診療録

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診療録(しんりょうろく、: medical record)は、医療に関してその診療経過等を記録したものである。かつての日本ではドイツ語で書かれていた。また全体的な概念として診療情報、または医療情報とも言われる。(※本稿では診療録に関することのみではなくこの概念についても記述。)近年では電子カルテ化が進んでいる。

名称[編集]

日本で一般に知られている「カルテ」はドイツ語で「カード(Karte、英語のcard)」という意味である。これは、明治時代の日本が主にドイツから医学を学んだことの影響である。明治以前の日本で、診療録としての体を成している書物としては、言継卿記が上げられる。

分類[編集]

  • 診療情報:診療の過程で知りえた患者に関するすべての事象。
  • 診療録:診療に関する経過を記録したもの。
  • その他診療に関する諸記録:検査結果、手術所見、レントゲン写真看護記録など。

法律[編集]

現在日本の法律では「診療録」と「その他の診療に関する諸記録」は便宜上別物として扱われている。

医師法・歯科医師法[編集]

医師法第24条1項に、医師患者を診療したら遅滞なく「経過を記録すること」が義務づけられている。これを「診療録」としている。また、2項で記録後最低5年間は保存することが義務づけられている(医療機関内で診療したものについては、その医療機関の義務である)。

診療録は単なるメモにとどまらず医療訴訟においても証拠としての重要性は非常に大きく、たとえ必要な処置を行っていたとしてもカルテに記載がない場合、行ったとの主張は認められない可能性もある。歯科医師法も医師法と同様の規定がなされている。

獣医師法[編集]

獣医師法では、診療録の保存期間を3年以上と定めている[1]

医療法[編集]

医療法第5条では都道府県知事と一部市長、区長は、必要な場合に医師歯科医師助産師に対し診療録、助産録等の提出を命ずることができるとされている。

第21条において病院、第22条において地域医療支援病院、第23条において特定機能病院は、それぞれ診療に関する諸記録を備えておかなければならないとされている。また25条では診療所助産所病院に対して都道府県知事と一部市長、区長は、また特定機能病院に対して厚生労働大臣は、それぞれ必要な場合に診療録その他を検査することができるとされている。

第69条では診療録その他の診療に関する諸記録に係る情報を提供することができることを広告することができるとされている。第71条では助産所が助産録に係る情報を提供することができる旨を広告することができるとされている。

医療法施行規則では、診療録以外の検査記録や画像写真、手術所見など「診療に関する諸記録」は病院に対し2年間の保存が義務付けられている。

鍼灸院、治療院、接骨院・整骨院などの施術所が記載する施術録については各自治体の条例や規則に基づいて検査されることとなっている。

個人情報保護法[編集]

カルテの開示[編集]

現在では診療録、その他診療に関する諸記録等すべての「診療情報」の管理、開示等の規定は個人情報保護法を基にして運用されている。ちなみに同法第2条においてこの法律で扱う「個人情報」は「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」と規定されている。

多くの医療機関は「診療情報」という個人情報を扱う「個人情報取扱事業者」とされているため、患者本人から開示請求があった場合には原則としてこれを開示することが義務付けられている[2]。一方、患者の家族、または遺族に対しては開示規定はなく、患者死亡の際の医療訴訟では遺族が裁判所に証拠保全を申し立てるといった法的措置を行う場合もあるが、現在では、各医療機関もこれに対応してきており、厚生労働省は診療録開示のガイドラインを制定している。

欧米諸国では、医学界の排他性や密室性を排除するために多くの努力を払っており、アメリカでは転院する時はカルテが自動的についてくる。カルテは患者に属するもので医師や病院のものではないという考え方が徹底している為である[3]

その他[編集]

診療情報の扱いについては、以下の法律も関係している。

正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密(医療においては診療情報)を漏らしてはならない。
業務上委託を受けたため知り得た事実で他人の秘密に関するもの(医療においては診療情報)については、証言を拒むことができる。
児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は速やかにこれを児童相談所に通告しなければならないとし、この場合刑法、その他の守秘義務は妨げにならないとされている。
規定により本人の承諾が無くとも保健所都道府県知事に患者の住所氏名等も届け出ることが規定されている。またはこの場合の個人情報である診療情報は個人情報保護法第16条によって公衆衛生上必要な場合には利用目的による制限を受けないとされている。
覚せい剤取締法においては届出義務はない。しかし、「医師が、必要な治療又は検査の過程で採取した患者の尿から違法な薬物の成分を検出した場合に、これを捜査機関に通報することは、正当行為として許容されるものであって、医師の守秘義務に違反しない」との判例があり(最高裁第一小法廷平成17年7月19日決定)、本人の承諾なしに通報を行っても刑法第134条に抵触する恐れは低いと考えられる。

