オピオイド

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オピオイド (Opioid) とは、ケシから採取されるアルカロイドや、そこから合成された化合物、また体内に存在する内因性の化合物を指し、鎮痛、陶酔作用があり、また薬剤の高用量の摂取では昏睡、呼吸抑制を引き起こす[1]。このようなアルカロイド(オピエート)やその半合成化合物には、モルヒネヘロインコデインオキシコドンなどが含まれ、また合成オピオイドにはフェンタニルメタドンペチジンなどがある[1]。これらは本来的な意味で麻薬(narcotic)である[1]。オピオイドとは「オピウム(アヘン)類縁物質」という意味であり、これらが結合するオピオイド受容体に結合する物質(元来、生体内にもある)として命名された。内因性のオピオイドにはエンドルフィンエンケファリンなどがある。

オピオイド薬の使用には、オピオイド依存症英語版や、離脱症状、また過剰摂取による死亡の危険性がある。アメリカでは、薬物中毒死の43%までも、オピオイド医薬品の過剰摂取で占めており[2]、2014年にもアメリカ神経学会は頭痛、腰痛、線維筋痛症などの慢性疼痛状態では、オピオイドの使用は危険性の方がはるかに上回るという声明を行っている[3]

定義[編集]

オピオイドとは、ケシ(Opium poppy)に生成されるアルカロイドや、それらの合成化合物、また体内に存在する内因性の化合物を指す[1]

オピオイドは、鎮痛や陶酔といった共通した作用を持つ[1]ケシから採取されるアルカロイドや、そこから合成された化合物では、高用量を摂取した場合に、昏睡、呼吸抑制を引き起こす[1]

ケシのアルカロイド(オピエート)やその半合成化合物には、モルヒネヘロインコデインオキシコドンなどが含まれ、また合成オピオイドにはフェンタニルメタドンペチジンなどがある[1]

生体内のオピオイドはペプチドオピオイドペプチド)であり、作用するオピオイド受容体サブタイプの違いによってエンドルフィン類(μ受容体)、エンケファリン類(δ受容体)、ダイノルフィン類(κ受容体)の3つに分類される。

オピオイドのうち、鎮痛作用を有するものの構造にはN,N-Dialkyl-3,3-dialkyl-3-phenylpropanamineという共通点があり、モルヒネ則と呼ばれている。

麻薬[編集]

麻薬(narcotic)とは、通常は麻薬性鎮痛薬として、この記事にて説明しているオピオイドや、またはさらにその狭義のオピエートを含めて指す用語である[1]。しかし、一般用語あるいは法理上において、そうした薬理学と関わりなく、コカイン大麻などを含めた違法薬物を指して用いられている場合がある[1]。そのため、世界保健機関の薬物に関する文書では、麻薬の語ではなく、より具体的な意味を持つオピオイドの語を用いている[1]

作用機序[編集]

オピオイドとオピオイドレセプターの結合によりG蛋白を介して神経細胞の過分極が生じ神経伝達系が抑制されると考えられている。しかし、その神経回路などは不明な点が多い。G蛋白はそれぞれのレセプターに関与するイオンチャネルに作用すると考えられているがその詳細は明らかになっていない。

薬理作用[編集]

