脳梗塞

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脳梗塞
分類及び外部参照情報
CTスキャンの脳断面図。右半球が虚血による脳梗塞を起こしている(画像の左側)。
ICD-10 I61.-I64.
ICD-9 434.91
OMIM 601367
DiseasesDB 2247
MedlinePlus 000726
eMedicine neuro/9  emerg/558 emerg/557 pmr/187
MeSH D020521

脳梗塞(のうこうそく、cerebral infarction/stroke、別名:脳軟化症(のうなんかしょう))とは、を栄養する動脈の閉塞、または狭窄のため、脳虚血を来たし、脳組織が酸素、または栄養の不足のため壊死、または壊死に近い状態になる事をいう。また、それによる諸症状も脳梗塞と呼ばれる事がある。なかでも、症状が激烈で(片麻痺意識障害失語など)突然に発症したものは、他の原因によるものも含め、一般に脳卒中と呼ばれる。それに対して、緩徐に進行して認知症(脳血管性認知症)などの形をとるものもある。

日本人の死亡原因の中でも多くを占めている高頻度な疾患である上、後遺症を残して介護が必要となることが多く福祉の面でも大きな課題を伴う疾患である。ちなみに「脳軟化症」の名の由来は、脳細胞は壊死すると溶けてしまうため(「融解壊死」という)こう呼ぶ。

目次

[編集] 分類

脳梗塞は、血管が閉塞する機序によって血栓性・塞栓性・血行力学性の3種類に、また臨床分類としてアテローム血栓性脳梗塞・心原性脳塞栓・ラクナ梗塞・その他の脳梗塞の4種類に分類される(NINDS: National Institute of Neurological Disorders and Stroke米国国立神経疾患・脳卒中研究所による分類)。

[編集] アテローム血栓性脳梗塞

動脈硬化によって動脈壁に沈着したアテローム(粥腫)のため動脈内腔が狭小化し、十分な脳血流を保てなくなったもの。また、アテロームが動脈壁からはがれ落ちて末梢に詰まったものもアテローム血栓性に分類される。 アテロームは徐々に成長して血流障害を起こしていくことから、その経過の中で側副血行路が成長するなどある程度代償が可能で、壊死範囲はそれほど大きくならない傾向がある。 また、脳梗塞発症以前から壊死に至らない程度の脳虚血症状(一過性脳虚血発作、TIA)を起こすことが多く、このTIAに対する対処が脳梗塞の予防において重要である。 リスクファクターは、喫煙肥満糖尿病脂質異常症高血圧など。予防は、抗血小板薬アスピリンチクロピジンクロピドグレルシロスタゾールジピリダモールなど)によってアテロームの成長を抑制すること、高血圧・糖尿病・脂質異常症は原疾患に対する加療・コントロールを行うこと、また飲水を心がけて血流を良好に保つことである。 アテローム血栓性脳梗塞もいくつかの機序によって起こることが知られている。一般的に血栓症は動脈硬化による閉塞である。心筋梗塞の場合はプラークの破綻によって急激に冠動脈が閉塞する場合がほとんどだが脳梗塞の場合はいくつかの機序が知られている。まずは心筋梗塞と同様にプラークが破綻する場合がある。粥腫に富み、線維性皮膜が薄い場合は不安定プラークといい、こういったプラークは容易に破綻し、血栓による動脈閉塞をおこす。血管が閉塞、狭窄するとその灌流域が血液途絶を起こし皮質枝梗塞を起こす。狭窄部が急激な血管閉塞を起こすと心原性脳塞栓と類似した脳梗塞が発生する。こういったことは頭蓋外の内頸動脈や頭蓋内の脳主幹動脈に多(血行力学性によるもの参照)い。また、血管の閉塞や高度の狭窄によって血液供給の境界領域(watershed)が乏血状態となり、さらに血圧低下などの血行動態的要因が加わり梗塞が生じる。こういったことは中大脳動脈や内頚動脈に多い。内頚動脈に高度狭窄があり、支配領域の脳血流量低下を伴っている場合には、表層前方では前大脳動脈中大脳動脈皮質枝の境界、後方では中大脳動脈・後大脳動脈皮質枝の境界領域が最も乏血状態に陥りやすいので梗塞をきたしやすい。深部では中大脳動脈皮質枝と穿通枝の境界領域に起こりやすい。この機序によっておこる場合は発症後段階的階段状の進行、悪化が見られる(progressive stroke)。発症時間は夜に多く、起床時に気がつくことも多い。もともと極めて慢性に進行してきたと考えられ、こういった梗塞をおこす患者は側副血行路が豊富にある場合が多く、代償が可能な間は臨床症状が乏しいこともある。他には動脈硬化が原因の脳梗塞としてartery to artery embolism(A to A)というものがある。内頚動脈や椎骨動脈のアテローム硬化巣から血栓が遊離して末梢の血管を閉塞する。皮質枝にも穿通枝にも塞栓を起こしえる。心原性脳塞栓と同様活動時突発性発症が見られやすい。画像上は典型的には皮質枝、即ち大脳皮質MRI拡散強調画像 (DWI) で高信号域を認め、散在性小梗塞巣といった形を取りやすい。もちろん小型というのは他のアテローム血栓性脳梗塞よりはということでラクナ梗塞よりは大型の病変となる。アテローム硬化には好発部位がある。基本的には日本人には中大脳動脈に多い。しかし近年は欧米と同様、頸部内頸動脈の起始部に最も多くなっている。他の好発部位としては内頚動脈サイフォン部、椎骨動脈起始部、頭蓋内椎骨動脈、脳底動脈である。

アテローム血栓性脳梗塞は他の病型よりも一過性脳虚血発作が先行しやすいと言われている。閉塞動脈の支配領域の症状を繰り返しやすいという特徴がある。内頸動脈病変では一過性黒内障が有名である。これは眼動脈、網膜中心動脈領域の虚血が起こり、患側の視力が一過性に消失する。典型的にはカーテンが目の前に降りて行くように暗くなると患者は訴える。椎骨動脈では回転性めまいや嘔吐、構音障害が起こりやすい。発作の頻度が重要であり、短時間に頻回起こっている場合はcrescend TIAと呼ばれ、主幹動脈の高度狭窄の存在が示唆される、持続時間の延長は脳梗塞の危険が切迫していると考えられる。初回TIAが起こってから 1か月以内が最も脳梗塞が起こりやすいといわれているため、入院精査と治療が必要と言われている。アテローム血栓性のTIAならば抗血小板薬を、心原性やcrescendo TIAでは抗凝固療法を行うことが推奨されている。

