オーバードース

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オーバードースdrug overdose過量服薬)とは、向精神薬、つまり医薬品薬物を、生体恒常性がそこなわれる用量になるほど摂取すること、それによって起こる状態、症状、または概念である。心身に深刻な症状を引き起こし、時に死亡する場合もある。本質的に、生体に対するの作用である。

オーバードースの語は、薬物の1回あたりの適正服用量のdoseと、過剰・超過を意味するoverの複合語、Over Dose である。略称は、ODである。

向精神薬のうち中枢神経系を抑制する、モルヒネのようなオピエート類の薬物、アルコール抗不安薬睡眠薬に多いバルビツール酸ベンゾジアゼピンは、作用する量と致死量が近いものがあり、また相乗作用でそれぞれの薬物の作用を高めるために危険性を増す。

近年、医師から処方された向精神薬を過量服薬する例が相次いでおり、何度も繰り返すケースがある。精神疾患患者に対する精神安定剤や睡眠薬などの多剤大量処方も問題となっている[1]

概要[編集]

オーバードースという語は、安全な服薬という概念の対であり、薬物に対して使われることはあっても毒物に対しては使わない。

オーバードースの目的には、誤飲、誤判断、自殺企図、自傷行為現実逃避、多幸感を得る為など多々ある。

意図的でないものに、薬の誤飲や、用量の誤判断がある。たとえば、子どもがを含むマルチビタミン剤によってオーバードースに陥る場合である。鉄は血液中で酸素の運搬を担うヘモグロビンの成分であり、少量の摂取はヘモグロビンの補給を助けるが、多量の摂取は身体のpHバランスを大きく崩す。この場合、キレート療法(chelation therapy)が適切に行われなければ死亡することもある。

誤判断の例として、作用量と致死量が近い薬物を日常的に利用している場合、薬物に耐性がついて以前と同じ量では効かなくなるが、しばらく利用をやめ耐性が回復したにも関わらず、以前と同じ感覚で利用した場合に、致死量を摂取してしまう場合がある。これには、特にヘロインコカインアンフェタミンアルコールバルビツール酸系医薬品や、これらの同時に摂取が当てはまる。

自殺企図を試みて、処方薬の過量服用を行う場合がある。精神疾患にかかっている場合、過量服薬を繰り返す場合がある[2]自傷行為は致死性が低い点で、自殺企図とは本質的に異なるが、自傷行為を行う患者の場合、一つの方法を繰り返すよりは複数の方法を用いる場合が多く、こうした場合、過量服薬直後に人に打ち明け介入を求める傾向もある[2]

従って、2009年の英国国立医療技術評価機構(NICE)の診療ガイドラインは、自殺企図や自殺念慮の強い傾向がある場合には薬物療法を用いず、もし用いるとしても相対的に安全な薬で1週間をめどにし、効果がなければ中止することを推奨している[3]。2008年の日本のガイドラインも、そうした患者に対し、抗うつ薬と抗精神病薬のような併用療法の有効性を支持する証拠もなく、同種類の薬を複数処方することにも注意し、過量服薬の危険性にも注意することを推奨している[4]

日本では多剤大量処方の問題があり、合計すれば致死的になるほどの処方薬が処方される場合もある[5][6]。上のようなガイドラインの後も、こうした患者に対して大量に処方する医師の存在は珍しくないとされる[7]

薬物と致死性[編集]

縦軸:依存性:上に行くほど依存性の可能性の高い物質。横軸:右に行くほど活性量と致死量が近い。[8]

ヘロインや、モルヒネのようなオピオイド系麻酔薬が呼吸中枢を抑制する危険性が最も高い。アルコールはそれらに匹敵するほど高く、バルビツール酸系睡眠薬や、ベゲタミン(商標名)や、ペントバルビタール(商標名ラボナ)も作用量と致死量が近い。またアルコールのような薬物は、ほかの薬物の作用を高め、深刻な事象に至る場合がある。

薬の種類としては、バルビツール酸系に代わり、ベンゾジアゼピン類が用いられることも多いが、フルニトラゼパム(商標名ロヒプノール、サイレース)のような強力なベンゾジアゼピン類も致死性が近いことには変わりがない。精神科で気分安定薬として処方される抗てんかん薬の添付文書には、バルビツール酸系、ベンゾジアゼピンや、抗うつ薬の作用を高めると書かれている。問題になっている多剤大量処方により、意図的な過量服薬しなくても深刻な作用になっている場合がある。

