職務記述書

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職務記述書(しょくむきじゅつしょ)は、英語では「job description(ジョブ・ディスクリプション)の直訳として、日本では紹介されている。しかし、その文書内容は今日ではまだ必ずしも「job description(ジョブ・ディスクリプション)と同意とはなっている組織は日本では少ないようなので(#日本における職務記述書)、以下の内容の視点を整えやすくするため、軸はジョブ・ディスクリプションの意から述べることにする。

ジョブ・ディスクリプションは、職務内容を記載した雇用管理文書である。労働者の職務を明確化することによって「働きの度合い」と「賃金」を繋げる役割がある。成果主義、成果給を導入する際には不可欠なものであり、企業の人事考課方針などに使用される。英語では「job description(ジョブ・ディスクリプション)」といい、評価制度が一般的であるアメリカヨーロッパでは、雇用管理の土台となる文書として広く用いられている。

責任と役割毎に用意され、1つの(「一人の」ではなく)ポストに1つの文書となるのが基本である。ただし、マニュアル管理できるようなパターン職務の場合には、「働きの度合い」 と「賃金」の関係が安定しているので、1つの文書で同一職務担当者に適用することが可能である。働きに伴う「意志」の部分を管理するための文書である。

なお、ジョブ・ディスクリプションの意訳に相応する日本語文書として、特にデスクワーカーの働きの「質」管理を目的にした「TROS式 業務内容取り決め書」という文書が開発されたので、それについては後段に触れておく。

概要[編集]

人ではなく「ポスト」に用意されている文書であり、組織の活動目的の反映も行いやすくなる。「人」とのつながりは、評価行為で行うのが一般的である。

人の「暮らし」と経済の「変動性」という異質のものの間の調整を図り、それぞれの存続を可能にするためには必須の文書であり、パソコンに喩えるならばWindowsMac OSといったOSに相当する。

調整機能を、人員削減よりも一人ひとりが会社の存続のために行う「努力」に求めているのが、本来の姿である。安易に人員削減に活用する組織もあれば、組織員の能力開発の土台として活用する組織もある。「両刃の刃」的性質も併せ持つが、それはすなわち雇用管理のOS的存在である証でもある。

組織の活動目的の変更、組織構成の変更等がなければ、作るのは1度だけの作業で終わる。OSなので、基本的には何度も作り直すという性質のものではない。

日本の既存の組織、また文書を日本語で表記する場合には、「人は言語で思考し、判断し、行動する」ものであるから、その状況を反映したものであるジョブ・ディスクリプションという文書にも、自ずと欧米言語と日本語の異なりがもたらす情報の整理を欠かすことは出来ない。さらにまた、言語は風土という背景を反映していることから、ジョブ・ディスクリプションという文書作成においては、日本の風土、日本語の特性、日本人の意思疎通の特性、日本の組織における業務進行の特性等、その国の風土を反映した上で、上記概要をカバーできる内容に整えることが不可欠である(#日本型ジョブ・ディスクリプション)。

また、昨今の働きにはPCやITCといったものを活用する仕事が多いので、そういう仕事の場合にはジョブ・ディスクリプションという文書の記述方法/内容に工夫を行い、IT時代に対応したものとしておくことが望ましい。

効果[編集]

  • 雇用管理に生じるミスマッチの是正
  • 成果評価の納得性
  • 人材育成の効率向上

活用方法[編集]

文書内容を対象に働きの評価管理ができることは必須だが、働きの評価管理が可能な文書であれば、当然、その文書内容の働きの良し悪しから、担当者の業務力を上げるための、業務研修プログラムや、担当者へのキャリアカウンセリング等々、担当者の力量を引き上げるために会社が行う様々な事が、効率という名の下で容易となる。

文書に載せる内容[編集]

各ポストに求められている「責任」。権限については、特に記載されていないのが普通である。組織が、該当ポストに求める責任と、その責任を全うするために必要と思われる「知識やスキル」の内容、またそれを補足する程度の経験内容が載せられているのが一般的である。

