懲役
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懲役(ちょうえき)とは自由刑の一種であり、受刑者を刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる刑罰をいう(日本の刑法12条2項参照)。
目次 |
[編集] 懲役の目的
- 隔離
- 犯罪者を一定期間社会から隔離することにより社会の安寧を図る。また犯罪者を被害者による報復や社会の疎外から保護する。
- 抑止
- 長期間自由を奪うペナルティーを科すことにより、犯罪を割に合わないものとする。
以上は自由刑に共通している目的であるが、懲役刑の特色として以下の目的が挙げられる。
[編集] 日本の懲役
日本の現行刑法では、懲役は刑の満期がある有期懲役と、刑の満期が存在しない無期懲役[1][2]に分類され、有期懲役は原則として1ヶ月以上20年以下の期間が指定される(同法12条1項)。ただし、併合罪などにより刑を加重する場合には最長30年まで、減軽する場合は1ヶ月未満の期間を指定することができる(同法14条2項)。
したがって、ある条文において「2年以上の有期懲役に処する」と刑の短期のみが規定されている場合には、裁判所は、原則として「2年以上20年以下」(加重した場合や死刑・無期懲役を減軽した場合には30年以下)の範囲内で量刑を行うこととなる[3]。
[編集] 懲役刑の内容
懲役には炊事・洗濯など刑務所運営のための作業である経理作業と、財団法人矯正協会が国に材料を提供し靴・家具などを製作させたり、民間企業と刑務作業契約をして民間企業の製品を製作させたりする生産作業の2種類がある。
法律上、刑期の3分の1を経過することが仮釈放の条件の一つとなっており(刑法28条)、最短ではその期間の経過後に出所することもあり得るものとされているが、実際には受刑態度が良好な場合であっても、刑期の3分の2以上経過した後でなければ、仮釈放が認められないケースが多い[4]。
なお、2007年度(平成19年度)の犯罪白書によれば、2006年(平成18年)に刑務所から出所した者の内、仮釈放を許された者は52.6%、仮釈放を許されず満期まで服役した者は47.4%である[5]。
[編集] 懲役の問題点
生産作業の中でも民間企業の製品を製作させる行為はILO条約が禁止する強制労働に当たるとの批判がある[6]。ILO条約である「強制労働に関する条約」第4条[7]では、権限ある機関が私人、会社、団体の利益のために強制労働を課したり、課すことを許可することを禁止したりしていることを理由とする。
諸外国では、民間企業の製品を製作させる行為は労働者の雇用を奪い、一般向けに製品を製作させる行為は民業圧迫になるとも考えられていて、刑務作業で製作された製品は官庁向けに限定している国もある[8]。
また、作業報奨金は作業を行った受刑者に対して、釈放の際にその時における報奨金計算額に相当する金額の作業報奨金を支給するものとされている。労働の対価とは考えられておらず、1時間あたり数円単位(ドラマでは500円/日の描写もある[要出典])と、極めて低額に抑えられている。これは刑罰の内容として労働については対価という概念を想定し得ないことによるが、作業報奨金は出所直後の生活基盤となる資金でもあることから、矯正効果の向上、再犯防止の観点から増額を期待する意見もある。
刑務作業は景気の変動に左右されやすく、不況になると民間企業からの受注が減り、作業を満足に実施できないことがある[9]。また、2003年(平成15年)には高松刑務所で中国製の手袋を受刑者にラベルを張り替えさせて日本製と偽るという不祥事[10]も発覚している。
短期の懲役刑(6ヶ月程度)では、受刑者に施設内処遇者というレッテルを貼られることによるデメリットが、懲役期間中の教育効果を上回るのではないかともいわれており、出所後の再犯率が高いことから教育刑としての効果が認められないのではないかとの指摘もある。
元刑務官の坂本敏夫は 1965年ころ、受刑者が一般の工場で働く構外作業が廃止されたことを例に挙げ、責任回避のために事故を起こさないことが刑務官の目標となり、受刑者は技術を身につけることができず、社会復帰ができなくなったと指摘している[11]。
[編集] 無期懲役
無期刑とは、刑期が終身にわたるもの(受刑者が死亡するまでその刑を科するというもの)であり[12]、有期懲役より重い刑罰、死刑に次ぐものとされている。ただ、無期懲役の受刑者はおおむね20-40年で仮釈放が、若しくは願い出による個別恩赦が認められることがある点で、社会復帰の可能性が無い絶対的終身刑とは異なる。
