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「ハイジャック」の版間の差分

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{{要出典|範囲=英語圏では、[[ジャック]] という名前が男性の一般的な略称であるため、[[ロサンゼルス国際空港]]のように、「Hi, Jack」(ハイ、ジャック)あるいは「Hey, Jack」(ヘイ、ジャック)と挨拶することは避け、不意の混乱を起こさないように呼びかけている場所もある。|date=2016年9月}}
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== 航空機ハイジャックの歴史 ==
記録に残る史上初の航空機ハイジャックは、1931年2月21日に[[ペルー]]の[[アレキパ]]で発生した<ref name=guiness/>。空港への着陸直後に航空機が革命軍により包囲され、別の目的地へ飛行するよう要求された<ref name=asn-19310221-0>{{ASN accident|id=19310221-0 |title=ASN Aircraft accident Ford Tri-Motor registration unknown Arequipa Airport (AQP) |accessdate=2017-12-12}}</ref>。これを拒否したパイロットは革命軍に拘束されたが、3月2日に解放された<ref name=asn-19310221-0/>。

1948年7月17日、アジアで最初の航空機ハイジャックとなる「[[キャセイ・パシフィック航空機ハイジャック事件]]」が発生した{{sfn|Thomas|2008|p=143}}。
[[マカオ]]から[[香港]]へ向かっていた旅客機が乗っ取られ、その後墜落したため乗客3人と乗員22人が死亡した<ref name=asn-19480717-0>{{ASN accident|id=19480717-0 |title=ASN Aircraft accident Consolidated PBY-5A Catalina VR-HDT Pearl River|accessdate=2017-12-11}}</ref>。

1961年5月1日には、アメリカ合衆国で最初の航空機ハイジャックが発生した<ref name=britanica/>。{{仮リンク|フロリダ・キーズ・マラソン空港|en|Florida Keys Marathon Airport}}から[[キーウェスト国際空港]]へ向かっていた旅客機が乗っ取られ、[[キューバ]]へ向かうよう要求された<ref name=britanica/><ref name=asn-19610501-0>{{ASN accident|id=19610501-1 |title=ASN Aircraft accident Convair CV-440 registration unknown |accessdate=2017-12-12}}</ref>。

航空機ハイジャックの発生件数は1968年から急増し、1972年には108件と年間100件を超える年もあった<ref name=hijacking-jk/>。ハイジャックは航空会社にとって大きな脅威となり、世界各国で防止対策がとられた<ref name=hijacking-jk/>。

1960年代から1970年代にかけ、国際民間航空機関 (International Civil Aviation Organization; ICAO) において航空機にまつわる犯罪を防止するための3つの国際条約が作られ、国際協力体制の法的枠組みの構築が図られた{{sfn|浅野|1989|p=35}}<ref name=mofa/>。この3条約とは、1963年の「[[航空機内で行われた犯罪その他ある種の行為に関する条約]]」(東京条約)、1970年の「[[航空機の不法な奪取の防止に関する条約]]」(ヘーグ条約)、1971年の「民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約」(モントリオール条約)である{{sfn|浅野|1989|p=35}}。

東京条約では、主に飛行中の航空機内で行われた犯罪や航空機の安全を害する行為に対する裁判管轄権や、これら犯罪等を取り締まるための機長の権限を定められた
{{sfn|浅野|1989|p=41}}。東京条約の制定当時はハイジャック発生件数はそれほど多くなく、同条約ではハイジャックは主たる規制対象とは捉えられていなかった{{sfn|浅野|1989|p=41}}。

しかし、同条約が発効した1969年にはハイジャックの発生件数が急増しており、同条約では対処しきれなくなっていた{{sfn|浅野|1989|p=41}}。そこで、1970年に作成されたヘーグ条約では、ハイジャックの防止を主たる目的とし、東京条約では不十分だった点が強化された{{sfn|浅野|1989|p=47}}。同条約では航空機の不法奪取等を犯罪と認め、ハイジャック犯に重い刑罰を科すことを締約国に義務付けたほか、犯人引き渡しに関する規定が定められた{{sfn|浅野|1989|p=41}}。

