健康保険

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健康保険(けんこうほけん)とは、日本において、健康保険法に基づき、おもに民間企業従業員に適用される公的医療保険である。

健康保険がある地域
0 緑:90%以上の誕生時の加入と90%以上の社会保険適用
0 桃:制度があるが、上記の値に達していない地域
健康保険被保険者証(カード型)。いわゆる保険証。
当時の政府管掌健康保険のもの。現在は水色カードとなっている。
(上:表、下:裏)

目次

目的・理念等[編集]

健康保険制度は、労働者の業務外の事由[* 1]による疾病、負傷若しくは死亡又は出産及びその被扶養者の疾病、負傷、死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。

健康保険制度については、これが医療保険制度の基本をなすものであることにかんがみ、高齢化の進展、疾病構造の変化、社会経済情勢の変化等に対応し、その他の医療保険制度及び後期高齢者医療制度並びにこれらに密接に関連する制度と併せてその在り方に関して常に検討が加えられ、その結果に基づき、医療保険の運営の効率化、給付の内容及び費用の負担の適正化並びに国民が受ける医療の質の向上を総合的に図りつつ、実施されなければならない。

健康保険法の規定上は厚生労働大臣が幅広い権限を有しているが、実際の事務(次にあげる事務)は日本年金機構(1,2)、地方厚生局長又は地方厚生支局長(3)に委任・委託されている。

  1. 被保険者の適用除外の承認、任意適用事業に係る認可、被保険者資格得喪の確認、標準報酬月額・標準賞与額の決定、滞納処分の事務
  2. 現物給与の価額の決定、保険料等の徴収・督促に係る事務について、その事前・事後の事務処理
  3. 保険医療機関等及び指定訪問看護事業者に係る指定・指定取り消し、保険医に係る登録等の権限

健康保険の保険者(保険事業の経営主体として、保険給付等の業務を行う者)は、全国健康保険協会及び健康保険組合とされる。ただし、日雇特例被保険者については全国健康保険協会のみが保険者となり、健康保険組合が保険者となることはない。

保険医療機関[編集]

健康保険法をはじめとする医療保険各法の規定により[* 2]療養の給付等を行う病院診療所薬局として厚生労働大臣の指定を受けると、「保険医療機関」「保険薬局」と呼ばれる。指定を受けようとする医療機関等は、その開設者が厚生労働大臣に申請を行い、厚生労働大臣は地方社会保険医療協議会に諮問の上、当該指定を行う。指定の効力は、指定の日から6年間である[* 3]。なお厚生労働大臣は、指定の取消の日から5年を経過しないときや、保険医療機関等として著しく不適当な場合等は、地方社会保険医療協議会の議を経たうえで、その指定をしないことができる。

保険医療機関において診療に従事する医師歯科医師、保険薬局において調剤に従事する薬剤師は、厚生労働大臣の登録を受けた医師・歯科医師(保険医)・薬剤師(保険薬剤師)でなければならない。保険医等の登録に有効期間の定めはないので、原則として終身有効である。なお、個人開業の保険医等で、かつ当該開設者たる医師等のみが診療又は調剤に従事している場合、当該保険医等に登録があった場合は、その診療所又は薬局についても保険医療機関等の指定があったものとみなされる。

適用事業所[編集]

健康保険への加入は原則として企業単位でなく、事業所(本社、支社、工場など)単位で行われ、健康保険が適用となる事業所は、加入が義務付けられている事業所(強制適用事業所)と、厚生労働大臣認可を受けて加入する事業所(任意適用事業所)がある。

  • 強制適用事業所
    • 国・地方公共団体・法人事業所(法人の種類は問わない)で、常時従業員を使用するもの
    • 個人事業所のうち、適用業種である事業の事業所で、常時5人以上の従業員を使用する事業所
  • 任意適用事業所
    • 強制適用事業所に該当しない事業所。すなわち、個人事業所のうち、非適用業種(飲食業・サービス業・農林漁業等)の事業所や、適用業種の事業所であっても常時5人未満の従業員を使用する事業所

「5人」の算定に当たっては、被保険者となるべき者だけでなく、適用除外の規定によって被保険者とすることができない者であってもその事業所に常時使用されている者であればこれを算入する。なお、任意適用事業所が認可を受けようとするときは、当該事業所に使用される者の2分の1以上の同意が必要であるが、この算定に当たっては被保険者となるべき者に限られる。

協会けんぽの場合、基本的には事業所単位で適用されている(都道府県を越えて事業所所在地が移転した場合には管轄の全国健康保険協会の支部が変わるので保険証を交換する。その他、同一都道府県内での事業所所在地の移転や、被保険者が(都道府県を越えるか否かに関係なく)転勤する場合には、基本的には保険証は交換しない)。なお、2以上の事業主が同一である場合(おもに組合健保の場合)は、厚生労働大臣の承認を受けて法人(企業)一括の単位で適用されている(一括適用事業所)。

「適用業種」とされるのは、以下の業種である。

  1.  物の製造、加工、選別、包装、修理又は解体の事業
  2.  土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業
  3.  鉱物の採掘又は採取の事業
  4.  電気又は動力の発生、伝導又は供給の事業
  5.  貨物又は旅客の運送の事業
  6.  貨物積卸しの事業
  7.  焼却、清掃又はとさつの事業
  8.  物の販売又は配給の事業
  9.  金融又は保険の事業
  10.  物の保管又は賃貸の事業
  11.  媒介周旋の事業
  12.  集金、案内又は広告の事業
  13.  教育、研究又は調査の事業
  14.  疾病の治療、助産その他医療の事業
  15.  通信又は報道の事業
  16.  社会福祉法に定める社会福祉事業及び更生保護事業法に定める更生保護事業