  内頸動脈系 椎骨動脈系
運動障害 症状は片側性 多彩、交代性片麻痺、drop attack 、対麻痺
感覚障害 通常は片側性 多彩
視力障害 一過性黒内障 両側性視力障害
視野障害 同名半盲 中心回避型視野欠損、片側、両側の同名半盲
小脳症状 ない 運動失調、動揺歩行
脳神経症状 構音、嚥下障害、複視
回転性めまい ない ある
失語 ある ない
発作回数 少なく、発作ごとに症状は同じ 多い、発作ごとに症候は変動する
脳梗塞への移行 移行しやすい 移行しにくい

脳神経系の障害は上位ニューロン障害を起こすと内頸動脈系でも起こりうる。中心前回などが中大脳動脈に還流されるからである。

TIA(一過性脳虚血性変化)

TIAに関しては定義の混乱が認められる。1990年の厚生省の基準では「脳虚血による局所神経症状が出現するが24時間以内に(多くは1時間以内)完全に消失しかつ頭部CTにて責任病巣に一致する器質性病変が認められない」とされていたがその後のMRIの普及によって、上記の定義を満たしていても拡散強調画像で高信号域を認めることが非常に多く、脳梗塞の経過をとるものも認められた。そのため2002年The TIA working groupでは「TIAとは局所脳虚血あるいは網膜虚血が原因による短時間の神経症状による症状であり、通常は1時間以内に症状は消失し急性脳梗塞の所見を伴わないもの」とした。いずれにせよ、緊急MRIが行えるか否かで診断名は変わってしまうということである。

[編集] 塞栓性(脳塞栓症)(embolism)

脳血管の病変ではなく、より上流から流れてきた血栓(栓子)が詰まることで起こる脳虚血。それまで健常だった血流が突然閉塞するため、壊死範囲はより大きく、症状はより激烈になる傾向がある。また塞栓は複数生じることがあるので、病巣が多発することもよくある。原因として最も多いのは心臓で生成する血栓であり、そのほとんどは不整脈心房細動)に起因する心原性脳塞栓である。このほか、ちぎれた腫瘍が流れてきて詰まる腫瘍塞栓脂肪塞栓空気塞栓などもこれに含まれるが、稀な原因である。シャント性心疾患(卵円孔開存)なども原因となる。

脳塞栓症では高率に(30%以上)出血性梗塞を起こしやすい。これは閉塞後の血管の再開通によって、梗塞部に大量の血液が流れ込み、血管が破綻することによりおきる。心原性塞栓症の際に抗血小板療法や抗トロンビン療法が禁忌である理由はこれを起こさないためである。

心房細動は無症状のことも多く心機能もそれほど低下しないため、特に無症状の場合は合併する脳塞栓の予防が最も重要になる。心房が有効に収縮しないため内部でよどんだ血液が凝固して血栓となるが、すぐには分解されないほどの大きな血栓が流出した場合に脳塞栓の原因となる。特に流出しやすいのが心房細動の停止した(正常に戻った)直後であるため、心房細動を不用意に治療するのは禁忌となる(ただし、心房細動開始後48時間以内なら大きな血栓は形成されておらず安全とされる)。

予防には抗凝固薬ワルファリン)を用いる。抗血小板薬と併用することで予防効果が高まるという明確な根拠はなく、現在は抗凝固療法単独の治療が行われている。

[編集] ラクナ梗塞

ラクナ梗塞は本来、直径1.5cm以下の小さな梗塞を意味する。古典的には下記に示した5つの病型に含まれ、穿通枝領域に病変があり、皮質は病変に含まれない。書物によっては無症候性ラクナ梗塞という疾患も定義されるが無症候性ラクナ梗塞と慢性虚血性変化の区別が難しく古典的には無症候性ラクナ梗塞はラクナ梗塞に含まれない。ラクナ梗塞は上記の2種類とは違った機序が関わっているとみられていることからそれ自体がひとつの分類となっている。 主に中大脳動脈や後大脳動脈の穿通枝硝子変性を起こして閉塞するという機序による。ただし中大脳動脈穿通枝のうち、レンズ核線状体動脈の閉塞では、線状体内包梗塞と呼ばれる径20mm以上の梗塞となることがあり、片麻痺や感覚麻痺・同名半盲などの症状が現れることもある。後大脳動脈穿通枝の梗塞では、ウェーバー症候群ベネディクト症候群(赤核症候群)を起こすことがある。リスクファクターは高血圧。症状は片麻痺や構音障害などであるが、軽度または限定されたものであることが多く、まったく無症状であることも多い。意識障害を認めることはほとんどなく、失語症半側空間無視、病態失認といった神経心理学的な症候(皮質症候)も通常は見られない。 多発性脳梗塞とよばれるもののほとんどはこのラクナ梗塞の多発であり、多発することで認知症パーキンソニズム(脳血管性パーキンソン症候群)の原因となることがある。 ラクナ梗塞であるのかアテローム血栓性脳梗塞であるのかは、ラクナ梗塞のタイプを知っていると分かりやすい。症状が軽い、梗塞巣が小さいだけでは鑑別が難しくなることもあるからである。特徴としては感覚障害と麻痺が同時に存在しないタイプがラクナ梗塞ではありえるということである。

ラクナ症候群 症候 責任病巣
Pure motor hemiparesis 顔面を含む片麻痺、感覚障害なし 対側の放線冠内包後脚、橋底部
Pure sensory stroke 半側の異常感覚や感覚障害 対側の視床(後腹側核)
Ataxic hemiparesis 一側下肢に強い不全片麻痺と小脳失調 対側の橋底部、内包後脚、放線冠
Dysarthria-clumy hand syndrome 構音障害と一側の巧緻運動障害 対側の橋底部、内包後脚、放線冠
Sensori-motor storoke 半側の感覚障害と同側の片麻痺 視床から内包後脚

