雇用

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雇用(こよう、雇傭、Employment)とは、当事者の一方(被用者, Employee)が相手方(使用者, Employer)に対して労働に従事することを約し、使用者がその労働に対して報酬を与えることを内容とする契約

雇用する側は雇い主(やといぬし)・使用者(しようしゃ)、雇用される側は被用者(ひようしゃ)・使用人(しようにん)・従業員(じゅうぎょういん)などと呼ばれる。また、両方の意味で使われる言葉として雇用者(こようしゃ)・雇い人(やといにん)というものもある。

雇用者・雇用主を見つけるためには職業紹介事業求人広告求人情報誌などを使用する。キャリア・コンサルタントによるエージェントも存在する。

雇用と経済[編集]

雇用政策[編集]

雇用政策は、

  1. 政府が職業訓練の実施・雇用機会の創出によって失業を減らす「積極型政策」
  2. 失業給付を通じた生活保障という形で失業者の所得を手当てする「消極型政策」

に大きく分かれる[1]。日本の「積極型政策」の例として「雇用調整助成金」や公共投資を通じた雇用拡大策が挙げられる[1]

1990年代後半から日本の「積極型」雇用政策は、雇用の維持から「雇用の流動化」へ舵を切っている[2]。日本の「雇用の流動化」の例として転職先に年金を移行できる年金のポータブル化、職業斡旋・職業訓練の拡充、職業紹介・人材派遣に関する規制緩和、パートタイマーの待遇改善などが挙げられる[2]

賃労働[編集]

賃労働(Wage labour, wage labor)とは、従業員と雇用者の関係についての社会経済学的な関係をあらわし、従業員が公的・非公的な契約により労働を雇用主に販売している状況をいう。これらの取引の多くは労働市場にてなされ、その賃金は市場にて決定される[3][4]。賃金支払いと引き替えに、従業員の成果物は職務上の成果となり雇用主の所有物となる。例外としては知的財産で、米国では例外的に従業員の発明した特許権はその発明者個人に帰属する。賃労働者はこのようにして雇用者に労働力を販売して収入を得ている。

OECD諸国のような現代の混合経済社会では、こういった形の労働が現在の主流である。多くの国では、賃労働の設計はCEO・専門的労働者・専門エージェントという階級制度と結びついているため、「賃労働」は非熟練労働者・肉体労働者が担うものとみなされている。

ワーキングプア[編集]

雇用につくことで貧困を回避できるいう保障はなく、国際労働機関(ILO)は世界の40%の労働者が貧困状態にあり、一日あたり2ドルの絶対貧困線以下では家族を養うのに必要な収入を得られていないとしている[5]。例えばインドでは、慢性的貧困人口の多くは正規雇用により賃金を得ているが、それらの仕事は安全でなく収入が低いため、リスクを避けて富を蓄積できる機会がない[5]

この問題は、雇用機会労働生産性について、ふたつとも上昇させるのが困難である点に起因しているとされる[5]国連社会開発研究所(UNRISD)によれば労働生産性の向上は雇用創出に負の影響を与えるという。労働者あたり1%の生産性向上による雇用喪失は、1960年代では-0.07%であったが、今世紀初頭には-0.54%に増大した[5]。雇用創出と生産性向上(長期的に高賃金に繋がるような)のふたつが、貧困解決の道である。生産性向上なしの雇用増加はワーキングプア人口の増加に繋がるため、そのため一部の専門家らは労働市場政策での「量ではなく質の創出」を訴えている[5]。それは高い生産性が東アジアの貧困を減らすことに貢献した点に着目したものであるが、その負の側面も現れ始めてきた[5]。例えばベトナムでは、生産性向上が続いている間も、雇用創出は低調であった[5]。このように生産性向上は常に賃金向上をもたらすとは限らず、米国では1980年代から生産性と賃金のギャップが開き続けている[5]

英国のシンクタンク海外開発研究所en:Overseas Development Institute)は、雇用創出による貧困削減について経済セクター別の違いのデータを示した[5]。その中では24の事例が示されており、そのうち18で貧困を削減できている。この研究では、失業削減において他の業種(製造業など)の状況が重要になってくると示された[5]。生産性向上によって最も雇用創造をもたらす業種は、サービス業であった。農業部門については、他の業種が苦境に至っているときの雇用的・経済的バッファーとしてのセーフティネットになっていた[5]

成長と雇用と貧困(Growth, employment and poverty)[5]
事例数 農業部門での雇用増加 工業部門での雇用増加 サービス業での雇用増加
貧困率が減少している成長事例 18 6 10 15
貧困率が減少していない成長事例 6 2 3 1

