うつ病
| うつ病のデータ | |
| ICD-10 | F32 F33 |
| 統計 | 出典:[1][2] |
| 世界の患者数 | 約350,000,000人 |
| 日本の患者数 | 約1,041,000人 |
| 学会 | |
| 日本 | 日本精神神経学会 |
| 世界 | 世界精神医学会 |
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| うつ病 | |
|---|---|
| 分類及び外部参照情報 | |
フィンセント・ファン・ゴッホ作「悲しむ老人」。1890年
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| ICD-10 | F32., F33. |
| ICD-9 | 296 |
| OMIM | 608516 |
| DiseasesDB | 3589 |
| MedlinePlus | 003213 |
| eMedicine | med/532 |
| プロジェクト:病気/Portal:医学と医療 | |
うつ病(うつびょう、鬱病、欝病)とは、精神障害の一種であり、抑うつ気分や不安・焦燥(しょうそう)、精神活動の低下、食欲低下、不眠症などを特徴とする精神疾患である。
目次 |
概要[編集]
現在でこそ一般にも広く知れ渡っている病気であるが、以前は十分な理解が得られず「怠け病」などと呼ばれていた。
かつて日本で主流であったドイツ精神医学では、精神疾患を大きく外因性、内因性、心因性と原因別に分類し、うつ病はその中でも内因性うつ病という名で内因性疾患に分類されていた。
アメリカ合衆国の操作的診断基準であるDSM-IV-TRでは、「大うつ病性障害」(英語:major depression)と呼ばれている。majorを「大」と訳しているので誤解を生じやすいが、これは落ち込む程度の大、小のことではなく、「主要な」あるいは、「中心的な」という意味でのmajorである[1]。「(小)うつは病気ではないが、社会生活に支障をきたすほどうつが悪化すると、これは精神疾患である。」という意味ではない。DSM-IV-TRでは、症状の重症度について別の基準で評価することになっている。
うつ病は、従来診断においては「こころの病気」である神経症性のうつ病と、「脳の病気」である内因性うつ病と別々に分類されてきたが、2010年現在多用されている操作的診断では原因を問わないため、うつ病は脳と心の両面から起こるとされている。
ほとんどのうつ病は、治療を行わなくても長期的には自然回復し、再発は滅多にない。数ヶ月以内の自然回復率が50%を越えるため、各種治療法の有効性の判断は難しい[2][3][4][5]。
「脳の病気」という面では、セロトニンやノルアドレナリンの不足を原因とする仮説(化学的不均衡説)に基づく場合では、脳内に不足している脳内物質(セロトニン、ノルアドレナリンなど)の分泌を促進させる薬物治療を行う。これが日本国内では心療内科や精神科におけるうつ病治療の主流になっている。
日本うつ病学会では、厚生労働省からの依頼により、抗うつ薬の副作用をはじめとする薬物療法に関する諸問題を専門家の立場から検討し、適正な抗うつ薬使用法を提言するため、学会内に「抗うつ薬の適正使用に関する委員会」を2009年に設立している[6]。
あまり生活に支障をきたさないような軽症例から、自殺企図など生命に関わるような重症例まで存在する。うつ病を反復する症例では、20年間の経過観察で自殺率が10パーセント程度とされている[要出典]。
なお、男女比では、男性より女性のほうが2倍ほどうつ病になりやすいとされている[7]。
うつ病が20世紀になって増加しているがSSRIの普及と軌を一にする。SSRIという薬価が高いうつ病の薬が販売されると世界各国で軒並みうつ病患者が増える。そこには製薬会社のキャンペーンが影響している。SSRIの導入後、6年間でうつ病の患者が2倍に増えるという経験則がある。[8]
うつ病という言葉に関する注意[編集]
日本の精神医学界はドイツ精神医学が主流であったが、後に日本にもアメリカ精神医学が浸透し始め、従来診断と呼ばれるドイツ精神医学に倣った原因別分類ではなく、操作的診断と呼ばれる症状別分類で診断されることが多くなった。精神医学以外の医学では、一般に病気を原因別に分類する。例えば胸が痛いもののうち、心臓冠動脈の狭窄による心臓への虚血が原因で起こるものを狭心症と診断する場合がこれにあたる。しかし精神疾患は原因のわからないものが多いため、原因別に分類するより症状別に分類する方がより実際的であろうというのが操作的診断を行う側の立場である。この場合、胸が痛いもののうち痛みが一定期間続くものを“胸痛症”と呼ぶことになる。“胸痛症”という表現があるならば、そこには狭心症のほか、肺塞栓や気胸など様々な疾患が含まれることになろう。逆に糖尿病で痛みを感じにくい患者に起こる狭心症は“胸痛症”には含まれないことになる。原因別に治療を行う内科など精神科や心療内科以外の身体科においてこれは実際的ではないので、“胸痛症”のような操作的病名は実際には使われない(使われる場合は○○症候群のように表現され、○○病という表現は用いられない)。
前述のように、症状別に診断した“胸痛症”と原因別に診断した狭心症は大きく違ったものであるが、それと同じように症状別に分類されたmajor depressive disorder(大うつ病性障害)などの操作的診断病名と、原因別に分類された内因性うつ病等の従来診断病名とは、同じうつ病であっても大きく異なる概念であると言える。
このことが専門家の間でさえもあまり意識されずに使用されている場合があり、時にはそれを混交して使用しているものも多い。そのため一般社会でも、精神医学会においても、うつ病に対する大きな混乱が生まれている[9]。
漠然と「うつ病」と記載されている場合には、それが内因性うつ病、あるいはメランコリー親和性うつ病などと呼ばれた従来診断におけるうつ病のことなのか、抑うつが2週間以上続くなどの状態像で操作的に分類されたmajor depressive disorder(大うつ病性障害)などのうつ病のことなのか、という点に十分に留意する必要がある。
※この記事においても、操作的診断と従来診断のうつ病が混交して使用されているので注意が必要である。
症状[編集]
うつ病の症状を理解するには、大うつ病についてのDSM-IVの診断基準を参照するとよい。
DSM-IVの診断基準は、2つの主要症状が基本となる。それは「抑うつ気分」と「興味・喜びの喪失」である。精神症状と共に身体的な症状を生じる。身体的な症状は、診断に先立って訴えられることもある。
「:en:Major depressive episode」も参照
- 精神症状
- ボーっとすることが多くなり、口数が少なくなる。学校・会社・部活動では、休みがちになったり、不登校になる。集中力がなくなり、運動神経や記憶力が低下し、勉強ができなくなる。人の話を聞けなくなる。「どうせ自分なんか価値の無い存在だ」と考えるようになるなど、自尊心が低下する。「抑うつ気分」とは、気分の落ち込みや、何をしても晴れない嫌な気分や、空虚感・悲しさなどである。「興味・喜びの喪失」とは、以前まで楽しめていたことにも楽しみを見いだせず、感情が麻痺した状態である。この2つの主要症状のいずれかが、うつ病を診断するために必須の症状であるとされている。これら主要症状に加えて、「抑うつ気分」と類似した症状として、「自分には何の価値もないと感じる無価値感」、「自殺念慮・希死念慮」、「パニック障害」などがある。
- 身体的症状
- 頭が割れるような頭痛。不眠症などの睡眠障害。吐き気。少しの動作で疲れるようになってしまう。消化器系の疾患で急性胃炎、慢性胃炎、胃潰瘍。摂食障害に伴い、食欲不振と体重の減少あるいは過食による体重増加。全身の様々な部位の痛み(腰痛、頭痛など)訴えとしては「食欲がなく体重も減り、眠れなくて、いらいらしてじっとしていられない」もしくは「変に食欲が出て食べ過ぎになり、いつも眠たく寝てばかりいて、体を動かせない」というものである。
- うつ病の約8割に不眠が、1割に過眠が見られる[10]。
- その他
- 人付き合いを避けるようになるなど、対人関係が悪化し、さらに病気を悪化させるという悪循環が起きやすい。
成因[編集]
うつ病の発病メカニズムは未だ不明であり、複数ある説も仮説の域から抜け出せていないのが現状である。主な説としては生物学的仮説と心理学的仮説がある。