鎮痛効果
疼痛のメカニズムに関しては不明な点が多い。鎮痛作用は個人差が多く目安にしかならない。また鎮痛効果と呼吸抑制や鎮静作用も必ずしも並行しない。参考値を表にまとめる。+の数がアゴニストの強さ、-の数がアンタゴニストの強さである。
物質名 μ親和性 κ親和性 同効果(mg) 最大効果(min) 持続時間(hr)
モルヒネ +++ 10 20~30 3~4
フェンタニル +++ 0 0.1 3~5 0.5~1.0
レミフェンタニル +++ 0 0.1 1.5~2.0 0.1~0.2
ペチジン ++ 80 5~7 2~3
ブプレノルフィン +++ 0.3 30 6~8
ペンタゾシン -- ++ 60 15~30 2~3
ブトルファノール ++ 2 15~30 2~3
トラマドール ++ 100 15 4~6
ナロキソン ---
中枢作用
通常の鎮痛量では傾眠傾向になるものの健忘作用はないとされている。深い鎮痛効果と無呼吸に至るほどの高用量を投与しても必ずしも入眠するとは限らない。オピオイド単独による麻酔導入は不可能と考えられえいる。
ヒスタミン遊離作用のないフェンタニルでも掻痒感を生じ、その掻痒感は抗ヒスタミン薬で抑制されず、ナロキソンによって抑制されることからオピオイド自体の脳幹レベルでの作用と考えられている。
少量の投与でも中脳動眼神経核に作用し縮瞳をおこす。
呼吸抑制
延髄孤束核に作用し二酸化炭素による換気応答を抑制する。呼吸数の減少が典型的であるが呼吸リズムが不規則になることもある。意識があるときも呼吸する意思が抑制され窒息をおこす恐れがある。そのためオピオイド投与時は効果が最大になる時間まで呼吸が止まらないことを確認する必要がある(呼吸抑制は濃度依存の作用であるため)。
モルヒネにはヒスタミン遊離作用があるため気管支喘息の患者には使いにくい。それ以外のオピオイドも咳嗽抑制、呼吸抑制があることから気管支喘息患者には注意が必要である。
心血管作用
通常の鎮痛量では心血管作用はないと考えられている。しかし他の麻酔薬との併用によって徐脈や血圧低下をおこす。心臓病患者のオピオイドとしてはペンタゾシンは用いずレペタンを用いるといった慣習も存在する。
消化器系
中枢、および消化管自体のオピオイド受容体に作用し消化管蠕動運動を抑制する。そのため、モルヒネの長期投与では便秘が起こることが多い。
オッディ括約筋の収縮をおこすため胆道系疾患の疼痛には使いにくい。
延髄のCTZに作用し悪心嘔吐を起こす。
泌尿器系
尿管、膀胱の排尿筋や尿道括約筋を収縮させ、尿意促迫や尿閉をおこす。前立腺肥大症の患者では注意が必要である。
内分泌系
筋硬直
機序は不明であるが筋肉が硬直する。声門の閉鎖からマスク換気が不可能になることもある。筋弛緩薬の投与によって消失する。麻酔中に筋が硬くなるのは、麻酔が浅い場合もあるしオピオイドの副作用であることもある。

ガイドライン[編集]

2014年には、アメリカ神経学会がオピオイドによる死亡増加から声明を出しており[4]、頭痛、腰痛、線維筋痛症などの慢性疼痛状態では、薬剤使用の利益を危険性の方がはるかに上回るとした[3]。これは最良の方法を挙げており、処方を行う前に処方データ監視プログラム(PDMP)を確認することや、1日にモルヒネに換算して80~120mgに相当する場合には、疼痛管理の専門家に相談することが含まれている[3]

依存症[編集]

オピオイド依存症は、当初想定していたよりも使用量が増加し、離脱症状を呈する、薬物の使用が制御できない、またそれらによって引き起こされた機能的な状態が重症であるなど、いくつかの診断基準を満たした場合に診断されうる。

アメリカでは、2000年以降にヘロインを乱用した者の75%が、処方薬のオピオイドによって乱用を開始している[5]

離脱症状[編集]

オピオイドによる離脱症候群には、渇望、不安、不快、あくび、発汗、立毛(鳥肌)、流涙、鼻漏、不眠、吐き気や嘔吐、下痢、けいれん、筋肉痛、また発熱が含まれる[1]

モルヒネやヘロインなどの短時間作用型の薬物では、離脱症状は最後の摂取から8~12時間以内に発症し、48~72時間でピークに達し、7~10日後にかけて消えていく[1]。メタドンなどの長時間作用型の薬剤では、離脱症状の発症は1~3日であることもあり、一般的により軽度の症状が長く続く[1]

遷延性離脱として、上記のような急性の離脱症状に続き、数週間から数か月にわたってあまり明確ではない症状が生じることがある[1]

過剰摂取による死亡[編集]

縦軸:依存性:上に行くほど依存性の可能性の高い物質。横軸:右に行くほど活性量と致死量が近い。[6]

