腰痛

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腰痛(ようつう)とは、に痛み、炎症などを感じる状態を指す一般的な語句。

世界における腰痛[編集]

国・地域によって、特に行政・学会の方針・生活習慣が異なる場合は顕著に、腰痛の罹患率は異なる。

欧州[編集]

腰痛の原因は姿勢にあるとの1976年のナッケムソンの指摘以降、欧州では就労中・家事労働中などの予防策が進み、腰痛患者が激減している。

米国[編集]

米国における腰痛患者の多くが原因が特定されていないとされている点について、ナッケムソンは明確に学会の責任を指摘している。

日本[編集]

日本は腰痛が有訴率第一位(もっとも多い症状)であり、日本人の8割以上が生涯において腰痛を経験している腰痛大国である。しかし多くの人々は腰痛を訴えているが、画像診断に異常が見られない患者は疾患として認めらず健常者という扱いとなる。病院では医学とはあまり関わりのない一般的な説明や医師独自の解釈による説明などがなされるものの、実際には腰痛患者の8割は原因が特定されておらず、多くの患者はそのまま放置されている。

腰痛の種類[編集]

主な病名 状態 症状 検査 主な原因
MRI レントゲン
急性腰痛症
ぎっくり腰
筋肉痛、腰椎捻挫 腰痛 確定できない 作業姿勢
重量物を運搬
激しい運動など
腰部椎間板症 椎間板の変形 長時間立つとつらい 必要
椎間板ヘルニア 椎間板が変形により
突出
痛みの増大 痛み
しびれ
排泄障害
(重度の場合)
確定
腰部脊柱管狭窄症 椎間板突出による
脊椎脊柱管の変形
起床時も痛い 痛み
しびれ
麻痺
間欠跛行
排泄障害
(重度の場合)
確定
変形性脊椎 骨の変形 骨の変形
骨粗鬆症 骨量測定 高齢、閉経
感染性脊椎 感染 発熱 体温測定 免疫低下、手術
糖尿病、高齢
心因性脊椎 ストレス
腫瘍 良性腫瘍悪性腫瘍
(早期の専門医受診が必要)
痛みの増大
安静時も痛み
痛み
しびれ
手の麻痺
(重度の場合)
腫瘍

痛みには、筋肉由来の緊張性腰痛と、鈍い痛みを伴う慢性の腰痛がある。

緊張性腰痛(筋肉を原因とした、筋筋膜性腰痛)[編集]

筋肉などに過度なストレスが掛かることで、筋肉が緊張することで引き起こされる腰痛である。過度なストレスを強いられると、交感神経は常に優勢になり活発化し緊張を強いられ、余計な他の筋肉などにも力が入る。すると崩れたバランスを調節しようと腰の筋肉に負担が大きくなり、腰痛が発生する。

慢性型腰痛[編集]

3ヶ月以上、腰に継続した鈍い痛みがあるものを慢性型とする。ストレスなどの心因性因子の関与が大きい。

その他[編集]

緊急性の高い腰痛としては、致死性の高い腹部大動脈瘤大動脈解離、場合によっては致死性になる腎梗塞急性膵炎排尿排便が困難になることもある馬尾症候群などが挙げられる。

注意を要する腰痛としては、化膿性脊椎炎結核性脊椎炎硬膜外膿瘍椎間板炎などの脊椎感染症や、多発性骨髄腫やがんの骨転移などの悪性腫瘍の骨病変などがある。


原因[編集]

欧州におけるガイドライン[1]によれば、腰痛の原因は、疾患ではなく、腰部に負担のかかる動作による脊椎・腰椎・神経などの障害、腫瘍などの慢性疾患からの症状、の2つである。

腰部に負担のかかる動作による脊椎・腰椎・神経などの障害[編集]

1976年3月、整形外科ナッケムソンは、腰痛の原因を腰部に負担のかかる動作と解明した[2]