なお、病気の発病メカニズムおよび発病原因が、単一の物でなくてはならない、論理的な必然性は何も存在しない。
生物学的仮説は、薬物の有効性から考え出されたモノアミン仮説、死後脳の解剖結果に基づく仮説[11]、低コレステロールがうつおよび自殺のリスクを高めるとの調査結果、MRIなどの画像診断所見に基づく仮説などがあり、2013年現在も活発に研究が行われている。モノアミン仮説のうち、近年はSSRIとよばれるセロトニンの代謝に関係した薬物の売り上げ増加に伴い、セロトニン仮説がよく語られる。また、海馬の神経損傷も論じられている。しかしながら、臨床的治療場面を大きく変えるほどの影響力のある生物学的な基礎研究はなく、決定的な結論は得られていない。
一方、心理学的・精神病理学的仮説としては、フーベルトゥス・テレンバッハの唱えたメランコリー親和型性格の仮説が有名である。これは、几帳面・生真面目・小心な性格を示すメランコリー親和型性格を持つ人が、職場での昇進などをきっかけに仕事の範囲が広がると、責任感から無理を重ね、うつ病を発症するという仮説である。しかし、このような生活上の悩みがうつの原因になるとしても、すべての症例がこの仮説によって説明できるわけではない。例えば、家族の一員の死により深刻なうつ症状に陥る人もいれば、短期間で乗り越える人もいる。一方で、特段の理由もなく深刻なうつを発症するケースもある。
最近では、ω-3脂肪酸との関連が指摘されている[12]。また、2013年には思春期のストレスが一因であるという説が発表されている[13]。
臨床現場では抗うつ薬を投与することでセロトニン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質の働きを促す治療が行われているが[14]、あくまで対症療法的なものであり、成因の解明は新たな治療薬の開発に役立つことが期待されている。
2013年1月18日付けの日本経済新聞は名城大学の鍋島俊隆特任教授らがマウスを使った実験で、うつ病や統合失調症を始めとする精神疾患が思春期のストレスにあるとするメカニズムをはじめて解明し、同18日付のアメリカの科学誌『サイエンス』に掲載されることを伝えた。実験では精神疾患の発症に関係するとされる遺伝子を持つマウスを人為的に作製し、人間の思春期にあたる生後5-8週に集団から隔離して生育することで、血液中のストレスホルモンの量が増え、ドーパミンが減少、幻覚や妄想に関係する脳の部分では刺激を受けることでドーパミンが増加し、意欲の低下、音に対する過敏性などうつ病および統合失調症時に似た症状が発生することを確認した。その他の集団では確認できなかった[15][16]。
統合失調症の治療薬である、ドーパミン仮説に基づいた、エビリファイは、2007年11月には米国において世界で初めて大うつ病性障害の補助療法の適応症を取得した。2012年09月03日には、大うつ病性障害患者を対象にエビリファイ補助療法の臨床試験を日本で実施し、有効性及び安全性が確認されたことから、日本で初めてうつ病・うつ状態の補助療法に対する効能追加の承認申請を行った。今回の申請は、SSRIやSNRIといった抗うつ薬で効果が十分得られない場合にエビリファイを加えて併用する補助療法として行っている。[17]。
生物学的仮説:モノアミン仮説[編集]
「化学的不均衡」も参照
1956年、抗結核薬であるイプロニアジド、統合失調症薬として開発中であったイミプラミンが、KlineやKuhnにより抗うつ作用も有することが発見された。発見当初は作用機序は明らかにされておらず、他の治療に使われる薬物の薬効が偶然発見されたものであった。その後イプロニアジドからモノアミン酸化酵素(MAO)阻害作用、イミプラミンにノルアドレナリン・セロトニンの再取り込み阻害作用があることが発見された。その後これらの薬物に類似の作用機序を持つ薬物が多く開発され、抗うつ作用を有することが臨床試験の結果明らかなった。よってモノアミン仮説とは、大うつ病性障害などのうつ状態は、モノアミン類、ノルアドレナリン、セロトニンなどの神経伝達物質の低下によって起こるとした仮説である。
しかし脳内の病態が明らかにされていない以上、逆の病態が大うつ病性障害の根本原因と結論付けることは出来ず、あくまで仮説にとどまっている。
さらにこの仮説に対する反論としては、シナプス間隙のノルアドレナリンやセロトニンの低下がうつ病の原因であるとすれば、抗うつ薬は即効性があってしかるべきである。うつの改善には最低2週間要することを考えると、この意見は一理あると言える[18]。
生物学的仮説:脳の海馬領域における神経損傷仮説[編集]
- うつ病の神経損傷仮説:
近年MRIなどの画像診断の進歩に伴い、うつ病において、脳の海馬領域での神経損傷があるのではないかという仮説が唱えられている[19]。そして、このような海馬の神経損傷には、遺伝子レベルでの基礎が存在するとも言われている[20]。
- 心的外傷体験が海馬神経損傷の原因となるという仮説:
また、海馬の神経損傷は幼少期の心的外傷体験を持つ症例に認められるとの研究結果から、神経損傷が幼少期の体験によってもたらされ、それがうつ病発病の基礎となっているとの仮説もある。コルチゾール(cortisol) は副腎皮質ホルモンであり、ストレスによっても発散される。分泌される量によっては、血圧や血糖レベルを高め、免疫機能の低下や不妊をもたらす。また、このコルチゾールは、過剰なストレスにより多量に分泌された場合、脳の海馬を萎縮させることが、近年心的外傷後ストレス障害(PTSD)患者の脳のMRIなどを例として観察されている[19]。心理的ストレスを長期間受け続けるとコルチゾールの分泌により、海馬の神経細胞が破壊され、海馬が萎縮する。心的外傷後ストレス障害(PTSD)・うつ病の患者にはその萎縮が確認される。
栄養学的仮説:ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸のアンバランス仮説 [要出典][編集]
EPA-EとDHA-Eの両成分を含有する医療用医薬品である、オメガ-3脂肪酸エチル、ロトリガの製造販売承認の効能・効果は高脂血症のみである。[21]
妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上まわると判断される場合にのみ投与すること。授乳中の婦人には投与しないことが望ましいが、やむを得ず投与する場合には授乳を避けさせること。[22]
主な副作用:下痢[22]
相互作用(併用注意):抗凝固薬、抗血小板薬:アスピリン等。[22]
ヒト及びその他の動物にとっては、体内でω-6脂肪酸(リノール酸等)とω-3脂肪酸(α-リノレン酸、DHA等)の2系統の多価不飽和脂肪酸を合成できないので必須脂肪酸となっている。うつ病が20世紀になって増加しているがω-6脂肪酸を多く含む植物油の摂取が増加したことと軌を一にする [要出典]。うつ病患者においてはω-6脂肪酸からアラキドン酸を経て生成される炎症性の生理活性物質であるエイコサノイドのレベルが高いということが示されている[24][25]。シーフードをたくさん摂取するところほど母乳内のドコサヘキサエン酸(DHA)は高く、産後うつ病の有病率は低かった。母体から胎児への転送により、妊娠・出産期には母親には無視できないω-3脂肪酸の枯渇の危険性が高まり、その結果として産後のうつ病の危険性に関与する可能性がある。また、うつ病の深刻さと赤血球中のリン脂質におけるω-6脂肪酸のアラキドン酸とω-3脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)の比率の間に有意な正の相関が認められた。さらに、健常者と比較してうつ病患者はω-3脂肪酸の蓄積量が有意に低く、ω-6脂肪酸とω-3脂肪酸の比率は有意に高かったことが指摘されている[26]。 DHAは精液や脳 、網膜のリン脂質に含まれる脂肪酸の主要な成分である。DHAは脳内にもっとも豊富に存在する長鎖不飽和脂肪酸で、エイコサペンタエン酸(EPA)は脳内にほとんど存在しない[27]。
2011年にハーバード大学で発表された10年以上にわたる50,000人以上の女性を対象とした調査で、α-リノレン酸を豊富に摂取し、同時にリノール酸をあまり摂取しないことは、有意にうつ病の発生を減少させることが認められた。また、この結果と対照的にこの調査では、魚油に含まれるEPAやDHAの摂取は、うつ病の発生を減少させないことが認められた[12]。
