賃金
賃金(ちんぎん)とは、名称のいかんを問わず、雇用契約における労働の対価として、使用者(雇用主)が労働者に支払うすべてのものをさす。
なお、賃金には、「賃銀」という別表記がある。昔は賃銀が使われていたが、1950年(昭和30年)以降、賃金との表記が一般化した[1]。
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[編集] 賃金の定義
労働基準法(労基法)では「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」と定義されている(労基法第11条)。
以下のものは賃金には含まれない。
- 恩恵的・任意的給付
- 退職金、病気見舞金、死亡弔慰金、災害見舞金など。ただし、労働契約、就業規則、労働協約などであらかじめ支給条件が明確になっているものは賃金とみなされる(昭和22年9月13日労働省労働基準局関係次官通達発基17号)。
- 福利厚生的給付・企業設備
[編集] 賃金形態
賃金形態(賃金の算出・支払いの方法)は大きく定額制と出来高払制に分けられる。
[編集] 支払い単位
- 定額制(労働時間を単位とする)
- 出来高払制(出来高を単位とする)
[編集] 支払い方法
- 日払い
- 週払い
- 一週間単位で支払われるもので、日払いと同じく短期的な労働で用いられる。
- 月払い
- 毎月一定期毎に支払われるもので、比較的長期的な労働で用いられる。
などがある。
[編集] 締め日と支払日
就業規則では毎月の一定の日を締め日とし、締め日から一定の日数後に支払うよう規定されているが、「締め日」「支払日」および「締め日〜支払日の日数」は会社によって大きく異なる。また「締め日〜支払日の日数」については法令で制限されていないため、実際に働いた分の賃金を受け取ることができるようになるのが1ヶ月〜2ヶ月以上あとになることもままある。
4月1日〜4月30日の1ヶ月分を例にすると、支払日は以下のようになる(支払日が土・日・祝日と重なる場合、翌営業日に持ち越しまたは前営業日に前倒しされる)。
- 月末締めで、翌月末払いの場合
- 5月末(5月31日)に支払われる。
- 月末締めで、翌々月末払いの場合
- 6月末(6月30日)に支払われることになるが、4月1日〜6月30日までの間は他に収入を得る手段がなく、実質的な3ヶ月間無収入の状態になるため、その間に生活するための十分な貯蓄を要する。
- 毎月15日締めで、当月末払いの場合
- 4月1日〜4月15日までの半月分(約10日分)が4月30日に支払われる。4月16日〜4月30での半月分は翌月末(4月16日から5月15日までの1ヶ月分をまとめて支払う)ないし規定された日に払われる。
[編集] 賃金体系
賃金は労働者の労働の対価であるが、賃金体系(各労働者の賃金に関する基本給や各種諸手当の構成)については、雇用する会社や労働内容によって大幅に異なる。一般には以下のように類型化されることが多い。
- 基本給
- 仕事給(職務給、職能給、職種給、業績給、成果給)
- 属人給(年齢給、勤続給、学歴給、資格給、扶養給など)
- 総合給
- 各種諸手当
- 詳細については手当 (給与)を参照。
[編集] 職種別賃金
いわゆる職務給。企業の枠を超えて職種ごとに設定された労働市場で横断的な賃金である。営業や研究などといった職種ごとに、賃金体系が異なる形態。そのため、人事考課で「一律な基準では職種ごとの特性を反映することができない」といった不満を解消したり、競争力の高い職種の賃金を上げたりすることによって優秀な人材を確保することができる。
米国や欧州などでは一般的な制度で、日本でも花王や富士電機などが導入している。財団法人 社会経済生産性本部の日本的人事制度の変容に関する調査も参照されたい。
[編集] 賃金支払五原則
労基法第24条は賃金の支払いについて、「通貨払いの原則」「直接払いの原則」「全額払いの原則」「毎月一回以上の原則」「一定期日払いの原則」を定める。これらは「賃金支払五原則」と呼ばれる。
[編集] 通貨払いの原則
使用者は労働者に対して原則として通貨で賃金を支払わなければならない(労基法第24条第1項)。
通貨払いの原則には次のような例外がある。
- 法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合
- 厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合
