ローマ字

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ローマ字(ローマじ)とは、ラテン文字(ラテンアルファベット)のことであるが、日本では、ラテン文字を用いて日本語を表記すること、あるいは表記法、表記したもののこともローマ字と呼ぶ。「ローマ」の名は古代ローマ帝国において用いられていた表記法に由来することから。同様の方法は、ロシア語ギリシャ語アラビア語中国語朝鮮語などラテン文字を主たる文字としない多くの言語に存在する。

明治の国語学者や、太平洋戦争降伏後の連合国軍最高司令官総司令部のもと民主化政策の一環で招かれた第一次アメリカ教育使節団が昭和21年(1946年3月31日に出した第一次アメリカ教育使節団報告書において、日本語に使用される文字数を大幅に減らして日本語の習得を早くできるようにするために、日本語の主たる表記をローマ字とすべきだという主張(ローマ字論)がなされたが、批判が大きくその意見は退けられた。

目次

[編集] ローマ字の歴史

1591年にポルトガル式ローマ字で出版した使徒行伝『サントスの御作業の内抜書』(Santos no Gosagveo no uchi Nuqigaqi)が現存する最古のローマ字文書である。ポルトガル式やオランダ式ローマ字は仮名との一対一の対応がなく、使用は宣教師や学者などのごく狭い範囲に限られた。

仮名とローマ字を一対一で対応させた最初の方式は、1867年ジェームス・カーティス・ヘボンが『和英語林集成』第1版で用いたローマ字で、ヘボン式ローマ字として知られる。しかしこの方式は英語の発音に準拠するために、日本語の表記法としては破綻が多いとする意見があった。そうした立場から、1885年田中館愛橘が音韻学理論に基づき日本式ローマ字を考案した。日本式は音韻学理論の結実として、国内外の少なくない言語学者の賛同を得た。しかし英語話者にとって英語の発音に準拠しない日本式は受け入れがたいものであり、どちらを公認するかで激しい議論が続いた。そして、両者が表音主義の下に歩み寄って改変を行ったのが1937年に内閣訓令第3号として公布された訓令式ローマ字である。

その間、1924年第15回衆議院議員総選挙ではローマ字での投票が認められた。

第二次大戦後、1945年(昭和20年)9月2日の連合国最高司令部指令第2号の第2部17において各市町村の道路の入り口に「ヘボン式ローマ字」によって名称を表示するように指示されたことなどもあり[1]ふたたびヘボン式が勃興して混乱が生じたため、1937年の内閣訓令第3号は廃止、1954年に内閣告示第1号として新たに公布しなおした。この新たな訓令式ローマ字は、日本式に準拠しつつそれに若干の改変を加えたものであり、一方でヘボン式の使用は「国際的関係その他従来の慣例をにわかに改めがたい事情にある場合」に制限している。1989年には国際標準化機構(ISO)が訓令式(厳密翻字は日本式)を採用、ISO3602として承認した。

各方式が確定する以前は、西欧の諸言語の影響を受けた様々な表記法が存在していた。これらは1879年創業の旧海上がTokio Marine、1875年創業の島津製作所(しませいさくしょ)がShimadzu、北海道に生息する生物の学名にYezo()が付くなど、現在も残るものもある。

2009年時点で、日本国内の標準として公に認められているローマ字表記は1954年の訓令式である。しかし、地名や人名などの各種日本語音をローマ字表記する必要がある場合、実際にはヘボン式表記が多用されている[2]

[編集] ローマ字の規格

[編集] 日本国内規格

日本国内の標準規格は1954年の内閣訓令第1号ならびに内閣告示第1号の第1表が示した訓令式である。前述の通り、日本式に準拠しつつ、それに若干の改訂を加えたものとなっている。第2表でヘボン式(1~5行目)と日本式(6~10行目)も認めたが、それらは「国際的関係その他従来の慣例をにわかに改めがたい事情にある場合」に限られる。なお、第2表に従ってヘボン式あるいは日本式でローマ字をつづる場合にも「そえがき」を適用する。(そえがきには、はねる音「ン」はすべてnと書くとあるので、ヘボン式のb,m,pの前のはねる音をmと書く表記は、規格外となってしまっている)