マウス動物実験では、ω-3脂肪酸の不足でCB1Rカンナビノイド受容体の機能喪失に引き続いて、報酬系に関わるシナプス可塑性が妨げられる報告がある[28]。うつ病患者にみられる興味または喜びの喪失は、報酬系が十分に機能しなくなった状態であることが指摘されている[29]。
食事中のω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の比率は、日本の妊婦では1:3[30]、日本の成人では1:4、アメリカでは1:8の比率となっている[31]。後述するように、WHOの統計では、うつ病の障害調整生命年は、日本が世界最低レベルであり、アメリカが世界最高レベルとなっている。奥山のデータでは1:7、と指摘されている[31]。
心理学的仮説:病前性格論[編集]
心理学的成因仮説の代表は、病前性格論である。うつ病にかかりやすい病前性格として、主に、メランコリー親和型性格、執着性格、循環性格、が日本では提唱されている(米英圏では強迫性)。しかし、近年はうつ病概念の拡大や社会状況の変化に伴い、下記の性格に該当しないディスチミア親和型と呼ばれる一群の患者が増加している[32]。ディスチミア親和型はパーソナリティ障害ないし、パーソナリティ障害傾向を持つ人々が多く、自己愛的な問題を抱えるケースが報告されている[33][34]。
- メランコリー親和型性格は1961年にテレンバッハが提唱したもので、秩序を愛する、几帳面、律儀、生真面目、融通が利かないなどの特徴を持つ。内因性うつ病はこの対応を指す。主として反復性のないうつ病を呈するとされる。ただし、テレンバッハの原著を照らし合わせた者の調べによると、日本語訳には訳語の作為的な変更が見られるとして、この通説を疑問視する向きもある[35]。
- Bechら(1980)やCzernikら(1986)の研究では、単極性うつ病患者と双極性うつ病患者のメランコリー型性格得点に有意差は見られなかった。[36]
- 最近のFurukawaら(1997)の研究では、内因性単極性うつ病患者のメランコリー型性格得点は、健常対照群よりもむしろ低かったと報告されている。[36]
- 執着性格は1941年に下田光造が提唱したもので、仕事熱心、几帳面、責任感が強いなどの特徴を持つ。反復性うつ病ないし躁うつ病の病前性格の1つであるとされる。
- 循環性格はエルンスト・クレッチマーが提唱したもので、社交的で親切、温厚だが、その反面優柔不断であるため、決断力が弱く、板挟み状態になりやすいという特徴を持つ。躁うつ病の病前性格の一つであるとされる。
- ディスチミア親和型は2005年に樽味伸が提唱したもので、メランコリー親和型と比してより若年層に見られる。社会的役割への同一化よりも、自己自身への愛着が優先する。また成熟した役割意識から生まれる自責的感覚を持ちにくい。ストレスに対しては他責的・他罰的に対処し、抱えきれない課題に対し、時には自傷や大量服薬を行う。幼い頃から競争原理が働いた社会で成長した世代が多く、現実で思い通りにならない事態に直面した時に個の尊厳は破れ、自己愛は先鋭化する。回避的な傾向が目立つ[37]。
| ディスチミア親和型 | メランコリー親和型 | |
|---|---|---|
| 年齢層 | 青年層 | 中高年層 |
| 関連する気質 | スチューデント・アパシー 退却傾向と無気力 |
執着気質 メランコリー性格 |
| 病前性格 | 「自己自身(役割ぬき)への愛着 規範に対して『ストレス』であると抵抗する 秩序への否定的感情と万能感 もともと仕事熱心ではない |
社会的役割・規範への愛着 規範に対して好意的で同一化 秩序を愛し、配慮的で几帳面 基本的に仕事熱心 |
| 症候学的特徴 | 不全感と倦怠 回避と他罰的感情(他者への非難) 衝動的な自傷、一方で「軽やかな」自殺企図 |
焦燥と抑制 疲弊と罪業感(申し訳なさの表明) 完遂しかねない「熟慮した」自殺企図 |
| 薬物への反応 | 多くは部分的効果に留まる(病み終えない) | 多くは良好(病み終える) |
| 認知と行動特性 | どこまでが「生き方」でどこからが「症状経過」か不分明 | 疾病による行動変化が明らか |
| 予後と環境変化 | 休養と服薬のみではしばしば慢性化する 置かれた場・環境の変化で急速に改善することがある |
休養と服薬で全般に軽快しやすい 場・環境の変化は両価的である(時に自責的となる) |
-
樽味伸(2005)[32]
薬物およびアルコールの使用[編集]
「気分障害#薬物誘発性気分障害」も参照
DSM-IVでは、その原因が「物質の直接的な精神的作用」に起因すると判断される場合は、気分障害の診断を下すことはできないとしている。大うつ病に似た症状が物質乱用や薬物有害反応によって起こされていると判断される場合、それは"substance-induced mood disturbance"と定義される。 アルコール依存症または過度のアルコール消費は、大幅に大うつ病の発症リスクを増加させる[38][39][40] [41][42]。
また、逆にうつ病が原因となってアルコール依存症になる場合もある[41][43][44]。
アルコールと同様に、ベンゾジアゼピンはうつ病発症リスクを増加させる。この種類の薬は不眠・不安・筋肉痙攣に広く使用されている[45][46]。 このリスク増加はセロトニンとノルエピネフリンの減少など、薬物の神経化学への効果が一因である可能性がある。ベンゾジアゼピン系の慢性使用も抑うつを悪化させ[47][48]、うつ症状は長期離脱症候群の1つである可能性がある[45][49][50][51]。 ただし、うつ病に伴う睡眠障害に処方される睡眠導入剤には、ハルシオン、デパス、フルニトラゼパム、エリミン、ニトラゼパムなどベンゾジアゼピン系の薬が多い[52][53][54][55]。 JCPTDでは、薬物治療急性期には抗うつ効果発現までのベンゾジアゼピン系薬物処方は有用であるが、依存性のため長期投与は推奨していない[56]。
うつ病の患者の不眠に対し睡眠導入剤を投与する、または、不眠に対する認知行動療法を行うと、不眠が改善するばかりではなく、うつ病の改善も促進される。[57]
従来、うつ病の患者にみられる不眠はうつ病の症状であると考えられてきた。ところが、うつ病が寛解に至っても3~4割の患者では不眠が残存する。[57]
これらは、うつ病に伴う不眠は、それらによる2次性の不眠というよりは、併存疾患としての不眠症である可能性が高いことを示唆している。[57]
慢性不眠が、うつ病発症の危険因子であることはほぼ確実である。[57]
ライフイベント[編集]
閉経、財政難、仕事の問題、人間関係のトラブル、近親者との死別による分離等。
社会的要因[編集]
詳細は「:en:Major_depressive_disorder」を参照
貧困と社会的孤立は、一般的に精神衛生上の問題のリスク増加と関連している。児童虐待(物理的、感情的、性的、またはネグレクト)も、後年になってうつ病を発症するリスクの増加に関連付けられている。
成人では、ストレスの多い生活上の出来事が強く大うつ病エピソードの発症に関連付けられている。
生活上のストレスがうつ病につながる可能性が増加したり、社会的支援の欠如がうつ病につながる可能性がある。
リスクファクタ[編集]
女性、貧困、低い教育、遺伝、暴力への暴露、別居、離婚、文化的差異[58]、慢性不眠[57]
診断[編集]
医療機関[編集]
うつ病は早期発見が重要なファクターだが、「心の変調」に自分(または周囲)が気づいた場合でも、どの医療機関を受診すれば良いのか分からず、近所の内科などにかかることも少なくなく、症状を進行させてしまう場合がある。[59]うつ病を適切に診断・治療する診療科は精神科・神経科・心療内科である。なお、神経内科は神経専門の診療科なのでうつ病は扱わない。[59]ただし、近年は「精神科」と聞いて抵抗感を持つ患者や家族も少なくなく、そのため医院の屋号にこれらの診療科の名前を出さなかったり、「メンタルクリニック」の名前を使う医院も多い。[59]
各自治体の保健所[60]や精神保健福祉センター[61]では、無料かつ匿名で「心の変調」やメンタルヘルスの相談に応じ、医療機関も紹介してもらえる。[59]学生の場合は、児童相談所やスクールカウンセラー、保健センターなどでも良い。意外に思われるかもしれないが、保健所の業務の6割は精神保健に関するものである。[59]
