注意義務

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注意義務(ちゅういぎむ)とは、ある行為をする際に一定の注意を払う義務をいう。

特定の行為を行ったこと、あるいは、行わなかったことが、一般的な用語法で「不注意」であった場合に、それが法律上の責任を負うことに結びつくためには、当該対象者が注意義務を負っていたかどうか、が問題とされる。

日本法上の注意義務[編集]

民法上の注意義務[編集]

民法上の注意義務としては善良な管理者の注意義務(善管注意義務)と自己のためにするのと同一の注意義務がある。民法は特定物債権における債務者の保管義務の通則として400条に善管注意義務を定め、特に注意義務が軽減される場合(659条等)を個別的に規定することとしている[1]

  • 善良な管理者の注意義務(善管注意義務
    善良な管理者の注意義務(善管注意義務)とは、債務者の属する職業や社会的・経済的地位において取引上で抽象的な平均人として一般的に要求される注意をいう[2][3]。これはローマ法の「善良な家父の注意」に由来し[3]フランス法の「良家父の注意」[4]ドイツ法の「取引に必要な注意」がこれにあたる[1]。この一般的・客観的標準に基づく程度の注意を欠く状態を抽象的軽過失[1]あるいは客観的軽過失という[3]
  • 自己のためにするのと同一の注意(自己の財産におけると同一の注意義務、固有財産におけるのと同一の注意義務)
    行為者自身の職業・性別・年齢など個々の具体的注意能力に応じた注意であり[1]、この注意を欠く状態を具体的軽過失[1]あるいは主観的軽過失という[3]

以上の抽象的軽過失と具体的軽過失をあわせて広義の軽過失という[1]。これに対して必要な注意を著しく欠く状態を重大な過失あるいは重過失という[1][3]。重大な過失が問題となる場合としては次のような例がある。

刑法上の注意義務[編集]

刑法における過失の本質は、注意義務違反であるとされる(新過失論においても、結果回避義務違反を「客観的注意義務違反」とよぶことがある)。

会社法上の取締役の注意義務[編集]

  • この節で、会社法は条数のみ記載する。

概説[編集]

取締役と会社との関係は委任により規律される(330条)ため、取締役は会社に対し善管注意義務を負う(民法644条準用)。具体的にはコンプライアンス義務が挙げられる。

忠実義務[編集]

取締役は会社に対し、善管注意義務のみならず忠実義務を負担する(355条)。忠実義務の内容とは、会社の利益を犠牲にして自己の利益を図ってはならない義務と説明される。

忠実義務と善管注意義務の関係については、言い換えただけと考える同質説(鈴木竹雄河本一郎森本滋八幡製鉄事件(最大判昭和45年6月24日民集24巻6号625頁))と、取締役に課せられた独立の義務と考える異質説(田中誠二前田庸北沢正啓)がある。異質説に立つ場合、利益相反取引の禁止(356条1項2号・3号)、競業避止義務(356条1項1号)、報告義務(357条)、お手盛り禁止(報酬規制、361条)などは、忠実義務の具体化である。従来は同質説が通説的であったが、現在は異質説が有力化している。

ビジネス・ジャッジメントルール[編集]

経営判断の原則ともいう。取締役が業務執行に関する意思決定の際に適切な情報収集と適切な意思決定プロセスを経たと判断されるときには、結果として会社に損害が発生したとしても善管注意義務違反に問わないとする原則。アメリカ合衆国判例法として発展し、近年の日本の裁判例にも影響を与えているといわれる。

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f g 遠藤浩編著 『基本法コンメンタール 債権総論 平成16年民法現代語化新条文対照補訂版』 日本評論社〈別冊法学セミナー〉、2005年7月、8頁
  2. ^ 遠藤浩編著 『基本法コンメンタール 債権総論 平成16年民法現代語化新条文対照補訂版』 日本評論社〈別冊法学セミナー〉、2005年7月、7頁
  3. ^ a b c d e 我妻榮、有泉亨、清水誠、田山輝明 『我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権 第3版』 日本評論社、2013年、699頁。
  4. ^ 遠藤浩編著 『基本法コンメンタール 債権総論 平成16年民法現代語化新条文対照補訂版』 日本評論社〈別冊法学セミナー〉、2005年7月、7頁-8頁

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • 森田章「取締役・執行役の善管注意義務と忠実義務」 (『会社法の争点』(有斐閣、2009年)138頁)