疼痛

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疼痛
Injured Bystrov.JPG
ICD-10 R52
ICD-9 338
DiseasesDB 9503
MedlinePlus 002164
MeSH D010146

疼痛(とうつう)とは痛みを示す医学用語であり、ここでは痛みの医学、生理学的な側面を記述する。

疼痛の定義[編集]

痛み(疼痛)は”痛みは、実質的または潜在的な組織損傷に結びつく、あるいはこのような損傷を表わす言葉を使って述べられる不快な感覚・情動体験である(An unpleasant sensory and emotional experience associated with actual or potential tissue damage, or described in terms of such damage)”と1979年にInternational associations for Study of Pain(国際疼痛学会)によって定義されている。

組織の実質的な刺激は、物理的刺激、あるいは疼痛物質セロトニンブラジキニンなど)による化学的な刺激であり、これを疼痛神経終末端が感知し、電気的なシグナルに変換し温痛覚求心経路である外側脊髄視床路を通過し、大脳の中心後回が痛みとして認識した結果が疼痛となる。痛みを伝える末梢神経にはAδ線維とC線維の2つの神経線維が知られている。伝導速度はAδ線維の方が速いため、腕を叩いた時の痛みははじめに局在が明確な鋭い痛みが伝わり、後から局在が不明確なじんじんとした痛みを感じると説明されることがある。この現象から痛みは二度感じると言われることがある。この遅い痛みであるC線維を軽度かつ持続的刺激を行うと痒みが生じる事が知られており、そのため、生理学的には痛みと痒みは同じ感覚とされたが、痒みは頭頂葉内側部の楔前部による独自のメカニズムで覚えられる[1]。 一方、定義からも分かるように、組織の実質的な損傷によるものでなくても、大脳が同様の不快な感覚上同体験をしたものであれば疼痛とされ、慢性的な痛みにおいては実質的な痛み以上に重要となる。

疼痛の分類[編集]

痛みは4-6週間以内持続する急性疼痛と4-6週間以上持続する慢性疼痛に分類される。痛みという感覚が何故存在するのか。その合目的的な説明に多くの生理学者は悩み続けてきた。現在は痛みは危険を知らせるシグナルとして有用と考えられている(無痛無汗症の患者が痛みを感じないがために無理な姿勢や外的接触による骨折、皮膚の深い損傷、皮膚の化膿、関節障害、骨髄炎等通常では考えられない怪我を頻繁に繰り返し、怪我や骨折はもちろん虫垂炎、腹膜炎等の内臓の病気も見逃される等生活するにあたって様々な不都合がある事からも窺える)。しかしこれは急性疼痛のみで有効な考え方であり、慢性疼痛では痛みの原因と考えられる危険が全く存在しないことも多々あり、痛みがそれ自身で疾患として振舞うことがあり痛みを感じなくすることが治療となることもある。こういったことは緩和医療の分野で詳しく研究されている。

急性疼痛は体性痛、内臓痛、関連痛の3つに分類されている。以降に体性痛と内臓痛の違いを記述する。

  体性痛 内臓痛
性質 鋭い 鈍い
局在 高い 低い
神経線維 Aδ線維 C線維
神経経路 新脊髄視床路 旧脊髄視床路
修飾 なし あり

要するに、痛む部位を尋ねて、はっきりとここが痛いと言うことができ、腹部所見がそれを証明できれば体性痛ということとなる。痛む部位がはっきりせず、また痛む部位をさすったり(Aβ線維刺激)、ほかのことを考えること(心理的刺激)で軽快をしたりする修飾効果があれば内臓痛と考えればよい。

関連痛は実際に障害されている部位と異なる部位の表面が痛くなるような現象である。性状としては内臓痛に近く局在は明確でないことが多い。心筋梗塞で肩に起こる関連痛が有名である。この場合は肩自体の痛みと区別する方法は運動痛の有無と可動域制限の有無を調べればよい。本当に肩が障害されていれば、肩を動かせば痛みは変化するし、肩関節が障害され関節可動域は狭くなるはずである。

整形外科の領域で注意すべき関連痛
肩:心筋梗塞狭心症大動脈解離大動脈破裂胆嚢炎、横隔膜膿瘍
耳鼻科の領域で注意すべき関連痛
咽頭心筋梗塞狭心症

疼痛評価法として臨床的に最も用いられる指標にフェイススケール (Visual analogue scale) がある。

末梢神経についての補足[編集]