うつ病を扱うほとんどのクリニックは予約制であるため、初診の際は事前に電話またはwebサイトから予約を取っておくと良い。ただし、近年のうつ病患者の急増により、(クリニックの新規開設も増えているが)予約の日時が1ヶ月以上後になったり、新規の患者を受け入れられないクリニックも増えてきている。
臨床評価[編集]
「:en:Rating scales for depression」も参照
大うつ病の診断を行う前に、一般的に医師によって医学的検査と幾つかの調査が他の症状を除外するために行われる。血液の甲状腺刺激ホルモン(TSC)とチロキシン測定によっての甲状腺機能低下症除外、基礎電解質と血中カルシウム測定で代謝障害の除外、全血球算定(赤血球沈降速度ESRを含む)により全身性疾患や慢性疾患の除外など[62]。 薬物の副作用やアルコール乱用も同様に除外される。男性の抑うつの場合、テストステロンのレベル測定によって性腺機能低下症も除外される[63]。
客観的認知についての問題が老人の抑うつに現れることがあるが、それはアルツハイマー病などの痴呆性疾患の可能性がある[64][65]。 認知テストと脳画像イメージによって認知症とうつ病を区別する助けとなる[66]。 CTスキャンは精神病患者の脳病理を除外することができ、また異常兆候を迅速に判断できる[67]。 生物的テストでは大うつ病の診断を行う方法はない[68]。 一般的に、医学的な問題がない限りその後検査を繰り返す必要はない。
2011年、広島大学大学院などの研究グループが客観的に大うつ病を診断できる指標となる可能性のある物質を発見したことが、米国科学誌プロスワン電子版にて発表された[69]。研究対象は既に大うつ病の診断がなされている20人と健康な18名が対象であるため、大うつ患者と健康な人を区別するのに、DNAのメチル化が指標として使える可能性がある、ということだけを言っている。
「うつ状態」と「うつ病」[編集]
うつ状態を呈するからといって、うつ病であるとは限らない。うつ状態は、本当の「気分障害」に該当するもの以外にも、次のような原因によって引き起こされる。
- 一過性の心理的なストレスに起因するもの(心因性のうつ、適応障害、急性ストレス障害、心的外傷後ストレス障害 (PTSD) など)
- 双極性障害、統合失調症、自律神経失調症、パニック障害など、他の疾患の症状としてのもの
- 季節や生体リズムなど、身体の内部の変調によって生じるもの(内因性うつ病)
また、下記のような器質的疾患からうつ病・うつ状態となることもあるので、診察時には注意を要する。
- 中枢神経系(脳血管障害、パーキンソン病、脳腫瘍 など)
- 内分泌系(副腎疾患(アジソン病など)、甲状腺疾患 (橋本病など)、副甲状腺疾患 など)
- 炎症性疾患(関節リウマチ、全身性エリテマトーデス など)
- 歯科治療用重金属中毒[70]
こうした様々なうつ状態のうち、臨床場面で大うつ病エピソードとして扱われるのは、DSMの診断基準[71]に従って、「死別反応以外のもので、2週間以上にわたり毎日続き、生活の機能障害を呈している。」というある程度の重症度を呈するものである。
DSM-IV-TRとICD-10の診断基準[編集]
抑うつについて最も広く用いられる診断基準は、アメリカ精神医学会による精神障害の診断と統計の手引き改訂4版(DSM-IV-TR)と、もう一つは世界保健機関の疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD-10)であり、その中ではrecurrent depressive disorder(再発性抑うつ障害)という名称を用いている[72] 前者は米国および非ヨーロッパ諸国で多く用いられ、後者はヨーロッパで多く用いられる[73]。 双方の製作はお互いに反映し合いながら行われている[74]。
双方のガイドラインでは典型的な抑うつ徴症を示している。ICD-10では3つの抑うつ徴症(depressed mood, anhedonia, and reduced energy)を示し、そのうち2つはうつ病の診断確定に必須である[75]。 DSM-IV-TRでは2つの主な抑うつ徴症(depressed mood, anhedonia)を示し、少なくともひとつが大うつ病の診断確定に必須である[76]。
DSM-IV-TRでは大うつ病は気分障害に分類される[77]。 診断は単発または繰り返される大うつ病エピソードに基づく[78]。追加の情報はその他の障害と区別するために用いられている。
特定不能うつ病性障害(en:Depressive Disorder Not Otherwise Specified)は、抑うつエピソードが大うつ病エピソードを満たしていない場合に診断される。ICD-10の仕組みでは大うつ病をという言葉を使っていないが、しかしうつ病エピソード(軽度・中度・重度)の診断のために非常に類似した一覧がある。複数のエピソードであって躁病のないものは「再発性(recurrent」という表記が付けられる[79]。
大うつ病エピソード[編集]
詳細は「:en:Major depressive episode」を参照
大うつ病エピソードとは、少なくとも2週間以上の深刻な抑うつ気分の愁訴によって特徴付けられる[78]。 エピソードは、単発または繰返しであり、軽度(いくつかの愁訴が最低限の基準に該当する)、中度、深刻(社会的や職業的能力を妨げている)に分類される。 精神病性の要素を伴うエピソードは一般に精神病性うつ病(en:psychotic depression)とよばれ、深刻(severe)であると格付けされる。 もし患者が躁病や軽躁病のエピソードを持っていれば、診断は代わりに双極性障害となる[80]。 時折、躁病が伴わない抑うつは感情が1つの状態や極位に位置しているため unipolar と呼ばれる[81]。
DSM-IV-TRでは症状が死別によるものである場合は除外しているが、しかしその気分が長期化し大うつ病エピソードの特徴付けられる要素がある場合は、死別を原因として抑うつエピソードに入る可能性があるとしている[82]。 だが抑うつを引き起こした個人の他側面と社会的な状況を考慮していないという点について、批判の対象となっている[83]。 加えて、いくつかの研究ではDSM-IVのカットオフ基準について感情的サポートが乏いことにより、様々な長期間の抑うつについて様々な重症度と期間の面から診断基準を示している[84]。
関連する診断に、気分変調症(慢性的だが軽度の気分変調)[85]、再発性軽度うつ病(en:recurrent brief depression, 軽いうつ病エピソード)[86][87]、マイナー抑うつ病(en:minor depressive disorder, 大うつ病の軽いエピソードの幾つかのみが存在)[88]、適応障害を伴う抑うつ(特定のイベントやストレッサーにより起こされる精神的結果、落ち込み)[89]があり、これらを診断で除外する必要がある。
サブタイプ[編集]
DSM-IV-TRでは、気分障害について5つの細部分類を設けており、期間・重症度・精神的要因によって分類される。
- メランコリー型うつ病 (en:Melancholic depression)
- 非定型うつ病 (en:Atypical depression)
- 緊張性うつ病 (en:Catatonia)
- 産後うつ病 (en:Postpartum depression)
- 季節性情動障害 (en:Seasonal affective disorder)
分類[編集]
うつ病・うつ状態には、様々な分類がある。
まずうつ状態そのものの分類は、症状の重症度で区分する分類と、成因で区分する分類に分かれる。
- DSM-III以降の米国精神医学会のうつ病分類では、うつ病性障害は、ある程度症状の重い「大うつ病」と、軽いうつ状態が続く「気分変調症」に二分されている。
- 一方古典的分類では、疾患の成因についての判断が優先され、「心理的誘因が明確でない内因性うつ病」と、「心理的誘因が特定できる心因性うつ病」の二分法が中心となっている。狭義には前者が“うつ病”とされ、心因性のものは「適応障害」などに分類されることが多い。
