デフレーション
デフレーション (deflation) とは、物価が持続的に下落していく経済現象を指す。略してデフレとも呼ぶ。対義語に物価が持続的に上昇していく現象を指すインフレーション (inflation) がある。物価の下落は同時に貨幣価値の上昇も意味する。同じ金額の貨幣でより多くのものを買えるようになるからである。なお、株式や債券、不動産など資産価格の下落は通常デフレーションの概念に含まない(参考:物価)。
ディスインフレーションについては、下部に記載。
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[編集] 概要
経済全体で見た需要と供給のバランスが崩れること、すなわち総需要が総供給を下回ることが主たる原因である。貨幣的要因(マネーサプライ減少)も需給ギャップをもたらしデフレへつながる。
19世紀の産業革命の進展期においてはデフレは恒常的な通貨問題であり、金本位の退蔵(グレシャムの法則)に見られる貨幣選好や技術革新による供給能力の飛躍的な進展がデフレをもたらしていた。ケインズ政策や管理通貨制度が普及した後はインフレーションに比して圧倒的に少ない。ジョン・メイナード・ケインズは、ハイパーインフレを除けば、インフレよりもデフレの方が害が大きいと述べている。その理由は世界経済が低迷している中で、富裕層に損をさせるよりも経済的弱者の失業を促進させる方が経済へのダメージが大きいからである[1]。
デフレーションという用語は、本来、物価の持続的な下落を意味するものである。しかしそれだけでなく、景気後退を伴う物価下落をも意味することがしばしばである。年率換算にして数百倍のインフレ率にもおよぶハイパーインフレを経験したことのある国や国民にとってはデフレはインフレに比べて商品価格が下落し「良いもの」「悪くないもの」と捉えられがちであるが、経済学的には企業活動の停滞や縮小を通じで賃金の下落や失業の発生、資産価値の下落をもたらしかねない重大な通貨問題である。この点についてデフレーションが景気(経済成長率)の拡大を伴うものであるか否かによって、これを良性と悪性とに分類しようとする議論(良いデフレ論争)がある。
[編集] デフレの定義
OECDによればデフレは「一般物価水準の継続的下落」と定義されている[2]。IMFや内閣府はしばしば2年以上の継続的物価下落をデフレと便宜的に定義してデフレ認定を行なっている。一時的な物価下落をデフレと呼ぶ識者もよく見られるがOECDの定義やIMF・内閣府の基準からすると誤用である。またメディアで「食のデフレ」などと言った表現がなされる場合があるがデフレとは個別品目ではなく一般物価水準(または総合物価)の下落を指しているので本来の意味からすれば誤用である。
[編集] 経済への影響
個々人では、デフレによって好影響が悪影響を上回る者、あるいはその逆の者が存在する。一方で、社会全体では一般に悪影響が大きい。
代表的な影響は債権・債務問題である。物価の下落は、実質的な返済負担増となる(デットデフレーション、英語:Debt Deflation)。そのため、借り手である債務者から貸し手である債権者への富の再配分が発生する。物価下落によって実質金利が上昇する。なお、たとえば1万円で買えるものの量が増えるから一見メリットがあるように見えることは、実際にはその1万円を稼ぐこと自体が困難になるため、デフレで有利になるとは言えない。
[編集] 好影響
物価下落により実質金利(実質利回り)が上昇する、すなわち同額の名目利子の受け取りであっても実質価値が上昇する。次にデフレの局面では物価下落を織り込んだ金利が形成されるため、市中金利は低下する。そのため、国債などの債券保有者はすでに保有している(高利回り)債券の価格が上昇し、名目資産・実質資産とも増大する。
制度次第であるが、名目額が固定された収入(年金など)がある場合、物価の下落により実質的な生活水準が向上する。
[編集] 悪影響
住宅ローンなどで債務を抱える家計は、物価の下落によって実質的な債務が増大する。
名目金利の低下により、市中変動型の債権(普通預金など)の利子収入は減少する。
名目金利の低下する速度以上の物価の下落が発生している局面では、実質金利が上昇し投資活動が低下する。これが経済活動を停滞させる要因となり、賃金の下落や失業、ひいては消費支出の減少とさらなる企業活動の停滞をもたらす要因となる(デフレスパイラル)。
[編集] デフレスパイラル
経済全体で供給過多・需要不足が起こって物価が低下する。商品価格が低下すると生産者の利益が減り、利益が減った分だけ従業員の賃金が低下する。また企業の利益が減ると雇用を保持する余力が低下するので、失業者が増える。従業員と家族は減った賃金で生活をやりくりしようとするため、あまり商品を買えなくなる(購買力の低下)。その結果商品は売れなくなり、生産者は商品価格を引き下げなければならなくなる。物価が下がっても名目金利は0パーセント以下に下がらず、実質金利が高止まりし、実質的な債務負担が増す。債務負担を減らすために借金返済を優先する企業個人が増え、設備投資や住宅投資が縮小される。投資の縮小は総需要の減少へつながり、物価の低下をもたらす。