視床梗塞では手掌・口症候群というものが知られている。視床外側に病変があることが多く、一側の手掌と口角周囲に限局したしびれ感、異常感覚をきたすものである。視床の核内で手掌と口角の近くを支配する部位が隣接するため生じると考えられている。ラクナ梗塞以外では視床症候群が起きることが多い。これも病変の大きさの問題と考えられている。

BAD(branch atheromatous disease)

ラクナ梗塞とアテローム血栓性脳梗塞の中間となる病態にBADと呼ばれるものがある。BADとは穿通枝が主幹動脈からの近傍で閉塞することによって生じる穿通枝領域の梗塞である。穿通枝の病変であるが高血圧性の血管壊死を起こさず、アテローム硬化が原因であり長径15mm以上の梗塞を起こす。ラクナ梗塞の診断のもと抗血小板療法を行うが徐々に症状が悪化する例が報告されていたが、これがBADという概念に纏められた。レンズ核線条体動脈(特に外側線条体動脈)、視床膝状体動脈、前脈絡叢動脈、Heubner反回動脈、視床穿通動脈、傍正中橋動脈領域でBADは起る。特に外側線条体動脈、傍正中橋動脈は好発部位である。よって外側線条体動脈の支配領域である大脳基底核や傍正中橋動脈の支配領域である橋腹側でラクナ梗塞を疑う症状、病変をみたらBADの可能性を考える。アテローム血栓性脳梗塞に基づいて抗凝固療法を行うべきと考えられているが治療法は確立していない。

[編集] 血行力学性(hemodynamic)によるもの

一時的に血圧が下がったために、脳の一部が十分な血流を得ることができなくなって壊死に陥ったもの。血栓性や塞栓性では壊死しにくい分水嶺領域に発症することが特徴的である。分水嶺領域(Watershed Area)とは、どの動脈に栄養されているかで脳を区分した時に、その境目に当たる区域のことである。この部分は、一方の動脈が閉塞してももう一方から血流が得られるため動脈の閉塞に強い。しかし、動脈本幹から遠いため血圧低下時には虚血に陥りやすいのである。診断名ではアテローム血栓性脳梗塞になる。

[編集] 解離(dissection)によるもの

動脈内膜の損傷により、内膜と中膜の間に解離腔が形成される。外傷でも起こるが自然にも生じる。解離のために動脈内腔が狭窄したり閉塞したり外膜に動脈瘤様の拡張をきたしたりする。近年は椎骨動脈系で多い。大したリスクのない若い人が突然の後頸部痛に伴って発症することが多い。ワレンベルグ症候群を呈することもよくある。脳動脈解離は画像診断の進歩によって明らかになった概念であり、若年性脳梗塞の最大の原因であり、クモ膜下出血の原因としても重要である。クモ膜下出血を認める椎骨動脈解離は致死的な再出血を予防するために直ちに外科的手術を行う。血管内治療が第一選択となる。解離腔と後下小脳動脈、前脊髄動脈、穿通枝の位置関係、対側椎骨動脈の灌流状況を確認し、血管内治療、開頭手術(バイパス術含め)あるいはこれらを組み合わせて治療を行う。外科的治療が困難な場合は再出血防止のための保存的治療を行う。

クモ膜下出血を伴わない頚部動脈解離では保存的治療が第一選択となる。心筋梗塞と大動脈解離は治療が大きく異なるが、脳動脈解離では治療は脳梗塞に準ずる。解離や出血の誘発を行わない程度に脳梗塞の治療を行う。カタクロット®やバイアスピリン®といった抗血小板薬は未破裂動脈瘤の出血率を上昇させないというエビデンスがあるため、血圧を正常からやや低めに保ち抗血小板療法を行う。解離の進行が認められたら外科的処置を検討する。近年はステントなど外科的な治療も試みられており、特に慢性閉塞性血管障害ではよい適応となっている。

[編集] 血管炎によるもの

抗リン脂質抗体症候群全身性エリテマトーデスによるものが若年性脳梗塞の原因として考えられている。

[編集] まとめ

  心原性脳梗塞 アテローム血栓性脳梗塞 ラクナ梗塞
割合 30~40% 30~40% 30~40%
発症形式 突発完成、重症 段階進行 比較的緩徐、軽症
既往歴、危険因子 心房細動や弁膜症 高血圧、糖尿病、高脂血症 高血圧、糖尿病
合併症 心不全 虚血性心疾患、下肢動脈閉塞症 特になし
内科的治療 抗凝固薬 抗血小板薬 慢性期に降圧薬など
外科的治療 なし ステント、内膜剥離術 なし

心原性脳梗塞、アテローム血栓性脳梗塞では血栓融解療法が試みられている。しかし出血性梗塞のリスクがあるために発症から3時間以内でないと基本的には行わない。

[編集] 症状

脳梗塞は、壊死した領域の巣症状(その領域の脳機能が失われたことによる症状)で発症するため症例によって多彩な症状を示す。症状から責任病巣を決定することができる(神経診断学)。