参照 http://www.bunka.go.jp/kokugo/main.asp?fl=list&id=1000003935&clc=1000000068

[編集] 国際規格

国際標準化機構(ISO)が1989年に承認したISO3602がこれに当たる。第3項に「採用されたローマ字化の方法は、(省略)訓令式の名で知られている方式である」とある。ただし第5項の原注2により、厳密翻字に限って日本式のつづり方を採用する。

参照(1985年時点の規格案) http://www.age.ne.jp/x/nrs/iso3602/iso3602.html

成立した規格は、有償にて販売されている。 http://www.iso.org/iso/iso_catalogue/catalogue_tc/catalogue_detail.htm?csnumber=9029

[編集] 英米規格

  1. 英国規格協会(British Standards Institution)の英国規格
  2. 米国規格協会(American National Standards Institute)の米国規格

両者の内容は違わない。米国規格は1994年に廃止された。現在、米国に日本語のローマ字表記に関する規格は存在しない。
参照 英国規格要約 http://halcat.com/roomazi/doc/bs4812.html

[編集] その他の方式

団体などが独自に定めたローマ字のつづり方で、制定者の権限が及ぶ範囲で効力がある。よく知られたものを挙げる。

[編集] 外務省ヘボン式ローマ字

外務省がヘボン式を下敷きにして定めた方式。旅券の氏名記載で用いる。長音は原則として表記しないが、オの長音に限ってOHで表すことができるなど、変則的な拡張が見られる。2005年度中(時期未定)からは、外務省式に拠らないつづり方も本人が希望すれば認められる方針で括弧内に併記するという。例:譲二 Joji(George)
参照 http://www.seikatubunka.metro.tokyo.jp/hebon/

[編集] 道路標識ヘボン式ローマ字

上記に似る。長音は表記しない。はねる音は n(1954年の内閣告示)で表す。区切り点はハイフン(1937年の内閣訓令)で表す。chが続く場合にはcを重ねずt(英米規格)とする。

参照 http://www.kictec.co.jp/inpaku/iken%20keikai/syasin/hebon/romaji.htm

[編集] 駅名標ヘボン式ローマ字

鉄道掲示規程昭和22年(1947年7月26日運輸省達第398号)の別表一に改修ヘボン式のローマ字として規定されている。長音は母音の上にマクロンを付加し、はねる音はヘボン式(B,M,Pの前は"M"、その他は"N")、区切り点はハイフン、chが続く場合にはcを重ねずt(英米規格)とする。例えば、新橋駅(JR東日本)は「Shimbashi」、「Bitchū-Kōjiro」(備中神代)、「Tamba-Ōyama」(丹波大山)など。

実際には長音の表記を中心にこの規程に準拠していない鉄道事業者も多い。例えば多摩都市モノレールでは長音にもマクロンを付加せず、東京地下鉄では以前は長音にマクロンを付加していたが、現在では新たに製作される駅名標などには付加していない。また同一の鉄道事業者内であっても複数の表記を混在して使用していることもある。

[編集] 99式ローマ字

99式ローマ字(きゅうきゅうしきローマじ)は、社団法人日本ローマ字会が提案する新しいローマ字表記法。ローマ字表記を日本語の正書法としてではなく代書法と考え、日本語の音声を転写するのではなく、現代仮名遣いで表記された日本語をラテン文字に翻字する。

[編集] 表記法

各種方式の共通点と相違点を概説する。

[編集] 母音

「アイウエオ」段母音を「aiueo」で表す。

[編集] 子音と拗音

原則として、「カサタナハマヤラワガザダバパ」行子音を「kstnhmyrwgzdbp」で表す。拗音(開拗音)は「子音字 + y + 母音字」で表す。

日本式では「ヂ」「ヅ」を「di」「du」と表記するが、表音式仮名遣いを採用する訓令式では「ジ」「ズ」と同じになる。

ヘボン式等では「シ」を「shi」、「チ」を「chi」、「ツ」を「tsu」、「フ」を「fu」、「ジ」を「ji」、サ行拗音を「sh-」、タ行拗音を「ch-」、ザ行拗音を「j-」で表す。