給付の対象者[編集]

被保険者[編集]

被保険者には、適用事業所に使用される者である「被保険者」(以下、「一般の被保険者」と表記[* 4])、及び「日雇特例被保険者」、適用事業所に使用されなくなった後に任意で加入する「任意継続被保険者」及び「特例退職被保険者」(後述の「退職後の健康保険」を参照)との4種類がある。被保険者資格の取得・喪失は、原則として保険者等の確認によってその効力を生じ、事業主が資格取得の届出を行う前に生じた事故であっても、さかのぼって資格取得の確認が行われれば、保険事故となる。

一般の被保険者は、以下のいずれかに該当するに至った日から、被保険者の資格を取得する。事業主は、一般の被保険者資格を取得した者があるときは、5日以内に日本年金機構または健康保険組合に届出なければならない。

  • 適用事業所に使用されるに至ったとき
  • 使用されている事業所が適用事業所になったとき
  • 適用除外に該当しなくなったとき

事業所が健康保険の適用を受けた場合、労災保険や雇用保険とは異なり、法人から労働の対償として報酬を受け取っていれば、法人の代表者・役員も含むすべての被用者(一般の従業員)は原則として被保険者となる。外国人であっても適法に就労していれば一般の被保険者となる。ただし個人事業主は「使用される者」とはみなされないので、被保険者とならない。

短時間就労者(パートタイマー)として使用される者の加入については、身分関係ではなく、職務内容を総合的に勘案して常用的雇用関係が認められるかにより判断される。具体的な取扱い基準については、次のいずれにも該当する場合、一般の被保険者となる。

  • 1日又は1週間の勤務時間が、その会社で働いている一般の従業員の勤務時間の概ね4分の3以上であること。
  • 1ヶ月の所定勤務日数が、その会社で働いている一般の従業員の概ね4分の3以上であること。

同一の事業所において雇用契約上いったん退職した者が1日の空白もなく引き続き再雇用された場合には、事実上の使用関係は継続しているので、被保険者資格も継続する。ただし、60歳以上の者の再雇用については、使用関係をいったん中断したものとみなして取扱っても差し支えない。そうすることで、再雇用に伴う給与の低下に即応して在職老齢年金の支給停止額を減額改定できる(特別支給の老齢厚生年金の受給額を多くできる)ため等である。

労働組合専従者については、従前の事業主との関係では被保険者資格を喪失するが、労働組合に使用される者として一般の被保険者となる。なお、共済組合の組合員については、一般の被保険者であっても原則として健康保険法による保険給付は行わず、保険料も徴収しない。

以下のいずれかに該当する者は、日雇特例被保険者となる場合(原則として1~4)を除いて、被保険者となることができない(適用除外)。ただし、適用事業所等において引き続く2月間に通算して26日以上使用される見込みのないことが明らかであるときとして年金事務所長等の承認を受けた場合はこの限りではない。詳細は、日雇健康保険で。

  1. 日々雇用される者で1ヶ月未満の者
  2. 2ヶ月以内の期間を定めて使用される者
  3. 季節的業務(4ヶ月以内)に使用される者
  4. 臨時的事業の事業所(6ヶ月以内)に使用される者
  5. 船員保険の強制被保険者
  6. 事務所で所在地が一定しないものに使用される者(使用期間の長短を問わない)
  7. 国民健康保険組合の事業所に使用される者
  8. 後期高齢者医療の被保険者
  9. 厚生労働大臣、健康保険組合又は共済組合の承認を受けた者

被扶養者[編集]

被用者保険の被保険者によって生計を維持されている者は、保険者の認定を受けることにより被扶養者としてその被用者保険の適用を受けることができる。保険料免除の一類型であり、被扶養者に保険料の負担はなく、被扶養者の有無、増減で被保険者の保険料に変動はない。元来は収入を得られない子供や障害者、長期入院者、専業主婦、年老いた親などが想定されていたが、家族や社会環境の変化などにより、その態様は変化している(専業主夫、リストラされた夫、資格試験受験生、いわゆるフリーターなど)。60歳未満の配偶者は、被扶養者認定とほぼ同時に国民年金第3号被保険者になる。なお、国民健康保険の場合は被扶養者の考え方はなく加入者全員が被保険者になるため、保険料減免制度によって対応している。

被扶養者として認定される条件としては、

  • 被保険者から3親等内の親族(血族の配偶者も含む)
  • 年収130万円未満(60歳以上の者等については年収180万円未満)で、被保険者の年収の1/2を超えないこと
  • 直系尊属配偶者・子・孫・弟妹以外の者の場合は同一世帯に属していること
  • 直系尊属・配偶者・子・孫・弟妹で同居していない場合は被保険者から生活可能な額の仕送りを受けていること
  • 後期高齢者医療の被保険者でないこと

が定められている。

ここで言う年収とは、給与、年金、恩給、不動産収入等、定期的な収入である。給与の場合は、勤労の対価として支払われているものすべてが対象であり、諸手当・交通費込み、税引前の額である(被保険者の保険料算定における報酬と同様)。預貯金、相続による一時的な収入、負債などは収入条件の判定から除外される。

協会けんぽの場合、被扶養者の申請の際に通常必要な物は被保険者及び事業主の印鑑のみである場合が多い(被扶養配偶者が国民年金の第3号被保険者になる場合は被扶養配偶者分の印鑑も必要となる)。というのも、被扶養者の収入については、所得税法上の被扶養配偶者・被扶養親族であることを事業主が確認した場合には、その旨の記載または確認欄に丸印を付ければ添付書類を省略できるからである。 なお、被扶養者等に非課税の収入等がある場合には、当該事業主による確認ができないため添付書類が必要となる。 また、被保険者と同一世帯に属することが認定の要件となる被扶養者等の場合のみ住民票が、被扶養者等が仕送りを受けている場合には仕送りが確認できる書類が必要となる。その他、事例により添付書類が異なるため、事前に年金事務所等に確認をすることが必要である。

