麻痺

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麻痺
MeSH D010243

麻痺(まひ、元の用字は痲痹)とは、一般的には、四肢などが完全に機能を喪失していることや、感覚が鈍って、もしくは完全に失われた状態を指す。比喩的に使われることも多く、「金銭感覚が麻痺する」「交通麻痺(=極度の交通渋滞や災害等により、道路機能が失われること)」などの用例がある。

医学用語としての麻痺は、中枢神経あるいは末梢神経の障害により、身体機能の一部が損なわれる状態をさす。例えば運動しようとしても、四肢などに十分な力の入らない・四肢の感覚が鈍く感じる状態(不全麻痺)、またはまったく動かすことができない・感覚がまったく感じられない状態(完全麻痺)を指し、一般用語の不随に近い意味を持つ。麻痺には、運動神経が障害される運動麻痺と、感覚神経が障害される感覚麻痺(知覚麻痺)がある。また中枢が障害される中枢性麻痺と末梢神経が障害される末梢性麻痺に分類される。

目次

[編集] 運動麻痺

診断学においては麻痺(paralysis)とは運動障害であり、感覚障害を示す言葉ではないと考えられている。しかし、書物により定義が一定しておらず、混乱を避けるため、運動麻痺あるいは運動障害といった言葉を用いることが多い。ここでは診断学におけるparalysis、即ち運動麻痺に関して述べる。なお、運動機能には随意運動不随意運動協調運動が知られているが運動麻痺といった場合は随意運動の機能障害と考えられている。

運動麻痺には程度と分布による分類が知られている。完全麻痺(paralysis)は骨格筋の随意運動が完全に喪失した状態を示す。不全麻痺(paresis)は運動麻痺分布が部分的であったり、運動麻痺の程度が不完全な状態を示す。分布では単麻痺(monoplegia)は四肢のうち一肢のみの運動麻痺である。片麻痺(hemiplegia)は身体の一側に限局する運動麻痺であり、運動麻痺の頻度としては最も多い。神経診断学として重要な片麻痺に交代性麻痺交叉性麻痺というものがある。交代性麻痺(alternating hemiplegia)とは対側の脳神経麻痺を伴う片側の上下肢麻痺である。これは脳幹病変の存在を示唆する。皮質、皮質下の障害である場合は脳神経の麻痺側と四肢の麻痺側が同側となるため重要な所見である。交叉性麻痺(crossed hemiplegia)は一側の上肢麻痺と対側の下肢麻痺のことでありこれは延髄下部の錐体交叉部病変の所見と考えられている。頻度としては非常に少ない。対麻痺(paraplegia)は両下肢の運動麻痺であり、脊髄大脳中心前回正中の占拠性病変などで起こる。四肢麻痺(quadriplegiaまたはtetraplegia)は両側上下肢の運動麻痺である。また両麻痺(diplegia)という言葉もあり、四肢麻痺のうち下肢の麻痺が強いものとされているがあまり使わない。

[編集] 運動麻痺が起きるメカニズム

運動麻痺を随意運動障害と考えると、随意運動の経路である皮質脊髄路、即ち錐体路を理解するとメカニズムの説明ができる。大脳中心前回一次運動野)に存在する神経細胞が興奮することで随意運動ははじまると考えられている。1次ニューロンの軸索放線冠内包後脚、中脳の大脳脚を通過する。延髄下部に存在する錐体交叉にて左右の線維が交叉し、脊髄にて2次ニューロンにシナプスチャンジし、前角細胞を興奮させる。1次ニューロンを上位運動ニューロンといい、2次ニューロンを下位運動ニューロン(α線維)という。下位運動ニューロンは末梢神経として感覚線維と併走し神経筋接合部に至り、筋線維を興奮させる。この経路のどこかが障害されれば運動麻痺は起こりえる。神経診断学では問診と身体所見によって障害部位を決定できると考えている。感覚障害などの随伴症状や身体所見にて障害部位を絞り込み、画像検査にて確認を行う。障害部位の予測なしに画像検査を行うと非特異的な変化との区別が困難な疾患が多い。

  上位運動ニューロン 下位運動ニューロン 神経筋接合部 筋肉
筋萎縮 認めない 遠位筋優位 認めない 近位筋優位
筋トーヌス 亢進(痙性麻痺) 低下(弛緩性麻痺) 正常から低下 正常から低下
深部腱反射 亢進 低下から消失 低下から消失 低下
病的反射 認める 認めない 認めない 認めない
筋線維束性収縮 認めない 認める 認めない 認める
針筋電図 正常 神経伝導速度 正常 筋原性
神経伝導速度 正常 低下 正常 正常
反復刺激誘発筋電図 正常 正常 異常 正常
テンシロンテスト 陰性 陰性 陽性 陰性

