃金法が施行、翌1999年に制度が復活した(当時政権は労働党[21]。2004年からは、義務教育修了(16-17歳)への最低賃金が定められた。

最低賃金の額は、低賃金委員会が諮問機関となり、政府に答申を行うことで決定される。なお、1945年から1993年までは、賃金審議会が各産業の賃金を定めていた(1993年の廃止時には、26の各産業の審議会が存在した)[20]

履行保証[編集]

最低賃金が履行されているかの調査、勧告は、内国歳入庁 (The Inland Revenue) の最低賃金監督官 (National Minimum Wage Compliance Officers) が行う。権限の法令根拠は、全国最低賃金法13条などによる。

減額・適用除外[編集]

労働者育成の観点から、就業後訓練を行っている間は、最低賃金が減額される。

「これは、16~17歳は完全な労働力というよりは職業生活の準備をしており、労働市場の中で異なる区分を形成しているという我々の見解を反映したもの」[2]より引用

その後、若年労働者を使用者の搾取から守るという観点から制度の改定が行われている。

なお、最低賃金以下の賃金を支給されている労働者は、全労働者の約1%(2003年時点)[18]となっている。

フランス[編集]

フランスの最低賃金は、全業種を対象に法律が定める基準(SMIC)と、業種別に労働協約によって定められた基準とがあり、双方を上回る必要がある。均等待遇の原則(同一労働同一賃金)が根付いているため同種の職種で賃金格差が付きづらいが、職歴の浅い者は最低賃金に近い水準となっている[22]

最低賃金で働く者の割合は、全労働者のうち13.9%。また、小規模な事業所は30.1%となっている(2001年7月現在)[22]

なお、週39時間制から週35時間制に移行したときには、労働者の賃金を保証するために最低賃金を上げ、使用者側に対しては補償措置として社会保障費の減免を行った[22]

2013年1月1日現在の最低賃金(税込み)は、時給 9.43 euros である。

履行保証[編集]

最低賃金が履行されているかどうかの監視については、官庁に所属する監督官によって行われる。監督先の企業を選ぶ方法は2種類あり、一つは労働者側からの監督要請、もう一つは監督者による任意の選定となっている[19]

調査の方法は、給与支払い明細やタイムカードを調べることによって違反が無いかをチェックする[19]

違反があった場合には、まず使用者に対し書類によって改善勧告が行われる。勧告によって改善されなかった場合には、刑法手続きが取られるが、手続きに1年半ほどかかるため、その間に改善されることがほとんどであるという[19]

脚注[編集]

  1. ^ これは労働市場が実際には完全競争ではないことに起因している。雇用者は労働市場の不完全情報性により、労働者の良し悪しを完全には把握できない。したがって労働の良し悪しとは無関係な所でインセンティブを生み出す必要が生じるのである。
  2. ^ しかし、障害者権利条約第27条第1節の(b)においては障害のある人にも、『他の者と平等に』、同一労働同一賃金を含めた公正で好ましい労働条件の保護を締約国に求めている。
  3. ^ a b 解釈によっては「全国での平均額が1,000円程度」とも受け取れりえる。「1,000円程度」を言い換えると、どの地域・どの職業でも時給が必ず1,000円以上となるとは限らないことになり、場合によっては時給が1,000円を下回る可能性も高くなる。
  4. ^ 「四十七都道府県、産業ごとにばらばらに決める現行制度では、格差は広がるばかりです。これ以上に格差と貧困を広げないためにも、全国どこでも、だれが働いても、生計費を基準にした最低賃金が保障される「全国一律最低賃金制度」でなければなりません。世界の多数がこの制度です。」(2007年2月11日付しんぶん赤旗)

出典[編集]

  1. ^ 国別労働情報シンガポール 独立行政法人労働政策研究・研修機構
  2. ^ a b c d e f g h 第4回最低賃金制度のあり方に関する研究会配付資料『諸外国の最低賃金制度における減額措置・適用除外の考え方について (Report). 厚生労働省. http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/12/s1207-5.html. 
  3. ^ a b 『米国最低賃金引き上げをめぐる論争』
  4. ^ a b c d e スティグリッツ、ミクロ経済学第三版、p512-514
  5. ^ Law, Legislation and Liberty: (2) The Statement of Liberal Principles of Justice and Political Economiy, London, Routledge, 1973
  6. ^ Raising the Minimum Wage: Old Shibboleths, New Evidence Laura Tyson, Economix, The New York Times 2013年12月13日
  7. ^ Economists want minimun wage raised NBCnews 2006年10月11日
  8. ^ Top economists: Time to raise the minimum wage learn forward, MSNBC 2012年7月24日
  9. ^ Raise That Wage Paul Krugman, New York Times 2013年2月17日
  10. ^ 정진우 기자 (2011年7月13日). “내년 최저임금 4580원 결정, 양대노총 '무효' 주장” (ko). 머니투데이. http://www.mt.co.kr/view/mtview.php?type=1&no=2011071315044000016&outlink=1 2011年7月13日閲覧。 
  11. ^ 陳舜協 (2013年4月2日). “江揆:基本工資4月1日調漲”. 中央通訊社. http://www.cna.com.tw/News/FirstNews/201304020019-1.aspx 
  12. ^ 最低賃金制度のあり方に関する研究会報告』(厚生労働省)
  13. ^ “参議院質問主意書 最低賃金額の引上げと最低賃金審議会委員の公正な任命等に関する質問主意書” (プレスリリース), 参議院, (2004年4月5日), http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/159/syuh/s159014.htm 
  14. ^ 2006年(平成18年)12月27日『-今後の最低賃金制度の在り方について-』(労働政策審議会 厚生労働省)
  15. ^ 第166回国会 議案の一覧”. 2012年12月20日閲覧。
  16. ^ 2007年(平成19年)5月21日『脱格差と活力をもたらす労働市場へ』(規制改革会議 内閣府)
  17. ^ Committee on Economic, Social and Cultural Rights 50th Session ( 29 April-17 May 2013)[1], Concluding observations on the third periodic report of Japan, adopted by the Committee at its fiftieth session (29 April-17 May 2013)[2](DOC ファイル), C. Principal subjects of concern and recommendations, 18、2013年6月5日閲覧
  18. ^ a b 第4回最低賃金制度のあり方に関する研究会配付資料『諸外国の最低賃金額未満の労働者数等について』(厚生労働省)
  19. ^ a b c d e 第4回最低賃金制度のあり方に関する研究会配付資料『諸外国の最低賃金制度における履行確保について』(厚生労働省)
  20. ^ a b 第2回最低賃金制度のあり方に関する研究会配付資料『諸外国の最低賃金制度について』(厚生労働省)
  21. ^ 1998年 海外労働情勢」(労働省
  22. ^ a b c 海外労働時報2003年増刊(労働政策研究・研修機構)

関連項目[編集]

外部リンク[編集]