健康保険組合や共済組合等の場合は要件及び添付書類等が異なっているため、事前に保険者への確認が必要でなる。手続についても、協会けんぽに比べ細かいことが多く、戸籍謄本や高校生の在学証明書が求められることもある。住民票については、世帯全体の証明を求められることが多い。

扶養状況を確認するために扶養現況調査が行なわれる。調査票に回答と収入や居住状態の立証書類を添付して保険者に提出する。収入が多いなど上記法定の認定条件を満たさない場合、調査票の提出がない場合、勤務先の社会保険に加入していた場合は被扶養者資格がなくなる(国民健康保険などに加入する)。扶養現況調査は健康保険の適正な適用に関し重要な役割をしている(不当な社会保険料免除を防ぐ)が、膨大な数の被扶養者について確認を行うため、対応に苦慮している保険者も多い。厚生労働省は1年に1回以上実施するように保険者に指導している

給付内容[編集]

下記に掲げるもののほか、健康保険組合の場合は付加給付がある場合がある。被保険者の資格取得が適正である限り、その資格取得前の疾病、負傷等に対しても、保険給付は行われる。

被保険者本人[編集]

療養の給付

被保険者が疾病、負傷したとき、自ら選定する保険医療機関等で、保険者から発行された被保険者証(70歳以上の者は高齢受給者証も併せて)を提出し、一部負担金を支払うことで、診療を受けることができる。

一部負担の割合は、被保険者が70歳未満の者もしくは70歳以上で標準報酬月額が28万円以上の者は3割である。70歳以上で28万円未満の者は2割であるが、2008年になされた1割から2割への引き上げが現在凍結されているため、実際は1割負担である。また、災害等特別の事情があるときは、一部負担金の減額、免除、支払猶予(6ヶ月以内に限る)の措置が行われる。

給付の範囲は以下のとおりである。診察を受けたものの何ら疾病と認めるべき兆候がなかった場合でも、給付の対象となる。

  • 診察
  • 薬剤又は治療材料の支給
  • 処置、手術その他の治療
  • 居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
  • 病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護

いっぽう、美容整形予防接種、定期的健康診断(集団検診の結果疾病の疑いがあると判断された者が受ける精密検査は、あらかじめ計画されたものでない限り給付の対象)、正常出産における医師の手当(帝王切開などの異常出産の場合は給付の対象)、往診の際の医師の交通費等は療養の給付の対象とはならない。

入院時食事療養費

被保険者の入院時、保険医療機関等から受ける食事の提供については、食事療養標準負担額を被保険者が窓口負担し、残余の額について保険給付(現物給付)が行われる。食事療養標準負担額は、1食につき260円であるが、低所得者については、あらかじめ保険者に申請して減額認定証の交付を受けておき、これを保険医療機関等に提出することで減免措置がとられる。すなわち、市町村民税の非課税者・免除者・減額を受けなければ生活保護が必要な者については、直近12月以内の入院日数が90日以内の場合は1食につき210円、90日超の場合は1食につき160円となる。また70歳以上で判定基準所得がない者については1食につき100円となる。

なお、点滴栄養のみを受けている入院患者からは、食事療養標準負担額は徴収されない(点滴栄養は療養の給付に当たる)。

入院時生活療養費

療養病床に入院する65歳以上の被保険者が、保険医療機関等のうち自己の選定するものから療養の給付と併せて受けた以下の療養に要した費用については、生活療養標準負担額を被保険者が窓口負担し、残余の額について、保険給付(現物給付)される。

  • 食事の提供である療養
  • 温度、照明及び給水に関する適切な療養環境の形成である療養

生活療養標準負担額は、食費分と居住費分とに分かれ、入院医療の必要性の高い者については、食費分は食事療養標準負担額と同額、居住費分は無料である。その他の者については、所得や保険医療機関等により、食費分は1食につき130円~460円、居住費分は一律1日につき320円である。

保険外併用療養費

被保険者が評価療養選定療養を受けた場合に、その療養に要した費用については、評価療養部分または選定医療部分については全額自己負担であるが、基礎部分については、一部負担金相当額を被保険者が窓口負担し、残余の額について保険給付(現物給付)される。

保険外併用療養費の支給対象となる治療や検査は、患者に対する情報提供を前提として、患者の自由な選択と同意がなされたものに限られるため、その内容を患者等に説明することが医療上好ましくないと認められる治療や検査は、保険外併用療養費の対象とならない。

療養費

やむをえない事情(旅先で被保険者証を持っていなかった場合、僻地で近くに保険医療機関がないとき、病状が切迫して保険医療機関等を探す余裕がないとき等)により上記の現物給付が受けられない場合、被保険者がいったん医療費を窓口で全額支払うが、後で申請することにより現金給付(償還払い)で受けることができる。

海外の病院等で診療を受けた場合でも支給される(海外療養費)が、現に海外にある被保険者からの支給申請は、原則として事業主を経由して行い、療養費は事業主が代理して受領する。また海外療養費の支給額の算定に用いる為替レートは、療養を受けた日ではなく支給決定日の為替レートを用いる(後述)。

訪問看護療養費

被保険者が、指定訪問看護事業者から指定訪問看護を受けたときは、保険者が必要と認める場合に限り、一部負担金に相当する額(基本利用料)及び交通費等の実費を業者に支払い、残余の額について保険給付(現物給付)される。

