オピオイド

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オピオイド (Opioid) とは、オピオイド受容体と親和性を示す化合物の総称。

「オピウム(アヘン)類縁物質」という意味であり、アヘンが結合するオピオイド受容体に結合する物質(元来、生体内にもある)として命名された。アヘンに含まれるものとしてはモルヒネコデインなどがあり、これらを元に合成したものとしてはナロキソンフェンタニルなどが医薬品として用いられる。歴史的にはオピオイド受容体はモルヒネ受容体といわれる。脳内にモルヒネと作用する受容体が存在することが明らかになったのは当時は衝撃的であった。ランナーズハイに関与するというβエンドルフィンは脳内モルヒネといわれる。

オピオイドのうち、鎮痛作用を有するものの構造にはN,N-Dialkyl-3,3-dialkyl-3-phenylpropanamineという共通点があり、モルヒネ則と呼ばれている。

生体内のオピオイドはペプチドオピオイドペプチド)であり、作用する受容体の違いによってエンドルフィン類(μ受容体)、エンケファリン類(δ受容体)、ダイノルフィン類(κ受容体)の3つに分類される。

最近これ以外にも新たに、ノシセプチン/オーファンFQ受容体が見つかっている。

オピオイドの定義[編集]

2007年現在、内因性、外因性問わず、オピオイド受容体に結合して効果を表す物質はオピオイドといわれている。最も有名な作用は疼痛に対する鎮痛作用である。オピオイドとオピオイドレセプターの結合によりG蛋白を介して神経細胞の過分極が生じ神経伝達系が抑制されると考えられている。しかし、その神経回路などは不明な点が多い。G蛋白はそれぞれのレセプターに関与するイオンチャネルに作用すると考えられているがその詳細は明らかになっていない。

歴史的にオピオイドレセプターはμ(ミュー)、κ(カッパ)、δ(デルタ)、σ(シグマ)、ε(イプシロン)の5つが知られている。σはナロキソンによって拮抗されないため、特異的オピオイド受容体とは考えられなくなりつつある。εは内因性オピオイドであるβエンドルフィンと結合性が高い以外あまりわかっていない。2007年現在、μ、κ、δの3つが特異的オピオイド受容体と考えられ、特にμとκが臨床医学では重要視されている。薬理学的にはμには2つ、κには3つのサブタイプが知られている。静脈麻酔ではμ1が鎮痛、μ2が呼吸抑制を担っていると考えられてμ1の特異的アゴニストが開発できれば非常に扱いやすい鎮痛薬になると考えられている。

オピオイド受容体[編集]

μ1受容体
主に脊髄より上位中枢に作用し鎮痛作用に関わるとされている。鎮静作用やプロラクチン放出作用も知られている。µ受容体の遺伝子としての実体はOprm1、もしくはMOR1と呼ばれる単一のものであるが、選択的スプライシングによって多数のバリアントが生じることが知られている。
μ2受容体
主に脊髄に作用し、鎮痛作用に関わるとされている。μ2受容体のその他の作用としては呼吸抑制、徐脈、血圧低下、多幸感、悪心、腸蠕動抑制、オッディの括約筋収縮、排尿障害、筋硬直、縮瞳などがあげられる。
κ受容体
主に脊髄に作用して鎮痛作用に関わるとされている。その他の作用としては鎮静や不快感、幻覚やせん妄、ADH分泌低下が知られている。内因性オピオイドのダイノルフィン類と親和性が高いことが知られている。κ受容体の遺伝子としての実体はOprk1、もしくはKORと呼ばれるものである。
δ受容体
主に脊髄に作用して鎮痛作用に関わるとされている。その他の作用としては掻痒感がある。内因性オピオイドのエンケファリン類と親和性が高いことが知られている。δ受容体の遺伝子としての実体はOprd1、もしくはDORと呼ばれるものである
σ受容体
オピオイドレセプターであるが鎮痛作用はなく他のオピオイドレセプターと異なる作用をもつ。呼吸促進、頻脈、血圧上昇、散瞳といった作用が知られている。

オピオイドリガンド[編集]

アゴニスト
アゴニストとしてはケシから抽出されるモルヒネ、合成麻薬のフェンタニルレミフェンタニルがある。この他にペチジン(オピスタン)、コデイントラマドール(トラマール)が有名である。
パーシャルアゴニスト
オピオイドレセプターのパーシャルアゴニスト(部分作動薬)を弱オピオイドという。弱オピオイドは鎮痛効果に天井効果があることが知られている。天井効果とは投与量を増やしても鎮痛効果はある一定以上増えることはない。分子的メカニズムは不明ではあるが副作用のみが増えることが知られている。パーシャルアゴニストとしてはペンタゾシン(ペンタジン、ソセゴン)、ブプレノルフィン(レペタン)、ブトルファノール(スタドール)などが有名である。
アゴニストアンタゴニスト
μ受容体にはアゴニストとしてκ受容体にはアンタゴニストとして作用する、あるいはその逆に作用する物質である。ペンタジシン(ペンタジン、ソセゴン)、ブトルファノール(スタドール)はμ受容体には作用を示さず、κ受容体に対して作用を示す。すなわちμアゴニスト存在下ではμアンタゴニスト、κアゴニストと考えることができる。しかし近年はアゴニストアンタゴニストという概念を作ること自体に疑問の声もあがっている。なお、ペンタゾシンやブトルファノールはμ作用がないことから呼吸抑制や便秘といった作用も少ないと考えられている。こういった理由からソセゴンは病棟で鎮痛薬としてよく用いられる。
アンタゴニスト
拮抗薬(アンタゴニスト)としてはナロキソンが有名である。全てのオピオイド受容体の拮抗薬であるがμ受容体との親和性が最も高い。