麻痺
運動の障害を意味し、もっとも頻度の高い症状が麻痺である。中大脳動脈の閉塞によって前頭葉運動中枢が壊死するか、脳幹の梗塞で錐体路が壊死するかで発症する。
多くの場合は、片方の上肢・下肢・顔面が脱力または筋力低下におちいる片麻痺の形をとる。ただし、脳幹梗塞では顔面と四肢で麻痺側が異なる交代性麻痺を来すこともある。
感覚障害
感覚線維、または頭頂葉の感覚中枢が壊死することで出現する。感覚の鈍化または消失が起こるほか、慢性期には疼痛が出現することがありQOLへの影響が大きい。
失調
小脳または脳幹の梗塞で出現し、巧緻運動や歩行、発話、平衡感覚の障害が出現する。これに関連してめまいが出現することもある。
意識障害
脳幹の覚醒系が障害された場合などに意識レベルが低下するほか、広範な大脳皮質の破壊でもみられる。それがなくても、急性期脳の腫脹などによって全体的に脳の活動が抑制され、一過性に意識レベルが下がることがある。ラクナ梗塞で意識障害を来しにくいのは、梗塞範囲が小さいため腫脹など脳全体への影響が小さいことによる。
構音障害嚥下障害
喉頭・咽頭・の運動にも麻痺や感覚障害が及ぶことで嚥下や発声機能にも障害が出現する。構音障害は後述する失語とは違い、脳の言語処理機能は保たれながらも発声段階での障害のためにコミュニケーションが不十分となっているものである。嚥下障害は、摂食が不十分となって社会復帰を困難にしたり、誤嚥によって肺炎の原因となるなど影響が大きい。
嚥下・構音障害を起こすような咽頭・喉頭機能の障害は脳幹の延髄の障害に由来することから球麻痺と呼ばれる(延髄は球形)が、より上部から延髄へいたる神経線維の障害でも類似した症状がみられるため、これは仮性球麻痺と呼ばれる。
高次脳機能障害
失語失認をはじめとした高次機能障害の出現することがあり、これは非常に多彩である。中でも、半側空間無視空間のうち左右どちらかが意識からはずれてしまう)が非常に多くみられる。これは大脳劣位半球頭頂葉でみられるものだが、右利きの人間の95%は劣位半球がにあることから、ほとんどは「右利きで左片麻痺」の患者にみられる症状であると言える。逆に失語は優位半球の障害でみられるもので、「右利きで右麻痺」の患者にみられることが多い。

[編集] 経過

発症
脳梗塞の症状は徐々に進行して増強してくるものから突然に完成するものまで千差万別である。ただし、塞栓性のものは突然に完成することが多い。
発症時間で最も多いのが夜間から早朝にかけてである。これは、就寝中には水分をとらないために脱水傾向になることと関わっている。年間を通じてはに多い。夏は脱水、冬は体を動かさなくなることが発症と関わっている。
気付かれる症状として最も多いのが麻痺である。「体が傾いている」「立ち上がれなくなった」などの訴えで病院に搬送されてくることが多い。逆に、失語のみなどの一見奇異な症状では脳梗塞だと気付かれず医療機関への受診が遅れることもある。
急性期
脳梗塞の症状は急性期にもっとも強く、その後徐々に改善していく。これは、壊死に陥った脳組織が腫脹して、周囲の脳組織も圧迫・障害していることによる。腫脹が引いていくとともに、周囲の組織が機能を回復して症状は固定していくのである。ただし、腫脹や、壊死組織から放出されるフリーラジカルは周囲の組織をも壊死させる働きがあるためこれらを抑制することが機能予後の向上につながる。
急性期は血圧が高くなる。場合によっては(収縮期血圧で)200mmHgを超えることもある。これは、虚血部位に対して血流を送り込もうという生理的な反応であり、無理に降圧を図ってはいけない。(降圧しすぎると、梗塞範囲を広めるおそれがある)
降圧薬、不用意な頭位挙上は脳循環血流を悪化させ、再発や症候増悪をおこす。症状が安定するまで少なくとも24時間はベッド上安静とする。
亜急性期
軽症から中等症のものであれば、数日で脳の腫脹や高血圧は落ち着き、場合によってはほとんど症状が消失するまでに回復する。ただし、ある程度大きな後遺症が残った場合にはリハビリテーションを続けても発症前と同レベルまで機能を回復するのは非常に困難である。
慢性期
原因にもよるが、脳梗塞の既往がある人の脳梗塞再発率は非常に高い。そのため再発予防のための投薬を受け続ける必要がある。また、長期の後遺症としててんかんパーキンソニズムを発症することがある。

[編集] 診断

神経内科または脳神経外科が行うが、発症後3時間以内の超急性期では迅速な対応が必要であり、救急科が行うことも多い。

[編集] 身体所見(神経学的所見)

上記の巣症状のほか、上位中枢の障害を示唆する錐体路徴候腱反射の亢進、バビンスキー反射の出現)や眼球運動異常などから梗塞部位が推測できる。神経学的所見から脳梗塞(脳卒中)の客観的な重症度を記載する方法として、いくつかのスケールが提唱されている。最も簡便で臨床的に多用されているのはNIHSS(National Institute of Health Stroke Scale)である[1]。これは超急性期の血栓溶解療法を実施する際には必須の項目となっている。

[編集] 検査所見

一般的な血液検査上は特徴的な所見はないが、血栓性では血小板機能を調べると亢進していることがある。ただし、血液検査から高脂血症・糖尿病などの基礎疾患を評価する意義は大きい。超急性期の血栓溶解療法を実施する際には高血糖低血糖などの絶対禁忌項目があるため、血液検査は必須となる。

[編集] 画像所見

CT

X線CTでは、まず何よりも脳出血との鑑別が重要である。脳出血ではよほど小さなものでない限り超急性期から血腫が明確な高吸収域として確認できるからである。さらに脳梗塞では初期(早期)虚血変化(early CT sign)と呼ばれる所見がみられることがある。early CT signとしてはレンズ核陰影の不明瞭化、島皮質の不明瞭化、皮髄境界(皮質と白質の境界)の不明瞭化、脳溝の消失(狭小化)が有名である。これらの変化がMCA領域の1/3を超えるとき(1/3MCA領域)は血栓溶解療法の治療適応外となるため、近年では初期虚血変化有無の判定が重要となっている。やや時間が経過すると、壊死した脳の腫脹がみられることがある。そして、壊死した組織は発症数日すると軟化してCT上暗くなるが、これらの所見はどれも発症急性期にははっきりしないものである。

MRI

MRIではより早期から所見を捉えることができる。T2強調画像で病変が高信号になる(細胞の腫脹をみている)のが発症約6時間でみられるほか、拡散強調画像(DWI)では高信号を約3時間後から認めることができるとされる。概念上はDWIにて高信号を示している部位はすでに不可逆的な変化を示していると考えられており、その周囲に可逆的な部位であるペナンブラが存在すると考えられている。しかしDWIの高信号域の多くは梗塞巣に一致するが淡い病変の中に可逆性の病変が含まれることもあることが知られている。逆に超早期はDWIでも偽陰性を示すことはしばしば認められる。発症24時間以内でも5%ほどの偽陰性が知られている。特に発症6時間以内の椎骨動脈灌流域で偽陰性が多く20%も認められる。特に延髄病変で多いとされている。逆に大脳皮質での偽陰性は低く2%程度である。初回のDWIにて高信号が認められなくとも経過、症状から脳梗塞が強く疑われた時は24時間後に再度撮影するのが望ましい。その場合は3mm程度の薄いスライスでb value 2000以上で行うと検出率が高くなる。