DSMなどの症状のみで判断する分類は、実際的で研究や統計に適しているとされる。一方、臨床場面では心理的誘因の評価は不可欠であり、治療において重要である。例えば、“心因性のうつ”では、原因から遠ざかれば一晩で元気になる可能性もあり、治療や環境変化などへのレスポンスが大きく異なっている。
さらに、うつ病の長期経過による分類がある。すなわち、治療の経過に伴い躁状態を呈する双極性障害(いわゆる「躁うつ病」)、うつ病を繰り返す反復うつ病、再発のない単一エピソードうつ病の区分である。
双極性障害との鑑別[編集]
うつ病の診断においては、軽躁と鬱を繰り返す双極II型障害を単極性・反復性と誤診するなど、双極性障害と見分けがつきにくいケースが多い。患者側も、睡眠時間が短くてもすんでしまうなど現代の過酷な社会環境にむしろ適応的であり、ばりばりと働けたなどの充実感などのため、軽躁状態を異常と認識せず、主治医に申告しないこともある。
そのため、大うつ病性障害など「うつ病として」受診に来た患者を診断する場合、初診で躁病エピソードの既往症(軽躁エピソードは特に)を確認し、双極性障害でないかどうか明確に鑑別しておくことが何よりも重要であるとの指摘がある。これは、大うつ病性障害などの単極性の気分障害と双極性障害は、治療法が根本的に異なるためである[90][91]。
また、長期経過の中で、うつ状態に加えて躁状態も生じる場合にも、双極性障害(いわゆる躁うつ病)の可能性がある。そのため、躁状態に転じることを常に注意し、素早く対応することが必要であるとも指摘されている[92]。
うつ病を繰り返し生じる場合には、反復性うつ病と呼ばれており、これも、遺伝研究などによって、躁うつ病と根本的には同一の疾患であるとされている。
一方、再発のないうつ病は、単一エピソードうつ病と呼ばれ、躁うつ病とは異なった疾患であると考えられている。
近年、最先端医療の分野で光トポグラフィーを用いた科学的な診断方法が注目を浴びているが、ごく一部の医療機関でしか行われていない、うつ病、統合失調症、双極性障害の判断区別を行える[93]。先進医療であり保険は未承認。2012年現在の日本では、「鑑別診断補助」の位置づけである。[94]
血液診断[編集]
一般健康診断やプライマリケアでも、精神科専門医と同等のレベルの診断を受けられるように、大うつ病の客観的な指標が必要とされている。2011年には、山形県鶴岡市にあるヒューマン・メタボローム・テクノロジーズおよび東京小平市の国立精神・神経医療研究センターが血液中のエタノールアミンリン酸で大うつ病を診断できると発表し、広島大学も血液中のBDNF遺伝子のメチル化を調べることで大うつ病を診断できる可能性があると発表している。研究対象は既に大うつ病の診断がなされている20人と健康な18名が対象であるため、大うつ患者と健康な人を区別するのに、DNAのメチル化が指標として使える可能性がある、ということだけを言っている。今後、うつ病等の精神疾患を客観的に診断できるマーカーを探索するために、健常者および患者の血液を用いて、プロテオミクスあるいはメタボロミクスが積極的に行なわれると考えられる。100%やそれに近い精度では診断できないため、慎重な運用が求められる。[95]
大うつ病だけが対象であるため、その他のうつ病は従来の診断によらなければならない。
治療[編集]
治療の基本方針[編集]
性格や環境がうつ状態に強く関係していない内因性うつ病の場合
セロトニンやノルアドレナリンなどの脳内の神経伝達物質の働きが悪くなっていると推測されている。「典型的」なうつ病であり、通常は抗うつ薬がよく効き、治療しなくても時間が解決する場合もあると言われている[96]。
脳の神経伝達物質に関する問題であって、性格や考え方の問題ではないと考えられている[97]。
基本的に現在はまず鬱が病気であることを本人・家族が納得し、「無理をせず、養生して、(原則として)薬を飲んで、回復を待つ」ことである[98][97][99][100][101]。
- 内因性うつ病の症状は、“気の持ちよう” “努力”などで変えられるものではない。変えられないものを、変えようと無理をすれば、症状を悪化させる。むしろ、変えようとせず、憂うつな気分に逆らわず、十分な休養を取りながら、回復を待つべきである[98][97][99][101]。
- うつ病の症状の一つに、将来を悲観してしまうことがある。病気のため、もう治らないとしか考えられなくなることも多い。しかし、うつ病はいかに重症でもいつかは改善するものである。いつかは良くなるという希望を持つことが重要である[102]。
- またあせって人生の決断を下さない方がよい。例えば転職・退職、離婚などの重要な決断はなるべく後回しにする。一般にうつ病のため判断能力は低下していることが多く、適切な判断が下せないことが多い[98][100]。
- 家族など周囲の人たちも、長い目でうつ病患者を見守ることが求められる。「頑張れ」や「さぼるな」という言葉は、患者自身の力ではどうしようもない今の状態を、今すぐに自分の力で変えるようにと、無理を求めるものとなる。そして、このような言葉は、患者を追いつめ、最悪の場合、自殺の誘因とならないとも限らない。患者のみならず、周囲の人々も、患者がうつ病であり、患者自身の力では今の状態から抜け出せないことを受け入れ、長い目で回復を信じ、あせらないことが必要である[98][100]。
- 「気の持ちようではないか」「旅行にでも行って気分転換してはどうか」といった言葉も、適切ではない。うつ病でなくとも、嫌なことが起きれば、嫌な気分になるし、そういった一過性の軽い抑うつ気分は多くの人が経験する。これらの言葉は、うつ病もそれと同じように対処すれば良いものと見ている。しかし、長期間に及ぶような酷いうつ状態(つまりうつ病)の場合には、適切な治療なしには気の持ちようを正すこともできず、旅行に行く気力も出ないため、これらの言葉はかえって患者を苦しめる。患者がこれらのアドバイスを受け入れられるほど回復したかどうかの見極めが大切である[100]。
- 治療の前提として、治療の基本的原則について、しっかりと医師が説明を行い、患者が納得して治療に取り組むことが必要である。また、投薬についても、医師がしっかりと説明する必要がある。患者も、分からないことは質問していくことが必要である。こうした医師と患者のコミュニケーションが治療の成功には不可欠である[100]。
性格や環境がうつ状態に強く関係していると思われる心因性うつ病の場合
- 環境のストレスが大きい場合は調整可能かどうかを検討し、対応する[96]。また、身体疾患や薬剤がうつ状態の原因であったり、うつ状態に影響を与えていたりしないか検討する[96]。心理的葛藤に起因すると思われるうつ病では、原因となった葛藤の解決や、葛藤状況から離れることなどの原因に対する対応が必要である。
また、うつ病の一人一人の患者においては、信頼できる主治医をもち、自分に合ったアドバイスを主治医にもらうことが最も重要である[96]。
入院・外来などの治療設定の選択[編集]
- 入院するかどうかなどの治療設定の選択をする場合には、症状の重症度の判断が重要である。ただし、専門的に見てかなり重症であると判断されるうつ病を、家族や周囲の人が、軽く見ることは多く、専門医を受診し、診断を受けることがまずもって必要である。特に、「死にたい」とか「消えてしまいたい」「自分は居ない方がいい」などの希死念慮や自己否定的な内容を口にする場合には、自殺の危険性があり、すみやかな受診が必要である。
- 治療開始の時点では、自殺の危険性が高い重症例であるか否かがまず評価され、自殺の危険性が高い重症例では、入院治療が必要となる[98][103]。
- 自殺の危険性はないが、日常生活に著しい障害が生じている場合には、仕事を休んだり、主婦であれば家事を誰かに手伝ってもらうなど、社会的役割を免除してもらい、休養する必要がある[98][97][99]。
- 日常生活における障害が軽い軽症例では、これまで通りの生活を続けながら、治療を行うこともある。
- うつ病治療の基本は、日本では薬物療法と休養が原則とされる[98][97][99][100][101]。
- ただし、イギリスなど海外では重症を除き薬物治療は副作用が大きく[要出典](SSRIやSNRIのまれな副作用は吐き気程度であり、吐き気止めの同時処方で対処可である)、また、薬物治療の副作用とうつ病の症状の区別が難しく[要出典]、結果的により「重症化」する可能性があるため、禁止されている[要出典]。なお、2週間服用して症状の改善が見られなかった抗うつ薬の継続服用の必要はない。