様々な組織管理文書との違い[編集]

作業マニュアル[編集]

アメリカでは、ジョブ・ディスクリプションというOSの上に機能しているアプリケーション文書の一つとして存在する。

文書内容に記載される「働きの出来映え」と「賃金」の関係が安定していることから、独立して使われることもある。働きの定型化を促し、管理するための文書である。働きの成果という目的に最短でたどり着くことを容易にさせるために開発された。作業マニュアルでは、危機に最短で対応するという目的で作られる事が多い、「危機対応マニュアル」が文書様式として理解しやすい。

人間の得意とする創意工夫を限りなく押さえることから、人間を機械化するための管理文書ともいわれることもあるが、一方で働いている側からすれば、求められていることがパターン化しているので気楽だということがある。最大のデメリットは、ITというもっともパターン作業を得意とする存在を一方に抱えた社会の下では、ITとの競合を起こすことから労働力の市場性を鈍らせ、賃金格差の温床につながりやすいということがある。

作業手引き書[編集]

作業に必要な参考情報が載せてあることが一般的。

参考情報なので、いつでもすぐに情報にたどり着けるよう、しっかりした目次が作られていることが多い。作業マニュアルのように、働きに定型化を促すことを目的としているのではない。作業方法、段取り、準備などの情報が載せられていることが多いが、いずれも定型化されていることではない。

目標管理文書[編集]

アメリカでは、ジョブ・ディスクリプションというOSの上に機能しているアプリケーション文書の一つとして存在する。

ジョブ・ディスクリプションには、ポストの担当任務の責任が明瞭化されているが、その明瞭化されている範囲内の成果向上を狙うのが目標管理文書の目的。

ここでいう成果とは、担当任務内容の出来高だけではなく、昨今では出来映えも含まれてくる。そのため、担当ポストの職務を通じて会社の効率確保ばかりでなく、理念の具現化に向けた活動も対象に置きやすくなっている。 また、ジョブ・ディスクリプションは、ポストそのものを賃金と繋げることを可能にしているので、賃金に一定の安定を確保し、賃金に暮らしを支えるという意味を持たせた上に、更なる成果という意味合いで他動要因に影響されやすい目標管理文書による成果を賃金にも織り込むことを可能にするというように、成果の考え方に2通りの意味を用意することを可能にしている。

日本では目標管理文書を運用するにあたって、ジョブ・ディスクリプションに相応するような働きそのものを可視化している管理文書を用意しているところが少ない。そのため、目標管理文書の設定内容は効率というような、単位数量によって可視化がしやすい出来高に焦点をおいたものになりやすいということがある。

目標管理文書を導入するときには、働きそのものの管理をできるようにしておくこと、また過度な比重は防ぐことが必要で、それらが上手くないと社員のモラルハザードを容易に招き、手抜きやごまかしといった不良な働きの温床となりやすい。

アメリカでも、’70年代中頃から’80年代中頃に渡った不況の際に、企業が利益減少を焦ることから、成果重視に目標管理文書への比重を過度にかけたことから不良な働きが多発し、不況の中で更に企業が社会的信用を回復するのが大変だったという経験がある。

チャレンジ管理文書[編集]

アメリカでは、ジョブ・ディスクリプションというOSの上に機能しているアプリケーション文書の一つとして存在する。

ジョブ・ディスクリプションには、ポストの担当任務の責任が明瞭化されているが、目標管理文書と異なりその明瞭化されている範囲内を出るor超え、社内の別のポストとの間に生じている課題に挑むことを促すことがチャレンジ管理文書の目的。

しかし、担当職務の範囲を出るor超えることを奨励するということは一方でポストにおける生産性に不明瞭化を招いたこと、またチャレンジ管理文書で良いスコアを得るには新たな知識やスキルの習得を余儀なくされることから、賃金と働きが密接しているアメリカにおいては社員も好まなかったし、同一労働・同一賃金を旨とするアメリカの雇用管理の根底に揺らぎを招いたためか、名称はよかったが目標管理文書ほどアメリカでは拡がらなかったようだ。