雇用と法[編集]

オーストラリア[編集]

オーストラリアでの雇用は2009年からはen:FairWork Act法で定められている[6]

米国[編集]

スウェーデン[編集]

スウェーデンの法では[7]、雇用は以下の三タイプに分類される。

  • 試験雇用(Test employment,swe: Provanställning):雇用主は従業員を最大6ヶ月試雇できる。この雇用は何時如何なる理由でも自由に終了できる。このタイプの雇用はその雇用者・雇用主のペアあたり一度だけしか締結できない。たいていはこの試験雇用の後に、下述の有期雇用か通常雇用のオファーをする。
  • 有期雇用(Time limited employment, swe: Tidsbegränsad anställning):雇用主は従業員を有期雇用する。その雇用者・雇用主のペアにおける雇用契約期間が2年を超えると、自動的に通常雇用とみなされる。
  • 通常雇用(Normal employment,swe: Tillsvidareanställning / Fast anställning):期間を定めない(定年等を除いて)雇用契約である。この雇用を終了できるのは個人上の理由(犯罪などの特別な理由に限る)または業務の枯渇(lack of work tasks, swe: Arbetsbrist)、たいていは会社収益の悪化などの事項で終了される。契約解除には1-6ヶ月の予告期間が必要。勤続年数の短い者から解雇する規定がある[8]。解雇後にまた同職を募集する際には解雇者を優先して採用する義務がある[8]

スウェーデンには最低賃金法は存在しない。その代わり労働組合や雇用者団体らにより、最低賃金や労働条件のなど協定が結ばれている。

日本[編集]

日本の民法では典型契約の一種とされる。日本の民法では「雇傭」の字句が用いられてきたが、平成16年民法改正による民法現代語化の際に「雇用」に改められた。なお、従属的労働関係に着目した「労働契約」という概念が存在するが、委任契約や請負契約が「労働契約」と評価されることもあり、「労働契約」と「雇用」とは異なる観点から類型化されている[9][10]労働契約#労働契約の意義も参照)。

雇用の意義[編集]

雇用は被用者が使用者に対して労働に従事することを約し、使用者が被用者の労働に対して報酬を与えることを約することを内容とするもので、その法的性質は諾成・有償・双務契約である(民法第623条)。

雇用契約は請負委任と同様に他人の役務を利用することを内容とする労務型契約(労務供給契約)の一種である[11][9]

伝統的には一定の事務処理を目的として相手方の判断に委ねるものが委任であり、雇用は労務そのものが目的となっている点で両者は異なるとされたが、出来高払制の労働のように区別が困難な場合もあるとされる[9][10]

そもそも労務供給契約は第一に雇用の機会という点では企業側にイニシアチブがあり(労働市場における経済的従属性)、第二に企業組織の下では個々の労働は使用者の指揮命令と管理によって他律的に決定され(人的従属性)、第三に企業の組織化の進展により個々の労働関係は集団的・画一的に処理されるとともに様々な企業秩序による拘束がある(組織的従属性)など従属的地位に立つとされる[12]。このようなことから近時の学説では労働の従属性という観点を捉え、雇用・委任・請負とは異なる観点から、従属的労働関係たる「労働契約」という契約類型が別個に構成されるに至っている[9][10]

なお、経済学においては雇用(賃労働)は労働力の売買であると観念されるが、法学においては独立した存在の物を客体とする契約としての売買や交換とは異なり、雇用は労働者の人格と不可分に結びついている契約であるという点が特に重視される[13](労働法による修正も参照)。

労働法による修正[編集]

民法での雇用は、雇い主と労働者とが対等の地位にあるとの前提のもとに、それぞれ自己の自由意志によって締結される契約である。これは日本の民法がブルジョワ市民革命としてのフランス革命精神に則って編纂されたフランス民法典(ナポレオン法典)の影響を大きく受けた市民社会モデルを想定しているためである。

しかし、労働者が生産手段を有する資本家に対して自らの労働力を時間を決めて提供し賃金を得るという雇用の本質の関係上、実際には労働者は事業主に対して経済的・社会的に従属的地位に立たされることになる[14][15]。そのため、労働法の分野では契約自由の原則に大きな修正が加えられる必要を生じ、国家は社会保障の観点から労働基準法などの各種労働法規を立法し労働者の保護を図っている[16]