さらに、1971年に作成されたモントリオール条約では、ハイジャック以外の民間航空の安全に対する一定の不法な行為を犯罪とし、その犯人の処罰及び引き渡し等について規定された{{sfn|浅野|1989|p=41}}<ref name=mofa/>。同条約では、飛行中だけでなく、業務中の航空機や航空施設に対する破壊や安全を損なう行為についても重い刑罰を科すよう締約国に義務付けた{{sfn|浅野|1989|p=41}}。さらに、裁判権の広範囲な設定や犯人の引き渡しについても規定されている{{sfn|浅野|1989|p=41}}。ヘーグ条約やモントリオール条約では、締約国の何れかにおいて犯人を処罰する体制を確立し、犯入に逃げ込み場を作らないという一種の世界主義的な考え方が導入されている{{sfn|浅野|1989|pp=35, 41}}。

これらの国際条約以外に、2国間で犯人引き渡し等を定めた協定が結ぶ例もあった{{sfn|浅野|1989|p=41}}。1973年に、国交を断絶中のアメリカとキューバは航空機や船舶の不法奪取及びその他の犯罪に関する協定を結んだ{{sfn|浅野|1989|p=41}}。この協定は、犯人の引き渡しや処罰について規定しており、不法奪取行為を防止する実効性を発揮したと評価されている{{sfn|浅野|1989|p=41}}。

1988年には、モントリオール条約を補足する議定書として「千九百七十一年九月二十三日にモントリオールで作成された民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約を補足する国際民間航空に使用される空港における不法な暴力行為の防止に関する議定書」(空港不法暴力行為防止議定書)が採択された{{sfn|安藤|2014|p=38}}。1980年代に空港におけるテロ事件が増加したことを受けて、国際空港の安全を損なう一定の暴力行為を犯罪と定め、犯人の処罰のための措置が規定された{{sfn|安藤|2014|p=38}}。

この頃、[[プラスチック爆弾]]を用いた航空機爆破事件が相次いだ{{sfn|安藤|2014|pp=41–42}}。1987年には、[[大韓航空機爆破事件]]が発生し、[[ボーイング707]]が爆破され搭乗者全員の115人が死亡した<ref name=asn-19871129-0>{{ASN accident |id=19871129-0 |title=ASN Aircraft accident Boeing 707-3B5C HL7406 Tavoy, Myanmar (Andaman Sea) |accessdate=2017-12-15}}</ref>。1988年には、[[パンアメリカン航空103便爆破事件]]が発生し、[[パンアメリカン航空]]の[[ボーイング747]]が爆破され、搭乗者259人全員と地上で巻き込まれた11人が死亡した<ref name=asn-19881221-0>{{ASN accident |id=19881221-0 |title=ASN Aircraft accident Boeing 747-121A N739PA Lockerbie |accessdate=2017-12-15}}</ref>。1989年には[[UTA航空772便爆破事件]]が発生し、フランスの[[UTA]]の[[マクドネル・ダグラス DC-10|マクドネル・ダグラスDC-10]]が爆破され、搭乗者全員の170人が死亡した<ref name=asn-19890919-1>{{ASN accident |id=19890919-1 |title=ASN Aircraft accident McDonnell Douglas DC-10-30 N54629 Ténéré desert}}</ref>。
これらの事件、特にパンアメリカン航空103便爆破事件を直接的な契機として、ICAOにより「[[可塑性爆薬の探知のための識別措置に関する条約]]」(可塑性爆薬探知条約)が作成された{{sfn|安藤|2014|pp=41–42}}。この条約では、可塑性爆薬への探知剤の添加等の措置を締約国に義務づけている<ref name=mofa/>。

1990年代になると、組織的で大規模なテロ活動の背後にある資金源を断つ必要性が認識されるようになった{{sfn|安藤|2014|p=44}}。既存の条約では資金供与について明示的に扱われていないことを踏まえ、1999年、国連において[[テロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約]]が採択された{{sfn|安藤|2014|p=44}}。この条約では、テロ行為の準備行為となる資金提供や収集自体を犯罪と定め、そうした行為を行った者の訴追や処罰することでテロ行為を防止することが図られた{{sfn|安藤|2014|p=45}}。当初、この条約に対して署名や批准を行うことに消極的な国が少なくなかった{{sfn|安藤|2014|pp=44–45}}。しかし、2001年に[[アメリカ同時多発テロ事件]]が発生し、その実行犯へ[[ウサーマ・ビン・ラーディン]]が資金提供を行なっていた疑いが強まり、テロ活動の資金への関心が高まった{{sfn|安藤|2014|pp=44–45}}。