上記のような循環がとどまることなく進むことを「デフレスパイラル」と呼ぶ。政府による買い入れや物価統制など直接的な手段が有効であるが、現代の経済においては消費者物価の継続的な低下に対して金融緩和や量的規制緩和、為替介入などの金融政策で対処することが多い。所得税の累進性や社会保障はビルト・イン・スタビライザーの機能を持つため、物価の安定に機能するとされている。
一方で1980年代のレーガノミックス、サッチャリズムによる小さな政府政策以降、ワシントン・コンセンサスに見られる新自由主義や市場原理主義が先進主要国の政策に導入されており、ビルト・イン・スタビライザーの中心でもあった累進課税と失業者救済制度が「自由競争を損ない、経済活動を萎縮させる」と批判の対象とされて機能しなくなつつあり[3]、2007年の金融危機発生後には世界規模でのデフレスパイラル発生が懸念された。
「大恐慌」も参照
[編集] デフレギャップ
デフレギャップ(Deflationary gap)は、実際の需要が現実の供給力を下回り、
- 総供給>総需要
の状態となったその差(乖離、ギャップ)のこと。「マイナスの需給ギャップ」や「GDPギャップ」とも言う[4]。デフレギャップの増大は商品の在庫の増大や雇用の減少(失業者増大)とも関係し、デフレが継続する要因となる。デフレギャップを解消するには、需要を増やすか供給を減らす必要があるが、市場において供給システムが出来上がっているケースで供給を減らすことは容易ではない。一般に政府が減税、金融緩和政策、政府支出を増大させるなどを行い需要を喚起する政策が取られる。国によっては兵役で雇用を創出する場合もある。日本ではこのギャップの数値は、内閣府のレポートに「需給ギャップ」として発表される。
[編集] デフレと経済活動停滞の因果関係
経済活動が衰退・停滞し不況となるとデフレになる。デフレ期待はそれ自体が企業や家計の貯蓄や投資行動といった将来予測を通じて経済活動に直接悪影響を及ぼす。総需要の不足は需給バランスを通じてデフレを招く。デフレ期待は実質金利の上昇を招くことで設備投資などに影響し、企業の活発な投資活動を沈静化させる方向に影響する。デフレは企業や家計の経済活動の縮小を通じて経済全体を停滞させる側面がある一方で、商品価格の下落など家計部門に好影響を与え、とりわけ年金生活者や高額貯蓄者層(資産家層)にとって実質的な高利回りをもたらすことから評価すべきとの議論がある(良いデフレ論争)。
日本のデフレの原因は人口が減少しているからではない。2011年現在韓国、ロシア、東欧諸国は人口が減っているが、名目GDPは成長を続けている。日本の名目GDPが伸びない原因はデフレである。名目GDP成長率は実質GDP成長率とインフレ率を足したものである(名目GDP成長率=実質GDP成長率+インフレ率)が、日本は2011年現在毎年1パーセントのデフレが続いているため実質GDP成長率が1パーセントあっても差し引きはゼロである(実質GDP成長率1%+インフレ率-1%=名目GDP成長率0%)[5]。
[編集] 対策
デフレは貨幣的現象であると考えられているので、通常は金融政策によって対処される。また、需給ギャップの解消を円滑とするよう足並みをそろえた財政政策や、潜在成長率を引き上げて金融緩和の効果を高めるような規制緩和政策など、その他の政策による補助も有効とされる。根本的な経済構造や国際分業構造、金融部門の資本不足による信用不安などに問題があり慢性的なデフレーションを招いている可能性があり、財政構造(政府債務問題)や産業育成政策など経済構造そのものを改善する努力も必要である。商品価格や賃金の政府統制は物価変動を直接管理する有効な手段であるが、自由市場を通じた財の最適分配をかえって阻害するものとして批判がある。
- デフレーション対策の例
- 量的緩和、信用緩和
- 外国為替相場への介入
- 金融機関に対する政府保証や資本注入
- 累進課税制度など税制による自動的な減税効果(ビルト・イン・スタビライザー)
- 財政出動による総需給ギャップの改善
-
- 政府保証や政府買い取り制度(金融資産、穀物・原油など基幹資源など)
- 家計への財政を通じた所得補填
など
[編集] 日本のデフレの原因について
2011年10月現在、GDPデフレーターという総合的な物価指標で見た場合1997年の消費税引き上げという特殊要因を除けば日本のデフレは事実上1995年頃から16年以上も続いていることになる。日本の長期デフレの原因をめぐっては専門家ごとに様々な説が唱えられており、デフレが始まって16年以上も経つにもかかわらず未だにコンセンサスが得られていない。