1999年、Wilkeらは、更に細かく約30通りの動作について数値を計測、ナッケムソンの研究を補足する形で追認した[3]

姿勢 !第3/第4腰椎の間の負荷
(ナッケムソンによる[2][4])
!第4/第5腰椎の間の負荷
(Wilkeらによる[3])
備考
寝ている あお向け 25 20 20分程横になると軽減する
毎日8時間横になると軽減する
横向き 75 25
立つ 直立 100(基準値) 100(基準値)
腰から前屈 150 220 この姿勢での長時間の作業は避けるべき
座る 背もたれにリラックスして座る 50 安楽椅子・リクライニング椅子で軽減する
直立 140 90
腰から前屈 180 160
立って20kgの物を持つ 直立し、ひざを伸ばす 220(*1) この姿勢での長時間の作業は避けるべき
腰から前屈し、ひざを曲げる 340
腰から前屈し、ひざを伸ばす 375(*2) 460(*3)
(腰部にかかる負荷の例) 立って20kgの物を持つ 265kg(*2) 172(*1)~316kg(*3) 体重・装備など重量計40kgの場合
360kg(*2) 236(*1)~428kg(*3) 体重・装備など重量計60kgの場合
455kg(*2) 300(*1)~540kg(*3) 体重・装備など重量計80kgの場合

腰部に負担がかかる動作の回避の遅れ[編集]

ナッケムソンは、2つの残された課題に警鐘を鳴らした。

予防
整形外科医の学会などで、整形外科医などに対して、腰部に負担のかかる動作をさせないよう知識を広め予防を働きかける啓蒙活動を求めた。
労働災害制度の抜け道を塞ぐこと
学会と政府などに対して、腰痛を「前の職場で抱えた永久に続く持病」「永久に労働災害保険の支払い対象としない」とする「古い労災保険制度」を温存せず、社会保障制度の抜け道を作らないよう方針転換を強く促した。日本政府は、「腰痛の業務上外の認定基準の検討に関する専門家会議」による議論の結果、1976年10月に腰痛の原因は業務上の作業および姿勢と制度的に認定し、必要な場合は専門医の意見を優先するとし、同一箇所への再発も労災の対象として認定している(業務上腰痛の認定基準等について)。

腰痛の腫瘍化[編集]

腫瘍の場合、ヘルニアなどの腫瘍化などの可能性が一部にある。

治療法[編集]

活動障害の場合[編集]

安静・投薬・コルセット等の対症療法が一般的である。また、鍼灸[5]柔道整復も治療法として一般に広く認知されている。

ぎっくり腰のような姿勢に起因する急な激しい痛み
対処法として、最初に患部を冷やすことが肝心である。これは他の急性筋肉疾患でも同様だが、冷やすことで炎症の亢進を抑えて疾患の拡大(腫れ・疼痛)を出来るだけ小さくするための処置であるので、可能な限り早く冷やした方が治療効果も高く痛みも少ない。急性期を過ぎた後は、今度は出来るだけゆっくりと温めて血流を良くすると筋の復帰も早い。腹圧を上げる為のコルセット着用も効果的である。下肢の痺れ・感覚鈍麻・歩行困難等が顕れるような場合は、椎間板ヘルニア等の恐れもある為に病院の診察が必要である。
整形外科による治療
備考
運動療法 体操水泳ジョギング散歩マッケンジー法 痛みが激しい時は運動してはいけない
装具療法 腰痛ベルト、コルセットなど 常時使用し続けると、筋肉が弱まり悪化するので、必要な時のみ
薬物療法 消炎鎮痛剤 痛み止めは長期間服用し続けると効果が薄まるので、必要な時のみ
理学療法 温熱療法など 理学療法士が個々の疾病にあわせて治療を行う
マッサージ療法 指圧など 整骨院などでも受けられる(要あんまマッサージ指圧師資格)
手術 レーザー手術、など 手術しても、数年程度で再発し再手術となる人も
鍼灸による治療
腰痛は肩こりと並び、鍼灸治療により著効を表すことがある。腰部の腎兪穴大腸兪穴志室穴などの施術のほか、膝の後ろにある委中穴の鍼や、足の照海穴、さらに体調を整える目的で、背部や腹部の経穴を用い腰痛を緩和する代替医療、民間療法。WHOでも認められており、健康保険による鍼灸治療が可能であるが、保険治療は地域によっては医師の同意書を必要とする。