通常は障害部位は1か所と考え、診断を進めていく。上位ニューロン障害として脳血管障害、下位運動ニューロン障害としては頸椎症が頻度としては多い。上位運動ニューロン障害では脳神経外科、神経内科、下位運動ニューロン障害、筋疾患では整形外科、神経内科と専門とする診療科も異なる。なお、特殊な例としては上位運動ニューロン障害、下位運動ニューロン障害の混在する疾患としては筋萎縮性側索硬化症などがあげられる。神経診断学をすべて行うと非常に専門的となるため、病歴から脳血管障害が疑われた場合は痙性運動麻痺、腱反射の亢進、表在反射の消失、病的反射(バビンスキー反射、チャドック反射)の出現、膝クローヌス(間代)、足クローヌスといった錐体路徴候のみ診察し、頭部CTにて出血評価、出血がみられなければ頭部MRI(とくに拡散強調画像)といった手順で救急室では行う。というのは脳出血ならば緊急手術の適応の評価、脳梗塞ならば血栓溶解療法の適応など緊急を要する選択をしなければならないからである。

脳神経も運動線維を含み、麻痺は起こしえる。脳神経は分類学上は末梢神経であり視神経嗅神経以外はグリア細胞はシュワン細胞である。顔面神経麻痺がマネジメントとして非常に重要である。脳血管障害によるもの以外では顔面神経麻痺の原因としてはベル麻痺が多い。ベル麻痺は29%に後遺症が残り、致死的ではないものの機能予後はよいとは言えない。口角が下がり、水を飲むとこぼしてしまい、寝る時も眼瞼を閉じることができないなど非常に機能予後が悪い。ストレスが発生に関与しており、春先に非常に多い。原因としてはヘルペスウイルスの関与が考えられており、抗ウイルス薬ステロイドの使用によって後遺症を残すリスクを軽減できることが知られている、そのため救急室でもこれらの薬の処方ができることが望ましく、不慣れならば翌日の耳鼻科受診を促すような配慮が望ましいと考えられている。

[編集] 片麻痺のマネジメント

片麻痺を起こす疾患の頻度ととしては脳血管障害が圧倒的に多く、急性期治療によって予後が全く異なる可能性もあることから前述のように救急室では神経診断学とは異なるアプローチを行う場合が多い。まずはバイタルサインの確認をし、蘇生法にて対応する。脳幹病変の有無を評価し疑わしければ気管内挿管を施行する。麻痺側にて静脈路確保を行うと、脳血管障害では感覚障害の合併があるため、静脈炎の発生や点滴漏れに気がつかない場合があるため健側で静脈路確保を行う。健側で静脈路確保しなければならない状況としては片麻痺など感覚障害を伴う場合と乳癌にて腋窩リンパ節郭清を行った場合などがあげられる。腋窩リンパ節郭清を行った場合は静脈炎からSIRSなどに進展するリスクがあると考えられている。血栓溶解療法の適応からはずれないようにするためにNGチューブやフォーレ―カテーテルの挿入は控え、動脈血採血も行わない。できるだけ速やかに頭部CTを行い、脳出血の有無を確認する。心電図などのルーチン検査はCTを優先し、空き時間を利用して行うべきである。また錐体路徴候の確認なども空き時間を利用して行う。なお、厳密には低血糖やその他の原因にて片麻痺が起こることもあり得るが、低血糖の場合は意識障害がある場合がほとんどであるし、その他の疾患に関しても脳血管障害が否定できてからでも遅くはない場合が多い。

脳出血のマネジメント

救急室で行うべきこととしては、出血部位の同定を含めた診断とヘルニア水頭症といった合併症の評価である。緊急手術の適応となる脳出血には被殼出血、小脳出血、皮質下出血、視床出血があげられる。被殼出血、小脳出血、皮質下出血では血腫除去術、視床出血では脳室ドレナージが標準的な術式である。手術適応は施設によっても異なるが、被殼出血の場合は血腫量が31ml以上の時や意識障害があるとき、脳の圧迫所見が強い時は緊急手術となる。小脳出血では血腫径が3cm以上のとき、意識障害(特にJCSⅢ-100以上)があるとき緊急手術となる。皮質下出血の場合は血腫量が30ml以上の時、意識障害が昏迷以上であるとき、正中偏位が1cm以上あるとき、中脳周囲槽の変形があるとき緊急手術となる。視床出血では脳室穿破や水頭症が認められるとき緊急手術となる。