[編集] 撥音と促音

原則として、撥音「」は「n」で表す。例外としてヘボン式等では、「bpm」の前に限り「m」を使う。

撥音の後に母音やヤ行音が来てナ行音と区別できなくなった場合は、間に「’」(アポストロフィ)を挿入する。

原則として、促音は直後の子音字を繰り返す。例外としてヘボン式等では、直後が「ch」のときは「tch」とする。語末の促音(感嘆詞「あっ (a')」「それっ (sore')」などに現れる)表記については、どの方式でも公式には定められていない。

[編集] 長音

/e/長母音のうち「エ段+イ」でカナ表記されるものは、カナ表記どおり「ei」で表す。

そのほかの長音のローマ字表記は極めて混乱している。→長音符#ローマ字表記を参照。

  • アクサン付き母音字を使う。マクロンサーカムフレックスが使われる。(公式)
  • 完全に無視する。(通用)
  • 母音字の後に「h」を付ける。(外務省)
  • カナ表記どおりに表す。(振り仮名式)

これらが混用されることもある。

[編集] 助詞

助詞の「は」「へ」「を」は、表音式仮名遣いを採用する訓令式、ヘボン式ではそれぞれ「わ (wa)」「え (e)」「お (o)」と書くが、現代仮名遣いまたは歴史的仮名遣いに基づく厳密翻字では表記どおりに「は(ha)」「へ(he)」「を(wo)」と書く。

[編集] 対比

ここでは、「し・ち・つ・ふ・じ」の表記から、大きく日本式系とヘボン式系に分けた。

方式 てぃ おう おお んあ んば っち を(助詞)
発音(参考) [ɕi] [tɕi] [tsɯ̈] [ɸɯ] [dʑi] [dʑi] [ti] [oː] [oː] [ãa] [mba] [tːɕi] [o]
音素(参考) /si/ /ci/ /cu/ /hu/ /zi/ /zi/ /ti/ /oh/ /oh/ /na/ /nba/ /qci/ o
日本式系 訓令式(第1表) si ti tu hu zi zi ô ô n'a nba tti o
ISO si ti tu hu zi zi ô ô n'a nba tti o
ヘボン式系 英米規格 shi chi tsu fu ji ji ti ō ō n'a nba tchi o
外務省ヘボン式 shi chi tsu fu ji ji mba tchi o
道路標識ヘボン式 shi chi tsu fu ji ji o o n-a mba tchi
駅名標ヘボン式 shi chi tsu fu ji ji ō ō mba tchi

[編集] ローマ字の使用

国外では英語を中心とするラテン文字言語において日本語を表記する際に用いる。発音表記としての意味も担うことが多い。使用はもっぱら日本語の単語や語句を引用する場合に限られ、日本語の文章全体がローマ字で表記されるのは稀である。非ラテン文字を扱えないパソコン環境などで日本語を表記する場合にも用いる(注)。

国内外の公式文書ではしばしば訓令式の使用が求められるが、一般には国内規格も国際規格も尊重されず、各種のつづり方やローマ字入力方式などが個々の判断で用いられる。表記の乱れは長音表記や分かち書きではなはだしいが、ローマ字は和文の転写に過ぎず、元の表記が推察できさえすれば、誤りや乱れは特に問題とされないのが実情である。正書法としてのローマ字は実践されなくなって久しい。

近年ではさらに混乱が進み、「おー」という音に「o」「ō」「ô」「oh」「ou」の5通りが当てられたり、本来はzyoまたはjoと表記すべき「じょ」という音に「jyo」という文字が、「chu」または「tyu」であるべき「ちゅ」の音に「cyu」の文字が当てはめられたりといったケースが増えている。たとえば雑誌「dancyu」が「ダンチュー」(拗音+長音)と読ませているなど。これら表記の不統一が、コンピュータで検索する際などに障害となっているという指摘もある。

(注)こういった使用法は日本語以外の言語におけるローマ字つづりでもみられる。特に人名表記においては、政府などの定める正書法に従わず、伝統や好み、英語発音に模した表記もよくなされる。例としてJoe Hisaishiなど。これは韓国人名のローマ字表記においてもよくみられる(李姓:RheeとLee/朴姓:PakとPark など)。

[編集] 訓令式の表

  1. 一般に国語を書き表わす場合は、第1表に掲げたつづり方によるものとする。
  2. 国際的関係その他従来の慣例をにわかに改めがたい事情にある場合に限り、第2表に掲げたつづり方によつてもさしつかえない。
  3. 前二項のいずれにおいても、おおむねそえがきを適用する。

