チップ (サービス)

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チップとして置かれたドル

チップ(Tip)とは、サービスの利用に際し規定料金とは別に支払う、心づけの現金をいう。Gratuity とも。

概要[編集]

一部の国(特にヨーロッパ)にて慣習として、ホテルの宿泊(ベッドメイキングルームサービスベルボーイによる荷物の運搬など)やタクシーの利用、レストランでの飲食、理容店美容院トイレの使用などに対して発生する。観光旅行の場合には、ツアーガイドや観光バスのドライバーに対して支払うこともある。

日本ではこのような慣習は廃れた、もしくはサービス料として無意識のまま徴収されているため、なじみの薄いものであるが、チップの慣習のある国では、サービス業の賃金が安く設定されているために、チップがサービス業従事者の生活給となっている。とりわけ、個人に対するサービスではそれが顕著である。また、国によってはチップも課税対象になっている。

近年では、欧米などでもチップを煩わしいと思う人が増え、チップを廃止をする店も増えつつある[1]。チップは成果によって支払われるため、従業員のやる気を促すとの意見もある。一方、白人男性がもらうチップは非白人や女性より多い傾向があるなど、仕事の質とは関係がない事でチップの額が増減することもあり、反論意見もある[2]

語源[編集]

チップの起源は、18世紀のイギリスパブで、サービスを迅速に受けたい人のために "To Insure Promptness" と書かれた箱を置き、そこにお金を入れさせたことに由来し、チップの語源はこの箱に書かれた文言の頭文字である[3]。ただし、現在のイギリスのパブではチップは原則不要となっている。

しかし英語圏では、この語源説は「偽りである」という意見もあり[4]、英語版ウィキペディアには「To Insure Promptness等の語源説は偽りであり、語源は不明である」と書かれてある[5][6]

フランス語ではpourboireドイツ語ではTrinkgeldという。いずれも「酒を飲むためのお金」というような意味である。サービスしてくれる人をねぎらって、「これで一杯飲んでくれ」と小銭を渡したことがチップの始まりであると考えられる。

各国・地域の事情[編集]

チップの習慣は北米やヨーロッパで多く見られるほか、欧米文化の影響で取り入れているケースもある。チップの習慣がない地域の人がそれらの国へ旅行してトラブルになることもある。以下に、チップの習慣がある主な国や地域の相場を示す。