診療録の記載[編集]

内容[編集]

医師法施行規則には、診療録には以下の4つを最低限記録しなければならないと定められている。

  1. 診療を受けた者の住所氏名性別及び年齢
  2. 病名及び主要症状
  3. 治療方法(処方及び処置)
  4. 診療の年月日

しかし一般的に、診療録に記載される内容は以下のようなものである。不必要な項目については適宜記載されないこともあるが、システマティックに患者の状況を知って適切な医療を行うため、以下の項目はすべて重要である。

患者の基本情報 
氏名・年齢・性別・住所・保険証番号等
主訴(CC; Chief Complaint) 
胸痛・発熱といった、患者が来院するきっかけとなった主な訴えであり、診療はここから始まる。
現病歴(現症)(PI; Present Illnessまたは O.C; onset and course) 
いつから、どのように主訴が始まり、どのような経過をとったのか、前医ではどのような治療を受けたのか、どのような症状が出たのか。
既往歴(PH; Past History) 
過去に患者がかかった病気。現在の病状の把握や、治療の際の方針に大きく影響する。
家族歴(FH; Family History) 
親族や同居者の病気・健康状態。遺伝性疾患や感染症等で家族歴が重要となるだけではなく、患者背景を知り適切な治療方針を立てる上での参考になる。
社会歴(SH; Social History) 
出身地・職業・日常の生活状況・趣味。これらから診断が絞られることは珍しくない。
嗜好 
喫煙飲酒
アレルギー 
花粉等のほか、アレルギーを起こす薬剤について
現症・身体所見 
視診・聴診・触診による所見、反射・精神状態等
検査 
血液検査・画像検査等各種の検査結果や予約の状況
入院後経過・看護記録
治療方針 
治療の目的について

問題指向型診療録[編集]

カルテが単なるメモでないのは上述の通りである。しかし、実際には書いた本人にしかわからない略号だらけであったり、不十分な記載しかないというものもまた多い。本人も読めない場合すらある。チーム医療の重要性が注目されている中で、そのたたき台となるべきカルテは記録として機能する必要があり、その方法論のひとつが問題指向(型)医療記録、(POMR: Problem Oriented Medical Record又はPOS: Problem Oriented System)である。特に入院後の治療・看護計画を立てる上で有益な方法であり、採用している病院が多い。

この方法ではまず問題点を列挙し、それぞれの問題について記録内容を以下の4項目に分離する。

  • S(Subject):主観的データ。患者の訴え、病歴など。
  • O(Object):客観的データ。診察所見、検査所見など。
  • A(Assessment):上2者の情報の評価。
  • P(Plan):上3者をもとにした治療方針。

問題を列挙した一覧をProblem Listと言う。問題点毎に、「収集した情報」と「そこからの判断」を明確に区別することから始めるのである。そして客観的に得た情報と聴取した情報も区別した上で、その中から問題点を抽出し、それぞれの問題点について評価と対処を記録していくというものである。(POMR又はPOSはこの4項目の頭文字をとってSOAPと呼ばれることもある)

実際にこれら4者を明確に区別できない場合も多く、厳密にこのルールに従うことは不可能なこともあるが、これを意識して記載することでカルテの機能性を向上させることが期待される。具体的には下の2者があげられる。

  • T(Treatment):Pで決めた治療方針を基にした治療内容。
  • E(Effect):治療後の検査結果や症状の緩和、病気の消失など。

脚注[編集]

  1. ^ 獣医師法第21条第2項
  2. ^ 首相官邸 個人情報の保護に関する法律 第二十五条 - 開示
  3. ^ 司法改革が日本を変える 第8回 『SAPIO』 2001年2月28日号

関連項目[編集]

外部リンク[編集]