ケシ

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ケシクロンキスト体系
Ikkanshu.jpg
ケシ(一貫種)
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
亜綱 : モクレン亜綱 Magnoliidae
: ケシ目 Papaverales
: ケシ科 Papaveraceae
: ケシ属 Papaver
: ケシ P. somniferum
学名
Papaver somniferum
L.
和名
ケシ(芥子)
英名
Opium poppy

ケシ芥子、Opium poppy、罌粟、学名 Papaver somniferum)は、ケシ科ケシ属に属する一年草植物

日本語のケシは英語のpoppyと同義とされる[要検証 ]が、英語では単に poppy といえばイギリス各地に自生しており、園芸種としても盛んに栽培されているヒナゲシ Corn poppy を指す。一方日本語で単にケシといった場合、それが種指定をも包含している場合はもっぱら本種を指す。英語では本種を Opium poppy と呼び poppy とは明確に区別している。日本語でも、他の園芸用ケシ属植物と区別するため、特に本種を阿片ケシ(アヘンケシ)と呼ぶことがあり、学会などでは種小名を用いソムニフェルム種と呼ぶ。

芥子という表記は本来カラシナを指す言葉であるが、ケシの種子とカラシナの種子がよく似ていることから、室町時代中期に誤用されて定着したものであるとされる。

日本では Opium poppy など Opium 産生植物はあへん法で栽培が原則禁止されている種に指定されており、厚生労働大臣の許可を得ずして栽培してはならない。Opium とはアヘン、麻薬の意味である。

分布[編集]

地中海地方または東ヨーロッパ原産とも言われているが、野生下にある原種が発見されていないため確証はない。

栽培植物としての歴史は古く、紀元前5000年頃と考えられるスイスの遺跡から本種の種子が発見されている(どのように利用されていたかは不明)。四大文明が興った頃にはすでに薬草として栽培されていたとされ、シュメール楔形文字板にも本種の栽培記録がある。本種の薬用利用はそこからエジプトを経てギリシャに伝わったと考えられ、ローマ帝国を経てヨーロッパ全土に広まった。その間に帝国の退廃を映して利用法も麻薬用へと変貌を遂げ、大航海時代を経てアヘン原料として世界各地に広まった。

特にイギリスは植民地であったインドで本種の大々的な栽培を行い、生産されたアヘンを中国(当時は)へ輸出し莫大な利益をあげた。同様に日本も戦前朝鮮満洲の一部(熱河省。現在の河北省遼寧省内モンゴル自治区の一部)で本種の栽培を奨励し、第二次大戦中は満洲国蒙古聯合自治政府南京国民政府などで本種の大規模栽培を行い、生成されたアヘンに高額の税をかけ戦費を調達した[1] 。それを遡ること半世紀前、台湾においては、日本による統治開始後40年をかけて、アヘン栽培を租税対象とし段階的に税金を引き上げることで、最終的にアヘン栽培を消滅させているが、その過程でアヘンの生産と販売を台湾総督府専売制として独占し、莫大な利益を得た経緯があり、中国戦線における戦費調達はこれに倣ったものと見られる。

現在、国際条約下でアヘンの輸出可能な国はインド、中国、日本、北朝鮮の4ヶ国に限定されているが、現在も輸出を継続しているのはインドのみであるため、国際条約下においてはインドが本種の最大の栽培地といえる。

このほか国際的に紛争が起きている地域で、住民が手っ取り早く現金収入を得るために国際条約を無視して本種を栽培するケースが多く、このケースにおいて、20世紀に非常に有名だったのが、いわゆる黄金の三角地帯(ゴールデントライアングル)としても知られるミャンマータイラオスの国境にまたがる地域であるが、2002年以降は同地域での紛争が沈静化し、ようやく同地の支配権を確保できた政府によって他の換金作物への転作が奨励されるようになったため、低調化している。21世紀に入ってから条約無視の不法ケシ最大生産国はアフガニスタンで、2005年時点でじつに全世界生産量の87%が同国産となっており、タリバンなど同国反政府組織の重要な資金源となっている[2]

形態[編集]

ケシ坊主(果実)に傷をつけて樹脂を採取する

草丈は1-2mメートル程度で、の形は長楕円~長卵形で、上の葉ほど小さくなる。

葉に関して他のケシ属とは、

  • 葉柄がなく茎を抱く。他のケシ属は葉柄がある。
  • 切れ込みが浅く縁が波打つ。他のケシ属は深く切れ込み細かく裂けるものが多い。
  • 色がロウで覆われたような緑灰色である。他のケシ属は緑が鮮明なものが多い。
  • 表も裏もほとんど無毛である。葉に限らず、本種はほぼ無毛である。