[[File:UA Flight 175 hits WTC south tower 9-11 edit.jpeg|thumb|ユナイテッド航空175便が世界貿易センタービル南棟に突入した瞬間]]
2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件は、史上最大の犠牲者を出したハイジャック事件となった<ref name=britanica/>。テロリストがアメリカで4機の旅客機を乗っ取り自爆攻撃を行なった事件である<ref name=britanica/>。

[[アメリカン航空11便テロ事件|アメリカン航空11便]]と[[ユナイテッド航空175便テロ事件|ユナイテッド航空175便]]は、ハイジャックされて[[ワールドトレードセンター (ニューヨーク)|ワールドトレードセンター]]のノースタワーとサウスタワーにそれぞれ突入した<ref name=asn-20010911-0>{{ASN accident |id=20010911-0 |title=ASN Aircraft accident Boeing 767-223ER N334AA New York, NY |accessdate=2017-12-15}}</ref><ref name=asn-20010911-1>{{ASN accident |id=20010911-1 |title=ASN Aircraft accident Boeing 767-222 N612UA New York, NY |accessdate=2017-12-15}}</ref>。航空機の衝突後にタワーは相次いで崩壊し、両機の搭乗者全員と地上で巻き込まれた犠牲者を合わせて約3,000人が死亡した<ref name=asn-20010911-0/><ref name=asn-20010911-1/>。なお、衝突と倒壊は短時間で発生しており、2機それぞれの犠牲者数を特定することは困難である<ref name=asn-20010911-0/><ref name=asn-20010911-1/>。

同じくハイジャックされた[[アメリカン航空77便テロ事件|アメリカン航空77便]]は、[[アメリカ国防総省]]の[[ペンタゴン]]に突入した<ref name=asn-20010911-3>{{ASN accident |id=20010911-3 |title=ASN Aircraft accident Boeing 757-223 N644AA Washington, DC |accessdate=2017-12-15}}</ref>。衝突により爆発炎上し、搭乗者64人全員と地上の125人が死亡した<ref name=asn-20010911-3/>。[[ユナイテッド航空93便テロ事件|ユナイテッド航空93便]]も同様にハイジャックされ、機体の操縦を奪われたが、乗客たちの抵抗により犯人の意図した目標へ到達する前に墜落した<ref name=20010911-2>{{ASN accident |id=20010911-2 |title=ASN Aircraft accident Boeing 757-222 N591UA Shanksville, PA |accessdate=2017-12-15}}</ref>。同便では、搭乗者44人全員が死亡した<ref name=20010911-2/>。

2010年には、最近のテロ防止関連条約に共通に取り入れられている規定をモントリオール条約やヘーグ条約に導入するため、「[[国際民間航空についての不法な行為の防止に関する条約]]」(北京条約)および「航空機の不法な奪取の防止に関する条約の追加議定書」(北京議定書)が作成された<ref name=mofa/>。


== 主なハイジャック事件の一覧 ==
== 主なハイジャック事件の一覧 ==
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[[1970年代]]初頭に過激派などによるハイジャックが頻繁に起きるようになり、各国はその対応に追われ、空港での[[セキュリティチェック]]の強化やハイジャックに対応した[[特殊部隊]]の創設などを行った。また、1978年、[[西ドイツ]]の[[ボン]]で開催された[[第4回先進国首脳会議]]では、「航空機ハイジャックに関する声明(ボン声明)」が採択された。
[[1970年代]]初頭に過激派などによるハイジャックが頻繁に起きるようになり、各国はその対応に追われ、空港での[[セキュリティチェック]]の強化やハイジャックに対応した[[特殊部隊]]の創設などを行った。また、1978年、[[西ドイツ]]の[[ボン]]で開催された[[第4回先進国首脳会議]]では、「航空機ハイジャックに関する声明(ボン声明)」が採択された。


