高額療養費

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高額療養費(こうがくりょうようひ)とは、健康保険法等に基づき、日本において保険医療機関の窓口で支払う医療費を一定額以下にとどめる制度である。

概要[編集]

1ヶ月間(同月内)に同一の医療機関でかかった自己負担額を世帯単位で合算し、自己負担限度額を超えた分については保険者(全国健康保険協会公的医療保険組合等)によって支給される。原則としては、保険者に対し高額療養費支給申請書を提出することで自己負担限度額を超えた分について後に支給されるが、保険者によっては支給申請書を提出しなくても自動的に支給される制度を採っていることがあるため保険者に確認が必要である。

部屋代等の特別料金、歯科材料における特別料金先進医療の先進技術部分、自費診療を受けて償還払いを受けた場合における算定費用額を超える部分など、保険外の負担については対象外となる。また保険給付であっても定額制(標準負担額)である入院時の食事療養や生活療養も対象外である。

名称は「高額医療費」「高額医療費制度」ではない(このように間違える人が非常に多いのは、税法において「医療費控除制度」が存在しているからである)。

留意点[編集]

同月内(同月の1日-31日まで)および同一医療機関(ホームドクターと入院転院病院での費用は合算できない)が原則であることに注意しなければならない。同じ病気であっても、入院が月をまたがった場合や、再手術で転院した場合は、高額な費用を負担しても合算されないため、月の自己負担限度額に達せず、支給を受けられない場合がある。すなわち費用のかかる手術や入院を予定しているならば、月の初めからにしたほうがよい。

  • 同月の定義 - 暦月で計算する
  • 多数回該当 - 過去12月以前に既に高額療養費が支給されている月数が3月以上あるかどうかで計算する
  • 同一医療機関の定義
    • 医療機関ごとに区別する
    • 同一院でも歯科とその他の診療科は区別する
    • 同一院でも入院と外来は区別する
    • 診療科ごとに区別する(ただし、2010年3月診療分までの旧総合病院に限る)
    • 院外薬局の場合は、それと対応する病院又は診療所における療養に要した費用と合算する(そのため、薬局の領収証には「どの医療機関のどの診療科の先生」が処方したのか明記されている)

自己負担限度額[編集]

被保険者または被扶養者が同月内に同一医療機関に支払った自己負担額が次の自己負担限度額(高額療養費算定基準額)を超えた場合に、その超えた額が支給される。70歳未満、70歳以上75歳未満、75歳以上で、それぞれ計算方法が異なる。

70歳未満[編集]

  • 上位所得者(健康保険は被保険者の標準報酬月額が53万円以上、国民健康保険は総所得金額の世帯合計額が600万円超):(10割相当医療費-500,000円)×1%+150,000円
  • 一般:(10割相当医療費-267,000円)×1%+80,100円
  • 低所得者(市区町村民税の非課税者世帯等):35,400円

また、高額療養費には多数回該当と呼ばれる区分があり、直近1年以内に高額療養費給付に該当する回数月が3回以上あった場合、4回目以降は自己負担額がさらに減額される。ただし、途中で管掌する保険者が変わった場合、回数の通算はされない。

  • 上位所得者:83,400円
  • 一般:44,400円
  • 低所得者:24,600円

同一世帯で同月内に同一医療機関に支払った自己負担額が21,000円以上となった被保険者や被扶養者が2人以上いる場合は自己負担額を合算して上記の自己負担限度額を超えた場合も払い戻される。ただし、夫婦であっても夫婦ともに被保険者である場合(一方が他方の被扶養者でない場合)には両者の自己負担額は合算されず、また同一世帯であっても健康保険と船員保険後期高齢者医療制度等、異なる保険者・制度間での合算はできない。なお協会けんぽの都道府県支部が変わったにすぎない場合は通算される。

75歳になり後期高齢者医療制度の被保険者となった場合、75歳の誕生月においては、誕生日前の医療費と誕生日後の医療費について、健康保険(国民健康保険)と後期高齢者医療制度でそれぞれ自己負担限度額が適用されるが、平成21年1月からは、この自己負担限度額は個人単位で両制度のいずれも本来額の2分の1の額が適用される。ただし、75歳の誕生日がその月の初日の場合は適用されない。被保険者が後期高齢者医療制度の被保険者となる場合、その被扶養者についても特例の対象となる[1]

70歳以上75歳未満[編集]