治療法各論[編集]
抗うつ薬が普及する前、アメリカ国立精神衛生研究所(NIMH)は、うつ病は自然回復し、再発は滅多にない、と公式に述べていた。1964年、NIMHのジョナサン・コール(Jonathan Cole)は「うつ病は、全体的に、治療の有無にかかわらず、最終的には回復する予後が最良な精神状態の一つです。ほとんどのうつ病は治療しなくても長期的には回復します」と述べている。また、NIMHの専門家たちは、抗うつ薬が回復までの時間短縮に役立つ可能性はあっても、長期回復率の上昇には役立たないと考えている。その理由について、1974年、NIMHのうつ病部門長であるディーン・シュイラー(Dean Schuyler)は、ほとんどのうつ病は「特別な治療をしなくても事実上完治するという経過をたどります」と説明している。数ヶ月以内の自然回復率が50%を越えるため、各種治療法の有効性の判断は難しい[2][3][4][5]。
薬物療法[編集]
「抗うつ薬」も参照
抗うつ薬の有効性については議論がある。抗うつ薬の効果は必ずしも即効的ではなく、効果が明確に現れるには1週間ないし3週間の継続的服用が必要である。このことをしっかりと理解して服薬する必要がある。 抗うつ薬のうち、従来より用いられてきた三環系抗うつ薬あるいは四環系抗うつ薬は、口渇・便秘・尿閉などの抗コリン作用や眠気などの抗ヒスタミン作用といった副作用が比較的多い。これに対して近年開発された、セロトニン系に選択的に作用する薬剤SSRIや、セロトニンとノルアドレナリンに選択的に作用する薬剤SNRI、NaSSA等は副作用は比較的少ないとされるが、臨床的効果は三環系抗うつ薬より弱いとされる。 また、SSRIはプラセボ程度の効果しかないとの見解もある[104]。
不安・焦燥が強い場合などは抗不安薬を、不眠が強い場合は睡眠導入剤を併用することも多い。またカルバマゼピンやベンゾジアゼピン系もしばしば用いられている。しかしこれらはベンゾジアゼピン依存症・ベンゾジアゼピン離脱症候群をまねき、うつ病を悪化させる。英国国立医療技術評価機構(NICE)では[105]ベンゾジアゼピンの投与は患者と討議の上で短期間のみに限定され、慢性不安症への投与禁止、薬物依存を起こすため2週間以上の投与禁止と定められている。
うつ病の患者の不眠に対し睡眠導入剤を投与する、または、不眠に対する認知行動療法を行うと、不眠が改善するばかりではなく、うつ病の改善も促進される。[57]
また、近年セント・ジョーンズ・ワートを始めとしたハーブの利用にも注目が集まっており後述する。なお、非定型うつ病については、本来モノアミン酸化酵素阻害薬(MAO阻害剤)が第一選択になり、欧米では活用されているが、2010年現在日本で認可されているものはない。
抗うつ薬による治療開始直後には、年齢に関わりなく自殺企図の危険が増加する危険性があるとアメリカ食品医薬品局 (FDA) から警告が発せられ[106]、日本でもすべてのSSRIおよびSNRIの抗うつ薬の添付文書に自殺企図のリスク増加に関する注意書きが追加された[107]。
子供・青年・18-24歳の若年者に対しては、SSRI治療は自殺願望と自殺的行動について高いリスクが存在するとFDAは報告している[108][109][110][111][112] 成人についてはSSRIと自殺リスクの関係は明確ではない[112]。あるレビューでは関係性が認められておらず[113]、 別のレビューではリスクが増加すると報告され[114]、 第三のレビューでは25-65歳ではリスクはなく65歳以上では低リスクと報告している[115]。 疾病データ上では、新しいSSRI時代の抗うつ剤の普及により伝統的に自殺リスクの高い国で自殺率の大幅な低下をもたらしていると分かった[116]が、因果関係は確定されていない[117]。 米国では2007年に、SSRIとその他の抗うつ薬について24歳以下の若年者では自殺リスクを増加させる可能性があるというブラックボックス警告がなされた[118]。同様の警告は日本の厚生労働省からもされている[107]。
しかし、米国ではFDAの警告以降に若年者の自殺死者数が増加している。FDA警告の結果、若年者の抗うつ薬治療が少なくなり、結果として自殺者が増えたとすれば問題である。[119]
日本うつ病学会の大うつ病の治療指針では、軽症うつ病の場合、安易な薬物療法は避けるべきであり、重症、中症うつ病の場合、1種類の抗うつ薬の使用を基本とし、十分な量の抗うつ薬を十分な期間に渡って投与すべきである。寛解維持期には十分な継続・維持療法を行い、抗うつ薬の投与の終結を急ぐべきではない。[120]
心理療法[編集]
詳細は「心理療法」を参照
2009年、プラセボ効果を研究するハル大学のアービング・カーシュ博士は「心理療法のみの場合と、心理療法と抗うつ薬を併用する場合の効果の大きさは同じなのだから、なぜ、わざわざ抗うつ薬を持ち込む必要があるのだろうか」と述べている。英国国立医療技術評価機構(NICE)のガイドラインは心理療法の重要性を認めており、6~8回の認知行動療法(Cognitive behavioral therapy、CBT)または他の心理療法を推奨している。具体的には、軽度~中程度はカウンセリング、再発した場合はCBT、重度の場合はCBTと抗うつ薬との併用を勧めている。英国政府は臨床試験で効果が証明された認知行動療法をはじめとする心理療法の拡充を開始し、薬物療法に代わる治療法として成果を上げている[121]。
2012年、DSM-IVのアレン・フランセス編纂委員長は「精神科の軽度、中程度の症状には、精神療法が少なくとも薬物療法と同じくらい効果があり、精神療法のほうが持続効果は長く、副作用は少ないのです。非常に多くの人が必要のない薬物療法を受け、回復に大きく役立つであろう精神療法を受けていないというのは、理不尽であり、経済的動機がそうさせているのだと思います」と述べている[122]。
- 認知行動療法
-
詳細は「認知行動療法」を参照
- 外界の認識の仕方で、感情や気分をコントロールしようという治療法。抑うつの背後にある認知のゆがみを自覚させ、合理的で自己擁護的な認知へと導くことを目的とする。対人関係療法も認知行動療法の要素を持つ。
- 現在認知行動療法(CBT)は、子供と青年の抑うつに対して最も研究エビデンスが多く存在する。CBTと対人関係療法(IPT)は思春期の抑うつに対して勧められる。英国国立医療技術評価機構(NICE)では、18歳以下の人について薬物治療を行う場合はCBT・ICT・家庭セラピーなどといった心理療法を併用しなければならないとしている[123]。
- 日本うつ病学会では、認知療法は薬物療法と同時並行的に行われる精神科治療の基本であり、薬物療法に代わる治療法という見方は明らかに間違っていると強調しているが、同時に、認知療法の優位性を示す研究データがあることも暗に認めている[125]。うつ病の予防・治療日本委員会(JCPTD)では慢性化していない例では抗うつ薬より推奨している[126]。
- 認知行動療法は、心理職が国家資格化されている国々では、精神科(精神科医、薬物療法中心)と心理療法科(サイコロジスト、心理療法中心)に分かれることがあり、薬物療法と同時並行的に行われるとは限らない[127]。
- 認知行動療法は12回~13回程度で終了するので、3ヶ月程度の短期治療では意味があるが、うつ病が3ヶ月を超えて長期化した場合は、薬物療法等の別の治療法を模索されたい。
運動療法[編集]
「運動療法」も参照
フィジカルトレーニングは軽度の抑うつ治療に推奨されるが[130]、適度なものに限り、また多くの大うつ病の場合には統計的に明確な効果は認められていないとの報告もある[131][132]。入院時の日課とする病院もある[133]
プラセボ効果を研究するハル大学のアービング・カーシュ博士は、運動にも心理療法や抗うつ薬と同等の効果があると紹介している。薬物療法や心理療法ほど多面的な研究はなされていないが、効果を評価する臨床試験は沢山行われている。主に中程度~重度の症状に効果があり、定期的に続ける限り持続し、時間が経過すると効果が大きくなる。さらに、疫学的研究から予防効果も示唆されている。運動の種類は「ウォーキング(有酸素運動)」「ウェイトトレーニング(無酸素運動)」など何でも良く、20分の運動を週3日行えば十分効果がある。ただし、運動と抗うつ薬を併用するより、運動のみのほうが効果が高い。臨床試験の欠陥を理由に運動の効果が否定されることがあるが、抗うつ薬の臨床試験にも欠陥が存在している[134]。
