オーバードース

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オーバードースdrug overdose過剰摂取過量服薬)とは、身体あるいは精神にとって、急性の有害な作用が生じるような量によって薬物が使用されることである[1]。略称は、ODである。それによって一時的、あるいは永続的な影響があり、最悪は死亡することがある[1]。意図的な過剰摂取は、自殺企図を指す[1]。数では違法な薬物よりも、合法的な薬物におけるほうが多い[1]

向精神薬のうち中枢神経系を抑制する、モルヒネのようなオピエート類の薬物、アルコール抗不安薬睡眠薬に多いバルビツール酸ベンゾジアゼピンは、作用する量と致死量が近いものがあり、また相乗作用でそれぞれの薬物の作用を高めるために危険性を増す。

近年、医師から処方された向精神薬を過量服薬する例が相次いでおり、何度も繰り返すケースがある。精神疾患患者に対する精神安定剤や睡眠薬などの多剤大量処方も問題となっている[2]。2012年8月の日本の閣議決定で薬剤師の活用も提起されているが[3]、2014年度からは、一定数を超えた抗不安薬・睡眠薬、抗うつ薬、抗精神病薬の処方には、診療報酬が減額されることが決定した。

近年、医薬品の過剰摂取による死亡は、英米でも交通死亡者数を上回り、国際的な懸念となっている[4][5]。アメリカでは、11年連続で過剰摂取による死亡が上昇し、2010年にはアルコール以外に38,329人の薬物過剰摂取による死亡があり、死亡の原因となっている薬物は一般医薬品や違法薬物ではなく、処方せん医薬品が原因となっているものが過半数を超えており、そして全体の74.3%が意図しない死亡であり自殺目的は17.1%にすぎない[6]。そのうち、鎮痛剤に使われるオピオイド系薬物の関与が16,651人で最多、鎮静催眠剤であるベンゾジアゼピン系薬物が6,497人で第2位、3位に抗うつ薬が3,889人と続く[6]

概要[編集]

服用量のdoseと、過剰・超過を意味するoverの複合語である。

オーバードースの原因には、誤飲/誤判断、自殺企図/自傷行為を目的としたもの、現実逃避、多幸感を得る為など多々ある。

ICD-10精神と行動の障害においては、F1x.0が急性中毒(Acute intoxication)であり、持続的な問題であれば薬物乱用、あるいは依存症候群の可能性もある[7]

意図的ではなく、誤判断による過剰摂取による死亡は、アメリカにおいて処方せん医薬品よるものが過半数であり、全体の74.3%もが意図的でない死亡であるため、重大な懸念となっている[6]。危険性が高いのは、特にヘロインモルヒネのような鎮痛薬、アンフェタミンアルコールベンゾジアゼピン系の医薬品や、これらが同時に摂取された場合である[8]

誤判断の例として、作用量と致死量が近い薬物を日常的に利用している場合、薬物に耐性がついて以前と同じ量では効かなくなるが、しばらく利用をやめ耐性が回復したにも関わらず、以前と同じ感覚で利用した場合に、過剰摂取してしまう場合がある[8]。特に解毒施設や薬物更生施設、刑務所から解放された後はリスクが高い[8]

他には、薬の誤飲や、用量の誤判断がある。たとえば、子どもがを含むマルチビタミン剤によってオーバードースに陥る場合である。アメリカで子供が救急医療を必要とする頻度の高い原因として、アルコールやメチルフェニデートと並んで、エナジードリンクがある[9]

自殺企図を試みて、処方薬の過量服用を行う場合がある。精神疾患にかかっている場合、過量服薬を繰り返す場合がある[10]自傷行為は致死性が低い点で、自殺企図とは本質的に異なるが、自傷行為を行う患者の場合、一つの方法を繰り返すよりは複数の方法を用いる場合が多く、こうした場合、過量服薬直後に人に打ち明け介入を求める傾向もある[10]

