裁量労働制

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裁量労働制(さいりょうろうどうせい)とは、労働者雇用者と結ぶ労働形態の1つであり、労働時間と成果・業績が必ずしも連動しない職種において適用される[1]

日本での制度[編集]

日本における裁量労働制は労働基準法の定めるみなし労働時間制の1つとして位置づけられており、この制度が適用された場合、労働者は実際の労働時間とは関係なく、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなされる。業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務に適用できるとされる。適用業務の範囲は厚生労働省が定めた業務に限定されており、「専門業務型」と「企画業務型」とがある。導入に際しては、労使双方の合意(専門業務型では労使協定の締結、企画業務型では労使委員会の決議)と事業場所轄の労働基準監督署長へ[2]の届け出とが必要である[1][3]

法律及び告示に基づく規定[編集]

裁量労働制を採用するには、労働基準法第38条の3及び第38条の4[4]の要件を満たす必要がある。

専門的職種・企画管理業務など、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある職種であることが条件である。当初は極めて専門的な職種にしか適用できなかったが、現在では適用範囲が広がっている。 厚生労働大臣指定職種も含めた主な職種は以下の通りである。

  1. 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
  2. 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であつてプログラムの設計の基本となるものをいう。(7)において同じ。)の分析又は設計の業務
  3. 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和25年法律第132号)第2条第4号に規定する放送番組若しくは有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律(昭和26年法律第135号)第2条に規定する有線ラジオ放送若しくは有線テレビジョン放送法(昭和47年法律第114号)第2条第1項に規定する有線テレビジョン放送の放送番組(以下「放送番組」と総称する。)の制作のための取材若しくは編集の業務
  4. 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
  5. 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
  6. 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
  7. 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
  8. 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
  9. ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
  10. 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
  11. 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
  12. 学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
  13. 公認会計士の業務
  14. 弁護士の業務
  15. 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
  16. 不動産鑑定士の業務
  17. 弁理士の業務
  18. 税理士の業務
  19. 中小企業診断士の業務[1]

1から5までは、労働基準法施行規則第24条の2の2第2項[5]により、 6から19までは、労働基準法施行規則第24条の2の2第2項より厚生労働大臣が指定する業務を定める1997年(平成9年)2月14日労働省告示第7号[6]による規定である[3]

給与[編集]

みなし労働時間制のひとつであることからも明らかなように労働時間の概念は残されている。実労働時間にかかわらず、みなし労働時間分の給与が支給される。みなし労働時間が法定労働時間(8時間)を超える場合には労使で36協定の締結が必要であり、超過分の時間外労働に対する手当は割増支給される。また、深夜および法定休日の勤務に対しては深夜労働および休日労働に対する手当は割増支給される。管理監督者は労働時間や休憩、休日の規定が適用されない適用除外で時間外労働や休日出勤をしても割増賃金は支給されないが、深夜労働に関しては管理監督者も適用を受ける。[7] 長時間の時間外労働を行っていた労働者は、みなし労働時間の長さによっては裁量労働制の適用により「給与額が減る」場合がある。 実際の運用では、実労働時間が不確定であってもみなし労働時間分の給与を支給すればよいため、他の制度と比較してもっとも給与管理のコストは低い。

勤務時間[編集]

勤務時間帯は固定されず出勤・退勤の時間は自由に決められ、実働時間の管理もされない。 一方で、過重労働による労災事故および過労死予防のための安全配慮義務として、2003年から使用者側に実労働時間の記録および管理が義務づけられることとなり、一部に混乱が生じた。 一定期間ごとの「職務成果」が評価され給与に反映される場合は、裁量労働適用以前より長く働かざるを得ない場合もある。

職能との対応[編集]

職能に応じた社内資格を設定している企業では、特定の資格から上位に対して裁量労働制を適用することが多い。

問題[編集]

批判[編集]

日本経団連は現行の裁量労働制の問題点として、あくまでみなし労働時間であって労働時間の適用除外でないこと、対象業務の範囲が狭いこと、導入要件が厳格にすぎることを指摘した上で、現行制度以上にホワイトカラーの柔軟な働き方に柔軟に対応可能な労働時間制度としてホワイトカラーエグゼンプション(労働時間等規制の適用除外)制度の導入を提言している(日本経団連の提言の概要[1])。一方で、時間外労働手当て(残業代)の支給を逃れ、人件費削減を図る企業側のエゴイズムであるとする批判が存在している。また、裁量労働制とは名ばかりで、実際には勤務時間に制限を設けている企業も存在する。[要出典]

トラブル事例[編集]

ゲームソフトメーカーのテクモにおいて、経営陣が経理部の社員を「従業員代表者」として選定し、その人と労使協定を「結ぶ」事によって裁量労働制の導入を実施し、運用していた。制度導入に際し、会社側が都合のいい労働者側代表を選ぶことは法令違反である。その後、他の従業員からこの点を追及され、裁量労働制を廃止している。[2]

脚注[編集]

  1. ^ a b c 佐々木(2012年)、65-73頁
  2. ^ 1.対象業務(定められた19業務であること)、2.みなし労働時間、3.対象業務を遂行する手段及び時間配分の決定等に関し対象業務に従事する労働者に具体的な指示をしないこと、4.対象業務に従事する労働者の労働時間の把握方法と把握した労働時間に応じて実施する健康・福祉を確保するための具体的内容、5.対象業務に従事する労働者からの苦情処理のため実施する措置の具体的内容、5.有効期間、6.(4.と5.について)把握した労働時間の状況と講じた健康・福祉確保措置及び苦情処理措置の記録を協定の有効期間中及びその期間満了後3年間保存すること、(就業規則の例外となる場合の)時間外労働・休憩時間・休日労働・深夜業・などについての規定、に関する労使協定を記した「労働基準法施行規則第13号(専門業務型裁量労働制に関する協定届け)」を事業所所在地を管轄する労働基準監督署長宛に届け出る必要がある。
  3. ^ a b 専門型裁量労働制の適正な導入のために - 東京労働局労働基準監督署(2012年6月15日閲覧)
  4. ^ 労働基準法 - eGOV(2012年6月15日閲覧)
  5. ^ 労働基準法施行規則 - eGOV(2012年6月15日閲覧)
  6. ^ (参考)平成九年労働省告示第七号(労働基準法施行規則第二十四条の二の二第二項 第六号の規定に基づき厚生労働大臣の指定する業務を定める件)の一部を改正する件 新旧対照表 - 厚生労働省(2002年(平成14年)2月13日付、2012年6月15日閲覧)
  7. ^ PRESIDENT2014年6月30日号142ページ慶應義塾大学大学院商学研究科教授鶴幸太郎「残業代狙い」の働き方をどうやってなくすか

出典[編集]

  • 佐々木力・後藤喜恵子・柳澤美枝子、『労働法の基本がわかる』、自由国民社、2012年4月12日改訂9版1刷発行、ISBN 9784426114657

関連項目[編集]

外部リンク[編集]