といった点で区別できるが、これらの特徴は品種によってかなり差がある。

播種後半年ほどで開花する。通常は前年の秋に播種するので開花期は4-6月ごろになる。は茎の先端に一つだけ付き、つぼみのときは下向きで開花と同時に天頂を向く。また2枚あるがくは開花と同時に脱落する。一日花であり翌日には散る。大きさは10-15cmと草丈に比較して大きく、芳香にはほど遠い、悪臭に近いひどい臭いがする。花弁は一重咲きの品種では4枚で、色は基本色として紅、白、紫があり青と黄はない。単色の品種も多いが、園芸種はこれらの中間や、これらが混じった絞りなど様々な変化を見せる。だがOpium poppyは基本色に黄を欠くことから、他のpoppyには多い黄やオレンジ系の花を作ることは不可能である。八重咲きの品種では花弁の縁が細裂するものがある。なおアヘン採取用に品種改良されたOpium poppyはどれも一重咲きである。

種子

花が枯れて数日すると、芥子坊主と呼ばれる独特の形の鶏卵~握りこぶし大の果実を実らす。この芥子坊主の形も品種によって真球に近い球形や楕円球形と、様々に変化する。八重咲きなどの園芸種も結実するが、の大きさやモルヒネ含有量はアヘン採取用の品種には遠く及ばない。どの品種も未熟果の表面に浅い傷をつけると麻薬成分であるモルヒネを含む白色~淡紅色の乳液が浸出し、しばらくすると粘性を示し黒化する。これをへらでかき集め乾燥したものが生アヘンである。果実が熟すと植物体は枯死し、熟した果実の天頂に穴があき、径 0.5mm に満たない微細な種子が飛び出す(とても小さいことを「ケシ粒のような~」と表現するのは、これが由来)。種子は腎形であり、表面には網目模様があるが、肉眼では確認しにくい。色は品種により白から黒まで変化するが、食用に売られているものは象牙色と黒[3]が多い。

亜種及び品種[編集]

非常に古くから栽培されているだけあって、数多くの亜種や品種がある。下記は一部[4]

アヘン採取目的の亜種[編集]

世界各地の気候に合わせた、以下の基本六型がある。各亜種の中にさらにいろいろな品種がある。

  • 亜熱帯気候型
P. somuniferm ssp. indicum
インド系統種とも言う。アヘン採取用の品種はほとんどが白い花を咲かせるが、この種は赤い花を咲かせる。果実は小さく楕円球形、もしくは広楕円球形。
  • 小アジア気候型
P. somuniferm ssp. anatolicum
トルコ系統種ともボスニア種とも言う。花は白か、または青紫色を帯びる。果実は大きく扁球形、もしくは卵形。
  • 中央アジア気候型
P. somuniferm ssp. centra-asiaticum
イラン系統種、イラン種などとも言う。英語では Persian White などと称される。果実は小さく、球形もしくは卵形。
  • 天山気候型
P. somuniferm ssp. tianshanicum
広楕円球形の大きな果実を稔らす。
  • 北方気候型
P. somniferm ssp. eurasiaticum
果実は大きく卵形もしくは球形。
  • 蒙古気候型
P. somuniferm ssp. mongolicum
果実は大きく球形もしくは卵形。日本で大正から昭和の初めにかけて品種改良された一貫種もここに分類される。

観賞目的のアヘン産生品種[編集]

ボタンゲシ
  • ボタンゲシ
P. somniferum var paeoniflorum
P. somniferum var laciniatum
八重咲きの品種で、ボタンに似た非常に華やかな花を咲かせる。日本にはアヘン採取用のケシと同時期に渡来し、浮世絵などにも好んで描かれた。
var paeoniflorum と var laciniatum では形態が異なり、後者は花弁が糸のように細く裂けるが、日本ではあへん法により栽培が禁止され、園芸種としての命脈が絶えたこともあるので、和名では区別していないようである。
日本国外では種小名の somniferum を略して販売するところもあるので、海外旅行の際、あるいはインターネット等による通販で知らずに種子を購入し、栽培後にあへん法違反で摘発される(発見した麻薬取締員に摘み取り・焼却処分を命じられる)ことが多い品種でもある。
  • デニッシュフラッグ Danish Flag
日本国外で品種改良され開発された品種で、赤地に白い十字模様の入った花弁の縁が細く裂けるといった、凝った一重の花を咲かせる。その様相がデンマークの国旗に似るので、この品種名が付いたものと思われる。ただし P. somniferum であるため、日本では栽培できない。

人間との関係[編集]

医薬品及び麻薬原料として[編集]