脳梗塞のマネジメント

脳血管障害でCTにて出血が認められなければ脳梗塞の可能性が高い。発症から3時間以内であれば血栓溶解療法で症状が改善しえるので適応の評価を行わなければならない。病歴からアテローム血栓性などの病型診断も行い、MRIまたはMRAにて発症時期も特定していく。血栓溶解療法は適応基準、慎重投与などが定められているため、かならず専門家にコンサルトしてから血栓溶解療法は行うべきである。この際、適応から外れる行為として観血的な処置があるためにNGチューブやフォーレ―カテーテルの挿入は控えておいた方がよい。

[編集] 感覚麻痺

診断学においては痺れが感覚麻痺に相当する言葉と考えられているものの、一般用語では運動麻痺もしびれると表現するために感覚麻痺といった言葉で示されることが多い。感覚の異常には異常感覚錯感覚知覚過敏知覚鈍麻、無感覚の5つが知られている。異常感覚(Dysesthesia)とは感覚異常には外的刺激によらない感覚の以上であり、誘因なく熱さや痛みを感じるということである。一般用語の痺れはなどがこれに相当する。錯感覚(Paresthesia)とは外的刺激による感覚の異常であり、触られただけで冷たく感じたりすることである。知覚過敏(Hyperesthesia)とは感覚を強く感じてしまうことで、感覚鈍麻(Hypesthesia)とは感覚を弱く感じることである。接尾語のesthesiaが感じるという意味であり無感覚(anesthesia)は麻酔という意味で用いられることが多いが、症候学的には感覚を全く感じないことである。

[編集] 感覚麻痺が起きるメカニズム

感覚の小人。中心後回の正中部に占拠性病変が起こると両下肢の感覚麻痺がおこる。中心前回も障害され感覚麻痺を伴う対麻痺となることが多い。

感覚の伝導路は表在感覚(原始触覚、温度覚、痛覚)と深部感覚位置覚、振動覚、識別覚)で異なる。どちらも末梢神経のレベルでは運動神経と併走する。神経根のレベルでは感覚は後根神経節が存在すること、運動神経が前根を通るのに対して感覚神経は後根を通るという点で異なる。表在覚は脊髄後角で二次ニューロンになり、中心管周辺を通過し反対側側索へいく。側索に沿って外側脊髄視床路を形成し上行し、視床で三次ニューロンとなり放線冠を通過し頭頂葉の中心後回(1次感覚野)で4次ニューロンにとなる。深部感覚は同側の後索を上行する。延髄の後索核で二次ニューロンとなり反対側へ軸索を伸ばし、内側毛帯を形成し、視床で三次ニューロンとなり放線冠を通過し頭頂葉中心後回(1次感覚野)で4次ニューロンにとなる。このように脊髄での走行が全く異なるため、脊髄障害では解離性感覚障害となることがある。触覚は深部感覚と表在覚両方の経路があると考えられており、表在覚の方を原始触覚として区別することがある。上記、感覚伝導路のうちどこが障害されれば感覚麻痺は起こりえる。

[編集] 感覚麻痺の分類

デルマトーム。四本足時代の名残として、下肢よりも肛門周辺の方が下位であることに注意する。腕がCであり、後頭部C2、拇指C6、中指C7、乳頭Th4、臍Th10、母趾L5、肛門S5といった項目は目安として重要である。

感覚麻痺(感覚障害)は障害部位によって分類されることが多い。脳疾患であるのか、ミエロパチーか根症かニューロパチーかentrap syndromeであるのかによって分類することでコンサルトすべき診療科が決定されてくる。分類の仕方は神経診断学に基づくが、緊急の場合はその限りではないのは運動麻痺と同様である。感覚障害の部位、特にデルマトームに沿うのかということ、合併する運動障害の評価、特にUMD(上位運動ニューロン障害)かLMD(下位運動ニューロン障害)かといった点、その他の神経学的異常所見によって評価される。ミエロパチー、ニューロパチー、根症の鑑別はSEP(深部感覚の検査)、神経伝導速度といった電気生理学、髄液検査などを駆使することが多い。

脳疾患

頻度としては殆どが脳血管障害によるものである。運動麻痺と一致した部分に感覚麻痺も生じている。脳幹より上位の障害であると脳神経の障害部位と片麻痺が同側となっている。