病期 病態 DWI ADC-MAP T2WI CT
発症直後(0~1時間) 閉塞直後の灌流異常 所見なし 所見なし 所見なし 所見なし
超急性期(1~24時間) 細胞性浮腫 高信号 低信号 所見なし early CT sign
急性期(1~7日) 細胞性浮腫と血管性浮腫 高信号 低信号 高信号 低吸収
亜急性期(1~3週間) 細胞壊死による炎症反応から徐々に浮腫軽減 高信号から徐々に低信号へ 低信号から徐々に高信号へ 高信号 低吸収からFEを介して低吸収へ
慢性期(1か月~) 壊死、吸収、瘢痕化 低信号 高信号 高信号 髄液濃度

上記表は脳梗塞におけるMRIの典型的経時的変化である。超急性期は細胞性浮腫のため拡散係数が低下し、それはDWIにて高信号、ADC-MAPで低信号という形で表現される。急性期では毛細血管のBBBの破綻により血管性浮腫が起る。血管性浮腫により単位組織あたりの水分量が増加するためT2WIにて高信号を示すようになる。急性期に再灌流により血管性浮腫が増悪し、著明な脳浮腫や出血性梗塞を起こすこともある。亜急性期になると細胞壊死と血管壊死により拡散係数が上昇してくるため、一時期見かけ上正常化(pseudo-normalization)する。拡散強調画像ではT2 shine throughの影響をうけて亜急性期後半まで高信号が持続する。この現象があるために拡散強調画像で高信号でも拡散係数の低下や脳梗塞超急性期と言えずとすることができず、ADC-MAPを併用して評価する。発症2週間ほどでCTでも血管性浮腫の軽減により一時的に病変が等吸収になる。しかし不明瞭化はしておりFE(fogging effect)と言われる。亜急性期では軟膜髄膜吻合による側副血行路の発達や代償性の灌流増加にて比較的小さな梗塞巣内の出血が認められることがあり、T2*にて低信号を示す。これは急性期の出血性梗塞と異なり、重篤な神経症状の増悪を招くことはないが、ラクナ梗塞の場合はこれらの所見がある場合は抗血小板薬投与をしない方が無難とされている。その後は慢性期所見としてT2WI高信号となるが、組織欠損の程度によりFLAIR画像で低信号化したりする。細胞外液腔の開大によるものである。

脳血管障害では遠隔部に二次性が起ることが知られている。代表例を示す。

二次性変化 所見
皮質脊髄路のワーラー変性 皮質脊髄路に障害があるとその遠隔部で4週後よりT2短縮、10週頃よりT2延長。DWIでは2日から8日程度で信号変化が認められる。
視床の変性 外側線条体動脈を含め中大脳動脈領域に障害があると皮質視床路を介して同側視床が発症3か月以降にT2延長。背内側核から起ることが多い。
中脳黒質の変性 線条体の障害で同側中脳黒質に発症10日前後でT2延長が認められ、1か月ほどで消失する。
下オリーブ核仮性肥大 小脳歯状核病変では対側の下オリーブ核に橋背側中心被蓋路では同側に変性がおこる。数か月でT2延長がおき、その後肥大する。
交叉性小脳萎縮 橋核が障害されると対側の中小脳脚にワーラー変性が生じる。橋核近傍が障害されると対側に同様の変性が生じるため、両側性となることも多い。

その他、有名な所見としては皮質層状壊死(cortical laminar necrosis)というものがあり、椎体細胞層(第3層)が選択的に虚血に陥ることであり発症後3週間ほどでT1WIにて皮質に沿った高信号域が認められる。

頚動脈エコー

血栓性の場合、頚部血管のエコーで、血管内壁の粥腫(プラーク)による狭小化を確認できることがある(高度な場合には外科的切除の対象になる)。エコーでは、頭蓋内血管を微小栓子(HITS)が流れているのを確認できることもある。 エコーではプラークの性状としてエコー輝度、表面性状、均一性、可動性を評価する場合が多い。エコー輝度は病理組織との対比で低輝度は粥腫や血腫、等輝度は線維組織、高輝度は石灰化病変と一致すると言われている。低輝度の場合は脆弱であり脳梗塞のリスクが高いとされている。表面性状としては壁の不整はプラークがなくとも脳梗塞のリスクがあるとされている。また2mm以上の陥凹、即ち潰瘍は脳梗塞のリスクが高い。またプラークの性状が不均一でであると均一な場合よりもさらに脳梗塞のリスクが高いとされている。またプラークに可動性のある血栓が付着する場合も高速のリスクが高いと考えられているが頻度は低い。

心エコー

非弁膜性心房細動が最も心原性脳塞栓のリスクとなるのだが、心臓超音波検査を行うことでさらに詳細な評価を行うことができる。塞栓源として重要な所見としては左心耳内血栓、卵円孔開存(PFO)、心房中隔瘤、心臓腫瘍、大動脈弓部複合粥腫病変などがあり、これらは軽食道心エコーでの検出率が高い。卵円孔開存(PFO)は一般剖検で20%ほど認められる所見で右左シャントとなり静脈で形成された血栓が左室系に流出することで脳梗塞を起こす。これは奇異性脳塞栓症といい若年者脳梗塞や原因不明の脳梗塞で頻度が多い。発症様式で塞栓性が疑われるが心房細動もなく、内頚動脈に有意病変が認められない場合は大動脈源性脳塞栓を疑い大動脈弓部複合粥腫病変を検索する。