本種の未熟果に傷をつけると出てくる乳液からアヘンが穫れ、それを精製したモルヒネや、モルヒネを化学的に変化させたヘロインは麻薬に指定されている。しかし完全な麻薬であるヘロインはともかく、モルヒネは鎮痛鎮静剤として医学薬学的に重要であり、特にがん患者の激痛を和らげたりペインクリニックでの治療に不可欠である、適切な使用に基づけば依存症に陥ることも少ない。なおアヘンモルヒネについての詳細は当該項目を参照されたい。

闇市場における商品価値[編集]

本種には犯罪者の資金源としてビルの屋上やマンションの一室で栽培され、それが往々にして摘発される、といったイメージがあるが、これはケシと大麻を取り違えていることによる誤解である。麻薬原料としてのケシは、

  • 樹葉すべてが薬物としての商品価値を有する大麻と異なり、ケシの麻薬として商品価値のある部分は乳液を固めたアヘンなどごく一部であり、利益率が低い。
  • へら掻きによるアヘンの採取は人手、手間、時間といったコストもかなりかかる。その割に得られる量はごく僅か(1kg のアヘンを得るのに、ケシの実が約2000本も必要)である。
  • そうして集めたアヘンも、効き目がモルヒネやヘロインより数段劣るため麻薬としての商品価値はかなり低い。価値を高めるには精製、及び化学的に加工する必要があるが、そうすると量がさらにアヘンのときの 20~25% までに減る。
  • 有機溶媒を用いて化学的に麻薬成分アルカロイドを抽出する方法は効率的だが、大がかりな装置が必要となるので必然的に発覚しやすい。

といった短所を抱えている。 本種を資金源に利用する側からすれば、リスクを冒して違法栽培をするより、政情不安地域で国際条約を無視して生産したそれを密輸したほうがはるかに手早く、そのような地域からの輸入は金銭的なコストも安く済むことは容易に想像できる。

世界における栽培の現状[編集]

政情が不安定な地域における非合法栽培は別として、世界の多くの国では国内法で本種の栽培に何らかの規制をかけてはいるが、一方では自国で本種を栽培してモルヒネ需要をまかなっており、いたずらに栽培を厳禁しているわけではない。ヨーロッパでは一面に咲きほこるケシ畑が春の風物詩になっているほどである。また、多くの国ではアヘンやモルヒネの採取を目的としない園芸用といった栽培については規制していない。

なお、先進国においては乾燥させた本種の植物体を有機溶媒に浸してアルカロイド成分を浸出させる方法で効率的にモルヒネを回収している。原始的なへら掻きによる採取は、モルヒネの回収率が非効率なこともあり、形としてアヘンを生産する必要のあるアヘン輸出可能国か、非合法生産下でしか行われていない。

日本における栽培の現状[編集]

日本でもあへん法によってアヘンやモルヒネに対する規制がかけられているが、同法は戦前の満州や朝鮮で大規模に行われた戦費調達のためのアヘン生産の反省に基づき、国内での大規模栽培を例外なく禁止する意図の元に策定されている。ゆえにその内容は他国に比較して非常に厳しい。

現在日本においてあへん法に基づく栽培許可を受けるには、栽培地の周囲に二重の金網を張り巡らし門扉には施錠する、といった非常に厳しい条件をクリアしなければならない。ゆえに実際に許可を得て栽培しているのは国や地方自治体の研究機関や、薬科大学、大学薬学部の薬草園、および北海道に国の研究機関から委託されて栽培している数軒の農家があるだけで、国内のアヘン生産量は実験室レベルに留まっている。これではとても国内需要をまかなえないため、日本は国際条約下で数少ないアヘン輸出可能国にもかかわらず、他国からアヘンを輸入している。

なお、2008年には茨城県下妻市にある小貝川ふれあい公園で行われるフラワーフェスティバルの会場では、ポピー畑に誤って栽培禁止種であるアツミゲシが種子の時点でポピーの種子に混入したために数十万本植えられていることが判明し、撤去・焼却処分した事例もある。

日本での栽培史[編集]

日本では桃山時代から江戸時代にかけて中国より渡来し、当初青森県で栽培されていた。それゆえ、アヘンを隠語で津軽と称した。その後山梨県、大阪府などで少量、産出された。第1次世界大戦頃、医薬品国産奨励の一環として栽培が奨励され、1935年頃には全国作付けが100ha、アヘン年間生産量は15tに達した。当時全国産額の50%は和歌山県有田郡で、40%が大阪府三島郡がそれぞれ占めた。

1946年ケシ栽培が禁止されたが、1954年あへん法が制定され、翌1955年から栽培が再開された。しかし戦前のような大規模栽培は復活することなく、現在の栽培量は上述したように実験室レベルに留まっている。

栽培法[編集]

ケシは移植することができないので、直播しなければならない。あぜ幅50cmに作り、9月下旬、10a当たり180mlの割合で種子をまく。翌春、間引きし、株間約10cmとする。5月上中旬、開花花弁が落下し数日を経て子房が十分に発育した頃、子房の立隆線にそって浅く切り傷をつけ、アヘンを採取する。