生理学の神経分類を用いたのでここで神経線維について記述する。診断学で応用可能なように簡略化したのでより詳しくは神経線維を参照。

分類 髄鞘 平均直径(μm) 平均伝導速度(m/s) 役割
15 100 位置覚、運動線維
8 50 触覚、圧覚
8 20 位置覚
3 15 温痛覚
B 3 7 自律神経
C 0.5 1 交感神経、温痛覚

また感覚線維では次の分類を用いることもある。これは分類の仕方の問題で別物ではない。

分類 髄鞘 平均直径(μm) 平均伝導速度(m/s) 感覚
Ia 15 100 位置覚
Ib 15 100 位置覚
II 9 50 位置覚、触覚、圧覚
III 3 20 温痛覚
IV 0.5 1 温痛覚

疼痛のメカニズム[編集]

侵害受容器による末梢変換
物理的、化学的刺激を電気的な刺激に変換することを末梢変換という。侵害受容器の刺激は感覚神経の電気的な刺激に変換される。電気的な刺激に変換された後は刺激方法によって差は生じないと考えられている。よく研究されている侵害受容器としては陽子、カリウムイオン、アデノシン三リン酸(ATP)、アミン、ブラジキニンなどが特に有名であり、これらは細胞障害や炎症時に放出される。長らく原因不明と言われてきた狭心痛も侵害受容器によって説明されつつある。これらの受容体の拮抗薬は急性痛を和らげる薬物として有用になるかもしれない。
痛み刺激の伝動と伝達
薬理学的に重要な脊髄後角の神経伝達に関しては一次求心性C繊維と二次投射神経の間のシナプス伝達が比較的よく研究されている。このシナプスの伝達には早い要素と遅い要素がある。早い要素はシナプス小胞に含まれるグルタミン酸があげられる。グルタミン酸はポストシナプスのAMPA受容体やNMDA受容体といったイオンチャネル型受容体に作用してナトリウムイオンやカルシウムイオンの透過性を高め、興奮性シナプス後電位(EPSP)を生じさせる。遅い要素はグルタミン酸同様にシナプス小胞に含まれる神経ペプチドといわれる物質である。P物質(サブスタンスP)といったものが代表格で遅速調節反応を行う。また、脊髄におけるシナプス伝達は、局所的抑制性介在ニューロンと脳幹から脊髄への下行性投射神経により制御されている。この制御機構が現在の疼痛管理では重要なターゲットとなっている。脊髄後角における主な抑制性神経伝達物質はオピオイドペプチド、ノルエピネフリン、グリシン、γ-アミノ酪酸(GABA)である。
末梢性感作
末梢刺激の方法によっては一次求心性神経の活動閾値を低下させその反応を増加させるものがある。この結果、痛覚過敏アロディニアがおこると考えられており、この機構を末梢性感作という。実は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)はこの部分に作用している。COX-2を阻害するとプロスタグランジンE2の生成を抑制できるということが有名である。プロスタグランジンE2は疼痛物質ではなく、末梢性感作を起こす物質、即ち疼痛増強物質である。ロキソニンやロピオンがよく効くということはプロスタグランジンE2による末梢性感作があったからにほかならない。NSAIDsは痛み自体には作用しないからだ。経験的に末梢性感作とは極めて日常的な現象といえる。切り傷にNSAIDsがよく効くのは末梢性感作で痛むからと考えられている。重要なことはプロスタグランジンE2は感作薬のひとつに過ぎないということである。EP受容体を介する痛覚過敏には有効だがブラジキニンやヒスタミンを介するものには効かない。またペインコントロールは一度失敗すると、患者が頑固に痛みを訴える原因も感作にあると考えられる。痛みは感覚の中では感作されやすく、順応しにくいという特徴がある。
中枢性感作
痛覚過敏やアロディニアが起こっている部位ではしばしばもとからある炎症あるいは組織障害部位の範囲を超えて広がっていることがある。この部位における痛覚過敏は脊髄後角における知覚処理の変化によって引き起こされ二次性痛覚過敏、二次性アロディニアという。これを起こす機構を中枢性感作といい、慢性炎症性疾患ではよくおこり、疼痛自体が疾患のように振舞う。NMDA受容体遮断薬は中枢性感作の発現と持続をともに防ぐといわれている。ケタミンは麻酔科領域で用いられる代表的なNMDA受容体遮断薬である。だが、静脈投与では副作用が強く出すぎて中枢性感作の治療には使えない。
神経因性疼痛
神経損傷によっておこる疼痛を神経因性疼痛という。臨床的には受傷後数年にわたって頑固な痛みを訴えることが特徴的である。神経向性支持消失によって遺伝子発現が変化し侵害受容性繊維の感受性と活性を変化させると考えられている。抗てんかん薬であるカルバマゼピンなどが効くこともある。