整骨院による治療
温熱治療、マッサージなどの民間療法、代替医療。但し、痛みの原因は腫瘍であるなどの至急手術が必要な場合もあるので、最初は整形外科の受診が望ましい。なお、整骨院で保険治療が可能なのは外傷による打撲・捻挫・挫傷・骨折・脱臼の5つの疾病のみである。
漢方薬による治療
痛みの原因は腫瘍であるなどの至急手術が必要な場合もあるので、レントゲン検査のため、最初は整形外科を受診すべき。

感染症腫瘍の場合[編集]

脊椎脊髄専門医の早期受診が望ましい。長期間放置すると、手遅れとなり回復困難となることもある。

予防[編集]

運動による腰痛予防法[編集]

上記で書いたように筋肉が原因の緊張製腰痛に対しては、腰の筋肉である腹筋と背筋を鍛えることにより予防を見込める。 長時間同じ姿勢で過ごす事の多い人は、運動や体操で腰痛予防を心掛けることが望ましい。 運動不足(腹筋が弱すぎ、腹筋に比べて背筋が弱い)、過度の運動(腰椎分離症になる恐れ)は回避する。

体の前屈
これは背筋とスネの裏側の筋肉のストレッチになる。できる範囲での前屈で良いが、膝は曲げないこと。
背筋の訓練
両手で両膝を抱え、できるだけ胸に引き付ける。足先を開いたほうが楽にできるはず。引き付けは無理のない範囲で。
腹筋訓練
上半身を起こす運動だが膝を曲げて行うのがポイント。足先を固定しても構わない。腰痛のある人は頭を持ち上げるだけにする。
背筋の強化運動
うつ伏せから上半身を起こして胸を反らせる。既に腰痛のある人は頭を持ち上げるだけにする。
腰痛予防となる生活習慣の例 腰痛の起きやすい生活習慣の例
姿勢に注意 前かがみを避ける 作業姿勢を工夫 前かがみ、中腰、前傾姿勢
同じ姿勢を長く続けない 屈伸などその場でできる軽い運動をする 毎日2~3時間車を運転するなど、同じ姿勢を長く続ける
良い姿勢 両足を揃えて椅子に座る(椅子の高さを足がつく高さにする、背もたれに座布団クッションを置く)、いつも同じ側でかばんを持たない 脚を組んで椅子に座るなど、姿勢が悪い
疲れをためない 規則正しい生活 定時退社、家へまっすぐ帰る 残業などで、疲れをためる
朝食はしっかり 暖かいものを栄養バランス良く 朝食抜き、朝食が少ない、油もの・生野菜・果物
運動は適度に 軽い運動 激しい運動などで、疲れをためる
適切な大きさの靴 足に合わない靴を無理をして履いている
寝具 敷布団は固すぎず、やわらかすぎないもの 腰が沈み込む寝具
十分な睡眠 規則正しい睡眠 睡眠不足
体を冷やさない 空気を冷やさない 適度な空調 きつすぎる冷房
暖かい食事 暖かいものを栄養バランス良く 油もの・生野菜・果物
太陽光 日光浴
入浴 風呂に肩まで入ってゆっくり体を温める 半身浴
寝具(冬) 湯たんぽ 電器毛布をつけたまま寝る
衣類(冬) 吸湿発熱性のある新素材、ウールマフラー、ハイネック、ズボン スカート、きつい肌着

労災(通勤・職場で発症)[編集]

