傷病手当金

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傷病手当金(しょうびょうてあてきん)とは、健康保険法等を根拠に、健康保険、各種共済組合などの被保険者が疾病または負傷により業務に就くことが出来ない場合に、療養中の生活保障として支給する制度である。雇用保険の傷病手当とは名称がよく似ているが、全く異なる制度である。以下では特に記さない限り、健康保険における制度について述べる。

  • 健康保険法について、以下では条数のみ記す。

給付要件[編集]

  • 業務外の事由による傷病であること。
    • 業務または通勤を原因とする疾病、負傷については労働者災害補償保険(労災保険)が適用となり、健康保険は傷病手当金を含め一切適用できない(健康保険は業務外の傷病を対象とする)。
    • 被保険者が5人未満である小規模な適用事業所に所属する法人の代表者であって一般の労働者と著しく異ならないような労務に従事している者については業務上の事由による疾病等であっても健康保険による保険給付の対象とされる(第53条の2)。従来、当面の暫定措置とされていて(平成15年7月1日保発0701002号)、さらに傷病手当金は本措置の対象外であるため支給しないとされてきたが、平成25年の法改正により第53条の2が追加され前述の通知が廃止されたことで、このような場合でも傷病手当金が支給されることとなった。
  • 療養中であること。
    • 健康保険で診療を受けることができる範囲内の療養であれば、実際に保険給付として受けた療養でなくてもよく、自費での診療や、自宅での静養でも支給される。ただし、日雇特例被保険者の場合は、労務不能となった際にその原因となった傷病について療養の給付等を受けていなければならない。
  • 労務に服することができないこと
    • 被保険者(任意継続被保険者を除く)が疾病や負傷により業務に従事できないことを指す。現実に労働不能の体調でなくても、その被保険者が従事している労務に就労できない状態になっていればよい。したがって、休業を要するほどの状態でなくても、通院のため事実上出勤できない場合、症状悪化をおそれて医師が休業させた場合、病原体保有者が隔離収容された場合等は支給される。一方、事業主が休業を命じてもその症状から労務不能と認められない場合、保険範囲外の疾病等の手術をしたために労務不能となった場合、医師の指示のもと半日出勤して従前の労務に服する場合等は支給されない。
  • 休業期間が3日間を超えるとき。
    • 連続する最初の3日間は待期として傷病手当金は支給されない。この3日間に公休日や祝祭日、年次有給休暇取得日が含まれていてもよく、また報酬を受けていたとしても、待期は3日間で完成する。
    • 待期は、就業時間中に労務不能となった場合はその日から、就業時間終了後に労務不能となったときはその翌日から起算する。就業時間が午前0時をはさんで2日にわたる場合は、暦日によって判断し、労務不能となったその日から起算する。
    • 船員保険の場合は、3日間の待期要件は不要である。したがって、休業初日から傷病手当金が支給される。
  • 日雇特例被保険者においては、保険料納付要件を満たすこと。
    • 日雇特例被保険者が傷病手当金の支給を受けるためには、その疾病又は負傷について、初めて療養の給付を受ける日の属する月の前2月間に通算して26日分以上又は前6月間に通算して78日分以上の保険料が、その日雇特例被保険者について納付されていなければならない。

被保険者資格取得前の傷病であっても、資格取得後の療養について上記の要件を満たしたときは、傷病手当金は支給される。傷病手当金の支給を受けようとする被保険者は、申請書に医師又は歯科医師の意見書および事業主の証明書を添付して保険者に提出しなければならない(規則第84条)。一般的な医師の診断書と異なり、保険者指定の支給申請書に証明を要する。その関係から、傷病手当金支給申請書への医師証明料は健康保険が適用される。

なお、健康保険、船員保険においては傷病手当金は絶対的必要給付(要件を満たしたときは保険者は必ず支給しなければならない)であるが、国民健康保険後期高齢者医療制度では任意給付(条例または規約の定めるところにより行うことができる)となっている。