[編集] 対応

脳梗塞の急性期には、腫脹とフリーラジカルによって壊死が進行することを阻止するのが第一となる。また、再梗塞も予防する必要がある。そのため、血栓性とみられる場合には抗凝固薬を用いながらグリセリン(グリセオール™)やマンニトール等で血漿浸透圧を高めて脳浮腫の軽減を、発症24時間以内にエダラボン(ラジカット™)でフリーラジカル産生の抑制を図る。またペナンブラ(penumbra)と呼ばれる虚血部位と正常部の境界部位の血流保持も図られる。

[編集] 血栓溶解療法

アテローム血栓や塞栓症の場合、発症直後(3時間以内)であり、設備の整った医療機関であれば血管内カテーテルによってウロキナーゼを局所動脈内投与する血栓溶解療法が可能である。

また、2005年10月からt-PAのうちアルテプラーゼ(遺伝子組換え)の静脈内投与による超急性期虚血性脳血管障害の治療について日本国内での治療も健康保険適応となった。1995年の米国の報告では予後改善効果も認められるが脳出血の副作用も6.4%と対照の0.6%より大幅に増えていた。日本での治験(J-ACT)では脳出血例5.8%(6/103例)であった。 心筋梗塞の治療でt-PAを使うときも承認前1.76%(7/398例)、市販後14例(14,360回投与中)の脳出血例が報告されている。脳梗塞専門病棟など整った施設に於いて慎重に適応を選び十分な説明と同意の元進められる治療法であろう。アルテプラーゼとしてはアクチバシン®やグルトパ®がおもに用いられる。 血栓溶解療法が有効な例の目安としては発症から3時間以内に治療開始できることは言うまでもない。またあまりに重篤な症状がある場合は慎重投与となる。NIHSSでは5~15点あたりが積極的な適応となる。MCA領域の1/3以上にCTで病変が認められるときは行わない(MRIは施行する必要はない)。また出血のリスクの評価として既往歴、血小板数、PT-INR<1.7あたりを指標とする。高血圧は出血のリスクとなるが、静注時に185/110以下にコントロールできていれば問題はないと考えられている。また、「3時間以内の治療開始」の条件を満たすためには患者自身の状態以外にもt-PAによる治療が可能な病院がどこにあるかといったことを救急隊、病院、自治体間でで共有、連携していなければならない。AHA(アメリカ心臓学会)のガイドラインでも急性期脳卒中が疑われた場合t-PA治療の可能性を考え、救急車による搬送をすべきであるとされている。2008年の診療報酬改定により厚生労働大臣が定める医療機関に対し、t-PAを使った治療を行った場合に算定できる「超急性期脳卒中加算」(12,000点)が定められた。今後は行政レベルでの対応も必要になると考えられる。


米国においてもt-PAによる脳出血の死亡例は多く報告されており、判例に基づいた医療(Jurisprudence-Based Medicine)或いは「マスメディアに基づいた医療」の観点からは、「t-PA治療を行っても、行わなくても訴訟或いはマスコミの非難が待っている」という、まさに綱渡りを医療者に強いる認可であったと言える。

[編集] 保存的治療

発症して時間が経って血栓溶解療法適用外となったアテローム血栓性梗塞やラクナ梗塞であれば、オザグレルナトリウム(抗血小板剤)・アルガトロバン(抗トロンビン薬、スロンノンHIなど)などを発症早期に投与する。ただし心原性塞栓症ではこれらは禁忌である。

アテローム血栓性脳梗塞

アテローム血栓性脳梗塞の場合は抗血小板療法と抗凝固療法のいずれも選択肢となりうる。抗血小板療法としてはトロンボキサンA2合成酵素阻害薬であるオザクレルナトリウム(カタクロット®、キサンボン®)160mg/dayの点滴投与またはアスピリン160~300mg/dayの経口投与となる。一方抗凝固療法としては、ヘパリンの静脈内投与(APTTで調整)や選択的トロンビン阻害薬であるアルガトロバン(スロンノンHI®やノバスタンHI®)を60mg/dayで二日間、20mg/dayで五日間という方法がある。重症例、進行例にはアルガトロバンをがしばしば選択され、軽症、安定例ではオザクレルナトリウムが選択される傾向がある。アルガトロバンとアスピリンの併用、ヘパリンとアスピリンの併用もしばしば行われる。

発症24時間以内であれば脳保護薬であるエダラボン(ラジカット®など)が用いられることもある。フリーラジカル消去作用にて細胞性浮腫を減少させる効果があると考えられており、一回30mgを一日二回30分で点滴する。14日間投与可能である。近年はt-PAと併用することも多い。

発症後治療開始までかかる時間で分けると3時間以内ならばt-PA,24時間以内であればエダラボン(ラジカット®など)、48時間以内ならばアルガトロバン(スロンノンHI®やノバスタンHI®)、7日以内ならばオザクレルナトリウム(カタクロット®、キサンボン®)といった使い分けも存在する。

発症後1~4日経過した場合の浮腫では血管性浮腫でありエタラボンは効果的ではなくグリセオール(グリセレブ®)が用いられることがある。アテローム血栓性脳梗塞であればグリセオール200mlを一日二回、一回二時間で投与する。心原性脳塞栓や脳出血ならば一日三から四回投与する。グリセオールより脳圧効果作用が強いマンニトール(マンニゲン®、マンニットール®など)の使用はエビデンスによる裏付けに乏しい。

ラクナ梗塞

ラクナ梗塞の場合はアスピリンかオザクレルナトリウム(カタクロット®、キサンボン®)が推奨されている。BAD(branch atheromatous disease)が疑われる場合はラクナ梗塞の診断の下、トロンボキサン合成酵素阻害薬であるオザグレルナトリウム(カタクロット®やキサンボン®)にて治療が行われることが多い。本剤80mgを維持液200mgに溶解し、1日2回2時間かけて点滴を行う(約2週間まで)。投与開始直後は出血性合併症を示唆する理学所見に注意し、脳梗塞の症状が悪化するようならばアルガトロバンやヘパリンへの変更や併用を検討するのが一般的である。またははじめからアテローム血栓性脳梗塞の治療法を減量した方法で、アルガトロバン(スロンノンHI®やノバスタンHI®など)を使用する場合もある。具体的にはアルガトロバン60mgを維持液500mlで溶解し、48時間で投与を行い、その後アルガトロバン10mgを維持液200mlで溶解し1日2回3時間かけて投与する。これを5日間継続する。投与直後は出血性合併症に注意し、3日目以降は脳梗塞の悪化が疑われたら、抗血小板薬の追加やヘパリンへの変更を検討する。