その他[編集]
その他、実験的段階にあるものや、限定的に行われる治療法として以下のようなものもある。
- 電気けいれん療法 (ECT)
- 頭皮の上から電流を通電し、人工的にけいれんを起こすことで治療を行う。薬物療法が無効な場合や自殺の危険が切迫している場合などに行う。最近は全身麻酔を使用した苦痛のない方法がとられることがほとんどである(そのため入院も可能な大病院でしかできない)[135]。安全管理も慎重に行われるようになった[136]。前述の場合に有効性が高い治療法であると考える臨床家も多く[137]、保険診療でも認められている。その一方で、薬物療法など他の方法が功を奏さない場合に限るとするなど[138]慎重な適用を求めるものもいるほか、この治療そのものを勧めない精神科医もいる(電気けいれん療法#勧めない精神科医もいる参照)。
- 経頭蓋磁気刺激法 (TMS)
- 頭の外側から磁気パルスを当て、脳内に局所的な電流を生じさせることで脳機能の活性化を図るもの。日本では[139]保険は未承認。6週間治療での寛解率は27%程度、続く24週間治療での寛解率は50-60%程度[139]。
- 断眠療法
- うつ病患者が夜間眠らないことでうつ症状が急速に改善するという治療法である。薬物治療への効果が乏しく、うつ状態が長く続いているような場合に施行される。
- 光療法
- 強い光(太陽光あるいは人工光)を浴びる治療法。過食や過眠のあることが多い、冬型の「季節性うつ病」(高緯度地方に多い冬季にうつになるタイプ)に効果が認められている。冬季うつ病の第一義的な治療法は光療法とされ、抗うつ剤よりも有効性が高いことが確認されている[140]。
- また、光療法が非季節性のうつ病の治療に有効であることが実証された[141]。光療法がうつ病に効果があるかどうかは古くから検討されてきたものの、有効、無効の両方の報告があり、有効であることの決定的な証拠はなかったが、最新の研究成果によりその有効性が実証されるに至っている。
- ハーブの利用
- ハーブとして利用されているセント・ジョーンズ・ワートは、ドイツをはじめいくつかの国では軽度のうつに対して従来の抗うつ薬より広く処方されている[142]。臨床研究の結果は成否さまざまで、軽度から中程度のうつに対して有効でかつ従来の抗うつ薬よりも副作用が少ないとする研究がある一方で、プラセボ以上の効果は見られないとする研究もある。コクランレビューによる2008年の報告[143]によると、これまでのエビデンスからプラセボ群より優れた効果を示し、標準的な抗うつ薬と同等に効果があるが副作用は小さいことが示唆されるという。ただし重度の抑うつには効果が弱いとされるほか、同時に服用した他の薬の効果に干渉することがあるため注意が必要とされる[144]。
- なお、セント・ジョーンズ・ワートにおいてもセロトニン症候群の可能性があるので、注意されたい[145]。
- ω-3脂肪酸の摂取[要出典]
- 魚油食品、肝油、ニシン、サバ、サケ、イワシ、タラ、ナンキョクオキアミ等の魚介類は、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)のようなω-3脂肪酸に富んでいる。エゴマ油、アマニ油に豊富に、またキャノーラ油にバランスよくω-3脂肪酸のα-リノレン酸(ALA)が含まれている。
- なお、日本国内では各種栄養素の取扱は診療報酬の対象でないので医療機関では処方はされない。
経過[編集]
「誰でもかかる可能性がある」「罹患し易い」ことを表した『うつ病は心の風邪』という言葉が、一部における「うつ病は放っておいても簡単に治る」という誤解に繋がっているが、薬剤治療を行った人ほど予後がよかったとの研究結果もある[146]。日本では薬剤治療が一般的である[97][99][100][101][147]。経験者は、この世から消えてしまいたいと思うことがある[101]。
一方で、軽いうつ病の場合、薬物治療を行うことは、むしろ薬物の副作用の悪影響のほうが大きく[要出典](イギリスなどでは軽度のうつ病について抗うつ剤の処方は禁止されている[要出典](SSRIやSNRIのまれな副作用は吐き気程度であり、吐き気止めの同時処方で対処可である)、また、薬物の副作用と本当のうつ病の症状は(抗うつ薬の断薬を試みない限り)区別ができないため[要出典]、結果的に長期に苦しむことになりかねない。[要出典]なお、2週間服用して症状の改善が見られなかった抗うつ薬の継続服用の必要はない。
1950年代に抗うつ薬が登場するまでは、電気けいれん療法(1938年創始)、ロボトミー(1935年創始)しか効果の証明された治療法が無かったが、その後抗うつ薬が登場し薬物治療が発達した。
日本での研究では、6か月程度の治療で回復する症例が、50パーセント程度であるとされ[101][148]、多くの症例が、比較的短い治療期間で回復する。しかし、一方では20パーセント程度の症例では、1年以上うつ状態が続くとも言われ[101]、必ずしもすべての症例で、簡単に治療が成功するわけではない。また、一旦回復した後にも、再発しない症例がある一方、うつ病を繰り返す症例もある。このように、様々な経過をとる可能性があることは認識しておく必要がある。
再発率に関しては、うつを繰り返すたびに高くなる傾向にあり、初発の場合の次回再発率は50パーセント、2回目の場合75パーセント、3回目の場合は90パーセントにものぼる[149]。
大うつ病は、治療の有無に関わらず時間が解決することが多い。うつの外来患者リストの10 - 15パーセントは数ヶ月以内に減少し、約20パーセントはもはやうつ病基準を完全には満たさない[150]。エピソードの中央値は23週と推定されており、最初の3ヶ月間で回復する率が最も高い[151]。
研究では、初めて大うつ病を経験した人の80%が一生で1回以上の再発を経験し[152]、その平均は4回であった[153]。 他の一般的な調査では、約半数が治療を行ったかどうかに関わらず回復しているが、残りの半数は最低1回は再発し、およそ15%は慢性的な再発を繰り返す[154]。
さまざまな「うつ病」[編集]
難治性うつ病[編集]
定義は曖昧で人により異なることが多いが、「少なくとも2つ以上の抗うつ薬を十分な量・長期にわたり投与しても症状が改善しないケース」を治療抵抗性うつ病(英)あるいは難治性うつ病ということが多い。別の種類の抗うつ薬、抗てんかん薬の追加、(米国などでは)アンフェタミン、メチルフェニデートを適用したりする。 電気けいれん療法(ECT)、経頭蓋磁気刺激法(TMS)、(本来は難治性てんかんの治療法であるが)[155][156]迷走神経刺激法(VNS)の適用を検討することもある。
子どものうつ病[編集]
子どもの大うつ病の時点有病率は児童期で0.1から2.6パーセント、青年期で0.7から4.7パーセントとされている[157]。
NICEガイドラインによると、2005年4月にヨーロッパ医薬品評価委員会はSSRIとSNRIについて、子供と青年には処方すべきではない(承認適応症を除くがこれは通常の抑うつは含まない)としている[158]。
非定型うつ[編集]
通常のうつ病(メランコリー型うつ)は気分が落ち込む状態が長期にわたって持続して気分が明るくならないが、好きなことをしているときなどには気分が明るくなるようなタイプのうつ病は非定型うつといわれ、うつ病の半分程度は非定型とされる[159]。 ただし、非定型うつ病は双極性障害の初期症状と区別しにくいため、とりわけ親族に双極性障害患者がいる場合は、その可能性を考慮する必要がある。 非定型うつ病にはMAO阻害剤と呼ばれるタイプの特殊な抗うつ薬が有効であることが知られているが、この薬剤が課す広範な食事制限および激しい副作用のため、実際の臨床での利用は困難を極める。具体的には、豆やその加工品(醤油、味噌など)の摂取制限、チーズやチョコレートの摂取制限という、日本人にも西洋人にも向かぬものである。なお現在の日本ではその激しい副作用と扱いの難しさからパーキンソン病の治療にのみ使われている。[160]
DSM-IV-TRの診断基準
上記の定義に加えて下記が2つ以上あり、メランコリー型または緊張病性の特徴を満たさない
- 顕著な体重増加または過食
- 過眠
- 手足や体が鉛の様に重くなる事がある
- 対人関係に過敏
新型うつ(現代型うつ)[編集]