カフェインのような薬物では、作用量と致死量との差が100倍あるが、こうした薬物の場合オーバードーズによる死は起こりがたい。

症候[編集]

また薬を問わず、繰り返しオーバードースを行うことによっての、肝臓腎臓など内臓の機能低下を含めた悪影響も懸念される。

また、アルコールや睡眠効果のある薬や精神系の薬を大量服薬に使用した場合、一時的な記憶障害が症状として現れるときもある。具体的には大量服薬した前後の記憶がない、一時的に解離のような症状を呈するなど。また抗不安薬や睡眠薬による奇異反応が生じた場合、攻撃性が生じることもある。これらは、一時的なものであり、薬剤の血中濃度が下がれば回復する。

診断と治療[編集]

オーバードースの診断と治療は、薬物が分かっている場合は困難ではない。

救急病院では、精神科などで処方された向精神薬などによるオーバードースの場合は、胃洗浄によってその薬品を吸い出す。もちろん命に別状がないと判断した場合はその限りではない。

薬物が不明、あるいはすでに昏睡している場合、診断と治療は困難になる。時には患者が示す症候や血液検査で薬物が判明することもある。薬物が不明の場合、ごく一般的な処置をおこなう。

救急病院では、トライエージDOAのような薬物検査キットが用いられるが、検出に対応した薬剤でも、エチゾラム(商標名デパス)のような薬物では検出閾値が高く、相当量服用していなければ検出できない。

睡眠薬である場合は、ベンゾジアゼピン系過量服薬英語: Benzodiazepine overdose)や、バルビツール酸系過量服薬も参照される。アルコールや睡眠薬が原因の場合、今度は、それらが慢性的に大量に摂取されていた場合の急な完全な断薬から生ずる離脱症状の振戦譫妄(DT)が致命的となる可能性があることに注意が必要である。振戦譫妄は、断薬から2~3日で激しくなり、4~5日で最高となる。

オーバードースで死亡した人物[編集]

映画関係[編集]

音楽関係[編集]

作家[編集]

アスリート[編集]

その他[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 日本うつ病学会、日本臨床精神神経薬理学会、日本生物学的精神医学会、日本総合病院精神医学会 (2010年12月1日), “「いのちの日」 緊急メッセージ 向精神薬の適正使用と過量服用防止のお願い” (pdf) (プレスリリース), http://www.jsbp.org/link/dayoflife20101129.pdf 2013年3月12日閲覧。 
  2. ^ a b B・W・ウォルシュ 2007, pp. 26-31.
  3. ^ 英国国立医療技術評価機構 (2009a-01). Borderline personality disorder - Clinical guidelines CG78 (Report). National Institute for Health and Clinical Excellence. pp. Introduction,1.3.5.1. http://guidance.nice.org.uk/CG78 2013年3月24日閲覧。. 
  4. ^ 平島奈津子、上島国利、岡島由香 2008, pp. 140-141,145-146.
  5. ^ 軽い不眠症で薬漬けの妻が死亡 夫は薬物中毒死を訴え続ける”. SAPIO (2011年10月20日). 2013年6月21日閲覧。
  6. ^ 頻発する患者の死(2)「わがままな子」の治療”. yomidr. (2012年1月23日). 2013年6月21日閲覧。
  7. ^ 齊尾武郎「そんなに薬が必要ですか――職場でよくみる精神科多剤投与の実際――第107回日本精神神経学会学術総会シンポジウム:向精神薬の過量服薬,自殺企図を巡る諸課題」 (pdf) 、『精神神経学雑誌』2012年、 SS163-SS170。
  8. ^ Robert S., Gable. “Acute Toxicity of Drugs Versus Regulatory Status”. In Jeffeson M. Fish. Drugs and society : U.S. public policy. Rowman & Littlefield. pp. 149-162. ISBN 0-7425-4245-9. http://books.google.co.jp/books?id=xpZhjBuDkuwC. 

参考文献[編集]

  • B・W・ウォルシュ 『自傷行為治療ガイド』 金剛出版、2007年3月ISBN 978-4-7724-0956-8、Treating Self-injury : A Plactical Guide, 2006
  • 牛島定信編集 「8章 境界性パーソナリティ障害の薬物療法」『境界性パーソナリティ障害―日本版治療ガイドライン』 金剛出版、2008年9月、135-152頁。ISBN 9784772410410

関連項目[編集]