アメリカのFRBは2002年7月に「デフレ防止策について1990年代の日本の経験の教訓」というFRBスタッフによるディスカッションペーパー[6]を公表し、そのなかで日銀が阪神・淡路大震災後も金融スタンスを変えなかったことや、1997年に消費税を増税したことに言及し、財政構造改革の政策スタンスを転換し所得・消費税等を引き下げることにより経済を刺激できた可能性について言及している[7]。田中らはこの論文を引用し90年代のこれらの政策態度により日本は完全な長期停滞に突入したと論じる[8]。
[編集] デフレの歴史
「日本の経済史」も参照
1880年代前半に大蔵卿(1885年(明治18年)の内閣制度発足に伴い、大蔵大臣)の松方正義が緊縮財政を行い、それまで濫発されていた不換紙幣を償却し、日本銀行を設立して銀本位制を実現させた。この緊縮財政の結果、デフレ不況となった(松方デフレ)。
濱口雄幸首相と井上準之助蔵相が緊縮財政を行い、1930年に円切り上げ(円高)となる旧平価で金本位制に復帰し(いわゆる金解禁)、デフレ不況となった。
世界恐慌下のアメリカ合衆国においては、当初、財政均衡主義が主流だったため、ビルト・イン・スタビライザーの効果が低下し、デフレスパイラルに陥った。設備投資はほぼ壊滅的とも言えるほど減少し、失業率が25パーセントにのぼった。
第二次世界大戦後、1949年に超均衡予算を中心とするドッジ・ラインが実施されて、デフレ不況(ドッジデフレ・安定恐慌)が起こった。
急激な利上げと総量規制による貸出の制限でマネーサプライの伸びがマイナスになるほどの引締め政策でバブル経済が崩壊した1992年以降、ディスインフレ(物価上昇率の低下)の傾向を示すようになり、1997年(平成9年)の消費税等の増税・歳出削減などの緊縮財政により消費者物価上昇率がマイナスになり、デフレの様相を呈するようになった。同年に発生したアジア通貨危機や、これに続いた日本の金融危機も原因として挙げられている。日銀による2000年のゼロ金利政策解除や2001年の国債30兆円枠による緊縮財政などの経済政策の失敗により、デフレがさらに激しくなった。
1990年代から21世紀初頭に日本において見られた資産価格のデフレーションは、主に中央銀行(日本銀行)の金融引き締めがその原因の一つであったと考えられており、1990年代以降の日本の経済停滞(いわゆる「失われた10年・失われた20年」)の相当部分は、日銀の金融引き締めに端を発した資産デフレに責任があるとする向きもある。
デフレ期待を解消し停滞を打破するために量的金融緩和が開始された。この政策には、ゼロ金利の長期化が予想されることで中長期の金利を低下させる時間軸効果があるとされる。名目金利は0パーセントまでしか下げられず、デフレ下ではそれ以上の金融緩和ができない(流動性の罠)とされるが、インフレ期待などを通じた間接的な効果があるかどうかについては、様々な議論がある。
2006年では、2002年からの緩やかな景気回復により消費者物価指数ベースでのデフレ終了が見込まれ量的緩和が解除された。
そして2008年の世界金融危機とそれに伴う不況により、デフレスパイラルは日本のみならず世界規模での再来が懸念されている。2009年11月の日本政府の月例経済報告において「緩やかなデフレ状況にある」と3年5ヶ月ぶりにデフレを認めた[9]。
2009年、ハイパーインフレ国家だったジンバブエがデフレに転じた。2009年1月の消費者物価指数は2.3パーセント前月と比べて下落し、2月も前月比3.1パーセントの下落となった。
[編集] ディスインフレーション
物価上昇率(インフレ率)が低下すること、すなわち物価は上昇しているが大きく上昇しなくなることはディスインフレーション (disinflation) 、略してディスインフレであって、デフレではない。デフレーションは物価上昇率(インフレ率)がマイナスになることである。
[編集] リフレ
リフレーション (reflation) 、略してリフレは過剰設備の解消により物価下落率が縮小し、物価上昇率が0以上に向かうことである。
[編集] 参考文献
[編集] 脚注
- ^ 革命スローガンは、自由・平等・インフレ 青木健太郎 日経BPネット 2010年11月14日
- ^ [1]
- ^ 福祉国家の危機と再構成(小野秀生『福祉社会研究Vol.1』(20000600) pp. 58-68 京都府立大学 ISSN:13471457)[2]
- ^ “GDPギャップの概念について (PDF)”. 内閣府政策統括官付参事官 野村彰宏. 社団法人経済企画協会. 2012年1月4日閲覧。
- ^ 「ダイヤモンドZAi」5月号、2011年、169頁 - 170頁
- ^ Preventing Deflation: Lessons from Japan’s Experience in the 1990s[3]
- ^ P.38-P.39
- ^ 田中秀臣・上念司『震災恐慌!』宝島社2011年
- ^ “政府、デフレを公式宣言=景気下押しを警戒-11月月例経済報告”. 時事通信 (時事通信). (2009年11月20日) 2009年11月20日閲覧。[リンク切れ]