雇用
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雇用(こよう。雇傭)とは、当事者の一方(被用者)が相手方(使用者)に対して労働に従事することを約し、使用者がその労働に対して報酬を与えることを内容とする契約。雇用する側は雇い主(やといぬし)・使用者(しようしゃ)、雇用される側は被用者(ひようしゃ)・使用人(しようにん)・従業員(じゅうぎょういん)などと呼ばれる。また、両方の意味で使われる言葉として雇用者(こようしゃ)・雇い人(やといにん)というものもある。日本の民法では典型契約の一種とされる。
日本の民法では「雇傭」の字句が用いられてきたが、平成16年民法改正による民法現代語化の際に「雇用」に改められた。
民法上の雇用契約は請負や委任など労務供給契約の一種と位置づけられるが、今日では労働の従属性の観点から労働法領域において「労働契約」として再構成されており、後述のように労働契約については民法の特別法である労働法の諸法(労働契約法・労働基準法・労働組合法など)による法的規整を受けるため、民法上の雇用の規定は大きな修正を受けている[1][2][3]。国家公務員や地方公務員あるいは使用者が同居の親族のみを使用する場合を除いて、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことを内容とする契約には2008年に施行された労働契約法が適用されることになる(労働契約法第19条)。
「労働契約」も参照
目次 |
[編集] 概説
[編集] 雇用の意義
雇用は被用者が使用者に対して労働に従事することを約し、使用者が被用者の労働に対して報酬を与えることを約することを内容とするもので、その法的性質は諾成・有償・双務契約である(民法第623条)。
雇用契約は請負や委任と同様に他人の役務を利用することを内容とする労務型契約(労務供給契約)の一種である[4][5]。
伝統的には一定の事務処理を目的として相手方の判断に委ねるものが委任であり、雇用は労務そのものが目的となっている点で両者は異なるとされたが、出来高払制の労働のように区別が困難な場合もあるとされる[6][7]。
そもそも労務供給契約は第一に雇用の機会という点では企業側にイニシアチブがあり(労働市場における経済的従属性)、第二に企業組織の下では個々の労働は使用者の指揮命令と管理によって他律的に決定され(人的従属性)、第三に企業の組織化の進展により個々の労働関係は集団的・画一的に処理されるとともに様々な企業秩序による拘束がある(組織的従属性)など従属的地位に立つとされる[8]。このようなことから近時の学説では労働の従属性という観点を捉え、雇用・委任・請負とは異なる観点から、従属的労働関係たる「労働契約」という契約類型が別個に構成されるに至っている[9][10]。
なお、経済学においては雇用(賃労働)は労働力の売買であると観念されるが、法学においては独立した存在の物を客体とする契約としての売買や交換とは異なり、雇用は労働者の人格と不可分に結びついている契約であるという点が特に重視される[11](労働法による修正も参照)。
[編集] 労働法による修正
民法での雇用は、雇い主と労働者とが対等の地位にあるとの前提のもとに、それぞれ自己の自由意志によって締結される契約である。これは日本の民法がブルジョワ市民革命としてのフランス革命の精神に則って編纂されたフランス民法典(ナポレオン法典)の影響を大きく受けた市民社会モデルを想定しているためである。
しかし、労働者が生産手段を有する資本家に対して自らの労働力を時間を決めて提供し賃金を得るという雇用の本質の関係上、実際には労働者は事業主に対して経済的・社会的に従属的地位に立たされることになる[12][13]。そのため、労働法の分野では契約自由の原則に大きな修正が加えられる必要を生じ、国家は社会保障の観点から労働基準法などの各種労働法規を立法し労働者の保護を図っている[14]。その結果、多くの労働契約には労働契約法・労働基準法・労働組合法など労働法の規定が適用されるため民法の規定が適用されることはほとんどない[15][16]。なお、家事使用人は労働基準法が適用されない典型例であるが(労働基準法第116条第2項)、2008年施行の労働契約法は「事業」を労働契約の要件にしておらず労働契約法については家事使用人にも適用がある[17]。
民法の規定は労働者側からの退職に民法第627条が適用されるなど補充的に機能する場合もあるが、退職に関する事項ついては労働基準法89条3項によって就業規則の必要的記載事項とされていることもあり、退職についても実際には就業規則やそれに基づいて定められる個々の労働契約の定めによることとなる(多数説によれば民法第627条は任意法規であるとするが反対説もある[18])。以上のように労働法による大きな修正を受けてはいるが、理論上、民法の雇用の規定は労働法の基礎となる一般的規定としての意味を有する[19]。
[編集] 雇用の成立
民法上、雇用契約は諾成契約であり不要式契約である[20]。ただし、労働基準法により一定の労働条件につき明示義務が定められている(労働基準法15条1項)。なお、労務者の募集広告は申込みの誘引にすぎない[21]。
[編集] 雇用の効力
[編集] 被用者の義務
- 労務給付義務
- 労働者は使用者の承諾を得なければ自己に代わって第三者を労働に従事させることができない(第625条2項)。この規定に違反して第三者を労働に従事させたときは、使用者は契約の解除をすることができる(第625条3項)。
- 付随的義務
[編集] 使用者の義務
- 報酬支払義務