- 労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する労働者の預貯金への振込みによる方法(労基法施行規則第7条の2第1項第1号)
- 労働者が指定する金融商品取引業者に対する労働者の預り金への払込みによる方法(労基法施行規則第7条の2第1項第2号)
- 銀行その他の金融機関によって振り出された当該銀行その他の金融機関を支払人とする小切手の交付による方法(労基法施行規則第7条の2第2項第1号)※退職手当に限る
- 銀行その他の金融機関が支払保証をした小切手の交付による方法(労基法施行規則第7条の2第2項第2号)※退職手当に限る
- 郵便為替を交付する方法(労基法施行規則第7条の2第2項第3号)※退職手当に限る
[編集] 直接払いの原則
使用者は労働者に対して原則として直接賃金を支払わなければならない(労基法第24条第1項)。未成年者であっても保護者に対して支払うことは許されず、本人に直接支払わなくてはならない(労基法第59条)。[2]
直接払いの原則には次のような例外がある。
- 労働者の使者に対して支払う場合(これは、使者に払っても法律違反に問わないという程度のもので、使者に支払わないことが法律違反になるということではない。)
- 賃金が労働者の指定する金融機関に対する労働者の預貯金・預り金へ振り込み又は払い込まれる場合
[編集] 全額払いの原則
使用者は労働者に対して原則として全額賃金を支払わなければならない(労基法第24条第1項)。
全額払いの原則には次のような例外がある。
- 法令に別段の定めがある場合
- 労使協定(当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定)がある場合
関連判例:群馬県教職員給与減額支払等請求(最高裁判例 昭和45年10月30日)
- 給与過払による不当利得返還請求権を自働債権としその後に支払われる給与の支払請求権を受働債権としてした相殺が規定に違反し許されないとされた。
[編集] 毎月一回以上・一定期日払いの原則
使用者は労働者に対して原則として毎月一回以上・一定期日に賃金を支払わなければならない(労基法第24条第2項)。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与(ボーナス)その他これに準ずるもので臨時の賃金等については、この限りでない。
なお、賃金については毎月一回以上・一定期日に賃金を支払わなければならないことが規定されている(臨時に支払われる賃金、賞与(ボーナス)その他これに準ずるもので臨時の賃金等を除く)が、例外もある。
- 使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であつても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない(労働基準法第25条)とされる。
- ただ、「一定期日払いが末日になること」に関しては、「毎月最終日と決まっているので一定期日と考えられる」という立場と「毎月最終日が28日から31日の間で一定しておらず、一定期日とは言い難い」という立場があるが、労働者が次回の支払日をわかるような決め方であれば、実務上、問題とはされていない。
[編集] 賃金の確保
賃金収入は、労働者の生活の根幹を成すものであり、労働者は賃金が得られなれば生活を営むことができない。ゆえに賃金には一般の債権より優先される先取特権がある(民法308条)。したがって使用者は労働者に対し優先的に賃金を支払わなければならない。
「資金繰りに苦慮している」「取引先への支払いを優先させる」などという理由で労働者への賃金の支払いを滞らせる行為は許されない。[3]
また、如何なる理由があろうとも、賃金の支払い遅延は、遅延損害金請求の対象となる。(賃金の支払い遅延による損害金を参照)
[編集] 賃金の未払い
賃金の不払いは犯罪として処罰される(労働基準法24条1項本文、120条1号)。
企業(個人企業含む)が倒産した場合、賃金については、優先的に弁済を受けることができる(民法306条2号、破産時には財団債権となる)。また、未払いとなっている賃金の一部については、独立行政法人労働者健康福祉機構に支払を請求することもできる(詳しくは、未払賃金の立替払事業を参照)。
[編集] 賃金の未払いとなる特殊な例
年次有給休暇は、文字通り「有給の休暇」である。労働者が年次有給休暇の時季指定をした労働日について、これを欠勤と見なし当日分の賃金(各種手当含む)を支払わない場合、その分につき賃金の未払いとなる[4][5]。ただし、これに伴う皆勤手当の不支給については、労働者の受ける不利益がごく少ない範囲である場合は年次有給休暇を取得する権利を阻害せず有効であると判断されている[6]。
