債権譲渡

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

債権譲渡(さいけんじょうと)とは、債権譲渡、すなわち、債権をその同一性を変えずに債権者の意思によって他人に移転させる ( durchgehen ) ことをいう。債権がいったん消滅せずに同一性を維持する点において、更改とは区別される。

概要[編集]

歴史上、債権債務関係は債権者と債務者の間を結ぶ法鎖であり、債権者が債権を譲渡するということは認められていなかった(したがって更改によって債権者を変更するという手法が生み出された。)。 しかしながら、債権の実現を確実なものにするための法制度が整備され、債権それ自体が独立の財産的価値を有するものと認められるようになったことに伴い、債権を譲渡する社会的経済的必要性が生じ、これに応じて債権の譲渡が認められるようになった。 所有権等の物権と違って、わざわざ条文で自由譲渡の原則(466条1項本文)を宣言している理由はここにある。

債権譲渡の発生原因としては売買贈与代物弁済譲渡担保信託などがある。 債権譲渡自体は債権の帰属を変動させることを直接の目的とする法律行為であり、かかる譲渡を目的とする債権債務の発生を直接の目的とする売買等の債権契約とは観念的に区別される。物権契約に類似しているので準物権契約といわれる。 債権契約と準物権契約である債権譲渡の関係については、債権契約と物権契約(例えば所有権譲渡契約)の関係と同じような関係にある。すなわち、準物権行為の独自性の肯否や、債権の移転時期について、債権契約と物権契約の関係と同様に扱われる。

民法は、第3編第1章第4節「債権の譲渡」(第466条 - 第473条)において規定する。債権譲渡がされると、譲渡人(旧債権者、Zedent)は債権者の地位を失い、譲受人(新債権者、Zessionar)が新たな債権者となる。更改とは、債権の同一性を失わない点で異なる。

指名債権の譲渡[編集]

債権の譲渡性とその例外[編集]

債権は原則として譲り渡すことができる(第466条1項本文)。指名債権の譲渡は、諾成・不要式の契約であり、新旧債権者間の合意(意思表示)のみによって成立し効力が生ずる。ただし次の例外がある。

  • 債権の性質がこれを許さないとき(第466条1項但書)
  • 当事者が反対の意思を表示した場合(第466条2項)
    債権者と債務者の間に債権譲渡禁止特約がある場合、債権譲渡は効力を生じない(民法466条2項本文)。ただし、譲渡禁止特約を対抗できるのは悪意又は重過失の譲受人に対してだけであって、善意(軽過失ある場合を含む)の譲受人に対しては譲渡禁止特約を対抗できない(同項但書)。
    この点について、譲渡禁止特約の効果(「対抗することができない」の意義)については争いがあるが、判例[1]は、債権譲渡自体が効力を生じないという解釈に立っている(物権的効力説)。
    譲渡禁止特約の存在、および譲受人が悪意又は重過失であることの立証責任は債務者の側にあると解されている[2]。債権は譲渡自由が原則だからである。
    譲渡禁止特約はもっぱら債務者保護のためにあるから、債務者の承諾があれば、債権譲渡は譲渡時点に遡って有効になる[3]。ただし、民法116条の法意に従い、承諾以前に生じた第三者の権利を害することはできない。

対抗要件[編集]

民法上の対抗要件[編集]

債権譲渡の効果を債務者その他の第三者に対して主張するには、対抗要件を備えることを要する。

  • 債務者その他の第三者に対する対抗要件
    指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない(467条1項)。
    債務者に対する対抗要件(この場合は譲り受けた債権を行使するための要件という意味)は、譲渡人から債務者への通知、または、債務者の承諾(467条1項)。
  • 債務者以外の第三者に対する対抗要件
    通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。
    債務者以外の第三者に対する対抗要件(この場合は当該債権の譲渡を対抗するための要件という意味)は、確定日付ある証書による債務者への通知または債務者の承諾(同条2項)である。