心原性脳塞栓

心原性脳塞栓症の場合は抗血小板療法の治療適応はなく、t-PAの適応ではなく発症後24時間以内であればヘパリンの投与を開始する。ヘパリンの使用は出血の合併の有無によっても異なるが5000~10000単位/dayの低用量の使用が多い。

[編集] 他の療法

開頭減圧術

70歳以下の患者で、進行性意識障害でCT上脳幹圧迫所見のある中大脳動脈潅流域を含む一側大脳半球梗塞の場合、薬剤による脳圧制御は困難で、開頭による外減圧術の必要がある。広範な脳梗塞の場合は著明な脳浮腫、第4脳室閉塞による水頭症などで脳ヘルニア、呼吸中枢の圧迫などが起こりうるので減圧が必要という考え方である。

血管治療

近年は血管内治療の進歩によりバルーンつきのマイクロカテーテルで血管を拡張する血管拡張術やステントを留置するステント留置術、詰まった場所までカテーテルを進め血管を拡張させる薬を注入する血管拡張術やその部位の血栓を溶かす薬を注入する血栓溶解療法などの脳血管内治療が行われている。

頸動脈病変
頸部内頚動脈狭窄症では薬物治療(抗血小板薬)との比較試験で手術の方が症候性、無症候性どちらであっても有意に次に起こる発作の予防効果があるとされている。症候性の場合はNASCET、ECSTというスタディが、無症候性の場合はACAS、ACSTというスタディが有名である。70%以上の狭窄や高度の潰瘍病変を有する患者で、全身麻酔に耐え、5年以上の生存が見込める患者では手術を考慮するべきである。高齢者(75歳以上)や手術のリスクが高い人、冠動脈疾患を合併する人ではケースバイケースとなる。また、内頚動脈閉塞症で血行動態によるTIAや脳梗塞を起こす患者の場合はバイパス手術が行われる場合もあるが、頸動脈病変で最もよくやられる手術は頸動脈内膜剥離術(carotid endarterectomy,CEA)である。CEAが難しい症例は頸動脈ステント留置術(CAS)が行われる。具体的には高齢者(75歳以上)、心肺疾患、CEA後狭窄、高位病変、対側閉塞、放射線照射後などが良い適応である。2008年4月より保険適応となる。
中大脳動脈病変
浅側頭動脈‐中大脳動脈吻合術(STA-MCA)というバイパス術が知られている。

[編集] 機能予後

機能予後は、リハビリテーションをどれだけ積極的に実施できたかによるところが大きい。病床で安静にする期間をできる限り短くし、早期から日常に近い生活を目指すことが重要である。超急性期リハと呼ばれる、発症当日からのリハビリが最も有効であることが示されている。麻痺の回復過程では一部の筋肉を動かそうとすると複数の筋肉が動いてしまうという共同運動という現象がみられることが知られている。

片麻痺の回復過程に関してはいくつかの報告がある。発症時にBrunnstrom stageがⅣ以上であれば6か月以内にほぼ完全に完全回復に達するとされている。また発症後2週間以内の時点でBrunnstrom stageがⅣ以上に回復すればほぼ8割でstage Ⅵまで回復するとされている。発症時に軽度の麻痺であるほど、また発症早期に軽度の麻痺まで回復するものほど予後はよいとされている。麻痺の改善は2カ月ほどでプラトーに達してしまう。麻痺の回復程度は年齢と重症度に依存し、完全麻痺(stage ⅠやⅡ)や高齢ほど回復しにくいとされている。

急性期リハビリテーション

通常発症から2週間から1か月以内のリハビリテーションをいう。健康な筋肉でも2~3週間の安静により20~25%の筋萎縮が生じるとされている。麻痺を認める筋肉は萎縮のスピードはさらに早く廃用症候群の予防が重要となる。受動的に行われる他動的関節可動域訓練や体位変換、良肢位保持は急性期の基本的なケアとして発症当初や症状が不安定な場合にも注意しながら施行は可能である。基本的な考え方としては梗塞巣の進展の可能性がなくなり神経症状が安定し12~24時間経過すれば運動訓練は可能な状態と考えられている。坐位開始のタイミングとしてはJCSが一桁、全身状態が安定、麻痺の症状増悪がない状態になれば、注意深い観察のもとで行える。目安としてはラクナ梗塞ならば診断日翌日から、アテローム血栓性脳梗塞で主幹動脈の狭窄や閉塞が確認された場合は進行型に移行する場合があるため発症から3~5日は神経症状の増悪のないことを確認して坐位、離床を開始する。

回復期リハビリテーション

身体機能の回復がピークに達するとき。

維持期リハビリテーション

生活支援が主になる。

[編集] 慢性期の管理

再発予防のための抗凝固・抗血小板薬を使用する上で問題になるのが、出血性梗塞である。これは、壊死した血管に血流が再度流れ込むことで血管壁が破れ、脳出血に至った状態である。これは特に、広範な脳梗塞で問題となる。そのため塞栓性などの広範な症例では梗塞の進行停止を見極めてから慎重に開始し、その後もCTで出血の有無をフォローアップすることが欠かせない。

梗塞原因の特定は、その後の再発予防計画を立てていく上で非常に重要である。まずは既往歴や生活習慣の聴取によってリスクファクターをまとめるほか、心エコーによって心房内血栓の有無、ホルター心電図によって不整脈の有無、頚動脈エコーによるプラークの有無を調べたりなどの評価が必要となる。高血圧や非弁膜症性の心房細動があれば、そのコントロールは特に重要である。