ミエロパチー(myelopathy)

脊髄障害のことである。解離性感覚障害などがおこることもある。デルマトームの多分節にわたり感覚麻痺が生じる。典型的には障害部位よりも下はすべて障害される。殿部はS領域となるため感覚麻痺の評価に適している。また、脊髄障害では膀胱直腸障害など他の症状が出現しやすい。

根症(radiculopathy)

神経根障害である。感覚麻痺の部位はデルマトームの1分節となる。後根神経節障害というものもある。

ニューロパチー(neuropathy)

ニューロパチーは、末梢神経の正常な伝導が障害される病態である。典型的には手足の先端から感覚麻痺が生じて、中枢側に向かって進行してくる。足から生じてくるのが一般的でglove&stocking型の感覚障害で有名である。神経解剖学的に説明がつかず、ADLの低下もみられない場合は放置しても致死的な疾患でない場合が多い。こういった場合を心因性疾患とする。例外としては、時間的、空間的に多発する脱髄性疾患である。障害される神経の種類は運動神経感覚神経自律神経に及び、ミクロ的な障害部位は軸索であったり髄鞘(シュワン細胞)であったりする。マクロ的にどこが障害されるかによって、単神経炎多発性単神経炎多発神経炎に区別される。

主な疾患は、ギラン・バレー症候群フィッシャー症候群慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーが炎症性・感染性のものとして有名であり、その他の原因によるものに糖尿病性ニューロパチー腫瘍随伴性ニューロパチーCrow-Fukase症候群、或いはSLE、PN等の膠原病血管炎に伴うニューロパチー、シャルコー・マリー・トゥース病家族性アミロイド多発ニューロパチー等がある。外因性としてはアルコール、ヒ素、水銀、タリウム、スチレン、nヘキサン、またビタミン欠乏によりベリベリなども有名である。薬剤性としてはイソニアジトやビンクスリチンによるものが多い。

ニューロパチーは大雑把に脱髄性のものと軸索変性性のものに分けられる。軸索変性性の場合は急性のものではmyelin ovoidが、慢性のものではaxonal sproutingが認められる。軸索変性性ニューロパチーの場合は障害する神経線維の選択性が認められることがある。大径線維優位型はAβ線維の障害のため深部感覚の障害が目立つ。特に後根神経節に病変の主座がある場合は感覚失調を伴う。こういった病気はPNSやシェーグレン症候群が知られている。小径線維優位型AδおよびC線維の表在感覚や自律神経障害が目立ち、痛みを伴うことが多い。これはアミロイドーシスや一部の糖尿病で見られている。痛みのメカニズムは内部リンク疼痛に詳しい。 後根神経節に病変があると考えられる場合はシェーグレン症候群傍腫瘍症候群(PNS)を考える。後根神経節の障害では経過が長くともaxonal aproutingが認められないのが特徴である。

entrap syndorome

手根管症候群や胸郭出口症候群である。末梢神経が骨や靭帯によって圧迫され、それ以下の末梢神経が障害される。

[編集] 緊急を要する感覚麻痺とプライマリケア

動脈閉塞、急性動脈解離、脳出血、脳梗塞といった、血管障害、脊髄硬膜外膿瘍や急性脊髄硬膜下血腫などミエロパチーを起こす疾患、ギラン・バレー症候群重症筋無力症皮膚筋炎多発性筋炎多発性硬化症といった呼吸麻痺をおこす神経筋疾患は注意が必要である。特にギラン・バレー症候群は進行が早いため注意が必要である。これらの疾患は予め診断がついている場合も多く、また感覚障害単独で来院されることはまず考えにくい。

基本的には手のしびれでは頸椎症を始めとする頸椎疾患と手根管症候群、足のしびれならば脊髄病変(頚椎、胸椎、腰椎どれでもよい)か多発神経炎の計4つを診断できれば、日常診療では十分である。