食用として[編集]

種子は煎ると香ばしく、あんパンケーキに振り掛けたり、七味唐辛子に混ぜるなどして使われる。和菓子の松風には必須の材料である。中央ヨーロッパから東ヨーロッパではポピーシードで作った餡状のペーストをシュトゥルーデルシュトレンパイハマンタッシェンなどの菓子のフィリングとしてよく用いる。モルヒネの含まれていない品種は特にポーランドのパンやケーキに大量に用いられることが広く知られている。東インドでは、種子をすりつぶして煮込み料理に加える他、ケシの実のチャツネも作られる。

栽培品種にもよるが、種子にはモルヒネが含まれていないか、含まれていてもごく微量である。長年にわたって食用に供されてきた歴史があるため、普通どの国においてもポピーシードは規制対象となっていない。日本においても『あへん法』では種子は取り締りの対象から外されており、ゆえに所持していても法的には問題にならない。しかし発芽すると法に触れるので、日本で販売されているケシの種子は加熱による発芽防止処理が施されている。

例外としてシンガポールのように微量であってもモルヒネが含まれていることを問題視し、ポピーシードの使用そのものを禁止している国もある。またアメリカには、ポピーシードを材料に用いた菓子を食べて尿検査で陽性反応が出てしょっぴかれた、といった類の笑い話がある。

また種子には多量の油分が含まれているため、これを絞ったけし油ポピーシードオイル)も食用や石鹸の製造、油彩画の絵の具を溶く描画油に使われる。けし油は植物油としてはかなり高価な部類に入るので、一般的には食用よりはむしろ描画油として使用される。

あへん法等により他に栽培が禁止されている仲間[編集]

ソムニフェルム種の他にはアツミゲシなどのセティゲルム種が規制対象。

アツミゲシ Papaver setigerum

  • アフリカ原産。ケシの亜種と考えられていたが、染色体を調べた結果別種と判明。ケシよりは小型。1960年代渥美半島で初めて帰化が確認されたことから命名された。今では日本全国に広がっている。花は薄紫色で、基部は濃紫色。本種からアヘンが生成された記録はなかったが、世界における栽培の現状で述べられている有機溶媒を使用した化学的手法によって本種からもアルカロイドの抽出が可能である。

ハカマオニゲシ Papaver bracteatum

  • ペルシャ原産。花びらの下にハカマとよばれる小葉が付く。花は深紅で、基部に黒い斑点がある。麻薬類似成分であるテバインを含むため、麻薬及び向精神薬取締法により麻薬原料植物に定義されており、栽培が禁止されている。
    オニゲシ (P. orientale) によく似ているが、オニゲシに深紅の花の種類はないなどの点で区別できる。

なお、これ以外のヒナゲシなどの観賞用のケシは、麻薬成分を含まないので栽培しても問題は無い。

ケシをモチーフとした作品[編集]

  • 悪の華 - ボードレールの詩集。悪の華とはすなわちケシであるという説がある。
  • けしの花 - 日本の伝統音楽である地歌の楽曲。はかないけしの花に女性をなぞらえて恋心をうたっている。
  • ザ・クイズショウ - 日本テレビ系列のドラマで第2シーズンの劇中に登場。ヒナゲシのコイン・絵本・ヒナゲシ畑など。

脚注・参考文献[編集]

  1. ^ NHKスペシャル. “調査報告 日本軍と阿片”. 2008年8月17日閲覧。
  2. ^ AFPニュース. “ケシ栽培から脱却できないアフガニスタンの農民”. 2011年5月3日閲覧。
  3. ^ ただし、英名では blue poppy seed と呼ばれ、色は青ということになっている。
  4. ^ 朝日新聞社編 「植物の世界」  朝日新聞社 1997年9月 第8,14巻 ISBN 4-02-380010-4

関連項目[編集]

台湾総督府民政長官。阿片漸禁策により台湾のアヘン禍根絶に成功。
農業技術者。ケシの栽培技術改良と品種改良を行い、日本国内はもとより満州朝鮮内蒙古でその普及に努めた。日本の阿片王と言われる。
新聞記者を振り出しに、関東軍と結託し第二次大戦中に中国大陸におけるアヘン流通ルートを開拓し、その後日中両国にまたがるアヘンの一大シンジケートを差配した。戦後は表社会から身を退いたものの、そのとき成した財を用いて政官財を操る首領として裏社会に君臨する。彼もまた阿片王の名で呼ばれる。
児童文学者で二反長音蔵の息子。「戦争と日本阿片史」という著作がある。
星製薬創業者。二反長音蔵と組みアヘンの日本国内生産に尽力する。

外部リンク[編集]