日本においては、国内初のハイジャック事件である「[[よど号ハイジャック事件]]」が発生した時点では、ハイジャック自体を処罰する法律は存在していなかった。このため、この事件を受けて[[航空機の強取等の処罰に関する法律]]、いわゆる「ハイジャック防止法」が成立し施行された。また、1978年3月に新東京国際空港は日本発のハイジャック防止組織として[[成田国際空港]]に財団法人[[空港保安事業センター]]を開設した(なお、センターの本部は[[東京国際空港]]にある)。
日本においては、国内初のハイジャック事件である「[[よど号ハイジャック事件]]」が発生した時点では、ハイジャック自体を処罰する法律は存在していなかった。このため、この事件を受けて東京条約を批准した後、[[航空機の強取等の処罰に関する法律]]、いわゆる「ハイジャック防止法」が成立し施行された{{sfn|浅野|1989|p=42}}。1977年に[[日本赤軍]]による[[ダッカ日航機ハイジャック事件]]が発生した後には、防止対策が強化されて持ち込み手荷物の制限が行われるようになった<ref name=hijacking-jk/>。また、1978年3月に新東京国際空港は日本発のハイジャック防止組織として[[成田国際空港]]に財団法人[[空港保安事業センター]]を開設した(なお、センターの本部は[[東京国際空港]]にある)。


[[1980年代]] - [[1990年代]]にはその勢いは一時的に収まったものの、[[アメリカ合衆国]]で2001年9月11日、ハイジャックされた航空機による[[アメリカ同時多発テロ事件]]が発生したことから、ハイジャックの防止は再び世界的課題となった。各国の空港で手荷物・身体検査・[[本人確認]]の徹底や乗客名簿の公安当局への提出、鋏付き[[ソーイングキット]]やミニ[[爪切り]]などあらゆる“刃が付いた・棒状鋼”の機内持ち込み禁止、果ては[[機内食]]の[[カトラリー]](スプーン・フォーク・ナイフ)がスチール製から樹脂製へ変更される<ref>[[エコノミークラス]]のみ。[[ビジネスクラス]]や[[ファーストクラス]]では現在もステンレスを採用している航空会社もある。</ref>など、警備が大幅に強化されるようになった。
[[1980年代]] - [[1990年代]]にはその勢いは一時的に収まったものの、[[アメリカ合衆国]]で2001年9月11日、ハイジャックされた航空機による[[アメリカ同時多発テロ事件]]が発生したことから、ハイジャックの防止は再び世界的課題となった。各国の空港で手荷物・身体検査・[[本人確認]]の徹底や乗客名簿の公安当局への提出、鋏付き[[ソーイングキット]]やミニ[[爪切り]]などあらゆる“刃が付いた・棒状鋼”の機内持ち込み禁止、果ては[[機内食]]の[[カトラリー]](スプーン・フォーク・ナイフ)がスチール製から樹脂製へ変更される<ref>[[エコノミークラス]]のみ。[[ビジネスクラス]]や[[ファーストクラス]]では現在もステンレスを採用している航空会社もある。</ref>など、警備が大幅に強化されるようになった。
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== 脚注・出典 ==
== 脚注・出典 ==
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<ref name=britanica>{{Citation
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== 参考文献 ==
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==外部リンク==
==外部リンク==

2017年12月16日 (土) 09:28時点における版

ハイジャック英語: hijack、hijacking)とは、武器による脅迫などの暴力的手段によって交通機関航空機鉄道船舶バスなど)を乗っ取り、占拠する行為。特に、航空機への行為に用いられることが多い。

セッションハイジャックなど交通手段以外でも不正に何かを乗っ取ることも慣用句的にハイジャックと呼ばれる。また、「メディアジャック」など非暴力・合法的な手段で対象を占拠した場合も比喩的に呼ばれる。

目的

ハイジャックの目的は様々で、亡命刑務所で服役している仲間(政治犯テロリストなど)の釈放、テロリズム身代金人質行為)など意図が明確なものから、乗り物自体に対する異常な興味や精神的錯乱、テロに便乗した模倣犯といったものにまで及ぶ。

1931年に初の航空機ハイジャックが起きて以降、1940年代後半から1950年代後半はいわゆる東側諸国において西側諸国への亡命を目的としたハイジャックが多発した。1960年代後半から1980年代前半にかけてはPFLP日本赤軍バーダー・マインホフ・グループなどの極左過激派によるハイジャックが頻繁に起きるようになった。また、アメリカ合衆国では犯罪者などがキューバ行きを要求する通称「キューバ急行」が多発していた。2000年代以降ではイスラム過激派によるアメリカ同時多発テロ事件のハイジャックのように、政治的要求をするのではなく、テロ実行の手段としたハイジャックも行われている。

語源

1920年代のアメリカで、駅馬車や自動車、列車等を乗っ取り、その貨物を強奪する行為として用いられるようになったのが起源とされる。語源については諸説あるが、有名なものは以下のとおり。