しかし、仮釈放中の者は残刑期間について保護観察に付されることとなるため、無期懲役の受刑者は、仮釈放が認められた場合でも、恩赦などの措置がない限り、終身観察処分となり、定められた遵守事項を守らなかったり、犯罪を犯したりした場合には、仮釈放が取り消されて刑務所に戻されることとなる。また一度でも刑務所に戻された場合にはその後の仮出所請求ができるのは最短で10年以上となるが、再度の請求についてはほぼ棄却される扱いが多く、実質的には恩赦がなければ一生を獄中で過ごすことになる[13]。なお、このような刑罰のことを「相対的終身刑」と呼ぶことがあり、ヨーロッパの多くの国における終身刑も、実は日本の無期刑と同様、仮釈放の可能性のある相対的終身刑である[14][15][16]。
近年、無期懲役の仮釈放は従前と比較して厳しく運用されており、最近5年間では仮釈放許可数は年平均6.8人となっている。また、2000年(平成12年)8月の時点で在所40年を超える無期懲役受刑者が17人、50年を超える無期懲役受刑者が2人いることが確認されており、2002年(平成14年)5月31日の衆議院法務委員会会議録によれば、同年2月末時点における最長在所者の服役年数は52年10月となっている[17]。
実際の各年ごとの無期刑仮釈放者の在所期間の分布[18][19]を見ても、1996年(平成8年)と2000年(平成12年)と2004年(平成16年)に分布全体が長期化の方向にシフトしていて、特に2000年以降では、在所20年以下で仮釈放を許可される者は例外的であることがわかる。2000年以降に仮釈放を許された54人のうち在所20年以下の者は3人、2003年(平成15年)以降では28人中0人(仮釈放を許された者全員が在所20年超)である。また、2005年(平成17年)に仮釈放を許された者の平均在所年数は27年2月となっている[20]。2007年度(平成19年度)には31年10月となった[21]。
なお、法務省は、2008年12月以降、無期刑受刑者の仮釈放の運用状況等について情報を公開している[22]。
法律上は、無期刑に処せられた者に改悛の情あるときは、10年経過後に仮釈放を許可することができる規定になっているため(刑法28条)、これを根拠にマスコミなどから「10年で仮釈放し得る無期懲役は刑として軽すぎる」と批判されることがあり、「10年経てば自動的に仮釈放される」という誤解が世間に膾炙している。
しかし、近時における実際の運用は上記の通りであり、基本的に最低でも20年以上服役しなければ仮釈放は認められない。また、刑法改正により、有期懲役の上限が20年から30年となったため、有期懲役刑の受刑者との均衡を図る意味でも、将来的には仮釈放に至るまでの平均在所年数が更に長くなる可能性も指摘されている。
ちなみに、2008年法務省の発表では、仮釈放者の平均服役期間は2004年が約26年、2005年が27年、2006年が25年で、2007年は30年を超えている。確定者が増えて仮釈放者が減少傾向のため、無期懲役服役中の囚人は年々増え続けて1999年末に千人台となり、2006年末には1500人を大きく上回った。
[編集] 仮釈放のない無期懲役(絶対的終身刑)の導入
仮釈放中に復讐殺人や強盗殺人など重大な犯罪を犯すケースが見られること(無期懲役の仮釈放中に殺人などの凶悪犯罪を犯すと死刑判決が下される場合が多い)や、死刑と現行の無期懲役との間に少なからずギャップがあるという点から、仮釈放制度のない無期懲役(絶対的終身刑)制度の導入の是非が議論されている。この問題は、死刑廃止問題とも密接にリンクしており、死刑を廃止した場合に導入する最も重い刑として仮釈放のない無期懲役(絶対的終身刑)を想定しているケースが見られる[23]。
なお、懲役刑の執行を法律上管理し、仮釈放の運用にあたり意見を述べる立場にある検察庁は、特定の無期懲役案件に関して、仮釈放の申請がなされた場合であっても同意しない旨の運用をするための通達(いわゆるマル特無期)[24]を行っているものとされている。
[編集] 執行猶予
原則として、3年以下の懲役刑を言い渡す場合においては、情状によって、その刑の執行を猶予することができる(執行猶予)。
そこで、しばしば実刑判決を必ずさせるための立法技術として、懲役刑の短期を5年ないし7年に設定する場合がある。特に、短期を7年とすると、法律上の減軽の適用が無い通常の事例において、酌量減軽(刑法66条)を適用しても短期が3年6月となるため、執行猶予を法律上適用することができなくなる。