指定訪問看護は、厚生労働大臣が定める疾病等の場合を除き、利用者一人につき週3回が限度である。

移送費

被保険者が療養の給付(保険外併用療養費に係る療養を含む)を受けるために、病院または診療所に移送されたときは、保険者が必要と認める場合に限り、支給される。単なる通院等、一時的、緊急的とは認められないときや、私費で医療を受けたときは、支給されない。また、支給される額は最も経済的な通常の経路呼び方法により移送された場合の金額により算定するが、現に移送に要した費用の額を超えることはできない。なお、移送費には定率の一部負担はない。

傷病手当金

被保険者(任意継続被保険者を除く)が療養のため労務に服することができない場合の生活保障として、1日につき標準報酬月額の30分の1に相当する額の3分の2に相当する金額を支給する。

埋葬料

被保険者が死亡したときは、その者によって生計を維持されていた者であって埋葬を行うもの(実際に埋葬を行った者ではなく、社会通念上埋葬を行うべき者。必ずしも親族や遺族に限られない)に対し、5万円を支給する。

出産育児一時金

被保険者が出産した場合、1児につき39万円(在胎週数22週以降で、かつ産科医療補償制度加入の医療機関等による医学的管理のもとによる出産の場合は3万円[* 5]を加算)が支給される。

出産手当金

被保険者(任意継続被保険者を除く)が出産のため労務に服さなかった期間(「労務不能」である必要はない)の生活保障として出産日(出産の日が予定日後であるときはその出産予定日)の42日前(多胎妊娠の場合は98日前)から出産後56日の期間1日につき標準報酬月額の30分の1に相当する額の3分の2に相当する金額が支給される。

被扶養者[編集]

被扶養者に関する保険給付(家族給付)は、あくまで保険料を負担している被保険者に対してなされるものである。したがって、被保険者が死亡した場合、その翌日から家族給付は打ち切られる。

家族療養費

療養の給付、入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費及び療養費に相当する給付は、被扶養者についてはすべて家族療養費として支給される。なお、小学校就学前の者の窓口負担は2割である。

家族訪問看護療養費
家族移送費
家族埋葬料
家族出産育児一時金

被保険者と同様の給付がなされる。ただし、家族埋葬料は、死産児に対しては支給されない。

自己負担金軽減のための支給[編集]

高額療養費

同一月に、療養の給付等の自己負担金が、自己負担限度額を超えたときに、一定額を超えた部分について支給される。70歳未満の者と70歳以上の者とで支給額が異なる。

高額介護合算療養費

健康保険の自己負担額と介護保険の自己負担金の合計額が、自己負担限度額を超えたときに、一定額を超えた部分について支給される。

保険料[編集]

健康保険は、厚生年金保険料と同様、事業主と被保険者とで保険料を折半して負担する。ただし、任意継続被保険者の場合は、本人が全額負担しなければならない。組合健保は、規約で定めるところにより事業主の負担割合を増加させることができ、協会けんぽに比べ保険料率が低い組合が多いが、中には協会けんぽの保険料率を超える財政基盤の脆弱な組合が存在する。保険料は被保険者の標準報酬月額及び標準賞与額に保険料率を乗ずることにより計算される。

  • 保険料額=標準報酬月額×保険料率(介護保険第2号被保険者については、これに介護保険料額が加算される)

健康保険法で、報酬とは「通勤交通費、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対償として受けるすべてのものをいう(健康保険法第3条第5項)。※給与所得が同額の場合、通勤交通費が多いほど、保険料が上がり、実質の手取りが減少する。

  • 標準報酬月額
    • 2007年4月現在:第1級58,000円(報酬月額が63,000円以下)~第47級1,210,000円(報酬月額が1,175,000円以上)の47等級。
    • 毎年7月1日現在使用される事業所において、同日前3ヶ月間(その事業所に継続して使用された期間に限り、かつ報酬支払基礎日数が17日未満である月があるときはその月を除く)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額(報酬月額)に基づき、標準報酬月額等級表の等級区分によって定められる(定時決定)。なお、この方法で算出することが困難・著しく不当なときは、保険者等が報酬月額を算定する。定時決定された標準報酬月額は、その年の9月から翌年8月まで有効である。
    • 報酬月額に大幅な変動があったときは、年の途中でも標準報酬月額を改定できる(随時改定)。随時決定された標準報酬月額は、1月から6月までに改定があった場合はその年8月まで、7月から12月までに改定があった場合は翌年の8月まで有効である。
    • 新規採用時等、被保険者の資格を取得した段階で決定する標準報酬月額(資格取得時決定)は、一定期間(月給・週給制等)によって報酬が定められている場合はその報酬の額をその期間の総日数で除した額の30倍を報酬月額とする。日給制、時給制、出来高、請負によって報酬が定められている場合は、被保険者資格取得時前1月間において同様の業務に従事した者が受ける同様の報酬を平均した額となる。資格取得時決定による標準報酬月額は、1月から5月に決定があったときはその年の8月まで、6月から12月までに決定があった場合は翌年の8月まで有効である。
  • 標準賞与額
    • 被保険者の賞与(ボーナス等で3ヶ月を超える期間ごとに支給されるもの)に基づき、千円未満端数を切り捨てて決定する(上限額あり)。※全てを報酬と扱う反面、上限を設定し、賞与額が年度累計額540万円を超えた場合は、超過分について保険料賦課の対象にならない。全給与が賞与として支払われる場合は、年度累計額が540万円を超過した部分については保険料賦課の対象とならない。

保険料の免除[編集]