オピオイドは、作用量と有毒域が近いため薬事法における劇薬に指定されている。

アメリカでは、医薬品のオピオイドによる死亡は、他の医薬品や違法薬物を抜いて最多であり、2010年の死因ファイルによる38,329例の中毒死のうち16,651(43%)を占めている[2]。オピオイド系鎮痛薬による中毒死は、アメリカでは1999年から2011年とを比較するとおよそ4倍に増加した[7]

薬物相互作用[編集]

オピオイドにベンゾジアゼピン系の薬物が加わることで、死刑執行にも使われるような組み合わせとなり、意図しない死亡事故が生じやすい[8]

薬動力学的相互作用[編集]

アメリカの処方記録によれば、2000年代に、オキシコドンや、アセトアミノフェンヒドロコドンの合剤であるVicodinのようなオピオイドと、アルプラゾラムロラゼパム、またクロナゼパムのようなベンゾジアゼピン系の薬剤の処方はそれぞれ増加した[8]。2010年には、検視官から提出された死亡診断書など死因ファイルの調査によって、22,134例の医薬品による死亡のうち16,651例(75%)がオピオイドが関与したものであり、そのほぼ30%はベンゾジアゼピンが組み合わさったものであった[2]。このような相互作用による中毒死は、1999年には13%であり、2011年には31%であった[7]

フェノチアジン誘導体、バルビツール酸誘導体、ベンゾジアゼピン系薬剤のような中枢神経抑制薬のほか、アルコール、ワルファリンのような抗凝固薬など、抑制作用を増強させる薬剤の併用によって抑制作用が増強される可能性がある[9]

薬物動態学的相互作用[編集]

オキシコドンでは、CYP2D6を阻害する薬剤によって血中濃度が高まる可能性がある[9]。フェンタニルはCYP3A4を阻害する[9]

オピオイド受容体[編集]

オピオイド受容体はμ(ミュー)、κ(カッパ)、δ(デルタ)、σ(シグマ)、ε(イプシロン)の5つが知られている。σはナロキソンによって拮抗されないため、特異的オピオイド受容体とは考えられなくなりつつある。εは内因性オピオイドであるβエンドルフィンと結合性が高い以外あまりわかっていない。2007年現在、μ、κ、δの3つが特異的オピオイド受容体と考えられ、特にμとκが臨床医学では重要視されている。薬理学的にはμには2つ、κには3つのサブタイプが知られている。静脈麻酔ではμ1が鎮痛、μ2が呼吸抑制を担っていると考えられてμ1の特異的アゴニストが開発できれば非常に扱いやすい鎮痛薬になると考えられている。

μ1受容体
主に脊髄より上位中枢に作用し鎮痛作用に関わるとされている。鎮静作用やプロラクチン放出作用も知られている。μ受容体の遺伝子としての実体はOprm1、もしくはMOR1と呼ばれる単一のものであるが、選択的スプライシングによって多数のバリアントが生じることが知られている。
μ2受容体
主に脊髄に作用し、鎮痛作用に関わるとされている。μ2受容体のその他の作用としては呼吸抑制、徐脈、血圧低下、多幸感、悪心、腸蠕動抑制、オッディ括約筋収縮、排尿障害、筋硬直、縮瞳などがあげられる。
κ受容体
主に脊髄に作用して鎮痛作用に関わるとされている。その他の作用としては鎮静や不快感、幻覚やせん妄、ADH分泌低下が知られている。内因性オピオイドのダイノルフィン類と親和性が高いことが知られている。κ受容体の遺伝子としての実体はOprk1、もしくはKORと呼ばれるものである。
δ受容体
主に脊髄に作用して鎮痛作用に関わるとされている。その他の作用としては掻痒感がある。内因性オピオイドのエンケファリン類と親和性が高いことが知られている。δ受容体の遺伝子としての実体はOprd1、もしくはDORと呼ばれるものである
σ受容体
オピオイドレセプターであるが鎮痛作用はなく他のオピオイドレセプターと異なる作用をもつ。呼吸促進、頻脈、血圧上昇、散瞳といった作用が知られている。

リガンド[編集]

