乳癌

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乳癌
分類及び外部参照情報
乳癌のX線画像(矢印)
ICD-10 C50.
ICD-9 174-175,V10.3
OMIM 114480
DiseasesDB 1598
MedlinePlus 000913
eMedicine med/2808  med/3287 radio/115 plastic/521
MeSH D001943

乳癌(にゅうがん, Breast cancer)とは乳房組織に発生する癌腫である。世界中でよく見られる癌で、西側諸国では女性のおよそ10%が一生涯の間に乳癌罹患する機会を有する。それゆえ、早期発見と効果的な治療法を達成すべく膨大な労力が費やされている。また乳癌女性患者のおよそ20%がこの疾患で死亡する。

目次

[編集] 疫学

乳癌に罹患するリスクは年齢と共に増加する。九十歳の女性の場合、その年齢までに乳癌に罹患した人の比率は12.5%であり8人に1人は罹患していることになる。これは女性の癌の中では胃癌を越え、現在1位である。また、今後も増えていくと考えられている。男性も乳癌に罹患することがあるが、発生確率は1000人に1人といわれており、成人女性と比較しても100分の1程度である(sex and illness) 。このリスクは色々異なった要因で変わってくる。家系によっては、乳癌は遺伝的家系的なリスクが強い家系が存在する。人種によっては乳癌リスクの高いグループが存在し、アジア系に比べてヨーロッパ系とアフリカ系は乳癌リスクが高い(breastcancer.org参照)。

他の明確になっているリスク要因としては以下の通り。いずれもエストロゲンの長期並びに過剰状態を反映している。

  • 妊娠出産歴がない。
  • 第一子の後。
  • 母乳を与えない。
  • 初経年齢(月経が始まった年齢)が低い。
  • 閉経年齢が高い。
  • ホルモン療法(エストロゲン製剤、ピル等)を受けている。
  • 女性化乳房(男性の場合)。

喫煙については、日本人を対象とした研究(JPHC研究)では、閉経前の喫煙女性の乳癌リスクは、非喫煙者より3.9倍、受動喫煙だけなら2.6倍高くなる。閉経後の女性ではリスクの上昇はみられていない。[1]

年齢と共に乳癌の発生する確率は高まるが、若年齢で発生した乳癌は活動的である傾向が存在する。乳癌の一種の炎症性乳癌 (Inflammatory Breast Cancer) は特に活動的で、若い女性に偏って発生し、初診時のステージがIIIbまたはIVであることが多い。この癌は他とは変わっていて、乳癌のしこりが無いこともしばしば見受けられ、マンモグラフィー超音波検査で発見することが出来ない。乳腺炎 (Mastitis) のような乳房の炎症が症状として現れる。

[編集] 病因

2つの遺伝子、BRCA1BRCA2は家族性の乳癌と関連している。この家系の女性でこれらの遺伝子が発現している者はそうでない女性に比べて乳癌に罹患するリスクが極めて高い。(p53遺伝子突然変異の)Li-Fraumenid症候群もまた同様で、全乳癌患者の5%にこの症候群が見られる。他の遺伝因子は乳癌では散発的に見られるだけである。

[編集] 検診

30歳代から高齢の女性ほど罹患率が高い為、今日では多くの国で検診を受けることが推奨されている。検診には胸部自己診断法 (breast self-examination) とマンモグラフィー (mammography) も含まれる。いくつかの国では、壮老年女性の全員の(毎年の)マンモグラフィー検診が実施され、早期乳癌の発見に効果を挙げている。

この段階で施されるマンモグラフィーは早期乳癌を発見する為の選択肢のひとつであり、これひとつですべての年齢、すべての乳癌の、早期発見がカバーできるものではない。より一般的な方法として、超音波検査も併用することが有用と思われる。単に検診としてはMRICTなど、マンモグラフィーや超音波検査に比べて、不便な画像診断も存在する。CTは乳癌の検診にはあまり適しておらず、費用や検査時間など使い勝手の点でMRIも同様に検診には使い難い(ケースバイケース)。