前月から引き続き一般の被保険者である者が少年院、刑事施設、労役場その他これらに準ずる施設に収容・拘禁された場合、翌月以降該当しなくなる月の前月までの保険料は徴収されない。

育児休業中の一般の被保険者が使用される事業所の事業主が保険者等に申し出たときは、育児休業開始日の属する月から、終了日の翌日が属する月の前月までの期間、当該被保険者に関する保険料は徴収されない。

保険料率[編集]

政管健保が2008年10月より全国健康保険協会に移管され、それに伴い全国一律だった保険料率も医療費に応じて各都道府県を単位に3%~12%の範囲内で協会が決定することとなった。ただ、地域の医療格差のみが反映されるようになっていて、年齢構成や所得水準の違いに起因する都道府県ごとの財政力の差については都道府県間で調整されるので保険料率には反映されない。

実際には2009年9月より各都道府県別の保険料率となり、8.26%(北海道)~8.15%(長野県)と定められた。更にその半年後の2010年3月には全国平均で1.14%の大幅な保険料率引き上げが行われ、9.42%(北海道)~9.26%(長野県)となり、その後も毎年3月に保険料率の引き上げが続いている。2012年度については、10.16%(佐賀県)~9.85%(長野県)となっている。

組合健保の場合も、3%~12%の範囲内で決定するが、これを変更しようとするときは原則として厚生労働大臣の認可を受けなければならない。

退職後の健康保険[編集]

被保険者資格を喪失する前日までに継続して2ヶ月以上(共済組合等は「1年と1日以上」の場合が多い)、同一保険者の健康保険への加入期間を有する者は、退職の翌日から20日以内に住所地を管轄する全国健康保険協会の支部や加入していた健康保険組合・共済組合等に申請する事によって最高2年間引き続き健康保険に加入する事ができる(「任意継続被保険者」「任意継続加入員」「任意継続組合員」などと呼ばれる)。

※「継続して2ヶ月以上」という要件に関しては、原則として同一保険者であるが、加入していた健康保険組合が解散した場合には、保険者が自動的に全国健康保険協会に引き継がれるので「解散前後合わせて継続して2ヶ月以上」ということになる。

家族等も被扶養者として加入する事ができ、要件は基本的に在職中の被扶養者認定の場合と同様であるが、必要な添付書類が異なる。

協会けんぽの任意継続被保険者の被扶養者申請の際に必要な物は、印鑑(被保険者本人が申請書を自筆する場合のみ不要)、身分証明書(前保険証の記号番号がわかる場合にはその物)、課税証明または非課税証明(各自治体によって名称に差異あり。被扶養者(配偶者も含む)がいれば原則として各人につき必要だが、16歳未満・高校生・大学生・各種学校生については不要)、住民票(同一世帯が要件の被扶養者のみ)、仕送りが確認できる書類(仕送りを受けている場合)である。

健康保険組合や共済組合等の場合は要件及び添付書類等が異なっているため、事前に保険者への確認が必要となる。協会けんぽに比べ細かいことが多く、戸籍謄本や高校生の在学証明書が求められることもある。住民票については、世帯全体の証明を求められることが多い。

前年の所得で保険料の決まる国民健康保険と比べて、保険料が割安になる場合がある(その逆に、割安にならない場合もあるため、住所地の市区町村の窓口で保険料(保険税額)を必ず確認した方がよい)。 なお、任意継続の保険料については、事業主負担がなくなるため、本人の全額負担となり、自己の負担する保険料を納付する義務を負う。基本的に天引きの金額の約2倍から2.5倍になる(徴収する保険料の上限を設定している保険者もある)。この場合、将来の一定期間の保険料を前納することができる。各種の届出も事業主経由ではなく自ら行わなければならない。

また、解雇や倒産等、離職の理由によっては国民健康保険の特例対象被保険者に該当し、国民健康保険の方が保険料(税額)が安くなることがあるため、心当たりのある場合は、念のため住所地の市区町村において相談を行った方がよい。

協会けんぽの場合、保険料は初回を除き毎月10日が納付期限となり(土日祝の場合は翌営業日)、未納であればその翌日から資格喪失となる。資格喪失する条件として滞納喪失以外に、死亡・就職がある。被扶養者として他の保険に加入したり、国民健康保険の保険料が安いからといって切り替えることはできないが、実際のところは保険料の納付を故意に行わないことによって被保険者資格を喪失して国民健康保険に切り替える人も多い(特に4月)。なお、健康保険組合や共済組合によっては任意に資格喪失をすることが可能なところも存在する。

保険料滞納喪失後の保険料納付はできないが、保険者が未納について相当な理由があると認めた場合にはこの限りでない。

しかし、原則地震等により金融機関の機能が麻痺した場合など、天災地変等を理由[* 6]とした未納以外は許容されないので、単純な払い忘れ、勘違い、口座引き落としの場合の残高不足、最寄の金融機関のATMが故障した、などの理由では被保険者資格の復活はありえないものとされている。これは、任意継続制度があくまでも任意による継続であるため、保険料納付の他各種届出等の事務を自ら行い、その結果(保険料の納付忘れ等の結果)はすべて自己に帰属するという一種の自己責任の法律論による。自己の責任または意思において資格が喪失したので、審査請求等法的な不服申し立ては正義に反し認められない。

なお、総務省に対しあっせんの申し立てがあったため、1回目についてに資格の復活を認めやすくしている保険者もあるが、だからといって必ず認められるものではないことに留意すべきである。

納付後、同月内に健康保険(協会けんぽ、共済組合、健康保険組合、国民健康保険組合(厚生年金適用事業場に限る))の被保険者となった場合には後日還付される(※ただし資格取得月を除く)。