疼痛の診断[編集]

LQQTSFAと言われる方法論を用いる。L:位置、Q:性質、Q:強度、T:時間、S:状況、F:増悪因子、A:随伴症状のことである。

虫垂炎を例として[編集]

虫垂炎(盲腸と一般には言われる)は知名度のわりに診断が難しい疾患である。診断学の世界では虫垂炎の病態生理は次のように理解されている。まず虫垂に異物などが貯留し細菌が繁殖することで管腔内圧が上昇し、心窩部の鈍痛という形で関連痛が発生する。さらに腸管粘膜に炎症が起こると右下腹部の鈍痛という形で内臓痛が発生する。さらに進行すると炎症が管腔の内側から外側、すなわち臓側腹膜に波及する。腸管の動きなどで臓側腹膜が壁側腹膜と接触し、炎症が壁側腹膜に波及すると右下腹部の鋭い痛みとして体性痛が発生する。この頃には、反跳痛といった腹膜刺激症状が出現する。これは概念上の話であり、炎症が激しくなり組織障害が強くなれば、関連痛、内臓痛、体性痛という順に進行していく。十二指腸潰瘍などで穿孔をおこすと体性痛が発生するが大網によって穿孔がふさがれると圧痛がなくなることもある。こういったことがおこると身体診断学は無力であり、造影CTなど画像診断を行わざるをえなくなる。

虫垂炎に限って言えば、痛みが関連痛である心窩部痛の時点では特に診断せず、痛みが下腹部に移動したり、治らなければ再受診という形にし、下腹部の鈍痛であったら抗菌薬で保存的に治療する。腹膜刺激症状まで出現したら手術を検討するという方法が考えられる(手術が可能な施設ならば、この時点では外科を紹介するだけで十分なことが多い、腹膜刺激症状が限局している場合は保存的に治療可能なことが多いが、その所見が広がってきたときは手術ができる状況でないと危険である。いずれにせよ、虫垂炎の診断は総合的に行われる。そしてなじみ深い疾患であるのもかかわらず誤診率も極めて高い)。

虫垂炎に関してはLQQTSFAの病歴と身体所見で疾患の局在と病因、疾患の進展度と重症度、疾患の治療と判断を行うことができる。Alvaradoスコアというものもあり

項目 内容 点数
Migration of pain 心窩部、臍周囲部から右下腹への移動 1
Anorexia 食思不振 1
Nausea 嘔気、嘔吐 1
Tenderness of RLQ 右下腹部圧痛 1
Rebound tenderness 反跳痛 2
Elevated temperature 発熱>37.3℃ 1
Leukocytosis WBC>10000/ul 2
Shift of WBC count 白血球の左方移動 1

7点以上で虫垂炎が疑わしいとされている。画像診断では造影CTが望ましいとされている。

疼痛各論[編集]