短期を7年とした犯罪としては、強盗強姦罪がある(かつては、強盗致傷罪もそうであったが、酷であるとして刑法改正により短期が6年に引き下げられ、酌量減軽による執行猶予の余地を認めた)。
[編集] 刑務所にて製作された製品
刑務所において製作された製品は、「キャピック展」(「矯正展」とも呼ばれる)において展示即売がなされる(キャピックとは、「矯正協会刑務作業協力事業」―Correctional Association Prison Industry Co-operationの略である)。
[編集] 脚注
- ^ 無期懲役の「無期」というのは、無期謹慎などの「無期」とは異なり、「期間の定めのない」という意味ではなく、「満期がない」という意味であり(期間を定めず刑種のみを定めて言い渡す刑罰は罪刑法定主義により禁止されている)、現行の無期懲役には仮釈放の可能性があるものの、仮釈放を許されても、恩赦などの措置がない限り、一生仮釈放のままであり、刑自体は本人が死亡するまで続く。つまり、現行の無期懲役は、終生という刑期の途中で仮釈放によって社会復帰できうる刑罰である。仮釈放制度の存在を理由として現行の無期懲役刑を「期間の定めのない(10年以上の)懲役刑」とするならば、懲役15年は「懲役5年以上15年以下の不定期刑」と呼称しなければ整合性が取れないという問題が生じる。
- ^ 「本来の定義」
- ^ 2005年(平成17年)1月1日の改正刑法の施行前は、有期懲役は原則として1ヶ月以上15年以下、刑を加重する場合でも最長20年までと定められていた。
- ^ 「定期刑仮釈放許可人員の刑の執行率」 法務省、2006年
- ^ 「出所受刑者数・仮出獄率の推移」 法務省。
- ^ 井口克彦「日本の刑務作業は「強制労働」か?」、『CPR News Letter』第8巻、監獄人権センター、1996年2月、2009-03-02 閲覧。
- ^ "強制労働ニ関スル条約(第29号)". 国際労働基準 - ILO条約・勧告. ILO駐日事務所 (2005-07-25). 2009-03-02 閲覧。
- ^ 荒木伸怡 (2004-06-24). "施設内処遇 - その2". サイバーラーニング. 立教大学. 2009-03-02 閲覧。
- ^ 石川淳一 (2009-02-28). “刑務作業:企業の発注、相次ぐ解約 不況余波、刑務所にも”. 毎日新聞 2009-02-28 閲覧。
- ^ 「高松刑務所で中国製手袋を日本製に」 四国新聞、2003年7月30日。
- ^ 森達也 『死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う』 朝日出版社(原著2008-01-20)、初版、p. 218。ISBN 9784255004129。2009-07-26閲覧。
- ^ 「無期刑及び仮釈放制度の概要について」
- ^ ただし、20歳未満で無期懲役の言渡しを受けた者については、仮釈放を許された後、それが取り消されること無く10年を経過すれば、少年法59条の規定により刑は終了する。なお、殺人や強姦と言った重犯罪を犯した未成年については、少年法の適用対象外とするように制度が改正されたため、成人と同じ扱いになることに注意しなければならない。
- ^ 「世界の終身刑」
- ^ 「世界の終身刑の仮釈放の有無と最低服役年数」
- ^ 「セシリアちゃん殺し ミン・チェン被告に終身刑判決」 日加ニュース、2006年5月26日。
- ^ 「在所20年以上の無期刑受刑者のデータ(2000年8月1日時点)」
- ^ 「無期刑仮釈放者の受刑在所期間1(新たな刑)」
- ^ 「無期刑仮釈放者および長期在所者等のデータ」
- ^ これは「仮釈放された者」の平均在所年数であり、仮釈放されずに長期間在所している者は含まれていないことに注意。
- ^ 読売新聞2008年6月1日
- ^ 「無期刑受刑者の仮釈放の運用状況等について」
- ^ 『重無期刑の創設及び死刑制度調査会の設置等に関する法律案』
- ^ 『最高検通達を撤回させよう!「悪質事件」の無期懲役囚、検察が仮釈放を「制限」』 監獄人権センター。
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- 龍谷大学矯正・保護研究センター編・石塚伸一監修 『国際的視点から見た終身刑―死刑代替刑としての終身刑をめぐる諸問題』 成文堂、2003年10月20日。ISBN 4792316278