「特例退職被保険者」制度を設けている健康保険組合がある。厚生年金受給権がある者で、被保険者期間が20年以上または40歳以降10年以上ある者が満75歳まで継続加入できる。特例退職被保険者の保険料は全員同一で、「前年9月末の現役被保険者の標準報酬月額の平均の半分」等を元に算出される。任意性の保険であるため、保険料納付や資格喪失等に関しては任意継続被保険者と共通している。但し、この制度を持つ健康保険組合は全国約1,500組合のうち70弱の比較的大規模な組合だけである。現役世代を圧迫するとして廃止をしたり廃止の検討をしている組合が出てきている。

受給権の保護[編集]

保険給付を受ける権利は、譲り渡し担保に供し、又は差し押さえることができない。租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金品を標準として課することができない。なお、健康保険法には未支給の給付についての規定がないので、被保険者が未支給給付を残して死亡した場合は、民法の原則に従い、受給権者の相続人が未支給給付の請求権者となる。

給付制限[編集]

被保険者又は被保険者であった者が、自己の犯罪行為により、又は故意に給付事由を生じさせたときは当該給付事由に係る保険給付は行われない(絶対的給付制限)。ただしこの場合であっても、埋葬料(埋葬費)については支給する扱いとなっている。

被保険者が闘争、泥酔又は著しい不行跡によって給付事由を生じさせたときは、当該給付事由に係る保険給付はその全部又は一部を行わないことができる(相対的給付制限)。保険給付を受ける者が正当な理由なく文書その他の物件の提出若しくは提出命令に従わず、又は職員の質問若しくは診断に対し答弁もしくは受診を拒んだときも同様である。

被保険者又は被保険者であった者が、正当な理由なく療養に関する指示に従わないときは、保険給付の一部を行わないことができる(一部制限)。

保険者は、偽りその他不正行為により、保険給付を受け、または受けようとした者に対し、6月以内の期間を定め、その者に支給すべき傷病手当金又は出産手当金の全部または一部を支給しない旨の決定をすることができる。ただし、偽りその他不正行為があった日から1年を経過したときは、当該給付制限を行うことはできない。

不服申立て[編集]

被保険者の資格、標準報酬又は保険給付に関する処分に不服がある者は、社会保険審査官に対して審査請求をすることができる。この審査請求は処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内にしなければならない。また、被保険者の資格または標準報酬に関する処分に対する審査請求は、原処分のあった日の翌日から起算して2年を経過したときは、することができない。

社会保険審査官の決定に不服がある者は、社会保険審査会に対して再審査請求をすることができる。この再審査請求は、社会保険審査官の決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して60日以内にしなければならない。また、審査請求をした日から60日以内に決定がないときは、審査請求人は、社会保険審査官が審査請求を棄却したものとみなして、社会保険審査会に再審査請求をすることができる。いずれの場合であっても、当該再審査請求は口頭で行うことができる。

保険料の賦課もしくは徴収の処分又は滞納処分に不服がある者は、社会保険審査会に対して審査請求をすることができる。

以上の処分については、当該審査請求・再審査請求に対する社会保険審査会の裁決を経た後でなければ、取消の訴えを提起することはできない(審査請求前置主義)。

審査請求・再審査請求は、時効の中断に関しては裁判上の請求とみなされる。

時効[編集]

保険料を徴収し、又はその還付を受ける権利及び保険給付を受ける権利は、2年を経過したときは時効により消滅する(健康保険法第193条)。これは金銭の徴収・給付にかかる規定であるので、療養の給付のような現物給付については消滅時効の適用はない。保険料の納入の告知又は督促は、時効中断の効力を有する。

事業主から被保険者に還付すべき保険料過納分の被保険者の返還請求権については、健康保険法の適用はなく、民法の一般原則に従って10年の消滅時効にかかる(民法第167条)。

他の保険制度と健康保険の関係[編集]

疾病や負傷が業務や通勤を原因とするために労働者災害補償保険(労災保険)または公務災害の補償が適用される場合、および介護保険の適用により支給がなされる場合には、同一の疾病・負傷については健康保険が適用されずその支給が全額カットされる場合がある。例えば傷病手当金はその全額が支給されない(健康保険法第55条)。

少年院、刑事施設、労役場その他これらに準ずる施設に収容・拘禁された被保険者又は被保険者であった者については、疾病、負傷、出産につき、原則として保険給付は行われない(公費治療との調整)。ただしこの場合でも被扶養者に係る保険給付は行われる。また、結核精神病原爆症等、公費負担治療の対象となる疾病、負傷については、公費負担の範囲内で健康保険の保険給付は行わないこととされている。ただ、健康保険と公費負担が競合する場合、一般的には健康保険を優先して給付し、自己負担分について公費負担が行われている。

健康保険と、その他の保険・医療制度(労災、公務災害、介護保険、公費治療、公費負担治療)との関係については、いずれかの制度を選択したり、支給調整が行われると言った性格のものではなく、その他の保険の一からの給付を受けなければならない。例えば労災であるにも関わらず健康保険での給付を受けると、その給付相当額を一旦保険者に返納した上で労災の申請をしなければならなくなる(労災は申請してもすぐには支給されない)ので、二度手間でありかつ一時的にでも療養費等の自己負担をすることになる。なお、「労災隠し」の問題については労働災害の項目を参照のこと。

第三者行為との関係[編集]