主な薬理作用[編集]

鎮痛効果
疼痛のメカニズムに関しては不明な点が多い。鎮痛作用は個人差が多く目安にしかならない。また鎮痛効果と呼吸抑制や鎮静作用も必ずしも並行しない。参考値を表にまとめる。+の数がアゴニストの強さ、-の数がアンタゴニストの強さである。
物質名 μ親和性 κ親和性 同効果(mg) 最大効果(min) 持続時間(hr)
モルヒネ +++ 10 20~30 3~4
フェンタニル +++ 0 0.1 3~5 0.5~1.0
レミフェンタニル +++ 0 0.1 1.5~2.0 0.1~0.2
ペチジン ++ 80 5~7 2~3
ブプレノルフィン +++ 0.3 30 6~8
ペンタゾシン -- ++ 60 15~30 2~3
ブトルファノール ++ 2 15~30 2~3
トラマドール ++ 100 15 4~6
ナロキソン ---
中枢作用
通常の鎮痛量では傾眠傾向になるものの健忘作用はないとされている。深い鎮痛効果と無呼吸に至るほどの高用量を投与しても必ずしも入眠するとは限らない。オピオイド単独による麻酔導入は不可能と考えられえいる。
ヒスタミン遊離作用のないフェンタニルでも掻痒感を生じ、その掻痒感は抗ヒスタミン薬で抑制されず、ナロキソンによって抑制されることからオピオイド自体の脳幹レベルでの作用と考えられている。
少量の投与でも中脳動眼神経核に作用し縮瞳をおこす。
呼吸抑制
延髄孤束核に作用し二酸化炭素による換気応答を抑制する。呼吸数の減少が典型的であるが呼吸リズムが不規則になることもある。意識があるときも呼吸する意思が抑制され窒息をおこす恐れがある。そのためオピオイド投与時は効果が最大になる時間まで呼吸が止まらないことを確認する必要がある(呼吸抑制は濃度依存の作用であるため)。
モルヒネにはヒスタミン遊離作用があるため気管支喘息の患者には使いにくい。それ以外のオピオイドも咳嗽抑制、呼吸抑制があることから気管支喘息患者には注意が必要である。
心血管作用
通常の鎮痛量では心血管作用はないと考えられている。しかし他の麻酔薬との併用によって徐脈や血圧低下をおこす。心臓病患者のオピオイドとしてはペンタゾシンは用いずレペタンを用いるといった慣習も存在する。
消化器系
中枢、および消化管自体のオピオイド受容体に作用し消化管蠕動運動を抑制する。そのため、モルヒネの長期投与では便秘が起こることが多い。
オッディ括約筋の収縮をおこすため胆道系疾患の疼痛には使いにくい。
延髄のCTZに作用し悪心嘔吐を起こす。
泌尿器系
尿管、膀胱の排尿筋や尿道括約筋を収縮させ、尿意促迫や尿閉をおこす。前立腺肥大症の患者では注意が必要である。
内分泌系
筋硬直
機序は不明であるが筋肉が硬直する。声門の閉鎖からマスク換気が不可能になることもある。筋弛緩薬の投与によって消失する。麻酔中に筋が硬くなるのは、麻酔が浅い場合もあるしオピオイドの副作用であることもある。

麻薬との関係[編集]

オピオイド自体、現在は鎮痛剤のひとつとして用いられることが多いが麻薬の仲間である。ケシから作られたアヘンにはモルヒネが含まれている。アヘンは昔から快楽を得る薬として用いられてきた。モルヒネの脳への移行性を高めたもの(エステル化などを施し、脂溶性を高めBBB透過性を高める)がヘロインである。ヘロインには2007年現在医学的適応はない。また、麻薬以外に社会問題になりやすい物質として覚醒剤があげられる。覚醒剤に近いとされるメチルフェニデートには精神科領域ではナルコレプシーに対する医学的適応が存在する。医療用の麻薬覚醒剤は歴史的には目的外利用による麻薬、覚醒剤の乱用を広めるという負の役割も果たしてきた。

よく誤解があるのは大麻マリファナハシシのことであり麻薬ではない。近年カンナビノイド受容体が同定され、脳内モルヒネに次ぐ、脳内マリファナが存在するということで話題になった。モルヒネ、コカイン、ヘロインなどは麻薬及び向精神薬取締法で取り締まられ、マリファナ、ハシシは大麻取締法で規制される。アンフェタミンメタンフェタミン(世間で言うスピード、ヒロポン)、といった覚醒剤は覚せい剤取締法で規制される。

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]