ここであげる疼痛とは主に急性疼痛であり、痛みが数カ月続く場合は慢性疼痛であり鑑別疾患は異なる。

頭痛
頭痛のメカニズム
脳実質には痛覚レセプタは存在しないといわれている。頭痛が起こるのは頭蓋内外の痛覚レセプタの刺激によるものであると考えられている。具体的には、頭蓋内外の動静脈の拡張と牽引、脳脊髄神経、頭蓋内外組織の組織の炎症と牽引、頭頸部の筋の収縮などがあげられる。
頭痛の分類
原因のない機能性(一次性)頭痛と原因のある器質性(二次性)頭痛に分けることができる。機能性頭痛(本によっては慢性頭痛)は片頭痛緊張型頭痛群発性頭痛の3つが知られている。これらを診断するときは問診と身体所見で決める。画像診断は他の器質性頭痛の除外のために行われている。器質性頭痛は頭蓋内、頭蓋外で分けることができる。頭蓋内では神経頭蓋(頭蓋骨)と顔面頭蓋に分けることができる。頭蓋外に関しては三叉神経大後頭神経の支配領域に分けることができる。顔面(眼、耳、鼻、口)の疾患は関連痛として頭痛をおこすので注意が必要である。また、高血圧、薬剤性など全身性のものなどでも頭痛がおこる。
危険な頭痛
見逃してはならない頭痛をおこす疾患が知られている。それは脳血管障害、脳内感染症、脳腫瘍緑内障巨細胞性動脈炎(かつての側頭動脈炎)があげられる。緑内障と巨細胞性動脈炎は死には至らないが失明するので確実に除外するのが大切である。問診上の危険な兆候としては突発性、過去にないような頭痛、同時に存在する感染症、意識障害、激しい運動とともにおこる頭痛、後頭部や両肩に放散する頭痛(これは髄膜刺激症状と考える)などがあげられる。危険な身体所見としてはバイタルサインとしてはCushing現象があげられる。これは頭蓋内に占拠性病変があるときに起こる兆候であり頭痛によって高血圧にもかかわらず徐脈になる(似た兆候としては腸チフスの比較的徐脈がある)。他には項部硬直、全身状態が悪いこと、神経学的異常所見、意識障害、乳頭浮腫があげられる。
胸痛(別名、胸悶。東洋医学では胸痺と記載されている)
胸痛のメカニズム
胸痛のメカニズムとしては特に新たに説明を加える事項は存在しない。特に重要な虚血性心疾患では胸痛が生じることが知られているが、何故痛いのかというメカニズムは全く不明である。心筋梗塞の患者にPTCAなどの治療を行うと患者は全身から力がみなぎってくるような開放感を持つ。逆に増悪していたら大動脈解離が存在したと考えることもできる。大動脈解離と心筋梗塞の合併の診断は非常に難しい。造影CTをとれば診断できるが、どのような場合にそこまでするべきかはコンセンサスがない(全ての心筋梗塞の患者に造影CTを行うと逆に時間がかかり救命率を下げてしまう)。背部痛の存在、引き裂かれるような痛み、胸部X線写真で縦隔の拡大をみるなど方法はあるが、専門医でも意見が分かれるところである。
胸痛の診断プロセス
まずは外傷性か非外傷性かをみる。これらはエピソードで大抵区別できるが胸部X線撮影で確定できる。非外傷性ならば、否定されるまでは虚血性心疾患として扱う。12肢誘導の心電図をとり虚血性心疾患を疑うエピソードがないかどうか問診をする。虚血性心疾患を否定できたら血管性の病変か非血管性の病変を調べる。非血管性であれば、上腹部の消化管の疾患まで鑑別にいれていく。
胸痛のアプローチとしては致死的な疾患の除外、好発年齢などから可能性をランキングし、身体所見でさらに狭めていくという方法が非常に安全である。見逃してはならない胸痛をおこす疾患としては、急性冠症候群急性大動脈解離心タンポナーデ緊張性気胸肺塞栓食道破裂急性胆嚢炎急性膵炎があげられる。患者が痛みの部位を話したとき、それをそのまま医学用語に変換することは危険である。胸痛といっても胸腔内の疾患とは限らず、腹痛でも腹腔内の疾患とも限らない。胸痛の場合は、上部消化管疾患までは念頭におく。
胸膜性胸痛
胸膜などに病変がある場合は特徴的な所見がとれる。深呼吸をさせて痛みの変化を問診してみる。もし吸気に増悪する胸痛ならば胸膜性胸痛である。胸膜性胸痛をおこす疾患としては、胸膜炎肺炎肺塞栓気胸心外膜炎膠原病(特にSLE)が疑われる。