  • 強盗が駅馬車の御者を呼び止める際に「Hi, Jack!(やあ、あんた)」と声をかけた事から成立したとする説。
  • 「(公道に騎馬で現れた)追いはぎ、辻強盗」を意味する「highwayman」と、強盗犯を意味する「jacker」を組み合わせた「hijacker」の逆成とする説。
  • 強盗の「Stick'em up high, Jack(手を高く上げろ)」という文句から成立したとする説。

したがって、原語においては種類に関わらず乗り物を乗っ取る行為は基本的に「ハイジャック」と表現する。航空機乗っ取りに関しては「aircraft hijacking」、「air(craft) piracy」などと表現することが多く、小説『スカイジャック』が発表されて以降は「スカイジャック (skyjack)」という用法も生まれている。日本においては「Hi」を「高い」、「jack」を「乗っ取り」の意味と勘違いして、「バスジャック」「電波ジャック」「番組ジャック」など多数の「○○ジャック」という和製英語が生まれることになった。ただし、英語圏においても若者の間で自動車乗っ取りを「カージャック (carjacking)」、海上での乗っ取り行為 (Maritime hijacking) を稀に「シージャック (seajacking)」と短縮表記する例も見られはじめてる[1]

英語圏では、ジャック という名前が男性の一般的な略称であるため、ロサンゼルス国際空港のように、「Hi, Jack」(ハイ、ジャック)あるいは「Hey, Jack」(ヘイ、ジャック)と挨拶することは避け、不意の混乱を起こさないように呼びかけている場所もある。[要出典]

航空機ハイジャックの歴史

記録に残る史上初の航空機ハイジャックは、1931年2月21日にペルーアレキパで発生した[2]。空港への着陸直後に航空機が革命軍により包囲され、別の目的地へ飛行するよう要求された[3]。これを拒否したパイロットは革命軍に拘束されたが、3月2日に解放された[3]

1948年7月17日、アジアで最初の航空機ハイジャックとなる「キャセイ・パシフィック航空機ハイジャック事件」が発生した[4]マカオから香港へ向かっていた旅客機が乗っ取られ、その後墜落したため乗客3人と乗員22人が死亡した[5]

1961年5月1日には、アメリカ合衆国で最初の航空機ハイジャックが発生した[6]フロリダ・キーズ・マラソン空港英語版からキーウェスト国際空港へ向かっていた旅客機が乗っ取られ、キューバへ向かうよう要求された[6][7]

航空機ハイジャックの発生件数は1968年から急増し、1972年には108件と年間100件を超える年もあった[8]。ハイジャックは航空会社にとって大きな脅威となり、世界各国で防止対策がとられた[8]

1960年代から1970年代にかけ、国際民間航空機関 (International Civil Aviation Organization; ICAO) において航空機にまつわる犯罪を防止するための3つの国際条約が作られ、国際協力体制の法的枠組みの構築が図られた[9][10]。この3条約とは、1963年の「航空機内で行われた犯罪その他ある種の行為に関する条約」(東京条約)、1970年の「航空機の不法な奪取の防止に関する条約」(ヘーグ条約)、1971年の「民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約」(モントリオール条約)である[9]

東京条約では、主に飛行中の航空機内で行われた犯罪や航空機の安全を害する行為に対する裁判管轄権や、これら犯罪等を取り締まるための機長の権限を定められた [11]。東京条約の制定当時はハイジャック発生件数はそれほど多くなく、同条約ではハイジャックは主たる規制対象とは捉えられていなかった[11]

しかし、同条約が発効した1969年にはハイジャックの発生件数が急増しており、同条約では対処しきれなくなっていた[11]。そこで、1970年に作成されたヘーグ条約では、ハイジャックの防止を主たる目的とし、東京条約では不十分だった点が強化された[12]。同条約では航空機の不法奪取等を犯罪と認め、ハイジャック犯に重い刑罰を科すことを締約国に義務付けたほか、犯人引き渡しに関する規定が定められた[11]

さらに、1971年に作成されたモントリオール条約では、ハイジャック以外の民間航空の安全に対する一定の不法な行為を犯罪とし、その犯人の処罰及び引き渡し等について規定された[11][10]。同条約では、飛行中だけでなく、業務中の航空機や航空施設に対する破壊や安全を損なう行為についても重い刑罰を科すよう締約国に義務付けた[11]。さらに、裁判権の広範囲な設定や犯人の引き渡しについても規定されている[11]。ヘーグ条約やモントリオール条約では、締約国の何れかにおいて犯人を処罰する体制を確立し、犯入に逃げ込み場を作らないという一種の世界主義的な考え方が導入されている[13]