外来療養の場合、同月内の自己負担額を個人ごとに合算して、自己負担限度額を超えた場合、その超えた分が支給される。

  • 一定以上所得者(健康保険は被保険者の標準報酬月額が28万円以上、国民健康保険は課税所得145万円以上):44,400円
  • 一般:24,600円(平成26年3月31日までは12,000円)
  • 低所得II(市町村民税非課税者等):8,000円
  • 低所得I(判定基準所得がない者):8,000円

入院診療の場合、同月内の自己負担額が同一病院若しくは同月内の自己負担額を世帯で合算して自己負担限度額を超えた場合、その超えた分が支給される。

  • 一定以上所得者:(10割相当医療費-267,000円)×1%+80,100円
  • 一般:62,100円(平成26年3月31日までは44,400円)
  • 低所得II:24,600円
  • 低所得I:15,000円

同月内の自己負担額を世帯で合算して上記の自己負担限度額を超えた場合(老人保健医療受給者除く)は上記の自己負担限度額を超えた分が支給される。

多数回該当の場合は、以下のとおりとなる。なお、外来のみの月は多数回該当の回数に数えない。

  • 一定以上所得者:44,400円
  • 一般:44,400円(平成26年3月31日までは適用なし)
  • 低所得者:多数回該当の適用がない

75歳以上[編集]

後期高齢者医療制度の高額療養費として支給される(高齢者の医療の確保に関する法律84条、同施行令14条以下)。自己負担限度額は、次の所得区分に基づいて決められ、個人単位を適用後に世帯単位を適用する。また、入院時の窓口での支払いは、世帯単位の自己負担限度額までとなる。

所得区分 外来
(個人単位)
外来+入院
(世帯単位)
課税区分 判定基準 自己負担割合
現役並み所得者 44,400円 80,100円+(医療費-267,000円)×1% 課税 当該年度(4月から7月は前年度)の市町村民税の課税所得(各種控除後の所得)が145万円以上の被保険者(後期高齢者医療で医療を受ける者)及びその被保険者と同一世帯の他の被保険者。ただし、その世帯の被保険者の収入の合計額が、2人以上の場合520万円未満、1人の場合383万円未満であるときは、申請により「一般」の区分となる。 3割
一般 12,000円 44,400円 「現役並み所得者」「低所得者Ⅱ」「低所得者Ⅰ」に該当しない被保険者 1割
低所得者Ⅱ 8,000円 24,600円 非課税 世帯の全員が市町村民税非課税で、「低所得者Ⅰ」に該当しない者。
低所得者Ⅰ 8,000円 15,000円 世帯の全員が市町村民税非課税で、その世帯の各所得が必要経費・控除(年金の所得は控除額を80万円として計算)を差し引いたときに0円となる者。
  • 個人単位:自己負担限度額を超えた一部負担金は、個人ごとに計算して払い戻される。
  • 世帯単位:自己負担限度額を超えた一部負担金(同一月内での外来および入院について世帯の合計額)は、世帯ごとに計算して支給される。

長期高額疾病[編集]

以上の疾患(特定疾患)に係る療養を受ける者については、自己負担限度額は1万円となる。ただし、人工透析を要する70歳未満の上位所得者及びその被扶養者については自己負担限度額2万円(健康保険特定疾病療養受療証の申請・交付・提出要)となる。

血友病、HIV感染者については、自己負担限度額が公費負担となるので、実際には患者の窓口負担はない。

高額介護合算療養費[編集]

前年の8月1日~当年の7月31日までの1年間における、健康保険等の自己負担額と、介護保険の利用者負担額の年間の合計額が著しく高額であるときに、一定の自己負担限度額を超える分が「高額介護合算療養費」として支給される。

年度の途中で保険者が変更になった場合でも合算される。請求は、介護保険の保険者(市町村)が発行する自己負担額の証明書を添えて健康保険等の保険者に対して行い、支給は健康保険等の保険者が行う(費用は割合に応じて保険者間で按分する)。

70歳未満の者の自己負担限度額は以下の通りである。

  • 上位所得者:1,260,000円
  • 一般:670,000円
  • 低所得者:340,000円

70歳以上の者の自己負担限度額は以下の通りである。

  • 一定以上所得者:670,000円
  • 一般:620,000円(平成26年3月31日までは560,000円)
  • 低所得II:310,000円
  • 低所得I:190,000円

高額療養費の現物給付化[編集]