心電図でST上昇が見られたら
ST上昇は心筋梗塞を疑う非常に重要な所見であるが、特異度としてはあまりよくなく、他の疾患でもST上昇がみられる。心外膜炎心筋症、異型狭心症、早期再分極、くも膜下出血でもST上昇はしうる。ST上昇をみたら心筋梗塞と診断するには一般内科医でもできる検査としては、心電図でreciprocal changeを探す。問診、身体所見から心筋梗塞を示唆する所見、他疾患を除外する所見をとる。または血液検査を行う。CK-MBが最も普及した血液検査だが、ラピチェック(H-FABPの迅速測定)やトロップT(トロポニンTの迅速測定)が可能となり診断学は変化している。
原則として行うべきこととしては
過去の心電図と比較する。
これは早期再分極であったらST上昇が昔からあるからである。過去の心電図がないときは心電図を何回かとり心筋梗塞の経時的変化がないのか調べる。
心筋梗塞の診断的治療を行う。
狭心症であったらニトログリセリンで痛みが消失する。ニトロペンを舌下投与して改善が見られなければ心筋梗塞らしくなる。
心筋梗塞の治療
PTCAなどは専門医のもつ手技が必要となるので一般内科医でも可能な治療を述べる。行うことはMONA(モルヒネ、ニトログリセリン、アスピリン)、疼痛コントロール、バイタルサインの安定化である。具体的に行う処置としてはニトロペン(0.3mg)1T を舌下、またはミオコールスプレー1噴射(0.3mg)を舌下、これを3回まで行う。バファリン81mgを2錠、プラビックス75mgを4錠内服することが多い。腸溶錠であるバイアスピリンは急性期には用いないことが多い。ニトログリセリン無効時は塩酸モルヒネ(10mg/1ml/A)2mg(0.2ml)静注、ツベルクリン用1mlシリンジを用いるといった指示でよい。脈拍に関しては徐脈および房室ブロックに対しては硫酸アトロピン1Aを静注し、低血圧に対しては昇圧剤を行う。これらを行い専門医の到着を待つのが鉄則である。心筋梗塞で一番危険なのは不整脈、特に心室細動である。これが起こると秒単位で患者は死にいたる。確実に心電図モニターを装着しAEDを用意し患者のそばで待機するのが重要である。
腹痛
腹痛のアプローチ
基本的には次のようなステップで行うと誤診が少なくなる。まずは外傷性かどうかを調べる。病歴をもとに考え、腹部エコーで臓器損傷を確認する。次に産科的疾患、婦人科的疾患、外科的疾患、内科的疾患と考えていく。どうしても診断がつかなければLQQTSFAを全て埋めるような問診をして、精神的疾患まで考えていく。診断をつける際は緊急手術が必要かどうかを常に考える。緊急性を感じたら、術前に必要な検査を行い、静脈確保も手術に耐えられるようなものにしなければならない。具体的には、胸部X線写真ではPA像で撮影、腹部X線写真は立位、臥位の二方向撮影、凝固機能、クロスマッチテスト、針は18Gにするといったことを行わなければならない。原則として背部痛を伴う場合は後腹膜臓器の疾患を考える。ブスコパンで反応すれば内科系疾患であり、反応しなければ外科系疾患であるという経験則も使える。救急では診断がつき、バイタルサインが安定化するまでは鎮痛薬を使用しないという原則がある。ブスコパンは鎮痙薬であるので使っても診断は行うことができる。またたとえ診断がついてもモルヒネは膵、胆管系の疾患を増悪させるので禁忌である。
腹痛を起す産科的疾患
正常妊娠子宮外妊娠流産胞状奇胎などは腹痛を主訴に来院することが多い。これらは妊娠第一期に属する疾患であり患者は妊娠に気がついていないことが多く、一般病院を受診しやすい傾向にある。このような受診パターンから腹痛の女性をみたら妊娠を思えという格言ができたのであろう。頸管無力症、早産前置胎盤常位胎盤早期剥離出産、偽陣痛などでも腹痛は起きるが、大抵は産婦人科に受診するので一般医が診る機会は少ない。特に子宮外妊娠破裂、常位胎盤早期剥離は緊急手術になるので注意が必要である。
腹痛を起す婦人科的疾患