支給額・支給期間[編集]

1日につき標準報酬日額(健康保険法に定める標準報酬月額の30分の1)の3分の2(1円未満の端数を四捨五入。被扶養者の有無にかかわらず)が保険者から支給される(第99条1項)。なお日雇特例被保険者の場合は、保険料納付期間において保険料が納付された日に係るその者の標準賃金日額の各月ごとの合算額のうち最大のものの45分の1に相当する額となる。

同一の傷病事由についての支給期間は、現実の支給開始日から起算して最長1年6ヶ月とされている(第99条2項)。途中でいったん労務に服した後に再度同一の傷病により休業したとしても、延長はされない。一般的には先に年次有給休暇を取得して(賃金が100%保障されるため)、それでもなお休業が続く場合に傷病手当金の受給を始めることになるので、「現実の支給開始日」は年次有給休暇を取得し終わった翌日(年次有給休暇を取得しなかった場合は待期満了の翌日)となる。なお、日雇特例被保険者の場合は支給期間は6ヶ月(結核性疾病の場合は1年6ヶ月)となり(第135条3項)、船員保険の場合は3年となる(船員保険法第69条3項)。

健康保険組合の場合、付加給付として(第53条)、規約で定めるところにより、支給額の上乗せや支給期間の延長がなされる場合がある。

傷病手当金は生活保障のために支給するものであるから、受給中に標準報酬月額が減額改定されても、傷病手当金の支給額を減額することはしない扱いとなっている。一方、傷病手当金を受給しているからといって、被保険者の保険料負担が免除されるわけではない。

傷病手当金を受給中に、別の傷病によりこれについても療養のため労務不能の状態となった場合、後発の傷病により労務不能となった日から起算して4日目から後発の傷病による傷病手当金が支給されるので、結果的には後発の傷病手当金が支給終了するまで支給期間が延長される。ただしこの場合、二重に傷病手当金が支給されるのではなく、一本の傷病手当金というかたちに統合されて支給される。

継続給付の要件[編集]

退職などにより被保険者の資格を喪失した場合でも、その前日(退職の当日)まで1年以上継続して被保険者の資格を有しており、傷病手当金の給付要件を満たしていれば、引き続き傷病手当金の給付を受けることができる(第104条)。受給手続きは在職時の場合と同様であるが、事業主の証明は不要である。

前記の給付要件に準じるほか、次の要件がある。

  1. 退職の当日まで1年以上継続して被保険者の資格を有していること(任意継続中の期間は含まれない)。
  2. 資格喪失時に傷病手当金の支給を受けている、又は受けうる状態にある者(報酬との調整のために支給が停止されている場合を含む)。
    休み始めて3日目に退職した場合、待期は完成するが「支給を受けうる状態」とはならないため、継続給付を受けることはできない。
  3. 在職中、退職日、退職後のいずれも疾病や負傷により業務に従事できないこと。
    退職日当日に出勤の事実がある場合(労務不能と認められない場合)、退職後の傷病手当金給付は受けられない。例え職場への挨拶目的、私物整理、会社関係者との面談だけであっても出勤とされる場合には、給付が受けられないことになる
  4. 支給の除斥期間(暦日で1年6ヶ月経過)を過ぎていないこと。
    資格喪失後の傷病手当金は、資格喪失前後を通算して法定の支給期間が終了するまでの期間支給される。なお、被保険者期間中とは異なり、断続しては受けられないので、いったん支給が打ち切られると、1年6ヶ月の期間中であっても支給が復活することは無い。

傷病手当金は原則として任意継続被保険者には支給されないが、上記の要件を満たす者が任意継続被保険者となった場合には支給される。なお、同一の健保の任意継続被保険者でないと給付しないとする健保組合も一部に存在する。退職後の給付には付加給付が付かないか、または任意継続被保険者であることを要件とする組合もある。また、特例退職被保険者は上記の要件を満たしても傷病手当金は支給されない。