コンピテンシー[編集]

アメリカでは、ジョブ・ディスクリプションというOSの上に機能しているアプリケーション文書の一つとして存在する。

もとより、効率重視のアメリカでは人の努力や責任感という属人的要素は働きの成果として表れると扱われるため、働きの可視化である、ジョブ・ディスクリプションという文書を対象にした評価という行為の評価視点は効率に置かれていた。

しかし、ITが通常のどのような職務にも登場してきたことから、どの職務にも顕在的な要素というものが可視化されやすいことでもなくなり、そこから評価結果への不明瞭性が課題となってきた。そこで、評価視点に潜在力(日本的属人要素とほぼ同意)という、不明瞭性な要素を評価視点と加えることでその課題に対応しようという工夫。

目標管理文書やチャレンジ管理文書と異なり、こちらはジョブ・ディスクリプションの記述内容と時代変化との調整のために生じた評価行為の工夫とし生まれてきた文書。

ISOマネジメントシステム文書[編集]

ジョブ・ディスクリプションという縦割り管理を横断管理によって、組織が掲げる特定の課題(品質or環境)への組織全体の取り組みを支えるための文書として、開発された。

アメリカやヨーロッパなどではジョブ・ディスクリプションというOS上で生じている働きを、PDCA(=企画立案・実行・監視測定・見直し)に焦点を当ててチェックすることで管理効率をあげる文書として存在する。

ISOの冒頭に「品質-3.3.2人々の責任、権限及び相互関係の配置」「環境-4.4.1資源、役割、責任及び権限」とあるところが、ISOとジョブ・ディスクリプションが欧米社会では繋がっている部分に相応する。

日本の多くの組織ではジョブ・ディスクリプションに該当するような一人ひとりのではなく、「一つ一つのポスト」の任務内容を整理した文書ではなく、組織図、あるいは管理層を対象にした簡単な職掌文書のようなものを充てていることがままあるが、ISO文書の形骸化はそのようなことが発端となりやすい。

TROS式 業務内容取り決め書[編集]

デスクワーカーの働きの「質」を管理対象にするため、開発された文書。 「質」を管理対象としているため、業務内容を記述したものに対する名称である職務記述書とは分けている。 働きの管理に止まらず、社員の日常業務の研修、キャリアカウンセリングの際に使える点は、ジョブ・ディスクリプションと同じ。

作成した文書に対し「透明性」「納得性」「公平性」を担保するには、偏りなく「質」情報を集める事が必須で、従前のヒアリング法や観察法では、集める情報の偏りをなくすことができなかった。昨今、その問題を解消するために「TROS」というシステムブログラムが開発されている。

TROSは、当人と会社の双方にとって「透明性」「納得性」「公平性」を担保しながら、社員一人ひとりの働きに伴う「質」情報を集める事を目的として開発されたプログラムだが、そのプログラムによって集めた「質」情報を、文書に束ねる際に行う工夫で、コンサル業務のように情報だけを扱うデスクワーカーの働きに伴う「質」の可視化を行っている文書である。

統合管理文書[編集]

「TROS式 業務内容取り決め書」によって文書化された働きの内容を、働きの質/働きの量/品質性/環境性/コンプライアンスというように、組織が管理すべき視点を管理ベクトルに立てることを可能にした文書で、一つの文書に記された働きを通して、活動全般をあらゆる角度から総合管理を行えるように仕立てた文書のこと。

日本における職務記述書[編集]

歴史[編集]

1970年頃にアメリカより日本に紹介された。当時、日本は高度経済成長下にあり、その更なる生産性向上を目指して国をあげて取り組み、大手企業がリーダー役となり、大々的に文書化が行われた。しかし年功序列賃金、生活給を土台としていた当時の日本では、成果別賃金、同一賃金・同一労働を下支えする文書という発想は受容されず、文書の使用目的に不明瞭な点があった。