器質的疾患としては卵巣捻転、卵巣嚢胞出血、感染症、腫瘍、子宮腺筋症子宮内膜症があげられる。非器質性疾患としては月経困難症、骨盤うっ血症候群、機能的性器出血などがあげられる。特に卵巣捻転、卵巣嚢胞出血、卵巣膿瘍破裂などでは緊急手術の適応となるので注意が必要である。大抵は下腹部の体性痛を主訴に来院し、画像検査で診断できる。
腹痛を起す外科的疾患
特に緊急手術が必要な非外傷性疾患をあげる。急性虫垂炎、絞扼性イレウス、消化管穿孔、急性腸間膜動脈閉塞症、腹部大動脈瘤破裂、感染症性ショックを伴う腹腔内膿瘍、出血性ショックを伴う腹腔内出血精巣捻転鼠径ヘルニア頓挫などがあげられる、特に小児の下腹部痛で精巣捻転がみつかることがあるので小児の場合は睾丸までみる習慣が必要である。診断がつかなくても筋性防御、進行する低血圧やアシドーシス、低下し続けるHbなどが認められれば緊急手術を考慮する。
腹痛を起す内科的疾患
腹腔、胸腔の全ての臓器がターゲットとなるのだが、特に見逃しがちなのは全身性疾患による腹痛である。具体的には糖尿病性ケトアシドーシス、アルコール性ケトアシドーシス、急性副腎不全高カルシウム血症尿毒症急性間欠性ポルフィリン症家族性地中海熱伝染性単核症リウマチ熱アレルギー性紫斑病、鉛中毒、麻薬離脱などがあげられる。
腰背部痛
腰背部痛のアプローチ
基本的には皮膚、筋骨格系、後腹膜臓器、全身性の疾患を想定し診断していく。絶対に見逃してはならない疾患は内科学的な疾患が多く、整形外科の疾患としては致死的な疾患は少ない。全身性疾患としては、感染性心内膜炎多発性骨髄腫、急性溶血反応(血液型不適合輸血)などがあげられる。
見逃してはならない腰背部痛を起こす疾患
急性圧迫症状を伴う骨疾患や骨髄AVM破裂によるクモ膜下出血膿胸感染性心内膜炎胆嚢炎総胆管結石急性膵炎腎盂腎炎大動脈解離腹部大動脈瘤腎梗塞、急性溶血反応があげられる。整形外科疾患のうち見逃してはならないのは脊髄圧迫を伴うものである。脊髄圧迫は膀胱直腸障害で鑑別すると良い。しびれ位では根症状の可能性が高い。麻痺がある場合は腰痛が主訴にならない。緊急手術となるのは脊髄圧迫による脊髄損傷と馬尾症候群、腹部大動脈破裂と急性大動脈破裂である。基本的には腰背部痛では内科的疾患を見落とさないようにすれば良い。整形外科的な疾患ならば病歴(急性、慢性)や可動域制限(制限がなくても痛みが変化するのかなど)、骨叩打痛、ラセーグ徴候X線写真などをみれば診断がつくことが多い。また、整形外科的な疾患ならば発熱悪寒などは原則として存在しない。
緊急性はないものの注意すべき疾患
癌の骨転移腸腰筋膿瘍椎間板ヘルニア脊椎圧迫骨折脊柱管狭窄症などがあげられる。
内科的な疾患が除外できれば急性腰痛症として扱うこともできる。
脇痛季肋部痛肋間神経痛
関節痛
関節痛のアプローチ
基本的に関節痛を起こす危険な疾患としては感染性関節炎深部静脈血栓症、また関連痛によるものである。これら以外は速急に対応しないと重大な事態になるということはない。よって、関節痛を診た場合はまず、障害が関節内か。関節外(関連痛を含む)であるかを見極め、その後感染性関節炎、結晶誘発性関節炎、自己免疫疾患、整形外科的疾患かという順に考えていけばよい。原因がなんであれ、自立歩行困難などをみとめれば入院を考えることが重要である。大腿骨頭壊死などは早期ではMRIなどをしない限りわからないことが多いからである。整形外科的な疾患ならば病歴(急性、慢性)や可動域制限(制限がなくても痛みが変化するのかなど)、骨叩打痛、ラセーグ徴候X線写真などをみれば診断がつくことが多いという経験則も役にたつ。
関節痛をおこす主な疾患としては痛風蜂窩織炎関節リウマチ深部静脈血栓症変形性関節症肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)、偽痛風感染性関節炎があげられる。また動作時痛や可動域制限が認められない場合は考えるべきである、左肩であれば急性冠症候群急性膵炎、右肩であれば胆嚢炎や肝臓疾患を考えるべきである。
四肢痛