- 雇用契約では第623条により使用者は労働者に対して労働の報酬を与えることを約することを内容としているので報酬支払義務を負う。
- 付随的義務
- 契約上・信義則上の安全配慮義務などを負う。
[編集] 雇用における差別禁止
日本国憲法第14条は、「すべての国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は問地により、政治的、経済的または社会的関係において、差別されない。」と規定している。世界人権宣言も法の下の平等ト全ての差別の禁止をもとめ、国際人権規約も自由権規約において差別の唱道の提唱の禁止や差別からの保護を規定し、社会権規約は公正で好ましい条件で職業を得る権利を規定している。日本においては、性別による差別禁止の観点から、『雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律』が制定された。しかし、国際労働機関が1958年に採択した『雇用及び待遇における差別待遇に関する条約(第111号)』[22]を批准していない。この条約は、国際労働条約の中でもより一般的な人権確保を目的とする主要条約とされ、雇用において「人種、皮膚の色、性、宗教、政治的見解、国民的出身、社会的出身等に基いて行われるすべての差別、除外及び優先」の禁止を締約国に求めている。なお2011年6月現在での批准国は169カ国である。
[編集] 脚注
- ^ 内田貴著 『民法Ⅱ 第3版 債権各論』 東京大学出版会、2011年2月、267頁
- ^ 遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法5 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、188頁
- ^ 窪田隼人・横井芳弘・角田邦重著 『現代労働法入門 第3版』 法律文化社〈現代法双書〉、1995年、260-265頁
- ^ 川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、278頁
- ^ 遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法5 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、186頁
- ^ 遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法5 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、186頁
- ^ 我妻栄・有泉亨・川井健著 『民法 第二版 2 債権法』 勁草書房、2005年4月、339頁
- ^ 窪田隼人・横井芳弘・角田邦重著 『現代労働法入門 第3版』 法律文化社〈現代法双書〉、1995年、260-265頁
- ^ 遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法5 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、186頁
- ^ 我妻栄・有泉亨・川井健著 『民法 第二版 2 債権法』 勁草書房、2005年4月、339頁
- ^ 来栖三郎著 『契約法』 有斐閣〈法律学全集21〉、1974年1月、412頁
- ^ 遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法5 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、187頁
- ^ 窪田隼人・横井芳弘・角田邦重著 『現代労働法入門 第3版』 法律文化社〈現代法双書〉、1995年、262頁
- ^ 遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法5 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、188頁
- ^ 川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、278-279頁
- ^ 来栖三郎著 『契約法』 有斐閣〈法律学全集21〉、1974年1月、419頁
- ^ 内田貴著 『民法Ⅱ 第3版 債権各論』 東京大学出版会、2011年2月、268頁
- ^ 我妻栄・有泉亨・川井健著 『民法 第二版 2 債権法』 勁草書房、2005年4月、288頁
- ^ 来栖三郎著 『契約法』 有斐閣〈法律学全集21〉、1974年1月、419頁
- ^ 来栖三郎著 『契約法』 有斐閣〈法律学全集21〉、1974年1月、421頁
- ^ 来栖三郎著 『契約法』 有斐閣〈法律学全集21〉、1974年1月、421頁
- ^ 差別待遇(雇用及び職業)条約(第111号)
[編集] 関連項目
- 契約 - 労働契約 - 労働契約法
- 資本家 - 経営者 - 使用者 - 管理職 - 上司 - 労働者
- 労働法
- 使用者責任
- 正規雇用 - 非正規雇用
- 懲戒
- 免職 - 諭旨免職 - 懲戒免職
- 解雇 - 諭旨解雇 - 懲戒解雇
- 退職 - 会社都合退職 - 自己都合退職
- リストラ - 整理解雇 - 退職強要 - 不当解雇
- 労働力調査 - 雇用状況や失業率などを調査
- トライアル雇用
- ホワイトカラーエグゼンプション
- 治安
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