対抗要件に関する判例[編集]

  • (最高裁判例 昭和43年8月2日)
    他人の債権を譲渡する契約をし、当該債権の債務者に対して確定日付ある譲渡通知をした者が、その後同債権を取得した場合には、何らの意思表示を要せず、譲受人は、当然に債権を取得し、これをもって第三者に対抗することができる。
  • (最高裁判例 昭和49年3月7日)
    指名債権が二重に譲渡された場合、譲受人相互間の優劣は、確定日付ある債権譲渡通知が当該債権の債務者に到達した日時または、確定日付ある当該債権の債務者の承諾の日時の先後によって決定される。
  • (最高裁判例 昭和55年1月11日)
    指名債権が二重に譲渡され、確定日付ある各債権譲渡通知が当該債権の債務者に同時に到達したときは、各譲受人は、当該債権の債務者に対しそれぞれの譲受債権全額の弁済を請求することができ、譲受人の一人から弁済の請求を受けた当該債権の債務者は、他の譲受人に対する弁済その他の債務消滅事由が存在しない限り、弁済の責を免れることはできない。…(当該債権の債務者が二重弁済の責を免れるためには、反対債権があれば相殺できるが、ない時は供託の方法しかない。)
  • (最高裁判例 平成5年3月30日)
    国税滞納処分としての債権差押をした者と同一債権の譲受人との間の優劣は、債権差押の通知が第三債務者(当該債権の債務者)に送達された日時と確定日付のある債権譲渡の通知が当該第三債務者に到達した日との先後によって決定すべきであるから、その到達の先後が不明の場合には、同時到達の場合と同様、相互に優先的地位を主張することができず、第三債務者が債権額を供託した時には、差押債権者と債権譲受人は、被差押債権額と譲受債権額に応じて供託金を按分した額の供託金還付請求権を分割取得する。
  • (最高裁判例 平成13年11月22日)
    債務者(甲)が債権者(乙)に対する、金銭債務の担保として、甲の丙(第三債務者)に対する既発生債権および将来債権を一括して乙に譲渡し、乙が丙に対し担保権実行として取立ての通知をするまでは甲の取立てを許諾した債権譲渡契約は、いわゆる集合債権譲渡担保契約と解されるが、この場合、既発生債権および将来債権は甲から乙に確定的に譲渡されており、ただ、甲・乙間において、乙に帰属した債権の一部について甲に取立て権限が付与され、取り立てた金銭の乙への引渡しを要しないとの合意が付加されていると解すべきであるから、これを第三者に対抗するためには、指名債権譲渡の対抗要件の方法によることができ、丙に対して甲に付与された取立権への協力依頼があったとしても、その効力を妨げるものではない。「乙から丙に対し、譲渡担保権実行(書面又は口頭による)がされた場合は、この債権に対する弁済を乙にされたい。」という旨の記載があるが、この記載は、実行通知があるまで甲に支払うよう依頼する趣旨を包含するものと解すべきであって、この記載があるからといって、これを移転の通知と認めないとするのは失当であるとして原審(高裁判決)を破棄。
  • (最高裁判例 平成13年11月27日)
    指名債権譲渡の予約につき確定日付ある証書により通知・承諾がなされても、債務者は、これによって予約完結権の行使により当該債権の帰属が将来変更する可能性を了知するに止まり、当該債権の帰属に変更が生じた事実を認識するものではないから、これをもって第三者に対抗することはできない。

債権譲渡登記[編集]

法人が保有する債権を譲渡する場合には、譲受人との共同申請により債権譲渡登記をすることで、債務者以外の第三者に対する対抗要件を具備することができる(「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」(平成10年法律第104号))。但し、債権譲渡登記をすることによって譲受人が債権譲渡を対抗できるのは、あくまでも債務者以外の第三者に対してであって(同法4条1項)、債務者に対し譲受人が自分が新たな債権者であることを対抗するには、債権譲渡があったことと債権譲渡登記がされたことについて、登記事項証明書を交付して通知するか、又は債務者が承諾しなければならない。この通知については、譲渡人だけではなく、譲受人もすることができる(同法4条2項)。