主な国・地域におけるチップ相場の例
国名・
地域名
ホテル レストラン タクシー トイレ その他 出典
アメリカ合衆国
  • ベルマン、ドアマン、ポーターによる荷物の運搬で1個につき1~2ドル程度。
  • ベルマン、ドアマンがタクシーをつかまえてくれたとき1ドル程度。
  • ベルマンがメッセージや届け物を部屋まで届けてくれたとき1ドル程度。
  • ルームサービスを頼んだとき、料金の10~15%程度。
  • タオルや毛布、バスローブなどを部屋まで持ってきてくれたとき1ドル程度。
  • ルームメイドに部屋を掃除してもらったとき、1回につき2ドル程度。
  • コンシェルジュにチケットやレストランの手配を依頼したとき、難易度に応じて10~30ドル以上。
  • 合計金額の15~20%程度。サービス料込の場合はそれより少額。
  • アメリカが定める連邦最低賃金7ドル25セントであるが、レストランではチップが給与の一部とみなされているため、レストランでチップをもらう従業員の最低時間給は2ドル13セントとしている。
  • 日本料理レストランを中心に、チップを廃止する動きがある。
料金の10~15%程度。最低でも1ドル程度。荷物が多い場合には多めに払う。
  • 空港シャトルバスを利用したらドライバーに1~3ドル程度。ただし、決められたルートを回る大型バスの場合は不要。
  • 空港からホテルまでの無料シャトルバスを利用したらドライバーに1ドル程度。
  • 観光バスのツアーに参加したらドライバーやガイドに1~10ドル程度。
[7] [1] [8] [9]
カナダ
  • ルームメイドには、1ベッドにつき1ドル程度。
  • ルームサービスには、料金の10~15%。タオルや毛布の不足補充を頼んだら50セント~1ドル。
合計金額の15~20%程度。サービス料込の場合はそれより少額か不要。 料金の10~15%程度。最低でも50セント程度。荷物が多い場合には若干多めに払う。
観光バスでは、たいていドライバーがガイドを兼ねているので、ツアー終了時に3~5ドル程度。 [10]
イギリス
  • ポーターにはスーツケース1個につき50~75ペンス程度。
  • ベルボーイやルームサービスに対し1回につき50ペンス~1ポンド程度。
合計料金の10~15%程度。サービス料が含まれている場合は不要。 料金の10~15%程度。 掃除の係員がお皿を前に置いて座っていたら10~20ペンス。 パブでは原則不要。 [11] [12]
フランス
  • ベルボーイやルームサービスに対し1回につき1~2ユーロ程度。
  • 通常の掃除やベッドメークには不要。
  • 高級レストランなどでは食事代の5~10%が目安。
  • 中級以下ではおつりの小銭を残す程度。
料金の10~15%程度。 掃除の係員がお皿を前に置いて座っていたら50セント程度。 劇場などの案内係に座席を案内してもらったらお礼として50セント~1ユーロ程度。ただし、国立劇場では公務員なので不要。 [13]
ドイツ ベルボーイやルームサービスを頼んだ時に1ユーロ程度。 一般には5~10%ぐらいの額を、テーブルでの支払い時に切りのいい金額に切り上げて渡すか、お釣りの小銭をテーブルに残す。 料金の10%程度。トランクに入れる荷物が多いときはやや多めに。 掃除の係員がお皿を前に置いて座っていたら20~30セント程度。
[14]
イタリア ポーターやルームサービスに対して1ユーロ程度 料理代金に含まれる場合がほとんど。別計算でも勘定書きには含まれている。店の格により7~15%程度。 料金の10%程度。 係員が一律に徴収する場合や、皿を置いて任意にとする場合がある。20~70セント程度。
[15]
香港
  • ホテルのトイレでは2~5ドル程度。
  • ベルボーイや部屋係には10ドル程度。
  • 合計金額の10%がサービス料として上積みされているので、おつりの小銭を渡す程度。
  • 大衆食堂ファストフード店では不要。
不要。
イギリス文化の名残としてチップの習慣が根強い。 [16]
エジプト バクシーシとして、荷物を運んでくれたポーターに1~2ポンド、枕銭として1~2ポンド程度。高級ホテルの場合はこれより多めに。 バクシーシとして、観光客が利用するようなレストランでは料金の10%程度。 都市部で流しのタクシーに近距離乗車した場合は基本的に不要。 空港や博物館のトイレは不要。トイレの管理人から何らかのサービスを受けても50ピアストル程度で充分。 「バクシーシ」はチップに似るが、イスラームの教えに起源をもつ習慣であり、喜捨の意味合いもある(後述)。 [17]

日本での事情[編集]

前述のとおり日本では基本的にチップの習慣は廃れ、サービス料といった形でそれに相当するものが徴収されているが、一部、チップに相当する現金を収受する慣習例が残っている。

例えば、旅館で見られる「茶代」もしくは「心付け」収受の慣習がそれである。欧米のそれと違う点は、日本ではそれらを渡すときに、、もしくは祝儀袋ポチ袋も可)に包んで渡すのが礼儀とされる点である。コインや紙幣をそのまま渡すことは相手に対する非礼と見なされる。但し、タクシーの料金支払い時にチップを渡す場合などは欧米と同様に裸のまま渡すことがある。

また、日本料理屋においても給仕に祝儀を送る慣習が存在したが、西洋料理屋にチップを払う文化は生まれなかった[18]。明治時代後期に書かれた村井弦斎の小説『食道楽 秋の巻』(1903年)において、登場人物の中川は「しかるに今の人は日本の料理屋へ行くと楼婢おんなに三十銭も五十銭もはずむ癖に西洋料理屋へ往って給仕人に十銭銀貨の一つも遣らないような人さえ折々まだあるようです。五、六人で日本料理屋へあがるとオイこれを帳場へ遣ってくれろと二円も三円も祝儀を奮発する癖に西洋料理屋へ往って今日のスープは格別の味に出来ているからと五十銭銀貨を料理人に遣る人もない。つまり日本風の料理屋へ行くと外見みえのために贅沢ぜいたくをしなければならず、西洋料理屋へ往くとなるたけ吝嗇けちにしなければならんものと心得ています。」と話している[18]

学校の遠足修学旅行などでは、あらかじめバスガイド運転手への「心付け」として、旅行費用と一緒に徴収する例が見られる。

また、日本国内でも「チップトイレ」という、利用者にチップの支払いを求めるトイレが存在する。山岳地域などの観光地によく見られ、汚物の処理などに莫大な経費がかかるという事情がある。

他にも、引越客が専門業者に対して「御飯代」「御祝儀」としてチップを渡す場合もあるが、あくまで一部の客の裁量で行なわれるため、すべての客がそうしているわけではない。