従って、2009年の英国国立医療技術評価機構(NICE)の診療ガイドラインは、自殺企図や自殺念慮の強い傾向がある場合には薬物療法を用いず、もし用いるとしても相対的に安全な薬で1週間をめどにし、効果がなければ中止することを推奨している[11]。2008年の日本のガイドラインも、そうした患者に対し、抗うつ薬と抗精神病薬のような併用療法の有効性を支持する証拠もなく、同種類の薬を複数処方することにも注意し、過量服薬の危険性にも注意することを推奨している[12]

日本では多剤大量処方の問題があり、合計すれば致死的になるほどの処方薬が処方される場合もある[13][14]。上のようなガイドラインの後も、こうした患者に対して大量に処方する医師の存在は珍しくないとされる[15]

8月31日は、国際過剰摂取啓発デーである[16]

薬物と致死性[編集]

縦軸:依存性:上に行くほど依存性の可能性の高い物質。横軸:右に行くほど活性量と致死量が近い。[17]

ヘロインや、モルヒネのようなオピオイド系麻酔薬が呼吸中枢を抑制する危険性が最も高い。アルコールはそれらに匹敵するほど高く、バルビツール酸系睡眠薬や、ベゲタミン(商標名)や、ペントバルビタール(商標名ラボナ)も作用量と致死量が近い。またアルコールのような薬物は、ほかの薬物の作用を高め、深刻な事象に至る場合がある。

薬の種類としては、バルビツール酸系に代わり、ベンゾジアゼピン類が用いられることも多いが、フルニトラゼパム(商標名ロヒプノール、サイレース)のような強力なベンゾジアゼピン類も致死性が近いことには変わりがない。問題になっている多剤大量処方により、意図的に過量服薬しなくても深刻な作用になっている場合がある。

カフェインのような薬物では、作用量と致死量との差が100倍あるが、こうした薬物の場合オーバードーズによる死は起こりがたい。しかし、エナジードリンク[18]、カフェイン錠剤の過剰摂取による死亡がたまに報道されている[19]

逆に、大麻LSDシロシビンでは図のように安全係数が高く、重症例、死亡報告はほとんどない[20]

症候と症状[編集]

また薬を問わず、繰り返しオーバードースを行うことによっての、肝臓腎臓など内臓の機能低下を含めた悪影響も懸念される。

また、アルコールや睡眠効果のある薬や精神系の薬を大量服薬に使用した場合、一時的な記憶障害が症状として現れるときもある。具体的には大量服薬した前後の記憶がない、一時的に解離のような症状を呈するなど。また抗不安薬や睡眠薬による奇異反応が生じた場合、攻撃性が生じることもある。これらは、一時的なものであり、薬剤の血中濃度が下がれば回復する。

診断と治療[編集]

オーバードースの診断と治療は、薬物が分かっている場合は困難ではない。

救急病院では、精神科などで処方された向精神薬などによるオーバードースの場合は、胃洗浄によってその薬品を吸い出す。もちろん命に別状がないと判断した場合はその限りではない。

薬物が不明、あるいはすでに昏睡している場合、診断と治療は困難になる。時には患者が示す症候や血液検査で薬物が判明することもある。薬物が不明の場合、ごく一般的な処置をおこなう。

救急病院では、トライエージDOAのような薬物検査キットが用いられるが、検出に対応した薬剤でも、エチゾラム(商標名デパス)のような薬物では検出閾値が高く、相当量服用していなければ検出できない。

睡眠薬である場合は、ベンゾジアゼピン系過量服薬英語: Benzodiazepine overdose)や、バルビツール酸系過量服薬も参照される。アルコールや睡眠薬が原因の場合、今度は、それらが慢性的に大量に摂取されていた場合の急な完全な断薬から生ずる離脱症状の振戦譫妄(DT)が致命的となる可能性があることに注意が必要である。振戦譫妄は、断薬から2~3日で激しくなり、4~5日で最高となる。

オーバードースで死亡した人物[編集]

映画関係[編集]

音楽関係[編集]

作家[編集]

アスリート[編集]