疾病や負傷が交通事故などの第三者行為を原因とする場合、ただちに健康保険が適用できないと言うわけではない。第三者行為であった場合には、その給付した金額を限度として、第三者行為の相手方に対する損害賠償請求権を代位取得することになる(健康保険法第95条)。第三者行為の場合には、健康保険による給付が、疾病等の完治や症状固定などにより終結するまでは、相手方との示談等を行うべきではない(健康保険者からも指導がある)。それは、被害者と相手方との示談等(口約束を含む)を先に行なうことにより、被害者の持つ損害賠償請求権が確定(限定)されてしまい、健康保険が代位取得できる賠償請求権も限定されてしまうからである。訴訟外の先行賠償により(自動車保険の人身傷害など)賠償額を受領し、または訴訟等により賠償額が確定しその受領を受けた場合には、その受領額を限度として健康保険からの給付に対して支給調整が行われる。(健康保険法第57条)

なお、前述のような、第三者行為と各種保険との関係については、労災保険、公務災害による保険、介護保険においても同様である。

医療機関によっては交通事故など(第三者行為)による負傷等の場合に健康保険での受診の拒否を主張する場合があるが、その拒否には法的根拠はない。健康保険を適用せずに自由診療とすれば、医療機関にとっては同じ診療等であっても診療報酬が比較的自由に決められるため(自賠責または自動車保険に請求する場合、健康保険適用の場合の200%程度になる)、そのような主張は、単に医療機関の収入と経営上の問題である。ただし、労災保険、公務災害に関する保険、介護保険が適用可能な場合には健康保険適用の拒否には法律上の根拠があることになる。

交通事故と健康保険[編集]

交通事故の場合も労働災害等に該当しない限りは健康保険の対象になる(労災等の対象になる場合は、労災等の扱いが優先され、健康保険は適用されない)。この場合、加害者がある場合(下記参照)は市町村の国民健康保険課・国民健康保険組合・企業健康保険組合や全国健康保険協会などの保険者に第三者行為による傷病届を遅滞なく提出しなくてはならない。用紙は、各保険者窓口で用意されている。また、医療機関窓口では普通の健康保険と同様に本人負担金分をいったん支払わなければならない。

交通事故が自身のみの単独事故ではなく相手がある場合には、レセプト(診療報酬請求書)に「第三者行為」であることを記載しなければならない。この記載がないと、保険者は負担した医療費を交通事故の過失割合に応じて、加害者に請求することができない。

また、勝手に示談等を行ってしまうと健康保険からの給付を受けられなくなる場合があるため、事前に保険者へ連絡を行った方がいい。

医療機関の事情[編集]

健康保険利用の利点

  • 交通事故は手続きが煩雑で利害関係も複雑であり、患者がトラブルを起こすと保険会社によっては支払いが滞ったり遅れる場合がある。その点、健康保険を使うと通常の診療報酬と同様に保険者から遅滞なく支払われる。

健康保険利用の難点

  • 健康保険を利用されると治療費全体が低額に抑えられてしまう。医療機関を経営する立場から言えば、高収入を見込める自由診療を望むのは当然のことである。また、手続きなど各種にかかる手間ほど収入にならないため医療機関の治療への熱意を奪うことも難点の1つに挙げられる。

患者の事情[編集]

健康保険利用の利点

  • 自動車賠償責任保険(自賠責)の上限が120万円までなので、入院費などで上限を超える治療費がかかり、相手が任意保険に加入していない場合被害者側の過失が大きい場合などは、健康保険を利用した方が被害者としての自己負担を抑えられる。

健康保険利用の難点

  • 自由診療による治療は健康保険での治療より各種の治療制限が少ない。また自由診療は設定額が高額なため、健康保険と同様の治療制限で一部治療費が削られた場合でも治療費総額で補填が利きやすい。被害者である患者は、その自由診療のメリットである過分な初期医療行為を受けられない事になる。

保険会社の事情[編集]

健康保険利用の利点

  • 保険会社(加害者)側としては、健康保険を利用する事で自由診療より賠償金総額を低く抑えることが出来る。

健康保険利用の難点

  • 患者の回復が思わしくない場合、患者・医療機関・保険会社3者の間で訴訟に発展することがある。これは自由診療でも同様に起こる事であるが、過分な初期医療行為を受けられない分だけその可能性が高まる。

保険者の事情[編集]

健康保険利用の利点

  • 被保険者へのサービス向上につながる。

健康保険利用の難点

  • 協会管掌保険・健康保険組合や一部国民健康保険の保険者は、任意保険未加入加害者への請求ができない場合や請求のコストがかかるため、健康保険を交通事故には使用して欲しくないと考えている。

鍼灸治療と健康保険[編集]

マッサージ柔道整復師も健康保険で治療を受けられる。

ただし、鍼灸施術は点数化された「療養」ではなく「療養費」に分類される。これは保険医療機関以外の医療機関(鍼灸院、接骨院など)において医療行為を受けた場合に、患者自身が治療費全額を負担したのち、自己負担分を除いた額を保険者に請求する(償還払い)ものである。しかしながら、慣例として鍼灸院による代理請求(受領委任)が行われていることがあるが、これは本来は禁じられている。保険点数化した「療養」とは本来別のものであるため、実費との併用が認められる。

また、この受領委任払いに関しては、医師からの神経痛リウマチ腰痛頚肩腕症候群頸椎捻挫などの適応疾患である旨の診断結果を記載した同意書またはこれに準じた診断書の交付が慣例となっている。これにより保険者の支払いがスムーズに行われる場合が多いが、前述の通り法制度上は認められていない。

また、マッサージ施術に関する同意書は、「関節拘縮」「筋麻痺」など「症状」に対する施術を同意する旨の同意書が一般的である。 両者ともに、認められる施術期間は3ヵ月で、それを越える場合は改めて再同意を得ることが慣例となっている。しかしながら、これも鍼灸業団と保険者との申し合わせであり、法制度上は認められていない。