2007年4月より入院療養に対して、2012年4月より外来診療に対して、高額療養費が現物給付化された。従来の制度では3割負担額を支払った後、保険者に高額療養費の申請を行うという形であったが、現在では、70歳未満の被保険者又は70歳以上の低所得者はあらかじめ保険者に高額療養費限度額適用認定証(以下、限度額認定証と略す)の申請を行い、交付された限度額認定証を医療機関に提示することによって、後ほど還付される高額療養費を見越した自己負担限度額のみの支払いで済むようになった。なお、70歳以上で低所得者でない者については限度額認定証の交付は必要なく、通常の診療と同様に70~74歳の者は高齢受給者証、75歳以上の者は後期高齢者医療保険者証を窓口で提示することで、自動的に高額療養費の現物給付が行われる。

申請によって交付された限度額認定証には所得区分項目にA,B,Cの3種類のアルファベットが記されており、自己負担額が分かるようになっている。

所得区分(高額療養費該当月が直近1年以内に1~3回以内の被保険者)

基準については協会けんぽのものであり、他の保険者では異なる場合がある。

  • A…被保険者の標準報酬月額が53万円以上:150,000円+(療養費用-500,000円)×1%
  • B…被保険者の標準報酬月額が53万円未満:80,100円+(療養費用-267,000円)×1%
  • C…低所得者(市区町村民税の非課税者等):35,400円

C区分の適用を受けるためには市区町村長の証明または添付書類が必要である。また、長期入院に該当した場合には入院時の食事標準負担額が減額されることがある。

なお、限度額認定証の交付を受け使用した場合であっても、以下のような場合には支給申請書を提出することによって高額療養費の追加支給を受けられる場合があるので保険者に相談を行った方がよい(以下の例以外にも事例が存在すると思われる)。

  • 限度額認定証の交付を受けた本人が、同月内に転院している場合
  • 既に「多数該当」に該当している状態で入院した・している場合
  • 限度額認定証の交付を受けた本人が、同月内に他の同一医療機関に支払った自己負担額が21,000円以上となった場合
  • 同一世帯において、他の70歳未満の被保険者・被扶養者が同月内に限度額認定証を使用した場合
  • 同一世帯において、他の70歳未満の被保険者・被扶養者が同月内に同一医療機関に支払った自己負担額が21,000円以上となった場合
  • 同一世帯において、70~74歳の被保険者・被扶養者が同月内に医療機関において自己負担額を支払っている場合
  • 区分AやBの限度額認定証を使用したが、その区分でないことが判明した場合(市区町村長の証明や添付書類が必要な場合がある)

具体例[編集]

標準報酬月額が53万円未満の70歳未満の人が、同一の1ヶ月間に同一医療機関の支払った医療費総額(10割相当)が500,000円だった場合(3割負担の人の場合実際に支払った金額は150,000円)。

算定に当たっての基準額
(500,000円-267,000円)×1%=2,330円
+80,100円=82,430円
一部負担金(病院で支払った金額、3割負担の場合)
500,000円×30%=150,000円
高額医療費として支給される金額
150,000円-82,430円=67,570円

なお、事前に手続きをしておけばそもそも病院の窓口で一旦150,000円を支払う必要がなく、自己負担限度額の82,430円を支払うのみで済む(上述の「現物給付化」)。

ちなみに、医療費控除とは異なり、保険金などで補填される金額(民間の医療保険の給付金など)は、高額療養費の算出基準に含まれない仕組みとなっている。

高額療養費貸付制度・委任払い制度[編集]

高額療養費給付を受けるには一度3割負担分を支払わなければならず、還付まで通常数ヶ月かかるが、金銭的な余裕がない場合は、後ほど還付される高額療養費を担保とし融資を受けることができる貸付制度、初めから還付額を見越した自己負担限度額のみの支払いにする委任払制度が利用できる場合がある。保険者によって貸付額が異なっている場合(協会けんぽの場合、支給見込み額の80%が限度)や医療機関の承認が必要な場合があるので制度を利用したい場合は保険者もしくは病院の医事課、医療ソーシャルワーカーのいる医療相談室などで相談すること。

問題点[編集]

治療中に加入保険が切り替わり、被保険者が気づかず自己負担分の上限を超えて医療費を「二重払い」しているケースが発覚している。厚生労働省によると、「保険制度はそれぞれあり、他方の給付状況を見ることができないので、調整は今のところ考えていない」とのこと。医療団体は「この制度の目的は「患者の負担軽減」なのに放置されている」などと批判している[2]

脚注[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]