アゴニスト
アゴニストとしてはケシから抽出されるモルヒネ、合成麻薬のフェンタニルレミフェンタニルがある。この他にペチジン(オピスタン)、コデインが有名である。
パーシャルアゴニスト
オピオイドレセプターのパーシャルアゴニスト(部分作動薬)を弱オピオイドという。弱オピオイドは鎮痛効果に天井効果があることが知られている。天井効果とは投与量を増やしても鎮痛効果はある一定以上増えることはない。分子的メカニズムは不明ではあるが副作用のみが増えることが知られている。パーシャルアゴニストとしてはペンタゾシン(ペンタジン、ソセゴン)、ブプレノルフィン(レペタン)、トラマドール(トラマール)などが有名である。又、κ選択的アゴニストにナルフラフィン(レミッチ)、ナルブフィン(セダペイン)がある。
アゴニストアンタゴニスト
μ受容体にはアゴニストとしてκ受容体にはアンタゴニストとして作用する、あるいはその逆に作用する物質である。ペンタゾシン(ペンタジン、ソセゴン)、ブトルファノール(スタドール)はμ受容体には作用を示さず、κ受容体に対して作用を示す。すなわちμアゴニスト存在下ではμアンタゴニスト、κアゴニストと考えることができる。しかし近年はアゴニストアンタゴニストという概念を作ること自体に疑問の声もあがっている。なお、ペンタゾシンやブトルファノールはμ作用がないことから呼吸抑制や便秘といった作用も少ないと考えられている。こういった理由からソセゴンは病棟で鎮痛薬としてよく用いられる。
アンタゴニスト
拮抗薬(アンタゴニスト)としてはナロキソンが有名である。全てのオピオイド受容体の拮抗薬であるがμ受容体との親和性が最も高い。

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n 世界保健機関 (1994) (pdf). Lexicon of alchol and drug term. World Health Organization. pp. 47, 49-50. ISBN 92-4-154468-6. http://whqlibdoc.who.int/publications/9241544686.pdf.  (HTML版 introductionが省略されている
  2. ^ a b c Jones, Christopher M.; Mack, Karin A.; Paulozzi, Leonard J. (February 2013). "Pharmaceutical Overdose Deaths, United States, 2010". JAMA 309 (7): 657. doi:10.1001/jama.2013.272. PMID 23423407. 
  3. ^ a b c Kristina Fiore (2014年9月30日). “AAN Warns Against Opioids in Chronic Noncancer Pain”. MedPage Today. http://www.medpagetoday.com/PainManagement/PainManagement/47871 2015年5月15日閲覧。 
  4. ^ Katz, J. A.; Swerdloff, M. A.; Brass, S. D.; Argoff, C. E.; Markman, J.; Backonja, M.; Katz, N.; Franklin, G. M. (2015). "Opioids for chronic noncancer pain: A position paper of the American Academy of Neurology". Neurology 84 (14): 1503–1505. doi:10.1212/WNL.0000000000001485. ISSN 0028-3878. 
  5. ^ Rudd RA, Paulozzi LJ, Bauer MJ, et al. (2014). "Increases in heroin overdose deaths - 28 States, 2010 to 2012". MMWR. Morbidity and Mortality Weekly Report 63 (39): 849–54. PMID 25275328. 
  6. ^ Robert S., Gable. “Acute Toxicity of Drugs Versus Regulatory Status”. In Jeffeson M. Fish. Drugs and society : U.S. public policy. Rowman & Littlefield. pp. 149-162. ISBN 0-7425-4245-9. http://books.google.co.jp/books?id=xpZhjBuDkuwC. 
  7. ^ a b Rebecca Cooney (2014年10月1日). “Graying the dragon”. The Lancet United States of Health Blog. http://usa.thelancet.com/blog/2014-10-01-graying-dragon-0 2015年5月15日閲覧。 
  8. ^ a b John Fauber, Kristina Fiore (2014年2月25日). “Killing Pain: Benzo 'Boost' Can Be Deadly”. MedPage Today. http://www.medpagetoday.com/Psychiatry/Addictions/44479 2014年3月11日閲覧。 
  9. ^ a b c (編集)日本緩和医療学会、緩和医療ガイドライン作成委員会 「2章背景知識 4-1-10 オピオイドの与える影響/薬物相互作用」『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン』 金原出版、2010年6月20日、第1版;2010年。ISBN 978-4-307-10149-3

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]