第1表 〔( )は重出を示す〕

  (拗音)
a i u e o  
ka ki ku ke ko kya kyu kyo
sa si su se so sya syu syo
ta ti tu te to tya tyu tyo
na ni nu ne no nya nyu nyo
ha hi hu he ho hya hyu hyo
ma mi mu me mo mya myu myo
ya (i) yu (e) yo  
ra ri ru re ro rya ryu ryo
wa (i) (u) (e) (o)  
ga gi gu ge go gya gyu gyo
za zi zu ze zo zya zyu zyo
da (zi) (zu) de do (zya) (zyu) (zyo)
ba bi bu be bo bya byu byo
pa pi pu pe po pya pyu pyo

第2表

しゃ sha し shi しゅ shu しょ sho
つ tsu
ちゃ cha ち chi ちゅ chu ちょ cho
ふ fu
じゃ ja じ ji じゅ ju じょ jo
ぢ di づ du
ぢゃ dya ぢゅ dyu ぢょ dyo
くゎ kwa
ぐゎ gwa
を wo

そえがき

前表に定めたもののほか、おおむね次の各項による。

  1. はねる音「ン」はすべて n と書く。
  2. はねる音を表わす n と次にくる母音字または y とを切り離す必要がある場合には、n の次に ' をいれる。
  3. つまる音は、最初の子音字を重ねて表わす。
  4. 長音は母音字の上に ^ をつけて表わす。なお、大文字の場合は母音字を並べてもよい。
  5. 特殊音の書き表わし方は自由とする。
  6. 文の書きはじめ、および固有名詞は語頭を大文字で書く。なお、固有名詞以外の名詞の語頭を大文字で書いてもよい。


「昭和二十九年十二月九日内閣告示第一号『ローマ字のつづり方』」では上記の通りであるが、「昭和十二年九月二十一日内閣訓令第三號『国語ノローマ字綴方統一ノ件』」では、『長音ノ符號ヲ附スル場合ニハ okāsama, kūsyū, Ōsaka ノ如ク「¯」ヲ用フルコト』と『撥音 n ト其ノ次ニ來ル母音 ( y ヲ含ム) トヲ切離ス必要アルトキハ hin-i, kin-yōbi, Sin-ōkubo ノ如ク「-」ヲ用フルコト』となっていた。

昭和22年(1947年)の文部省通達[3](訓令式とヘボン式の両方を解説していた)ではサーカムフレックスとアポストロフィを使うとしており、昭和12年(1937年)の内閣訓令が事務的な手違いで誤っていたと言われているが、昭和20年代の教育現場(小学校4~6年生)ではどちらでも良いと教えるように文部省が指導していた。

[編集] 日本式の表

 別項目日本式ローマ字を参照。 (重要)表記法はそれぞれの規格・方式で異なる。「訓令式の表」の第2表の後半を参照。

[編集] ヘボン式の表

  (拗音)
a i u e o  
ka ki ku ke ko kya kyu kyo
sa shi su se so sha shu sho
ta chi tsu te to cha chu cho
na ni nu ne no nya nyu nyo
ha hi fu he ho hya hyu hyo
ma mi mu me mo mya myu myo
ya (i) yu (e) yo  
ra ri ru re ro rya ryu ryo
wa (wi)   (we) o(wo)  
n(m)
ga gi gu ge go gya gyu gyo
za ji zu ze zo ja ju jo
da (ji) (zu) de do (ja) (ju) (jo)
ba bi bu be bo bya byu byo
pa pi pu pe po pya pyu pyo

(重要)表記法はそれぞれの規格・方式で異なる。「訓令式の表」の第2表の前半を参照。

[編集] 関連項目

[編集] 脚注

  1. ^ 『国語シリーズNo.23 ローマ字問題資料集 第1集』1955年(昭和30年)3月30日、p.175
  2. ^ 実例「属性型(組織種別型)・地域型JPドメイン名登録等に関する技術細則
  3. ^ 文部省 小冊子「ローマ字教育の指針 ローマ字文の書き方」 昭和24年(1949年)

[編集] 外部リンク