例えば、A金融会社(法人)の有する、Bを債務者とする20万円の貸金債権がCに譲渡された場合、CがBに自分が債権者であるから自分に弁済せよと主張するには、Aと共に債権譲渡登記を具備するだけでは駄目で、Aから、自分が債権を譲り受けたことをBに対して通知してもらわなければならない。それゆえ、Bが通知を受け取る前に、BがAに債権を弁済してしまった場合には、AB間のみならず、BC間でもBの弁済は有効であり、CはBに20万円を自分に弁済するよう請求することは出来ない。

債権譲渡登記によって対抗可能な者から債務者が除外されたのは、ひとえに債務者の保護のためである。上の例で、例えばAからCに譲渡されたのと同じBに対する債権を譲り受けようとするDがいたとして、Dのような者はこれから債権を譲り受けようというわけであるから、Bに対する当該20万円の貸金債権について債権譲渡登記が具備されていないかを調査してから債権を譲り受けようとするだろう。このため債権譲渡登記によって、譲受人は第三者に譲渡の事実を対抗できるとしても何ら不合理なところはない。しかし、債務者は、履行期が到来した後は直ちに弁済しなければ、履行遅滞によって利息債務が増加するなどの不利益を負担することになるから、債務者に対して登記を確認してから弁済せよなどという悠長なことを言うわけにはいかない。また、債務者は消費者金融における個人債務者など、債権譲渡登記制度について知らない者が数多く含まれるであろうから、これらの者に、債権譲渡人(もともとの債権者)からの通知もないのに、ある日、突然、見知らぬ者が債権を譲り受けたので弁済せよ、しなければ遅延利息を支払えと命じることは、あまりに酷である。それゆえ、法は、債権譲渡登記だけでは債務者に対して債権譲渡を対抗できず、対抗するためには、債務者に登記事項証明書を交付して債権譲渡通知をするか、債務者の承諾を得ることを対抗要件としたのである(同法4条第2項)。

その他の特別法上の対抗要件[編集]

その他にも、以下のような特殊な対抗要件も定められている。

  • 銀行会社分割または事業譲渡の公告(銀行法36条)
  • 事業譲渡の公告(農業協同組合法50条の2、水産業協同組合法54条の2、農林中央金庫及び特定農水産業協同組合等による信用事業の再編及び強化に関する法律28条、農業信用保証保険法48条の9)
  • 保険契約の移転の公告(保険業法140条)
  • 無尽会社の会社分割の公告(無尽業法21条の5)
  • 特別経理会社が第二会社に債権を出資または譲渡した旨の公告(終戦に伴うもの。減額社債に対する措置等に関する法律9条)
  • 金融機関の事業譲渡の公告(終戦に伴うもの。金融機関再建整備法施行令6条)

債務者の抗弁[編集]

債務者が譲渡人に対抗することができた事由を譲受人に対抗できるかは第468条による。

  • 異議をとどめない承諾
    • 債務者が異議をとどめないで467条の承諾をしたときは、譲渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができない(第468条1項前段)。
    • 債務者がその債務を消滅させるために譲渡人に払い渡したものがあるときはこれを取り戻し、譲渡人に対して負担した債務があるときはこれを成立しないものとみなすことができる(第468条1項後段)。
  • 異議をとどめた承諾・単なる譲渡の通知
    • 譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは、債務者は、その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる(第468条2項)。異議をとどめて承諾した場合も同様である(第468条1項反対解釈)。

証券的債権の譲渡[編集]

証券的債権の譲渡については、民法にも規定されているが(第469条第473条)、商法会社法手形法小切手法などに個別の有価証券に関する規定があるため、民法の規定が適用される実例はほとんどない。