これらの国際条約以外に、2国間で犯人引き渡し等を定めた協定が結ぶ例もあった[11]。1973年に、国交を断絶中のアメリカとキューバは航空機や船舶の不法奪取及びその他の犯罪に関する協定を結んだ[11]。この協定は、犯人の引き渡しや処罰について規定しており、不法奪取行為を防止する実効性を発揮したと評価されている[11]

1988年には、モントリオール条約を補足する議定書として「千九百七十一年九月二十三日にモントリオールで作成された民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約を補足する国際民間航空に使用される空港における不法な暴力行為の防止に関する議定書」(空港不法暴力行為防止議定書)が採択された[14]。1980年代に空港におけるテロ事件が増加したことを受けて、国際空港の安全を損なう一定の暴力行為を犯罪と定め、犯人の処罰のための措置が規定された[14]

この頃、プラスチック爆弾を用いた航空機爆破事件が相次いだ[15]。1987年には、大韓航空機爆破事件が発生し、ボーイング707が爆破され搭乗者全員の115人が死亡した[16]。1988年には、パンアメリカン航空103便爆破事件が発生し、パンアメリカン航空ボーイング747が爆破され、搭乗者259人全員と地上で巻き込まれた11人が死亡した[17]。1989年にはUTA航空772便爆破事件が発生し、フランスのUTAマクドネル・ダグラスDC-10が爆破され、搭乗者全員の170人が死亡した[18]。 これらの事件、特にパンアメリカン航空103便爆破事件を直接的な契機として、ICAOにより「可塑性爆薬の探知のための識別措置に関する条約」(可塑性爆薬探知条約)が作成された[15]。この条約では、可塑性爆薬への探知剤の添加等の措置を締約国に義務づけている[10]

1990年代になると、組織的で大規模なテロ活動の背後にある資金源を断つ必要性が認識されるようになった[19]。既存の条約では資金供与について明示的に扱われていないことを踏まえ、1999年、国連においてテロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約が採択された[19]。この条約では、テロ行為の準備行為となる資金提供や収集自体を犯罪と定め、そうした行為を行った者の訴追や処罰することでテロ行為を防止することが図られた[20]。当初、この条約に対して署名や批准を行うことに消極的な国が少なくなかった[21]。しかし、2001年にアメリカ同時多発テロ事件が発生し、その実行犯へウサーマ・ビン・ラーディンが資金提供を行なっていた疑いが強まり、テロ活動の資金への関心が高まった[21]

ユナイテッド航空175便が世界貿易センタービル南棟に突入した瞬間

2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件は、史上最大の犠牲者を出したハイジャック事件となった[6]。テロリストがアメリカで4機の旅客機を乗っ取り自爆攻撃を行なった事件である[6]

アメリカン航空11便ユナイテッド航空175便は、ハイジャックされてワールドトレードセンターのノースタワーとサウスタワーにそれぞれ突入した[22][23]。航空機の衝突後にタワーは相次いで崩壊し、両機の搭乗者全員と地上で巻き込まれた犠牲者を合わせて約3,000人が死亡した[22][23]。なお、衝突と倒壊は短時間で発生しており、2機それぞれの犠牲者数を特定することは困難である[22][23]

同じくハイジャックされたアメリカン航空77便は、アメリカ国防総省ペンタゴンに突入した[24]。衝突により爆発炎上し、搭乗者64人全員と地上の125人が死亡した[24]ユナイテッド航空93便も同様にハイジャックされ、機体の操縦を奪われたが、乗客たちの抵抗により犯人の意図した目標へ到達する前に墜落した[25]。同便では、搭乗者44人全員が死亡した[25]

2010年には、最近のテロ防止関連条約に共通に取り入れられている規定をモントリオール条約やヘーグ条約に導入するため、「国際民間航空についての不法な行為の防止に関する条約」(北京条約)および「航空機の不法な奪取の防止に関する条約の追加議定書」(北京議定書)が作成された[10]