また、入院や手術の際などに医師などの医療職(主として執刀医)に対して心づけとしてお金を渡すという習慣も一部にあるが、これについては、正規の治療費以外の報酬を受け取ることに対し、職業倫理に反するとして、批判の声も強くある。近年では、付け届けは受け取らないことを患者に対して表明している医療機関も少なくない。

なお、日本において、公務員に心付けを渡すことは、賄賂に問われる可能性もある行為である。

その他アジア各国[編集]

2012年にマスターカードが行った調査では、チップを渡す比率が高い国として、タイ89%、フィリピン75%、香港71%、インド61%、マレーシア40%、インドネシア40%を挙げている。台湾17%、韓国13%、日本3%といった調査結果を挙げている[19]

バクシーシ[編集]

イスラム圏には「バクシーシ」というチップに似た習慣があるが、両者の性格はかなり異なっている。

チップが、サービスを享受したことへの対価という性格であるのに対し、バクシーシは、金持ちが、そうでない人に施し物をするという「ザカート(喜捨)」の考え方に立脚している。ただし、喜捨の場合は持つ者が持たぬ者に与える行為であるのに対し、バクシーシの場合はこれがねじれ、持たぬ者が持つ者に積極的にせびるという形になっている。子供の場合、バクシーシをせびることを親から禁じられている[17]

チップの注意点[編集]

日本人がチップの慣習のある国へ旅行する際の注意点を幾つか挙げる。

  • レストラン等にてクレジットカードで支払う場合には、チップの金額を書き込む欄があるので、ここに飲食分のみの15%程度の金額を書き込む。もちろん、伝票の金額が間違っていないか(二重取りされていないか、特にホノルルなど日本人観光客が多い地域では、あらかじめサービス料として計上されている場合も多い)のチェックは必要である。
  • たくさん渡せば良いと言うものではなく、逆に成金として軽く見られることもある。しかし日本にチップの習慣がないためか、日本人のなかにはチップの置き忘れやあまりに小額のチップしか置かない人がいて、レストランのウエイターとの間でトラブルが発生することもある。 なお、チップの風習がある国同士であっても、国によって支払う相場が異なることは多く、海外旅行で自国とおなじ感覚でチップを払い、やはりトラブルとなることはある[8]
  • ホテルのベッドメイキングに対して支払われるいわゆる「ピローチップ(枕銭)」について、ツアーガイドがツアー客に支払うよう勧めたり、日本の旅行ガイドブックには払うように書いてあるのを見かける。英語版Wikipediaでは「discretionary」、すなわち「任意」となっているが、従業員が経営者の家族の Bed and Breakfast でもない限り $1-$2 支払うのが通常。ただし、最近は枕の下に置くことは推奨されていない[20]。日本人のあまり泊らないホテルでは「日本人はよく枕元に小銭を置き忘れる民族だ」と言われることもある[3]
ホテルのルームキーパーに渡すためのチップとして、電話横に置かれたドル紙幣(グアムにて)
  • 観光バスによるガイド付きツアーに参加した場合、ツアー終了時の降車口に等が置かれ、そこにガイドやドライバーへのチップを入れるようにしていることがある。相場としては、半日観光で日本円にして200円相当額程度、1日観光で同300円相当額前後、数日に及ぶ場合は同300円相当額×日数といったところである[3]
  • クルージングの場合、日帰りクルーズ等の場合はチップはほとんど必要ないが、船内に寝泊まりする本格的クルーズの場合は、下船時にまとめて相当額のチップを払うことが慣習となっている。目安は、客室係員とレストランのウェイターに1日当たり日本円にして500円相当額前後、皿の上げ下げを手伝うウェイターのアシスタント(Bus boy)に200円相当額程度である。チップは、下船の前日辺りに渡される封筒に宛名を書いて日数分を入れ集めるような形になっていることがある。なお、船長や高級船員(オフィサー)にチップをあげることは大変失礼な行為となるので要注意である[3]
  • バンド等が入っている飲食店では、日本人客と見ると日本の曲を演奏することがある。ここで大きな拍手をしてしまうと、テーブルにまで寄ってきて何曲も演奏し、多額のチップを払わされることになってしまう。この場合には、演奏者と目線を合わせずに、無関心を装うと良い[3]
  • カジノで大きく勝った場合、勝ち具合に応じて1~5%をディーラーに支払うことが習慣になっている国が多い。アジアのカジノでは、ディーラーが換金(カラーアップ)の際にチップ分をあらかじめ控除して渡すことが見受けられる。中には大勝ちした場合、ディーラーに大盤振る舞いしないと帰りの夜道が怖いという物騒な伝説を持つカジノもあるという[3]
  • できれば、チップ用として空港などで、1ドル札などの小額紙幣や、1ユーロ硬貨などを多く両替し、持っておくとよい。