従前からの典型的なうつ病とは異なる特徴を持つものの総称で、現代型うつ病とも呼ばれる[162][163]。精神医学的には「新型うつ病」という専門用語は存在せず、厳密な定義はない。その概念も学術誌や学会などで検討されたものではない[164]。新型うつはマスメディアなどで上記の非定型うつ病とほぼ同義に扱われている。従来のメランコリー親和型の性格標識を持たないうつ病を指すことが多い。
うつ病概念の拡大[編集]
いわゆる新型うつ病を理解するには、日本における精神医学の発展の歴史を知る必要がある。戦前から日本はドイツ精神医学の影響を受けており、うつ病=内因性うつ病(メランコリー親和型うつ病)と捉えられてきた。しかし戦後アメリカ精神医学が主流となり、日本においても操作的診断学が導入されるようになると、『抑うつ症状』は全て『大うつ病性障害』に包含されることとなった。従来の伝統的診断学においては、病前性格論・生活史診断などを組み合わせてうつ病の鑑別診断が行われており、カルテには薬物が奏効する『内因性うつ病』、心理学的問題の解決が求められる『神経症性うつ病』、『境界性パーソナリティ障害に伴う抑うつ症状』などと記されていた。しかし操作的診断基準とともにうつ病圏が拡大され『大うつ病性障害』となると、成因が問われず様々な精神疾患の『抑うつ症状』が『大うつ病性障害』へと混入して診断されることとなった[9]。その結果成因が問われないままにうつ病と診断がなされ治療されてきたのが、近年増加したうつ病(新型うつ病)である。症候学的には大うつ病性障害の診断基準を満たすため、確かに『うつ病』ではあるが、必ずしも伝統的診断における『うつ病(内因性うつ病)』とは限らないため、薬物療法の効果は限局的である。
従来とは対極にある性格標識[編集]
これまで従来のメランコリー親和型の性格標識を持たないうつ病患者が数多く報告されてきた。笠原の退却神経症[165]、阿倍の未熟型うつ病[166]、広瀬の逃避型抑うつ[167]などである。これらは提唱者によって少しずつ特徴の捉え方が異なるが、「新型うつ病」と呼ばれるものの一部である。樽味はメランコリー親和型と対比させたディスチミア親和型[32]として定義し、市橋は内因性うつ病ではないが、症候学的には大うつ病性障害の操作的診断基準を満たすため、非うつ病性うつ病[34][168]という語を用いている。
この種の現代型うつ病に共通してみられる心性は、役割意識に乏しく、他責的・他罰的で、(これは非定型うつ病に見られる[169])薬物が奏効せず、遷延化するという点である。それらの多くはパーソナリティ障害(パーソナリティ障害の傾向を持つ者)と考えられており[170]、多分に自己愛的、回避的心性を読み取ることができる[32][33]。これらの新しいタイプのうつ病においては薬物療法は本質的治療とはならず、あくまで補助的なものであり、精神療法的接近が求められる。
疫学[編集]
「うつ病を患った人物の一覧」も参照
厚生労働省によれば、うつ病の12カ月有病率(過去12カ月に経験した者の割合)は世界では1~8%、日本では12カ月有病率が1~2%である[96]。
また、生涯のうちにうつ病にかかる可能性については、川上によれば3~16%である[96]。 日本では、水野らによれば12ヶ月有病率は3.1パーセント[172]、川上[173]によれば生涯有病率6.7パーセントとされている[174]。
日本の患者数の少なさについては、受診率の低さが上げられる。[175][176]
これらの研究結果から、ある時点ではだいたい50人から35人に1人、生涯の間には15人から7人に1人がうつ病にかかると考えられている。発生率は女性に比較的高いとされているが、閉経や子どもの自立による喪失体験、PMSによるストレス、男性より寿命が長いことによる配偶者との死別などによる部分も少なくはないと思われ、社会生活によるストレスが多い男性にも普通に見られる。
女性の発症率の高さについては、妊娠・出産期・閉経期・月経前(PMS、PMDD、セロトニンの減少)の女性ホルモン、セロトニンの激減がマタニティブルーや産後うつに関与している可能性がある。日本ではうつ病が増加傾向にあるが、女性の高齢化による自然増もある[177]。
製薬会社のファイザーが2009年6月に10年以上の喫煙歴がある40 - 90歳の男女計600人を対象にインターネットで行った調査によると、ニコチン依存症の人の16.8パーセントにはうつ病やうつ状態の疑いがあり、ニコチン依存症でない人でのその割合は6.3パーセントのため、ニコチン依存症の人ほど、うつ病・うつ状態の可能性が高いと報告している[178]。また、典型的な抗うつ薬であるイミプラミンについて、喫煙者は効果が半減するとの指摘がなされている[179]。
ただし、喫煙者であって重症のうつ病の間の禁煙は医師との相談が必要である[180][181][182]。ニコチン離脱時にうつ病が再燃しやすいのである[183]。
うつ病によりリスクの高まる身体疾患[編集]
- 2型糖尿病
- 糖尿病患者の死亡率
- 動脈硬化
- 冠動脈虚血性疾患
- 心筋梗塞発症後1年間の心血管死,心筋梗塞再発など
- 脳梗塞
- 乳がん患者のがん死亡率
国別データ[編集]
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脚注[編集]
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参考文献[編集]
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- 志水彰ほか『精神医学への招待』改訂2版, 南山堂、2005年, ISBN 4-525-38352-6
- 村上靖彦、永田俊彦、市橋秀夫、中安信夫 『座談 精神科臨床の考え方―危機を乗り越えるべく』 メディカルレビュー社、2005年4月。ISBN 978-4-8960-0826-5。
- 神庭重信 編『気分障害の診療学』「新世紀の精神科治療(新装版)」第2巻, 中山書店, 2008年, ISBN 978-4-521-73049-3
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- Hadzi-Pavlovic, Dusan; Parker, Gordon (1996). Melancholia: a disorder of movement and mood: a phenomenological and neurobiological review. Cambridge, UK: Cambridge University Press. ISBN 0-521-47275-X.
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- 英国国立医療技術評価機構 (2005). CG28: Depression in children and young people (Report). London. - 子供と青年の抑うつ
- 一般社団法人うつ病の予防・治療日本委員会 (2008). うつ病診療の要点-10 (Report).
- 日本生物学的精神医学会「うつ病対策の総合的提言」、『日本生物学的精神医学会誌』第21巻第3号、日本生物学的医学会、2010年、 155-182頁。
関連項目[編集]
- 精神科医
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
- 抗うつ薬
- 日本うつ病学会
- 精神療法
- 薬物療法
- 気分障害
- 双極性障害(躁うつ病)
- 躁病
- パーソナリティ障害
- ひきこもり
- ストレス
- 自殺
- メランコリー
- メンタルケア
- 不登校
- セロトニントランスポーター遺伝子
外部リンク[編集]
- 厚生労働省 うつ病
- 日本うつ病学会
- うつ病とは、うつ病・うつ状態のセルフチェック - MSD
- 一般社団法人うつ病の予防・治療日本委員会(JCPTD) - UTU-NET うつ・不安啓発委員会公式ホームページ
- NHK うつサポート情報室 - うつ病をテーマにした放送のログ。実例と医師の解説が豊富
- 「Depression」 - Medpediaにある「うつ病」についての項目。(英語)
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