主なハイジャック事件の一覧

ハイジャックを除く民間航空機に対して行われたテロ行為や破壊行為については、「航空機テロ・破壊行為の一覧」を参照のこと。

1959年以前

1960年代

  • 1961年5月1日
    • 便名: ナショナル航空 337便[29]
    • 機種: コンベア CV-440[29]
    • 死者: なし。
    • 状況: ナショナル航空の国内線がハイジャックされ、キューバに向かうように要求。アメリカで初めて成功したハイジャック事件である。犯人は14年後に逮捕されたが、法の不遡及の原則により当時は未制定だったハイジャック罪ではなく誘拐罪などにより懲役20年が言い渡された。

1970年代

  • 1971年1月23日
    • 便名: 大韓航空 便名不明(機体記号:HL5212)[40]
    • 機種: フォッカー F27 フレンドシップ 500[40]
    • 死者: 乗員乗客60人中2人が死亡[40]
    • 状況: 江陵からソウル金浦空港に向かっていた国内線がハイジャックされ、北朝鮮への飛行を強要された。それに対して韓国空軍機がスクランブル発進し、軍事境界線を越える直前に束草市の海岸に強制的に不時着させた。不時着では怪我人は発生しなかったが、ハイジャック犯人が手榴弾で自殺した際、巻き添えで副操縦士が死亡し22名が負傷し機体も大破した。

1980年代

  • 1983年5月5日
    • 便名: 中国民航(機体記号:B-296)[54]
    • 機種: ホーカー・シドレー HS-121 トライデント 2E[54]
    • 死者: なし。
    • 状況: 瀋陽上海行きの中国民航の国内線が6名の武装グループにハイジャックされ、領空侵犯した韓国在韓米軍機の誘導により春川の在韓米軍基地に緊急着陸した。その後犯人はアメリカへの亡命を求め投降、逮捕された。当時外交関係がなかった中韓両国が事後処理で朝鮮戦争後初の直接交渉を行い、最終的にソウル地方裁判所で懲役2年から6年の実刑判決となったが、犯人らは当時国交のあった台湾へ亡命した。なお犯行グループは台湾で「反共義士」として報奨金を受け取ったが、首謀者は後に誘拐殺人事件を引き起こし、2001年に死刑になった。
    • 詳細: 「中国民航機韓国着陸事件」を参照。
  • 1985年11月23日
    • 便名: エジプト航空 648便[57]
    • 機種: ボーイング 737-266[57]
    • 死者: 乗員乗客58人と犯人2人が死亡。
    • 状況: アテネカイロ行きのエジプト航空機の国際線が国際テロ組織「アブ・ニダル」にハイジャックされ、リビアに向かうよう要求された。事件発生当初、同乗していたスカイマーシャルが応戦したものの、射殺された。ハイジャックの目的は、中東問題に対するエジプト政府の姿勢に抗議するためであったが、燃料が不足していたためハイジャック機はマルタに緊急着陸した。着陸後主犯格のオマル・レザック英語版は乗客3人を射殺した。事件発生から25時間後にエジプトの特殊部隊が強行突入し、犯人との銃撃戦の末機体を奪還したが、その際乗客に多数の死亡者が発生した。犯人3人のうち2人は死亡、主犯格のレザックは重傷で発見された。彼はマルタでの裁判で懲役25年の判決を言い渡されたが、服役7年後に恩赦が行われ釈放された。しかしFBIICPOの協力を得、レザックをナイジェリアで拘束した。現在、彼はアメリカ国内で終身刑に服している。
    • 詳細: 「エジプト航空648便ハイジャック事件」を参照。

1990年代

2000年代

アメリカン航空のボーイング757

2010年代

日本における主なハイジャック事件

日本航空のハイジャック事件は「日本航空ハイジャック事件」、全日空のハイジャック事件は「全日本空輸ハイジャック事件」もそれぞれ参照。

  • 1999年7月23日
    • 便名: 全日本空輸 61便[86]
    • 機種: ボーイング 747-481D[86]
    • 死者: 乗員1人が死亡。
    • 状況: 航空機と運航システムに異常な興味を示した犯人が客室乗務員を脅し操縦席に乱入、機長を刺殺して操縦桿を握り、機体を急降下させた。副操縦士らがコックピットに突入し犯人を取り押さえ、機体のコントロールを奪還した。日本で初めて死者が発生したハイジャック事件となった。
    • 詳細: 「全日空61便ハイジャック事件」を参照。

ハイジャック防止のための取り組み

1970年代初頭に過激派などによるハイジャックが頻繁に起きるようになり、各国はその対応に追われ、空港でのセキュリティチェックの強化やハイジャックに対応した特殊部隊の創設などを行った。また、1978年、西ドイツボンで開催された第4回先進国首脳会議では、「航空機ハイジャックに関する声明(ボン声明)」が採択された。

