同一労働同一賃金

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

同一労働同一賃金(どういつろうどうどういつちんぎん)または同一価値労働同一賃金(どういつかちろうどうどういつちんぎん)とは、同一職種であれば同一の賃金水準を適用させる賃金政策のこと。あるいは、企業間、産業間(業種間)、男女間、雇用形態間(正規雇用非正規雇用か)の賃金格差の解消を目指すこと。

国際労働機関(ILO)では、同一労働同一賃金を最も重要な原則の一つとしてILO憲章の前文に挙げており、基本的人権の一つと考えている。

目次

[編集] レーン=メイドナー・モデル

レーン=メイドナー・モデル

レーン=メイドナー・モデル(Rehn-Meidner model)は、スウェーデンブルーカラー労働組合頂上団体である全国労働組合連合(LO)の経済学者であったイェスタ・レーンルドルフ・メイドナーによって提唱された経済政策

右図は、ある職種を雇用する国内企業を利潤率(棒グラフ)の順に並べたものである。このとき、賃金交渉が企業レベル(あるいは産業レベル)で分権的に行われているために、当該職種の賃金水準が線分ABのように利潤率に応じて高くなっていると仮定する。

ここで、労働組合と経営者団体の頂上団体の間で集権的な賃金交渉が行われ(ネオ・コーポラティズム)、企業間や業種間での賃金格差の縮小が実現し(連帯的賃金政策)、当該職種の賃金水準が線分abに設定されたとする(線分abが水平であれば、完全な「同一労働同一賃金」である)。さらに、新しい賃金水準は、インフレーションを引き起こさない程度の水準に抑制することが労使間で合意されたものとする。

この場合、当該職種に対する従前の賃金水準が線分ab以下であった企業1~企業4では、△MAaの労働コストが新たに発生し、経営合理化の圧力が強まる(場合によっては倒産に至る)。その結果、企業1~企業4によって解雇された労働者失業する。

一方、当該職種に対する従前の賃金水準が線分abを上回っていた企業5~企業8では、△MBbの余剰が生じ、拡大再生産のための投資に振り向けることができる。

このとき、企業1~企業4において生じた失業者が企業5~企業8に吸収されるように、政府積極的労働市場政策[1]を実施する。これは、労使双方がインフレ抑制に協力する代わりに課せられた政府の義務として位置づけられる。

このように、労働力移動の流動性を高めることによって、インフレを惹起することなく国内経済全体の生産性が高度化され、国際競争力が高まる。

[編集] 背景

生産性の低い産業を救済するために政府公共投資を行ったり、マクロ経済全体の賃金水準を顧みることなく生産性の高い産業が賃上げを行ったりすると、労働コストによるコスト・プッシュ・インフレを引き起こしてしまう。一方、スウェーデンは開放経済の小国であるため、インフレによる国際競争力の低下は国内経済に打撃を与えてしまう。そこで、ケインズ政策に依拠することなく完全雇用を実現しつつ、国際競争力を維持する方策として考案されたのがレーン=メイドナー・モデルである。

[編集] 実際の展開

レーン=メイドナー・モデルは1951年にLOの方針として採択されたが、内需産業の労働組合などの抵抗のため、「賃金交渉の完全な中央集権化」「完全な同一労働同一賃金」には至らなかった。しかし、連帯的賃金政策により職種内の賃金格差は縮小し、また、賃金水準も抑制されたため、社民党政権下でのスウェーデン・モデルの中核を成す政策となった。

[編集] 国際労働機関(ILO)

国際労働機関ではILO憲章の前文において、「同一価値の労働に対する同一報酬の原則の承認」を挙げ同一労働同一賃金を最も重要な原則の一つとしている。また、フィラデルフィア宣言において、「雇用及び職業における差別の排除」を基本的権利に関する原則として挙げ、ILO加盟国すべてが「尊重し、促進し、かつ実現する義務を負う」としている。ILO憲章・フィラデルフィア宣言・労働における基本的原則及び権利宣言

[編集] ILO第100号条約

国際労働機関(ILO)総会は、1951年同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約を採択し、同一価値労働について、男女間での賃金格差を禁止した。

[編集] ILO第111号条約

国際労働機関(ILO)総会は、1958年雇用及び職業についての差別待遇に関する条約を採択した。ILOの基本条約の一つで人権保障条約としての性質を持つ。労働者の待遇に関してあらゆる種類の差別を禁止している。 例えば、同等な労働を行っているにも関わらず、雇用の形態が異なるだけで賃金や待遇に大きな違いがある場合、この条約に抵触する可能性がある。日本は未批准である。

[編集] 各国における同一労働同一賃金

[編集] ヨーロッパ

欧州連合1997年パートタイム労働指令を定め、雇用形態を理由とした賃金格差を禁じている。この背景としては、ヨーロッパにおいて均等待遇が受け入れられやすい2つの社会的要因が挙げられる。

産業別の労働協約の存在
ヨーロッパ各国では、1980年代以降、職種と格付けに応じた時間比例の賃金制度が、産業別の労働協約によって整備されていた。このため、同一労働同一賃金の規制に対し、企業は、従来のフルタイム労働者の賃金表をパートタイム労働者にも適用することで対応できた。
キリスト教に基づいた正義感の共通認識
ヨーロッパではキリスト教に基づく「不公正は正す」という正義感が共有されている。そのため、雇用形態によって時間比例以上の賃金格差が存在するなら、それは正すべきという意識があった。

なお、各国で同一労働同一賃金を導入した際に反対したのは、企業よりもむしろ労働組合であった。これは、組合員(多くはフルタイム労働者)が、自分たちの取り分が減ることを恐れたためである[2]

[編集] アメリカ

アメリカでは、人種差別女性差別年齢差別などに対する雇用平等法制が発達している。基本的に、同じ仕事をしながら賃金に大きな差がでるということはあり得ない[3]。ただし、雇用形態を超えた均等処遇について法制化はされていない。これは、「市場における公正な競争」や「契約の自由」を重んじるアメリカ社会の特徴に起因している[2]

[編集] 日本

日本では、労働基準法において「使用者は、労働者の国籍信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。」(第3条)、「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。」(第4条)としている。また、ILO第100号条約も1967年批准している。ただし、労働基準法第3条は差別的取扱禁止の対象とする理由を限定列挙したものであるから、たとえば学歴能力勤続年数、雇用形態などを理由とした個々人の賃金額の差異は適法であると解される。

また、企業は、正規労働者の終身雇用の慣行に対して、残業賞与配置転換および出向などによって労働力の調整を図っている。このことが正規労働者と非正規労働者(特に女性)の均等処遇を妨げている[2]

性別による賃金格差に対する日本の法制度などについては男女同一賃金を参照

[編集] 脚注

  1. ^ 積極的労働市場政策とは、失業手当の給付(だけ)ではなく、職業訓練職業紹介を通じて労働力移動を促す雇用政策のこと。国立社会保障・人口問題研究所整理によると、日本では雇用保険二事業雇用安定事業能力開発事業)や一般会計による公共雇用サービス(職業案内)が代表例。
  2. ^ a b c 水町(2005)
  3. ^ 雇用環境も福祉も欧米以下!日本は「世界で一番冷たい」格差社会

[編集] 関連項目

[編集] 参考文献

他の言語