アメリカの低所得者層では医療サービスへのアクセスが十分でないため、乳癌の検診を受ける率が低く、それと相関して乳癌が診断された時に癌が進行している確率が高い。そのため、連邦政府は乳癌・子宮癌早期発見プログラムを1990年に創設し、低所得者のための無料検診を実施している。これを受けて州政府も州の財源を追加して乳癌の低所得者無料検診を拡大した。例えば、カリフォルニアでは増税したたばこ税を財源として、1年間に20万人弱の女性に無料検診を提供している。

[編集] 検査

壮老年女性の検診は増加しているのにも関わらず、多くの女性が乳癌に最初に気づくのは、かかりつけ開業医などが乳房のしこりを発見することである。

一般的な乳癌のスクリーニング検査としては、問診、触診、軟X線乳房撮影(マンモグラフィー)、超音波検査等が実施される。臨床的に疑いが生じると、乳房MRI検査および細胞診や生検が実施され病理学的診断により癌であるかどうか判別される。細胞診は多くの場合、超音波装置の誘導で腫瘍内に細い針を挿入し腫瘍細胞を採取する。生検にはいくつかの種類があるが、超音波ガイド下にやや太目の針を挿入して腫瘍の一部を採取する針生検が最もスタンダードである。細胞診や針生検で診断が困難な場合には、超音波またはマンモグラフィーを取る機械を用いたマンモトーム生検、MRI検査でしか描出できない多発乳がんなどの場合は、MRI検査をしながら生検を行うMRIガイド下乳腺生検が行われることもある。

病理医はふつう、腫瘍の組織型と、顕微鏡的なレベルの進行度合い(浸潤性であるか否か、など)を生検の報告に記述している。浸潤性乳癌の殆どは腺癌 (adenocarcinoma) であり、その中で最も普通の亜型は浸潤性乳管癌 (infiltrating ductal carcinoma ICD-O code 8500/3) である。他の亜型としては浸潤性小葉癌 (infiltrating lobular carcinoma ICD-O code 8520/3) などがある。稀に、腺癌以外の癌腫(や、癌腫以外の悪性腫瘍)がみられる。

診断が付くと、次は癌の病期の判定に移る。腫瘍の広がり具合と、浸潤や転移の有無を、病期判定の尺度とする。

[編集] 病期

乳癌の病期(ステージ)は腫瘍のサイズ、リンパ節への浸潤の有無、癌細胞の遠隔転移で決まってくる。乳癌サブタイプの炎症性乳癌の場合、乳腺炎が発症していると、自動的にステージIIIbかIVに分類される。浸潤・転移が疑われリスクが高い場合は、CTスキャン、核医薬画像化(シンチグラフィー)、胸部X線検査血液検査等の追加の検査で、他の乳腺炎や原発巣から遠隔転移した二次癌の発見が試みられる。

腫瘍医はTMN分類で区分を簡潔に表現し、推奨される治療法を決定する。癌の病期を分類する一つの方法としてもTMN分類が使われる。TMNとはTumour(腫瘍)、Nodes(リンパ節)そしてMetastasis(転移)の頭文字を取りを短くしたものである。あるいはエストロゲン受容体 (estrogen receptor) 、HER2-neu癌遺伝子など生物学的要因もまた、治療を選択する上での要点となる。

硬癌


HER2/neuの過剰発現(免疫組織化学法)


[編集] 治療

乳癌の治療は原則的には外科手術であり、化学療法放射線療法が併用されることもある。

[編集] 外科手術

腫瘍のタイプと病期(ステージ)によって、乳腺腫瘤摘出(lumpectomy, しこりのみを摘出)か乳房を大きく切除する必要があるかが分かれる。日本ではlumpectomyを行うことは稀であり、腫瘍周囲に何センチかのマージンをつけて切除する乳房部分切除がスタンダードである。外科的に完全に乳房を切除する方法は乳房切除術 (mastectomy) と呼ばれる。