保険診療の問題点[編集]

  • 保険証を使っての治療全般に言えることであるが、健康保険証不正使用による診療費(療養費)詐欺問題がある。例えば、従業員・医療従事者や現在来院していない患者の健康保険証を使用しての患者数水増しである。また国家資格無免許者の治療行為による不正請求が問題視されている。

療育費の受領委任払い[編集]

療育費は、歴史的事情により柔道整復師施術所受領委任払いが認められている[1]。 しかし裁判所は「受領委任払いは,保険者において施術の内容や額等につき被保険者から確認することができないまま施術者より請求がなされることから,不正請求や業務範囲を逸脱した施術を見逃す危険性が大きいといわざるを得ない[1]」と判断しており、実際に接骨院において不正請求が後を絶たない。

平成20年、日本郵船健康保険組合は「真にやむを得ない事情[* 7]」がある場合を除き、柔道整復療養費を原則不支給とする方針を打ち出した。全国柔整鍼灸協同組合の理事は、この対応に鍼灸柔整新聞にて「柔整業界は毅然と対応すべきだ、一致団結して難局打開を」と提議している[2]

2012年、厚生労働省は社会保障審議会の医療保険部会に柔道整復療養費検討専門委員会を設置した。 委任払いの存続を含め、2012年度の柔道整復療養費の改定について議論が進められる予定である [3]

外国の医療保障制度[編集]

ドイツは世界で初めて公的医療保険制度(疾病保険)を導入した国として知られるが、ヨーロッパの先進諸国では、加入者の範囲や保険料の高低、税金の投入率等は様々であるがほとんどの国で公的医療保険制度がある。

先進国で例外的なのがアメリカとイギリスである。アメリカ合衆国の公的医療保険制度はメディケアと呼ばれる高齢者対象の制度で、高齢者以外は自由診療である。そのため、医療費の窓口負担は非常に高額で、多くの国民は民間保険会社の医療保険に加入しているが、加入者でさえ医療費による破産が多い。また、医療保険未加入者は4000万人以上である。このような状態を脱するために、公的な医療保険の導入などを公約に2009年に就任したオバマ大統領が、公約に沿って2010年に国民皆保険制度の導入を進める法律(完全実施は2014年以降)が成立させたが、各州より保険金を強制徴収する点は憲法違反であるとの提訴が相次ぎ、実際、フロリダ地裁では違憲判決が出るなど実効性が疑問視されている[4]

イギリスはNHS(国民保健サービス)と呼ばれる租税を財源とした医療制度を実施しており、社会保険ではないのが特徴である。

外国で病気やけがで医療機関を受診する場合[編集]

外国では日本の健康保険は使えないが、外国でけがや病気になって現地の医療機関を受診した場合、国外で支払った医療費について、帰国してから加入している保険者に請求することのできる海外療養費という制度がある。ただし、手続きには診療内容明細書(診療の内容、病名・病状等が記載された医師の証明書)と領収明細書(内訳が記載された医療機関発行の領収書)、およびこれの和訳文が必要となる上、健康保険から支給される金額は日本での同様の病気やけがの医療費(標準額)と支給決定日の外国為替換算率を基準に算定されるため、外国でかかった医療費が高額な場合は健康保険から戻される割合が低いことがある。

また、救急車代(外国では基本的に救急車は有料)などは対象にならないことや、一時的に医療費を立替払いする必要が生じるため、海外旅行傷害保険を契約(クレジットカードによっては標準でセットされていることも多い)しておくと、医療費の請求を保険会社に回すことができ、主要国では現地での日本語によるサポートが受けられることが多い。海外旅行傷害保険から医療費が保険金の形で降りても、健康保険の海外療養費の支給額が減額されることはないとのこと[5]

脚注[編集]

  1. ^ 業務上の疾病等については労災保険の対象となる。業務上か業務外かはっきりしない場合は、一応業務上として取り扱い、最終的に業務外と判断された場合はさかのぼって健康保険を適用する。
  2. ^ 保険医療機関として指定を受けた病院は、保険者を2,3に限定してその被保険者・被扶養者のみを診療することはできない。
  3. ^ 個人開業の保険医療機関(病院及び病床を有する診療所を除く)は、その指定の効力を失う日前6ヶ月から同日前3ヶ月の間に、別段の申出をしないときは、保険医療機関等の指定の申請(更新申請)があったものとみなされる(指定申請手続きの簡素化)。
  4. ^ 単に「被保険者」といった場合、健康保険法の条文上では4種類すべての被保険者を指すため、条文上「被保険者(日雇特例被保険者、任意継続被保険者及び特例退職被保険者を除く)」という表記を簡略化してある。
  5. ^ 条文上は「3万円を超えない範囲内で保険者が定める」となっているが、現在は一律3万円となっている。
  6. ^ 大きな被害が発生した地震などの際に厚生労働省から、被保険者からの申し出により、その資格の復活を認めるよう通知が保険者に出される。最近では新潟県中越沖地震2007年)、岩手・宮城内陸地震2008年)、宮崎県における口蹄疫の流行2010年)の際に出された。
  7. ^ 健康保険法第87条1項。医療機関が多数存在する現代では病院にかかれない事情はほとんど無いのではないかとの判断。日本郵船健保組合担当者は朝日放送ムーブ!」(平成21年2月10日放送)の取材に対し、第87条1項を根拠に『残業して接骨院のレセプトを調べていましたが、調べれば調べるほど「マッサージ代わりに通っていた」など不正とわかるものばかりなので、社保労務士の資格を持つ常任理事と相談してこのような処理を決断した。』とコメントしている。

出典[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]