指図債権の譲渡[編集]

民法上の規定[編集]

  • 指図債権の譲渡は、その証書に譲渡の裏書をして譲受人に交付しなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない(第469条)。
  • 指図債権の債務者は、その証書の所持人並びにその署名及び押印の真偽を調査する権利を有するが、その義務を負わない。ただし、債務者に悪意又は重過失があるときは、その弁済は無効とされる(第470条)。この規定は、債権に関する証書に債権者を指名する記載がされているが、その証書の所持人に弁済をすべき旨が付記されている場合について準用される(第471条
  • 指図債権の債務者は、その証書に記載した事項及びその証書の性質から当然に生ずる結果を除き、その指図債権の譲渡前の債権者に対抗することができた事由をもって善意の譲受人に対抗することができない(第472条)。

手形・小切手等の特則[編集]

指図債権の典型である、手形小切手は、証券裏書・交付によって譲渡の効力が生じ、かつ、債務者その他第三者に対抗できる(手形法11条1項など)。

無記名債権の譲渡[編集]

民法の第472条の規定は、無記名債権について準用される(第473条)。

無記名債権は動産とみなされるため、意思表示のみによって移転し、証券の引渡しが対抗要件となるように思われるが、通説によると、証券の交付が譲渡の要件である。したがって動産譲渡登記による対抗要件の具備を行うことはできないとされている。

電子記録債権の譲渡[編集]

譲渡の効力発生[編集]

電子記録債権の譲渡は、譲渡記録によって効力を生ずる(電子記録債権法17条)。譲渡記録は新旧債権者が共同で電子債権記録機関に請求し、電子債権記録機関が記録原簿に記録することによって行う(同法3条・5条)。

抗弁の切断[編集]

電子記録債権の債務者および保証人は、譲受人に対し、譲渡人に対する人的関係に基づく抗弁をもって対抗することができない(同法20条1項)。これは指名債権の場合と異なり、手形・小切手に類似する。ただし、発生記録等において同項の適用を排除する旨の記録がされている場合・債務者が個人(個人事業者である旨の記録がされている者を除く)である場合等はこの規定は適用されない(同条2項)。

実例[編集]

債権譲渡がされる実例としては、以下のようなものがある。

  1. 資金を得るために弁済期前の債権を売却するケース(投下資本の回収)
  2. 第三者に対する債務を弁済する資金がないため債権で代物弁済するケース
  3. 信用強化のために債権を担保に供するケース(債権譲渡担保
  4. 第三者に債権の取立をさせるために譲渡の形をとるケース

社会問題[編集]

実例の4番目に挙げた取立のための債権譲渡を悪用した、架空請求詐欺(債権回収詐欺)が横行しており、国民生活センター警察庁などの各機関が注意を呼びかけている。

その手口は、存在しない債権について、譲渡を受けたと称する者が、その支払いを文書(ハガキ・封書、FAX電子メール)によって請求するものである。期限までに支払いがない場合は、勤務先や自宅まで直接取立てに行き、そのための交通費・手数料も上乗せして支払ってもらう、あるいは、ブラックリストに掲載する、銀行口座やクレジットカードを凍結するなどの脅し文句がついているのが通常。

そもそも存在しない債権を支払う必要がないのは勿論であるが、債権譲渡の面でも法的効果は認められない。まず第1に、存在しない債権を譲渡することはできない。第2に、債権の譲受人が新たな債権者として債務者に支払いを請求するためには、譲渡人からの譲渡の通知が必要であるが、これも欠いている。また、刑法上は、詐欺罪(または恐喝罪)に該当する。

脚注[編集]

  1. ^ 大判大正4.4.1民録21-422
  2. ^ 大判明治38.2.28民録11-278
  3. ^ 最判昭和52.3.17民集31-2-308

関連項目[編集]

外部リンク[編集]