慢性疼痛に関して[編集]

詳細は「緩和医療」の項目における「緩和医療における疼痛管理」「WHO式疼痛管理」「癌性疼痛でよく用いる鎮痛薬」の3節を参照

東洋医学における疼痛の性質[編集]

東洋医学では病気ではなく症状に合わせて漢方薬などを用いて治療を行う。以下に東洋医学における分類を纏める。

  • 拒按
  • 喜按
  • 喜温
  • 喜冷
  • 脹痛 - 脹った感じで膨満感を伴う痛み。気滞で見られる。
  • 刺痛 - 錐で刺したような痛み。血瘀で見られる。
  • 酸痛 -だるい痛み。虚証、湿証で見られる。
  • 重痛 - 重く感じられて痛む。湿証で見られる。
  • 冷痛 - 冷えを伴う痛み。寒証(実寒、虚寒)で見られる。
  • 灼痛 - 灼熱感を伴う痛み。熱証(実熱、虚熱)で見られる。
  • 絞痛 - 絞扼痛、疝痛。寒証、血瘀、結石
  • 隠痛 - がまんできる持続性の鈍痛。虚証で見られる。
  • 激痛
  • 掣痛 - ひっぱられるような痛み。肝の病証で見られる。
  • 空痛 - 疼痛部位に空虚感を伴うもの。気血精髄の不足で見られる。

鎮痛薬の使い分け[編集]

痛みの原因となる疾患の診断がつき、痛みの推移をモニタリングする必要がない場合は速やかに鎮痛を行うべきである。この場合に鎮痛薬を用いるのだが鎮痛薬にも色々な種類があり使い分けが必要である。急性虫垂炎などの場合、痛みの増強は悪化傾向を示唆し、悪化した場合は手術を行うことで治療ができるので鎮痛薬を用いないことがある。