サービス残業は、労働基準法第37条が定める時間外労働手当を支払わない残業であるから、その分においては賃金の未払いとなる[7]。
[編集] 賃金の支払い遅延による損害金
賃金の支払いが遅延(未払い)した場合、労働者は使用者に対し、本来支払われるべき日の翌日から遅延している期間の利息に相当する遅延損害金を請求することができる。遅延損害金は、営利企業の場合は商事法定利率の年利6%(商法514条)、財団法人や学校法人など営利企業以外の場合は年利5%(民法419条、404条)となる。
労働者が既に退職している場合、支払期日までに支払われていない分の賃金(退職金は含まれない)については、賃金の支払の確保等に関する法律(賃確法)6条を根拠に年利14.6%の遅延損害金を使用者に対して請求することができる。
[編集] 公務員の賃金
公務員の場合、職種やその身分によって「級」「号」が設定されている。なお、公務員の場合は賃金(給料)については、必ず法律・条例に基づいて支給される。
- 教育職の場合、1級は臨時職員(常勤)・実習助手、2級は教諭、3級は教頭、4級は校長といったように分類され、各級の中で複数の号が設定されている。同じ「級」でも「号」が高いほど金額が高くなる。級が上がれば昇給となる。
また給与には、職種ごとに手当が加算される。
[編集] 賃金台帳
使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない(労働基準法第108条)とされ、その記録を3年間保存しておかなければならない(労働基準法第109条)とされるが、労働基準法としては労働者に対し、賃金(給料)に関する明細書(俗に言う給料明細(書))を発行する義務は規定されていない。
- 記載事項(労働基準法施行規則第54条)
- 1.氏名
- 2.性別
- 3.賃金計算期間
- 4.労働日数
- 5.労働時間数
- 6.労働基準法第33条若しくは労働基準法第36条第1項の規定によつて労働時間を延長し、若しくは休日に労働させた場合又は午後10時から午前5時(厚生労働大臣が必要であると認める場合には、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時)までの間に労働させた場合には、その延長時間数、休日労働時間数及び深夜労働時間数
- 7.基本給、手当その他賃金の種類毎にその額
- 8.労働基準法第24条第1項の規定によつて賃金の一部を控除した場合には、その額
- 第6号の労働時間数は当該事業場の就業規則において法の規定に異なる所定労働時間又は休日の定をした場合には、その就業規則に基いて算定する労働時間数を以てこれに代えることができる。
- 第7号の賃金の種類中に通貨以外のもので支払われる賃金がある場合には、その評価総額を記入しなければならない。
- 日々雇い入れられる者(一箇月を超えて引続き使用される者を除く。)については、第3号は記入するを要しない。
- 労働基準法第41条各号の一に該当する労働者については第5号及び第6号は、これを記入することを要しない。
[編集] 賃金に関する統計
主要な統計には以下のものがある。
- 厚生労働省『毎月勤労統計』…給与額、労働時間、労働者数等に関する統計、速報的な内容
- 厚生労働省『賃金構造基本統計調査(賃金センサス)』…職種別産業別、事業所規模別等の賃金、最も大規模で代表的な指標と言われている
- 厚生労働省『賃金引上げ等の実態に関する調査』…賃上げの水準について
- 国税庁『民間給与実態調査』…個人への調査が対象
- 人事院『職種別民間給与実態調査』…人事院勧告の基礎資料
[編集] 脚注
- ^ 岩波 国語辞典 第六版
- ^ モデルや子役として報酬を受け取る児童も例外ではないが、実際には直接手渡しされることはまずなく、当人名義の銀行口座への振込になる。
- ^ 福岡労働局 監督課:Q&A(Q7およびA7を参照)
- ^ 横浜地方裁判所判決 昭和51年3月4日 大瀬工業事件
- ^ 昭和22年9月13日 基発第17号
- ^ 平成5年6月25日 最高裁第二小法廷判決 沼津交通事件
- ^ “不払い残業(サービス残業)を撲滅しよう” (日本語). 日本労働組合総連合会. 2011年11月7日閲覧。
[編集] 関連項目
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