日本においては、国内初のハイジャック事件である「よど号ハイジャック事件」が発生した時点では、ハイジャック自体を処罰する法律は存在していなかった。このため、この事件を受けて東京条約を批准した後、航空機の強取等の処罰に関する法律、いわゆる「ハイジャック防止法」が成立し施行された[87]。1977年に日本赤軍によるダッカ日航機ハイジャック事件が発生した後には、防止対策が強化されて持ち込み手荷物の制限が行われるようになった[8]。また、1978年3月に新東京国際空港は日本発のハイジャック防止組織として成田国際空港に財団法人空港保安事業センターを開設した(なお、センターの本部は東京国際空港にある)。

1980年代 - 1990年代にはその勢いは一時的に収まったものの、アメリカ合衆国で2001年9月11日、ハイジャックされた航空機によるアメリカ同時多発テロ事件が発生したことから、ハイジャックの防止は再び世界的課題となった。各国の空港で手荷物・身体検査・本人確認の徹底や乗客名簿の公安当局への提出、鋏付きソーイングキットやミニ爪切りなどあらゆる“刃が付いた・棒状鋼”の機内持ち込み禁止、果ては機内食カトラリー(スプーン・フォーク・ナイフ)がスチール製から樹脂製へ変更される[88]など、警備が大幅に強化されるようになった。

2007年2月23日、アメリカ合衆国国土安全保障省は、人間1人の全身を透視出来る、大型全身X線スキャナを空港に試験導入(被検者は金属探知で異状ありとされた人物に限るという)。これにより危険物持込や薬物密輸阻止に資するとしているが、アメリカ自由人権協会は「搭乗予定者を裸に剥くも同然であり人権侵害」として、議会に完全実施の禁止措置を要請している。一方イギリスでは、2010年1月以降、ロンドン・ヒースロー空港を始めとする全ての空港に全身スキャナーを導入、搭乗者に搭乗前通過を義務付けている。

ハイジャックに対応する保安要員として、スカイマーシャルが搭乗する国もある。アメリカ(連邦航空保安局)やイスラエルにおいては、ハイジャックに際してはスカイマーシャルに犯人への対処を任せつつ、パイロットは強化ドアに護られたコックピットに篭って、一刻も早く機体を緊急着陸させることとなっている。

航空機の奪取や航空機内での犯罪に関しては、各国とも重大な事案と認識されており、その対応に関して以下で掲げた複数の国際条約が制定されている。なお、冒頭の西暦年は作成もしくは採択された年を示す。

ハイジャックを扱った作品

映画

漫画・アニメ

  • ゴルゴ13(1968年 - )
    さいとう・たかを作。7巻「AT PIN-HOLE!」、19巻「ジェット・ストリーム」、49巻「ガリンペイロ」、118巻「未明の標的」、134巻「高度7000メートル」などのエピソードでハイジャックが主題となっている(巻数はリイド社SPコミックスを示す)。
  • エロイカより愛をこめて(1976年 - )
    青池保子作。NATO情報部将校「鉄のクラウス」から「ルビヤンカ・レポート」を奪取するため、KGBの「銀のオーロラ」がロンドン発ボン行きのルフトハンザ機をハイジャックする。

小説

  • シャドー81(1975年)
    ルシアン・ネイハム作。ハイジャッカーは最新鋭の戦闘機を操るパイロットで、乗っ取った機内にはいない。対象の旅客機の背後につき、後方から空対空ミサイルという「銃」を突きつけて政府を脅迫する、変り種作品。

ハイジャック派生の言葉一覧

犯罪・不正行為

正規の方法で行われるもの

  • メディアジャック(テレビジャック、サイトジャック) - メディアを単独で買い占める手法。宣伝広告としても用いられる。上記の電波ジャックもこの意で使用される場合がある。

脚注・出典

  1. ^ Howard Rosenberg (1985年10月11日). “Reagan Slips On Seajacking” (英語). Los Angeles Times. http://articles.latimes.com/1985-10-11/entertainment/ca-17304_1_president-ronald-reagan 2017年11月25日閲覧。 
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  88. ^ エコノミークラスのみ。ビジネスクラスファーストクラスでは現在もステンレスを採用している航空会社もある。

参考文献

外部リンク