健康保険の被保険者であった者が船員保険の被保険者となったときは、船員保険から給付が行われるので健康保険からは傷病手当金の継続給付は受けることはできず、また選択の余地もない(第107条)。

併給調整・他法との調整[編集]

  • 同一の疾病、負傷について労災保険または公務災害から傷病手当金に相当する給付を受けることができる場合、傷病手当金はその全額が支給されない(第55条1項)。
  • 休業期間中に傷病手当金の金額以上の報酬を得た場合は支給されず、傷病手当金の金額未満の報酬を得た場合は支給調整が行われる(第108条1項)。なお被保険者期間中に老齢年金を受給しても調整は行われない。
    • これは欠勤した日に報酬の全部又は一部が支給される場合の調整規定であり、出勤すればそもそも「労務不能」とならないので支給されない。
  • 同一の傷病により障害厚生年金障害基礎年金との合計)もしくは障害手当金を受けている場合には、傷病手当金は給付されないか、または支給調整により差額支給が行われる(第108条2項、3項)。
    • 同一の傷病により障害基礎年金のみ支給される場合は、傷病手当金は同時に支給される。また同一の傷病によらない障害厚生年金と傷病手当金は、同時に受給できる。
  • 継続給付の受給時老齢厚生年金老齢基礎年金もしくは退職共済年金を受給することができる場合には、傷病手当金は給付されないか、または支給調整により差額支給が行われる(第108条4項)。
  • 労災保険から休業補償給付を受けている健康保険の被保険者が、業務外の事由による傷病により労務不能となった場合、休業補償給付の額が傷病手当金の額に達しないときにおけるその差額部分に係るものを除き、傷病手当金は支給されない。
  • 出産手当金を支給する場合においては、その期間傷病手当金は支給されない(第103条)。もし出産手当金を支給すべき場合において傷病手当金が支払われたときは、その支払われた傷病手当金は、出産手当金の内払いとみなされる。
    • もっとも、出産手当金も傷病手当金も、支給額は「1日につき、標準報酬月額の30分の1に相当する額の3分の2に相当する額」で同額である。
  • 傷病手当金を受給している場合、雇用保険の傷病手当は支給されない。
  • 傷病手当金の支給要件に該当する者が介護休業期間中である場合、傷病手当金は支給される(平成11年3月31日保険発46号、庁保険発9号)。ただし休業期間中に介護休業手当等の名目で報酬と認められるものが支給された場合は、傷病手当金の支給額について調整が行われる。

歴史[編集]

1883年ドイツビスマルク内閣のもとで疾病保険法が成立、最低賃金の半額を最高13週まで傷病手当金として給付するとされた。疾病や負傷による休業手当を主とするものを疾病保険、医療費保障を主とするものを健康保険というが、日本ではこの2つをまとめて健康保険として取り扱ってきた。その端緒は大正2年(1913年)に成立するも、関東大震災による混乱などで、ようやく昭和2年(1927年)になって施行された健康保険法である。当初、支給期間は最長180日とされ、労災保険制度が未整備であったため、労災による休業も対象範囲となった。

平成18年(2006年)の健康保険法一部改正により、その第45条で「標準報酬日額の6割」とされていた傷病手当金の支給額が「標準報酬日額の3分の2」とされた。また、第55条の2では被保険者の資格喪失後も継続して給付を受けられるとされていたが、改正法第104条で1年以上の継続加入が必要とされるようになった。任意継続被保険者については継続して給付を受けている場合を除いては、任意継続被保険者と言う要件のみでの傷病手当金の給付は行われなくなった。但し、前述の退職後給付資格がある場合は別段となる。

少子・高齢化を背景に健康保険財政は非常に厳しく、平成25年1月現在、傷病手当金の支給条件・支給金額・支給期間等の見直しが検討されている。具体的には標準月額報酬の6割から3分の2に引き上げられたものが、元の6割に戻ること等である。外部リンク参照。

関連文献[編集]

外部リンク[編集]