脚注[編集]

  1. ^ a b 岡田敏一 (2014年5月18日). “米国習慣「チップ廃止」の波紋…高級レストランは、なぜ踏み切ったのか”. 産経新聞. http://sankei.jp.msn.com/west/west_economy/news/140518/wec14051812000004-n1.htm 2014年5月18日閲覧。 
  2. ^ ジェイ・ポーター (2013年9月13日). “チップがレストランを駄目にする”. ニューズウィーク. http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2013/09/post-3044.php 2014年5月18日閲覧。 
  3. ^ a b c d e f 「地球の歩き方」編集室『地球の歩き方 旅マニュアル ヨーロッパ個人旅行マニュアル』ダイヤモンド社・ダイヤモンド・ビッグ社、1998年ISBN 4-478-03374-9
  4. ^ WORD ROUTESEXPLORING THE PATHWAYS OF OUR LEXICON Word-Lore, Nerd-Lore September 16, 2011By Ben Zimmer http://www.visualthesaurus.com/cm/wordroutes/word-lore-nerd-lore/
  5. ^ Tip (gratuity) http://en.wikipedia.org/wiki/Tip_(gratuity)
  6. ^ ちひろ的英語講座 チップの語源? http://chihiroruby.slmame.com/e1261817.html
  7. ^ 「地球の歩き方」編集室『地球の歩き方 B01 アメリカ 2008~2009年版』ダイヤモンド社・ダイヤモンド・ビッグ社、2008年ISBN 978-4-478-05574-8
  8. ^ a b トム・ゲーガン. “チップを渡すべきか 渡さざるべきか それとも禁止するべきか”. BBC. http://www.bbcworldnews-japan.com/uk_topics/view/0000221 2014年5月18日閲覧。 
  9. ^ “NYでチップ廃止制度広まるか-日系レストランで徐々に浸透”. ニューヨーク経済新聞. (2014年3月12日). http://newyork.keizai.biz/headline/1149/ 2014年5月18日閲覧。 
  10. ^ 「地球の歩き方」編集室『地球の歩き方 B16 カナダ 2007~2008年版』ダイヤモンド社・ダイヤモンド・ビッグ社、2007年ISBN 978-4-478-05438-3
  11. ^ 「地球の歩き方」編集室『地球の歩き方 A02 イギリス 2008~2009年版』ダイヤモンド社・ダイヤモンド・ビッグ社、2008年ISBN 978-4-478-05605-9
  12. ^ 「地球の歩き方」編集室『地球の歩き方 A03 ロンドン 2004~2005年版』ダイヤモンド社・ダイヤモンド・ビッグ社、2004年ISBN 4-478-05478-9
  13. ^ 「地球の歩き方」編集室『地球の歩き方 A07 パリ&近郊の町 2008~2009年版』ダイヤモンド社・ダイヤモンド・ビッグ社、2008年ISBN 978-4-478-05571-7
  14. ^ 「地球の歩き方」編集室『地球の歩き方 A15 南ドイツ 2009~2010年版』ダイヤモンド社・ダイヤモンド・ビッグ社、2009年ISBN 978-4-478-05702-5
  15. ^ 「地球の歩き方」編集室『地球の歩き方 A09 イタリア 2006~2007年版』ダイヤモンド社・ダイヤモンド・ビッグ社、2006年ISBN 4-478-05064-3
  16. ^ 「地球の歩き方」編集室『地球の歩き方 D09 香港 2009~2010年版』ダイヤモンド社・ダイヤモンド・ビッグ社、2009年ISBN 978-4-478-05708-7
  17. ^ a b 「地球の歩き方」編集室『地球の歩き方 E02 エジプト 2006~2007年版』ダイヤモンド社・ダイヤモンド・ビッグ社、2005年ISBN 4-478-03800-7
  18. ^ a b 食道楽 秋の巻 村井弦斎 1903
  19. ^ 日常的なチップの習慣、比人は域内2位NNA.ASIA 2012年8月2日
  20. ^ http://hotels.about.com/od/hotelsecrets/a/tipping-etiquette_2.htm Tipping Guide - Guide to the Who and What of Tipping in Hotels

関連項目[編集]

外部サイト[編集]

※ハワイだけでなくアメリカ本土にもおおよそ適用可能。