[編集] 足の痺れ

脊髄病変
頚部、胸部、腰部どこの障害でも足のしびれは起こりえる。脊髄病変を積極的に疑う所見としては膀胱直腸障害である。歩行障害も認める場合が多く、大抵は階段を下るときが辛いという。階段を下るとき辛いというのは下肢の痙性麻痺や運動失調を強く疑うエピソードである。上りが辛いという場合は筋力低下は疑えるものの診断学的価値はかなり低い情報となってしまう。怒責や咳、くしゃみによって放散痛が生じることも脊髄病変では特徴的である。脊髄病変を起こしやすい職業歴として柔道、ラグビー、レスリングの選手やタクシーの運転手が多いということも念頭に置くべきである。
多発神経炎
脊髄病変を疑えるエピソードがない場合は多発神経炎(ポリニューロパチー)を考える。この病気ではつま先から徐々に症状が上行してきて、運動神経よりも感覚神経の方が優位に障害されるのが特徴的である。多発神経炎は原因疾患の検索が重要である。糖尿病、アルコール、薬剤性などが高頻度である。悪性腫瘍や全身性血管炎でも生じうる。


[編集] 手の痺れ

頚髄病変
脊髄の病変でも手の痺れは生じうる。手がしびれる場合、その責任病巣は頚髄であり、頸椎症が原因疾患であることが非常に多い。痺れの領域は基本的にはデルマトームに従う。足の痺れの場合と同じで膀胱直腸障害、階段を下る際に辛い、怒責で放散痛が生じる、スポーツ選手やタクシードライバーに多い。
手根管症候群
手根管症候群は特発性のものでは中年の女性に多い。長時間のパソコン、キーボード操作やピアノの演奏などが誘発因子になることもある。基礎疾患としては妊娠透析甲状腺機能低下症先端巨大症といったものがある。特に甲状腺機能低下症は手根管症候群が受診契機になることもある。筋肥大や嗄声といった症状にも注意したい。ファーレンテスト(Phalen Test、手首関節を屈曲させることで痺れを誘発する)やティネル徴候(Tinel Sign、手根管の部分で正中神経を叩くことで痺れを誘発する)といった神経徴候が有名である。感度特異度ともに優れている検査としてはハンドダイアグラムという検査がある。これは痺れている領域を患者に絵で描いてもらうもので、正中神経の支配領域である第1~3指のみである場合はかなり手根管症候群が疑わしい。掌にまで及ぶとほかの疾患の合併の可能性もある。この

[編集] 脳卒中との関係

しびれを主訴にする患者の多く、脳血管障害の可能性を考えて来院する。近年はTIAという概念が確立し脳血管障害の前兆であるのではないかと受診する場合が多い。基本的には痺れは脳血管障害と関係ない。但し以下の場合は脳血管障害の可能性がある。

明らかな急性発症であり筋脱力を伴う場合
片側の上下肢の分布であるとき
脳血管障害を積極的に疑う分布の場合(顔と片側と反対側の上下肢とか口と手掌など)

こういった場合を除き、脳血管障害の心配はないことを告げることが大切である。安易に抗血栓薬(アスピリンなど)を処方するべきではない。高齢者はしびれを主訴に来院する場合が多いが、どんなに検索しても重要な疾患が見つからず特発性良性慢性しびれという診断になってしまうことが多い。

痺れで重要な疾患としては顔面の痺れというものがある。これは脳血管障害や悪性腫瘍の可能性が高く、精査が必要である。また亜急性、即ち数週間で経過する四肢の痺れも悪性腫瘍や血管炎の可能性が高い。

[編集] 救急室における神経診断学

神経診断は神経診断学に基づき、病因診断、解剖学的診断、臨床診断と3stepで行うのが通常である。解剖学的診断を行うための診察項目は非常に多い。救急室ではこのような対応は不可能なことが多く、頻度としても救急室に来院する神経病が疑われる患者の多くは脳血管障害であるため、より簡便なスクリーニング法が発達してきた。スクリーニング診察はあくまでも神経病の存在診断のために行うものであり、体系だった神経診断学に基づく診断に比べ、局所診断、病因診断の情報は少ないものの、短時間で行えることから救急室では好まれる。スクリーニング診察の項目としては、意識、脳神経、運動神経、感覚神経、歩行、姿勢、髄膜刺激症状、自律神経、協調運動、深部腱反射(特に病的反射)などを一通り行う場合が多い。