標準的な術式では、執刀医は手術で腫瘍を確実に切除できるように、腫瘍の周囲の正常組織を含めて組織を切除することで目的を達成する。組織切除に明確な余地が無いと、更なる切除手術が必要になる。場合によっては前部胸壁を覆う大胸筋 (pectoralis major muscle) の一部を切除することがある。

判断によっては、腋窩リンパ節も手術の際に切除される。過去においては、癌が広がらないように10~40個もの広範囲に腋窩リンパ節が切除され、術後合併症として切除した側と同側の腕に、リンバ切除によりリンパ系の広範囲のリンパ節に障害が及ぶことによってリンパ浮腫 (lymphedema) の発生が繰り返された。 近年ではセンチネルリンパ節判別法 (technique of sentinel lymph node dissection) が普及して、リンパ節の切除は少なくてすむようになり、この術後合併症は減少している。

[編集] 化学・内分泌療法

化学療法は、主に術前・術後の補助化学療法や進行・再発乳癌の治療に用いる。また乳癌はエストロゲン依存性であることが多いことからエストロゲン依存性の乳癌の場合、抗エストロゲン剤であるタモキシフェンアロマターゼ阻害剤レトロゾール等)を用いる。

[編集] 放射線療法

現在乳癌に対する放射線療法は乳房温存療法における術後照射が広く行われている。また転移リンパ節、遠隔転移の治療に用いられることが多い。

[編集] 分子標的治療

病理検査でHER-2陽性の場合、モノクローナル抗体療法も行われる。

今日においては、次に述べる様式が推奨されている。この様式は二年置きに開催される国際会議の、スイスのSt. Gallenで開催された会議で議論され、その議論は世界規模の研究の中心で実際に行われた結果に基づいている。病理区分(年齢、癌の種類、大きさ、転移)で患者を大きく高リスク群と低リスク群とに判別し、その後で施す治療の取扱い基準をそれぞれ違うものを施す。次に要点を示す。

  1. 乳房温存術(乳腺腫瘤摘出術、 乳房の四分の一切除)の場合に生じる、高い局所再発リスク(~40%に発生)は胸部の放射線療法で減少する。
  2. リンパ節に浸潤していた場合に生じる、高い癌死亡リスク(30~80%)は全身療法(抗ホルモン療法あるいは化学療法)で減少する。
  3. 若い患者において最も有効な全身療法は化学療法である(通常はregimentが選択され、CMF、FAC、ACあるいはtaxolも使用される)。
  4. 壮老年の患者において最も有効な全身療法は抗ホルモン療法(tamoxifenやGnRH-analogues)である。
  5. 化学療法は患者の年齢が65才を越えると増加する。
  6. エストロゲン受容体を持たない腫瘍の患者の場合最も有効な全身療法は化学療法である。
  7. エストロゲン受容体を持つ腫瘍の患者の場合最も有効な全身療法はホルモン療法である。

幾つかの種類の腫瘍については全身療法は推奨されない。また、浸潤されたリンパ節が殆ど無い場合は、乳房切除術や放射線療法は推奨されない。進行乳癌には三つの治療様式(外科手術、放射線療法、全身療法)を組み合わせるのが良い結果をもたらす。


[編集] 予後

長期治療成績は診断確定時の乳癌の病期(ステージ)と癌がどのように治療されたかに依存する。一般的に言って、早期発見されればされるほど予後は良い。早期であればほとんどの乳癌が手術によって根治する。男性乳癌では女性乳癌と比較して大胸筋浸潤を起こしやすく、進行癌で発見される確率が高いため、5年生存率40~50%と予後は不良である。

[編集] 全国の乳癌死亡率全国ワースト1

  • 2005年 全国の都道府県で死亡率ワースト1は東京都
  • 東京都の検診受診率は7.9%(全国平均12.9%)。

[編集] 脚注

[編集] 関連項目

[編集] 参考文献

[編集] 外部リンク