その結果、多くの労働契約には労働契約法・労働基準法労働組合法など労働法の規定が適用されるため民法の規定が適用されることはほとんどない[17][18]。なお、家事使用人は労働基準法が適用されない典型例であるが(労働基準法第116条第2項)、2008年施行の労働契約法は「事業」を労働契約の要件にしておらず労働契約法については家事使用人にも適用がある[19]

民法の規定は労働者側からの退職に民法第627条が適用されるなど補充的に機能する場合もあるが、退職に関する事項ついては労働基準法89条3項によって就業規則の必要的記載事項とされていることもあり、退職についても実際には就業規則やそれに基づいて定められる個々の労働契約の定めによることとなる(多数説によれば民法第627条任意法規であるとするが反対説もある[20])。以上のように労働法による大きな修正を受けてはいるが、理論上、民法の雇用の規定は労働法の基礎となる一般的規定としての意味を有する[18]

雇用の成立[編集]

民法上、雇用契約は諾成契約であり不要式契約である[21]。ただし、労働基準法により一定の労働条件につき明示義務が定められている(労働基準法15条1項)。なお、労務者の募集広告は申込みの誘引にすぎない[21]

雇用の効力[編集]

被用者の義務

  • 労務給付義務 - 労働者は使用者の承諾を得なければ自己に代わって第三者を労働に従事させることができない(第625条2項)。この規定に違反して第三者を労働に従事させたときは、使用者は契約の解除をすることができる(第625条3項)。
  • 付随的義務 - 契約上・信義則上の秘密保持義務競業避止義務などを負う。

使用者の義務

  • 報酬支払義務 - 雇用契約では第623条により使用者は労働者に対して労働の報酬を与えることを約することを内容としているので報酬支払義務を負う。
  • 付随的義務 - 契約上・信義則上の安全配慮義務などを負う。

雇用における差別禁止[編集]

日本国憲法第14条は、「すべての国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は問地により、政治的、経済的または社会的関係において、差別されない。」と規定している。世界人権宣言も法の下の平等ト全ての差別の禁止をもとめ、国際人権規約も自由権規約において差別の唱道の提唱の禁止や差別からの保護を規定し、社会権規約は公正で好ましい条件で職業を得る権利を規定している。日本においては、性別による差別禁止の観点から、『雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律』が制定された。しかし、国際労働機関が1958年に採択した『雇用及び待遇における差別待遇に関する条約(第111号)』[22]を批准していない。この条約は、国際労働条約の中でもより一般的な人権確保を目的とする主要条約とされ、雇用において「人種、皮膚の色、宗教政治的見解、国民的出身、社会的出身等に基いて行われるすべての差別、除外及び優先」の禁止を締約国に求めている。なお2013年6月現在での批准国は172カ国である。

脚注[編集]

  1. ^ a b 三菱総合研究所編 『最新キーワードでわかる!日本経済入門』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2008年、84頁。
  2. ^ a b 三菱総合研究所編 『最新キーワードでわかる!日本経済入門』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2008年、85頁。
  3. ^ Deakin & Wilkinson 2005.
  4. ^ Marx 1847, Chapter 2.
  5. ^ a b c d e f g h i j k l Claire Melamed, Renate Hartwig and Ursula Grant 2011. Jobs, growth and poverty: what do we know, what don't we know, what should we know? London: Overseas Development Institute
  6. ^ House of Reps seals 'death' of WorkChoices - ABC News (Australian Broadcasting Corporation)
  7. ^ Lag om anställningsskydd (1982:80)
  8. ^ a b JETRO 2009, p. 15.
  9. ^ a b c d 遠藤浩 & 幾代通 1997, p. 186.
  10. ^ a b c 我妻栄, 有泉亨 & 川井健 2005, p. 339.
  11. ^ 川井健 2010, p. 278.
  12. ^ 窪田隼人 1995, pp. 260-265.
  13. ^ 来栖三郎 1974, p. 412.
  14. ^ 遠藤浩 & 幾代通 1997, p. 187.
  15. ^ 窪田隼人 1995, p. 262.
  16. ^ 遠藤浩 & 幾代通 1997, p. 188.
  17. ^ 川井健 2010, pp. 278-279.
  18. ^ a b 来栖三郎 1974, p. 419.
  19. ^ 内田貴 2011, p. 268.
  20. ^ 我妻栄, 有泉亨 & 川井健 2005, p. 288.
  21. ^ a b 来栖三郎 1974, p. 421.
  22. ^ 差別待遇(雇用及び職業)条約(第111号)

参考文献[編集]

関連項目[編集]