スクリーニングの項目だけでも脳血管障害のかなりの情報を得ることができる。殆どの脳血管障害が片麻痺を主訴とするため、これを想定する。まず顔面に麻痺が存在しない頸部以下の片麻痺であれば脊髄レベルの血管障害と考えることができる。片麻痺と対側に顔面麻痺がある場合、すなわち交代性麻痺であれば脳幹障害である。脳幹障害は気管内挿管の必要が高くなる。咽頭反射の消失など球麻痺症状、交代性麻痺はいずれも気管内挿管を積極的に考える状態である。 頭部CTを緊急で行う必要がある(救急室のマネジメントとしては脳出血と診断がついた時点で局在診断は行っても治療方針としては影響は出ない。)。あいまに行う神経診断としては脳神経の検査である。脳神経Ⅰ~Ⅳ麻痺ならば中脳、脳神経Ⅴ~Ⅷ麻痺ならば、脳神経Ⅸ~ⅩⅡ麻痺ならば延髄が責任病巣である可能性が高い。片麻痺と同側に顔面麻痺が認められる場合は皮質下レベルか皮質レベルの障害である。この場合テント上病変であるので瞳孔偏位が存在すればそれだけで偏位方向の皮質レベルの障害である(瞳孔偏位はテント上病変では病側を向き、テント下病変では健側を向く)。瞳孔偏位が認められなければ、皮質症状が認められるか、認められないかで鑑別する。皮質症状が存在すれば皮質レベルの障害であり、皮質症状が存在しない、あるいは感覚障害が存在しなければ皮質下レベル、即ちラクナ梗塞である。皮質症状は優位半球の皮質症状としては失語が有名であり、劣位半球皮質症状としては 障害血管の目安としてはそれ以外の高次機能障害失認失行半側空間無視があげられる。また両側大脳皮質の機能として、複合感覚もあるため、これも皮質症状とする。広範な皮質症状としては意識障害もあげられる。 障害血管に関しては皮質レベルの障害の場合は前部大脳循環系の障害が疑わしい。下肢の障害が強ければ前大脳動脈領域、顔面や上肢の障害が強ければ中大脳動脈領域、同名半盲や幻視が認められれば後大脳動脈領域が疑わしい。皮質下、特に内包視床大脳基底核は穿通枝によって主に灌流されているため、皮質症状が存在しなかったり、感覚麻痺を伴わない運動麻痺や運動麻痺を伴わない感覚麻痺はラクナ梗塞を疑う。


[編集] 麻痺の治療

運動麻痺も感覚麻痺も徴候であり、治療は原因疾患の治療を行うのが一般的である。しかし痺れを主訴とした来院も多いため、対症療法を一部示す。

特発性良性慢性しびれ

軽症であればアリナミンF®(ビタミンB1)50mg 1×やメチコバール(メコバラミン、ビタミンB12)1500μg 3×、ユベラN®(トコフェノール、ビタミンE)100mg 2×、ビタメジンカプセル®50mg 1×(複合ビタミン剤)などを使用する。また心因性の場合も多いため、抗不安薬も併用することもある。

末梢神経障害

糖尿病性ニューロパチーの場合は軽症の場合はキネダック®150mg 3×(エパレスタット)がよく用いられる。キネダックはアルドース還元酵素の阻害薬でありアルドース還元酵素を特異的に阻害し神経内のソルビトール蓄積を抑制する。神経が不可逆的阻害を受けていなければ有効とされている。糖尿病性神経症の疼痛やしびれに使用されることが多い。尿が赤くなるが、それは特に問題とならない。痛みが強くなってきた場合はキネダック®150mg 3×に加えてメキシチール®(メキシレチン)300mg 3×を併用する場合が多い。メキシチールはⅠb群の抗不整脈薬であり、不整脈を誘発することがあるので投与まえに心電図を検査することが望ましい。1か月をめどに使用し効果がなければ2週間で退薬する。また痛みが難治性となった場合はテグレトール®400mg 2×(カルバマゼピン)を使用することも多い。この痛みによってうつ状態となることも多く、抗うつ薬抗不安薬が効果的な場合もある。トフラニール®30mg 3×(イミプラミン)は三環系抗うつ薬であり、セルシン6mg 3×(ジアゼパム)は抗不安薬である。セルシン®とテグレトール®の併用はしばしば行われる。残念ながら日常生活に支障がでるほどの糖尿病性神経症では神経が不可逆的な変化を起こしておりこれらの薬物が効果的でない場合も多い。その場合、痛み、しびれは訴えないこともある。

アルコールや栄養障害のニューロパチーを疑った場合はビタメジンカプセル(50)3C3×とメチコバール 1500μg 3×を併用することもある。

手根管症候群

この場合は原疾患の治療とNSAIDsによる疼痛を行う場合が多い。浮腫に対してラシックス&reg(フロセミド);40mg1×も使用される。

神経痛

テグレトール®(カルバマゼピン)が頻用される。帯状疱疹後などではフランドルテープ®が効果的なこともある。

[編集] ギャラリー


[編集] 参考文献

[編集] 関連項目