腰痛は雇用の継続や再就職の困難をもたらす原因となる可能性が高く、収入の途絶など社会生活を営む上での重大な障害となる可能性が高い。また身体障害に関する社会福祉政策の対象として認定されるに至らないケースが大半であり、労働災害保険の認定がこの場合非常に重要となる。

在職中の通院の重要性
在職中に一度でも診療を受けた実績がなければ労災・障害年金は申請が難しいので、どんなにつらくても当日中あるいは在職中に、整形外科の労災指定病院で診断を受ける必要がある。但し、職場での発症当日に職場から救急車で緊急入院した場合でも、労災と認定されていないケースがある。
継続的な通院の重要性
労災申請には、会社の証明だけでなく、医師の証明も不可欠である。
職場の環境
労働災害として労災申請する場合、労働基準監督局へ写真を持参して認められたケースもあるので、現場の写真を撮る。
職場の同僚
前任者や同じような業務を行う周囲の人々が労災申請して認められている場合は、比較的スムーズに承認される。

通院費・療養期間の保障などについて労災申請する場合[編集]

労働災害参照。時効に注意。

障害が残って障害年金を申請する場合[編集]

障害年金は、退職後も、症状が固まり次第申請可能。時効に注意。

損害賠償請求訴訟[編集]

損害賠償請求訴訟の場合、雇用者側の不法行為を裁判において立証する必要がある。判例あり(大阪地方裁判所 昭和49年(ワ)第879号)。時効に注意。

重いものを扱う労働(建築現場・工場倉庫空港港湾物流関連など)は、腰痛による労働災害が発生する危険性が非常に高い。このため、腰痛を原因とした正社員の休職・退職にかかるコストを回避しようと、期間工派遣社員委託社員・パート・アルバイトなどの非正規労働者が重量物をあつかう業務へ投入されることが多い。この場合、安全でない業務の当然の結果として生じた腰痛にかかるコストも削減しようと、確信犯的に労災申請の妨害がされることもあり問題となっているが、このような場合は民事訴訟で業務上の腰痛であるとの認定を受けることで労災が承認される可能性がある。

リストラ目的や労働組合活動への制裁的人事としてこのような重労働を任命された場合、そもそも現業活動には十分な訓練や修練・熟練・肉体的素養・年齢などの条件が求められる事が多いにも関わらず本来必要な業務命令を逸脱した配置転換の場合は、パワーハラスメント不当労働行為に該当する可能性がある。

生活保護[編集]

労災申請したが労働基準監督署の確認作業に時間がかかる・労災申請したが認定されないなど、生活に困った場合は、居住地からの立ち退きを要求される前に、速やかに管轄の役所にて生活保護申請すべきである。生活保護制度には、治療費・交通費・医療器具代などが支払われる医療扶助制度がある。生活保護申請においては、仕事を探す意欲があることやボランティアが一緒であることなどが、効果的な場合もある。

脚注[編集]

  1. ^ European guidelines for the management of chronic non-specific low back pain (Report). European Cooperation in Science and Technology. http://www.backpaineurope.org/web/files/WG2_Guidelines.pdf. 
  2. ^ a b Nachemson (1976). “The lumbar spine an orthopedic challenge”. Spine 1: 59-71. NAID 10020592612. http://journals.lww.com/spinejournal/Abstract/1976/03000/The_Lumbar_Spine_An_Orthopaedic_Challenge.9.aspx. 
  3. ^ a b Wilke HJ, Neef P, Caimi M, Hoogland T, Claes LE (April 1999). “New in vivo measurements of pressures in the intervertebral disc in daily life”. Spine 24 (8): 755–62. PMID 10222525. http://journals.lww.com/spinejournal/Abstract/1999/04150/New_In_Vivo_Measurements_of_Pressures_in_the.5.aspx. 
  4. ^ Neumann,DonaldA.; 平田総一郎; 嶋田智明 『筋骨格系のキネシオロジー』 医歯薬出版、2005年ISBN 9784263212875 
  5. ^ WHOにおける鍼灸の適応疾患

参考文献[編集]