その後、アメリカより作業マニュアルが紹介され、こちらの方が文書の使用目的が明瞭だったため、日本に作業マニュアルは定着した。また、作業手引き書も導入されたが、これも日本には定着した。

ところが、作業マニュアルや作業手引き書の定着によって、もとより使用目的が不明瞭だった職務記述書という文書に整えておくべき文書内容に揺らぎが生じ、今日では日本語で書かれた仕事の文書の総称のような状態となっていることが多く見られる。

日本で実用的な仕事の文書の作成が普及しなかった背景には、賃金根拠についての思想が異なっていたこともあるが、日本語の言語としての性質が印欧語と の間に隔たりを持ち、その特性や思考背景の違いについてのすり合わせを行わずに文書化作業に踏み込んでしまったのが要因といえる。日本語によって日本人の 間で機能する仕事の文書を整えるには、日本の風土、文化からの考察が不可欠である。なぜならば、人は言語によって思考し、その思考に基づいて判断し、行動 するからである。

日本型ジョブ・ディスクリプション[編集]

日本の既存の組織、また文書を日本語で表記する場合には、「人は言語で思考し、判断し、行動する」ものである。そのため、働きに伴う意志を反映したものであるはずの職務記述書にも、自ずと欧米言語と日本語の異なりがもたらす情報の整理を欠かすことは出来ない。さらにまた、言語は風土という背景を反映していることから文書作成においては日本の風土、日本語の特性、日本人の意思疎通の特性、日本の組織における業務進行の特性等、その国の風土を反映した上で、上記概要をカバーできる内容に整えることが不可欠。日本語と欧米言語の特性の違いを視野に入れて文書化に反映することが必要である。

また、既存の組織がこの文書を導入するにあたっては、部下ポストの文書を上司のみによって、あるいは担当者である部下のみによって作ることは、上司は部下の働きに十分満足している場合であり、なおかつ部下は上司による評価結果に十分満足している場合以外に行うことは、経営効率に影響を及ぼすので好ましいことではない。

既存の組織おける文書作成には、1つのポストの職務記述書を用意するのに、該当ポストの上司と担当者である部下の双方から情報を集め、文書化の材料にすることが必要である。もちろん、日本と欧米における「働く」ということへの文化的背景の違いも、文書化の際に押さえておくことは当然のこととされる。

参考[編集]


参考文献[編集]

  • The Management of HUMAN RESOURCES by David J.Chrrington (Allyn and Bacon)
  • HUMAN RESOURCES MANAGEMENT by Gray Dessler (Prentice Hall)
  • PERSONNEL HUMAN RESOURCES MANAGEMENT by Carrell Kuzumits Elbert
  • KAIZEN by MASAAKI IMAI (McGRAW-HIll INTERNATIONAL EDITIONS)
  • Your rights on the JOB by Robert M0 Schwartz (The Labor Guild of BOSTON)
  • 2011/3/8号「経済界」竹村健一×玄間千映子:-日本人の特性を理解しうまく「文書化」すれば、まだまだ日本は世界と伍していけます-
  • 2011/2/8  2/22号「経済界」竹村健一×玄間千映子:-「労働」は「善意」や「努力」など社会的な貢献度で評価すべき時期に来ています-
  • 「伸びる会社は月曜の朝がいちばん楽しい―NY発ヒューマン・マネジメントのすすめ」奥山由実子(アーク出版)
  • 「日本語の特質」金田一春彦著 (NHK Books)
  • 「日本人らしさの構造」芳賀綏著 (大修館書店)
  • 「情緒と創造」岡潔著 (講談社)
  • 「朗働の時代」玄間千映子著 (太陽企画出版)
  • リストラ無用の会社革命 竹村健一×玄間千映子 (太陽企画出版)
  • ジョブ・ディスクリプション一問一答 玄間千映子 (産労総合研究所)
  • コラム散歩道 玄間千映子著 (機関誌「港湾」2010/1月号)

関連項目[編集]