アテローム血栓性脳梗塞

アテローム血栓性脳梗塞の再発予防としては抗血小板療法がよく知られている。原因が頭蓋内血管狭窄である場合はアスピリン(バイアスピリン®など)、シロスタゾール(プレタール®など)、クロピドグレル(プラビックス®など)、チクロピジン(パナルジン®など)などが知られている。アスピリンを軸にシロスタゾールやクロピドグレルを用いるのが標準的である。中大脳動脈病変においては特にクロピドグレル(プラビックス®など)が再発予防効果が高いと考えられている。急性期はクロピドグレル75mg(プラビックス®など)とアスピリン100mg(バイアスピリン®など)を併用し、数か月以内に単剤に切り替えるという方法はよくおこなわれる。またアスピリン100mgにシロスタゾール200mgを併用すると狭窄の改善が認められることもある。

ラクナ梗塞

ラクナ梗塞の慢性期治療における抗血小板薬の使用法に関しては議論が多い。高血圧といったリスクファクターの除去が重要なのは言うまでもないが、ラクナ梗塞の再発予防に関して明確なエビデンスがあるのはシロスタゾール(プレタール®など)だけである。慣習としてアスピリンで治療されることも多い。微小脳出血(CMB)が認められると抗血小板薬の投与は出血のリスクになるため避けられる傾向がある。微小脳出血の検出にはMRIのT2*がよく用いられる。

心原性脳塞栓

急性期にt-PAまたはヘパリンにて治療を行い、再発予防としてはワーファリンを用いるのが一般的である。

後遺症の対応

慢性期のめまいしびれといった症状に対しては脳代謝改善薬などが用いられる。アマンタジン(シンメトリル®)ニセルゴリン(サアミオン®)、イフェンプロジルセロクラール®)、イブシラスト(ケタス®)などが知られている。脳梗塞の自覚症状の改善、特にめまいや痺れにはイフェンプロジル(セロクラール®)、自発性の低下にはニセルゴリン(サアミオン®)、意欲、自発性の低下にはアマンタジン(シンメトリル®)、イブシラスト(ケタス®)はめまいで用いられることもある。精神科領域ではSSRIとしてパキシル®、チアプリドとしてグラマリールreg;が用いられる。グラマリールreg;は認知機能の低下に効果的である。認知症の進行は血管性認知症の進行の場合が多いが、正常圧水頭症の合併の場合もある。アルツハイマー病の合併を疑いアリセプト®を使用するのは一般的ではない。

[編集] 無症候性病変に関して

高齢者の脳MRIには無症候性脳梗塞、無症候性大脳白質病変、拡大血管周囲腔があり、これらの判定にはかなりの混乱が認められている。日本脳ドックガイドライン2008での鑑別基準を纏める。

  ラクナ梗塞(空洞化なし) 血管周囲腔 大脳白質病変
T1WI 低信号 低信号 等~灰白質程度
T2WI 明瞭な高信号 明瞭な高信号 淡い高信号
プロトン密度強調画像 明瞭な高信号(+中央部が低信号) 低信号 淡い高信号
FLAIR画像 等~高信号(中央部が低信号) 低信号 淡い高信号
大きさ ≧3mm <3mm(大脳基底核下1/3では1cm超えることも) さまざま
形状 不整形 整形、白質では線状 さまざま
好発部位 基底核(上2/3)、白質、視床、脳幹 白質、海馬、中脳 大脳白質、橋底部

脳梗塞の画像経過からも示されているように画像のみで区別するのは難しいが、無症候性の場合はT1WIとFLAIRで低信号をしめすとラクナ梗塞や血管周囲腔の拡大とするのが一般的である。血管周囲腔とラクナ梗塞の鑑別は線状の形、位置のほかに、周囲のFLAIRで高信号を伴う場合はラクナ梗塞、伴わない場合は血管周囲腔を疑うのが一般的である。これはラクナ梗塞にて組織欠損、空洞化した後の所見と考えられている。内部信号はCSFと同様となるのが特徴的である。無症候性ラクナ梗塞という概念自体、書物により存在を認めない場合もあるが、画像診断学では存在する立場をとっている。

血管周囲腔

血管周囲腔(perivascular space,Virchow Robin腔)は穿通動脈や髄質動静脈の周囲に認められる。外側線条体動脈が好発部位であるため大脳基底核下1/3は好発部位となる。かつてはくも膜下腔の連続と考えられていたが2009年現在は軟膜内の空隙の連続と考えられている。若年成人で殆ど認められず高齢者や高血圧患者で拡大する。正常の加齢性変化であり脳卒中や他の神経症状の危険因子にはならない。基底核に拡大血管周囲腔が多数認められる場合をetat cribleと呼ぶこともある。

無症候性白質病変

脳ドックガイドライン2008では脳室周囲病変(PVH)と深部白質病変(DWMH)を分けて評価するのが一般的である。

PVH Fazekas分類 脳ドック学会分類
grade 0 abcence なし、またはrimのみ
gradeⅠ cap or pensil-thin lining capのような限局性病変
gradeⅡ smooth hallo 脳室周囲全域にやや厚く広がる病変
gradeⅢ irregular PVH extending into the deep wahite matter 深部白質まで及ぶ不規則な病変
gradeⅣ   深部~皮質下白質にまで及ぶ広範な病変
DWMH Fazekas分類 脳ドック学会分類
grade 0 abcence なし
grade 1 punctate foci 3mm未満の点状病変、または拡大血管周囲腔
grade 2 beginning confluence of foci 3mm以上の斑状で散在性の病変
grade 3 large confluent area 境界不明瞭な融合傾向をしめす病変
grade 4   癒合して白質の大部分に広く分布する病変

病理学的にはPVHもDWMHも髄鞘の淡明化と血管周囲腔の開大とされている。PVHでは細胞外腔の拡大、DWMHでは微小梗塞を伴うことが多い。両者とも細動脈硬化に伴う慢性虚血性変化と考えられている。高度なものは無症候性脳梗塞と同様脳卒中の強力な危険因子であり、認知障害やうつ病の関連も強い。降圧療法の積極的適応が推奨されている。一方軽度の場合は病的な意義はないと考えられている。軽度のDWMHはラクナ梗塞との鑑別が問題となる。

[編集] 脚注

  1. ^ http://melt.umin.ac.jp/nihss/nihssj-table.htm NIHSS判定表

[編集] 参考文献

[編集] 外部リンク

[編集] 関連項目

[編集] 関連学会(国内)