鎮痛薬の分類
鎮痛薬には医療用麻薬、非麻薬性鎮痛薬(オピオイド)、NSAIDs、アセトアミノフェン、鎮痙鎮痛薬、局所麻酔薬というものが知られている。それぞれ作用機序がありNSAIDsの場合はアラキドン酸カスケードシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害することでプロスタグランジン(PG)の産出を阻害することで鎮痛効果を得る。PGは疼痛物質ではないが疼痛を増強する作用があることが知られている。副腎ステロイドはさらに上流のホスホリパーゼA2を阻害し鎮痛作用を得ることが知られているが抗炎症作用が強すぎるため、あまり鎮痛薬としては用いない。PGの作用は疼痛増強以外にも多くが知られるため、NSAIDsは副作用が多いことが知られている。副作用をいかに防ぐかということで様々な種類のNSAIDsが開発されている。アセトアミノフェンの作用機序は2007年現在明らかになっていない(COX-3の阻害薬という説が存在する)。アセトアミノフェンは抗炎症作用がほとんどないことが知られているため、痛みの原因が炎症である場合は効果が薄いと考えられているが副作用が肝傷害のみであるので小児の発熱などには使いやすい薬である。オピオイドはオピオイド受容体にアゴニストとして作用することで鎮痛効果を得られると考えられている。オピオイドには麻薬と非麻薬性鎮痛薬に分類されるが作用機序は変わらないと考えられている。非麻薬性鎮痛薬は弱オピオイドとも言われ、天井効果があることが知られている。
鎮痛薬の使い分け
痛みの原因が何かをまずは考える。内臓痛の場合は消化管痙攣性疼痛の場合もある。この場合は抗コリン薬、鎮痙薬といわれるブスコパンなども用いれば効果的である。炎症によるものならばNSAIDsが効果的である。それ以外の心筋梗塞などの強い痛みであれば麻薬をもちいるのが重要である。診断的価値がない痛みで患者のQOLを大きく損ねる場合は非麻薬性鎮痛薬を習慣的に用いている。主にソセゴン15mgが使われる場合が多い。
鎮痛薬の各論的事項
NSAIDs
最も古いNSAIDsはアスピリンである。アスピリンは解熱鎮痛薬として知られているが1970年代にようやくアラキドン酸カスケードを阻害しプロスタグランジンの産出を抑制することで鎮痛を行うということが明らかになった。シクロオキシナーゼを阻害するのだが、これによって遊離アラキドン酸がロイコトリエンとなる経路が活性化されアレルギーや喘息を起こすという副作用がみられる。2007年現在、アスピリンは鎮痛薬としてはほとんど用いることはない。トロンボキサンA2を不可逆的に不活化するということで抗血小板薬として非常に低用量で用いられることが多い。アスピリンの副作用で重要なのは喘息、胃潰瘍ライ症候群などである。ライ症候群の予防のため小児のバファリンはアセトアミノフェンが用いられている。小児でアスピリンを用いる疾患は有名なもので川崎病リウマチ熱、小児リウマチなどが上げられる。副作用を改善したNSAIDsとしてサリチル酸系、プロピオン酸系、アリール酢酸系など様々な種類がある。但し、トロンボキサンA2を不可逆的に抑制するのはアスピリン位であり、その他のNSAIDsは可逆的に抑制するだけである。多くの外科的処置をする場合はアスピリンは血小板の寿命である10日ほどの休薬期間が必要だが、それ以外のNSAIDsではそこまでの休薬は必要ない。血小板には核が存在せず、新規の蛋白質合成ができないため、酵素の不可逆的阻害が血小板の不可逆的阻害となると考えられている。よく用いるNSAIDsとしてはロキソニン、ロピオン、ボルタレンイドメシン、モーラスといったものである。体性痛に関しても第一選択薬である。
アセトアミノフェン
副作用が肝障害のみで非常に扱いやすい鎮痛薬である。カロナールなどが良く用いられる。抗炎症作用がほとんどないため炎症による疼痛には効きにくく、風邪薬として用いることが多い。変形性関節症など非炎症性疾患にも適応がある。COX-3阻害薬と考えられている。
鎮痙薬
内臓痛の場合の第一選択薬である。ブスコバンが非常に有名である。腹痛の場合ブスコパンが有効であった場合は内科的疾患、無効であったら外科的疾患と考えて専門医にコンサルトを求めるというのは救急医学でよく用いられるテクニックである。
非麻薬性鎮痛薬
弱オピオイドといわれるもので、ソセゴンレペタンのことである。入院患者の疼痛に関しては良く用いることが多い。頻用される理由は医療用麻薬のようによく効くうえ、医療用麻薬より取り扱いの手続きが簡便であるからである。入院しなければ行えない検査や治療を行った場合は強い痛みを伴うことも多く、その原因は処置であると分かりきっているので、重要な救急疾患が隠れていないと確認した場合はよく用いる。ソセゴン15mg、レペタン0.2mgなどを生理食塩水100mlに溶かして点滴するというのがよく用いる方法である。弱オピオイドはオピオイドレセプターの部分作動薬と考えられている。そのため、アゴニストであるオピオイドと併用すると拮抗することが知られている。そのため、オピオイドで疼痛をコントロールできないとき、弱オピオイドを投与するとさらに鎮痛効果が低下すると言われている。
麻薬性鎮痛薬(オピオイド
医療用麻薬であり塩酸モルヒネやフェンタニルである。手術をする場合や癌性疼痛の場合によく用いる。扱いには専門の免許と施設ごとに取り扱いに規制があるため扱い辛いが鎮痛効果は非常に高い。よく誤解されるが普通の麻薬と異なり習慣性は弱いため、麻薬依存症にはなかなかならないといわれている。手術中にはフェンタニルを硬膜外に注入することがある。
日本では一部の製薬会社が製造・販売しているが麻薬であるため、製剤写真や添付情報などはIDやログインパスワードが必要な医師向け会員制サイトに一部、あるいは全て移管するなどして医師や薬剤師以外の人間に開示されにくいよう配慮が施されている。
局所麻酔
あくまで局所麻酔薬なので持続時間が極めて短い。硬膜外麻酔を行った場合はマーカインアナペインを4ml/hourで持続注入することで鎮痛効果をえるという使い方が知られている。手術だけではなく癌性疼痛のコントロールにもよく用いられる。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  1. ^ 自然科学研究機構生理学研究所の柿木隆介教授らの実験