その他[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d 世界保健機関 1994, p. 50.
  2. ^ 日本うつ病学会、日本臨床精神神経薬理学会、日本生物学的精神医学会、日本総合病院精神医学会 (2010年12月1日), “「いのちの日」 緊急メッセージ 向精神薬の適正使用と過量服用防止のお願い” (pdf) (プレスリリース), http://www.jsbp.org/link/dayoflife20101129.pdf 2013年3月12日閲覧。 
  3. ^ 嶋根卓也「ゲートキーパーとしての薬剤師 医薬品の薬物乱用・依存への対応」 (pdf) 、『日本薬学会』第133巻第6号、2013年、 617-630頁、 NAID 130003361957
  4. ^ Nick Wing (2013年8月30日). “America, It's Time For An Intervention: Drug Overdoses Are Killing More People Than Cars, Guns”. huffingtonpost. http://www.huffingtonpost.com/2013/08/30/drug-overdose-deaths_n_3843690.html 2014年5月22日閲覧。 
  5. ^ Overdose Basics”. International Overdose Awareness Day. 2014年1月20日閲覧。
  6. ^ a b c Jones, Christopher M.; Mack, Karin A.; Paulozzi, Leonard J. (February 2013). “Pharmaceutical Overdose Deaths, United States, 2010”. JAMA 309 (7): 657. doi:10.1001/jama.2013.272. PMID 23423407. http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1653518. 
  7. ^ 世界保健機関 2005, p. 85.
  8. ^ a b c Overdose Facts & Stats”. International Overdose Awareness Day. 2014年1月20日閲覧。
  9. ^ Brenda Goodman (2011年11月22日). WebMD. http://www.webmd.com/mental-health/addiction/news/20111121/energy-drinks-send-thousands-to-the-er-each-year 2014年6月25日閲覧。 
  10. ^ a b B・W・ウォルシュ 2007, pp. 26-31.
  11. ^ 英国国立医療技術評価機構 (2009a-01). Borderline personality disorder - Clinical guidelines CG78 (Report). National Institute for Health and Clinical Excellence. pp. Introduction,1.3.5.1. http://guidance.nice.org.uk/CG78 2013年3月24日閲覧。. 
  12. ^ 平島奈津子、上島国利、岡島由香 2008, pp. 140-141,145-146.
  13. ^ 軽い不眠症で薬漬けの妻が死亡 夫は薬物中毒死を訴え続ける”. SAPIO (2011年10月20日). 2013年6月21日閲覧。
  14. ^ 頻発する患者の死(2)「わがままな子」の治療”. yomidr. (2012年1月23日). 2013年6月21日閲覧。
  15. ^ 齊尾武郎「そんなに薬が必要ですか――職場でよくみる精神科多剤投与の実際――第107回日本精神神経学会学術総会シンポジウム:向精神薬の過量服薬,自殺企図を巡る諸課題」 (pdf) 、『精神神経学雑誌』2012年、 SS163-SS170。
  16. ^ International Overdose Awareness Day
  17. ^ Robert S., Gable. “Acute Toxicity of Drugs Versus Regulatory Status”. In Jeffeson M. Fish. Drugs and society : U.S. public policy. Rowman & Littlefield. pp. 149-162. ISBN 0-7425-4245-9. http://books.google.co.jp/books?id=xpZhjBuDkuwC. 
  18. ^ Daniel J. DeNoon (2012年10月23日). “FDA: 5 Death Reports for Monster Energy Drink”. WebMD. http://www.webmd.com/food-recipes/news/20121023/death-reports-monster-energy-drink 2014年6月25日閲覧。 
  19. ^ Kerry Mcqueeney (2012年3月8日). “Bank worker kills himself after he takes massive overdose of caffeine tablets”. デイリー・メール. http://www.dailymail.co.uk/news/article-2111916/Edward-Fisher-Caffeine-tablets-kill-Knutsford-bank-worker-takes-massive-overdose.html 2014年6月25日閲覧。 
  20. ^ 上條吉人 『臨床中毒学』 相馬一亥(監修)、医学書院、2009年10月、224、226、236。ISBN 978-4260008822
  21. ^ GWAR Vocalist Dave Brockie’s Cause of Death Ruled as Accidental Heroin Overdose

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]